861 トリプルホール
「キェェェェェッ! チェストォォォッ!」
「危ねぇっ! そんなもん侍の技じゃねぇだろぉがっ! てか何でそんな細っそいサーベルなんだよ? もっとこう、あるだろ? 侍的な武器ってのがさ」
「ないな、拙者はこの武器を用いて敵のケツを突き、拙者と同じように痔瘻にさせる、痔瘻仲間を増やすことを是としているのだ、ゆえにこの細く、尖った剣以外に用いるものはない」
「信じられねぇ野郎だな、自分が痔瘻喰らったからって人まで……」
「何とでも言うが良い、ではもう一度参るっ! キェェェェェッ!」
「超危ねぇからお前っ!」
侍次郎、ではなく侍痔瘻、とんでもない主義主張を有する、侍の片隅にも置けない野郎が今ここに居る。
本来は自らの次郎、ではなく痔瘻を治癒させ、皆でハッピーなアレをアレするアレなはずだが、この男は他者を自分と同じ次元に引き摺り落とすつもりのようだ。
だがそんなことはさせない、痔瘻でない健康なケツ穴を持つ人々に恨みを抱き、侍にあるまじき行動に出たこの次郎、ではなく痔瘻は、この場で俺が葬り去ってやる。
しかしどうやってこの汚らしい奴を……そういえば痔の薬を塗ってから手も洗っていないと言ったな、それでは武器を奪って攻撃力を喪失させ、嬲り殺しにすることも出来ない。
きっとサーベルのようなその武器に触れた瞬間、俺の指先は何かやべぇ菌によって腐り、ボトッと落ちてしまうことであろう、間違いなくこのおっさんのケツ穴はそのぐらい不潔だ。
ではどうするべきか、可能であればこの馬鹿にさらなる絶望を与え、その中でゆっくりと死に追いやられる、その恐怖を味わって貰いたいところ。
となれば現状最もコイツを苦しめている痔瘻を、さらに強化、いや悪化……そうだな、『人を呪えば穴ふたつ』などと良く言うからな、痔瘻でない健康な人間を呪ったコイツには相応しい言葉である。
だが『穴ふたつ』とはいえ、俺の方に穴を空けられては困る、まぁケツ穴は塞がないとしても、ここでいう『穴』とは痔瘻のことであるから、そのサブの穴を俺に空けられるわけにはいかないのだ。
つまり、『穴ふたつ』の『穴』はどちらもこの堕ちた侍に空けてやるべきであり、現状では単なる侍痔瘻のところ、追加で穴を空けて『侍ダブル痔瘻』にしてやるのが、最も効率良くこの馬鹿を苦しめ、絶望の淵へ追いやり、そこから地獄へダイブさせることに資することであろう。
そうと決まれば作戦を開始しよう、まずこの部屋にあるものは一切触らない、この不潔馬鹿がいつ何時、どういうノリで、その汚い、ケツ穴に薬を塗りたくった手で触れているのかわかったものではないためだ。
いや、だからといってこんな野郎のケツ穴を増やすという大変薄汚い作業を、大切な聖棒をもって行うわけにはいかない、それこそ最悪の結果を招くであろう。
となると外へ出るか……いや、万が一にも俺の姿を見られることになれば、それで今回の作戦の全てが破綻してしまうではないか、それも最悪の結果その2と言える。
少なくともこの部屋の中で、誰にも気付かれぬよう、即ちこの侍痔瘻以外の何者からも姿を見られないうちに始末、さらに事故に見せかけることが必要となって来るのだ。
どこか、何か触れはしないが使えそうなものがないか、部屋の中を見渡す、なるべく尖ったものが良いな。
まずは机の角、椅子の背の角、ダメだ、鋭角さが全く足りていない、あんなモノでは単にカンチョーだけしてお終いである。
というか奴がカンチョーされて悶絶している姿など見たくはないな、あまりのキモさと不快さに目が腐ってしまいかねない。
まぁ、痔瘻の状態異常に陥っている分、通常よりもカンチョーの効果は高いのであろうが、それを差し引いてもなお、こんな野郎にその攻撃を喰らわせようとは思えない、というかその喰らった姿を想像さえしたくないのだ。
で、机や椅子だけでなく、同じように本棚の角も……というか場所が高すぎだ、机などよりは鋭角さを有しているものの、侍痔瘻に大ジャンプさせて、上手くその『狙うべき部分』にヒットさせるよう誘導しなくてはならない。
そんなことはきっとビリヤードの名手でもない限り不可能、似たような棒を持ってはいるが、俺の実力ではまだまだそれをやってのけることは出来ないのである。
まぁ、黙って探しているのもアレだし、ひとまず侍痔瘻と雑談でもしつつ、部屋の中を確認していくこととしよう……
「おい、お前は本当に侍なのか?」
「見てわからぬか、拙者は侍である」
