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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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809 そういうことか

「はいっ、おはようございますっ、本日はですね、昨日のジェシカ隊員に代わりまして、ミラ隊員が地下空間突入部隊に加入しますっ、はい拍手!」


『うぇ~い、パチパチパチパチ……』


「あの、私達には交代要員が……居ないんですねわかります、英雄パーティーは4人きりですもんね……」


「その通りだ、大変に残念だったなわんころもち、では今日も元気にボス部屋の捜索だっ!」


『おーっ……』



 イマイチ元気がないメンバーを抱えてはいるのだが、今日も8人で火の魔族の里地下空間、最深部の部屋を捜索することが確定している。


 今は入り口の井戸の前、昨日投げ飛ばした『担当者』はまだ帰還していないのだが、それはそれで仕方ないので先へ進むこととしよう。


 で、夜の宴で里の上層部から聞き出した例の話、全く要領を得なかったのだが、とにかく俺達が『ボスモンスター討伐報酬には辿り着いている』という話だ。


 本日はそれを念頭に、改めてあの部屋に何かそういったものがないかを探っていくのだが、またしても骨の折れる作業となりそうなのは確実。


 しかしまぁ、それさえどうにかなってしまえば今回の件は一気に進展、どころかこの島国での冒険がエンドロールに突入する可能性さえあるのだ。


 ここで少しぐらい苦労しても構わない、既に捧げ、なぜかその分が記録されていなかった『赤リンゴ』やその他火属性マグロを始めとした赤い海産物等に報いるためにも、どうにかしてここでクリア条件を満たすためのカギを発見しなくてはならない。


 とにかく中へ入り、そのままひもを引っ張るタイプのトラップがある場所へ、今回初参加のミラには状況を説明しつつ、これまでと同様にゾンビとの戦いを回避するかたちで進むことを告げる……



「それで、このロープを全部斬って、隅っこの方で『調べる』をすれば良いんですね? そうすればバナナボート的な乗り物をレンタルしてアトラクションをエンジョイするフェーズに移行するんですね?」


「そうだが……アトラクションとはいってもその、何だ、火の魔族の里の連中が考えるようなアトラクションであって、どちらかといえば里の歴史についての学習をさせられる、修学的なアトラクションと呼べるものだぞ」


「でもアトラクションはアトラクションですよね? 溶岩の上をバナナボート的な乗り物で……楽しそうです」


「バナナボートじゃなくてチ〇ポコボートだけどな、まぁ良いや、とにかくそっちのロープを斬るんだ」


「わかりましたっ!」



 また上で微妙な顔をしているゾンビを、今度は強めの一撃で粉砕し、トラップを発動させることなく2種類のアイテムをゲットする。


 もう場所はわかっているためすぐに『調べる』をしたりりぃによってその『水っぽい衣装』、そして『引換券』の獲得がなされ、紋々太郎に引き渡され……と、紋々太郎は『引換券』の方を精霊様に渡したな、また何か変化があったのか?



「どうしたんだ? 今度もチ〇ポコボートが別のものに変わるのか?」


「そなのよ、今度は……『灼熱の〇ンポコボート ザ マキシマム(上級者向け)』って書いてあるわね、5,000年前ぐらいに発売されたけど、操縦が難しすぎて全然売れなかった商品だと記憶しているわ」


「5,000年前に何てもん売ってんだよこの世界は……」


「凄いっ、何だかとっても『マキシマム』なんですね、この形といい、あとはまぁ……」


「おいミラ、いくらアレな感じだからってそれ以上表現することは許さんぞ」


「わかっています、冗談でも口にしませんから大丈夫です」



 今回の乗り物である『マキシマム』、形状についてはもうマキシマムであるとしか表現出来ないタイプの〇ンポコボートなのだが、本来であればモザイクが必要なシロモノだ。


 そんなモノへ嬉しそうに乗り込むミラとリリィなのだが、そこは気にして欲しいところでもあると言っておきたい。

 まぁ、本人達が断固気にしないというのであれば、俺の方からとやかく言う筋合いはないのだが……


 で、その2人を前列に据え、精霊様を除く突入部隊の全員が乗り込んだ『マキシマム』を、例の入口、ダストシュート的な穴へと移動させ、魔導カタパルトの下を通過させて魔導発進させる。



「グッ……凄いGだな、前回までとは明らかに違う初速だぞっ」


「ほらほら後ろの方! 振り落とされないように注意なさいっ!」


「ひぃぃぃっ! もっ、もう無理……ひゃぁぁぁっ!」


「危ねっすっ!」


「大丈夫ですかっ? あ、ナイスキャッチ……」



 どうやら後ろの方でトラブルが生じたようだ、振り返る余裕はないのだが、おそらくわんころもちが振り落とされ、それを咄嗟に飛び立ったハピエーヌがキャッチした、そんなところであろう。


