829 気付かれないうちに
「よっしゃ出るぞっ、一気に攻め上がるんだっ、俺はちょっとルビアに目を治療して貰う」
『うぇ~いっ』
「で、モッコリ共はサッサと動けやこのデクがっ! そっちの麻呂モッコリと兄弟麻呂が入った結界と、あと両サイドに張られた観客席の結界を解除するんだ、『モッコリの本質にして魂たる○○』を捧げてなっ!」
『へへーっ! 承知致しましたモッコリ大将様!』
「俺はモッコリじゃねぇぇぇっ……っと、危うく貴重なモッコリを皆殺しにするところだったぜ……」
「ちょっとっ、気を付けなさいよね、ゆう……モッコリ大将」
「だからモッコリじゃねぇぇぇっ!」
「あいたっ、だってあのモッコリ達がそう言ってたじゃないの」
セラと適当な押し問答をしつつ、閉じ込められていた、そして第一のモッコリがそのモッコリを犠牲にしたことによって破られた結界を出る。
既に第二、第三のモッコリが、両サイドに張られていた観客席、それは地べたにシートのようなものを敷いて、上に傘を用意した和風の茶会めいたものだが、とにかくその手前の結界を解除していた。
最初、この施設へに入る際に通った結界、それを一部破壊した際にはその辺の雑魚モヒカンの『〇〇』を用い、それゆえに少し穴が空いただけ、すぐに戻ってしまう限定的な破壊がなされたのみに終わっていたのだが、今回は違う。
鍛え抜かれたモッコリ共のその強靭なモッコリの源であるモッコリ部分を、そのまま、新鮮なまま冷凍さえせずにお届けしているのだ。
前回と違い、いくら麻呂モッコリが張った意味不明なほどに強力で、しかも不当に空間を操ってしまっているのではないかという術式を用いた結界とはいえ、バリンッと音を立てて完全に破断してしまっている。
もちろんこちらの仲間……いや仲間ではないのか、とにかくわんころもちの幻術を受けて味方に付いたモッコリ共もその一撃によって全てを失い、単に筋肉がムキムキで、肌からヌルヌルの何かを分泌しているだけの『○○ナシ野郎』へとなり下がってしまう。
つまりこの攻撃はモッコリ1匹に付き1回のみ、まさか股間の『○○』を引き千切り、それを捧げた元モッコリに対し、それ以上何かをしろとは言えない、というかいったところでもはや動くことなど出来ないのだから。
で、そんな決死隊のモッコリのうち1匹が、ようやくプールサイドの一番奥に位置していたVIP席、麻呂モッコリと、それからこのエッチなイベントを企画したという兄弟麻呂の鎮座する結界の前へと到達する……
「ウォォォッ! 全てはモッコリ大将様のためにっ!」
「わぁぁぁっ! 待つでおじゃるよっ、おいっ、第五のモッコリ! 町で『モッコリ変態野郎』としていじめられていた貴様を拾い、(モッコリを)そこまで育ててやったのは誰だと思っているでおじゃるっ!」
「黙れっ! 貴様のように生まれつき良い(モッコリの)家系で、(モッコリに)恵まれていた者に何がわかるっ! 俺達庶民の(モッコリ)の力、見せてくれようぞっ!」
「やっ、やめるでおじゃるっ! こんな場所でそんなモノを露出したら犯罪にっ、おじゃぁぁぁっ!」
第五のモッコリといったか、別にどれがどれでも構わないのだが、とにかくそのモッコリの命を、そして存在価値の全てを捧げた一撃。
躊躇することなく水から捥ぎ取ったそのモッコリの原泉たる『○○』を、ベチョッという具合に結界の壁に、もはやモザイク以外何も要らないような光景を伴いつつ押し付けた第五のモッコリ。
その瞬間、中に麻呂共を入れた結界の壁がバキバキバキッと音を立て、ひび割れ、光の粒に……はならなかったではないか。
なんと卑劣な、麻呂モッコリの野郎、自分が入っている結界だけ特別製、何があっても破壊されないよう、極めて厳重なものに仕上げていたのだ。
千切れ、もう元に戻ることはない自らの『○○』を壁に押し付け、それが生贄として消滅していくのと、同時に半壊し、そこから徐々に自動修復していく結界を見て、第五のモッコリの足元がフラ付いた……
「おじゃ―ハッハッハッ! どうでおじゃるかっ? 麻呂の結界、最大最強グレートエディション、そう簡単には破らせんでおじゃるっ! 第五のモッコリよ、貴様は無駄死にでおじゃる、おじゃハハハーッ!」
「な……んと……御大将、申し訳……」
「まだだっ! まだだぞ第五のモッコリ!」
「そうだっ、ここは俺達後に続くべきモッコリがっ!」
「命を賭して助太刀致すっ、フンッ!」
『フンッ……ギョェェェェッ!』
「お……お前達……」
「第五のモッコリよ、ここは俺達に任せて……ゆっくり休むが良い、貴様はもう十分にモッコリした……」
