813 次の行動がこちら
「……ということでですね、もし『始祖勇者の玉』に『リンゴ』を捧げて、それが完全な状態になったとしてもです、魔族領域にある、あのそれぞれの方角の四天王に守らせていた玉ですね、それの力が直ちに失われるようなことはありません、残念でした~っ」
「残念じゃねぇよコラッ」
「ひぎぃぃぃっ! そ、その棒で突くのはやめて下さいな……」
「しょうがねぇな、で、直ちには効果を失わないものの、失わせることが出来るって認識で良いんだよな? その方法を具体的にどうぞ」
「破壊するんですよ……同時に、寸分の狂いもない全くの同時に、あれだけ離れた場所にある4つの玉を」
「それに失敗して、例えば0.001秒ズレたりしたら?」
「もう大爆発ですね、この世界はお終いです、ついでにご存知だと思いますが、あの4つの方角のコアを担う玉、動かそうとしただけでも相当にヤバいですからね」
「あっそう、わかったよ」
「本当にわかったんでしょうか……」
俺達も知っている事実、元々居た大陸、つまり王都があって、王国があって帝国があって聖国があって、ついでに言うとその周りを全て魔族領域に囲まれているあ場所において、その族領域を維持しているのは謎のコア的なもの。
それぞれが魔王軍四天王のお膝元に鎮座し、瘴気で溢れ、人族が入り込もうものであればたちまちに毛根が死滅してしまうという、恐怖の魔族領域を維持するための謎の、正体不明の玉だ。
で、そのコアだか玉だか何なのだかわからない、とにかく玉であるが、移動することが出来ない、いや、正確には移動するとヤバいことになるとの予測が立てられたため、各地域の四天王討伐後もそ音ままとなっているのであった。
副魔王はそれを『破壊』しないと、せっかく俺達が頑張って開放したこの島国の4つの玉、魔王軍が守る魔族領域の4つの玉に呼応するかのようなその玉に関する行為が、ほぼほぼ無駄になってしまうのではないかというような趣旨の発言をしているのだ。
そんなこと、冗談ではないという以外に何が言えるであろうか、とにかく俺達はこの島国の『始祖勇者の玉』を開放した、その努力が無に帰してしまうなど、無様に死んでいった名もなき遠征スタッフの方々に申し訳が立たないではないか。
……と、まぁそんなところではあるが、俺達にとってその副魔王が言う到底無理そうな行為、寸分狂わず4つの玉、東西南北に分かれた魔族領域の玉を破壊するということが、実は至極簡単であるということを付け加えておかねばならないな。
まぁ、別に俺達が、人族や魔族、ドラゴンに異世界人に精霊、そんな生身の生物がそれをやってのけるわけではない。
そもそも正確なのはこのうち数名の『腹時計』ぐらいのものであり、離れた場所で以心伝心、極めて正確な時間の共有など、出来るはずがないのだから。
こういうのはもう『マシン』や『ロボ』の出番なのだ、そして俺達にはその用意がある、実に簡単で、これ以上の準備が必要ないことは言うまでもない……もちろんそのマシンだのロボだのが、そういったことを得意としているという勝手な予想のをしてのことではあるが……
「んで、その玉は同時に破壊すれば良いんだな? それ以外に何か情報はあるか? 例えばその破壊によって、上空の魔王城がどうなるとかならないとかだ」
「本当に破壊するつもりですか? まぁ失敗するのは目に見えていますが、だからこそ教えてあげましょう、もし、もし『玉撃破』の作戦に成功したとしたら……」
「成功したとしたら?」
「きっと魔王城は空に浮かぶ力を失ってしまうでしょうね、あの浮遊はこの世界に溢れる瘴気を吸い上げて、ついでに人々の負の感情とか何とかかんとか、そういったありがちなものも掻き集めて浮かんでいるんですから」
「いやいや、そんなグダグダな感じで飛んでんのかよ魔王城、結構危ないだろうにそれ……」
通常であれば安心及び安全に努め、地上に被害を及ぼすことがないよう最大限に努めるのが、現在の魔王城のような空飛ぶ城の支配者の慣わしだ。
だが魔王はそのようなことを考えてはいないらしい、なぁなぁな感じで、とにかく適当な力を掻き集めてその浮力へと変換している、これはとんでもないことではないか。
もしその極めていい加減な力が、矛盾の極みによって成り立っている、いや本来は成り立ってなどいない虚構のエネルギーであり、それに気付いた瞬間に、気の持ちようとか何だかんだで消滅してしまったらどうなるのであろうかということ。
