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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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876 供給停止作戦本格化

「せっ、狭すぎてケツアゴがっ」


「おいコラ引っ掛かってんじゃねぇよこのアホがっ、てかケツアゴを壁に擦るな、分泌物がへばり付いて、そこに俺達が触れてしまったらどう償うつもりだっ」


「いや、そんなに悪いことをしているつもりは……」


『悪いに決まってんだろっ! この不潔野朗!』


「ギョェェェッ! アゴが削れて血塗れにっ、正義の味方、ケツアゴレッドになってしまったっ!」


「どこが正義の味方なんですか? 気持ち悪いので早く進んで下さい」


「は、はい……」



 最後に決まったのはミラによる冷静な指摘、まさか10歳代後半の美少女から、このような言葉を投げ掛けられるときが来ようとは、このケツアゴも全く思わなかったことであろう。


 で、今俺達が通行しているのは摩天楼の裏路地、エリナパパが腹いせとしてこのケツアゴをボコりに行った際、偶然発見して俺達に伝えたものだ。


 まぁ、裏路地といってもほぼほぼ『路』ではなく、どちらかといえば建物同士の隙間という表現がしっくりくるような、そんな感じの場所である。


 もちろん狭く、野良猫でも少し敬遠するのではないかというぐらいに薄汚く、ついでに言うと二人羽織りのせいで仲間達が引っ掛かりまくっているのだ。


 そして当然のことではあるが、俺もおっぱいが引っ掛かったルビアと壁の間に挟まれ、尻でグイグイ押されて大変なことになってしまっている。


 もしこの俺を押し付けているものが柔らかい尻でなければ一大事であった、きっともうぺちゃんこに潰されて……そういえば金属の鎧を装備したままのジェシカ、それと二人羽織りしているサリナは……完全にダメなようだ……



「あっ、ちょっとマーサ、ストップですの、ジェシカの後ろから、何かペラッペラになったサリナが剥がれ落ちましたのっ! ジェシカもっ、ちゃんと拾いなさいっ!」


「そ……それは無理ですユリナ様、ちょっとこう、身動きが……あっ、サリナ様が風でっ」


「飛んで行ってしまったな……精霊様、申し訳ないがちょっと取りに行ってくれないか、さすがにサリナ1人だと心配だ、ここの敵には幻術が通用しないからな」


「わかったわ、というか窮屈だからそろそろ飛ぼうと思っていたの、行って来るわね」


「おう、頼んだぞ、ついでに上空からの様子も報告してくれ」


「はいはいっ」



 そう言って飛び立った精霊様、風に舞っているサリナを見つけ出して捕まえ、空気を入れて元の状態に戻しているところまでは、二人羽織りの隙間からどうにか確認出来た。


 それからしばらく、ズイズイと引っ掛かりながら進むルビアに引っ付いて進むかたちでどうにか狭い場所を抜け、やれやれといった感じで飛び出して来るリリィをロングコートの中へと押し込み、他の仲間と共に精霊様の帰還を待つ。


 少ないながらも存在しているケツアゴーレムは、こちらがケツアゴであると完全に誤認しているらしく、特に興味を持ったり、接近して来たりということもない。


 そのうちに精霊様が戻って来たのだが……そういえばサリナと精霊様では『ケツアゴ感』が出せないではないか、このまま地上に降り立てば敵に見つかってしまうのだが……一体どうするつもりなのだ?



『いくわよサリナちゃんっ、下もちょっと良い感じの遮蔽物に隠れてっ』


「おい何するんだっ、って、オォォォィッ! マジでとんでもねぇことしやがるつもりだろぉぉぉっ!」



 精霊様が自らの上に繰り出したのは、まるで元○玉かの如き巨大な水の塊、こんなモノを地表にぶつけたらもうひとたまりもない、大洪水が起こり、それはケツアゴーレムだけでなくこの付近にある全てのものを洗い流してしまうことであろう。


 そして敵のニート神には俺達が何やら企んでいるということを気付かれ、応戦されてしまうに違いない。

 間違いなくそれはアウトだ、だが賢さの高い精霊様がそのようなこと……はしそうではあるのだが、それに抱えられたサリナが何も言っていない時点で大丈夫なはず。


 ここはひとまず様子を見て……と、どうやら地上に向けて放つのではなく、上に打ち上げるタイプの行動を取るようだ。


 だからといってそれが落下すれば大変なことになるのだが、もちろん落下もさせないらしい。

 水の塊はそれ以上上には行けなくなったかのように、同じ高度で徐々に平たくなっていく、今度は水のテーブルのようだな。


 で、それが徐々に小さな雫を垂らし、その垂れた雫が……雨か、雨粒となって地表に降り注いでいるのだ。


 シトシトと、本当に勢いのない小雨として精霊様の水は摩天楼を優しく……などとんでもない、ピチョンッとその水滴が付着したロングコートの裾が、徐々にではあるが溶解し始めたではないか。


