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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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839 赤信号

「ぐぬぬぬっ! やったっ、水面から顔が出たわよっ!」


「空気吸わせろ空気! そうすれば弱る……ってことはないよな、うん、メタルだもんな……」


「そう、メタルなんだけど……普通に自分から顔を出してこっちを見ているわね……喋るんじゃないかしらコレ?」


「そんな気がしなくもないな……おい、お前が『メタルオオウナギ』とやらか?」


『……そうだ、我こそがメタルオオウナギ、そして我はそのメタルオオウナギ族の中でも最新の、M800系と呼ばれるものだ、その我に何の用だ、この釣り人風情が』


「やっぱ喋りやがったか、しかも釣り人風情だと? ウナギ風情が偉そうに、てか何だよM800系って、マジで馬鹿なのか?」


『すみません、コイツ、何かムカつくんでチェンジして下さい、蒲焼きのタレあげますから』


「ざっけんじゃねぇぞこのボケェェェッ!」



 湖面から顔を出した巨大な、本当に巨大なウナギ、首からうえしか見えていないのだが、そのピカピカと銀色に輝く顔面の下には、おそらく17両編成のアイツと同程度のサイズを誇るボディーが隠れているはずだ。


 そしてもちろんそのボディーの方もピッカピカであるということは、先程綱引き状態で格闘していた状態での反射からも明らか……自分で考えて喋り、モノも喰らう、きっと相当に高級な魔導兵器の類だなこの『メタルオオウナギ』というやつは。


 いや、だが態度の方が最悪すぎて、とてもそんな高級なシロモノとは思えない、通常、こういう系の『凄いの』というのは、もっとメカメカした機械音声のような喋り方で、シッカリとした口調で話すものだ。


 それをこのポンコツ金属ウナギ野郎ときたら、釣られて早々に、いずれこの世界を治めることとなる異世界勇者様たるこの俺様に悪態を付くとは、創った馬鹿はまともな神経ではないな、絶対に処刑してやる……



『それで、役目を終え、湖の底で静かに暮らしていた我を釣り上げてどうしようというのだ?』


「何が『役目を終えて』だよ? 棄てられたんだよお前! 要らないからって! よっぽど使い道のないデカブツだたんだな、このハゲッ!」


『何じゃとワレェェェッ! おうコラやんのかボケ! 上等だよ掛かってこいやっ!』


「はぁぁぁっ? お前如き無生物が俺様に敵うとでも思ってんのかこのタコッ!」


『タコじゃないですウナギです~っ! そんなこともわからんのかこの低能チンパン野朗はっ!』


「んだとコラァァァッ!」


「もう、勇者様は何とでも喧嘩になるわね……」


「争いは同じレベルの者同士でしか起りませんの、きっとこのウナギの魔導兵器としての処理能力は……」


「ご主人様と同程度、そういうことになりますね、凄くイマイチです」



 何だか後ろからディスられているような気がしないこともないのだが、とにかくメタルオオウナギの奴、喧嘩腰で湖面から首を伸ばし、こちらへ顔を近付けてきやがった、リアルにデカいなコイツは。


