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「それで、具体的にどうするかなんだが……おい腰蓑ジジィ、どうなんだよ、普段お前等はどうやってここへ入っているんだ?」
「ジジィとは言ってくれるわい、後で魔鳥様に言い付けてくれるわこのダボがっ……で、この施設は大変に古臭いシステムでの、なんとわざわざ、1人ずつ顔と手を近付けて、ここがピッと鳴って緑になるのを待たねばならんのじゃ」
「全く、長老様の言う通りだぜ、ここへ来る前、つまりジャングルの家なら、一度鍵を開ければ閉めるまで開きっぱなしになっていたってのに、この扉は何だ? 毎回毎回鬱陶しい限りだ」
「本当に不便だよな、だがもうすぐに帰れる、あの危険こそあれ最先端の技術を駆使したジャングルへ……」
「そうだ、ジャングルだ、ここで与えられている食事は不味いからな、完全栄養食だか何だか知らんが、早く戻って、子どもの頃味わったワイルドな肉を喰らいたいぜ……」
「お前等な、感傷に浸ってないで行動しろ、さもないと作戦が失敗するぞ、そしたらお前等はまたここへ置き去りだ」
『なっ、なんだってぇぇぇっ!』
どうしてもジャングルへ帰りたいのであろう、帰って、打製石器の鏃をひん曲がった木の棒にセットして、それで野生動物、まぁあのジャングルについては植物も敵だが、とにかくそういう生物らと喰うか喰われるかの争いをしたいのであろう。
で、試しにということで、ちょうどこの後この施設に入り、ありがちなグルグル回すやつで『発電』を、およそ16時間に渡ってやらされる予定であった腰蓑野郎が1人前に出る。
まずは正面の扉の横、これまたありがちな解錠のための装置に手を近付けると……どうやら指紋を認識したようだ、そして次は網膜認証……画面がピッという音と共に変色、どうやら入場許可が下りたらしい。
これは極めてハイテクではないか、遅れていることなどひとつもありはしない……いや、堂々と入場していくおっさんが、明らかな原始人であるということが随分遅れている、時代にマッチしていないのだが……
で、そのおっさんが扉を潜った途端に、プシュッとエアの抜けるような音を立てて閉まってしまう。
なるほど本当に1人ずつしか入ることが出来ないようだ、だがピッタリくっついて行ったらどうなるか。
少し試してみる価値はありそうだな、そしてその危険かも知れない行為に及ぶのは……まぁ、少しばかり高齢の原始人で良いだろう、可能であれば死んでも誰も困らないような老害タイプが……よし、奴に決めた。
「おい、天才の俺様が良いことを教えてやる、これに成功すればかなり、というほどでもないが、少しばかりは入退場が楽になるぞ」
「ほう、貴様のような頭の悪そうな奴が何を考えたというのだ? そこの賢そうなお姉さん方ではなく、貴様が考えたというのがもう信用ならないがな、それを教えてみろ」
「このおっさん、モブキャラの癖に威勢の良い……と、まずは普通に入る奴、それからその後ろに、関係ない奴がピッタリくっつくんだ、隙間がないようにな、どうだ?」
「や、やっているが……こいつの後頭部が枕に染みたおっさんの臭いで大変に不快なのだが?」
「うるせぇっ! お前の屁の臭いより100倍マシだコラッ!」
「はぁっ? おいお前この中でも比較的年長者の俺様に向かって口答えとは良い度胸だ、表へ出ろオラッ!」
「ここは表だボケがっ! ボケ始めが早い奴だなお前は、あ、元々ボケだったか、そりゃすまんかったな」
「何だとワレェェェッ!」
「はいはい、喧嘩している暇じゃないぞ、とにかく並んで、先頭のお前は普通に認証……という言葉は知らないのか、えっと、まぁ普通に入れ」
「お、おう……」
最初のデモンストレーション同様、前に居るおっさんがピッと、指紋および網膜でその施設入口のセキュリティを解除する。
開いた扉、そしてそこへ入って行くのは、普段通りの1人ではなく2人、ピッタリと張り付いた老害系初老腰蓑野郎が、1人分の扉解放で不正に侵入したのだ。
で、結果はというと……成功したようだ、窓の所まで移動した先の野郎が、こちらに向かって『○』の合図を出しているではないか。
この方法であれば権利者1人につき1人、無関係の者を中へ入れることが可能となる。
だが問題は……この臭そうな連中の後ろにピッタリと付くのが実に嫌だという点だな。