「いや見た目はな、その剣以外は、しかし侍なのに、他人を『痔主』、しかも最悪の呪いである『状態異常:痔瘻』の状態に引き摺り下ろす、それが侍のやることなのか? おかしいとは思わないのか?」
「先程も申したではないか、何とでも言えと、拙者は拙者の思うがまま、やりたいこと、つまり他人を拙者と同じ状況に引き込むことだが、それをやっていくのみである、その信念は曲げん、侍だからな」
「歪んだ偽侍めが、お前如きゴミだゴミッ、そんなことをしていて恥ずかしいと思う気持ちがあるのなら、その場で切腹でもして死にやがれ、あ、でも事故死に見える感じじゃないと困るぞ、俺の存在がバレるといちいち厄介なことになるからな」
「……そうか、貴様は侵入者、ということはこの事実を誰かに告げてしまいさえすれば、何をしに入ったのかは知らんが、貴様はもう作戦を遂行することが出来なくなる……よしっ、窓を開けて大声で叫んでやろうではないかっ」
「ちょっ、てめっ、おいっ、卑怯だぞオラッ! それでも侍かっ?」
「ブワハハハッ! 卑怯だと? 良い響きである、卑怯こそ侍には相応しい、誉め言葉だぞそれはっ! では早速……」
「お前さ、侍の何たるかを……と、アレは使えそうだな……」
明らかに侍ではない、というかもう侍なのは服装だけとも取れる痔瘻馬鹿、卑劣にも俺の存在を周囲へ知らせようと、嬉しそうな顔で窓に向かって走り出した、その立ち去った場所に残ったのは……金の燭台だ。
それは貴族の家に置いてありそうな、金色に輝く三つ又の燭台、中央のものが長く、両サイドは少し短いタイプのもの。
もちろん日中なのでロウソクがセットされていたり、火が灯っていたりなどはしないのだが、その机の高さ、そこから延びた燭台の高さ、これはベストマッチといえよう。
しかしどうして侍の部屋がこんなにも洋風なのか、外から見た感じは完全に道場、いかにも侍のアジトといった感じであったのだが、今ここに居る状況ではそれを微塵も感じない。
いや、見かけ上はこの島国の出身者なのだが、肝心要の武器といい、この部屋の調度品といい、さらには侍らしからぬ態度といい……もしかしてコイツ、単に侍のコスプレをしているだけの馬鹿なのでは?
いや、今はそれを確かめているような暇ではない、早く動かねば、今この瞬間にも侍痔瘻のその汚い手が窓に掛かり、おそらく庭に置いてある何らかの装置に向けて声を発する瞬間が訪れてしまう。
狙いを絞っている時間的猶予はない、イチかバチか、上手くいくかはわからないが、とにかく痔瘻の行動を停止させるためにも、まずは攻撃を、壁に向かって……いや、衝撃波を用いて庭の装置を爆破するのがベストか……
「それっ! よぉ~し、拙者の声をこの公園全体に届ける究極のデバイス、それがすぐ目の前にあって……」
「やっぱその目的だったかっ! ってことはアレ、すげぇ魔力が詰まってんだな?」
「ん? それはまぁその通りであるが、これからここに居ること、侵入していることをエリア全体に広められ、拙者共の兵に囲まれ、嬲り殺しにされる貴様がそんなことを知っても……知っても?」
「オラァァァッ! この拳から放たれる衝撃波を喰らえぇぇぇっ!」
「なっ⁉ そんな遠くからパンチを……本当に衝撃波が……そっ、装置がっ!」
「その体勢、お前はもう終わりだ……」
史上最強の勇者様たる俺の拳から放たれたパンチ、それは凄まじい衝撃波を発生させ、そしてその衝撃波は窓から外へ、庭にあったわけのわからない魔導装置へと一直線に向かって行く。
それが隣を通過した際に、きっとこのままでは大切で、高価な備品であり、失うことによって自分の地位、どころか首と胴体の接続さえも危うくなってしまう侍痔瘻。
驚いて窓の外を見る、だけでなく身を乗り出して、可能な限り上半身を窓から外へ、装置へと近付けるかたちでその瞬間を見んとする。
腰が限界まで、くの字に曲がった姿勢、それを侍痔瘻が取った瞬間に、到達した俺発の衝撃波は魔導装置の中枢、相当な量の魔力が蓄えられていたのであろうコアを破壊してしまう。
溢れ出した膨大な魔力、当然風船の空気が抜けるようにはいかない、大爆発を起こし、俺の放った衝撃波を倍にしたような勢いの、まさに空気の壁が窓を襲ったのである。
「ぬっ、ぬわぁぁぁっ!」
「ふっ、そうやってぶっ飛ばされた先に何があると思う? そう、燭台だよ、三つ又に分かれた、金属製の燭台がお前のケツ穴を襲うのだっ!」
