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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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844 ジャングル

「おぉ~いっ、皆大丈夫か~っ……ん? 何だこの尻尾、カレンか、おいっ」


「むぎゅぅぅぅっ、引っ張らないで下さい、ちょっと挟まっちゃって」


「何に挟まってんだ? この柔らかい……ミラとジェシカのおっぱいに引っ掛かってんじゃねぇかっ!」



 間違いなく事故を起こして吹っ飛んだメタルオオウナギ、ジェットコースターのように回転しながら飛行したため、中の俺達はもうグッチャグチャの状態である。


 向かい合うようにして倒れたミラとジェシカ、その間に挟まれてしまったカレン、いつ掴んだのであろうか、俺の小脇にはリリィが抱えられており、下に足を付こうとバタバタしていた。


 それを降ろしてやると、何やら後ろの方で騒ぎが……英雄パーティーとフォン警部補、それにルビアが何かしているようだ。

 だが何をしているのかはともかく、その状況はあまり芳しいものとはいえない様子。


 一応周囲を見渡してみる……うむ、勇者パーティーは全員無事なようだし、その他のメンバーも後ろに集まっているので全部、とにかく誰かが居ないということはない。


 では後ろの集まりは一体何をしているのであろうか、ルビアが動いているということは怪我人の類なのだが……と、コイツであったか……



「……大変だよ勇者君、この元欧鱒の者がかなりの重傷でね、まぁ即死しなかっただけ良かったとは思うのだが」


「えっと、それでご主人様、慌てたせいで、ちょっと変な感じに治療してしまって……」


「変な感じ? どんな感じなのか説明してみろ」


「あの、発見時にはお腹を怪我していて、そこから色々と溢れてしまっていて、それを戻さずにそのまま……詳しくは見て下さい、はいどうぞ」


「これは……内臓が外付けハードディスクみたいになってんじゃねぇかぁぁぁっ! 何コレ生きてんの? すぐ死ぬの? しばらく生きるの? てかどうやったらこうなるんだよ?」


「……まぁ勇者君、しばらくは大丈夫だと思うが、これ以上拷問したら秒で終わってしまうかと思う、以降の尋問は慎重にせねば、ところでだが」


「ところでだが、どうしました?」


「まずはここがどこなのか、周囲に敵や、味方となり得る一般人が居ないのかを把握した方が良いようだ」


「あ、そうっすね、まぁこのおっさんは残念だが、またこういうのを捕まえる機会もあるでしょうし、もう放っておくべきっすね」


「は……薄情な……」


「あ、喋った、うるせぇ黙れこのボケナス矮小野郎、自分の内臓がどうなっているか把握出来るようになって良かったじゃねぇか、どうしてそんなに矮小なのか、そこから探っていくって手もアリだと思うぜ、それが上手くいったら論文でも読ませてくれ、お前が生きていればの話だがな、じゃあそういうことで」



 そのうちに死んでしまいそうな感じの矮小おじさん、念のためそれに別れを告げておき、ようやく全員が起き上がったらしい仲間達と共にメタルオオウナギの外へ出る。


 そこは相変わらず森の中、『鉄の道』は前後に続いている様子だが、凄まじい勢いで吹っ飛ばされた分、実際の事故現場に何があったのかは、もう遥か後ろであって確認することが出来ない。


 とにかくメタルオオウナギを『鉄の道』へ復帰させないと再出発など出来ないのだが……脱線し、横転しているこのデカブツを一体どのようにして元に戻せというのか。


 まぁ、それについてはまた考えるとして、今は周囲の探索をしておくべき時間である。

 今のところ敵のような反応はなく、ついでに言うと人里が存在しているとかそういう様子もない。


 とにかく何かを探そう、人の集落でなくとも、ゴリラやチンパンジー、オランウータンの群れがあれば、バナナを提供することによって、この事故からの復旧を手伝って貰えるかも知れないからな。


 先程までミラとジェシカの柔らかいソレにサンドされ、自らの貧相なソレと比較して、その格差について無意味な抗議をしていたカレンを黙らせ、周囲の様子を確認させてみる……



「……う~ん、うんっ」


「どうだ? 何か聞き取ったり、臭いを感じたりすることは出来たか? 可能であれば俺達の様子に気付いて、心配そうに窺ってくれている高等な生物の群れだと良いんだが」


「うん、そういうのは居ないみたいです、でも鳥が凄く多くて……そっちの方に集まっていますね、ほら、変な草が一杯生えている方です」


「変な草が? あ、あぁ……間違いなくあそこだな、進行方向にあったのか……てかあの辺りのアレってさ……」


「勇者様、ちょっとマップを見てみて、ほら、途中で一時的に停まるはずだった場所があの変な草塗れの……一応人工物みたいね、それからカレンちゃんが言っているのは……その変な植物の場所と一体化しちゃってるわね」