まぁ、最悪の場合俺やエリナパパは良いのだが、女の子達、とりわけ背の高い、おっさん共と比べても上回っている程度のルビアやマーサについては、その臭さをダイレクトに喰らう被害者となってしまう。
さすがにそれは避けたいな、どうにかして『後ろピッタリ作戦』と類似していて、かつおっさんの後頭部の臭いも嗅がなくて良い方法が……と、ここで建物内部からベルのような音が鳴り響く……
「あらっ、勇者様、これは拙いのでは……」
「警報か? さっきの不正入場がバレただけなら……まぁ奴等が死ねばそれで終わりなんだが、そうじゃなさそうだな、おいジジィ、何だこれっ?」
「案ずるでない、これは交代の際に鳴り響くベルじゃ、そんなことも知らぬのかこの田舎者めが、少しは社会の仕組みについて勉強して、それから出直して来るのじゃ」
「いや槍持った腰蓑ジジィに言われたくないわ、で、とにかく交代の時間……ということは中から人間が出て来て、外からも入るということだな?」
「当たり前じゃろうに、ほれ、先に出る側の方が動くでな、そろそろ今まで働かされていた連中が来るぞい」
「なるほど、よし、これを使おう」
建物の奥から足音が響く、ゾロゾロと、かなりの大人数であることは外から聞いていてもわかるのだが、同時にその足取りは重く、完全に疲れ切った状態であることも容易にわかる。
で、最初に扉が開いて、先頭の奴が出ようとした瞬間に、長老である腰蓑ジジィがその前に立ち、後続の者も含めた『帰宅組』に対して、静かに、いつも通り退出していくべきことを告げた。
そして次の瞬間には歩み出す『帰宅組』の先頭キャラ、それと同時に俺がスッと中へ、扉を通過するのとピッタリ合わせて動き、反対に施設の中へと入り込んだ。
特に何も起らない、警備ゴーレムだの何だのが襲撃してくる様子もなければ、周囲が赤く光り、侵入者を知らせるセキュリティが発動している様子もない。
作戦は成功したようだ、俺が中から合図を出すと、続いてミラが、ジェシカが、そしてカレンがという具合に、全く同じようにして施設の中へと突入して行く。
最後にエリナパパが入ると、ここで主要なメンバーは揃った、あとはこれから『出勤組』となる連中を普通に入らせ、その案内を得て館内を捜索、というよりも『発電』のための装置を見学するのだ。
しばらく待ち、とりあえずこれから中へ入るべき腰蓑野郎共の入場が終わると、すぐに案内するとのことで、そのまま施設の奥へと向かう。
その移動の間は誰にも会わない、そして警備用に配置されているはずのゴーレムなどにも遭遇することはなかった。
調度品が置かれていない、無駄に掃除の行き届いた廊下にあったのは、かなり前に過労死し、その場で果てたと思しき腰蓑野郎の白骨死体のみで……というかこいつら、こんな場所にまで原始的な槍を持ち込んでいるのだな……
「おぉっ、お前を連れて帰ることが出来ないのはいささか申し訳ないが、俺達はもうすぐここを出て、ジャングルへと戻るのだ、魔鳥様の助けによってな」
『返事がない、ただのアレのようだ……』
「ウンウン、お前以外の死んでしまった者の分の魂も、必ず連れ帰ると約束しよう、魂だけだがな」
「え? ちょまっ、喋ったんだけどその死体、白骨化してんのに」
「勇者様落ち着いて、何か魔導デバイスが入っている……魔導じゃないわね、何かしらコレ?」
「もうあまり深く言及するのはやめようぜ、気味が悪いからな」
明らかに魔法でない、というか俺が見知っているエネルギーを用いるタイプのデバイス、それが白骨死体の中に入れられ、人が話し掛けると反応し、定型分を返すようになっているようだ。
ちなみに話し掛けていたおっさんに聞いたところ、これがこの死体となった男の最後の言葉であったのだという。
どこでこのニュアンスの言葉を覚えたというのか、それも謎だが、もっと謎なのはこの男が、いやここに居る誰もが、いつ如何様にして、何者がこの死体の中へデバイスを埋め込んだのかを知らないということだ。
ここで死んでしまい、仲間内で協力して移動させることなど許されず、単にここで朽ち果てていった仲間の死体。
それがある日突然、いつものように話し掛けた際に言葉を、最後に述べたその言葉を返してくるようになったのだという。
この時点で完全にホラーなのだが、心霊的な何かでないことだけはわかっているため、仲間達の一部がビビリ倒してしまうこともない、ないのだが……一応、真相は解明しておきたいところだな……