「そう……させて頂こうか……来世でもモッコリを……」
仲間のピンチに応じ、アツい感じで出現した3匹の仲間モッコリ、おそらく第六のモッコリから第八のモッコリなのだと思うが、まぁそれはどうでも良い。
3匹のモッコリはそれぞれ、やはり何の躊躇もなく自分達の『○○』を捥ぎ取り、満足した感じで死ぬ行く第五のモッコリに代わってソレを、修復を続けている結界の壁に押し付けたのであった……
「きっ、貴様等までっ! おい第六のモッコリ! 階段の下でJKを見てモッコリして、検非違使に連れて行かれそうになったのを助けたのは誰でおじゃるかっ?」
「さぁな? 検非違使に通報して、自ら助けたマッチポンプ貴族なら知ってんぞ」
「ぐぬぬっ、では第七のモッコリよっ! 大学の授業中に居眠りして、どういうわけかモッコリして教授にバレ、単位を落としそうになっていた、そこをどうにかするよう教授に口添えしてやったのは誰でおじゃるかっ?」
「俺だよっ! お前の口添えには感謝しているがな、結局出席日数が足りなくて不可だったぜ、意味なかったなっ!」
「なんとっ……で、では第八のモッコリよ……」
「うるせぇっ! これで終いだ、俺達の最後のモッコリを見よっ!」
『トリプルモッコリブレイクウォォォルッ!』
「おじゃぁぁぁっ!」
……俺は、いや俺達は何を見せられているのであろうか? まずは死んでしまった第五のモッコリ、大活躍したかと思いきや、普通に任務を完遂出来なかっただけの馬鹿ではないか。
そしてその死に様にしてもあまりカッコイイと言えるものではなく、普通に『○○』が引き千切られたことによる出血性のショックが死因となっている。
ついでに今それと同じことをしている3馬鹿……ではなく3モッコリ、どうやら結界の破壊には成功したらしいが、技名まで叫んでするほどのことではないし、モブの癖に尺を取りすぎだ。
ということでその後、自慢の、そして自らのアイデンティティーでもあったモッコリを形作る『○○』を失った第六のモッコリから第八のモッコリまでがどうなったのか、それについては割愛しよう。
とにかく奴等の自己犠牲によって、敵の親玉以下主要キャラが居たVIP席への接続が成ったのである……
「よっしゃ、おいマーサ、もうキモい人達は居なくなったぞ」
「マーサちゃん、目を開けても良いし、お耳もほら、大丈夫よ~」
「……ホント? あ、変な人ほとんど死んじゃってる、良かった……でもまだ生きているのが何匹か……」
「大丈夫だ、奴等もすぐに犠牲になるから、それにもうこちらの味方になったから無害なんだ、キモいし生きている価値が全く、いや鉄砲玉以外にはないってだけでな」
「なら良いけど……それで、私はどうすれば?」
「そうね、まずは……勇者様、あの卑怯な貴族女性の方々、コソコソと逃げようとしていますよ」
「あっ、マジかあいつら、マーサ、マリエル、俺達で奴等を逮捕するぞ、フォン警部補も連れて来るんだっ!」
ひとまず麻呂共の相手は紋々太郎に任せ、俺達は卑劣な裏切り者、助けてやろうとしていた俺達を、あろうことか敵に売ってしまった貴族の女共をどうこうするために走り出す。
追われている、逃げようとしていたことがバレたのに気付き、必死になって出口へと向かう貴族女性の集団。
あれほど大切にしていたその中の最上位者、Say Yo! 納言は完全に置き去りのままだ。
で、ようやく辿り着いた出口では、フォン警部補が仁王立ちして、久しぶりのまともな活躍にご満悦の様子である。
良いから早く逮捕しろと、そう告げようと思ったところ、9人はアッサリと、特に声を掛ける必要もなく降参した。
俺達もそこへ近付き、降参したと見せかけて逃げ出すなどということがないよう、マーサとマリエルで両サイドをガッチリ固める……
「よぉお前等、よくもやってくれたな?」
「ひぃぃぃっ! どっ、どうしてっ、どうしてそんな言い方を? 私達が何をしたというのですかっ?」
「だって、今逃げ出そうとしたよな? 犯罪組織からは逃げようなんてしていなかった癖に、今回はさすがにやべぇと思ったのか? ん?」
「助けてあげたのに、敵に私達の情報を漏らすなんてズルいわよっ!」
「ばっ、バレて……いや、そんなはずは、あの後来た変なモヒカンに、コッソリ伝えて取引するよう依頼して……それがどうして……」
「お前、その独り言的なのが凄く聞こえているんだが? そういうのは口に出して呟くべきじゃないと思うのだが?」
「あっ、そのっ、えっと……だって、勝ちそうな方に付くのは当然であって、まさかあの兄弟麻呂、どころか麻呂モッコリまで倒す感じになるとは……私達は何ら間違っていません」
