814 皆殺し作戦
「……と、いうことなのかね」
「と、いうことなんで、ここからはひとまず犯罪組織の討伐、ついでに他3つ、青、黒、白の『始祖勇者の玉』にそれぞれ『リンゴ』でも捧げに行きましょうか」
「おぉっ、これはまた俺に活躍の場が与えられる感じだな、最近逮捕も現場で処分も、それにアクロバット自殺として処理もしていないからな、POLICEとしての腕が鈍っていないか心配だぜ」
「フォン警部補、きっと鈍っていると思うから、まずは陰湿な交通違反の取締り辺りから始めた方が良いと思うぜ、それが最もPOLICEらしい行為だ」
「おうっ、じゃあちょっと行って反則金を分捕ってくるぜっ」
話し合いの後、ノリノリで火の魔族の里を出て行くフォン警部補、近くの曲がり角で取締まりでもするつもりらしいが、そもそも西方新大陸のPOLICEが、この島国でそんなことをする権限を有しているのかが謎だ。
まぁ、本人がやりたいのであればやらせておくが、そろそろ『赤ひげの玉』開放についての祝いの宴が始まろうという時間帯に、里の外でゴリゴリに交通違反をしている奴など居るとは思えないのだが。
それでもとにかくこれからの行動は決まり、紋々太郎とそのフォン警部補の同意も得たことだし、今夜の宴が終わったらゆっくりと寝て、明日の昼前程度にはここを立つ感じのスケジュールでいきたいところである。
などと考えながら、先程勝手に帰って行った副魔王より授かりし『犯罪者マップ』を開いてみる……かなり点在している感じだな、これをひとつひとつ潰すのはかなり大変だ。
まずはともかく大き目の拠点、犯罪組織の中でもトップクラスの奴がやって来て、そこを支配しているのであろう場所を中心に、一撃必殺の攻撃で完膚なきまでに叩きのめす感じで回っていくしかないな……
「まずはこことここと、それからここ、で、『青ひげの玉』があった場所へ寄って、その次はこっちかしら?」
「うむ、どうでも良いがアレだな、俺達がこの島国へ来てから回ったルートをもう一度……ってわけじゃなさそうだな」
「そうね、そもそも見逃していた敵を叩くわけだから、行っていないし上も通過していない場所を襲撃することになるわ、もちろん小さすぎて見逃していた所なんかもあるはずだけど」
「まぁ、そういうことだよな、で、この中だとどこが一番大きい敵勢力なんだ?」
「これ、きっとここよ、ほら、私達は海上をスルーしちゃったけど、この東の方の湾内の場所、ここの敵兵力が……ちっちゃく書いてある……1,400万人ぐらいだって」
「もうそれ○京じゃねぇかっ!」
地図で指し示された場所も、そしておおよその人口というか、この場合には戦闘員の数になるのだが、その辺りがどことなくあの場所と一致している地域。
きっと元々からして大都会であり、そこの善良な住民とそっくり入れ替わるかたちで、侵入して来た犯罪組織の連中が入り込んでいるのであろう。
だが少なくとも一般人の数がゼロではないということもまた確か、囚われているのか、それとも行動は自由だが抑圧されているのか、そのどちらかである善良なモブが、俺達の攻撃によって巻き添えを喰らう可能性が否定出来ない。
これはまた問題だな、というか今回の遠征を通しての大きな問題、そう、民間人への被害を出すことが出来ない、それが許されないという問題だ。
もちろん俺達、つまり勇者パーティーのみをメイン参加者とする遠征であれば、こんな見ず知らずの土地における多少(数万から数十万人規模)の犠牲ぐらい、『残念だったね』とか、『成仏してくれよな』とか、その程度で済んでいたはずなのである。
しかし島国の英雄である紋々太郎が居る間はそうもいかない、さすがに英雄の立場でそれをするわけにはいかないし、ビジュアルに反して慈悲深いこの男のポリシーにも、ガッツリと抵触する行為であるためだ。
よって今回も細心の注意を払い、西方新大陸系の犯罪組織が潜伏している場所のみを、ピンポイントで狙っていかなくてはならない。
誤爆などもってのほかであり、もしムカつく野郎が居た場合であったとしても、それが民間人である以上は迂闊にブチ殺すことも出来ないのである。
「う~む、敵の数は多いし民間人もそこそこであろう場所……しかもどう考えても本来はこの島具の似中心であるべき都市なんだよな、マジでどうしようかこの状況?」
