867 実はこれ
「おいオラァァァッ! 出て来いやこのボケェェェッ! いやそこのお前じゃカスがぁぁぁっ!」
「我か? 何なんだね君達は一体? 我に何か用があるのなら秘書を通して……と、秘書①は過労死してしまったし、秘書②は……そうか、汚職の罪を全部被せて死刑にしたのか、全く使えない奴等だし、どうして我のような高級な者が、海に堕とされた挙句こんな場所で、低級の雑魚政治屋共に紛れて……」
「喋ってないで早く出て来なさいっ! 殺すわよっ!」
「こっ……殺すだとっ? 貴様、先程空を飛んで我を救った者ではないか、救っておいて殺すとはこれ如何に? というか貴様、我の偉大さを知って、自己犠牲を厭わず海へ入ったのではないのかっ? そうでない者などこの世に存在するのかっ?」
「ここに沢山存在しているわよ、とにかく早くっ……もう面倒だわっ、周りを退かすっ!」
『ギョェェェェッ!』
精霊様の無理矢理な対象取り出し、それによって死亡してしまったその辺のモブキャラ政治屋共。
まぁ、数匹程度だし、特にこの後やるべきである『国にケジメを着けるための処刑』にはそれほど影響してこないであろう。
で、その行為によって取り出されたのは総理大臣……ではなく『ソーリー大臣』という名称の変なキモいデブ。
単に気持ち悪いだけでなく、選挙用に用意していた肖像画がかなり加工してあり、パッと見イケメンなのではないかと思わせてしまうような状態であった辺りが実に問題だ。
で、そのソーリーとやら、名前の如く命乞いを含む無様な謝罪を続けるのかと思いきや、外に出されてなお、自分が何よりも優遇されるべき人間であって、この場でも丁重に扱われるのが妥当であるというスタンスを崩そうとはしない。
まさかそんなはずはないというのに、この野郎は本当に頭が悪いのか? まぁ、一度は政治屋として国家のトップに立った人間であるわけだし、それはないと信じたいのだが……
「わ、我をどうしようというのだ? 金か? 金を要求するのであれば秘書を通して……っと、秘書は死んだのであったな、おいそこのちょっと高級そうな女、おいっ、お前だよお前!」
「へ? はっ? あの……私でしょうか?」
「そうだよ、槍なんか持って偉そうにしやがって、だがな、そのビジュアルであれば我の『下に付く』ということを認めてやっても良いぞ、そんな武器などゴミ箱に捨てて、政治を司る我に、我の下に付くことをせぬか、ほれ、立身出世の大チャンスだぞっ」
「何言ってんだコイツは? マリエルは王女様だぞ、デカい、人族の国では最大の王国の……王がゴミなのは言及しないというルールなんだがな……」
「はぁっ? 貴様人族だろう? 人族で一番偉いのは我で、その我よりも上に立つようなことはあってはならない愚行で……」
「あの……勇者様、ダメですこの人、殺してしまいましょう」
「おう、そりゃ当然だ、だがその前にロストテクノロジーの話を聞いておかないとな」
「ロストテクノロジー……貴様、下民顔の分際でなぜその言葉をっ!?」
「誰が下民顔だ殺すぞボケッ」
「ぎぃぇぇぇっ! 痛いっ、超痛いっ!」
お話にならない次元の低知能であったソーリー大臣、それを、その顔面を比較的ライトに蹴飛ばし、まだしゃべることが可能な程度の身体的機能を残すように取り計らう。
同時に質問を投げ掛けようとしたのだが……ここで新たなキャラ、あのメタルオオウナギが事故した地で出会った魔鳥、およびその仲間達が、徒党を組んで俺達の下へとやって来たのであった……
『その人族を殺すのは少し待て、異世界勇者とやら』
「何だよ? 急に来てアレか、口出しするってのか、まぁまだ情報が欲しいから殺しはしないんだが、コイツに何か用でもあるのか?」
『うむ、我が支配エリアから連れ去られた人族の話はしたな? で、その連れ去ったのがその人族の馬鹿者を首塊とする連中であったのだ』
「そうなのか、おいこのゴミ野朗、お前、変なジャングルから人族の集団を連れ去っただろう? 返してやれよこの鳥野朗に」
「ななななっ……そこの下等生物の要求に従えというのかっ!? なぜ我がそのような……いででででっ、ちょまっ、お願いっ、ちょっと待ってっ、ソーリー、アイムソーリーッ!」
未だに調子に乗った態度をやめないソーリーに対し、更なる痛みを与えたのだが……その際に見えたのは、首から提げているそれぞれ金色と銀色に輝く2品の鍵。
