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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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842 貴重でした

「ぎぃえぇぇぇっ! とんでもねぇ汁が掛かっちまったぁぁぁっ!」


「ちょっとっ」、こっちに寄らないでよ、ね、お願いだからっ、そんなモノをブッカケされた手で私に触らないでっ!」


「ご主人様、汚いですよホントに」

「ベッチョベチョですよベッチョベチョ、汚ったな~いっ」


「いや汚ねぇの俺じゃねぇからぁぁぁっ! コイツだよコイツ! 汚ねぇのはこのわけのわからんおっさんだっ! だいたい何なんだよこのハゲはっ……っと、よく見ればうっすらとだがモヒカンらしき形跡が……それにこの眉毛、もしかしてこのおっさん、元麻呂なんじゃねぇのか? いやわからんけど」



 走るだけでなく、ミサイルを発射したり中身が狂っていたり、そんなおかしな魔導兵器の中、おそらくメインのコア的な部分なのだが、そこから出て来たのは何だか薄汚いおっさんであった。


 しかも全裸でおかしな溶液に浸かっていたらしく、その外殻を破壊した際に、漏れ出したその『おっさん漬け込み汁』を浴びてしまった俺だが……今のところは溶けたり、腐ったりはしないようだ。


 だがカレンとマーサには距離を取られ、リリィはこちらを指差し、鼻を抓んで爆笑しているではないか。

 こではとんでもない屈辱だ、よりにもよってこのお馬鹿の3人にそのようなことをされるとは。


 いや、そもそもを考えてみよう、まず俺がおかしな汁につきブッカケされたのは誰のせいであろうか……間違いなくこのおっさんだ、コイツがこんな汁に浸かっていさえしなければ、俺は今現在も乾燥した状態で、平然と次のタスクをこなしていたことであろう。


 それがこんな臭そうな、わけのわからない麻呂らしき野郎のせいで……いや待てよ、そもそもどうして俺がこんな場所に入り込んでまで、こんな未知どころの騒ぎではない物体との遭遇をしなくてはならなかったのか。


 それは大馬鹿マス野朗、『破綻者欧鱒』が無駄に燃料切れを起こしてこんな場所に停車しており、そこへ俺達の乗ったメタルオオウナギが追突してしまったためだ。


 つまり俺達がここへ来ざるを得なかった原因として、そのマス野朗の存在があり、問題の発端は間違いなく奴である。


 で、もしかするとだが、この目の前の殺したいほどに憎いおっさんが、その大馬鹿マス野朗そのもの、コイツがこの魔導兵器のコアの役割を果たしていたのではないか、そんな感じなのだが、果たして……



「おいおっさんっ! お前生きてんのか? 何者なんだよ?」


「我は……我は……麻呂で、麻呂は……麻呂は麻呂でおじゃるか?」


「知るかよボケ、こっちが聞いてんのに何聞き返してんだよ? あ、ちなみに麻呂だった形跡はあるぞ、お前の頭、モヒカン烏帽子が……毟り取られたって感じだな、つまりハゲです、ご愁傷様」


「麻呂は麻呂ではなく……麻呂は……麻呂は我なのか?」


「知るかよボケ、それとかさっきの質問を裏返しただけだかんね、お前もうホントに殺すよ? キモいし、てかこの汁って何? やべぇの? お前そのもののように不潔極まりないの?」


「ひっ……麻呂は、我は麻呂としての仕事に失敗して、全財産を失って、それから財産と人格が破綻して……そのせいで麻呂の麻呂を剥奪されて……ひぃぃぃっ! 我は麻呂で、麻呂ではなくて破綻者、破綻者欧鱒だったのだぁぁぁっ!」


「うるせぇ奴だな、で、もう殺して良いのか? お~いっ……人の話ぐらい聞けよな……」



 こちらが呼び掛けているのに全く意に介さず、1人、いや1匹で勝手に発狂する元麻呂、こと破綻者欧鱒……の中身であった変なおっさん。


 どうやらかつての麻呂であり、その麻呂としての何らかのミッションに失敗、紆余曲折あって欧鱒のコアとされてしまった、そこまはわかる。


 だがつい先程まで欧鱒として調子に乗っていた、その人格はどこへ消えてしまったというのであろうか。

 今この場にいるおっさんは明らかにショボい、中年の平社員のような風貌とその中見であり、イケイケでミサイルを発射していたあの欧鱒には似ても似つかないもの。


 これは明らかにおかしい、もしかするとこのおっさんの入っていた謎の液体、それはおっさんに対して何か特殊な術式を施し、『リアル性格破綻者』へと移行させるための何かであった、そのようなことはないのか。