「そうね、町ごと消滅させるのは簡単だけど、それをするとまた困ったことに……そうねぇ、どうするユリナちゃん?」
「あら、私ですの? 私だったら……」
「ちなみにユリナ、気にせずドッカーンッはナシだぞ」
「そうなるともう手立てがありませんの」
「どれだけ引き出しが少ないというのだこの悪魔は……」
破壊による終焉以外の選択肢を持たない残念な悪魔は良いとして、その後ろに居る小さい方の悪魔、子どものような見た目をしていつつも、実は大人なので酒を嗜んでいるサリナに意見を聞いてみる……
「う~ん、そうですね……敵が1ヵ所に集中している時間に、その場所のみを狙って比較的大規模な攻撃、その後に徒歩で突入して、生き残りを軽く捻る、または降参させてから処刑する感じでどうでしょう?」
「1ヵ所に集中か……いや、どんな状況で敵がそうなるんだ?」
「それは……えっと、例えば朝方ですね、業務開始前の『魔導ラジオ体操』の時間を狙うとか、どうです?」
「遂にラジオ体操まで魔導化して登場したか、もう何でもアリだなこの世界、しかしそれはそれでいけるかも知れないな、よし、選択肢に加えておこう」
とにかく敵の大集団であるその都市への襲撃は朝方とし、そこからはそれを前提とした時間的な予定を立てていく。
他の小規模な敵集団、おそらくその辺に勝手に作った拠点であって、そもそも現地住民が居ないような場所は、普通に上空から攻撃して滅ぼしてしまえば良い。
だが人の居そうな場所に関しては、その都市攻撃を組み立てる際と同様に、細心の注意を払ってダメージを与えていかなくてはならないのだ。
もっとピンポイントで、正確にかつ周囲への被害を最小限に抑えつつ、しかも低廉な時間的コストと労力で攻撃することの出来る、非常に優秀な仲間が居れば……
と、そういえばわんころもちの魔力はどうであろうか? そのあり余る膨大な魔力を、何かの魔導装置を用いて攻撃性の高いものにに変換して……というわけにはいかないのであろうか?
「なぁ精霊様、精霊様の弟子? なのかわからないが、わんころもちの奴は凄い魔力を内に秘めたる存在であって、究極の力を行使すべき存在たり得るゴリゴリの強者なんだよな?」
「カッコイイ感じで話すかフランクに話すかどちらかにしなさい、で、確かにあの子の魔力は強大よ、でも今のところ使いこなせてはいないから、今後の成長に期待って感じよね」
「でもさ、それでもさ、魔力自体を取り出してしまうことは出来るんだろう? 普通に便所でするみたいにキバらせてさ」
「あんたは言い方がアレなのよいちいち……で、そのことなんだけど、一応は可能だし、きっとあんたが考えているのであろう軍事目的での利用も普通に、ごく当たり前のように可能よ」
「そうか、じゃあその力を用いて大量破壊兵器を作ろうぜ、すんげぇのを所望するよ」
「すんげぇのね……いえ、エネルギーの変換効率的にこの世界丸ごとは消せないけど、最低でもこの島国が『最初から存在していなかったことになる』ぐらいの力は取り出せるわね、あとはもうちょと研究して……世界は消えないけど、全ての生物がその生命活動を終えるぐらいの攻撃を放つことが出来れば良いかしら?」
「いや、何もそこまで……」
精霊様に任せておくととんでもないことになってしまいそうな予感だ、ワックワクで攻撃を放ったと同時に人類、どころか世界最強の存在である『台所のG』辺りまで滅亡してしまう勢いだ。
俺が求めているのはそれではなく、この島国に蔓延っている鬱陶しい『G』ではなく、まぁ似たようなものではあるのだが、とにかくゴミ共を清掃することなのである。
よってそこまでの威力は要していない、せめて敵の砦をひとつ、上手いこと破壊することが出来る程度の威力を有する兵器が欲しいのだが。
まぁ、それは高望みしすぎか、この世界ではだいたいのことが0か100、つまり何も良いモノが手に入らないか、或いはオーバースペックの極みなるものを授けられるのが常である。
今回もおそらく、想像を絶するような、国際条約をもって禁止に追い込まれるような何かが完成してしまうに違いない。
だがそんなモノでもないよりはマシということで、その場で直ちに伝令を出し、遠征スタッフの中に生き残っていた魔導兵器に関する技術者に対し、『もうどうなっても良いから強い魔導兵器を作成してくれ』という内容の通達を発しておいた。
