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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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836 オオウナギを求めて

「なるほどそういうことなのね、というか何をしていたのあんた達は? サボっていて、しかも重要なアイテムが目の前にあるのに、全く気付かずスルーして、挙句の果てにそれが全損したなんて」


『すみませんでした……』


「すみませんでしたで済んだらPOLICEは要らないの、金銭で賠償なさい、この私に、直接よっ!」


「まぁまぁ、精霊様、主殿もセラ殿もそういうつもりでやったわけではないのだから」


「そうだぞ精霊様、俺は悪くないんだ、一切な、むしろ正しいことをしたような気さえしている、もうさ、『鉄の道』なんて諦めてさ、普通に空駆ける船で目的地を攻めようぜ」


「……何だか擁護して損したような気がするのだが?」



 適当に外へ運び出し、その後DEATHNAGOOONによって踏み潰されてしまった謎の装置、それこそが俺達の求めていた、凶ドスゑの力の供給源であって『鉄の道』の動力源でもある魔導装置であったのだ。


 そういえば装置自体に『ドス』が突き刺さっていたのであったな、完全に忘れていたが、それに関する情報は『茶会』において得ていたような気がしなくもない。


 まぁ、その当時俺は『桜の木』の役に徹していたわけであって、見聞きしたことをしっかり把握し、記憶しておくことが出来なかったのは仕方のないこと。


 宙に舞うビニール袋の役割を与えられていた精霊様は覚えていた? いや、きっとビニール袋には記憶能力があるのだ、そうに違いない。


 で、そんなくだらない主張をしてみるものの聞き入れられず、俺はセラと一緒に隅で正座させられ、凶ドスゑ中心のイベントが終了するのを待たされたのであった。



「いててっ、足が痺れてきたわ」


「我慢するんだセラ、これ以上精霊様を怒らせたら大事だぞ、きっと財布を丸ごと没収されてしまう」


「でも勇者様、処刑イベントのプログラムからすると……あと1時間はこのままな感じよ」


「マジかよちょっときちぃな、よし、トンズラしようぜ」


「良いけど、でもどうやって? さっきから向こうでカレンちゃんが監視しているわよ、ほら、干し肉を咥えているもの、きっと買収されたんだわ」


「クソッ、精霊様の奴め、本当に酷いことを考えやがるな、他人を買収するとかもう真っ当な考えの生物がすることじゃねぇぞ、だがこうなったら……」


「こうなったら?」


「あそこで暇そうにしているマーサを買収しよう」


「結局勇者様も買収するんじゃないの……」


「何を言っているんだセラは、精霊様のやったのは悪い買収、俺が今からしようとしているのはだな、正義に乗っ取った、清く正しく良い買収なんだよ、お~いマーサ、ちょっと良いか?」


「ん? どうしたのかしら? もしかして何かくれるの?」



 セラには俺のする買収の正当性がイマイチ理解出来ないらしいが、それは知能が低いゆえ仕方のないことである。

 で、暇人のマーサを釣ることにはアッサリと成功し、なぜかバッグの中に入っていた大根の葉っぱをくれてやった。


 そしてそれを報酬として、精霊様に命じられて俺とセラが逃げないようにとの見張りをしているカレンを、どこか遠い場所、もっと楽しく夢中になってしまいそうなものがある場所へと誘導するよう伝える。


 これで完璧だ、頭の悪いマーサは何の疑いもなく、俺の支持通り、期待通りに動いてくれるはず……はずであったのだが……



「ねぇねぇ精霊様、あのおかしな勇者が逃げ出そうとしているわよ、私を使って、大根の葉っぱ貰っちゃったけど」


「あら、しょうがないクズねぇ、マーサちゃん、サトウキビの欠片をあげるから、カレンちゃんと一緒に見張りに参加しなさい」


「あ、はーいっ、ラッキーッ!」


『・・・・・・・・・・』



 なんと、見張りが2倍に増えてしまったではないか、まさかマーサの奴があそこまで賢い行動に出るとは予想だにしなかった。


 きっと俺達に騙されて使われ、向こうで精霊様に使われているカレンと相殺になって……ということを期待していた俺が甘かったようだ、もう普通に逃げようがない状況である……