これが『ロストテクノロジー』の鍵であることは容易に想像出来るな、早速奪って……いや、所有者の権限が、もちろん魔導で設定されているようだ。
つまり俺がこの場でそれを奪っても、この権限を有している馬鹿の同意や承諾に係る証明情報がないとまるで役に立たないということ。
それにはエリナパパも気付いたようで、その鍵の存在を目視、既にそれが逸れであるということを認めてはいるようだが、現時点では手を出さない感じの動きを見せている。
しかし所有者権限の類、または承諾に係る情報か……ここは交渉をしていく必要がありそうだな、こんな変な奴に承諾して貰うというのも癪だし、こちらに所有権を無償譲渡、いやお土産やオマケ付きで受け渡して貰う感じの取引をしよう……
「ギョェェェェッ! この鳥をっ、下等生物をどうにかしてくれっ!」
『黙れ、我が領有エリアで飼っていた人族を返すのだっ! さもなくば喰い殺すっ!』
「ひぎぃぃぃっ! たっ、助けてくれ、さっきから何度も謝っているだろうっ、アイムソーリーッ!」
「おいこの無能政治屋め、お前その鍵、ロストテクノロジーのものだろう? 助けて欲しくばひとまず俺に寄越せ」
「だ、だからどうしてロストテクノロジーのことをっ、これは大変に危険な、我ですらそのコントロールが出来るかどうかわからない古の……イデデデデッ! かっ、鍵爪が腹の肉にっ!」
「古の何だ? もうここまでわかっているんだからさ、その中身について言及したらどうだ? というか、言わないとこの場で嬲り殺しにするぞ、その魔鳥軍団がな、どうだ?」
「わかった……いでぇぇぇっ!」
「よし、じゃあハピエーヌ、魔鳥にやめるよう言ってくれ」
「あじゃじゃーっ」
ハピエーヌが何やら魔鳥に告げると、その瞬間から鳥達による攻撃がサッと退き、終結した。
その場に残ったのは抜け落ちた羽とボロボロの馬鹿政治屋、なお、有価値そうな羽はミラがせっせと集めている。
で、ひとまずルビアに治療をさせ、このまま傷がもとで死んでしまう可能性を排除した馬鹿でデブで、非常に頭の悪いソーリー大臣を、小石だらけのゴツゴツした地面に正座させ、喋ると約束した内容につき問い掛けた。
もちろん最初はオドオドしながら、本当に答えて良いものなのかと戸惑っていた様子なのだが、小遣いを要求するユリナとサリナをどうにか振り払ったエリナパパが前に出、脅迫するとすぐに応じる構えを見せた、なんというヘタレであろうか……
「……このロストテクノロジーと呼ばれるものは……都市である、大昔の」
「むっ、都市だと? 貴様、この大都市国家そのものがロストテクノロジーであるというのか? 私にはそうは見えない……まぁ人族にしては発展していると思うが、低級すぎるのも事実だ、私が自ら建築した我が家とは大違いだぞ」
「なぁユリナ、エリナパパの家、というかエリナの実家ってどんな感じなんだ? 凄いハイテクなのか?」
「ええ、そこら中にボタンがあって、うっかり押すと飛んだり跳ねたり忙しいんですの、あと水陸両用だし、屋根の上にやかんを置いてお湯を沸かしたり出来ますわ」
「住みたくねぇよそんな家……」
エリナの実家がとんでもないことが徐々に明るみになってきた、そんな感じなのだが……それは良いとして、とにかくそのとんでもない実家の元凶であるエリナパパ、それが言っていることは正しい。
この大都市国家の街並みは、この世界の、それも人族の都市に限定して言えば凄まじい発展ぶり、魔導に頼ってはいても、それから馬鹿共のせいで民衆がブラック労働に従事させられているにしても、比較的ハイテクな利便性の高い暮らしぶりをしているというのは事実。
だがそれを魔族が持っているような、魔法やその他の力をふんだんに使った、例えば転移装置が普通にあったり、わけのわからないデバイスで他者と連絡を取ったりなど、そこまでのことができている様子はない。
ちなみに欧鱒だのメタルオオウナギだのは何だか知らない、きっと奴等はローテクだ、ハイテクのように見えなくもないが、そこはストーリー上気にしたら負けである。
で、そうなるとこのソーリーの言う都市というのは……もしかするとここではない、また別の場所のことを指しているのではなかろうか?