 で、それによって湖面より出たボディーの部分をチラッと見てみる……どうやら『○○両編成』というわけではないらしい、普通に一本モノのメタルウナギだ。


 しかしそのボディーの所々には、それと同じ素材で出来た、しかし多少色が違い、そこにそれがあるのだとひと目でわかる扉が設置されているではないか。


 つまり乗り込むことが可能なのだ、まともに言うことを聞かせることさえ叶えば、それこそ『鉄の道』の上を超高速で移動する、非常に便利な移動手段となるであろう……



「とりあえず勇者様は下がって、ムカついて攻撃しちゃったら壊れちゃうし、そしたらせっかく見つけたのに台無しだわ」


「おう、じゃあ俺はちょっと見えない位置へ……おいっ、ガン飛ばしてんじゃねぇぞコラッ! ビビッてんのかっ?」


「だから挑発しないのっ、ほらほら……それで、あなたそんなメタリックなのに、この湖の底で何をしていたわけ?」


『我か、我はここに投入されて……たまに訪れる人間の船を襲って、それを喰らって生活していただけで、特にこれといってやっていたわけではないのだが』


「あぁそうなのね、というかメタリックなのに食事は案外普通なのね、どういう仕組みで消火しているのか知らないけど、ところで、私達と一緒に来る?」


『人族の魔法使いの娘よ、唐突過ぎるとは思わぬのか?』


「時短よ時短、私達は湖の底で仕事もしていないあんたと違って忙しいの、だから早く、『はい』か『いいえ』か『どちらでもない』か、好きなのを選んで答えてちょうだい」


『そんなに急いでいるというのに、どうして最後に曖昧な答えが混入しているというのだ……まぁ、とりあえずそれで、どちらでもないっ!』


「何言ってんのよあんたはっ! そんな優柔不断な感じで許されると思っているわけっ?」


『ちゃんと選択肢の中から答えたのにキレてんじゃねぇぇぇっ!』


「え、何か逆ギレされたんだけど、どうしたのかしら?」


「さぁ? そういう仕様なんじゃないか?」


『・・・・・・・・・・』



 わけのわからない移動系魔導兵器の分際で逆ギレとは、しかも俺の大切なセラに対してこの態度、もし必要とされる物品でなかったとしたら、この時点でもう既に廃棄処分が確定するレベルのゴミである。


 で、そんなゴミウナギなのだが、メタルだけあって、いや、メタルゆえかどうかは定かでないが、とにかく会話を通じて意思の疎通を図ることぐらいは可能であると、その機能は湖底に投棄されて、人間を喰らって動力源にしていた間も喪失しなかったということが判明した。


 さて、ここからは交渉なのだが、俺がいくと喧嘩になる、セラがいったらなぜか、理由もなく逆ギレされてしまった、では次、誰を派遣しようかということなのだが……イマイチ決まりそうもないな。


 賢い系のキャラとしては筆頭が精霊様なのだが、この女は間違いなく俺よりも口が悪く、そして手が早い、つまり乱暴なのだ。


 気が付いたときには、このメタルオオウナギが単なる鉄くずに、もう使用することが可能な状態まで復元することが一切出来ない姿となっていることであろう、それはあまり良いとは言えない。


 時点で賢さが高いとなると、ユリナにジェシカ、次いでミラなのだが……まぁアイリスも賢さは高いが、いざというときに戦えないのでパスとする。


 で、同じく賢さは高いが、そのアイリスの護衛として活躍することが期待されているエリナもパスで……あとは見た目から高級感が露になっており、いかにもな感じのマリエル……は馬鹿であるからやめておこう……



「はいじゃあ次、ユリナ選手、メタルオオウナギの説得に当たって下さい」


「え~っ、私ですの? 結構面倒臭そうな性格の魔導兵器ですの……」


「まぁそう言わずにほれほれ、あ、サリナもサポートに回ってくれて構わないぞ」


「わかりました、じゃあ姉様と2人で……クッ、ちょっと踏み台を……」



 背が低いサリナは船べりから顔が出ない、同じような身長である、というかより低身長なカレンや、もう少しは高いかというぐらいのリリィのように、はしたなく身を乗り出して足をブラブラさせながら外を見たり、或いは誰かによじ登ったりということはしないのが流儀らしい。


 で、まぁそこそこ顔が出ているユリナと、踏み台のせいで不自然に高くなってしまったサリナの2人で、もう一度メタルオオウナギとの交渉に当たる……



「ウナギさんウナギさん、ちょっと私の目を……ダメですね、生物ベースじゃないみたいです」


「それは困りましたの、ウナギさんウナギさん、私と契約すると良いことがありますのよ、本当ですわ、試しにちょっとこの契約書にサインをしてみて欲しいんですの」


『……なぜか悪魔に洗脳されそうになったかと思えば、今度は強引に契約を迫られているのだが……あ、新聞なら要らぬぞ、水中ゆえ、届いたものを開く前に溶けてしまうのでな』


「そうじゃなくて、ちょっと、しばらくの間だけで構わないので『鉄の道』に戻って欲しいんですわ、本当に使いたい用事があって、ウナギさんが居ないと困ってしまって……それでもダメですの?」


『う~む、では……いや、条件を提示しようではないか、それ呑んでくれるというのであれば、こちらも再び鉄の道を走ろうではないか、如何かね?』


「条件と……言ってみて下さいですの」


『……いやちょっと待て、まだその条件を何にするか考えていないのでな、僅かで構わぬゆえ時間を』



 こうして長考に入ってしまったメタルオオウナギ、極寒の水面をウロウロしながら何やら考え事をしているようだが、人造の移動系兵器であるというのなら、あっという間に演算して答えを出して欲しいものだ。


 で、そのまま数分待たされ、そろそろ近くにテーブルでも持って来てティータイムにでもしようかなどと話し合っていたところ、水の音と共に、メタルオオウナギの巨大な首がヌッと甲板の上へ現れた。