「おう、もはや広大なジャングルだな、鳥だらけっていうのも頷けるぜ」



 間違いなくメタルオオウナギの停車駅、というかどう考えても転移前の世界で度々、あっという間の勢いで通過していた、そして一度も何かが停まるのを見たことがなかった『掛〇』の駅にしか見えないのだが、ここは異世界なので全く別物である。


 で、その停車駅らしき場所を完全に覆ってしまっている謎のジャングル、元々はそこまで大きなものではなかったと思うのだが、放置されている間に巨大化し、この辺り一帯を制圧してしまったのであろうということは容易に想像出来ること。


 そして現状、そんなジャングルは俺達の冒険に関係してこないようにも思えるのだが、これからどこへ行くべきなのか、どうすべきなのかと考えても、もはやそこへ行ってみる以外の行動は思い付かない。


 もしかしたら中に原住民的な人々が住んでいるかも知れないし、鳥が大量に存在しているというのであれば、それこそブチ殺して食料にしてしまっても良いかと思う。


 他の仲間達もそう考えているようだし、今はとにかくそこへ移動……と、そういえば精霊様の姿がどこにも見えないではないか。


 行き先の安全確認もなしに無理矢理メタルオオウナギを再出発させ、こんな大事故を誘発した張本人のような気がするのだが……やはり逃げ出したとみて間違いないであろう。



「おうマーサ、重罪人の精霊様はどこへ行ったかわかるか?」


「ん? 精霊様ならつい今、あのジャングルの方へ飛んで行ったわよ、冷や汗が凄かったけど、何だったのかしらね?」


「そこは捕まえておかないとダメだろうよ、奴め、ほとぼりが冷めるまでジャングルに潜んで様子を窺おうと思っているな、そうはさせないぞ……」



 ということでひとまず移動、俺とセラ、ミラ、ジェシカの4人で『精霊様狩りセット』、即ち吸水性の高いスポンジや乾燥剤などを持って前を歩く。


 もちろん捕まえたらお仕置きだ、今回は少々キツめに処分してやらないと、次は調子に乗ってこの島国を吹き飛ばしてしまった、そして次は世界を消してしまったなど、どんどんやらかしがエスカレートしていきかねないのだ。


 で、その後ろではカレンとリリィ、それから何かをやらかさないか監督する意味も込めてフォン警部補が網を持ち、食べられそうな鳥をゲットする作戦に従事しようと試みている。


 それを後ろで見ている『鳥系』、ハーピーであるハピエーヌが青い顔をしているのだが、もしかしたら自分を捕まえるためのセットだと思っているのかも知れない、だとしたら頭が悪すぎだな。


 なお、メタルオオウナギの方はというと、ユリナが命じることによって動き、今は徐々に『鉄の道』の路線へ復帰するべく努めている。


 だがメタルとはいえベースがウナギゆえ、ヌルヌルとした動きで、まるで捌かれぬよう暴れるような感じで移動しているにすぎず、本当に走行可能な状態となるまではまだ時間が掛かりそうだ。


 おそらくはあと半日、場合によっては1日程度、ここでメタルオオウナギの復帰待ちということになりそうだな……もっとも、これから向かうジャングルから、何事もなく1日で帰還出来るかどうかは微妙なところであるが……



「それで、どこからあのジャングルに突入するよ? マーサ、精霊様の奴はどこから逃げ込んだんだ?」


「えっと、あの建物の中からヒュッて、一応中は確認していたみたいだし、安全なんじゃないかしら」


「そうか、精霊様は飛べるから……まぁ一応はメタルオオウナギの停車場所だしな、足場が良くて動き易いかも知れない、俺達もそこから入ることとしよう」


「……それで良いと思うよ、他の場所は何となく手が付け辛い感じだからね、もう普通の場所からいきなりジャングルな感じで、そこから入るよりは人工物を経由した方が気が楽だね」


「よしっ、じゃあそういう感じで行きましょうか、目指すは事故の主原因となった精霊様の捕縛と処罰、ついでに何か探る感じでっ!」


『うぇ~いっ!』



 そのまま『鉄の道』の上を歩き、本当に駅のホームのような場所へと上がった俺達……改札のような場所があるが改札ではない、壊れかけたガーゴイルのような置物の台座だ。


 そしてその台座が立ち並ぶ間を潜るとその先はジャングル、完全に違う世界の、冬だというのに常夏のような、そんな雰囲気の場所である。


 と、ここで並んだガーゴイル像が動き出したではないか、土埃やコケ、さらに自らの破片をパラパラと落としながら、明らかにこちらに対して攻撃を加える感じを醸し出してきた。