 とにかく、これでこの自らが欧鱒であったと主張するおっさんは後程ブチ殺し処分とすることが確定したのだが、その前にひとつ、いやいくつも聞いておきたいことがある。


 まずひとつ、おっさんには自らが『欧鱒』として、あの機体に鱒の頭と尻尾を取り付け、変態そのものな態度で調子に乗っていた際の記憶があるのかという点についてなのだが……



「おい、お前、自分がこれまで何をしていたのか、記憶しているのか?」


「我は欧鱒であった、単にそれだけだ、もはや麻呂ではなく、全てが破綻した鉄のマス、それが我であり、欧鱒であったのだ」


「意味わかんねぇし答えになってねぇよ、で、記憶はあるのかないのか、欧鱒だった部分も、それ以前についてもだ」


「いや我? 普通にあるし、別にそういう記憶喪失キャラとかじゃないし、そういうのほら、カッコイイとかって幻想だから、わかる君? 馬鹿そうだから無理か」


「殺すぞお前、まぁ殺すんだが、それで、どうしてそんな所に突っ込まれて、欧鱒なんかやらされていたんだ? ミッション失敗につき? なのはわかるがな、もっと具体的に話せやこの馬鹿」


「仕方ない、話せば長くなるのだが……」


「いえ完結に頼む、お前の話を聞いて、お前を殺して、それから『鉄の道』を使えるようにするまでかなり時間が掛かりそうなんだ、ちょっと急いでいるんでな」


「よかろう、では馬鹿にもわかり易いよう簡潔に話して……え? 今殺すって言った?」



 余計なことに気付きやがる元麻呂にして元欧鱒のおっさん、俺様にこれだけのことをして、しかも現状でこの態度、まさか生き残ることが出来るとでも思っていたのか。


 いや、しかし長らく格納庫的な場所に置かれていたらしい欧鱒であるから、もちろんこのおっさんも同じく格納庫の中でボーっとしていたのだ。


 それは『鉄の道』など不要であるとして使用を中止したDEATHNAGOOONの馬鹿野郎があの都市の統治を始めてからであって、もちろんその前は、どのぐらいの期間なのかは不明だが、普通に稼動し、『鉄の道』の保守点検をしてていたと、そういうことである。


 そしてこんな凄い魔導兵器を創ることが出来るのはかなり昔のこと、この欧鱒やメタルオオウナギが既にロストテクノロジーであるということを考えると……


 うむ、つまりこの馬鹿そうなおっさん、実は現在においてかなりプレミアムな、『古の麻呂』であるかも知れないのだ。


 となれば当然、その古の都市の情報、図体だけで極めて頭の悪いDEATHNAGOOONが頂点に君臨し、全てを引っ掻き回してしまう前の、ごく進んだ文明を有していたころのあの都市の情報を、どの程度までとは言わないが詳しく知っている可能性がないとはいえない。


 危なかった、もうどうでも良さそうなのでその場でブチ殺してしまおうかとも思ったのだが、少し我慢しておいて正解であったな。


 と、ここでコイツを尋問しても、聞いているのは俺と、それからキモいキモいと遠巻きから眺めるマーサぐらいのものである。


 カレンとリリィは、特にリリィにおいてはもはやこのおっさんに対する興味を失いかけており、既に別の場所、他の意味不明な隙間などに、これまた意味不明なレバーやスイッチがないかについて捜索し始めている状況。


 つまり、ここで聞いたことを外の仲間に伝えたとしても、俺やマーサだけが聞き取った内容のみでは情報不足となり得るということだ。


 そして話を聞き終えたら殺してしまう予定のこのおっさんからは、その時点で何かを追加質問することが叶わないということまで考慮すれば……やはりここから引き出して仲間に紹介する他なさそうだな。


 というか俺もこの汚なさそうな汁、おそらく半永久的におっさんを生かしておくための培養液のようなものなのであろうが、それをブッカケされた状態で長く居たくはない。


 もし万が一おっさんが伝染したりなどがあれば大事であり、勇者を廃業して長期入院などということになる可能性もあるのだから。


 なお、もちろん回復魔法が存在するこの世界に一般的な病院などはなく、入院するのはそのようなものではなく寺院の類である。


 そこでお払いだの祈祷だの、それから解呪の義などを執り行うことによって、キモいおっさんの成分を体内からデトックスしてやるということなのだ。


 で、そんな話は別にどうでも良い、まずはこのおっさんを外へ連れ出すことが必要である。

 特にこれといって健康がどうのこうの、怪我が何とやらということもないし、そのまま付いて来るように命じてしまおう。



「おいっ、これから外に行って、それで俺の仲間達の前で色々と説明をして貰うこととした、お前に拒否権はない、だからサッサと付いて来い」


「なっ、なんとっ! 我を仲間に入れてくれるのかっ? 独りぼっちになってしまったこの我を、苦楽を共にする仲間に……」


「加えるわけねぇだろこのハゲッ! 今現時点でもうウチの主力メンバーがビビッてんだよお前にっ! ほら、こんなに気持ち悪がって、かわいそうだろう? こんなに可愛いのに、これは全てお前のせいだからな、お前を殺さないとこのマーサは安心して寝られないんだからなっ、なぁマーサ」