これでしばらくすれば『すんげぇの』が出来上がってくることであろう、俺達はそれを用いて、もちろん空中からの攻撃によって、地上を這い蹲っているゴミ犯罪組織の構成員に対して制裁を加えるのだ。
なお、発注した『すんげぇの』の仕様書には、敵の砦をキッチリ殲滅するものの、その中で捕らえられていた善良な人々を害しないこと、そして敵の構成員であっても、可愛い女の子が居た場合にはその子についてダメージを与えない、その機能を確実に搭載するよう命じ、極端に渋い顔をされたのであった。
で、当該魔導兵器に関しては材料となるものを予め船へ積み込み、出航後に急ピッチでさぎょうを進めることにより、最初に発見することが出来るであろう敵の拠点、その上空へ差し掛かる頃には完成を見るように調整しておく。
その話を終え、そこから先は純粋に宴を堪能した俺達、紋々太郎の口から里の上層部へ、翌日の昼には出発する旨を伝えて貰い、その後お開きと同時に宿泊所へと戻ったのであった……
※※※
「それではお気を付けて、良い旅をどうぞ」
『うぇ~いっ!』
翌日、完全に準備を終えた俺達は、謎の魔導兵器についてその作成が進む空駆ける船へ乗り込み、二度目の訪問であった火の魔族の里を後にする。
お土産には大量の野菜、マーサ曰く火山灰の降り積もった土地で良い感じに出来たこの野菜はどうのこうので、とにかく凄く良いらしい、そういう説明を長々と受け、まるで理解していない。
で、地上に向けて手を振っていると、徐々にその高度を上げていく空駆ける船、現在は女神より提供された良くわからないコアの力で動いているのだが、それ以外にも非常動力は存分に用意されているので安心だ。
そうして火の魔族の里が見えなくなった頃、遂に『何か』を作成していたスタッフから、遠征軍の代表者である紋々太郎へと伝達が入る。
どうやら『すんげぇの』が完成したようだ、紋々太郎も、もちろん俺や精霊様もそうだが、甲板のビアガーデンにてマリエルらと優雅にお茶をしていたわんころもちを引っ張り、無理矢理連れ去るかたちでその兵器の設置された甲板後方へと向かったのであった……
「ちょ、ちょっと何なんでしょうかこの筒? みたいなのは、もしかして私をこれに入れて飛ばしたり……ひぃぃぃっ! ちゃんと頑張って役に立ちますからっ、どうかこん筒に放り込んでどこかへ捨てるのだけは……え、違う?」
「そうだ、これはわんころもち、お前だけに使用出来る兵器なんだ」
「……もちろん持たせている英雄武器、『ドス』だね、それよりも遥かに強く、君の本来持っている力を存分に発揮することが出来る夢の超兵器だよ」
「まぁ、『ドス』を超えているからな、『超弩級』とでも言っておこうか、とにかくとんでもねぇアレだ、マジですげぇぞ」
「は、はぁ……そうなんですか、それはそれは……」
「イマイチ反応が薄いわね、シャキッとしなさいっ!」
「わふっ、くーん……あまり強く叩かないで下さい……」
この素晴らしい平気の存在について、そこまで感情を表現してこないわんころもち。
まぁこれがどれだけ凄いモノなのかわからないのであろう、正直俺も全くわからない、単なる大砲にしか見えていないのだ。
ということで、まずはともかくこの大砲的な兵器に関しての説明を受けることとしよう。
解説者は作成に関わった名もなきスタッフらのうち、明らかに上位者と思しき髭の、そしてハゲのおっさんである……
「え~っ、この兵器はだな、人間のもつ魔力を吸収して、それをこの筒のこの部分、まぁ根元だな、この下に設置されたふたつのタマタマに蓄積する、それで……」
「おいちょっと待て、もうコレ完全にアレだろう、ポコ○ンのイメージで製作しただろう?」
「ほう、良くわかったな、さすがは異世界勇者殿といったところか、このモチーフとなった物に気付くとはな、やはり常日頃そのようなことしか考えていないタイプのゴミ人間であったということか」
「いや、ブッ殺されてぇのかマジで……」
いちいちディスッてくる棟梁的、親方的なおっさんであるが、その言葉が俺をとてつもなく傷付けているということに関して善意無過失……いや有過失ではあると思うが、少なくとも悪意ではないため可能であればスルーしたいところ、まぁムカつくにはムカつくのだが。
で、その出来上がった究極の魔導兵器、どう考えても空駆ける船に設置された『主砲』、それに上書きするかたちで新たに出来上がった『本当の主砲』的なものの、きっと凄まじいであろう力を試してみよう。
