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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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877 堕ちた天使

「行くぞオラァァァッ!」


『うぇ~いっ!』


「失礼しま~す……」


『失礼しま~っす!』



 ドドドドッと揺れる地面、明らかにあのニート神がそれを巻き起こしているのだが、原因はライフラインを断たれたことによる怒り、それ以外には存在しない。


 だがその神が居る高いビルのような建造物は強固で、その程度の揺れにはビクともしない様子。

 ここは俺達が突撃していくことの他に、先制攻撃を仕掛ける機会はないということだ。


 非魔導式のセキュリティは断線によるエネルギーの供給停止と共に動きを止め、現状は何もすることなく建物の中へ進入することが可能な状態。


 この機を逃せばまた最初からやり直しになる、そしてその際の成功難易度は桁違いに跳ね上がる、それを考えても、もうここで急ぐ以外の選択肢がないのは明白だ……


 ということで入口の扉を静かに開け、コソコソと内部へ……最初はエントランスのような場所か、本当は正面に受付係が居るはずなのだが、ここにおいてはそうでないらしい。


 見えているのは横に長いカウンターと、そしてその奥に2人、いや2体のケツアゴがじっとこちらを見据えている、そんな不気味な姿。


 これは何であろうか、とりあえず『ウケツケツアゴ』と分類しておこう、そして攻撃力を備えていない、安全なタイプであることもわかった。


 というかケツアゴのボディーを形成しているのはカウンターから出た、見える部分だけではないか。

 残りのパーツは全てハリボテであり、この建物からのエネルギー供給を受けて活動しているらしい。


 で、このような状況においては当然、残存する残り僅かなエネルギーで辛うじて動いている、そんな状態のウケツケツアゴ。


 もうしばらくしたら自然に停まってしまうのであろうが、その前に何か情報を引き出せないものか……



「こいつら、会話することは出来るのかな?」


「わからないわね、もしかしたらケツアゴーレムにしかわからない魔導……じゃないかもだけど、とにかく秘密の通信をするタイプかも、ていうか、話し掛けてみたらどうかしら?」


「やだよ気持ち悪い、顔とか覚えられたらどうすんだ……って、今はフェイクのケツアゴが俺の顔だったんだな、ルビアのおっぱいを使った、でもなぁ……うむ、さすがにキモすぎるぞ」


「仕方ない、ここは我が話し掛けよう、何を聞けばよいのだ?」


「ん? おぉ、ケツアゴ刑事ならコイツの仲間だもんな、それでいこう、で、まずはニート神の居る場所までどうやって行くのかってこと、次いで今そこがどんな状況か、ついでにニート神の弱点とかあれば教えて欲しい、あと死ねって言っておいてくれ」


「わかった、では早速……ふんっ!」


「あの、何か気合入れて瞑想し始めたんですが……」


「ウ○コが漏れそうなんだろうよ、ルビア、ちょっと離れておけ、コイツのウ○コはきっとアゴから出るからな」


「気持ちの悪い方ですね」


「ちょっと君達、我は集中しているのだ、言われた通り、この停止しかけのウケツケツアゴと対話するために、かなり難易度が高いゆえ少し静かにしたまえ」


「うっせぇよボケ、殺されたくなかったら気合でどうにかしやがれ」


「・・・・・・・・・・」



 そのまま黙って、いやテレパシーのような何かでウケツケツアゴとの通信を続けるケツアゴ刑事。

 時折何か頷いているようだが、これで本当に大丈夫なのかという点が疑問である。


 もしかしたら俺達のこと、その侵入についてなど、どこかへ報告しているのではなかろうか。

 だとしたら今すぐにケツアゴ刑事を処分して、あとは俺達だけで行動すべきだな。


 そう思って聖棒を握り締め、ケツアゴ刑事の衣服に覆われた部分、つまり比較的清潔そうな場所に突き立てようとしたところ……ここで対話が終了したようだ……



「なっ、何をしようというのだ? 言われた通りの事項についてこのケツアゴから聞き出したぞ」


「本当なのか? 嘘だったら惨殺するからな、あと本当でも場合によっては殺すから、主にムカついた場合とか無償に誰かを殺したくなったときとかな」


「サイコパスの殺人鬼なのかねこの変質者は? それで、今聞き出した情報なんだが、まずは第一の事項だ、ニート神の居場所へ行くには……気合と根性をもってこの建物を最上階まで登り詰める、その必要があるらしい、我がここに居た頃はもっとこう、便利であったのだが……そうか、エネルギーの供給が停まってしまっているためか」