いや、しかしそんな古のハイテク都市、こんな小さな島国で『再起動』したのであれば、それこそ大騒ぎとなったり、そもそも英雄である紋々太郎が派遣されていないわけがない。
もちろんそれが最近のことであれば、西方新大陸系犯罪組織の侵攻によって、紋々太郎もそれどころではなかったのかも知れないが、そうではなく、もっと早くにそれが、その事案が始まっていたのだからその可能性はなさそうだ……とりあえずダイレクトに聞いてみるのが早そうだな……
「おいソーリー!」
「はいソーリー! ま、まだ何か聞きたいことがあるのか? 我は政治活動で忙しいんだ、早く帰って今月分の賄賂を取りまとめて、少ない奴にガンガン請求を掛けないと」
「うるせぇこの汚職政治屋めが、どうせ死ぬんだからもう金なんぞ要らないだろうに」
「え? はっ? 我を本当に殺すつもりなのか? 身代金要求とかじゃなくて? 何言ってんのお前馬鹿なの?」
「馬鹿はお前だ、もうお前には何の価値もない、単なる犯罪者で死刑囚だ、とにかく死ぬ前にそのロストテクノロジー……いやテクノロジー満載である古の都市の場所を吐け、痛め付けられたくなかったらな」
「ぐぬぬぬぬっ! 貴様、どこの誰だか知らんが我を犯罪者呼ばわりなど……許さぬぞっ! そしてロストテクノロジーについても絶対に教えんっ!」
「はい、じゃあこの場でボコりまーっす、マリエル、槍の穂先でこの馬鹿の足の小指を突け」
「えっと、臭そうなんで……そこに落ちているアイスピックを使っても?」
「何でも構わないから……ておいっ、この野郎逃げてんじゃねぇぞっ!」
話の中で何が覚醒したのか、再び強情になってしまったソーリー大臣、それに対してもう一度ダメージを与え、また弱気な状態、いやむしろこちら側の要求に何でも答える、完全にビビり切った状態へと移行させたい。
そう思ってマリエルに拷問の準備をさせていたのだが、その辺に落ちているアイテムのひとつであったアイスピックのようなもの、それを拾いに行っている間に、ソーリーの野郎はダッとそこから逃げ出したのである。
先程まではそれを取り囲んでいた仲間達も、今は『情報が出始めてから話を聞こう』というノリであって、すぐに捕まえることが可能な場所位には居ない。
精霊様でさえも、まさかあの状態から悪あがきをするなどとは思っていなかったようで、その諦めの悪さに驚き呆れ、全く動けないでいる。
そして遠くから攻撃して足を止めさせるというのは不可能だ、脆弱すぎて、おそらく魔法が僅かに触れただけでも、風船に針でも刺したかの如く弾け飛んでしまうはずだ。
そうなってしまえばもう情報は得られない、ロストテクノロジーをふんだんに使った古の都市は、その瞬間に歴史の闇の中へと戻って行くのである……と、どういうわけか立ち止まったソーリー、振り返ってこちらを見つつ、なぜか不気味な笑顔を作って笑い声を上げる……
「ヒャーッハッハッハッ! もうどうにでもなれっ! ロストテクノロジーの鍵を、この金の鍵とプラチナの鍵を使って、古の超絶ハイテク都市を復活させてやるっ!」
「なにぃぃぃっ⁉ 金の鍵と銀の鍵じゃなくて、金の鍵とプラチナの鍵だったのかぁぁぁっ!」
「主殿、そこではない、絶叫するほどのことではないぞその勘違いは」
「む、そうかそうか、で、お前マジでアホだろ、脳みその代わりにウ〇コでも詰まってんじゃねぇのか? 鍵だけあっても、鍵穴があって、その先に続く何かがあって、それで初めて機能するものなんだ、分かるか馬鹿?」
「そうだな、この場所にはどう見ても、そのハイテク都市? とやらへ続く入り口がない、魔導隠蔽されていたとしても、私が開発したこの魔導隠蔽キャンセラーによって……(どうのこうの)……」
「ふふんっ、鍵穴など必要ないわ、実はこれ、上のこの部分がキーレスになっておりまして、ここをちょっと、こんな感じでポチっと」
「キーレスだと? まさか、私が魔導で創り出そうと四苦八苦したものの、結局周囲にある他の無関係なものまで動作してしまうなどして失敗した……そのキーレスだというのかっ?」
「あ、そういえばこの世界、『魔導キーレス』ってないよな、いっつも仰々しい扉に鍵突っ込んだり、鍵じゃなくてもパスワードとかだもんな……」
金の鍵とプラチナの鍵、その上の部分にさりげなく付いたボタンのようなものを、全く同時にポチッと押下するソーリー大臣。
しかし言われてみればそうだ、この世界には魔法があり、便利なモノはかなりの割合で『魔導○○』として魔族が開発しているのだが、馬車にせよ何にせよ、キーレスで開くことがない。