それを全く考えずに飛んでいる魔王城は今や危険の塊に過ぎず、いついかなるときに人々の頭上へ降り注ぐ巨大な隕石のようなものへと変貌するのかわからない、想像を絶する『ダメなモノ』であるのだ。
もはや魔王城はアレだ、いつ落ちて来るのかさえわからない巨大スペースデブリのようなもの。
これはまたサッサとどうにかしないとならない、その理由が増えてしまったな、魔王め、いい加減なことばかりしていた報いを受けさせてやろうぞ。
「それで、他に聞きたいことはありますか? 私の方から質問しておきたいこともありますし、何か聞いておくなら今のうちですよ、差し支えない程度で答えますから」
「クソッ、一応は捕まっている分際で態度がデカいな、まぁいつでも逃げられるという余裕か……で、他に聞きたいことは……何だろうか?」
「勇者様、世界全体のことも良いですが、現状で西方新大陸の悪い方々に汚染されつつあるこの島国、それについてこの副魔王の方と情報を共有しておいたらどうでしょうか? 何か役に立つことがあるかも知れませんし」
「おっと、そうだったな、おい副魔王、この島国にいるおかしな連中を知っているだろう? 主に『ダンゴ』とかキメて強化している人族だ、それについて何か知っているか?」
「あ、ええ、もちろん知っていますし、何百人かぐらい殺してはいるんですが、それがどうかしましたか?」
「いやな、奴等の本拠地的なところは潰したんだが、それでもなお……と、この辺りはちょうど今来ているフォン警部補が大変詳しい」
「はぁ、あのおじさんですか、てっきり何か付いて来ているだけの知らないおじ参加と思ったんですが……」
「そう言ってくれるな、こう見えても主要キャラなんだぞ俺は」
「フォン警部補、主要キャラ『だった』の間違いじゃないのか? あの出会いとか、共に西方新大陸を駆け巡ったこととか、俺はともかくほら、ここの馬鹿な連中はとっくに忘れているぞ」
「ご主人様、どうして私の方を見て馬鹿って言ったんですか?」
「別に何でもないぞ、ほら、カレンに言ったわけじゃなくて、その後ろに居るルビアに投げ掛けた言葉だ」
「聞き捨てなりませんね、最近思ったんですが、多少は馬鹿であってもご主人様よりは幾分かマシ……いててててっ、参りましたぅt、もっとお仕置きして下さいっ!」
話が逸れてしまったのだが、とにかく西方新大陸からやって来た犯罪組織の連中、つまりこの島国での『本来のターゲット』については、本拠地らしき場所をどうこうしても、今だ残党、いや、もしかしたら本命が残っているのかも知れないという状況。
これではせっかくここまで付いて来て、しかも西方新大陸の公務員という立場上、俺達のように好き勝手して、好きなように利益を追求することが出来ない、単に手柄を立てることしか出来ないフォン警部補の目的が達成出来ない。
ということで目指すは『西方新大陸から来た犯罪組織連中の完全なる殲滅』、そしてそのために、俺達とは少し違う視点でこの島国を見てきたはずの副魔王、その見識をこちらに共有して貰う必要があるのだ……
「でだ、このかわいそうなおじさんに敵の情報、つまりお前がこれまでこの島国にて目撃した、明らかに西方新大陸のやべぇ奴等だろこれ、みたいな連中の情報を提供してやってくれないか」
「勇者殿、俺はかわいそうなおじさんなのか? ハゲですらないのに?」
「まぁそこは良いにしてくれ、フォン警部補をもっともそれらしく表現する言葉としては、もうそれ以外に思いつかなかったんだよ、ご愁傷様だ」
「何だか凄い言われようなのだが……とにかく勇者殿の敵である魔王軍の幹部とやら、このかわいそうな俺に少し情報を恵んでくれないか?」
「あの、どこのPOLICEかは知りませんが、その見た目による推定年齢がその通りだとしたら、階級が警部補なのは至極妥当なんじゃ……」
『いや、そういう問題ではなくてだな……』
おそらくではあるがこのままだと話が進まない、ということで一旦雑談を区切り、以降は必要なことについてのみ触れるようにと釘を刺したうえで会話を再開する。
で、空を飛べる、しかも何か知らんがワープ的なことも少しは出来る様子の副魔王は、これまでも俺達の知らない場所で、未知の『西方新大陸系犯罪者集団』の姿を見てきたようだ。
それは時折向こうから攻撃を仕掛けてくるものであり、その場合には直ちに反撃、跡形もなくなるまで……といってもその間1秒程度だが、とにかく消滅するまで攻撃を加えて、特に殲滅を確認することなく飛び去ったのだという。
