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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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824 内部では

「さてと、おいこのクソボケゴミ麻呂! サッサと起きやがれダボがっ!」


「ぎょぇっ……はっ? 何でおじゃるか、ここはどこでおじゃるか、麻呂は一体どうなって……おじゃぁぁぁっ⁉」


「思い出しやがったか、俺達はこの世界を救う英雄と勇者の連合軍、で、ここは結界の外であって、お前はもうこれから貴族位を剥奪されたうえに後で死刑に処されることが決まっている、どうだ、嬉しいだろう?」


「いっ、イヤでおじゃるぅぅぅっ!」


「うるせぇ黙れこのカス野朗!」


「ぶげっ!」



 ようやく捕まえた、というか意味不明な方法で誘き出し、自ら結界の外へ出るよう誘導することに成功した雑魚麻呂。

 とりあえずその辺にあったブロックのようなものを用いて、顔面を死なない程度に殴打し、やかましいのだけを抑制しておく。


 で、この雑魚麻呂は確かに単なる雑魚であるようで、例のトンデモ麻呂、股の下の何とやらが張ったこの結界の維持には参加していないようだ。


 雑魚麻呂が鼻血を出して気絶したにも拘らず、結界はまるで変化ナシ、薄くなるようなこともなく、当然こちら側から通り抜けるようなことなど出来ないのである。


 もちろん味方に付けた、元この雑魚麻呂に付き従っていた……わけではないが、一応対等かそれ以上の関係であるとしつつ、実質指示に従っていた雑魚キャラ共も、結界のどうこうについては知識がない様子。


 とりあえずわかっているのは、外からは通常結界内へ入ることが出来ないが、麻呂や西方新大陸系の敵キャラ、その中の上位者については、中へ入るための一定の方法を知っている可能性があるということ。


 そして、雑魚麻呂とはいえ麻呂は麻呂、しかも上位麻呂に取り入って地位を確立してきたコイツであれば、おそらく何らかの方法を知り、それを実践することが可能であるのは明らか。


 まずは慎重に、うっかり殺したりしないように、かつシッカリと効果が出るような拷問を加えていこう……



「え~っと、まずは……そうだ、元モブ兵士5号はどうした? さっきの戦いの中で果てたか?」


「あ、そういえばどうなったのかしら? 色々ありすぎてすっかり忘れていたわね」


「それなら何か向こうの方に行っちゃいましたよ、今だっ! みたいな感じでダッシュして行きました」


「あら、逃げちゃったのね」


「おいおい、とんでもねぇもんリリースしてくれたな……」


「大丈夫よ、足は遅いはずだしその辺に……っと、あそこに居るじゃないの、知能が低下した分、少し離れた場所まで行くと『安全』て判断してしまうみたいね」


「なるほど、虫けらとかが飛んで逃げたけど、意外と近くに着地してやれやれ感出しているのと一緒だな」


「じゃあセラちゃん、またアレをこっちに寄せてちょうだい」



 思いのほか近くに、見える範囲で停止していた元モブ兵士5号のバケモノ、何か形状が変化してきている、ナメクジのようなボディーが、いつの間にか両生類系の形状に変化しているような気がするが、それはまぁ放っておくとしよう。


