833 ひとまず殲滅
『では殺してやろう、でおじゃる、覚悟するが良いっ! でおじゃるっ!』
「何がおじゃるだ鬱陶しい、死なない程度に痛め付けてやるからとっとと掛かってこいやこのボケが、それともアレか? やっぱ負けて、しかも俺が手加減するのを忘れたりして死亡するのが恐いのか? 大丈夫、この場では殺さないから、後で、衆人環視の中でじっくり丸焼きにしてやるからよ」
『ヌゥォォォッ! 舐め腐った態度を取るなぁぁぁっ! でおじゃるぅぅぅっ!』
「ケッ、この程度でキレまくりとはな、相当にアホな野郎だぜ、手始めに……」
「いや、主殿も相当だと思うのだが? このぐらいでこんなに調子に乗って……いてててっ!」
「手始めにジェシカのケツをダブルで捥ぎ取ろうと思う」
「イヤァァァッ! すまなかった、ちょっと面白くて、ひぎぃぃぃっ!」
怒り狂うDEATHNAGOOONはとりあえず置いておいて、まずは仲間内での成敗を試みる、ジェシカはいつもこういう場面で俺をディスるからな、徹底的に処断せねばなるまい。
で、そんなことをしている間、放置されてしまったDEATHNAGOOONは……より一層キレッキレとなっているようだ、コメカミに怒りのマークが浮かび上がり、毛は逆立っているではないか。
まぁモヒカン烏帽子の部分は最初から逆立っているといえばそうなのだが、とにかく全身で怒りを表明し、そしてその一般的な人間の質量を遥かに超える拳を俺に向かって振り下ろす。
通常であれば、それによって俺だけでなく周囲に、おそらくは今居る施設全体が衝撃波で全壊するところ。
だがそうはいかないしいくわけもない、ひとまず指先を天に突き上げ、その人差し指1本だけで受け止めておく。
ズシンッと俺の足が地面にめり込み、まるで田植えをしていて嵌まった馬鹿のようなのだが、今の状況は恥晒しではなく、圧倒的な力を見せ付ける光景である。
『ぐぬぬぬぬっ、でおじゃる、貴様、どこでそんな力を、でおじゃる……』
「力を? 言っておくがな、俺の戦闘力はこの仲間達、とりわけ勇者パーティーの中では半分より下だぞ」
「ご主人様、半分より下とかじゃなくて、私と並んで仲良く最下位だと思いますよ」
「黙れルビア!」
「あいてっ、ひぃぃぃっ、最下位の人に叩かれました」
「大丈夫ルビアちゃん? 拳骨なんて酷いわね、これだから最下位の人は……あいてっ」
『ぬうぅぅぅっ、なぜそのような余裕を見せるのだ、でおじゃる、これではDEATHNAGOOONたるこの我が、単にデカいだけの雑魚キャラのようで……おじゃる……』
「雑魚キャラのようで、ではない、雑魚キャラなんだ、もう少し自分を見つめ直すことだな、お前、モブキャラ……とまではいかないがな、強雑魚の臭いがプンプンするぜ、で、そういう奴はこうだっ!」
『ぎょべぇぇぇっ! 手が、手がぁぁぁっ! でおじゃるっ!』
俺が敵の攻撃を受け止めている、つまり戦闘しているというのに、いちいちちょっかいを掛けてくるルビア、それに同調するセラをやっつけつつ、もののついでにDEATHNAGOOONの巨大な握り拳を、それはもうアレな感じにしてやった。
骨が折れ、指など変な方向に曲がり尽くした拳は、その所有者に対して絶大な苦痛を伝達していることであろう。
巨体を揺らして苦しむDEATHNAGOOONは……こちらに倒れて来ないことだけを祈ろう、もしそうなれば大惨事だ。
というか、さすがにこのまま暴れさせるのはヤバいな、倒れないまでも足踏みしたり、助けを求めて右往左往する可能性がある。
そうなればこの美しい、歴史的価値が凄そうな都市そのものが壊滅、全く無価値な瓦礫の山と化してしまう。
それはさすがに拙いのでルビアに回復魔法を使わせて……そのルビア、こちらをニヤニヤしていやがるのだが……
「おいルビア、何か面白いことがあったのか知らんがな、ちょっとあのDEATHNAGOOONを回復してやってくれ、多少痛みが残って、ズキズキして仕方がない程度にな」
「わかりました、ですがご主人様、同じ勇者パーティー内戦闘力最下位同士、回復という本当に使える術を持った私の方がより上位の存在であっ……ヒギィィィッ! 頬っぺがとれりゅぅぅぅっ!」
「良いから早く、とっととDEATHNAGOOONに回復魔法を使うんだ」
「はひっ、やりまひゅっ、それっ……あ、やりすぎましたね、大変なことになりそうです……」
「マジかよ……」
『ウモォォォッ! ウゴッ? あっ、あぁぁぁっ……ギョエェェェッ! でおじゃるっ!』
「過剰回復もいいところね、腕が丸ごと奇妙な形になっちゃったわ」
「気持ち悪りぃことになったな、まぁ、大人しくなったならそれで良いが」