それは魔法には『そこで放たれた魔法固有の周波数』という概念がなく、全て属人になっているのだ。
つまり、同じ人間が使えば常に全く同じ、そして違う人間が違えばまた違うが、その人間の中ではずっと同じ、そういう感じなのである。
となると、いくつかの馬車を有しているような貴族が、自らの魔力を込めて作動させるタイプのキーレスを使用したとしたら……その瞬間、所有する馬車の扉が全てオープンになってしまうという、何とも不用心な結果となるのだ。
もちろん扉を開くだけのことではない、それ以外の魔導何とやらについても、そのキーレスから放たれた魔力によって誤作動を起こしたり、破損したり爆発したりということにもなりかねない。
よって、俺達のように一度につきひとつふたつであればそういったものを使っていても問題はないが、この世界においては、端末ひとつで家中の、大量にある魔導装置をコントロールすることなど夢のまた夢なのである……
で、その夢のまた夢であるはずの『キーレス』なのだが、どういうわけかロストテクノロジーの鍵を持つソーリー大臣は、その鍵がそれであるということを主張しているのだ。
通常であれば気でも狂ったのかと笑い飛ばし、バールのようなもので頭部を殴打して殺害してやるところなのだが、状況が状況なだけに、その様子を固唾を飲んで見守るしかない。
そしてソーリーがその手に持った、既にキーレスを作動させたふたつの鍵を天に掲げ、気持ち悪い顔と体型を前面に押し出す感じのキメポーズを取った直後、ゴゴゴゴッという音がどこからか……音ではなく振動、といった感じか……
「何だよこの地震みたいなのは、建物が崩れてしまうぞこんなもん」
「揺れているんじゃないわ、動いているのっ、ちょっと私、上から見て確認してみるっ」
「おう、頼んだ精霊様、で、おいオラァァァッ! 何やりやがったんだこのブタ野郎がぁぁぁっ!」
「ふんっ、口汚く罵っても無駄だっ、我も、そして貴様等もこれでおそらく終わり、古の都市の王が、この騒ぎ、そして自らが地上へ呼び出されることを許さないであろうからなっ!」
「古の都市の王? どういうことだっ!」
「貴様、どうして我が、この大都市国家で最も偉くなった我が、それでも『首相』を名乗っていた理由、それを考えたことはないのか? 馬鹿なのか? 余所者の田舎者なのか?」
「余所者どころか異世界人なんだがな……しかし首相が居て……王が、裏に隠れていたということだな……」
「その通り、そしてその王は絶対、人族の中ではトップであった我など、その王の傀儡に過ぎなかったのだっ、ギャハハハーッ!」
「いや何笑ってんだお前?」
「何が面白かったのか、それとも狂ってしまったのか……まぁ、元から狂っているようだな、しかしだ、私が追い求めていたロストテクノロジー、その全容が解明されそうなのは非常に良いことである。この頭の悪い脆弱な人族のファインプレーだ」
「その『古の都市の王』ってのがまともな奴だったらっすけどね……」
「うむ、そこは気掛かりなところではあるが……君達の力があれば簡単に滅ぼすことが出来るのではないか?」
「だといいっすけど……」
何やら俺達に期待している様子のエリナパパ、しかし俺はどうも乗り気しない、というか、どうせまたわけのわからない、おかしな野郎が出現するに違いないのだ。
で、その予想はともかく、上空へ偵察に行っていた精霊様が戻って来る、戻って来るのだが……目を輝かせているということは、また何か面白そうなものを発見したということである。
それが精霊様にとってのみ『面白いこと/もの』なのか、それとも一般の感覚でそう感じるものなのか、おそらく前者であり、これから俺達はその『面白いこと/もの』によって、面倒ごとに巻き込まれていくに違いない。
さて、結局何があったのか、それは精霊様が語るのを聞くしかあるまいな……
「おかえり、とんでもなく嬉しそうだな、何かいいモノでも発見したかのようだ」
「ええ、地面がパックリ開いて、地下から別の大都市がせり上がって来ているわよ」
「いや、意味がわからんのだが……」
「とにかく見に行けばわかるわっ、他の皆も、ほら早くっ!」
嬉しそうな精霊様に引っ張られるようにしてその場を離れる、仲間達も付いて来たようで、実質捕らえてある政治屋共、それからロストテクノロジーを起動した馬鹿は放置したままであるが。
で、果たしてその地下からせり上がって来るという大都市には、何が待ち構えているのであろうか……