 カポネに関しては『サル系』で、ついでに言うと普通に戦闘員の上級魔族だけあって、掴む力がそこそこ、よってこんな場所から振り落とされることはない。


 だがお嬢様系の、 犬獣人とはいえ人族のわんころもちにとってはかなり厳しい速度であるのも確か。

 すっ飛ばされ、もはや空中を運ばれるだけの状態となってしまった、きっとクレーンゲームのような……まぁ、それはどうでも良い。


 凄まじいスピードで溶岩の海を往くバナナ(〇ンポコ)ボート的な乗り物、壁画だの何だのはもはや見ている余裕がなく、ひたすらに前を監視、軌道がズレて壁に激突しないように努めるだけで精一杯であった。


 しかし探索も3回目となるとこの扱いか、普通に考えてシャレにならないのだが、そもそもこの地下空間の最深部まで到達することが出来るパーティーが稀なのであり、そこからさらに追加の探索を……などということを考える連中についてはもう考慮外なのであろう。


 そんなことを考えるあり得ない俺達突入部隊を乗せたボートは、三度例の扉の前、ボスサラマンダーが出現し、かつその先に『赤ひげの玉』が祀られている部屋の入口へと到着した……



「あ~っ、なかなかに楽しかったです、ねぇリリィちゃん」


「そうですねっ、次はもっと速いと楽しそうですっ」


『いや、さすがに勘弁して下さいな……』


「それで勇者様、目を回していないで、これからどうするべきなのかを教えて下さい、ここからが本題なのでしょう?」


「っと、そうだった、まずは部屋に入る、そしてこの『水っぽい衣装』が危険極まりないからな、これを脱いでその辺に置いておく」


「ふむふむ、それで?」


「で、あの真ん中からボスサラマンダーが出るからな、リリィ、ちゃちゃっと片付けてくれ」


「わかりましたっ!」



 そのまま歩いて部屋の中央へ、魔法陣が現れ、直後にボスサラマンダーが最初の『丸呑み攻撃』と共に出現する場所へと入るリリィ。


 その足元に白く輝く魔力の塊が現れた……かと思いきや、完全に魔法人が生成される前に手を突っ込んでしまったではないか。


 床、というか地面の中を、まるで小動物の巣穴でも探るようにして手で描き回していくと……何かを掴んだようだ……



「捕まえたっ! それっ!」


『ひょげぇぇぇっ! ちょっ、ちょっと待ってっ、また生贄に……なぁぁぁっ!』


「……入ったっ、ナイスサーブですっ!」


「サーブなのか? まぁ良いや、ボスサラマンダーを討伐すると、ほら、巨大な宝箱が出現するんだ、溶岩で一杯の、しかもひっくり返しても無限にその溶岩が出てくるな」


「と、現状はここで行き詰まっているということですね?」


「そういうこと、どうだ? ここまでの状況で『既に報酬に辿り着いている』という感じはするか?」


「全然しませんね、まぁ、この宝箱の中身が報酬じゃないとしたらですけど」



 新しく連れて来たミラの新しい視点、それが何かをもたらすのかも知れないと考えたのだが、どうやらこれでもダメであるようだ。


 前回と全く同じ状況、もちろん宝箱を倒してしまい溢れ出していた溶岩はいつの間にか元通りなのだが、今はその手前、昨日でいうボスサラマンダーを討伐した状態へと戻っている。