つい先日練習していたルビアの過剰回復によるダメージ、DEATHNAGOOONの右腕は、完全なる奇形となり果てて肥大化し、まるで『ゾウの足』のような、もちろん動物のゾウの足ではなく、見たら死ぬと言われているあの危険な『ゾウの足』のような様相を呈している。
もちろんそれが肥大化しているため、そしてそこに全身の肉を引っ張られてしまったため、DEATHNAGOOONの体は歪み、その右腕を地に着いたまま動くことさえ出来なくなっている様子。
そして『ゾウの足』と化した右腕は、どういうわけか徐々にパキパキと固まり出し、本体がより一層動き辛くなっていくような状況。
そこからどうにか逃れようともがくDEATHNAGOOONだが、もはや腕そのものを自切する以外に助かる道はない。
まぁ、情けないことにそのような思い切った行動は出来ないらしく、必死になって腕を持ち上げようとしているのみだが……
「えっと、これは一応謝罪しておいた方が良いですかね?」
「良いよ別に、自業自得だし、ルビアは悪くないと思うぞ、そもそも怪我なんぞしなければ過剰回復などいすることもなかったろうに、次からは、といってもこういう雑魚キャラを回復するときには気を付ければ良い」
「わかりました、じゃあえっと……ドンマイッ!」
『ヌォォォッ! 痛いっ! でおじゃるっ! 痛いっ! でおじゃるっ!』
「すげぇな、この状況でも『おじゃる』だけは絶対に言うんだ、そういうマナーなのか?」
「それよりも勇者様、コイツはどう処分するの? このままじゃ処刑とか何とか、そういうことは出来ないわよ」
「だな、しかもこのまま殺してしまうとアレだ、西方新大陸系の犯罪組織の残党だな、それを始末するのに俺達が動かないとならなくなる、それは面倒だから……おいDEATHNAGOOON、聞いてんのかオラッ!」
『ヒギィィィッ! でおじゃるっ!』
片膝を突いたような格好のDEATHNAGOOON、その地面近くにある部分を軽く蹴飛ばし、こちらに注意を向けさせる。
これだけでもかなり痛いようだ、蹴られた部分だけでなく、奇形と化した腕に響くらしい。
で、その残念なデカブツは、痛みに喘いでいるものの辛うじて会話することが可能であり、そして何よりも、先程までの偉そうな態度はどこかに消え失せてしまっている。
まぁ、そもそもこのサイズにして、今後ろに居る麻呂や何やらと比べるとかなり高い戦闘力を有しているDEATHNAGOOONだ。
これまでこの都市に引き籠っていた以上、何者かからダメージを与えられるというようなことはなかったのであろう。
もちろん今居る俺達、といっても英雄パーティーやフォン警部補は除いた、純粋な勇者パーティーのみの戦力と比較すれば、それはもうアリンコどころかミジンコ以下の存在であり、その圧倒的な力の前には平伏すしかないことぐらい、どのような馬鹿でもそろそろわかる頃合なのだ。
ということで俺達には敵わないこと、生殺与奪の権はこちらに、完全な状態で存在していること、そして何よりも、自分の態度次第で、これから自分がどれだけ苦しめられるのかを理解した様子のDEATHNAGOOON。
必死で命乞いをしながら、要所要所で苦痛の声を漏らし、俺達の失笑を買っている状態、これなら言うことを聞かせるのは非常に難易度が低い、子どもの遣い程度のことでありそうだ……
『ヒィィィッ! でおじゃるっ! グギギギギッ、でおじゃる……』
「おいゴミデカブツ野郎、ちょっと良いか? てかその腕、斬り離して欲しいのか?」
『やっ、やめてくれっ、でおじゃる、もう痛い、苦しいのはやめて欲しいのだ、でおじゃるっ』
「と言ってもよ、ルビア、これ、放っておいたらどうなるんだ?」
「う~ん、きっと全身が破裂して死にますね、そのうち、そこまではジワジワと膨らんで……それはもう見るに堪えない姿に……」
「だってよ、どうする?」
『ギョェェェェッ、でおじゃる、そんなのはイヤだ、でおじゃるっ、とっとと斬り離してくれっ、でおじゃるっ!』
「おうわかった、だがな、それには条件があるんだよ、もちろん聞き入れてくれるよな?」
『あっ、当たり前だっ、でおじゃる、その条件について早く言ってみるが良い、でおじゃる』
アッサリとこちらの言うことを聞く気になった様子のDEATHNAGOOON、当初の態度、破壊の限りを尽くすバケモノの姿はどこへ行ってしまったのであろうか。
今はもう単にデカいだけの、中身はしょぼくれたおっさん貴族であって、その辺でウ〇コを漏らして怯えているカスの麻呂共とほぼ同じだ。
で、こちら側の要求である、この都市に蔓延った西方新大陸系の犯罪組織の連中、それ『のみ』を、他者やその有している土地家屋等に被害を与えぬよう、『全て』始末しろというものに対し、良く聞きもせずに必死で頷いているのだが……本当にわかったのであろうか?