「ここで開き直るとは……」
「フンッ、何よっ! あんた達なんかここで捕まえて、お尻ペンペーンッてしちゃうんだから、覚悟しなさいっ! それっ!」
『ひぇぇぇっ!』
マリエルと一緒に飛び掛かるマーサ、ドタバタと入り乱れた後、出て来たのは完全に縛り上げられた9人の貴族女性。
こいつらには後でお仕置きだ、ついでにあのパーリィ系の納言も、監督責任ということで一緒に逮捕、お仕置きしてしまおう。
で、こちらはそれで良いとして、肝心の麻呂共との戦いは……ふむ、単独で兄弟麻呂に挑んだ紋々太郎が1秒で敗北し、ルビアの回復魔法でどうにか一命を取り留めたようだ……ダメではないか……
※※※
「マーサ、マリエル、あとフォン警部補も、ここは任せたから、何か向こうが予想以上にやべぇみたいだから」
『うぇ~いっ』
捕まえた女性貴族連中はマーサとマリエルに任せ、今度は麻呂共との決戦の場へと走る勇者様たる俺様、実に忙しいではないか。
で、簡単に敗北してしまった紋々太郎は……どうにか意識を保っているようだが、一体どうしてやられてしまったのか、それを話すことが出来るような状況ではない。
見たところ紋々太郎をやったのは兄弟麻呂の方、麻呂モッコリについては、その後ろで先程流れ出た冷や汗を、高級そうな布で必死に拭っているのが確認出来た。
このイベントの主催者ではあったものの、途中から登場した麻呂モッコリによって影が薄くなってしまった兄弟麻呂。
それが今になって前へ出て、その実力を発揮……妙だな、この2匹が同時に攻撃を仕掛けたとしても、おそらく紋々太郎の方が勝つはず、ギリギリではあるがそれは間違いない。
では後ろから麻呂モッコリがサポートして……その可能性は極めて低いな、奴はまだ動揺している、精鋭として育て上げたモッコリ10人衆が、どういうわけか裏切って自分に襲い掛かったのだから。
これは状況を把握しておく必要があるな、ひとまず兄弟麻呂は向こうから追撃を仕掛けるような素振りを見せず、左右対称に『あ・うん』のポーズを決めて固まっているため、しばらくは大丈夫そう……麻呂の顔で、しかもそれでいてムッキムキの2匹が阿吽のポーズとは、実に気持ちが悪いな……
「ルビア、紋々太郎さんは大丈夫か? てか何があったんだ?」
「さぁ? 私はそっちに置いてあったお茶菓子の方に気が行っていて、呼ばれて振り向いたらこのようなことに……」
「どうしようもない奴だな、精霊様は見たのか?」
「私も見ていなかったわ、ちょうど客席の結界が破断したから、逃げ惑っているモヒカンを殺戮して遊んでいたの、そしたら……」
「そうか、じゃあセラは……見てない、カレンは……現時点においてもなお向こうの料理に目が行っているのか、他も似たような感じだな」
誰も彼もがその瞬間を見ていないのだという、もちろん真面目に戦っていたミラやジェシカ、それに他のことには比較的興味を示さないユリナやサリナまでもだ。
なお、英雄パーティーの配下メンバー3人に関しては、術を発動し続けているわんころもちを、残りの2人で守るのが精一杯であり、こちらに気を向ける余裕などない。
結局、どうして紋々太郎が敗北してしまったのかについては、本人が会話出来る状態になるのを待って聞き出すしかないのだが、それは全麻呂の討伐後になりそうなぐらいに深いダメージを負っている様子。
で、阿吽の呼吸を体現したまま静止している兄弟麻呂だが……まぁ、ここは勇者様たるこの俺様が前に出て、直々に討伐してくれることとしよう……
「オラァァァッ! 死ねやこの雑魚キャラがぁぁぁっ……ギョエェェェッ!」
「あら? どこで雑魚キャラが敗北して……って大変よっ! 勇者様が負けてるっ!」
「あっ、本当だ、ご主人様が飛んで行ってしまいました」
「まさかあんな弱そうな麻呂に負けたのか主殿は? いや、そんなはずはないとおもうのだが」
「いくらご主人様とはいえそれはないですの、ジェシカ、失礼ですわよさすがに」
何が起こったのかわからない、確か俺は、どういうわけか紋々太郎を倒してしまった兄弟麻呂を、時短などのためにサッサと片付けてしまおうとして……天井に刺さっていると。
通常であればあの後、兄弟麻呂の肉体が俺の勇者パンチによって生じた風圧で粉々になり、そのまま髪の毛1本とてこの世に残さず消滅させていたはず、通常であればだ。
まぁ、今回は殺してしまうわけにはいかないため、上のモヒカン烏帽子の部分のみを狙ったのだが、もしかしてそれが何か問題であったとでもいうのか?