「そうよ、キモいし臭いし、もうイヤよこんな人、てかそのぐらいの間尾風呂に入っていないのかしら?」


「いや……そうか、仲間にはしてくれぬか、で、我が風呂に入っていない期間なのだが……500年から先は数えるのをやめた」


「ねぇコイツ汚いんだけど、早く殺してよこんなの、ホントは私が殺したいけど、さすがに触れないし近付くのもヤダし、それに恐いし……ねぇ早くっ」


「まぁ待てマーサ、こんなんでも一応は情報源だ、現有している利益はそれだけだが、だからといってその残ったものを絞り切らずにゴミ箱行きにはしないだろう? 歯磨き粉と一緒で、チューブの最後まで使い切ってから捨てるべきなんだよ、だから我慢してくれ」


「むぅぅっ……は~い」


「よしよし偉いぞ、じゃあおっさん、そういうことだ、俺の仲間が早くお前を殺して欲しいと言っているし、正直俺もお前を殺したい、だから早く残った『利益』の部分に付きこちらに提供して、それから搾りカスとしてこの世を去れ、わかったな?」


「・・・・・・・・・・」


「返事はっ……と、それは良いからサッサと付いて来いこのウスノロ馬鹿野郎がっ」



 ということで元欧鱒である元麻呂を引き連れ、その車体の外へと出て行く、他の仲間達に手を振り一旦集合して貰うこととしよう、このおっさんの話を、最後まで詳しく聞いておくのだ……



 ※※※



「イヤァァァッ! ちょっ、何なんでしょうかその変態はっ!?」


「どうしたマリエル、何をビックリしているんだ? あ、おっさんの後ろに麻呂の怨霊でも居たのか?」


「じゃなくてそのおっさんにして変質者の方ですよっ! どうしていきなり登場して、いきなり全裸なんですかっ?」


「いや最初から全裸だったからな、もうどうしようもないだろう、ちなみに俺、このおっさんに培養液とかブッカケされたけど平気だから」


「……ちょっ、近付いたら全力で攻撃しますからね、わかっていますね?」


「全く、ビビリすぎなんだよマリエルは……あ、ほらお前、サッサと降りて皆に自己紹介しろ」


「……へ、へぇ、わかりました」



 仲間にして貰うことが出来ない、そしてどうやら殺害されることが確定しているらしい、さらには久方ぶりの外の世界にて、出会った美女からいきなりの変態扱い。


 おっさんは意気消沈し、あの無意味にイケイケであった欧鱒の面影も、そのコアの部分からドロッと流れ出した際に見せたあの調子に乗った態度も、どちらも消え失せ、こころなしか小さくなったような気がする。


 いや、『何とやら』が非常にミニマムなのは元からか、このおっさん、本当に全身どこもかしこも漏れなく矮小で、実に恥ずかしい存在であるようだ。


 で、全員を集めたところ、精霊様がそのおっさんの『何とやら』を見て爆笑するという追加ダメージを与えることとなったのだが、これで一応話をさせる準備が整った……



「……それで勇者君、この『矮小おじさん』は何者なんだね一体?」


「実はですね、コイツがあの破綻者欧鱒の中身だったんですっ!」


『何だってーっ⁉』


「いや、皆そんなに驚くほどのことでも……あるんすかね?」


「……勇者君、このような技術、つまりこのメタルオオウナギや、そこで横転して静かになっている欧鱒など、そういったものを創り出す技術が遥か昔に失われている、そのことは何となくでも知っているね?」


「ええ、まぁこれまでの流れ的にも、それから現在の人族の文明レベルと、この比較的技術の進歩した魔族でも完成させられないであろう魔道兵器の類を比較すれば普通に……」


「それでご主人様、その凄い技術を持っていたであろう頃の人間、もちろん人族ですが、それはどうなったと思いますの?」


「もちろん死に絶えたさ、何らかの理由で技術承継に失敗してな、そうでなくてはロストテクノロジーなど生じ得ないし、今でも魔導ゴリゴリですんげぇ文明を築いていたんじゃないか?」


「そうだな主殿、人族の一部には大昔に凄いモノを持っている連中が居た、だが彼等は何らかの理由で消えた、もちろん何が原因かはわからないし、もしかしたらあの火山の噴火、魔族や何やらが誕生した事件が原因かもだし、そうでないかも知れない、だがその事実はあると認定して良いだろう」