 しかし裏切ったマーサには後でキツめのお仕置きが必要だな、耳を掴んで振り回してやるか、それとも尻尾の毛を斬新な感じにカットしてやるか、悩むところではあるが。


 で、いよいよ足の感覚が無くなってきたかと思った頃に、ようやくこの場所でのイベントが幕を閉じたようだ。

 精霊様がやって来て、立ち上がって片付けをするようになどと言うが、もはや俺もセラも立ち上がることなど出来ようはずがない。



「ふぬぬぬっ、こ、これはプルプルすんぞっ」


「ご主人様、動きが面白いですよ、ちょんちょんっ」


「ぬぎぃぃぃっ! おいリリィ! そういうことをしていると後で恐いぞっ!」


「ひゃーっ、プルプルマンが怒ったーっ」


「クソッ、馬鹿にしやがって……って、ルビアも来ていたのか、凶ドスゑは……」


「ここに居りますどすえ、しかし情けない、その程度の正座で何たるプルプルどすえ? やっぱりクズはクズどすえ~っ」


「このぉぉぉっ、いや、しかし現状では反撃など出来なっ、おっとっと、あっ!」


「ぎゃいぃぃぃんっ! どすえぇぇぇっ!」


「あらっ、凶ドスゑが吹っ飛んで……起き上がらないわね」


「あっ、そういえばあの人、いつもと違って、勇者様を見かけても攻撃してこなかったような……」


「なぁ、もしかしてだけどさ、あの装置、ほれ、俺とセラの活躍によって破壊することに成功したのがあるじゃんか? それがなくなったせいで、凶ドスゑはこのエリアでは力を出せない、何も出来ない単なる雑魚なんじゃ……違うか?」



 そんな気がする、そういう感じで皆に問い掛けてみたのだが、正直言ってもうそのパターン意外に考えられない状況である。


 長らく正座させられていたせいで俺の足がプルプルし、小石に躓いて目の前で挑発行為に出ていた凶ドスゑにぶつかってしまったところ、吹っ飛んでその辺の建物の壁に刺さり、未だ起き上がることが出来ていないのだ。


 もちろん『吹っ飛ぶ』というだけであれば、これまでの戦闘でもそうしてきたように、実力的には俺達勇者パーティーの敵ではない次元の凶ドスゑであるから、それはもう普通のことである。


 だが前回と違って起き上がってこないこと、そして何よりも、俺を見てすぐに『ぶぶ漬け』を投げ付けてこないということが、やはり前回の、あのどうしようもなかった、まるで対処することが出来なかった凶ドスゑとは異なっているのだ。


 そしてそのことは、近付いていき、抱えるようにして凶ドスゑを壁から救出した紋々太郎にも伝わっている様子。


 現状で、紋々太郎の方が遥かに上回る戦闘力、これが本来の『地域限定、ご当地英雄』と、島国全体を管轄する『広域指定英雄』との差ということ。


 ハッと意識を取り戻した凶ドスゑも、今の状態のままでは目の前の紋々太郎に敵うことなどなく、すぐに討伐されてしまうであろうことを悟ったらしく、サッとみを退いてその場から離れんとする。


 だが、紋々太郎がそれを許すはずもない、腕をガシッと掴んだまま、凶ドスゑがどこにも行けないよう、そして更なる押さえ込みをかけるよう、自分の配下3人の所へと引き摺っていく……



「やめっ、やめるどすえぇぇぇっ! ね、ちょっと、話し合いとかで解決するどすえ、だってほら、このエリアから出たらまたこっちの方が強いかんじになるどすえっ!」


「……少し黙らないかね、新イヌマー、NEW新サルヤマー、NEW新キジマー、3人共、彼女を上手く拘束してくれないかね、我がこれ以上触れると、後々問題になりかねないからね」


『わかりましたーっ』

「あじゃじゃーっ、うぃ~っ」


「あぁぁぁっ! やめて、やめて欲しいどすえぇぇぇっ!」


「大丈夫です、あの、何というか集まっている愚民の方々には見えないようにしていますから、ね、大丈夫です」



 取り押さえつつもフォローしているのは英雄パーティー、腹黒のわんころもちである。

 凶ドスゑが敗北している情けない姿を、今後その支配下となる住民らには見せないよう配慮しているのだ。


 自分も他者を道具のように扱って、影に立った自分、そんな腹黒いことをしているなどとは誰も思わない自分のみに、全ての利益を誘導するというビジョンを描いていたわんころもちである。


 ここで凶ドスゑが、もちろんこの女については自らが目立ち、トップに立つつもりでいるという点において相違しているが、それでもこういう場合の『イメージ戦略』という大まかな点については類似しているのだ。


 そして凶ドスゑもその配慮されていることについて認識したのか、、急にジタバタと暴れるのを止め、3人が手を離すとその場にドシッと、しかし優雅な感じで座り込んだのであった……