 まぁ、俺達はメタルオオウナギに『キセル乗車』しているようなもので、この場所を通過する権限を示すチケット、というか切符を有していない……おや、やはりこれは改札であったのか、不正をした者を始末してしまうタイプの。


 で、それぞれ目が光り、かなり強キャラ感を出しているそのガーゴイルが5体……のはずが4体で、ひとつは空っぽ、ではなく完全に破砕されたそれの台座。


 地面に散らばった破片を見る限り、間違いなく精霊様が殺ったことだな、ここで一度立ち止まり、ガーゴイルを一撃で粉々にしてそのまま立ち去ったのだ、故意である分ひき逃げよりも質が悪い。


 もちろん俺達もこれから同じことをしていくわけなのだが……これは正当防衛なので仕方がない、相手が明らかに強キャラ感を出して、そして敵意も剥き出しにしているのだ、これは破壊してしまっても差し支えないのである。


 そして、その今から粉々にされる運命のかわいそうなガーゴイル像が、目を赤く光らせながらこちらに語り掛けてくる……



『……お前達、金を払わずメタルオオウナギに乗車したようだな、よってこの場で殺す』


「請求とか一切しないでいきなり殺すのかよ、お前等ホントに馬鹿だな」


『そんなことを言われても、我等はそうすべきだと、製作者様から言い付けられているのでな』


「何だ、言われたことしか出来ないのか、そんなんじゃ永遠に出世なんぞ出来ないぞ、そこでずっとノーマルガーゴイルのままだ、給料も安いし、景気が悪くなったら真っ先にクビだ、それがイヤなら自分で考えて動くことだな」


『……具体的にどうしろと?』


「とりあえず普通に死ね、カレン、殺ってしまえっ!」


「はいっ、とりゃぁぁぁっ!」


『ギャァァァッ!』

『この連中! さっきの凶暴な精霊の……仲間かっ⁉』


「そうだが、だとしたらどうするんだ?」


『……どうぞお通り下さい』


「よろしい、でもお前とか何かムカつくから死ねっ!」


『ギョエェェェッ!』



 結局ガーゴイルは1体だけ残し、他は全て粉々に粉砕してしまったのだが、まぁもはや使われることのないここの守護をするにはそれで十分であろう。


 その残った1体も、常に日常を共にしていた仲間を破壊し尽くされ、話し相手が居なくなってしまったため、もういっそ自分も破壊して欲しいなどと情けないことを言っていたのだが、それでは面白くないので拒否しておいた。


 この俺様に一時的にでも反抗してしまったことに対する償いとして、誰も居ない、動くことさえ許されない状況で、そのまま後世の誰かが発掘してくれるまで待てと告げ、その場を立ち去ったのである。


 で、いよいよジャングルに突入したわけだが……もう明らかに植生が異なるではないか、このジャングル、何者かの領地や領域というよりは、元々観光用に誰かが、もちろん人族ないし魔族辺りが創り出した人工のもので、それが管理されなくなって肥大化したものであろうことは十分に理解出来る、出来るのだが……



「なぁミラ、これを、このジャングルを最後に管理していた連中はどこへ行ったんだろうな?」


「さぁ、でもつい最近、例えば西方新大陸系犯罪組織が入って来てから、とかじゃないのは間違いないですね、1年や2年でこんな状態になるなんて思えませんから」


「だよな、となるとDEATHNAGOOONが『鉄の道』を廃棄してすぐか、それとももっと前から人の手で管理されなくなって、その『廃線』が追い打ちを、みたいな感じでこうなったのか、どっちだろうな……」


「どうでしょうね、ところで勇者様、所々に食人植物が点在していますし、勇者様も狙われているみたいですけど、そうなるとやはり人間が居るんじゃないでしょうか?」


「だよな、野生動物なんかじゃ絶対に捕まらないような雑魚植物も多いし、で、俺が何だって?」


「極めて積極的なウツボカズラみたいなのに食べられそうになっていますよ、ほら後ろ」


「あ、ホントだ……ギョエェェェッ! ってあれ? 何じゃこりゃ?」



 わけのわからない食人植物に頭から喰われてしまったのだが、おかげさまでひとつ発見することが出来た。

 そのウツボカズラ的な敵の中に入っていたのは、どういうわけか比較的新しい銅貨、もちろん手を伸ばしてゲットしておく。


 そしてそのまま捕虫網、ではなく捕人網となっているその葉を引き裂き、ウツボカズラが植物らしからぬ悲鳴を上げるのなどもちろん意に介さず、普通に殺害して外へと脱出する。


