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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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845 ジャングルの成り立ちは

「こっちよっ、こっちこっち!」


「おう、ちょっと心なしか空気が澄んできたような……こらリリィ、暴れるんじゃないっ!」


「ふへーっ! こっちにはお肉がっ!」


「それは俺様の二の腕だっ! 食べるんじゃないぞっ!」


「ププッ、超不味そうじゃないですかコレ」


「・・・・・・・・・・」



 ここで美味そうだと言われれば真剣に恐怖するし、逆に不味そうだと言われると少しイラッとする。

 今回は後者であったのだが、とりあえずイラッとしつつも、安全そうな場所である丘の上、人工的な施設を目指した。


 で、到着したのは何となくテントのような、それにしては巨大な、さらにビニールハウスのような建造物。

 もちろん異世界なのでリアルビニールハウスではなく、『魔導温室』といった感じなのだが、とにかく中はジメッとしていて生温かい。


 外は真冬なのだが、日差しはそのままに風がないというだけでこれほどまでに気温が高まるのもなのか。

 もう王都に帰ったら、寒い季節は屋敷を出て、庭にこういう感じのビニールハウスを建てて暮らそう。


 などとHOTな未来に夢を馳せていたところ、徐々に何かの影響が抜けてきたらしいリリィが、だらんと力を抜いて……寝てしまったではないか。


 当然影響下にあったカレンもマーサも、そして英雄パーティーからはわんころもちも、同じようにして脱力し、その場に座り込んでしまった。



「……うむ、もう特に問題はないようだね、ここでしばらく寝かせておけば大丈夫であろう」


「ええ、じゃあシートを敷いてそこに並べてっと……地面も温かいからそのままで良いっすよね?」


「……だろうね、寝ている間、誰かが横に付いてやって、残りのメンバーを一部割いて外の調査に充てようか」



 紋々太郎の提案により、比較的直接戦闘に向いたメンバーから1人を選出……どうやら俺になってしまうようだ……で、魔法攻撃が可能な、それでいて火事を起こす心配のないセラ、さらに万が一のため、もしトゲトゲの植物で怪我をしてしまったときのため、ルビアを仲間に加える。


 その3人で改めて外へ出るのだが、せっかく暖かい場所へ辿り着いたのにどうのこうのと文句を言う2人を、引っ叩いた後に無理矢理引き摺る必要があるらしく、迷うことなくそうしてやった。


 まずはビニールハウス的な建造物の外へ出て……と、丘の上であるこの場所は見晴らしが良いな、とりあえず周囲に何か、目立つ場所がないかを確認していこう……



「う~ん、凄いジャングルね、この比較的寒い感じと、暑そうな景色が全然マッチしないわ」


「だな、おそらく魔法の力か何かで植物が枯れないように維持しているとは思うんだが……見渡す限り同じジャングルの光景だな、これじゃ……」


「あっ、見て下さいご主人様、あそこに何か建物のような屋根がありますよ、ほら、周りに大きな鳥が沢山集まっています」


「どれどれ……本当だな、ちょっと遠すぎて良く見えないが、低くはあれどかなり広い施設だぞ」


「周りの鳥もあそこを守備している? 感じなのかしら、もしかしたら親玉が居るのかも……結構遠いけど」



 とはいえ他に施設のようなものは見当たらない、もしこのジャングルに『主』がいるとしたら、或いは生き残った人間が居るとしたら、間違いなくその唯一見えている人工物を拠点としているはず。


 で、ここからだとかなりの距離を歩くことになるのだが、先程のような目に見えない、植物を利用した毒系のトラップがそこかしこに存在しているのはもう確実、言うまでもないことだ。


 それを上手く回避したり、事前に解除したりして先へ進む必要があるのだが……まぁ、セラの魔法で『下草狩り』でもしつつ前進すれば比較的安全で、隠れたトラップのネタも発見し易くなることであろう。



「どうする勇者様、このまままっすぐ進む? それともそっちの、ほら、元々は道があったんじゃないかみたいな感じの方から行く?」


「そうだな……うむ、もしかしたら道の方は『このジャングルに残存している何者か』が未だに使用していて、トラップの類もないのかも知れない、ちょっと遠回りだがそっちへ行こう」