 もちろんその危険極まりない雨を降らせている張本人は別の水性雨傘を創り出し、サリナと共にその下に隠れている。


 俺達も支持通りに遮蔽物、とりわけ水の塊が落下して来るはずであった上空から身を守るための場所に身を隠していたため、俺とルビア、カレンとリリィの入ったロングコートの裾部分以外は全てセーフ。


 しかし俺達ではない、外を当たり前のように歩き続けているケツアゴーレムは……トンデモ酸性雨をまともに浴びたようだな、溶けたり、動きがおかしくなっているものが多い。



「凄いっ、何の抵抗もなくケツアゴーレムが溶けていくぞ」


「単なる雨だし、攻撃されているとは認識しないんですねきっと」


「でも大丈夫なのかしらこれ、敵のニート神だって、こんなおかしな雨が降っていたんじゃ気付くでしょうに」


「大丈夫だセラ、引き篭もりのニートは天候を認識しない、そりゃ雷雨とかならちょっとだけカーテンを開けてみるだろうがな、それ以外、降っているのかどうかわからない程度の雨なら、気にしないどころか気付きもしないのさ」


「あっ、それもそうね、ニートなんてどうせそんなものよね……」



 神であろうが人であろうがニートはニート、凄まじくクズで、そして凄まじくやる気のない、もはや生きているだけでそれ以外には何もない感じの者なのだ。


 そのニートにとって、こんなシトシト雨如きは何でもない、外へ行かない自分には一切関係のない現象として、無為に過ごし続ける日々の中での記憶にすら残らないことであろう。


 もちろん外では自分の信頼している兵隊が、次から次へと溶かされ、その機能を停止しているのだが……それについて緊急警報が上がったりということもないようだな。


 まぁ、これは攻撃ではなく単なる雨だし、おそらく非魔導式であるケツアゴーレムの中には、たまたま雨に打たれる量が多く、それが元で他よりも早めに故障、ないし使用不能となってしまうものもあるはず。


 今回はそれが一気にきたのみで、雨に打たれたポンコツが、破損して転倒、そのまま機能を停止していることにつき、他の平気なケツアゴーレム共が何か特別な行動を起こす様子はない。


 そしてその元気なケツアゴーレムも、どんどん酸性雨を浴びて表面が溶け、さらにそこで空いた隙間から、内部の重要な機能を担っているのであろう部品にやべぇ酸の水が入り込んで……と、かなりの数が倒れ、それ以外にもおかしくなっているものが多いようだ。


 これなら精霊様とサリナが降りて来ても大丈夫、目の部分がまともに機能しているケツアゴーレムなど、この近辺には居ようはずもないのだから……



「ただいまっ、どうだったかしらこの作戦」


「実にナイスだ、サリナもちゃんと戻って来たし、これでケツアゴーレムの目を盗んで行動しなくても良くなるな」


「うむ、では私もそろそろこの不快な顔のマスクを……」


「あ、でも建物の中のケツアゴーレムには効果がないの、残念だけどもう少し被っていてちょうだい」


「・・・・・・・・・・」



 なかなかケツアゴマスクを外すことが出来ない、というかもう作戦終了までずっとこのままなのではないかとも思えるエリナパパ。


 何やら呪われた装備のようだな、いや、物理的には外すことが出来るのだが、状況がそれを許さないという点において、そんなものではない恐るべき呪いの効果が見て取れる。


 で、そんな感じでもう一度ケツアゴ化したエリナパパを隊列に戻し、先頭は相変わらずリアルケツアゴのケツアゴ刑事、そして俺達二人羽織り軍団が続く。


 精霊様が酸性雨を振らせた範囲が広いため、外のケツアゴーレムはほぼほぼ全滅している状況。

 だが建物の窓からチラチラとこちらを見ていたり、そして徐々にではあるが、その壊れて動かなくなったケツアゴを回収するためのケツアゴも姿を見せ始めている。


 これは引き続き油断ならないな、だが敵の数が増えたら、もう一度精霊様に先程の攻撃を……というか、どうやって酸性雨など降らせることに成功したのだ? いつもは単なる水なのに、どうして今回に限ってそのような……