「チッ、てことは最上階まで普通に階段ってことだな、てかここ何階建て?」


「地上部分は150階層まである」


「ブチ殺してぇ……」



 とはいえ、これが機械文明の弱い所であるのは重々承知であった、まぁ本来であれば非常用のバックアップが働いて事なきを得るのだが、この世界においてはそういうわけにもいかない。


 この世界におけるこの摩天楼は、ニート神が自分で楽をするためだけに創り出したものであり、多くの『人間』が便利に、効率良く暮らすためのものではないのだから。


 で、そのまま第二の質問、ニート神とその滞在する汚い部屋の現状についてなのだが……それはもうブチギレ状態とのことである。


 何やらデータが飛んだだの、記録していた『書』が消えてしまっただの、とにかくライフラインの切断と同時に起った現象につき、かなりの怒りを表明していることがわかった。


 そしてその怒りが具現化されたものが、現在俺達が体験しているこの音や振動などであるのだが、これは奴が現時点で冷静さを欠いていることの現れとも取れそうだな……



「それで、奴の弱点についてはどうだ?」


「弱点などないという旨、明らかな定型文で返された、神は全知全能である、我もかつてはそう信じていたのでな、ここのケツアゴが全てそのように認識していてもおかしくはない、じっさいにはないこともないはずだが……」


「じゃあ結局わからないってことだな、仕方ない、このまま上を目指そう」



 神にも弱点のひとつやふたつぐらい存在しているはず、この世界の統治者である女神にも、頭が悪くどうしようもない馬鹿であり、3万年以上存在してもオネショが治らないという致命的な弱点が存在するのだ。


 そして、当然ニート神にもあるはずのそういった弱点を突けば、俺達の力でもそれを討伐することが出来る。

 いや、そうしなければ討伐など難しいであろう、奴は神、精霊様よりも位の高い、そもそもこの世界にはないはずの存在なのだから……


 で、それはともかくとして俺達は上へ続く階段へと向かう、150階層まで一気に、天井を突き抜けて行けばそれこそ早いが、そのようなことをすれば目立ってしまう。


 未だ動き回っているケツアゴも、その姿を見て『異物がある』と認識するはずだし、さらには建物の破壊について、程度次第ではニート神へ報告が上がる可能性もないとは言えない。


 しかも奴等の通信力を用いればそれこそ一瞬でだ、俺達が物理的に最上階へ上り詰めるのよりも遥かに早く、現場から順番に上っがっていく報告が、最高位にあるニート神の下へと届くのである。


 ゆえにそのようなことは出来ない、そしてここから先もケツアゴを騙って進む必要があるため、二人羽織を解除するわけにもいかない。


 俺達はかなり窮屈な思いをしながらひとつひとつ階段を上り、徐々に上の階へと移動して……というわけにはいかないようだ、そこそこの妨害があり、10階層程度登ったところで、最初のそれが出現したのであった。


 何やらゲートのようなもの、それを通過しない限り、これ以上上の階へと進むことが出来ないのである……



『ここから先は、より高位のケツアゴ権限が必要です、権限を示して下さい、権限を示して下さい、権限を……』


「おい、よくわからんがダルそうなのが出てきたぞ、高位のケツアゴが何だって?」


「うむ、これ以上上の階へ行くには、それに相応しいケツアゴ権限が必要なのだ、ちなみにこの装置は『魔導』ゆえ、いくら待ってもエネルギー切れを起こすことがない」


「じゃあどうすんだよ? お前のケツアゴを真っ二つにして生贄に捧げるのか?」


「大丈夫だ、ここも、そしてこの先も10階層ごとにあるゲートは、我の権限を用いれば一撃でオープン出来る、問題は……」


「問題は?」


「ニート神の汚部屋、その入口を開くための権限だ、確かそこはニート神と、それから定期的にニート神の食事を運ぶ『気弱なお母さん天使』以外に開けられなかったはず」


「何だよその天使は……っと、何だっ⁉」


「誰か落ちて来ましたっ、天井を突き破って、上から……どういうことなんでしょうか?」


「……今落ちて来て、そこでグチャグチャになっているパーマのおばさん、彼女が『気弱なお母さん天使』だ、まだ辛うじて生存しているようだな」


「もう意味わかんねぇよマジで……」



 ニートの世話をする献身的で気弱なお母さん、というかその役割を果たしている天使の方は、『ご飯ここに置いとくから……』的なことを毎日しなくてはならない、最悪の被害者である。