「ついでに道を綺麗にしてあげたら、案外感謝されるかもですし、私もそっちの方が歩き易くて良いです」



 その『残存者』に感謝されるのか、それとも余計なことをするなとキレられ、結果としてブチ殺すことになってしまうのか、それは今のところわからない。


 だが3人で進むには道らしき形跡のあるルートの方が良いということは確かであり、また、ずっと同じような景色となるジャングル内で迷子になってしまうようなこともない。


 ということで進み始めた、丘を降り、本格的にジャングルへと突入した俺達は、すぐにその道らしき形跡の入口へと辿り着いたのであった。


 地面からは草が生えまくり、所々に木の根が張り出し、とてもではないが『道』と呼べる状況にないその場所、だがジャングルの木々自体がないその場所の方が、周囲よりも足を取られ、転倒する可能性は若干低い……スタートから50m程度で、ルビアの奴は既に二度ほどコケてはいるが……



「う~ん、やっぱりこの道の跡、今は使われていない感じね」


「そうなのか? と、まぁこんなに草ボーボーじゃな、ここ最近は誰も歩いていないと言われればそれまでだ」


「それもあるけど、ほら見て、あそこでこっちを見て警戒している植物、あっちよあっち、あの蔓が凄い、でも枯れそうな奴」


「アレか……いや、植物に『見られている』とか『警戒されている』とか、実に不思議な感じなんだが……確かに微かな敵意は感じるな、雑魚すぎてもう用無しクラスだが、アイツがどうかしたのか?」


「あの植物ね、一応人間を主食にしているのよ、でも地面に根が張って移動出来ないから、ずっとあの場所で人か、それに近い弱っちい動物が来るのを待っているしかないのよね」


「なるほど、で、そのバケモノ植物が枯れる寸前だと、つまり得物が通らないから栄養失調に陥ってしまっていると、それはつまり人通りがまるでないと、そういう感じだな?」


「うん、まぁそんな感じ、それにあんなのが居た程度じゃこのルートを捨てたりしないで、普通に人数を集めて伐採するはず、人喰いでもそこまで強くはないのよああいうタイプは」



 その後も時折セラによる植物の種類、凶暴性などのレクチャーを受けつつ、そして時には力の差をわかっていないらしい雑魚からの襲撃を受けつつ、比較的安全にジャングルの中を進んで行く。


 どうしてセラは王都付近に存在しない、この俺達が今まで見てきたものと全く異なる植生のジャングルを構成している植物につき、ここまで詳しく知っているのかは疑問なのだが、おそらくは趣味で調べている魔物やその類の生物に対する知識の一環なのであろう。


 いつもはそこそこ無駄で、冒険に資するタイミングというのはなかなか少ない知識ではあるが、突然こういう場所に放り込まれた際には光る能力、そう評価して良さそうな感じだ。


 で、その豊富な知識で受ける紹介によって、遂に発見したのが先程の敵、何やら胞子のようなものを放ち、仲間のうちで比較的敏感な、動物系の能力をもつ者に影響を与えた植物である……まぁ、ドラゴンが動物と呼べるのかどうかはさておきだが……



「コイツよ、きっとコイツに違いないわっ、あの混乱させる系の……花粉だったのね」


「花粉……あの花粉か、確かに杉の木っぽいような気がするが、時期も時期だし、ここジャングルだし、これ、単なる木じゃねぇのか?」


「そんなことないわよ、珍しいタイプだけど人喰いなの、ほらこっち向いたっ」


「げぇっ、顔が付いて……ビビッてんのかこの野郎……」


『す……すみません、伐採しないで頂けると助かります、何でもしますし、木材も提供しますから』


「……なぁセラ、コイツホントに人を喰らうバケモノなのか? やけに腰が低いような気がするんだが」


「そのはずなんだけど、確か図鑑には凄く凶悪で、人間からクマから魔物から、得意の毒花粉効果で混乱させて、木の実が生っていると勘違いして食べに来たところを……みたいな?」


『へ、へぇ、それで間違いございません、さっきはどうもすみませんでした、てっきり久しぶりに人族が紛れ込んで来たと思って、ジャングル全体に花粉をばら撒いて、でも良く見たらドラゴンとか悪魔とか、ついでにさっき精霊らしき方もここを飛んで行って……』


「おう、俺達はその精霊の方を探しているんだがな、どっちへ行った? てかこのジャングル何なんだよ? 支配者は? 元々はどんな感じのものだったんだ? てか人族はどこへ行ったんだ?」