「なぁ精霊様、ちょっと良いか?」


「何よ、顔を出していると見られるわよ」


「大丈夫だ、で、さっきの酸性雨、どっから出したんだ?」


「酸性雨……ってのはさっきの強酸の雨のことね、なんか向こうの方にそれっぽい水が溜まった場所があったから、そこから拝借しちゃった」


「賛成の水が溜まった? 何だろう、カルデラ湖でもあるのかな、火山で、温泉とか沸いていたりするのかな?」


「さぁ? でもそういう感じじゃなくて、もっとこう、人工的なアレだったわね、あれでまだ3分の1も使っていなかったみたいだから、相当な量が溜まっているんでしょうけど」


「ふ~ん、まぁ良いや、俺達二は関係がなさそうなことだなそりゃ」



 何やら溜まっていたという強酸の水、それが何であるのかについては、特にこれといって言及する必要などないはずだ。


 なぜならばここは剣と魔法のファンタジー世界の中にある特別な、どちらかといえば機械文明寄りの場所なのだから。

 普通の工業的な何かに使う何かの水、そのような何かであったはずだ、何かはわからないが何か、それで良いのである。


 で、また外のゴーレムが増えたら同じことをしてくれと精霊様には頼み、そのまま先へ進むと……どうやらこの先が摩天楼の中枢らしい。


 高く、面積も広い、とても近代的な建物が立ち並び、その間を走る道路は完璧に舗装されている感じ。

 そしてその舗装されていると思しき道路には、無数のケツアゴーレムが跋扈しているではないか。


 いや、ケツアゴーレムだけではない、何やら人間のような……人間なのかどうか、人族なのか魔族なのかは定かでないものの、それらしき生命体もチラホラと混じっているように見える……



「おいケツアゴ、アレは何なんだ? 生物……というかお前等よりも人間らしいようだが」


「もはや『刑事』という呼称すら廃止されてしまったのか我は、で、あの生物なのだが……知らない、我がこの地を出た、この地が地上から離れ、地下深くへと隠された際には、あのようなものは存在しなかった、きっと……」


「ニート神の奴が勝手に創造しやがった、そういうことだな?」


「非常に言い難いのだがおそらくそうだ、何も考えることなく、想うことなく、単に命令に対して従順であるというだけのケツアゴーレムでは、あの神の寂しさを紛らせることが出来なかったということであろう」


「面倒なニートだな、放っておいて欲しいのか、それとも構って欲しいのかハッキリすべきだぞ」


「主殿、ニートというのはその両方の面倒な性格を兼ね備えたステータスだぞ、攻守共に完璧なのだ、だから手の付けようがないということもあるのだが……」


「だな、しかし今回の作戦が成功すれば、必ず奴を、この地にある全てのニートをブチ殺すことが出来る、だからもう少し頑張って先へ進もう」


『うぇ~いっ』



 ということで摩天楼の中枢、本当に大事なのであろうエリアへと突入していく俺達。

 ケツアゴーレム共は引き続き大丈夫そうだが、そこらに居る謎の生物の方はどうなのか……


 まず最初にその生物、というか明らかな人間と目が合ったのは、ケツアゴをおっぱいで模し、俺と二人羽織し、ついでにロングコートの中にカレンとリリィを隠しているルビアであった。


 ケツアゴの部分も実際にはかなり不自然だし、そもそもルビアの綺麗な足とカレンのお子様のような足、リリィの比較的細い足、さらには俺のスネ毛がズボンからはみ出しまくった綺麗でない足、合計で4人分8本の足が、その肥大化したボディー部分から覗いているのであったが……と、目を逸らしたようだな。


 相当にヤバいめの生物であるということを察し、しかも似たような何かが他にも一緒に行動している点からも、未知の生物による百鬼夜行であり、『見てはいけないモノである』と判断したに違いない。


 おそらくこいつらは本当に真っ当な生物で、まともな感性を有している何かなのであろう。

 もちろん周囲には不気味なケツアゴーレムも存在しているのだが、それはそれでまぁ、生まれつきそういうのが居たため不思議には思っていない。


 俺の感覚で言えば、野良犬や野良猫がその辺に跋扈しているような、そんな感覚で捉えているのであろう。

 何か違うとは思うがまぁそんな感じなのであろうと推測して、その場は良いにしておくこととした。


 で、ひとまずそういうことであるから、この謎の生物らについては特に問題なしである。

 そしてケツアゴーレムも引き続き無害、というか本当は有害なのだが、見てみぬ振りを出来るということ。


 このまま町の中央、ニート神が滞在しているあの汚らしい部屋のある、巨大なビルのようなものを目指してしまって構わないということだ……



「よし、おいケツアゴ、マップを見るのは面倒だからな、お前が先導してそのクリティカルな建物へ案内しろ、さもないと殺す」


「わかった、だが本当に神と対峙するつもりなのか? お前達が強くて、そして逮捕すべき……とまでは言わないが、少なくとも署までご同行願うべき変質者であることは十分にわかっているのだが……それでも神と……」