まぁ、さすがに都市へのダメージが『無』というわけにはいかないであろうし、それについては細心の注意を払わせたうえで、後の処刑の際の罪状に付け加えよう。
「……ということだ、お前も、元々の目的としては侵入してきたハエ共の除去があったんだろう? それを周囲へ被害を及ぼさずにやるだけだ、簡単ですね?」
『わかったっ、でおじゃる、やる、やらせて頂くのだ、でおじゃる、だからこの腕を、腕がぁぁぁっ! でおじゃるっ!』
「よろしい、ではなるべく汚らしい汁が出ない部分を狙って……と、面倒だな、セラ、風魔法で切断してくれ、ユリナは患部を焼いて消毒、で、ルビア、今度は普通に治療してやってくれ」
『は~いっ』
ということでまずはセラの一撃、放たれた風の刃は、DEATHNAGOOONの膨らんだ右腕を、肩の部分からスパッと切断し、そのまま上空へと消えていった、今頃はおそらく、遥か彼方に光る星でも打ち崩していることであろう。
そして当然断面から滲み出す、DEATHNAGOOONの変な汁、血液というらしいが、こんなゴミ野郎に俺達と同じものが流れているとは思いたくないので、きっと別の血液であると想予想しておく。
で、そんな気持ちの悪い汁によって、美しい庭園が、周囲の木々やその他の建造物等が、これ以上汚されないための措置をするのはユリナ。
パッと飛んだ極めて微弱、人間など10人程度しか焼き殺せない威力の火魔法が、その切断面をジュッと焼き消毒しつつ血止めを施す。
ここまでで二度の絶叫、それは都市全体に響き渡ったことであろうが、その叫びを聞いていた者は、まさかDEATHNAGOOONが無様に敗北し、その傷に対する治療に際して情けない声を上げているものだとは思わないはず。
で、最後に活躍するのはルビア、先程はふざけていたせいで、ついつい先日練習していた過剰回復のノリで力を出しすぎてしまったのだが、今度は冷静なので大丈夫であろう。
ということでそのルビアの力によって患部は修復され、出来上がったのは単に右腕を失っただけのDEATHNAGOOON……というほどでもないか、斬り離した腕部分に少し肉や体液を奪われ、若干やつれているようだ。
ちなみに戦闘力の方は半分程度まで落ちた様子であり、このまま英雄パーティーの4人と、それにフォン警部補を加えた5人で相対すれば、激戦のうえ勝利することが可能ではないかという程度。
だがそれをやってみる必要はなく、そもそも危険であるためやってみようなどとは言い出せない。
そのようなことをしなくとも、俺や勇者パーティーの仲間達が居れば、こんな雑魚など1秒で単独討伐することが可能なのだから……
「よしっ、じゃあもう落ち着いたな、そのまま都市全体を回って、モヒカンだのスキンヘッドだのを虱潰しにして来い、ちなみに1匹でも取り逃したら、そいつの代わりにお前を殺す、あとミッションコンプリートしても殺す、途中で逃げようとしたら殺すし、俺が殺したくなったら途中でもその場で殺す。あと期限は今日中だ、終わらなかったら殺すし終わったら殺す……以上、口答えしたら殺すからな、わかったらサッサと行け、さもないと殺すぞ」
『ヒィィィッ! 殺さないでくれぇぇぇっ! でおじゃるっ!』
そう叫んで走り出し、早速その振動で周囲の建物の瓦? とにかく屋根を破損させるDEATHNAGOOON。
これでもう『処刑の追加』だな、自分では意識していないようだが、動けば動くほどに、自らの受ける処刑が残虐なものとなっていくのだ。
それで、市中の件については、ある程度このDEATHNAGOOONの動きに任せておくこととしよう。
もちろん馬鹿だしアホだし無能なので、失敗する分があると思うが、まぁ、外の連中は敵とはいえ無視しても良いようなレベルのカスである。
俺達が手を付けるべきはその中心にいる敵キャラであり、おそらく先程までに始末した、イベント会場に集まっていた雑魚共とは一線を画す、かなり高級な雑魚なのであろう。