 で、相変わらずセラの微弱な雷魔法で誘導することが出来、それをこちらへ寄せてくることは非常に簡単なことであった。


 で、近くに来た元モブ兵士5号の、どういうわけかそのままの顔、それにある人間の口からは……何か汚らしそうな汁が垂れているではないか。


 しかもその汁が地面にポタポタと落ちると、無機物である石や何やらはともかく、先程まで飛んで来ていた矢の木で出来た部分がジュッと溶けてしまっている。


 あまり強力ではないが、これは元モブ兵士5号の内部からこみ上げてきた消化液なのであろう。

 この程度なら全身に浴びたりしない限り死にはしない、いや、まともに喰らったとて、死亡日は3日後かその辺りになるはず。


 つまりこの消化液、拷問されるべきであって、その後は処分してしまうような対象に用いることが出来る夢のアイテムなのだ。


 早速モヒカン共に集めさせよう、バケツ1杯分ぐらいあれば……いや、その前に性能テストだな。

 人間に掛けると実は凄いことになる、そのような物質である可能性がないとは言えないのだから……



「え~っと、おい、そこの雑魚モヒカン野朗、お前だよお前、ちょっとそのバケモノの汁、頭から被ってみろ、試しにな」


「おおおおおっ、俺ですかっ? そんなことをしたら危なくて……そうだっ、それで負傷したら皆様のために戦うことが出来なくなってしまいますっ!」


「元から戦力として期待してねぇよお前なんぞ、というかアレだ、使い物にならなくなったらそのバケモノの餌にでもなれば良いじゃないか、もっと命を有効に使えやこのボケ」


「そ、そんな……ちょっと無理で……」


「あぁん? おいユリナ、コイツを焼き殺す準備をしろ」


「わかりましたの、え~っと、火力は『極弱火』にして、下の方からちょっとずつ……」


「ということだ、その酸か何かの汁を浴びてワンチャン助かるか、それともこの場で焼き殺されるかを選べ」


「ひぃぃぃっ! わっ、わかりました、やりますっ、このバケモノの汁に……ギョェェェッ!」


「ほう、そこそこ溶けてんじゃねぇか、おいっ、そのままちょっと汁を集めろ……って言っても無理か、色々と解けてしまうからな」


「ひぎぃぃぃっ!」



 もはや指示を聞くどころではない様子のモヒカン野朗、汁に触れた部分は表面を溶かされ、おそらくは地獄の苦しみに苛まれていることであろう。


 というか、通常の消化液はここまで強力なのか? 人間のものはそうではないと思うが、この世界のバケモノにおいては、このぐらいの消化力がスタンダードなのか?


 まぁ、それは別に良いとして、とにかくこの消化液を、まずは麻呂の……そうであった、まずはモヒカン烏帽子の部分、その中にあるコアを破壊、貴族の権限を剥奪してやる必要があるのだな……


 このモヒカン烏帽子は髪の毛のようだし、普通に消化液を浴びせてやれば簡単に溶けるはず。

 それを察したのか、雑魚麻呂は必死になってその烏帽子部分を守ろうとしているのだが、その焦った姿は実に滑稽でおじゃった、いや滑稽であった。



「……そこの麻呂、もう諦めるべきだと思うぞ、君には貴族の資格がない、というよりも、この世に存在している資格がない可能性が極めて高い、違うかね?」


「いやっ、そんなことはないでおじゃるっ、麻呂は有能で、真の雑魚キャラからここまで登り詰めた伝説の出世頭なのでおじゃるっ!」


「黙れっ、他人に寄生して、そいつの実力でついでに上がってきただけの無能だろう? そういうのが一番迷惑なんだよ、何も出来ない癖に位だけ高くてよ、国や企業がダメになる原因のひとつなんだお前のようなゴミは、わかったら覚悟しろや、おいモヒカン共、この雑魚の頭にその汁を」


『イェッ、サーッ!』


「ひぎぃぃぃっ、麻呂が、麻呂の麻呂が麻呂で麻呂麻呂麻呂ぉぉぉっ……はっ、頭が焼けるように熱いぃぃぃっ! おっ、俺は……あぁ、烏帽子が、コアが、眉毛が消えて……麻呂ではなくなってしまったのかぁぁっっ!」



 前回のジャンボ麻呂同様、頭のモヒカン烏帽子を破壊し、その中に埋め込まれたコアらしきものを破壊してやる。

 するとやはり白粉が落ち、眉毛も何もかも通常の、この島国の人間と思しき状態へと変化した。


 そしてこの雑魚麻呂に関しては、今まで着ていた貴族然とした衣服までもが変化してしまっているではないか。

 ボロボロの、質の悪い繊維で出来た布キレのような服、所々に縫ったような跡がある、かなり使い古されたボロだ。


 おそらくはこれがこの雑魚麻呂の、いや元雑魚麻呂の本来の姿、調子に乗って麻呂に、貴族になる前の『単なる雑魚キャラ』の姿なのであろう。


 先程までは中肉中背といった感じであったのだが、今はガリガリに痩せ、猫背でこころなしか身長も縮んでしまったような雰囲気の単なる雑魚は、意気消沈の様子で下を向いている。



「おう、良かったな雑魚キャラ、本来の自分を取り戻したじゃねぇか、で、次なんだが……やれっ」


『へいっ』


「ギャァァァッ! 溶けるっ、溶けるぅぅぅっ!」


「どうだ? これ以上溶かされたくなかったらだ、この結界の中へ入る方法を教えろ」


「わかった、言う、言うから溶かさないでくだせぇっ!」


「よろしい、じゃあ早く言え」


「へ、へい、この結界の中へ入るには、何というかその、獲れたての臓物を生贄に捧げるでごぜぇますだ」


「獲れたての臓物? 新鮮な……肝の臓とか心の臓とかその辺りか?」


「いいえ、捧げるのはふたつ、というか同じものをダブルで、『珍の臓』ですだ」


「○○じゃねぇかっ! ふざけんじゃねぇぞマジでっ! まともに答えやがれっ!」


「そ、そう言われましても困りますだ……」



 麻呂ではなくなったと同時に、田舎の村人系の喋り方へと変化した元雑魚麻呂であるが、その結界を抜ける方法として主張しているのは意味不明である。


 まさか生贄に捧げるのが『○○』であるなど、まぁこんな場所で臓物をどうこうするなどというグロテスクなことをしでかすのもどうかとは思うが、それにしても『○○』はやりすぎだ。