 どうやら条件が決まったようだが……果たして何を要求してくるのか、そしてなぜ俺やセラの方を睨むのか、ブチ殺されたいのであろうか……



『えっと、先程の悪魔よ、条件を伝えて良いか?』


「構いませんの、聞くだけ聞いてあげますわよ」


『え、お前等さっきからどうしてそんなに偉そうなの? 何? 偉いの?』


「偉いに決まっていますの、ほら、早く条件とやらを、それと、敬語を使うことですわよ」


『へ、へぇ……それで、見たところ火魔法使いと見た……お見受けしますんで、我のボディーの真ん中ぐらい、ちょっとドア取れかかってるんで溶接して欲しいなって』


「よろしいですわよ、ではそれをやってあげる代わりに、今日からあなたは私の下僕として過ごしなさいですの」


『えぇ……何か要求がエスカレートして……』


「どうしますの? 私の下僕となるか、それともこの場で物言わぬ鉄くずと成り果てるか……あ、ちなみに湖底へ逃げても無駄ですわよ、私、この湖ごとあなたを蒸発させられますの」


『ヒィィィッ! わ、わかった……じゃない、わかりましたでございますっ!』


「……だそうですわよご主人様、どうしますの?」


「・・・・・・・・・・」



 強引、これ以上の強引があるかという次元のムチャクチャな交渉をやってのけたユリナ、踏み台まで用意して、隣で参加するはずであったサリナは苦笑いしている。


 で、最初は普通の感じで依頼して、会話を重ねるごとにどんどん要求の内容をトンデモなものにしていくという手法は意外と使える……いや、これはこちらの力が圧倒している場合のみ有効といった感じだな。


 交渉というよりもむしろ脅迫に近いそのやり方では、対等な立場における交渉などできたものではないのだから。

 ただし、最終的には武力行使をチラつかせて脅すというのは、最凶……最強の勇者パーティーである俺達向きとは言えそうだ。


 で、そんな感じでユリナの配下キャラ、いやゴミのような下僕となることを約束してしまったメタルオオウナギ……いや待てよ、ユリナの下に入るというとは、その『ご主人様』であるこの俺様の下の下ということ。


 つまり本来であればご尊顔さえ拝見させて頂くことが出来かねる、もちろんそのお声を拝聴するなど言語道断のゴミ身分であり、先程の態度というのはそれはもう……


 よし、まずはその点についてアピールし、どちらの方が強く、偉く、尊いものであるのかについて判らせてやることとしよう。


 ということで船べりから顔を出し、ニヤニヤしながらメタルオオウナギの方を眺めてやる……



「やいコラ、お前、このユリナの下僕になったんだってな?」


『それがどうかしたのか? チンパンジーには無関係なこと、とくとくこの世から去ね』


「はぁぁぁっ!? 何偉そうにしてんだゴラァァァッ! 俺様はなっ、この、何というか、お前の使用者様のご主人様なんだぞっ! すっげぇ偉いんだぞっ! あぁんっ?」


『だからどうしたボケ、やかましいからどこかへ消えてなくなるが良い、さもないと我の高級な装置類に支障が出てしまう、特にその薄汚い顔を見ていると視界確保用の双眸窓にカビが生えてしまうからな』


「クソッ! いつかブチ殺して、いやブチ壊してやるかんなっ!」



 おかしい、俺の方が圧倒的に有利な立場にある、それは確定事項なのだが……どうしてこんなにイライラするのだ?


 そもそもこの世界の連中、主に敵やチョイ役の雑魚キャラについて、俺に対する態度のみがかなりアレであるような気がしなくもないのだが……いや、そんな気がしているのはずっとだ、これは『気がする』ではなく『そうである』に違いない。


 もしかするとだが、異世界人というだけで弱く見えるとか、いかに強大な力を持った天才勇者といえども、相手の目にはモブキャラのようにしか映っていないとか、そういう不可思議な現象によってそうなっているのかも知れないな。


 或いは可愛い女の子ばかりを仲間にしている、前例なき究極のモテモテ勇者様であるこの俺様に嫉妬して、あえてそういう態度を取るような輩が多い、その辺りか。


 で、そんな予測をしている間に、精霊様に抱えられて船から飛び立ったユリナが、メタルオオウナギの破損箇所を火魔法で溶接、修復してやっていた。


 これで出発することが出来る、まずはこのウナギ馬鹿野郎をメタル蒲焼きに……しても喰えはしないな。

 とにかく『鉄の道』の入口を目指して移動しよう、元居たあの都市へ、俺達は空路で、このウナギは陸路で戻るのだ。


 あとは向こう側、居残りを決め込んだ連中がどれだけ上手く事を進めているかだが……まぁ、話の流れ的にはもう、向こうでも『鉄の道』使用準備が整っている頃であろう……



 ※※※



「何じゃこりゃぁぁぁっ!?」


「完全に荒れ果ててしまっていますね、私とマーサちゃんの、王都のお屋敷のお部屋……というほどではないですが、とにかく汚いです」


「ホントだよ、しばらく使ってないとこうなってしまうんだな、てか誰だよ空き缶なんか捨てて、白骨化した誰かの死体と、それから……あっ、このチンピラがぁぁぁっ!」


「どうしてここがっ、ギャァァァッ!」



 都市へと戻り、すぐに案内された『鉄の道』の始まりの場所、完全にどこかの駅のようであり、何やら革新的なデザインの建物に覆われた2本のレール、まさしく『鉄の道』である。