ということでまずはそいつを捜し出して処分し、DEATHNAGOOONが戻り次第、最終チェックとその他生き残りの始末、さらにはそのDEATHNAGOOON本体並びに麻呂共の処刑に関する計画をしなくてはならない。
これはなかなか忙しいのだが、既に終わった『始祖勇者の玉』の開放に関連して、この島国にずっと留まり続けているのは馬鹿馬鹿しいことだ。
ゆえにサッサと始末を付けて、『鉄の道』を用いて島国の『首都』たる東のそれらしき場所へ、そして島国へ侵攻している犯罪組織の大ボスを殺害し、本格的にここを離れることが可能なようにしなくては。
もちろんそれまでにはまず、ここで、この都市での敵の捜索と殺害、幹部クラスについては生け捕り
その後に麻呂共と合わせての処刑、続いて『湖』とやらに投棄された『鉄の道専用車両』の回収をする必要があるのだ。
最初の段階でこれとは、もう考えるのも億劫で……などとこの先のビジョンに思いを馳せている間に、一旦建物の中へと戻っていた英雄パーティーが、そしてその後ろには、知らないモヒカンの髭オヤジを捕まえた状態のフォン警部補が続いていた。
これは……なんと、今の間に西方新大陸系犯罪組織の、この地におけるそのトップキャラを捕縛、連行してきたというのだ。
さすがに時短が過ぎるのではないかと思うのだが、こんな意味のわからない髭オヤジのために割いてやる時間も尺も存在しないのは事実。
しかしすでに気絶していて、もうまともな台詞どころか名乗る余裕さえ与えられないというのは如何なものか。
きっとこの髭オヤジの最初の発声は、処刑の際の絶叫、断末魔の叫びということになってしまうのだから。
とまぁ、この際それすらもカットしてしまって構わないようだな、その辺の麻呂や敵キャラの処刑と同様に、というかその一場面として、この地の制圧を成し遂げた髭オヤジの最後のシーンは流されるのだ……
「……と、じゃあこれで『宮殿』の中の連中については片付いたってことだな、おいそこの麻呂! この中に居ない麻呂とか、アイツどこ行ったんだよ逃げやがって、みたいな奴は居ないな? 大丈夫だな?」
「だ、大丈夫でおじゃる、宮殿の中の麻呂はここに居るので全部でおじゃるっ」
「そうか、良く教えてくれたな、でもお前、顔がきめぇから火炙りの刑な、とろ火でじっくり焼き殺してやるから感謝しろよ」
「ヒィィィッ! そっ、そんなぁ~っ」
ちなみに、先程の『堕ちモヒカン刈り』において、英雄パーティーの中で最も鼻の効く、そして耳も良いわんころもちが館内をチェックし、隠れているような麻呂や貴族女が居ないのは確認済みであったという。
そしてそこからしばらく、都市の一部に被害を出しながら、やり切った感を出して戻って来たDEATHNAGOOONに対し、本当に全ての敵を討伐した旨、さらには無関係の市民の生命財産に一切被害を出していない旨の宣誓をさせる。
これでもしも嘘であったら、というかもう見るからに『財産的被害』が生じているのだが、とにかく宣誓違反でとてつもない目に遭うのは確実。
そこまで頭が回らず、これで大丈夫だと思い込んでいる様子のDEATHNAGOOONには……とりあえず黙っておこう、ぬか喜びさせておいて、直前で処刑を宣告した方が面白いからな。
「じゃあお前、ちょっとデカいからここで待っていやがれ、動くなよ、1歩たりとも移動するなよ、わかったか?」
『仕方ない、でおじゃる、腕を失い、弱体化してしまった以上、ここに居よというのであればそうするしかない、でおじゃる』
「よし、じゃあ他のメンバーはその麻呂とか、貴族女共を船へ連行だ、ルビア、凶ドスゑとの茶会についてはどうだ?」
「まぁ、大丈夫だと思います、麻呂を死刑にすることも出来て余興はバッチリですから、あとはムカつかれないように注意して……」
「さりげなくあの力の源についてなど、必要な事項を聞き出すと、そんな感じだな」
「ええ、そのつもりでいます」
ということでこの地での『メイン業務』は終了、最後は駆け足であったのだが、それでも腐敗した麻呂や、侵入者である犯罪組織の連中をどうにかすることが出来たのだ……あとは『鉄の道』についてだけだな……




