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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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812 追加対応は

「……うむ、では一度地上へ戻ろうか」


「そうっすね、この『赤ひげの玉』は確かに開放されているみたいだし」


「他の『始祖勇者の玉』との連携もバッチリみたい、このまま放置しても2万年は大丈夫だと思うわ、変な再封印とかされない限りね」


「2万年とか、いちいち壮大だな何でも……」



 精霊様の鑑定により、開放された『赤ひげの玉』がこのままでも大丈夫で、他の玉と連携して動作していることが確認された。


 これによって俺達はもうこの地下空間に用がなくなり、火の魔族の里の地上へと戻ることが可能となったのである。

 もちろんこれで終わりではない、ミッションを完遂したように見えて、実はまだ追加でやるべき手続きが残っている、その可能性があるのだ。


 これを忘れて帰還してしまえば、その不足している事項を修正することにつき、また長旅をしてこの地を目指さなくてはならないという、大変骨の折れる事態となりかねない。


 ゆえに、『始祖勇者の玉』について最低限のことを、その効果を十分に発揮させるための情報程度は集め、問題ない、帰っても大丈夫だと思える程度にはしておかなくてはならないのだ。


 それに、この島国にも、そして西方新大陸にも、それぞれその土地で何か起こった際の拠点となる場所を設置しておかなくてはならないということもある。


 玉の開放が終わったからといって、直ちに帰還出来るわけではないのだ、それに玉に関しては俺達の目標であって、この島国を訪れた本来の目的はまた別にあるのだから……



「はいっ、じゃあ戻るわよ、良いわね? 忘れ物はないわね? 魔法陣を作動させるわよ」


『うぇ~いっ』


「OK、じゃあ狙って……それっ!」



 精霊様が放った水の弾丸によって、本来であれば1人がそこに残り、犠牲となるはずの『操作ポイントが遠い系脱出装置』が作動する。


 すぐに火の魔族の里の井戸の横へと戻った俺達は、遠くに見える帰還している最中の『担当者』を見て渋い顔をし、中指を立ててその横を通過……いや、やはり殴っておこう、本当にムカつく野郎だからな。



「おうおかえり『担当者』、早速だが死ねやオラッ」


「やぁっ、ブチュゥゥゥッ!」


「ケッ、ざまぁ見やがれってんだゴミ野郎が」


「勇者様、そんなことばかりしているからホンモノの異世界勇者なのかどうかを疑われるんですよ」


「おっと、そうだったな、じゃあ次からは顔じゃなくてボディーを狙うわ、こういったゴミムシのような輩を無駄に殺すのはやめないがな、ギャハハハッ!」


「あ~っ、ちょっとっ、そんな汚いモノを踏み潰さないで下さいっ、変な汁が飛んで来たらどうするんですかっ」


「フハハハーッ、良いではないかーっ、良いではないかーっ!」


「いやぁぁぁっ! 汚いですからもうっ!」



 顔面の潰れた『担当者』の死体を踏みにじり、ミラの方に変な汁を飛ばして遊んでやる。

 コイツはどうせまた蘇生するのだが、このぐらいの扱いは受けても仕方ないレベルの鬱陶しい奴だ。


 で、戻った宿泊所では仲間達が、ダラダラと無駄な時間を過ごしながら出迎えてくれた。

 俺達が『赤ひげの玉』の開放に成功したことを告げると、一瞬盛り上がった後にそれぞれの、雑誌を読むなどのタスクへと戻って行く。


 そんな仲間達の中からセラを引っ張り出し、とにかく里の上層部へ報告、それと次の行動の摺り合わせもしておこうと告げ、外で待つ紋々太郎、そして出て来ていたフォン警部補と共に、里の主要な建物へと向かったのであった……



「……と、いうわけで、我々は『赤ひげの玉』を開放することに成功した、ご協力感謝する」


「ふぉっふぉっふぉっ、それは良かったですの、ところで……魔王軍の、副魔王の方はどうされますかの? もうずっとこのライディング姿勢のままここに転がっておられるのですが……」


「やべぇ、忘れてたぜ、そうだよな、ここは一応魔族の里なんだし、魔王軍の大幹部をあまり無下に扱っていたら拙いこともありそうだからな、ちょっと……どうしましょっか?」


「勇者様、今は一応こっちで引き取ることにしないかしら? 船に行けば魔力を奪う金属で出来た丈夫な牢屋もあるし、そこへ運び込みましょ」


「そうするのが最善かもな、わかりました、とりあえずコレ、持って帰りますんでよろしく」


「ふむ、では高い身分の者が乗るのに相応しい台車を用意致しますのじゃ、豪華絢爛な」



 豪華絢爛な台車というのがどういうものを示しているのであろうかと、とても気になってしまったのだが、やって来たのは確かに豪華な装飾の施された金ピカの台車であった。


 見た目以外の機能は普通の台車であり、副魔王が落ちてしまわないよう、トイレットペーパーが大量に入っていたと思しき段ボール箱を受け取り、それに入れてから乗せたため高級感は全く失われてしまう。