 それがここにきてライフラインが絶たれ、ニートは激怒、その責任はお母さん天使に被せられ……暴行を受けて床を何十枚も突き破り、落下して来たということだ。


 で、俺達が今居る階層の中央付近、全体が広いホールのような場所なのだが、その中心部の床に大きなひび割れを入れつつ横たわるパンチパーマのおばちゃん、トラ柄の服が異様に似合うな。


 これのどこが天使なのであろうか、その辺のおばちゃんではないのかという疑問はひとまず置いておいて、死亡してしまう前に治療を施すこととしよう。


 ルビアを前に出し、もちろん俺やカレン、リリィがロングコートの中に隠れたままなのだが、そのスタイルで回復魔法を使わせる。


 みるみるうちに治癒していく大きな傷、何やら周囲に飛び散った血液なども元の場所に戻っているようだが……まぁ、そういうこともあるにはある、ということにしておこう……



「……凄いですよこの人、いえ天使様の方ですか? 回復力が人族とか魔族のそれとは違いますし……精霊様並みの力なんじゃないですか?」


「いえ、私ほどじゃないわね、所詮は天使、神が、神界がなくては存在出来ない雑魚なのよ、まぁ、人族とか魔族とかと比べたらそうでしょうし、実際マーサちゃんとタイマンで戦ってもいい勝負をすると思うけど」


「マーサとタイマンで良い勝負かよ、バケモンじゃねぇかこのおばちゃん」


「ちょっと何よその言い方っ! まるで私がバケモノみたいじゃないっ!」


「あぁ、ごめんごめん、マーサはバケモノなんかじゃないから、ほら、耳と尻尾だって可愛いし、良い尻でいいおっぱいだ、完璧超人だよ」


「ふんっ、最初からそう言えば良いのよ……と、凄いわね、もう目を覚ますわよこの人……じゃなくて戦士」


「天使な、おい、大丈夫かよおばちゃん、何があったんだ? どうしてそんなキツそうな性格っぽいビジュアルなのに、その実気弱なお母さん天使なんだ? ニート神なんか放っておけよもう」


「そうは参りませぬ……しかしここは……確か私は神の怒りに触れて、それで……凄まじい力を受け、床にめり込んだところまでは覚えて……」



 混乱している様子の天使、そのビジュアルと比較して、かなり真面目で温厚な性格であることが、その口ぶりから窺える。


 しかし『床にめり込んだ』のではなく、『そんなモノは何十枚も突き破って相当な下層に落下している』ということについてはまだ理解していない様子。


 とりあえず、俺達が1匹のリアルなケツアゴを除き、悲しきケツアゴのモンスターではないことを伝え、ついでに神をブチ殺しに来たことを……と、それは黙っておいた方が良いな。


 まぁ、いずれはそれについても伝えなくてはならないときがくるのだが、それを今言えば、この場でこのおばちゃん天使との戦闘に突入する可能性が極めて高い。


 マーサと互角程度の力を持つ天使、それとまともにやり合えば、こちらも無事では済まない、どころかそこまで強くないエリナパパの肉体が消滅し、どこかへ飛んで行ってしまわぬようにケツアゴ―レムに封入して……という最悪の事態になりかねないのだ。


 もしケツアゴ―レムのボディーを持ったパパを、後程エリナに返却したらどういう反応をするか。

 それを見てみたい気がしなくもないが、とにかく今は無駄なことをせず、穏便に情報を引き出すことを優先しよう。



「それで、ニート神はどうしてそんなにブチ切れてんだ? 世話をしてくれているおばちゃん天使に対して、死ぬかも知れない次元の攻撃を加えるなんて尋常じゃないぞ」


「おばちゃんではなくお姉さんと呼んで下さい、またはプリティギャルとでも、そういうノリですから」


「えっと、じゃあ『お姉さん(笑)天使』ということで、んで、質問に対する回答の方は?」


「それが、やはりコツコツとレベル上げをしてきた勇者ファンタジーゲームの『書』が、先程から続く停で……えっと……力の供給停止によって消滅してしまったことが最大の原因かと、あとネットも使えませんし」


「あ、電気については隠すけど、ネットの方はもう良いんだ、オープンなんだ」


「ご主人様、ネットって何ですか?」


「網のことだ、魚を捕まえることが出来る、釣具屋さんで買えるぞ」


「わうっ、今度買って下さいっ」


「金がないから自分で作りなさい」


「精霊様、ご主人様がケチです」


「貧乏でケチなんてとんでもないわね、今度殺してしまいましょ」


「なんで俺がディスられてんだろ……」



 その話はともかく、ニート神の怒りは今が最高潮、これからこのおばちゃん……ではなくお姉さん(笑)天使が居なくなってどうするのか、どうやって生きていくのかなど、基本的なことさえも考慮に入れることが出来ず、衝動的に動いているのだ。