 そんなきめぇことばかりやって……と、そういえばこの結界の作成者はアレであったな、まさに『○○』を象徴する名称の、とても口に出しては言えない麻呂であったな。


 となるとコイツの言う、生贄として『○○』を捧げるという行為、それを結界通過のための条件としていたとしてもおかしくはないような気がしなくもない……



「……うむ、それでだ元麻呂の村人よ、その『○○』は誰のモノでも良いのかね? それと、生贄に捧げるということだが、その捧げられたモノは当然に消滅してしまう、その認識で良いのかね?」


「そうですだ、だから俺達はこれまで、このモヒカンとかスキンヘッド集団の中の、もうどうでも良いような雑魚の『○○』を捧げてきましただ、新支配者の方々もそれで構わんと、モヒカン如き無限に補充出来るから気にせず使って良いと仰っておりましたですだ」


「なるほどな、で、そのシステムというか、創り出したのはもちろんあの麻呂、ほら、股の下の何とかって奴だよな?」


「へぇ、創ったのは股の……いえ、この名を直接呼ぶのは宮中でもちょっとタブー気味だとされてまして、俺達は通常あの方のことを『麻呂モッコリ様』と呼んでおりましただ」


「またとんでもねぇ愛称だな……」



 本来の名前よりは幾分か呼び易くなった麻呂モッコリ様、だが相変わらずとんでもない野郎であることはその愛称だけから判断することが可能な状態。


 そしてその『とんでもねぇ麻呂』が仕掛けた、結界を通り抜けるための手法もまた、これぞ『とんでもねぇ』と言えるものであった。


 だが幸いにしてこの場にはその『○○』を保有している野郎が無数に存在しているのだ。

 出し惜しみはせず、普通にその辺のモヒカンやスキンヘッドから『○○』を引き千切り、生贄としてしまおう。


 ということでまずは……先程消化液を喰らって、今は地面に転がって悶絶しているモヒカン野朗を使うべきだな。

 どうせこのまま放っておけば死ぬし、むしろそのうち元モブ兵士5号に喰われてしまうのだ。


 その前に、一定の使い道があることが判明した『○○』を回収しておくことにより、このモブも少しばかり、その肉体を世界のために役立てることが出来る、即ち善行を積むことが出来るということ。


 これはコイツのためにもやっておかねばならないことだな、だが自分で触るのは絶対にイヤだし、紋々太郎やフォン警部補もそれは同じことであろう、破壊するのではなく捥ぎ取るのだから……まぁ、それに関しては別のモヒカン等に任せることとしよう……



「えっと、じゃあそこのモヒカンとスキンヘッド、そっちで溶けて苦しんでいる奴の『○○』を捥ぎ取れ、イヤならお前等のを使うからな」


「ハッ! しかし御大将……」


「誰が御大将だ、お前等のような雑魚を率いている自覚はないんだが……で、何かあるなら言ってみろこの雑魚」


「ハッ! 『○○』については回収するとのことですが、その中央にある『邪悪な棒』の方はどうしましょうか? 儀式に使うのでしょうか?」


「そんなもん捨てちまえっ! てかくだらない質問だな、お前は死ねっ!」


「ギョェェェッ!」


「ということだ、そっちの奴、代わりに手伝え、『○○』だけをゲットして、それをこの、何だろう? まぁ結界の際で捧げる感じでやってくれ」


「仰せのままにっ!」



 ということで、早速地面に転がっていた溶けモブを押さえ付け、素手でその『○○』を捥ぎ取っていく別の雑魚キャラ共。


 凄まじい絶叫が結界の壁に反射し、より凄惨な感じとなっているのだが、それから目を背けているのは俺を含めた野郎メンバーのみ。


 精霊様などはその光景を見て大爆笑しているし、他の仲間達もクスクスと笑っている……この行為に潜む狂気がわかっていないのか、『○○』をテイクオフするなど、本来であれば正気の沙汰ではないのだが?


