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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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827 イベント

「……うむ、攻撃開始だ」


『いきますっ! フッ!』



 赤い垂れ幕の向こう、プールサイドの貴賓席に出現したダブル麻呂、それを吹矢係の正確な一撃が狙う。

 一瞬の間の後、2人の耳がピクッと反応、どうやらヒットしたようだ、これで奴等の麻呂としての権限も……



「ダメですっ、当たったと思ったら目の前で弾かれましたっ!」

「あの感じ……対策されているみたいです、暗殺対策」


「怯むなっ! そのまま第二射、第三射をっ!」


「えっと……何だか居場所がバレているような気がしてならないんですが……敵の方、こっちに来ていますよ普通に……」


「何だってぇぇぇっ⁉」


「あら、勇者様がやかましいからバレたのかしら? それとも……」



 それとも何なのであろうか、セラが言いたいのは、もしかしたら俺達がここに潜んでいること自体、最初から敵に筒抜けであったということなのであろうか。


 いや、そもそもあの抜け道を発見したのは偶然だし、そこを通ってこの場所で暗殺、ではなくモヒカン烏帽子のデストロイを仕掛けるということは、当初の予定にはなかったはずなのだ。


 そんなイレギュラーな行動を、敵は最初から把握していたというのか? いや、だとしたら誰が、どうやってそのような情報を敵にもたらしたというのであろうか。


 忍者のような奴が居たようには思えないし、魔導盗聴されていないかどうかは予め入念にチェックしておいたはず。

 なのにこちらの行動が……と、やはり敵兵はこちらを目指していたようだ、紅白の垂れ幕がバッと取り払われた……



「貴様等! この暗殺者共めっ! 中に隠れているのはわかっているのだっ! 出て来いっ!」


「……は、入ってまーすっ」


「便所じゃねぇんだよこのボケがぁぁぁっ!」



 バンッと開いた引き戸の向こう、そこには集っている無数のモブキャラの存在……だがこちらへ入って来る様子はなく、そのまま弓を引き絞っているのだが……


 と、放ってきたではないか、ほぼゼロ距離で発射された矢を普通に回避したカレンが、敵兵に斬り掛かろうとして……見えない壁にぶつかり、ズルズルと床に落下した……



「大変ですっ! 今来た方にも壁がっ、あの破れなかった結界と同じのが張られていますよっ!」


「マジかっ、じゃあカレンが突っ込んだのも……やべぇな、こんなプール臭い場所に閉じ込められてしまったようだぞ」


「その通りだっ! 貴様等は既に袋のネズミ、ダブル麻呂様方を暗殺しようとしたこと、後悔するが良い、ギャハハハーッ!」


「チッ、どうしてこっちの動きがバレたって……まさかあいつら……」



 張られてしまった結界の向こう、今は紅白の垂れ幕がなくなって良く見える会場の隅に居る10人の女性貴族ら、その顔をキッと見ると、そのうち1人、『Say Yo! 納言』を除いた残りの9人がスッと目を逸らす。


 奴等、確実にやりやがったな、良く見たら昨日着ていた紙の服、これからプールに浸されて溶けてしまう予定であったあの粗末な服を着用していないではないか。


 それでも一応は雑魚キャラが身に着けるような粗末な服を着ているのだが……どうやら昨日のうちにあのダブル麻呂やその他犯罪組織の連中と取引したようだな。


 きっとあの後、俺達が既に結界内部に侵入していて、それとコンタクトを取ったことだけでなく、どこに潜伏しているのかなども事細かに伝えたのであろう。


 それと引き換えに10人の貴族女性らはプールイベントの『ネタ』とされるのを免除されたと、そして情報を得た敵は、俺達が現れる可能性のある全てのルートに、このような閉じ込めの罠を張って待機していたのだ。


 しかしあの宿舎のような場所、昨夜誰かが接近したような気はしなかったのだが……まぁ、敵もこの施設内については詳しいはず、情報のない俺達が、確実にそこに入ったものと仮定して準備を進めていたに違いない。


 で、それはともかくだ……この状況は非常に、いや最悪の状況と言えるな、結界は破ることなど出来ないし、そして通過するためには生贄として『○○』を1人前捧げなくてはならないのだ。


 そしてこの中には敵など居ないため、もし本気で脱出しなくてはならないとしたら、『○○』保有者の3人の中で選抜をしなくてはならないということ。


 だがそれだけは確実に避けたい、そんなことをしたら最近影が薄くなって困っていたフォン警部補が、人間としてもかなり薄い状態になる、いや、キャラは濃くなるかも知れないがあまりにもかわいそうな結末だ。