「良いだろうが、で、それがどうした? そのようなことはこれまでに何度も見てきただろう? 人族と魔族とに限らず、『え? この古の〇〇、超ヤバくね? ハイテクすぎんじゃん』とかそういうのだ……でもそんなのいつもスルーして、そういうものなんだと受け入れて先へ進んできただろうに、今回の何が特別なんだ?」


「……勇者君、今回はその生き証人がここに居ることが特別なのだよ」


「なっ、何だってーっ⁉」



 とりあえず驚いてはみたのだが、なるほどそういうことであったか、これまでにはもういつから生きているのかわからない次元の精霊様であっても知らない、わけのわからない何かに遭遇しても、その詳細を探ることなく先へ、ということが多かった。


 もちろん3万年以上前のものであれば、その頃からこの世界を統治している女神の奴も知らない可能性が高いし、調べてもそのような『ちょっとしたもの』について何かの資料が残っている可能性は極めて低い。


 それゆえそのようなものにつき、『今回だけ使えれば良い』とか、『不思議なものだが古の凄い技術でどうこうなんだろうな……』とか思いつつ、特に気にすることなく過ごしてきたのだが、それが今回は違ったのだ。


 この目の前のおっさん、元麻呂で、元欧鱒で、現に矮小で、ついでに全裸の変態おじさん。

 まさかの事態であるが、ここにきてこの矮小おじさんの存在価値が爆上がりしてしまったではないか。


 これは例えるのなら『すげぇキモいけど極めて珍しい、学者共が追い求めていた新種かも知れない非常に価値のある虫けら』のようなものであろう。


 そんなものが部屋の中へ侵入して来たとしたら、普通の感覚であれば不快で、直ちにプチっとやってしまいたくなるのだが……実は、それが基調で価値のあるものであったことが『プチッ』の直前に判明したような感じである。


 まぁ、もちろんこのおっさんは希少な虫けらとは異なり、それ本体は特に標本などとするなど、利用価値の類は存在していない。


 つまり長らく尋問、及び拷問を加えた後には、完全に不要な、虫けらでいえば抜け殻として処分してしまうことが出来る点で、不快ではあるがブチ殺すことの敵わない希少な虫けらよりはマシであるといえよう。


 で、もちろん死んで貰う前には、キッチリシッカリ、手持ちの情報全てを吐き出して頂かなくてはならないのだが……俺が普通に殴ると死んでしまいそうなので手加減して……いや、触るのもイヤだし、ここは活躍の場が欲しいフォン警部補にでもやらせるべきだな。


 まずはこの変態のことが気持ち悪くて仕方ないマーサやマリエル、英雄パーティーからはわんころもちなどを遠ざけてやり、逆に興味津々であるカレンやリリィ、精霊様に、これまた英雄パーティーのハピエーヌなどもついでに離れさせる。



「あ、あの、我に何をしようというのだ、古の? もしかして我が欧鱒であった間に、そんなに長い時間が経って」


「うっせぇ黙れ、何かを聞かれて、それに答えるとき以外にその臭っせぇ口を開くんじゃねぇ、で、フォン警部補、拷問の方は頼んだぞ」


「おうわかった、変態の相手もPOLICEの仕事のうちだからな、おいテメェ! POLICEパァァァンチッ!」


「ブベェェェッ! なっ、何を……おぇぇぇっ!」


「むっ、今度は公共の場で嘔吐しやがったかっ、喰らえっ、POLICE踵落としっ!」


「ゴキョッ……あっ……あぁっ、あぁぁぁっ!」


「チッ、しぶとい野郎だぜ、ここまでやっても自白しないとはな」


「ちょいちょい、フォン警部補さん、一応何が聞きたいのか教えてあげた方が……」


「うむ、ではそうしようか、おいオラァァァッ! ネタは挙がってんだよボケェェェッ!」


「ぎょべぇぇぇっ! だ、だから何の……ネタが……鮨?」


「鮨じゃねぇよオラァァァッ! カツ丼喰って死ねやぁぁぁっ!」



 いい加減な拷問を始めたフォン警部補、その間に俺は汚れた服を着替え、ついでに風呂に入って消毒もしておかなくてはならないな。


 あの汁がブッカケされた当時近くに居た3人も一緒に洗っておこう、ついでに言うと、変な隙間に頭を突っ込んでいたカレンはより一層綺麗にしておこう。


 そう考えながらメタルオオウナギの内部に当然のように設置されていた風呂場へと向かう最中、ようやくフォン警部補が本題に入った、つまり古のことについて矮小おじさんから聞くフェーズに入る声が聞こえたのであった……

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