 で、そのチャンスタイムであることの確認のついでに、天使が落ちて来た天井の穴についてのチャンスの確認を行う。


 ニート神の汚部屋付近からこの場所へ落下して来たということは、少なくともその部屋の中または目の前に居て、そこで攻撃を喰らったということ。


 つまりその落ちて来た穴を辿れば、自ずと神の部屋の前へ到達することが出来るということでもあるのだ。

 そして床から上の穴までの高さはせいぜい5m程度、ジャンプすれば、容易に3段から4段分ぐらいは先へ進める程度のものである。


 念のためそのことをお姉さん(笑)天使に確認してみると、暴れ狂う神を落ち着かせようと扉の前に立ち、声を掛けたところで、スッと僅かに開いた扉の向こうから伸びた指先が、天使をこんな場所へまで突き落とす強烈な攻撃を放ったのだという。


 指先ひとつでその攻撃力、さすがは神なのだが、それについて恐れていても何も出来ない。

 ここはまず先へ進むべき、そして奇襲を掛けるべきだ、もし失敗したら……全部ケツアゴ刑事のせいにして逃げたら良いであろう……



「それで、あなた方は何なのですか? 見たところ通常のケツアゴのようではありませんし……」


「あぁ、俺達はニート神を説得しに来たんだ、いわゆる『引き出し業者』ってやつだな、マジでカスだけど、『引き出す』ってことに関してはガチなんで、その辺りについてお任せあれ」


「意味がわかりませんし、そのような怪しい、というか他の世界で犯罪まがいの行為を繰り返しているような悪徳業者に依頼した覚えはありませんが?」


「いえ、俺達は女神、この世界の神から内密の依頼を受けて動いている『影の引き出し業者』なんで、そこんとこよろしく、よしっ、じゃあ行くぞっ!」


「ちょっと待って下さいっ! そのっ、あの……えぇぇぇ……」



 何やら都合が悪くなりそうな雰囲気を察した、よってこの場は逃げるに限るということだ。

 すぐに天使の落ちて来た穴へと飛び上がり、一気に階層をワープしていく俺達、この分なら神の部屋の前まであっという間であろう……



 ※※※



「今ここが139階層よっ、もうちょっと、というか一度ジャンプしなさい、そこで念のため停まって様子を見るわよっ」


『うぇ~いっ!』



 先に上へと移動し、隠れるようにして更に上の、ニート神が暴れている部屋の様子を窺う精霊様。

 真下からなのでパンツが丸見えだ、さりげなく食い込み、実に素晴らしい光景である。


 しかしそのようなことを考えていられる時間はすぐに終わり、俺達は『マーサとタイマンしても良い勝負をするぐらいの強大な物理系の戦闘力を持った天使のおばちゃんを扉の隙間から出した指先ひとつで気軽に150階層から10階層まで叩き落として半殺しにする凶悪なニートの神』を相手にするべく、もう少し先へ進まなくてはならなくなる。


 ポンッとジャンプし、いくつか階層をスキップした俺達は、ニート神によって巻き起こされている振動を直に感じる程度の位置までは来たようだ。


 で、こちらがここまで接近して来ても、ニート神がそれに気付くことはないらしいということを確認。

 そのまま奇襲のための作戦を立てるフェーズへと移行するのだが、まずは皆で意見を出し合うこととしよう……



「う~ん、この穴から行っても、そのままあのおばちゃん天使様が叩き落された場所、つまりニート神様の居室の前へしか出ないということなんですよね」


「ニート神如きに『様』って、マリエルの神に対するその態度は何なんだ……っと、そうじゃなくて、概ね今マリエルが言った通りだ、このままストレートに上がって行っても、それは普通に奴の部屋の前に出るだけ、あまり奇襲として意味がある行為だとは思えない、そこでどうするかだ」


「え~っと、じゃあご主人様、もっとこっちの、ほら、ニート神の方の汚部屋の真下に、別の穴を空けてそこから突撃しませんか? もちろんファーストアタックはカンチョーで」


「あら、良いわねルビアちゃん、それ、採用よっ」



 その後の協議の結果、ルビアの案は賛成多数で可決された、反対したのは俺とエリナパパである。

 どうせその『カンチョーする役目』に抜擢された者は、汚いニートのケツ穴を抉ることとなるのだ。


 そうなると必然的に、そのようなことをしてもこれ以上穢れない、薄汚い野郎のどちらかになって……と、もう1匹居たではないか、穢れどころか呪いの権化のようなケツアゴのバケモノが……

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