 で、もちろんセーブされていない『供物ポイント』は、もう一度ゼロから、いや、供物としてボスサラマンダーの生体をひとつ捧げた状態のまま。


 この供物ポイントのセーブにはあの『担当者』の関与が必要な気がしてはいるのだが、もしかしたらそうではないかも知れないのだな。


 ここはひとつ、『本来得るべき報酬』と並行して、『供物ポイントをセーブする方法』が存在しないかを改めて確認しておくべきである。


 前回は溢れ出すマグマに阻まれて出来なかったことを、今回、つまり翌日になってようやく始めるのだ。

 そしてこれは『一歩先へ進んだ』のではなく、まだスタートライン上での準備の最中なのである……



「……うむ、では供物ポイントの件に関しては……やはり祭壇の裏側などが怪しいね、英雄パーティーはそちらの捜索に専従しよう」


「わかったっす、じゃあ俺達は昨日に引き続き『報酬』が何で、どこにあるのかの探索だ、特にミラは頑張れよ、この閉塞した状況に新しい風を吹き込ませるんだ」


「何だか壮大すぎるお言葉なんですが……まぁ、とにかく探してみましょう、えっと、床とか天井とか……それから宝箱に何か仕掛けがないかもついでに……」


「あ、その可能性があったわね、中身ばっかり気にしていて、外側に何かあるかもってことを考えていなかったわ」


「確かに……よし、最初はそこからだ」



 ここでポッと出た意見、やはりミラを連れて来たのは正解であったか、昨日の第二探索まではこの宝箱の中身、即ち無限溶岩にのみ気を取られてしまっていたのだ。


 玉が祀られていると思しき祭壇の方は、外側も隈なく調べたというのに、こちらの宝箱については、その中身のインパクトが強すぎて外側に気が行かなかったのである。


 つまり、全体を、本当に隅々まで調べ上げたと思っていたこの室内で、唯一未調査なにがこの宝箱の外側、外殻とでも言っておこうか、そこであるのだ。


 ということでまずは……また倒してしまうとそれで今回はお終いになってしまうな、どうにかして中身を溢さずに横や上だけでなく底の部分までチェックする方法を考えなくては……



「よいしょっ、上は熱くないですけど、別に何もありませんよ、普通の宝箱の屋根です」


「宝箱の屋根とか表現出来る時点でサイズがおかしいんだがな、ちなみに横も普通だ、変なスイッチがあったりとかはしないようで……どうしたリリィ?」


「スイッチみたいなのならあります、ここの横の所に、ポチッとしますか?」


「いやちょっと待て、爆発するかも知れないからな、どこだ? どこにスイッチが……これか……」



 リリィが指し示した『スイッチ』とは、宝箱の蓋部分の短編、その一番上のアーチ状になった辺りにひっそりと、装飾に紛れて存在している小さな突起物であった。


 だがその突起物、反対側の同じ場所には存在しておらず、さらには宝箱自体の形成に関与している風でもなく、とにかく用途が不明なもの。


 もちろんポチッと指で押せば、それこそ通常のボタンのように押下されるのは間違いない形状なのだが……問題はそれをした後に生じる『事案』である。


 実は自爆スイッチであって、押して数秒後ないし数十秒後には大爆発する仕様、それならまだ良い。

 怖いのは宝箱自体がモンスター化し、中の無限溶岩を撒き散らしながら暴れ狂う、最悪そのままこの地下空間から出てしまうということだ。


 通常ではあり得ない、地下空間とはいえテーマパークだのアトラクションだの、そういうものにつきあってはならない事案なのだが、この『火の魔族の里地下空間』では何が起こるか見当も付かない。


 ここは最初から最後までデタラメで、あらゆるものが殺人的で、一度入ったら通常は生きて出られない、とんでもない地獄の空間なのだから。


 いや、だからといってこれを、このリリィが押したくて押したくて仕方ない、今にも言いつけを破って押してしまいそうなボタンを放置するわけにはいかないのだ。


 結果はすぐにわかるし、もし宝箱が暴れ出したらすぐに撃破、溢れ出すであろう溶岩がこの部屋を覆いつくす前に、また転移装置に乗って脱出してしまえば良い。


 物は試しだ、とにもかくにも押してみないことには始まらない、やってみるしかないのだ……



「ミラ、精霊様、一応戦闘の準備をするんだ、それから紋々太郎さんらにも警戒するように伝えないとな、お~いっ」


「どうするつもり? もしかしてあの怪しいボタン、押してみようってわけ?」


「他に方法がないだろうよ、なぁに、もし何かあっても俺達に対処で出来ないようなことじゃねぇよ」


「だと良いんだけど……」



 ミラも精霊様も、それしかないということを悟って構えを取る、俺もそうなれば確実に飛び散るのであろう溶岩を、なるべく被らないような位置で待機、リリィがボタンを押すのを待つ。


 アイコンタクトを送ると、そのまま嬉しそうな顔でポチッとボタンを押下するリリィ……宝箱全体がガタンッと揺れたような気がする、しかしその後は静かに……いや、すぐに変化が現れたではないか……



「くるわよっ、何か揺れ始めて……ちょっと持ち上がる感じね」


「脚ですっ、脚が生えてきますよっ! リリィちゃん、ちょっと逃げた方が良いかもっ!」


「はーいっ、よいしょっ……うわっ、急に立ち上がって……立ち上がった?」


「おう、脚には脚だが……その、予想していたものと違うな」


「テーブルの脚って感じね、でも見てちょうだい、ここ、ジョイントされていて、高さが調整出来そうなのよ、30㎝から2mってところだと思う」


「いや、その機能意味あんのか?」


「今のところは不明ね、でも少しだけ進展があった、そう考えて良いかも知れないわ」



 想像とはかけ離れた感じで立ち上がった巨大宝箱、まるでミニチュア版高床式倉庫(超豪華Ver)のようなビジュアルとなったのだが、果たして今のこの姿に意味があるのかないのか。