そう思ったところで、ちょうど甲板の先端から伝令が入る、適当に設定しておいた第一目標、西方新大陸からやって来た犯罪組織の連中が、勝手に山奥に拓いたと思しき砦が見えてきたのである……
「おい、ちょっと急げ、通過してしまうと戻るのが面倒だからな、わんころもち、その『銃座』に座るんだ」
「えっと、コレ、安全なんですよね?」
「たぶんな、知らんけど」
「恐ろしく不安なひと言を頂いたんですが……え、ちょっと、まだ私座るなんて言っては……あのぉっ! ちょっと待ってっ!」
「ダメよ、待てないからここは諦めなさい」
「そんなぁ~っ」
ということで銃座に着いた、いや精霊様によって無理矢理にセットされてしまったわんころもち。
手許にあるレバーを握るよう指示され、仕方なくそれに手を触れると……いきなり魔力を吸い出されているようだ。
ズオォォォッと、凄まじい勢いで吸われていく魔力、その被害者であるわんころもちは……普通に困惑した表情で、特にダメージなど感じることなくそこへ座ったままである。
おそらく俺が一生の間で用いる魔力の5万倍の量は既に吸い取られているわんころもちだが、その程度は蚊に刺され吸い取られてしまった血液の量とさほど変わらないらしい。
「あ、あのっ、ちょっとくすぐったいんですが……」
「それで『くすぐったい』程度とか、あんた本当に凄いわね、この世の、しかも低層の生き物とは思えないわよ」
「……素晴らしい、それだけの魔力を吸われたのが我であれば、きっと既に死亡している頃だよ」
「俺ならもう粉微塵だね、吸われ初めて5秒後にはカッサカサになって、10秒で風化する自身があるよマジで」
「あ、えっと……そうなんですね、それで、私はこれからどうしたら……」
「そうだな、そろそろ最初の敵陣上空なんだ、ここで『皆殺し作戦、発動!』とでも言ってくれると助かるぞ、しかも凄い気合入った表情と声でな」
「そ、それは恥ずかしすぎますから、ちょっと無理です」
「まぁ、無理強いはしないさ、だがそろそろその『皆殺し作戦』は発動だ、5秒前……4……3……」
カウントダウンの後、わんころもちの膨大な魔力のごく一部を吸収した『主砲』が唸りを上げる。
方針の先端に掻き集められた凄まじい魔力、紋々太郎が持つ英雄武器、『ハジキ』のおよそ10万倍の魔力だ。
それが敵陣を、山の中の少し開けた場所で呑気に、まるで自分達が最初か入植していた土地であるかの如く調子に乗っている、西方新大陸の腐った犯罪組織の末端構成員の所へ……凄まじい勢いで発射されて飛んで行った。
敵陣の半径はおよそ100m前後、それ以外は鬱蒼と茂っている森……この威力はいわゆる『やりすぎ』ではないのか、そう思った矢先、全てを察した俺の横の精霊様が、手で目を覆い、口を開けて耳を守る姿勢で蹲ったではないか、これは普通にヤバい。
「ちょっ、おいっ! 衝撃波が来るぞっ!」
『イヤァァァッ!』
大きな悲鳴を上げたのは興味津々で覗き込んでいた仲間達、だが同時に、この巨大な魔力が何を成すのかについてわかっていたセラや精霊様は、冷静に防御のための措置を取ったようだ……ちなみにユリナやサリナ、エリナはわかっていつつ自分達だけ逃げ出した、後でお仕置きだな。
それで、遠くの、敵の拠点がある場所の地上へと直撃したその魔力の塊によって、セラと精霊様の防御はギリギリで打ち破られ、周囲へも多少の被害が広がってしまったのであった……
「ふぅっ、敵は全滅……じゃなくて消滅ね」
「精霊様、他の被害の方はどうだ? 森も多少アレになってしまったみたいだが……」
「そうね、腐葉土の中も含めると、死者数は5,000兆とかそのぐらいだわ、決して少ない数字じゃないわよこれは」
「うむ、頼むからその犠牲者の中にプランクトンとかを入れるのはやめてくれ」
なにはともあれ、これで最初の場所に居た敵の集団は、一切顔を会わせることなく、その鬱陶しさや気持ちの悪ささえ確認することなく、一瞬にてこの世から消え去った。
ここから先も、少なくとも敵の『島国内における本当の拠点』と思しき場所へ到達するまではこれで、このわんころもちの魔力を用いた作戦でいこう。
とにかく遠隔でブチ殺して、余計なイベントを生じさせたり、無駄な人助けなどに現を抜かすことのないよう、一直線に目的の達成を目指していくのだ……