天井から抜け出し、地面に降り立って周囲を見渡す……兄弟麻呂は健在、どころか阿吽の呼吸で制止したまま、まるで彫刻のように動いていないではないか。
そしてその周囲にも、俺の必殺技的な何かが逸らされ、ぶつかったような跡は存在していない。
つまりあの俺の攻撃は完全に無効化されてしまっていたということだ、これは一体どういうことなのであろうか……
「やれやれ、何だか知らんが吹っ飛ばされたぞ、おい、誰かあの攻撃の瞬間を見ていたか?」
「というか主殿、もしかして本当にあの麻呂に吹っ飛ばされたというのか?」
「そうなんだ、いやそうであるような感じなんだ、良くわからんが」
「てか勇者様、いつの間に攻撃を仕掛けていたわけ?」
「……この感じだとアレか、また誰も見ていなかったとかそういう結末か」
紋々太郎の二番煎じではないが、俺が吹っ飛ばされる瞬間を見た者は居ない、既に多くがこちらの戦闘に参加していたにも拘らず、その瞬間だけ別のことに気が行っていたというのだ。
これは何かの術式のようだな、紋々太郎はともかく、俺とこの雑魚野郎の兄弟麻呂共とでは実力に差がありすぎる、本来であれば相手にならないような敵であるのだから。
もっとも、それだけ差があるゆえか、多少吹っ飛ばされたところで特にダメージはないのだが、それでも一撃で倒せていない時点で、この先はそこそこ苦労しそうな感じである……
「……ということだ、気を付けるんだぞ、攻撃してもなぜか吹っ飛ばされるし、その瞬間を誰も見てくれないんだ」
「そういうことか、であれば主殿、ここから10秒間、絶対に奴から目を離さないでくれ」
「うむ、意識していればもしかするかもだからな、いけジェシカ!」
「参るっ! ハァァァッ!」
「おっと、目の前にスカイフィッシュが、居るんだなスカイフィッシュ、比較的ポピュラーなUMAだぜ、あっ、ちょっと待て逃げるんじゃ……ん?」
「のわあぁぁぁっ!」
「っと、ジェシカ? あっ、プールに落ちたのか、どうなったんだ?」
「いや主殿、今のを見ていなかったのか?」
「すまん、目の前にスカイフィッシュが来てな、捕まえることが出来なかったんだが」
「何をしているんだ一体……」
今度は俺が見ていなかったのだが、ジェシカ曰くいつの間にか吹っ飛ばされ、プールに叩き落とされていたとのこと。
兄弟麻呂は相変わらずそのままの姿勢で立っているのだが、あれから動いた様子はないし、動く際の空気の流れなども感じていない。
いや、それどころかこの2匹の馬鹿には何の術も使えない、そして何もしないでただ立っているだけであるということが丸わかりの状態だ。
つまり、この2匹は単に目立つための飾りで、紋々太郎や俺、そしてジェシカまでをも吹っ飛ばした攻撃の使い手は別に居るということ。
さらにわかるのは、その術が単なる高速の物理攻撃などではなく、他者の意識をそこから逸らすような、そんな効果をも付与されている、まるでマジックのようなものだということについてである。
どこかに隠れた何者かが、この目立つ兄弟麻呂をダシにしている、そしてこの兄弟麻呂にしてみても、そいつに協力するかたちで動いているはず。
その術者を見つけないことには、何もかも解決してこないし、おそらく後ろの麻呂モッコリに攻撃が届くこともないのであろう。
どこだ、どこにその術者が……天井か? 地面に潜って? いや、それとも空間の……そうか、麻呂モッコリの空間を操る魔法、それが術者の隠蔽に関係しているに違いない。
「なんとなくだがわかってきたぞ、仕組みがな、だがどう対処すべきかについては未知数だ」
「何だとっ? 主殿の頭でこの仕組みの真理に近付いたと? そんなまさか」
「おうジェシカ、真面目な顔でディスるんじゃねぇっ」
「あっ、ちょっ、水を掛けるんじゃないっ、それよりもどうするんだ? 考えないとここは突破出来ないぞ」
「ふむ、じゃあちょっと作戦会議としよう」
ということで一旦後ろへ、というか暑くなってきたのでパンツ一丁に衣替えしてプールに入ることとしよう、他の仲間も、別の場所で戦っていた者も当然一緒にだ。
そしてここで、全員揃っての作戦会議とする、そうすれば自ずと何かが見えて来る、いや、そうなるように仕向けることが可能となるはず……