「なっ……はうっギョェェェェッ!」
「……決まったな、我ながらナイスコントロールであった」
「かぺっ……せ……拙者のケツ穴が……トリプルホールに……せめて最後に……普通にウ〇コしたかった……がはっ」
「いや最後の言葉それで良いのかよっ? おいっ、もしも~っし……死にやがった、ケツに燭台がブッ刺さって死ぬとは、哀れな野郎だ、侍ではないがな」
腰を曲げ切った体勢のまま、風を受けて窓から室内へ、というか先程目星を付けていた、三つ又の燭台の置かれた机に向かって飛ばされた侍痔瘻。
ジャストミート、その言葉がこんなにも似合う光景には未だかつて出会ったことがない、輪投げがバッチリ決まったときも、授業中にふざけて投げた消しゴムが、ちょうど板書きをしていた先生の頭にヒットしたときも、今回の素晴らしいミート感には遠く及ばない。
侍痔瘻の飛んで行った先、三つ又の燭台の中央、最も長いものはその中央のケツ穴に、そして左……なのか右なのかは知らないし知りたくもないのだが、それは侍痔瘻の痔瘻部分に突き刺さったのである。
そして最後の1本、残りのロウソクを立てる部分については、侍痔瘻の痔瘻ではなかった部分、つまりケツ穴周辺の健康な場所に突き刺さり、しかし金ゆえに柔らかく、途中で折れて内側に曲がったため……なんと貫通し、中央のケツ穴と接続されたではないか。
……というのが俺の推測だ、それと本人による『ケツ穴がトリプルホールになってしまった』という証言もあることから確実であろう、もっとも確認する必要はないし、たとえ金貨1万枚貰ったとしても、目視で確認することなどしたくはないのだが。
しかしこれで目撃者も居なくなったし、あの『巨大戦艦』が明らかにヤバいものだということを感じ取った者は消え去った、というかそれは元々居なかったのか……
で、あとはもう、流れに任せてもう目の前であるアレの完成、そしてお披露目の場でのとんでもない騒ぎを目の当たりにしてやるだけだ。
多少考える頭があれば、それが明らかにどうかしているモノだと気付くようなシロモノとなった今回の『すり替え設計図』に係る巨大戦艦を、犯罪組織の上層部連中が見たらどういう反応をするのか。
そして完成が早まり、大喜びで、しかも特別な褒章を受けられることを期待して、それを偉い連中に、自信満々で紹介していくあのデブ責任者の、その先の感情の変遷など実に見ものだ。
ということで早速セラと残りの2人に、それから仲間に引き入れた美少女監視員にもこのことを報告しよう。
紋々太郎については、船の件だけは近くで見て知っているはずだが、気になっていたであろう侍痔瘻の末路は教えてやる必要がある。
とまぁ、今日はもう面倒なので明日にしよう、このペースでそのままいけば船の完成も確実なはずだし、朝一番で様子も確認したいところだし、本日はセラと、それから遊びに来るであろう美少女監視員のみにこのことを伝えてやるとしよう……
※※※
その後、適当に公園作業場内の様子を見つつ、特に何もないということで帰還すると、部屋からはセラと、それから美少女監視員の気配が感じ取れた。
内側の声はまるで聞こえない、全く音が漏れない仕様となっているこのアパートのような寮のような建物だが、それはプライバシーに配慮したのではなく、単に脱走を防止する措置によって生じたオマケのようなもの。
つまり単に音が聞こえないだけであって、外から中の様子が全くわからないわけではないということ。
これは少し気を付けた方が良さそうだな、居ないとは思うが、この近辺を巡回する敵の中に感覚の鋭い奴が居れば、たちまちこの部屋の様子がおかしいということに勘付かれてしまう。
と、まぁそれについてはまた今度考えれば良いし、それを考える前に今回の作戦が完了してしまう可能性の方が高い。
ここは特に気にすることなく、普通に部屋に入って今日あったことを報告しておくべきところだな……
「うぃ~っただいま~っ」
「あ、おかえり勇者様」
「おっと、今日はやけに早いじゃねぇか、美少女監視員1号も」
「おじゃましております」
「それがね、何だか大きな事故があったみたいで、監視員が出払ってしまったのよ、だから帰って来たわ」
「良いのかよそれ……まぁ良いんだろうけど、で、事故って何?」
「それが、なんとあの『侍次郎』が死亡したらしいんです、庭に置いてあった『魔導装置』が、何なのかわからない力で破損、爆発してしまって、その影響を受けて……という感じだそうで、あの侍次郎が死ぬほどの爆発です、本当に恐ろしいことで……」