 で、先程から断続的に続いていた外からの攻撃が一旦止むと、近くで弓を構えていた雑魚兵士がプールの、いやVIP席の方へと振り返る。


 良く見ればダブル麻呂が立ち上がっているではないか、西方新大陸系の犯罪者共は相変わらず座ったまま、これからのイベントに向けた下種な笑みを作ったままであるが、麻呂である2匹だけが立ち上がっているということはそういうことだ。


 すぐに謎の笛のような、大昔の貴族的な楽器の音が鳴り響き、新たな『お偉いさん』が入場して来る雰囲気。


 そしてこの登場の仕方をしそうなのはもう1匹しか居ない、裏切り麻呂の中のラスボス、この絶対に破ることが出来ない結界を維持しているという、とんでもない名前の麻呂である……



『麻呂モッコリ様の、おなぁ~り~っ!』


『へへーっ!』


「すげぇな、ダブル麻呂だけじゃなくてあの女性貴族とか、あとは……とにかくこの都市に元から居たと思しき連中は皆地面に頭を擦り付けているぞ」


「それだけ偉い麻呂ってことね、あっ、出て来た……イヤねぇ、何よあの格好は……」


「とんでもねぇのが登場したな、ここの貴族とは一線を画すアレだぞ……」



 登場したのは麻呂……であるのは顔だけで、服装についてはもう完全に西洋かぶれの、絶対王政の何とやらとして歴史の教科書に載っていたような王様、それに近いスタイルであった。


 で、もちろんそういうスタイルの連中が身に纏っている衣装というものは、どういうわけか中心部の主張が強いというのは、おそらく誰もがご存知のことであろう。


 この麻呂モドキも例に漏れず、明らかに不自然なモッコリ感を出した衣装で……いや、あのモッコリは衣服の仕立て方によるものなどではない、天然モノの、リアルなモッコリではないか……


 危ないところであった、ここでいきなり『コッドピース野郎!』などと罵っていたら、確実にこちらが恥をかいていたところだ。


 まぁ、恥をかこうがかくまいが、現状が最悪なのは変わらないのだが、とにかく異様なビジュアルを有している麻呂モッコリの話を聞いてみることとしよう、何か喋り出す、というか挨拶めいたスピーチをするようだからな……



『え~っ、オホンッ……我が麻呂モッコリと呼ばれる上級麻呂でおじゃる、本日も舶来の衣装に身を包み、先程便所でウ○コしていて、あ~モッコリしたと思って……なぜウ○コをしてモッコリするのか、そう聞きたいのでおじゃるか? それは人間の体の仕組みが……』


『あの……すみませんが進行がアレなんで』


『アレなんで、どうしたのでおじゃるか?』


『巻きでお願い致します、はい……』


『ふむ、死ぬでおじゃる』


『あっ、はっ? あぎょぇぇぇっ!』



 麻呂モッコリのくだらない話に割って入った司会者2号、1号に引き続き、その場で即決処刑されてしまったのだが、その殺され方は実に異常なものであった。


 まるで空間が分断されるようにして小さなキューブに分かれ、それが徐々に歪み、引き伸ばされ、最後は司会者2号ごとグチャグチャに、ミキサーにでも掛けたかのように混ぜ合わされてしまったのである。


 そしてねじれた空間は、最後の一瞬でバババッと元に戻り、同時にジュース状へとなり果てた司会者2号の、いや司会者2号であった水分とタンパク質の集合体が、びちゃびちゃっという不快な音を立てて地面に落ちたのだ。


 この様子を見て驚いたのは精霊様、何か特殊でプレミアムな魔法なのか、それともこの世界の人族如きが用いて良いような技ではないというのか……



「どうしたんだ精霊様、何か問題でもあるのか?」


「いえ、今アイツが使ったの、空間を操る魔法な気がして……さすがに違うわよね?」


「何? それってヤバいのか?」


「だって、そういう系の魔法を個人に使わせるのはやっぱダメだって、この世界ではこういうのナシにしようって、そう決まっていたはずなのよ」


「確かにそうだな、転移装置とか、そういう大々的なアレだったり、あとこの間の何だっけ、ほら、何でも収納出来ちゃう箱とか、そういう感じの魔法ってことだろ?」


「そうなのよ、主に技術が進んでいる魔族においては、そういったかたちでどうにか実現しているんだけど、それを人間の力で、それも涼しい顔で使いこなすなんて……人間じゃないのかも……いえ、とにかくヤバいわよ、あれが使えるとなると……」