『あ、えっと、その……え~っと……』



 どうやらあまり賢くはないものの、それでも人語を解し、ついでにこちらの強さを推し量るだけの能力を有している様子の……『人喰い人面木』、そう呼ぶこととしよう。


 とにかくコイツがそこそこの情報源であるということは確か、少しばかり腰を据えて、主に精霊様の行方を中心に聞き出していくこととするべきだな。


 まずはルビアに持たせていたピクニックシートを地面に敷き、3人でその人面木の根元に座る。

 見上げてみるとかなり大きいな、全長は30m前後あるのではないかという大木、これで人喰いだというのだから恐ろしい。


 しかし俺達が襲われることはないようなので、ついでにここで軽食にもしておこうということが来ます。

 管理者であるミラから受け取ったなけなしの缶詰を開け、固いパンのようなものを齧りつつ、その人面のバケモノと話を始めた……



『えっと、まず精霊の方ですが……あの、向こうの方に昔人族が造った何かがあるようで、そこを目指していた感じでしたね』


「ほう、そのときの様子は?」


『何かつぶやいておられましたよ、確かヤバいヤバいと、とんでもないことになってしまったと……』


「全く精霊様ったら、『なってしまった』じゃなくて『してしまった』の間違いじゃないの」


「だな、罰として1週間は便所掃除をさせないとだ、しかし目的地はヒットだったな、まぁあの施設以外に目立つものはないし……で、今その施設はどうなっているんだ? 何かここのエリアボス的なのが居るとか、そういう話は聞かないか?」


『ええ、このジャングル全体を統べるボスの魔鳥、活動拠点になっているんじゃないかと思いますよ、私はここから動けないんでわかんないんですけど、とにかくこのジャングルの開祖です』


「なるほど、このジャングルはその魔鳥が拓いたってのか……」



 ここまででわかったことは精霊様の行き先、そしてエリアボス的な魔鳥の存在、さらに両者の居場所が一致しているのではなかろうかということ。


 しかしまだ『人族の行き先』という疑問が残っているな、まぁ、そんなヤバそうな魔鳥が支配するこのジャングルに、好き好んで居を構えようという人族が居るとは思えないのだが。


 もしかしたらあの10年程度前の銅貨の持ち主も、それからこの木のバケモノやその他の食人植物が喰らっていた人族達も、探検のためにここへ入り込んだというだけであって、実際にジャングル内に居住していたというわけではないのか?


 その辺りはまぁ……とりあえず聞き出してみることとしよう、別に答えられないような理由があるとは思えないし、答えたら、つまりこの場で『住民の人族を喰い殺していた』などと答えたら、俺達によって討伐されるかも知れないという発想には至っていないはずだ……



「で、最後にひとつ、お前等が喰らっていた人族はどこへ行ったんだ? そもそもここに、このジャングルに人が住んでいたのか?」


『ええ、住んでいましたとも、およそ10年前までは、一応あの魔鳥の配下の動物の一種という具合でここに居て、施設の建設何かはその連中が、で、あの……その、食物連鎖的に私共がそれを……いえ、ホントすみません』


「いや謝る必要はない、そいつらが雑魚だからお前等に喰われたんだ、どうせモブキャラだしな、まぁその代わり俺達に襲い掛かった馬鹿な植物は当然に殺したんだが……で、肝心の答えがまだだぞ、そいつらはどうなった?」


『連れ去られました、ここから遥か東、人族のみの大都市だという場所から来た、同じ人族の連中に』


「ほう、それはどうしてだ?」


『何だか知りませんが、こんな場所で植物のバケモノに喰われ、鳥ごときに従う生活は人権がどうのこうの出、意識の高い我々がどうのこうのと言っていたような……でも奴等、森は伐採するし罪のない植物にも毒を掛けて殺すし、挙句の果てに食べるわけでもない鳥を火魔法で……それを開祖たる魔鳥が出張でジャングルを離れている隙に……』


「出張って何だよマジで……」



 開祖が何の出張でこの地を離れていたのかは知らないが、とにかく帰還と同時にその事件を知って激怒。


 以降、侵入する全ての人族、どころか人型の生物をこのジャングルから排除すると宣言し、同時にかつて人族が用いていた、既にDEATHNAGOOONによって廃止された『鉄の道』を覆い尽くすようにして、ジャングルの領域を広げたのだという。


 もちろん魔鳥によるジャングルの拡大によって成った『鉄の道』の封鎖は、絶対に人族を寄せ付けないためであったのだが、既にそのような状況においてはもはや近付く者などなく、それ以降では俺達が最初の人族、またはそれに準ずる者の集団なのだそうな。