そして当然それ以外にも西方新大陸系らしき連中の拠点を見てきたが、特に気付かれない、気付かれても恐れ戦くばかりで何もしてこない連中は全てスルーしてきたとのこと。
また、念のためそういう連中の居場所を、島国のマップと照らし合わせて確認していたらしい。
ならばそれが役に立つ、ということで副魔王には、その『島国敵らしき何か布陣マップ』を提供させることとした。
それ以外には何か聞くことが……考えなくてはならないな、しかし考えてもそう簡単に、この場で聞いておくべきことを思い付けなどと……かなり不可能に近い話だ。
とりあえずまた雑談でも挟んで、そう思ったところで、今度は逆に副魔王の方から話し掛けてくる……
「あの、そろそろ良いですか? 時間も時間だし、最後にこちらから聞かせて頂きたいこととか、もちろん無理にとは言いませんが、今後のためにも少し聞いておきたいことがいくつか……」
「あぁ、そういえば最初に言っていたな、だが俺達の弱点なんかは教えられないぞ、いくらそっちが切羽詰っているからって、俺達は敵に塩を贈るような真似だけは絶対にしないんだ」
「いえ、弱点ならわかっていますよ、主人公たる異世界勇者の知能が絶望的に低いことですよね? 仲間も比較的低能ですし……まぁ、それがこちらの油断を招く結果となってしまって、現在の戦況があるわけなんですがね」
「おい、ちょっとコイツはボコボコにしてしまおうぜ」
『うぇ~いっ!』
「あっ、ちょっとっ、やめっ……やめてぇぇぇっ!」
檻の中で落ち着きつつ調子に乗る副魔王、いくら簡単にそこから脱出することが出来るとはいえ、現在が俺達によって囲まれている状況だということを忘れてはならない。
ということで、檻越しではあるが寄って集ってボコボコに、もちろん魔族の子達は立場上参加しないが……と、居なくなってしまったではないか、どうやら……上か、檻から出て上空へ避難したようだ、ちなみにまだ殴り足りないし蹴り足りないな。
で、多少はダメージを負った様子の副魔王は、そこから自分の知りたい俺達についてのことを、上から目線で問い掛けるつもりでいるようだ。
「全く、本当に危険極まりない暴力集団ですねあなた方は」
「お前に言われたくねぇよこの人殺しめがっ!」
「人殺しはあなたもでしょう、もうすぐに殺すんですから、そのことについては十分に知っていますので誤魔化しようがありませんよ」
「何だ、知っていたならそう言えや、でも安心して良いぞ、俺は女の子は殺害しないからな、たとえお前のような巨悪であっても、魔王であってもだ」
「そうそう、実はそれを聞きたかったんですが、ホントに大丈夫ですよね? 魔王様、戦況が悪化してからかなりビビッてしまっているようで、これまでのデータからして処刑されたりすることはまずないとお伝えしてはいるんですが、それでも確証がないと言っておられて……」
「そういうことか、じゃあえっと……マリエル、なにかこう、アレだ、文書のようなものを用意出来ないか? もちろん公正証書で、『魔王および副魔王(但、女性に限る)は、戦闘終結後においても死刑に処さないことを確約する』みちなのをな」
「わかりました、速攻で伝書鳩を送りますので、きっと来週には発行されると思います」
「ということだが、どうだ?」
「いえ、対応が早すぎて、もしかしたら有能なんじゃないかと錯覚してしまうほどなんですが……」
「いや俺とかめっちゃ有能だから……だよな? え、違う? そんな馬鹿な」
ということで俺達の基本スタンスが、魔王軍の大幹部たる副魔王や、魔王そのものに対しても変わらないことを確認した。
しかしコイツが聞きたかったのはこのことだけなのか? そのためにわざわざ時間を作って、そしてそれに先立ち、自分達が不利になる可能性がある情報についても俺達に伝えたというのか。
いや、そんなはずはあるまい、現に副魔王の奴は今だその場に留まり、そして少しばかり渋い表情をしているのだ。
これは何かもうひとつ、ないしそれ以上がある、そしてそれは単に質問事項というだけでなく、おそらく何らかの要望を含むものなのであろう。
まぁ、それを受け入れるか否かについてはこれから、とにかく話を聞いてみてから決めるのだ、それ以外に選択肢はないからな……
「それで、まだ何か言いたそうだが、何だ?」