「さて、先へ進むぞ、作業開始が1秒でも遅れると、今日1日分の『給料』が出なくなるからな」
「あら、給料っておいくらですか?」
「おいくら?」
「お金です、え? お金じゃなくて……」
「そのお金というモノが何なのかは知らないが、我々が貰っている『給料』とは水と食事のことだ、水は何か薄汚いし食事はゲロのように不味いがな」
「ということはもしかして……ここの人達、お金を使ってどこかで遊ぶとか、食糧を買うとかいうことは……していないんですね」
「なるほどな、それであの大通りに面していた娯楽施設なんかには使用感が全くなかったのか、しかし残念すぎる町だな、槍持ったおっさん以外の人が居ないどころか、経済活動さえ行われていないとは」
摩天楼のそんな悲しい現状を知り、その巨大な不動産を有効に活用していないニート神に対し、より一層の怒りを覚えつつ歩く。
そして到着したのは巨大なホール、おそらく施設の中心部に位置しているのであろうが、その中央には、先程交代で出て行った連中の分間が空いた、良く見かける奴隷が回さされていがちなあのグルグル回す奴が、凄まじい存在感を放ちつつ稼動していた……
※※※
「おぉっ、やっと交代要員が来たかっ、今日はいつもより遅かったんじゃないのか?」
「もしかしてトラブルが……監視を怒らせたわけじゃないよな? てか何だその後ろの……色んな格好の連中は?」
「いや、監視の奴には出くわしていない、そもそも奴等、生き物でもないくせに夕方には退勤しているだろう、で、この後ろの連中は魔鳥様の仲間だ」
『なっ、なんだってぇぇぇっ!?』
「シッ、大きい声を出すな、もしかしたら当直係の監視が起動させられているかも知れないからな、落ち着いて聞いてくれ……魔鳥様が迎えに来られた、そして魔鳥様が現在、この者達と共同して遂行している作戦が成功すれば、俺達は晴れてジャングルへ戻ることが出来る、ついでにあの狩猟も採集もしないニート野郎はお終いだ、全員理解したか?」
『うぇ~いっ!』
これでこの付近に居る腰蓑野郎共に対するおおよその説明は完了した、先程帰って行った連中も、戻った先のスラム街的場所で、腰蓑ジジィなどから説明を受け、というか魔鳥そのものと出くわして状況を理解していることであろう。
あとはこの巨大なグルグル回すやつを……やはりコードの類は一切見えないな、地下に隠されているということ課、馬鹿な腰蓑野郎が足を引っ掛けて、それで断線しても困るからな、当然の措置といえばその通りだ。
それでも何かあったときのため、きっとどこかに、警備用ゴーレムか、または修理用の専用ゴーレムが入って行くような場所があるに違いない。
それが壁にあるのか床にあるのか、まずは探していく必要があるのだが、もしかしたらその入り込む瞬間を目撃している者がいるかも知れないな。
ひとまずこの中では一番リーダー感のある、元からここに居た腰蓑野郎に聞いてみることとしよう……
「なぁお前、この下、きっとグルグル回すやつから繋がっている『線』があると思うんだがな、それを何かこう……確認しに行ったりしている奴を見たことがないか? もちろん敵のゴーレムとかそんなんが」
「確認しに……線……そういえばこの床の所に何かあって……ここをポチっと」
「きゃいんっ! わぅぅぅ~っ……」
思い出したかのように、壁にあったボタンをポチッとしたおっさん、次の瞬間、床の一部がバンッと開き、その下に階段のようなものが続いていることが確認された。
ちょうど開いた場所に立っていたカレンがどこかへ飛んで行ったような気がしなくもないが、特に気にする必要はなさそうだ。
で、ムスッとした表情のカレンが戻って来るのを待ち、おっさんはその場で作業を継続、そして今連れて来た腰蓑軍団も新たに作業を開始、つまり俺達勇者パーティーに、エリナパパを加えた13人で先へ進むこととなった。
階段の先は真っ暗なのだが、まぁここを通るのが無生物であるゴーレムのみだというのであれば、それこそ持ち前の機能によって、暗闇でも目が見えるようになっており、別に明るさは必要ないのであろう。
しかし俺達はそうもいかない、後列からユリナを引っ張り出して真ん中で魔法を、前ではミラが、後ろではセラがそれぞれ明かりを持ち、どこから何が出現しても対応可能な状態で先へ進む。
階段の下まで降りると、そこから先は……壁に太いケーブルが掛けられた廊下が、ずっとずっと先まで続いている様子。
このケーブルは間違いなくあのグルグル回すやつ、つまり『発電装置』から延びているものだ。