 まぁ、とにかくジョイントの付いた脚というのが特徴で、良く見ると斜めにして4本ある脚全体を開き、バランス感をアップしたりも出来そうだ……実にどうでも良い機能なのだが。


 で、今のところそれ以外には特に変わったところが見当たらない、だが危険もなさそうだし、側面や上面だけでなく、脚が生えて確認することが可能になった底面を見に行くこととしよう……いや、俺よりも先にリリィが潜り込んだようだ……



「どうだリリィ、何かありそうか?」


「リモコンみたいなのをゲットしました、下の窪みに貼り付いていたんです」


「リモコンって、何のつもりなんだよ全く……」



 なんと、宝箱はラジコンであったようだ、まぁそうだと決まったわけではないし、リモコンが下に隠されている意味がわからないのだが、とにかくその可能性が高まった。


 で、這い出して来たリリィからその『リモコン』を受け取った精霊様は……何やらハッとしたような表情を見せた後、感慨に浸るような表情でウンウンと頷き出す……



「おい精霊様、そんなもん握り締めてどうしたんだ? 正直きめぇぞ」


「うるさいわねっ! これが懐かしかっただけよ、ほら、知らない? この世界でも50万年ぐらい前には流行っていたのよこの『何でもラジコン化魔導リモコン』って」


「50万年前とか壮大すぎて知らんし、てかさ、俺まだ20代前半だかんね」


「本当に田舎者なのねあんたは、そんなんだからいつまで経ってもその辺のモブキャラにディスられっ放しなのよ」


「え? 何か理不尽に人格否定されたんだが……」



 とにかく、その50万年前のリモコンを用いることによって、基本的にあらゆるものを『魔道ラジコン』にすることが出来るというのが精霊様の主張。


 もちろんそんなもの誰も知らない、女神ぐらいなら知っているのであろうが、というかアイツは本当にどこへ行ってしまったのだ、まぁ良いかあんなの。


 で、そのリモコンとこの宝箱がセットで存在しているということはだ、おそらく、いや間違いなくこの宝箱がラジコン化しているということ。


 これこそ何のつもりだ? まさか報酬は『何かすげぇラジコンでした』などということはなかろうな……



「ねぇ精霊様、この宝箱、動くんでしょう? 早く動かして下さいよっ!」


「ちょっと待ちなさいリリィちゃん、え~っと、起動は確かここで……この十字キーで前進と……それから後退を……あと曲がることも出来るのよね」


『起動します、起動します……前進します、前進します……ピーッピーッピーッ、バックします、ピーッピーッピーッ、バックします……右へ曲がります、ご注意下さい、右へ曲がります……』


「何だコレもう半分トラックじゃねぇか……」



 前身の時にも喋るという新設設計、それ以外はだいたいアレだ、跳ね飛ばされて死亡するとこういう世界へ送られてしまうタイプの乗り物だ。


 そして、溶岩を無限に吐き出すことが出来るトラップにして、一見すると豪華絢爛宝箱、しかも移動することが出来るこのコイツが……本当にボスモンスター討伐報酬だというのであろうか?


 だとすると『本来の目的』を達するための、それに資する報酬についてはどこにあるというのだ?

 もしかして存在しないのか? 地道にセーブして供物を追加していく……いや、そのセーブの仕方さえわからないのだが……



「おい、もう何かムカついてきたぞ、やっちまおうぜ精霊様」


「やっちまおうぜって、何をしようってのかしら?」


「そのままそのラジコン宝箱をあの忌々しい賽銭箱の目の前まで持って行ってだな、中身を……」


「ドバーッといくのね、しかも無限に」


「あの勇者様、お賽銭箱がどの空間へ繋がっているのかは定かでありませんが……さすがにその嫌がらせはやりすぎかと……」



 忠告してくるミラ、だが俺と精霊様のやり場のない怒りを解消するためには、もうこの『悪戯』を完遂する以外に道はないのだ。


 ということで宝箱ラジコンを賽銭箱へ横付け、そのまま蓋を開け、斜めにして中身を注ぎ込んでやる、ざまぁ見やがれってんだこのクソ野郎が、もうどうにでもなってしまえ。


 そう思いつつ様子を見ていると、なんと、ここで予想だにしないことが起こったではないか……

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