 まぁ、コイツは本体というわけではなく、1本の植物のうちの数ある葉のひとつであるから、ここで痛い目を見た以上はもう俺達に襲い掛かろうとはしないであろうし、周囲の植物もそれを感じ取って大人しくなるはずだ。


 で、発見した銅貨なのだが……うむ、製造されたのは10年程度前か、思いの外古臭かったな。

 おそらくあの植物の消化液か何かで磨かれて綺麗になったのであろうが……いや、10年程度前でも、この場所の状況からして比較的新しいと言えるものではないか。



「おい、ちょっとコレを見てくれ、銅貨だよ、何でそんなことになっているのかは疑問だが、どの国も、というか人族も魔族も共通して使っている銅貨、しかも結構新しい、な?」


「本当ですね、とりあえず回収しておきましょう、その時代まではこの場所に人が居たという証拠ですし、何よりも銅貨1枚には銅貨1枚の価値がありますから」


「おうミラ、そっちの価値の方は発見者である俺が受領しても……いや、何でもない、貰ってくれて結構だ」



 一度ミラに手渡してしまった金銭を回収するのは極めて困難である、そのことはつい今、まるで貰った餌を回収されそうになった馬鹿犬のような顔でこちらを睨んだのを見るまでもなく、とっくの昔からわかっていたことである。


 で、かつての人間の存在を確認したと同時に、歩きながらマップを見ていたセラが何か、というかこのジャングルのような場所が何であるのかについての記載を発見したようだ。


 既に紋々太郎にはそれについて伝えられ、その伝えられた本人も『なるほど』という顔をしている。

 どうやら正体の方は判明した感じだな、元々が何のために造られた場所であるかということのみで、どうしてこうなったのかはまだ不明であろうが……



「見て勇者様、この、ここに書いてあるの、間違いなくこのジャングルのことよね、マップの場所的にも合致するわ」


「ほうほう、え~っと、植物と鳥の楽園があって、観光客がこぞって訪れる人気スポット……ほう、いろんな鳥が居るのはそのせいだな」


「ご主人様、どの鳥がから揚げに向いているのかは書いてないですか?」


「私、塩の焼き鳥が良いですっ!」


「ねぇ~っ、食べられる植物の方は~っ?」


「いやちょっと待てお前等、ほら、リリィが焼き鳥とか言うから、後ろでハピエーヌがドン引きしてんだろ、カレン、それを見て美味そうだとか思うな、紋々太郎さん、わんころもちがハピエーヌに齧り付こうとしていますよ、仲間割れですよっ!」



 植物や鳥から連想して、腹の減った、かつ自制心のイマイチなメンバーが混乱状態に陥ってしまったではないか。

 いや、それにしてもこれはやりすぎだな……何かやられているのか? ジャングルに潜む何者かによって……


 ここはサリナに、いや、これは術の類ではなく、きっと毒の胞子だの何だの、植物に由来する攻撃を受けているに違いない。


 その証拠にサリナが何かを感じ取っている気配もないし、やられた仲間の中で、どういうわけかリリィだけが……もう酔っ払いのようになってしまったではないか。



「ふへへーっ、ご主人様、見て下さいコレ! ナマコですよナマコ! でっかい!」


「ぬわぁぁぁっ! リリィ、それナマコじゃなくて超デカいイモムシじゃねぇかっ!」


「しかも肉食の凶暴な奴ですね、リリィちゃん、噛まれる前にどっかにポイッて……」


「いっただっきまーっす!」


『食べるんじゃねぇぇぇっ!』



 危うくとんでもないモノを食べさせてしまうところであった、しかし困ったな、混乱状態のリリィを抑え込むには、間違いなく精霊様のパワーが必要なのだが、その当人が現在捜索対象であると。


 そしてその精霊様を除けば最もパワーのあるマーサも混乱状態で、今はしゃがみ込んで不味そうな草を嬉しそうに摘んでいる状態、とてもではないが使えない。



「ほらっ、リリィちゃん、ちょっと大人しく……きゃっ……どうしましょう、どこかへ避難を」


「セラ、どこか良い場所は?」


「えっと、この付近のマップだと……この先、丘を上がった場所に建物がありそうだわ、そこへ行きましょっ!」



 ひとまず緊急で避難を始める、リリィは俺とミラ、ジェシカの3人で担いで行こう、とにかくこの混乱毒の地帯から逃れ、建物がありそうな場所を目指すのだ……

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