 これはなかなか厄介なことになってきたな、焼き鳥だのから揚げだの、そういうことを言っていられる状況でもないし、最悪その魔鳥だけでなく、この森の鳥の類が全て俺達を敵視、攻撃を仕掛けてくる存在である可能性も否めない。


 そしてその敵性の鳥達の拠点となっているのは、まさしく精霊様が向かい、それを罰するために追う俺達の向かう先、例の施設である確率は極めて高いといえる状況だ……



「う~む、このまま先へ進んだら確実に戦闘だぞ、敵の数的にも大規模なものになるかも知れない」


「でもご主人様、そういう敵なら、先に行っている精霊様が討伐してしまうんじゃ?」


「それもあり得るが、いや、ちょっとないと思うぞ、というか色々おかしい、精霊様が何も知らずに敵の本拠地へ向かったんだとしたらだ、既に到達して、襲撃を受けて戦闘に突入しているはず」


「それに精霊様ならもうとっくに終わっているわよね、なのに地響きも洪水も、それからエリア一帯の消滅とかも起こっていないし……やっぱ戦っていない、というか敵に遭遇していないのよ精霊様は」


「じゃあ、このまま今目指している施設に向かっても大丈夫なんじゃないですか? その魔鳥とかいう方、留守にしているとか……」


「可能性はあるな、また出張していたりして、しかも今度は強い部下とかも引き連れてだ、で、雑魚ばっかりだから先に行った精霊様も、俺達にも手が出せないでいると、そんな感じかな?」


「なるほど、なら進んでみましょ、そうすればわかるし、というかもし大規模戦闘になっても、音とかで仲間が気付いて援護に来てくれるわよ」


「おう、そういうことにしておこう、もう考えるのとか面倒だしな、じゃあ出発だっ!」


『うぇ~いっ!』



 精霊様が戦っていない、それはイコール敵が居ないということである、いくらお仕置きから逃れるために逃走し、姿を隠さなければならない立場とはいえ、あの女はそうそう大人しくしていられるものではないのだ。


 何者かに構わず敵意を向けられれば、きっと次の瞬間にはそれをブチ殺している、或いはじっくりゆっくり、時間をかけて痛め付け、そのまま長く苦しんで死亡するような状態で放置することであろう。


 実際、このジャングルへ入場した際に通過したゲート、もちろん実際は『鉄の道』に設置されていたものなのだが、そこの守衛であるガーゴイル像を1体、粉々にして先へ進んだという実績がある。


 で、その情報を元に進んだ俺達3人であるが……と、しばらく進んだところで視線、そして比較的大きい敵意の類を感じるではないか。


 しかしその敵意はスッと、飛ぶようにして消えていった、偵察か? 精霊様がここを通過した際にもその姿を確認したのであろうが、その際には殺したりしなかったのか?


 いや、もしかしたら攻撃の意志があったのかも知れないな、先程の人面木と同様、一度敵意を向けてはみた者の、こちらの圧倒的な力に臆し、手を出すのを止めただけの可能性がある。


 そしてそのまま仲間へと報告、凄まじい強敵が侵入しているゆえ、とっとと逃げ出した方が無難だと告げて……うむ、それは精霊様の通過時にもそうしているはずだな、もしかしたら全く違うのかも知れないぞ。


 で、しばらく歩くとまた敵らしき気配、こちらは飛び立ったりせず、ずっと俺達の方を監視しているようだ……



「……あっ、またあそこに何か居ますよ、鳥……ですねきっと」


「うむ、さっきからこっちを見ていやがる……見えたぞ、何か知らんが猛禽類みたいな奴だ、そして股間が凄いじゃないか」


「えっと、あ、アレは魔物、『モロダシタマブクロウ』ね、どういう生物かは言わせないでちょうだい」


「おう、まぁとんでもない輩であることは間違いないな……で、もうかなり近付いてきたけど逃げないぞ、一体どういうつもりなんだアイツは?」



 鳥の分際で大層ご立派な何とやらをお持ちの敵キャラらしき存在、モザイクの必要があるビジュアルだ。

 そしてその変態が、俺達、もちろん自分よりも圧倒的に強い敵が接近しているというのに動かないのである。


 これは何かの罠か、それともまずもって勝つことなど出来ないと、実は出張になど行っていなかったエリアボスたるその魔鳥とやらが、使者を派遣したとかそういうアレか。


 とにかく逃げないのであれば好都合だ、一度死なない程度に叩きのめして、情報を引き出した後に捌いてから揚げ……と、あんなモノを食べようとは思えないな、とにかく痛い目に遭わせてやろう……

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