「それで、このことが発覚してしまった以上、勝てるとは思えないどすえ、つまりそちらが要求を述べる番なんどすえ」


「要求って言ってもな……紋々太郎さん、どうします? これから先、この凶ドスゑの支配地域と顔を突き合わせていくのは、間違いなく紋々太郎さんの守っているこの島国の諸地域なわけであって……」


「……そうだね、となると……うむ、まずはその力の供給源たる魔導装置とやら、それの縮減と、それから他の地域との不可侵条約の締結、そのぐらいで手を打ってはくれないかね?」


「う~ん、まぁ、『ぶぶ漬け』による攻撃が完全に出来ないとなると、それはそれで困るどすえ、でも今の半分程度の力を持っていればおそらくはどんな敵にも対処可能どすえ」


「……うむ、もし対処不能な敵、例えば今回のような外部からの大規模侵攻だね。それに際してはこの島国の諸地域、もちろんここを含めた連合軍が協力して対応に当たる、そういう感じでいけば良いであろう」


「なるほど、それであればこちらの負担も減って、なかなか良い未来になるかも知れないどすえ」


「……そう思うのであれば、これを取引の内容としてくれるかね?」



 さすが紋々太郎は大人である、この場で要求することとして最もポピュラーなのが『パンツ見せて』であり、次点で、これは少し攻めすぎている感もあるが『おっぱい揉ませて』であるのは明らか。


 だがそんな場面において、まさかの地域間同盟のようなものを持ちかけるとは、というかパンツは見せて貰わなくて良いのか? おっぱいを揉ませて欲しいとは思わないのか? 実に不思議である。


 と、それはもう良いとして、とりあえずこれで凶ドスゑとは和解、以後、この地域が島国の他の地域の脅威となる可能性は少しばかり低くなったといえよう。


 あとは『鉄の道』を用いて東へ、おそらくは西方新大陸系犯罪者の最後にして最大の拠点であり、そして元々は島国最大の都市であったその場所を取り戻すのだ。


 紋々太郎と凶ドスゑの条約締結により、『軍縮』の一環として破棄される『凶ドスゑの魔力供給源兼鉄の道の動力源』、それは俺達がそのまま利用し、東へ向かうためのエネルギーとすることも確定している。


 なお、その魔導装置、俺とセラが運び出し、未だに向こうで焼けながらもだえ苦しんでいるDEATHNAGOOONの大馬鹿野郎が踏み潰してしまったものがひとつで、『鉄の道専用車両』たる『メタルオオウナギ』を3時間は稼働することが可能なのだという。


 つまり、俺たち全員で一度目的地へ向かい、そこから同じように戻るとしても、スピードを考えれば魔導装置ひとつで足りてしまうということ。


 これならエネルギー問題はバッチリだ、その先でどんな戦いが待ち受けているのかもわからない状態で、移動のために仲間の魔力を浪費するのはあまり芳しいとは言えなかったからな。


 で、そこまできたらもう、『鉄の道』の再稼働に向けて残すミッションはただひとつ。

 湖に投棄されているという『メタルオオウナギ』を回収、使える状態まで修繕してやるのだ。


 いや、修繕というか、メタルオオ『ウナギ』というぐらいなのでもしかしたら……生き物ではないがそれに近い、つまり人語を解するような知的な兵器である可能性も否めない。


 まぁ、もしかしたらそういうこともあるかも知れない、そのメタルオオウナギとやらは回収するのではなく、交渉したり脅迫したりして元の仕事に戻らせる、そういうことになるかも知れないということだ。


 その辺りは実際に現地へ行って、メタルオオウナギとコンタクトを取ってみないとわからないのだが……そもそも湖とやらはどこにあるというのか?


 俺の想像している、つまり転移前の世界のどこかの国と、この異世界における島国とが、かなり似通った、いやほぼ同じ構造であるとしたら、おそらくはそう遠くない場所であると思う。


 だが一応確認は大切だ、そして実際にそこへ移動するための計画、さらには凶ドスゑと色々やることで……と、タスクが多すぎて処理し切れそうもないな、これは作戦会議が必要そうだ……



「ということで紋々太郎さん、ここからどうするっすか? 全員でその湖とやらへ移動するか、それとも……」


「……うむ、我はこの地において、『鉄の道』の動力源となる魔導装置についてすべきことが多い、湖はかなり近いのだがね」


「やっぱり近いんすか、で、そしたら……やっぱり分離してそれぞれで仕事して、最後にまたここへ集合って感じですかね?」


「……そうなるね、勇者パーティーについては、空駆ける船を用いて湖へ、メタルオオウナギの回収へ行って貰いたい、我と英雄パーティーのメンバーはこの地の事後処理をする」