なんと、早くも次郎、ではなく痔瘻の死についての情報が伝達しているようだ、あの場では誰も様子を見には来ていなかったのだが、きっと俺がフラフラしている間に調査が入ったのであろう。
まぁ、あの『魔導装置』がやはり外部や内部の別の場所と連絡を取るためのものであったとしたら、それが大爆発を起こした時点で誰かが気付くのは確実。
もしあの部屋が汚い、ケツ穴に薬を塗った後に手を洗っていない馬鹿が使用しているものだと知らず、痔瘻の殺害後に普通に捜索をしていたらどうなったであろうか。
きっととんでもない汚れによって病気になってしまうだけでなく、その状態で倒れたところに敵の集団が……という最悪の事態に陥っていたに違いない。
痔瘻の奴が手を洗っていない旨、最初に通告してくれたことには感謝しておくべきだな。
もっとも奴のような最初からゴミが存在していなければ、生まれてこなければなおGOODであったのだが。
それは良いとして、セラはともかくこの美少女監視員、強者だと思っていた侍痔瘻の死に驚くこの子に、最強の俺様による奴の殺害について教えてやることとしよう……
「いや、痔瘻なら俺が殺った、魔導装置の爆発? ってのはあのちょっとデカいわけのわからんやつだな、それを俺が破壊して、爆風で吹っ飛んだ痔瘻の奴は……まぁ、ケツが大変なことになってしまったのだ」
「そっ、それって……もしかして……その……」
「ケツに金の燭台がブッ刺さって死んだんだよ、ケツ穴がトリプルになってな」
「やっぱり報告と同じ感じで……お尻にとんでもないモノが……金の燭台だったなんて……」
「相変わらずおかしな殺し方をするわね勇者様は、触れるのは汚いかもだけど、もっと普通に遠距離攻撃で殺せば良いのに」
「まぁそう言うなって、とにかく奴はそんなに強くも、賢くもなかったようだ、まぁ単なる痔瘻を患っただけの馬鹿だな、もう死んだけど」
「へぇ~っ、でもやっぱり本当に強いんですね、単に粋がっているだけの雑魚で、戦いの方はセラさんにやらせて、自分は家で酒浸りで、外に出ればパチンコばかりしているんじゃないかと思っていたんですが……」
「俺がどんなドクズだと思っていたんだお前は……まぁ、ともかくこれで船の完成を待つのみだ、きっと明日になるだろうが、実に楽しみなことだぜ」
明日の早い時間に船が完成してしまうとして、お披露目式をするとしたらどのタイミングになろうか。
きっと昼ぐらいだな、その頃には全ての作業員を中央に集め、生贄などにしていくに違いない。
となるとそれよりも少し早く、他の連中が集められ始めたタイミングで動く必要がありそうだな。
そうしないと最も面白い瞬間に立ち会うことが出来ない、どころかかなりの犠牲者が出てしまうことになりかねないのだ。
その件につきセラと話を進めたところ、どうせセラは朝早くから『社員』としての『強制労働』に駆り出されるわけだし、協力してくれた美少女監視員についても、同じく明日は朝早くから『上位者』としての『仕事』であるという。
そのことからも、俺はセラと同時に部屋を出て事の起るべき現場へといっているのが良いという結論に達したのである。
もちろん寒いし面倒臭い、岩の角に足の小指をぶつけて消滅し、死亡したことにする役割を、俺が引き受けてしまったのは大いなるミス……でもないか、おそらく俺ではここまでの過酷な労働、つまり『社員』としての身分に耐えられず、暴れて作戦を破綻させていたはずだ……
「じゃあそういうことで、明日は絶対に何か、というかこの作戦のフィナーレを迎えるべき事象が起こる日だから、そのつもりで動いていてくれよな」
「わかったわ、それと、監視員ちゃんはその後どうするわけ? 一応は敵の、犯罪組織の一員で、大量殺戮の犯人なのよ」
「まぁ、それはおいおい決めていけば良いさ、もちろんPOLICEであるフォン警部補には何らかの説明をしないと、間違えて逮捕されたり、最悪そのまま西方新大陸に送り返されて牢屋に入れられかねないからな」
「え~っ、牢屋も処刑もイヤですから……」
「大丈夫だ、そうならないように取り計らうから、この勇者様に任せておけ」
「イマイチ信用なりませんねこの方は」
「・・・・・・・・・・」
ということで作戦は終盤となった、あとは明日勃発するトンデモ事件に際して、完全にこちらの有利に事が運ぶよう取り計らっていくだけだ……