「うむ、ミラとジェシカが消えてしまったではないか」



 精霊様が恐れ戦き、その『空間を操る魔法』の術者が何をすることが出来てしまうのか、それを語ろうとした矢先、実際に使用されてしまったようだ。


 スッと目の前から消失したミラとジェシカ、つまり一番前に居た2人なのだが、これがドボンッと、会場内のプール、その中央に落下したのである。


 プールは深く、ミラはともかく金属製の鎧を纏っているジェシカは、おっぱいの浮力でどうにか浮かんでいるような状況。

 ここで遠くに居る麻呂モッコリの野郎や、ダブル麻呂の馬鹿共に対して攻撃を加えることは不可能だ。


 もっとも、奴等の前には俺達を閉じ込めているのとは別の結界が張られ、どのような攻撃も通ることがないよう防御されているということは想像に難くないのだが。


 で、プールに浮かんだ2人に対して、手に持った杖のようなものを向ける麻呂モッコリ……なんと、2人の鎧と衣服が剥ぎ取られ、丁寧に畳まれた状態でプールサイドに現れたではないか。


 しかもミラにしろジェシカにしろ、パンツ以外で着用しているのは……例のボロ、紙で出来た雑魚キャラ様の衣装ではないか……



『フハハハーッでおじゃるっ! 貴様等は麻呂の術によって濡れ透け、さらにはこのままプールから上がっても凄く恥ずかしい格好になってしまったのだっ! だが安心するが良い、そのユニフォームはまだおまだあるし、当然……ほれっ、でおじゃる』


『イヤァァァッ!』



 麻呂モッコリが再び杖をかざすと、今度はルビア、マーサ、マリエル、さらには英雄パーティーの配下3人が姿を消し、同じようにプール中央へドボンッと落下したのであった。


 俺の仲間達に何をするつもりだ、などと野暮なことは言わない、間違いなくここで、本来登場し、衣服を水で溶かされて笑い者にされる予定であった帰属女性らの代わりに、今外へ引き出された仲間達が使われるのだ。


 こちら側、つまりプール臭いスタッフルームの結界内に閉じ込められたままのメンバーはまず野郎が3人。

 そして遠距離攻撃やその他強力な魔法が使えるメンバー、これは結界で守られた麻呂共など無関係に暴れ回ることを恐れたためであろう。


 ということでセラ、リリィ、ユリナとサリナ、それに精霊様と……カレンが何か不満そうな顔でこちらを見ている……



「ご主人様、どうして私は取り残されたんでしょうか? ここの皆と違って魔法とかブレスでドーンッみたいなことは出来ないのに……」


「それはねカレン、ペッタンコだからだよ」


「わうぅぅぅっ!」


「ギャァァァッ! 冗談だから噛み付くんじゃないっ! 腕が捥げる……」


「ちょっと勇者様、そんなとこで仲間割れしててどうすんのよ」


「あ、ペッタンコの神様が降臨した、走馬灯かな?」


「三途の川を渡りなさいっ!」


「ギョェェェッ!」


「やれやれ、最近ご主人様が雑魚キャラみたいな悲鳴を上げることが多くなってきましたの」


「姉様、『みたいな』じゃなくて雑魚キャラそのもの……と、何かこっち見てる……」



 半殺しにされながらも、ユリナとサリナが俺のことをディスッているのを確認することは忘れない、後で尻尾をチョウチョ結びにしてやろう。


 で、そんなことをしてふざけている俺達、それを見て呆れている紋々太郎やフォン警部補ついでに外の様子に興味津々のリリィとは対照的に、精霊様の表情は真剣そのものだ。


 空間を良いように操ってしまう魔法、それをキッチリ確認して、対策を練る……いや、これは自分のモノにしてしまおうという顔だな。


 まぁ、もし精霊様がそのような魔法、もちろん御法度のものであり、女神辺りにバレると非常に厄介なこととなってしまうものなのだが、使えたら使えたで非常に便利だし、女神の方はとやかく言ってきた際に殴れば良い。


 と、そんなことよりもだ、外に引き出された8人の仲間達が、いつの間にか例の紙製衣装に衣替えされてしまっているではないか。


 そのままの状態でプールサイドに正座させられた8人、マーサが敵に飛び掛らんとして、それをマリエルやジェシカが制止するなど、冷静な者とそうでない者の差が激しいようだ。


 で、もちろんこれから始まるイベントのタネとして使われてしまう仲間達なのだが、どういうルールで、何と戦わされるのであろうか?