 しかしその作業は滞りなく進み、溶け雑魚の『○○』はすぐに、その任を与えた雑魚の掌へと移った。

 やられた方はもうピクピクしているのだが、このまま殺してもつまらないのでルビアに治療させよう。


 その後は……いや、こんな奴に構っている暇ではないな、適当にバケモノの餌にでもしておいて、俺達は先へ進むことをまず考えなくては。


 ということでその『○○』の方を、モヒカン雑魚に命じて結界の壁に捧げさせる……



「ひぃぃぃっ! 何か『○○』が光って、エネルギーがっ……ブチュゥゥゥッ!」


「すげぇ、モヒカンの雑魚とはいえ人間が消滅しやがったぞ、凄まじいエネルギーだ」


「しかもこの力、何だか知らないけどこの結界の弱点属性のようね、ほら、結界の壁が溶けて……穴が空いちゃったじゃないの」


「……とにかく行こうか、おそらくだが、捧げた『○○』の効果が切れると、また徐々に結界が再生してくる仕掛けなのであろうからね」


「そうっすね、じゃあ行きましょうか……」



 ようやく穴が空いた結界、ここまでが異常に長かったのだが、もっとすんなりと入り込むことが出来ると想定していただけに、これは時間的な面でかなりの痛手といえよう。


 で、その穴から入った結界の中は……ちょうど良い気温に保たれ、もちろん湿度もバッチリ。

 そして静かで明るくて、町中でかつ冬の寒さが厳しい結界の外とは大違い、まさに楽園であった……



 ※※※



「じゃあ皆、万が一にも外へ出ないように気を付けてね、まぁもし出ちゃったら、外で待機しているモヒカンとかスキンヘッドを使ってまたあの気持ちの悪い儀式をすれば良いだけだけど、面倒だしね」


『はーいっ!』



 明らかにカレン、リリィ、マーサの方へ向かってそう言った精霊様と、たぶん自分に言っているのであろうと理解したうえで返答する3人。


 カレンについては既に結界の外、上空を飛んでいるフライングヒューマノイド的なUMA、もちろん特に珍しくもないようなものだが、それが気になって仕方なかったようで、うっかりすると捕まえるために飛び出しかねない状態であった。


 だがここで声を掛けられたことによって、改めて結界の内側、建物の側に意識が行った3人のうち、そのカレンとマーサが次々に何らかの反応を示す……



「どうしたのマーサちゃん? 何だかお耳が……何か見つけたのかしら」


「まぁ、カレンも反応しているってことはそういうことだろうな」


「……我が配下である新イヌマーも同様であるが、どうしたというのだね?」


「ええ、向こう、建物の中に何かが……というか人間の方ですね、ちょっとこっちを見ている感じです、向こうの方が暗いのでこちらからはハッキリ見えませんが」


「しかも凄く薄着の人ですよ、でもここ温かいし、良いのかな?」


「10人は居るわね……身構えているって感じじゃないわ、ただ見ているだけ……動きに緊張感はあるわね」


「珍しくマーサの解説が的確でキモいんだが……」



 ともあれ、敵意がないということであればそれに越したことはない、というかむしろ、俺達が来るのを待っている要救助者が、閉じ込められたその狭い部屋の窓からこちらを見ているという可能性もなくはないな。


 まぁ、ひとまずは接近してみることとしよう、これが実は罠で、この先でこちらを見ている人々が本当に助けを求めてはいるものの、そこに俺達が向かうと見越して何かを仕掛けているという感じなのかも知れないが……とりあえずそういう系には注意しておこう……



「じゃあご主人様、危ないかもなんで、私が前を歩きますね」


「待てリリィ、そういう役目は子どもにはやらせられない、たとえリリィが他のメンバーより頑丈であったとしてもだ、ということで紋々太郎さん、フォン警部補、今は雑魚キャラを連れていないんで、まぁそういうことで」


「……うむ、それは仕方があるまい」

「だよな、結局そうなるんだよな」


「だって不潔系トラップかも知れないだろうに、他の皆はとにかく俺達3人の足跡を辿る感じで来てくれ」


『うぇ~いっ』



 比較的、というかこのメンバーであれば圧倒的に足の大きい3人であるがゆえ、その足跡を辿るのは他の仲間達にとって造作もないことであった。


 だが危惧していたようなこと、つまりトラップの発動などが起こってしまうようなこともなく、俺達は順調に先へ進み、そして建物の前へと辿り着く。


 先程3人が指摘した場所にはもう人影がないようだが、明らかにその中から人の気配がする……敵ではないようだが何者かはわからないな。


 慎重に建物の窓へ近付き、その木製の窓枠に嵌められた策を掴む……中で数人が動いたような音がする。

 そしてそのまま覗き込むと……なんと、畳的なものが敷かれた狭い部屋の中に、10人の女性が座っているではないか。


 そしてなるほど薄着の極みだ、全員高貴そうな感じではあるのだが、着ているものはもう奴隷か何かではないかと思えるほどの粗末なモノ。


 もしかして徹底的な質素倹約とかそういう……いや、間違いなく違うな、この人達は敵、西方新大陸系の犯罪組織と、それから裏切り麻呂共によって捕らえられた人達だ……

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