 まぁ、別に運ぶだけであれば何でも良い、とにかくこの場では、今夜も今夜とて宴が催され、そしてその内容は英雄や勇者が目的を達したことを祝う盛大なものになるとの通知を受けたのみ。


 それ以外のことはこちらで、その宴の開始までの時間を用いて話し合いをするのだ。

 ついでに副魔王もこの状態ではあまりにも不憫だし、どうにかして動くことが出来るようにだけはしてやることとしよう……



「クソッ、本当に重たい奴だな、実は内部的にデブなんじゃねぇのかコイツ?」


「ちょっと勇者様、動けはしないけど意識はあるのよ、そういうこと言わないの」


「だってよ、こんな高級な台車に乗せられてよ、本来は敵なのに運んでやる俺達の身にもなって欲しいものだぜ全く」


「まぁまぁ、文句は言わないの、一応貸しが出来たんだし、少しぐらいは話を聞けそうじゃないの」


「そりゃさすがにそうだろうな、おい副魔王、聞こえてんな? これから洗いざらい吐いて貰うから、そのつもりで頼むぞ」


『無理ですーっ、無理……だと思います……』


「わかった、その気がないなら最初から拷問してやる、覚悟しておけよ」


『ひぃぃぃっ!』



 こうして固まったままの副魔王を一旦宿泊所へ、そしてその辺に居た遠征スタッフに依頼し、俺達の船から『魔力を奪うご都合金属で出来た檻』を持って来させる。


 その中に副魔王を放り込み……放り込んだは良いが、表面の溶岩はどうやって剥がしていくべきなのだ?

 まずはロックアイスのようにカチ割って、それを徐々に除去していく必要があるのだが……さすがに面倒だ。


 何か長い棒のようなもので外から突き、そこで与えられる衝撃によって溶岩の層を粉砕していくのが良いか、となれば使うのはひとつだな……



「よっしゃ、俺がこの溶岩を破壊するからな、マーサ、それから悪魔娘3人衆は見ないほうが良いぞ、ちょっと過激なことになるからな」


「ご主人様、偉大なる副魔王様に何をしようと言うんですの?」


「聖棒で全身を突きまくる、この魔力を奪われ、防御力が極端に低下している状況で、全身を隅々まで、丹念にな」


「そ、そんなことをしたら副魔王様がかわいそうですよ、再考をっ」

「そーよそーよっ、その危ない棒切れ反対!」

「・・・・・・・・・・」



 ユリナの指摘に続いて、サリナとマーサが次々に俺の作戦を否定した、そしてエリナは見て見ぬ振りをした。

 まぁ、確かにこの状態の副魔王を聖棒で突けば、そこそこ痛がるのは目に見えている。


 だが待って欲しい、これから俺達は副魔王を拷問に掛けるのであって、最初の段階での苦痛、しかもそれは苦しめるだけでなく、救助するためにやむを得ないものなのだから仕方がない。


 この件については反対を表明し続ける3人に対し、これまで副魔王がどんな悪いことをしてきたのか、それなのに救助してやろうという俺の優しさ、その辺りを上手く主張して、どうにか受忍義務があるということを理解させることが出来たのである。


 まぁ、マーサはアホなので理解したのかしていないのかといった感じではあるが、火の魔族の里で採れた『最高とされた去年のものよりも遥かに良いここ数十年で一番の出来』だというどこかのワインのようなニンジンをくれてやったら大人しくなった。


 で、早速檻の中の副魔王を聖棒で突くのだが……固まっているため表情はわからないものの、その内側で恐怖しているのは何となく感じ取ることが出来る。


 さすがに叫んだり、情けない声を出したりはしないようだが、その威厳をいつまで保つことが出来るのか、これも見ものだな……



「よし、じゃあいくぞ、まずは……足の方からだな」


『・・・・・・・・・・』


「オラッ!」


『ひぎっ……』


「おう、ちょっとだけ割れたな、このペースなら1,000回突いたぐらいには全部剥がせるようになるんじゃないか? それで、次はどうしようか……先に顔面をいっておこう、それっ!」