 俺達をここに閉じ込めている以上下手なことは出来ないと踏んで、特にこちら側のメリットが見出せないようなことをさせるのか、それとも全員の解放を条件にしつつも、そのようなことには絶対ならない、陰湿極まりないゲームに参加させるつもりなのか……後者の可能性が極めて高いな。



『はいっ! では諸君、これからイベントを開催していくでおじゃるよっ!』


『うぉぉぉっ!」


『まずはそこの敵、侵入者の女共! よくも我等の仲間麻呂をあのような目に遭わせてくれたなっ! ジャンボ麻呂もっ、雑魚麻呂もっ、既に麻呂性を喪失してパンピーに戻っているではないかでおじゃるっ!』


『何だってっ? 雑魚麻呂はともかく、あの巨大なジャンボ麻呂まで?』

『こいつら、せっかく仲間に引き入れた麻呂を……』

『処刑だっ! 処刑しろっ!』


『まぁちょっと待つでおじゃるよ、見たところこの者共は見目麗しいのでおじゃる、ほれ、そこのウサギ魔族などむひょひょひょっ……でおじゃる、よってこれより予定を変更し、この生意気なSay Yo! 納言らに代わって、この者共をドボン祭のネタとするでおじゃるっ! もちろんこちらの用意する戦士を見事全滅させたら、そのときはそっちの仲間も解放して、普通に結界、もちろんこの施設を覆う結界だが、その外へ出してやるでおじゃるっ! 二度と近づけぬよう調整してからでおじゃるがなっ!』


『うぉぉぉっ!』



 勝手に盛り上がる会場、そして先程まで暴れようとしていたマーサが、あの気持ち悪い麻呂モッコリに目を付けられていると知った瞬間に大人しくなり、今では自分の次に体が大きいルビアの後ろに隠れている。


 マーサは完全に戦意喪失だな、他の仲間達も、特に比較的力の弱い英雄パーティーの配下メンバーにおいては、周りの気持ち悪い野郎共が放つ熱気に気圧されてしまっている様子。


 その様子を見てクスクスと笑っているのは、このメンバーを犠牲にして自分達だけが助かった10人……いや、そのトップであるSay Yo! 納言だけは、この計画に加担していなかったようだ。


 笑っているのは残り9人の馬鹿女共だけであって、Say Yo! 納言本人は困惑の表情でキョロキョロしている。

 というかむしろ、せっかく仲良くなったハピエーヌが、自分のせいでこのような目に遭わされているのではないかと感じ、ショックを受けているように見えなくもない。


 まぁ、間違いなく裏切ったのは残りの9人だな、奴等についてはもう許してやらない、俺達が勝利を飾った暁には、全員敵共と一緒に縛り上げ、船に連れ帰ってお仕置きしてやろう。


 で、それはともかくだ、紙の衣装に身を包み、プールサイドに起立させられた8人と闘うこととなる、その敵となる連中が紹介され、入場を始めるようだ……



『では紹介させて頂くでおじゃるっ! 麻呂の優秀な部下、リトルモッコリ10人衆でおじゃるっ!』


『うぉぉぉっ!』



 ……柔道着のようなものに身を包んだ、変なムキムキのおっさん、しかも悉くモッコリしたそれが10人、いや10匹出現したではないか。

 モヒカン烏帽子ではなくスキンヘッドであるところを見るに貴族ではないようだが……これはかなりのモッコリ野郎共だな。


 というか、こんな連中と大切な仲間を戦わせることなど出来ない、それは紋々太郎も同じであるようで、先程から必死に結界の壁を叩いているのだが、これはもうどうにもならない。


 外の仲間達には可能な限り清潔な、おっさん共に手を触れなくて済む方法で戦って頂きたいところである。

 あのおっさんに僅かにでも触れれば、加齢臭だの何だのが臭い移りし、しばらく落ちないことなど明白なのだから……



「クソッ、しょうもないなあんな奴等と、とにかく見守るしかないか」


「でもご主人様、あの連中、特段強いわけではないようですわよ、だから外の皆なら触れずに倒すことが出来ますの、それにあの子の力なら……」


『……ちなみにっ! 麻呂の部下のリトルモッコリ10人衆もっ、公平を期すため当然に水に溶ける、紙単を着用しているのでおじゃる、よって落水すれば、そのモッコリの内容物が白日の元に晒されるのでおじゃるっ!』


「なんてこと考えやがるっ!」


『しかもこのモッコリ達の衣装、何とヌルヌルなのでおじゃるっ!』


「水上とはいえ格闘技でヌルヌル……最低じゃねぇかっ!」


『では両チーム水上に浮かべられた何か発泡スチロールのステージの上へ上がるのじゃっ!』


「とんでもねぇことになってきたな、いや、とんでもねぇモノを見せられそうだな……」



 わけのわからない、不潔そうなおっさん共と戦わされることが確定してしまった8人の仲間達、皆非常に嫌そうな顔をしている。


 だがとにかく頑張って、外へ出ることさえ出来ない俺達の代わりに、ここでどうにか勝利の糸口を見つけ出して貰うしかなさそうだ……

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