「ゴチャゴチャうっせぇよこの薄らハゲ、俺達が神を殺すと言っているんだ、お前は黙ってそれをサポートして、万が一の場合には全責任を1人で負う覚悟を持って行動する、それだけで良いんだ、簡単なお仕事だろう?」


「……いや、全責任というのは……だがわかった、この場で殺されるわけにもいかないし、今はひとまず片棒を担ぐこととしよう」


「片棒を担ぐって、言い方が悪いなお前、後で殺すから覚悟しておけよ」


「もう何を言われても驚かないな、全く近頃の異世界勇者というものは……」


「お前に異世界勇者の何がわかるってんだこのダコがっ、ほれ、さっさとしろ、マジで死なすぞこのボケ!」


「・・・・・・・・・・」



 未だに敵か味方かわからないケツアゴに対し、可能な限りの辛辣な言葉と強い態度で臨む俺だが、本来は自愛に満ち溢れているため、ここまでの暴言を吐くのはかなりのストレスだ。


 もっともこの腐ったケツアゴが愚図なのが悪いのであって、俺がこのような態度を取らなくてはならないことによって負った精神的ダメージについても、あとでこのケツアゴから金銭での賠償を受ける必要がある。


 それはともかくとして、引き続き慎重に歩いて行った先にあったのは……間違いなく例の巨大ビルディング、確実にニート神が滞在するあの部屋を収納した、この摩天楼の中心たる建造物だ。


 さて中へ入ることとしよう、入口のセキュリティは……なんと『ケツアゴ認証』である、自らのケツアゴを押し付け、それが正規のものであるかどうかを確かめるという意味不明な仕組み、可能であれば死んで欲しい。


 しかしこれはなかなか困ったことだな、ケツアゴ刑事以外のケツアゴは導考えても紛い物、この認証をパス出来るかどうかといえば、おそらく出来ないであろう。


 ならば破壊するか、そろそろこの攻略作戦も本番であるし、ブチ壊してカチコミを掛けるという方法もなくはないのだが……念のため何らかの方法がないかを確認しておくべきかも知れないな……



「この認証についてどうすべきか、何か意見のある者は……はいミラ……じゃなくてミラと二人羽織をしているセラさん、発言をどうぞ」


「ケツアゴ刑事に開けさせて、私達はその仲間としてさりげなく通過するとか、どうかしら?」


「残念ながらこの認証は厳格……であったはずだ、我がこの地に暮らしていた際にはそうであったのだが、それと仕組みが変わっていない以上、そのままであることは容易に想像出来る」


「あら、じゃあもう破壊していくしかないわね、早速私の魔法で一撃……え?」


「あれっ? 認証装置の明かりが……元々魔導じゃなかったものが……消えて真っ暗に……これはっ!」


「もしかしてやったのか? 例の作戦が成功し、あの腰蓑を装備した軟弱な人族の軍団が、全ての線を切断して……」


「そうに違いないっ、これでここはオープンしたぞっ、そのまま入っても大丈夫なはずだし、すぐに……と、、すげぇ音が……」



 機械仕掛けの摩天楼、その機械に用いられていたエネルギーは、俺達の作戦を実行に移した腰蓑軍団によって完全に断たれた。


 魔力ではない、この世界では使われていないはずの力、それが何なのかということについて、俺は特に言及してはいないのだが、その力が失われたということは、精霊様やエリナパパにはハッキリと、そして他の仲間達にもうっすらとわかったはず。


 町を照らしていた明かりが消える、そしてもちろん、今現在動き回っているケツアゴーレムも、その内包された力を消費しきった後には、新たな供給をすることが出来ずに停止することであろう。


 で、そんな大チャンスの折、俺達がターゲットとしているニート神の居る、目の前の巨大建造物の上層にて、そこそこの規模の爆発のような事象が起ったのが確認出来た。


 きっとキレたのだ、クソニートが引き篭もっていたクソ部屋に供給されていたライフライン、それを突如として切断され、中のニートがブチギレを起こしたのである。


 ここは動くべきときだ、この混乱に乗じて、俺達が先に攻撃を仕掛けていくべきタイミングなのである……

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