「それと勇者殿、俺はここに残って、新しく樹立される凶ドスゑ政権におけるPOLICEに、その役人としてのノウハウだの何だのを……と、まぁ簡単に言えば治安維持体制の確立を目指して訓練すべき連中に対して、その……」


「おう、難しい話はわからないから不要だぜ、じゃあとりあえず俺達は湖へ向かう、マップは……これで良いか、えっと湖の場所は……ここのようだな」


「あら、かなり大きい湖みたいね、このどこにそんなウナギが沈んでいるのかしら?」


「あ、それならここどすえ、ほらここ、橋が架かっている近くに、確か深い深い穴を掘ってその中に入れていたようどすえ」


「なるほど、ここが浚渫されているってことか、マップの感じからして周囲は浅そうだな……」



 凶ドスゑが指示した場所は、湖の中でも相当な南側、かなり長い橋が架かった場所のすぐ近くであった。

 ここがディープホール……というか浚渫され、この中に潜んでいるのがそのメタルオオウナギ、そこまでわかればもう迷うことなどない。


 あとはそのメタルオオウナギが知的な、生物的な何かであった場合に、喧嘩になって滅ぼしてしまい、使用することが困難な状況になってしまわないよう、それだけ気を付けるのみ。


 で、目的地までは、空駆ける船を用いれば半日も掛からないような距離、今夜はこのまま船で休んで、明日の朝早くに出発して現地入りすることとしよう。


 いや、もう少し出発を早めるか、もしかしてだが、メタルオオウナギの奴が魚類チックな行動様式の何者かだとしたら、それはもう朝マヅメの時間帯を狙わない手はないのだから……



「よっしゃ、じゃあ俺達はもう船へ引っ込むこととしようぜ、明日、というか深夜のうちに出発するつもりで、ちょっと早いけど寝るぞ」


「そうね、何だかちょっとお腹も減ったし、そういえば何も食べないで働かされていたのよね……」


「それは大変でした、あ、私はもうデザートだけで良いですから」

「あ、私もです~」


「おい、誰かルビアとアイリスを吊し上げろ、この舐め腐った2人の無様な姿を夕飯のオカズにしようぜ」


「よしきたっ! それそれそれそれっ!」


『ひぃぃぃっ……』



 精霊様によって縛り上げられてしまったルビアとアイリス、凶ドスゑ中心であった『茶会』において、比較的主張の弱いキャラとして参加を認められていたため、そこで高級な食材をふんだんに使った料理をたらふく喰らっていたのだ。


 俺達、つまり他のメンバーらは当然その間も働かされるなり、屈辱的な扱いを受けるなどしていたわけであって、この2人がどれだけ反省しようとも、罰を与えないことには釣り合いが取れないのである。


 ということで2人共船室内で、天井からぶら下がった状態でユラユラと揺れて頂き、その間に俺達は簡単な食事を済ませておく。


 そのまま寝るか、いや、風呂に入らなくてはなどと皆で相談した後、比較的早い時間には全てを終えて布団に潜り込んだのであった。


 そしてあっという間に変わる日付、キンキンに冷えた空気の中で、隣で先に起きていたカレンの動きによって目を覚ました俺は、この時期特有の、あまりにも億劫な感じで暖かい布団から抜け出す……



「さむっ! 何だよこれは、凍えてしまうぞマジで」


「大丈夫です、私は」


「カレンはそうかも知れないがな、他のメンバー、というかリリィは……もう朝日が出るまでは動かないだろうな、最悪1日中スローかも知れないぞ」



 他のメンバーも続々と起きて来た中、いつも通り眠りこけているルビアにマーサ、それから精霊様は放っておいて、それ以外の仲間だけで朝食とする。


 なお、リリィは目を覚ましてはいるものの、完全に置きもの状態で……と、15分かけて5㎝程度移動したようだ、寒さに弱いドラゴンにしては頑張っている方だな。


 で、朝食中に違和感を感じ、窓が曇ったり凍ったりでまるで見えていなかった外の様子を始めて確認する。


 なんと、いつの間にか湖の上空に居るではないか、これは一体……いや、スタッフらが気を利かせて、夜のうちに出発を済ませていたのであろう。


 ほんのり、所々に見えている人間が灯したと思しき明かり以外には何もない、そして今居る場所の真下には、それさえも存在しない真っ暗な空間、それが巨大な湖であることなど、きっと子どもでも一目でわかること。


 さらに、目的としている『浚渫』のあるという、その中にメタルオオウナギが投棄されたという場所は、下に見える、ほんのり明るい橋の姿によって、もはや完全に場所を把握出来る状態。


 とりあえず船を降ろそう、まずは下で、水面にて色々と情報を探るのだ……

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