「えっとですね、これは質問というか何というかなんですが、あ、私や魔王様からじゃなくて、もう1人の副魔王からなんですが……」
「チッ、野郎からの質問かよ、基本的に不受理だし、話し掛けてきた時点で殺すのだが……まぁ、お前が代理でって言うなら一応聞いてやる」
「へへーっ、あり難き幸せ……じゃないでしょっ、どうして敵に土下座しなきゃなんですか私はっ」
「いや、空中で土下座されてもな、で、早く内容を話せ」
「それがですね、もう1人の副魔王、まぁ男の方なんですが……こっちもどうやら殺されたくないようでして、ワンチャン自分が助かる、討伐されたり処刑されたりするのを回避出来ないかと……」
「あっそう、で、そいつに関してお前は、それに魔王もどう思っているんだ?」
「……普通に死んで欲しいです、汚いし臭いし、魔王様も同じ気持ちだと思いますよ」
「そもそもそんな奴採用すんなよな……まぁ良い、その申し立てについては却下だ、野郎の方の副魔王、というか声だけは聞いたことがあるが姿は見たことないんだよな、でもそいつに関しては当然に死んで貰う、魔王軍の侵攻についての全責任を負って、無様に、大変辛く苦しい方法でな」
「やっぱり……では本人にはそう伝えておきますね、きっと必死で抵抗するし、最悪魔王様による戦闘停止命令が出ても聞かずに暴走するかもですが、それはもう仕方ないですね、死にたくないんですから」
「……あ、何か今のアレだな、嘘でも良いから適当なことを、『助かるんじゃない?』的なことをいっておけば良かった感じだな……」
もちろんそのような嘘はすぐにバレるであろうし、そもそもこれまで野郎の敵キャラについては悉く……というほどでもないが、大半を殺害ないし処刑している俺達だ、まず今目の前に居る副魔王(女)が信じてくれないであろう。
それゆえ本人もここで俺達がどうこう言ったに関係せず、最後の悪あがきとしてメチャクチャな攻撃を仕掛けてくるのは必至。
俺達はそれを迎え撃つまでであり、可能であればそれによる人的被害を最小限に抑える、それだけが仕事なのだ。
とはいえ相手は副魔王、これまでよりも更に熾烈な戦いとなり、その辺の一般人における犠牲者数は相当なものとなってしまうであろう。
それはもちろんこちらの副魔王、つまり今目の前に居るこの女との最終決戦においても同じこと。
数多くの死傷者が出る、それも民間人にということは、当然そこには重大な責任が生じるのだが、その全てをもう1人、いや1匹の副魔王野郎に押し付けてしまおうというのが、今の俺の考えだ。
そうすればこの見た目だけは可愛らしい副魔王も、そして同じく可愛らしい見た目の魔王についても、そこまで酷い目に遭わせることなくこの件を、俺がこの世界に転移させられたそもそもの事案を幕引きに出来るのだから……
「と、まぁそういうことだ、ゴミムシ副魔王ウ○コの方にはアレだ、貴様だけは絶対に許さん、髪の毛1本もこの世に残さず消えて無くなれこのカスがっ! とても伝えておいてくれ」
「会ったことさえないのに凄まじく辛辣ですね、あとあの方、もう髪の毛1本もこの世には残っていないハゲだったような……」
「何だハゲかよ気持ち悪りぃな、死ねって言っておけ」
「いえ、まぁ最近は毎日あり得ないぐらい髪型が変化していて、たまにズレたりしているのでそんな気がするというだけで、別に確証があるわけじゃなくてですね……」
「そんなもんもうズラに決まってんじゃねぇか、死ねって言っておけ」
「わかりました、次の幹部会議の際には二度に渡ってキモい死ねこの豚野郎、サッサと出荷されて食肉処理されやがれと言っておきます」
「いや、そこまでは言っていないんだが……とにかくアレだな、そっちの副魔王は殺すとして、まずは俺達、島国でやり残したことをやってからそちらの対処に移るから、首を洗って待っておくようにと同時に伝えておいてくれ、汚ったねぇと困るから消毒もしておけとな」
「ええ、わかりました、それでは……」
そこでスッと消えてしまった副魔王、どうやら出入り口から普通に、しかし音もなく超高速で出たようで、カレンだけが反応して一瞬目で追っている感じであった。
さて、この島国における『始祖勇者の玉』の件についてはとりあえずカタが着き、次のステップ並行するまで一旦保留だ。
ここからは最後の総仕上げとして、副魔王から聞いた犯罪組織の連中の居場所を攻撃……そうだ、空駆ける船から爆撃してやろう……