 だがそこは荒れ果て、ゴミを捨てられ、不当に殺害され、金品を奪われたと思しき他殺体が転がり、お天道様の下を堂々と歩くことの出来ない馬鹿野郎の隠れ家とされてしまっていた。


 これでは出発に関して赤信号だな、路線の状況が芳しくないどころの騒ぎではない……というか長く続く『鉄の道』の先、リアルに赤く輝くのは、おそらくメタルオオウナギの魔力を吸い取り、強制的に停車させるためのシステムだ。


 つまり、この線路状況を改善しない限り、無理矢理出発したとしてもすぐそこで強制停車、そこからは先へ進めなくなってしまうということ。


 あの信号のようなものを『青』にしない限り、俺達はここから出発することが、島国の『首都』を目指すことが出来ないのだ。


 外で待機しているメタルオオウナギは……車庫のような場所があるのか、ひとまずそこへ入れておけば良いな、現状、まずはこちらの片付けが先に決まっているからな……



「とりあえず私はサリナと2人であのウナギを誘導してきますの」


「わかった、じゃあこっちは遠征スタッフを全部出して片付けだ、時折飛び出してくる野生のチンピラに気を付けるよう言っておかないとだな」


「ええ、じゃあ勇者様、そちらは私が」


「うむ、マリエルに頼んだ……と、他は?」


「勇者様、私とミラと、それからマーサちゃんとジェシカちゃんで、頑張ってゴミ掃除をして下さる皆さんに美味しいお茶を淹れておくわ」


「お、おうっ」


「私は凶ドスゑさんと、ちょっと情報共有してきますね」


「はいはい、いってらっしゃい」


「あっそんできま~っすっ!」


「どうぞどうぞ」


「ご主人様、リリィちゃんが心配なんで私も行きますね」


「うむ、わかったわかった……で、精霊様はとっくに逃げたと」



 リリィを追って走り去るカレンを眺めつつ、12本用意した箒と同じ数の塵取りを眺める、結局俺だけになってしまったではないかと。


 船の番をしているアイリスやエリナを巻き込むか? いや、これだけの数のスタッフが動いているのだ、俺1にんぐらい、どこかでサボっていたとしても問題は……



『ギャァァァッ! 野生の日陰者が現れたぁぁぁっ!』

『こっちもだっ! こいつらっ、相当に犯罪慣れしていやがるっ!』



 と、そうでもないようだ、戦闘力を有していない者が多い遠征スタッフらにとって、この廃棄された『鉄の道』周辺をねぐらにしている、西方新大陸系に追い出された『在来の犯罪者』の処理は荷が重い。


 ゆえに俺の役割は、そういう野生の連中が出現した場合に備えて、すぐにどの清掃中エリアへも飛ぶことが可能なように待機……と、なぜかユリナとサリナが戻って来たではないか。


 向こうでの作業、即ちメタルオオウナギの車庫への誘導が終わったのは明らかだが、この2人の性格上、心を入れ替えて以降も真面目に働こうなどと考えるはずもない。


 いや、あれは伝達事項がある雰囲気だな、手を振りながらいそいでこちらへ……急ぎすぎてサリナがコケてしまったようだ、『鉄の道』は色々と躓き易いだろうからな……



「えっさ、ほいさっ、サリナ、大丈夫ですの?」


「ええ何とか、で、早くご主人様にあの内容をっ」


「そうでしたのっ、ご主人様、総員退避させて下さいですの、ここをまとめて清掃するように依頼しましたので、モタモタしていると巻き込まれますのっ!」


「依頼したって、誰に?」


「車庫で見つけたんですの、『路線管理特殊車両型魔導兵器 破綻者欧鱒はたんしゃオーマス』だそうですわ」


「お前それまたとんでもねぇのに声掛けただろっ!?」



 名前からして『やべぇ奴』なのは明らかなのだが、とにかくもう呼んでしまったものは仕方がない。

 とりあえず総員退避を叫んでいると、ユリナ達が走って来た方角から、何やら凄まじい音が響いてきた……

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