『ぎゃいんっ……ぷはっ……ひぃっ、ひぃぃぃっ!』


「何だよ? ほら、口の周りに付いた溶岩を剥がさないと上手く喋れないぞ、もごもごして、そう、頑張れ……」


「ふぅっ、ペペッ……はぁっ、はぁっ……あの、もっと別の方法で助けてくれると凄く嬉しいんですが……」


「ダメに決まってんだろ、次はいよいよおっぱいだ、はいプルーンッ!」


「ひぎぃぃぃっ! き、きっくぅぅぅっ!」



 その後、そこそこの苦痛を与えつつ副魔王の表面にへばり付いた溶岩を剥がしていく。

 周りにはかなりのギャラリー、そう、仲間を殺され、そして妨害されまくった遠征スタッフが集っているのだ。


 さすがに石を投げるようなことはしないようだが、それでも副魔王に対する怒りは相当なもの。

 罵声を浴びせ、痛がっている姿を見て笑い飛ばしているのだが、その勢いが止むことはない。


 対する副魔王の方は……そのようなことは一切気にしていない様子、とにかく聖棒で突かれまくっている方に意識が行っているようだ。


 まぁ、言われすぎによって逆ギレしたり、へそを曲げられるとこちらが困ってしまう。

 この辺りで止めて解散しておくようスタッフらには要請し、こちらはこちらで作業を続けるべきだな。


 というわけでその旨広く伝達して貰い、最後に罵詈雑言を浴びせながら去っていくスタッフらを見送った俺は、その後黙々と作業を続けていく……



 ※※※



「よし、じゃあその太股のところで最後だな、オラッ!」


「ひぎぃぃぃっ! は、剥がれたけど肉が焦げた……いてててっ」


「大丈夫だろうにすぐ治るんだから、ほれ、落ちた破片を掻き集めて外に出せ」


「はぁ~い」


「それと、助けてやった礼をまだ聞いていないんだが?」


「あ、ありがとうございました、敵なのに助けて頂いて感謝して……ついでに何かパンツのようなものを頂けるともっと助かります……」


「よろしい、ミラ、パンツを『販売』してやれ、救出した際に溶岩エリアでロストしてしまっていたからな」


「わかりました、では金貨1枚になります、代金の方は後払いで構いませんが、利息は1日につき20%、もちろん複利なのでそのつもりで、早く払わないと大変なことになりますからね」


「ヤダ、めっちゃ足元見てるこの人、しかも賢そうな顔してんのに利息制限法とか知らないのかしら……」



 パンツ代請求の件についてはまぁ良いとして、とにかくこれで副魔王の救出は完了である。

 聖棒で突かれまくったことによって受けたダメージもほぼ回復し、今は受け取ったパンツを装備している最中だ。


 さて、ここから色々と聞き出したいことなどあるのだが、山ほどある質問事項の中から何を最初に聞いていくべきか、それが悩みどころである。


 まぁ、まずはここで『赤リンゴ』を捧げた『赤ひげの玉』以外の『始祖勇者の玉』についてか。

 他にも3色のリンゴがあり、それはそれでまたその対応する色の玉と関連、またはそれがないと先へ進むことが出来ないものであるような気がする。


 それを副魔王は知っているのか、俺達の妨害をしていた以上、そしてその妨害が『始祖勇者の玉』への到達を遅延させるものであった以上、コイツがその玉自体について知らないということはまずない。


 ならば少しその話しをしてみよう、目の前に立っている副魔王の肩をガシッと……どうして檻の外に居るというのだ?



「……え? ちょっと待って? どうやって出たの?」


「いえ、普通に檻の扉の鍵を開けて、扉事態を開けて自分で出て、それから扉を閉めて鍵も掛けて……みたいな感じですね」


「いやその手順がどうこうじゃなくてだな、どうして出ることが可能だったんだ? というかこの一瞬で? 誰にも違和感を抱かせずに?」


「まぁ、私そういうキャラなんで、でも今回はちょっとガチで助けて頂いたんで、良いでしょう、今夜日が暮れるまでは付き合ってあげます、その後でササッと逃げますからそのつもりで」


「お、おう……あれ? いつの間に檻へ戻って……」



 今まで魔力を奪う金属を多く含む溶岩に包まれ、全く身動きが取れないでいた副魔王であるが、そこから解放されればもう自由自在の様子。


 同じ金属、今度は純度100%近くのその魔力を奪う素材製の檻であるにも拘らず、当たり前のように出たり入ったり、もうそれが檻であることは何の意味も成していない。


 だが敵とはいえあのまま固めておくわけにもいかず、しかも助けてやった礼に本日日の出ているうちはここに留まってくれるという提案。


 まぁ、情報も提供してくれそう、というか引っ叩いてでも提供させる予定なわけだし、特に問題は生じないであろう。


 唯一気をつけておくべきは、この副魔王に対して殺してやりたいほどの怒りを抱いている遠征スタッフ、それらとの接触だ。


 遠征スタッフは同じ土地からある程度纏まって採用しているゆえ、今生き残っている連中は少なくとも複数人、同郷の仲間を今回の旅で失っている、そしてその原因が主にこの副魔王の策略によって殺害されたものなのである。


 そんな中、犯罪の張本人である副魔王がその辺をフラフラと、先程までの情けない姿ではなく自由に歩き回っていたらどうなるであろうか?