行き先の方も大変気になるし、むしろそちらがメインの情報源になりそうな予感ではあるのだが、ひとまず近い方、『装置』の下から調査を進めていくこととしよう……
「え~っと、あっ、ここから入れそうですっ」
「いやさすがに狭いな、リリィは良いかもだが、続くミラとジェシカ、どっちかのおっぱいが引っ掛かるぞそこは、ちょっと中の様子を覗き込んでみてくれ」
「はーいっ、あ、明かり明かり……えっと、ひっ⁉ ランタンが持って行かれそうですっ、あと何か鉄の紐みたいなのがグルグル巻いてあって、回って……」
「うむ、状況は理解した、戻って良いぞ」
ミラからランタンを受け取り、もう一度その小窓のような場所から中を、おそらくは上で腰蓑軍団が懸命に回しているグルグルの直下を含む部屋の中を覗き込む。
そしてそのリリィが見たとして報告してきた光景は、おおよそ俺が予想しているものと同じであった。
間違いなく転移前の世界で開発された……いや、もしかするとその世界にもまた他の世界から持ち込まれて……
と、それを考え出すとキリがない、とにかくこの世界にあってはならない装置、というか利用すべきでないエネルギーを勝手に持ち込んだ神が、それを使ってこんな場所で悠々自適のニート生活をしているということが確定した。
これはさすがに許せないな、女神によって無理矢理この世界に放り込まれた俺が、この俺様があくせく働いているというのに、神如きの分際でニート、しかもその最上級たるNEETESTにまで進化を遂げているとは。
「ふむ、私もその装置とやらを見てみたいものなのだが……ちょっ、引っ掛かってしまったではないか、誰か助けてくれぬか、いや、マジで抜けぬのだがっ」
「何やってんすか、もう行きますよ」
「待つのだ、フヌヌヌッ……ふんっ!」
「げっ、千切れやがったじゃねぇか、どんだけ頑丈に出来てんだよこの施設は……」
もうこの場は良いから移動しようと思った矢先、興味津々で小窓から頭を入れ、肩の部分で引っ掛かってしまうエリナパパ、悪魔にしては馬鹿である。
で、そんなエリナパパを置いて行こうとしたところ、かなり焦ったのか、無理矢理に脱出しようとして体が、胸の辺りでブチッと千切れてしまう。
そして小窓の反対側から這い出して来る上5分の1程度のエリナパパ、こちらに頭と腕が付いているので、主に稼働するのはこちらのようで……と、普通に飛び散った血液を集めて再生しやがった。
なんとも気持ち悪い光景だが、驚くべきはそこではない、これまでこの施設においては、念のため意味のない破壊をしないよう心掛けてきたのだが……もしかするとそれは、やっても出来はしない類の行為であったのかも知れない。
まぁ、特に大事はないような感じなので良かったが……と、それでも小窓の枠の方は破損し、外れて落ちてしまったのか。
いくら頑丈に造られているとはいっても、蝶番の部分は弱点であったようだな、そしてこれがこの施設における初めての破壊行為であり……当然タダでは済まされないらしい……
『ビーッ、破損情報、破損情報、非魔導式ゴーレム不在区画にて設備に関する破損情報、人族がやらかしたのではないかと思われます、繰り返します、破損情報、破損情報、非魔導式ゴーレム不在区画にて……』
「あらら、やってしまいましたね叔父様」
「これは……エリナに報告しますの、また余計なことをして、周囲に迷惑を掛けていたと」
「おう、エリナの前にこの警報に対して言ってやった方が良いな、お~いっ、やらかしたのは人族じゃなくて、どっかの悪魔だぞ~っ」
「こ、こらやめなさい、ひとまずここは逃げる他ないだろう、見つかったらかなり面倒なことになるのだぞ」
「ま、その非魔導式ゴーレムってのも見てみたいものだけど、ひとまず走りましょっ」
「っと、精霊様そっちへ行くのか?」
「当たり前じゃない、戻るか進むかの選択なら、間違いなく進んだ方が良いわ、そうじゃないと話が進まないもの」
「お、おう、じゃあ皆行こうか」
『うぇ~い……』
自信満々で、ガンガン奥へ、ケーブルが繋がっている通路を進んで行く精霊様であるが、今回は放っておくわけにもいかないため、ひとまず全員で追跡する。
自分達の足音が響く通路では、前方、後方共に何が起こっているのか非常にわかり辛い、わかり辛いのだが……前方から敵、その非魔導式ゴーレムとやらの群れが現れたのは、耳ではなく目で確認することが出来た……