 きっとブチギレしたスタッフの一部がそれを襲撃、コンマ数秒の間、いやもっと短い、人間には認識することの出来ないごく僅かな時間の隙に、その全てがこの世から消える、最悪元々存在してさえいなかったのではないかと疑われるぐらいに、跡形もなく消滅させられてしまうに違いない。


 ただでさえスタッフが不足しているのだ、まぁそれもこれもほぼ大半がコイツのせいなのだが。

 とにかくここで追加の犠牲者を出してしまうわけにはいかない、今日限りとはいえ、この副魔王の身柄の取り扱いには細心の注意を払わなくては……



「ところでお前、別に出て来られるならそんな檻なんぞに入っていなくとも良いだろう? 出て来いやオラッ」


「いえお構いなく、比較的狭い所の方が落ち着く性質なんで」


「あ、そうなのね……じゃあ良いやその感じで」



 檻に入っていてくれる分には別に構わないためとりあえずこのまま話を進めることとする、

 まずは4つの『始祖勇者の玉』についてなのだが、さすがにそれいついては良く調べてあるようであった。


 まず俺達が4つの玉の力を開放して回っていたこと、そして今回の件で遂に最後、『赤ひげの玉』が開放され、その連携によって強い聖の力、邪を払う何かが放たれているということについても知っている様子。


 で、問題となる残り3色のリンゴ、特に人間の形をしてしまっている『黒リンゴ』についてだが、それについても副魔王は知識を得ていたらしい……



「今回は『赤リンゴ』を捧げたんですよね? そうすると、他の3つの玉にも『リンゴ』を捧げるんですよ、それぞれの色に合ったやつ、それで4つの玉の聖なる力が更に安定して、メインの大陸にある『魔族領域の玉』との干渉を……あ、ちょっと喋るすぎちゃった、後半は取り消しで……」


「誰が取り消させるかよそんな重要な情報! まぁ、その件についてはこれからじっくり聞かせて貰うし、魔族領域にあるあの東西南北のコア? みたいなのに干渉した結果どうなるのかについても知っておきたいところだがな、ひとまずはアレだ、それぞれの玉に捧げた『リンゴ』がどうなるかだ」


「そうよね、もし『リンゴ』を供物として捧げるにしても、それによって『黒リンゴ』、というか『超リンゴ里長』が消滅しちゃうとかだと寝覚めが悪いわ、さすがにあのリンゴの森へ帰らせてあげないと」


「あ~っ、それは大丈夫なんじゃないでしょうか? 『始祖勇者の玉』が必要としているのはあくまで色付きのリンゴ成分だけですから、今回の『赤ひげの玉』みたいに、その『リンゴ自体』を物として欲しているわけじゃないんで」


「となると、アイツは、『超リンゴ里長』はどうなるんだ?」


「今はブラックな状態だけど、きっと元の赤系の色に戻ってそのまま、というか人格が存続するのは確かですね、命懸けます」


「命懸けちゃったよコイツ……」



 とにかく『超リンゴ里長』の人格については絶対に大丈夫であり、本人、というか本リンゴも、ブラック名成分を捧げた後にはしっかり元の場所へ、あのリンゴの森の中にある里へと戻ることが出来るのだというのが副魔王の主張。


 まぁ、命懸けると軽々しく口にして良いような身分ではないことも明らかであるため、それはそれで信じてやることとしよう。


 もちろん例の場所、巨大シャチホコ城の目として嵌め込まれた『黒ひげの玉』の前にて、『黒リンゴ』を供物として捧げる前には、予め本人の了解を得てから儀式を執り行うのは確実だが。


 で、そこまでの件は良いとして、ここからは先程副魔王が自分から言いかけた内容についてである……



「さて、じゃあ本題だ、俺達がこれから残り3色の『リンゴ』も捧げ終えるだろう? その後どうなる? 魔族領域のあのコアみたいなのは……粉砕したり力を失ったりとかするのか?」


「それはえっと……まぁ、でもどうせそこから先が大変だと思うんで、ちょっとぐらいなら話しても良いかなって思うんですが……」



 何やら話し始めるらしい副魔王、実質、これが救助してやったことの対価となる情報だ。

 聞き漏らすことなく、そして理解出来ない部分については質問を投げ掛けるべく、耳を巨大化させて聞いておこう……

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