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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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808 真実は

「拙いな、今回の供物は賽銭箱に入れるのを止めて、一旦外に出て確認しよう」


「いや、それはちょっと待ってちょうだい、せっかく来たんだし、その報酬とやらを探してみるのが先よ」


「……そうだね、もしかしたらその報酬とやら、一撃で全ての供物メーターを埋める程度の力があるかも知れないからね」


「なるほど一理あるっすね……じゃあとりあえず捜索ということで、ここは涼しいし、あの溶岩宝箱トラップにだけ注意して本気出しましょうか」


『うぇ~いっ』



 やる気のある者とないもの、そしてやる気があるわけではないが真面目にやろうと努めるもの、そして監督風を吹かせ、自分は捜索に参加しようとしないどこかの変な精霊。


 それぞれが動き、主に地面が光ったりしていないか、『調べる』を使うと何かをゲット出来ないかについて探っていく。


 ……というかその『調べる』とは何なのだ? リリィがアイテムを見つけた際には確かにそれを使ったそうなのだが……そんなコマンドは転移前の世界におけるゲームでしか体験したことがない。


 まぁ、きっとこの地下空間独特のコマンドであって、おそらくは目的のアイテムに接近したところでパッと浮かび上がるようなものなのであろう。


 仕組みについては全くの謎だが、この世界の事象である以上、きっと『魔導○○』でカタが着いてしまうに違いないな。


 そう考えつつ周囲を探っていると……何かが目の前に出てきたような気がするではないか、ほんの一瞬だけ、移動したらすぐに消えてしまったのだが……



「はいはいはいっ! 今なんか出たぞ、ほらここの隅っこの所、えっと、どこだったかな……」


「そんなおかしな場所にアイテムが埋まっているわけ? てっきり真ん中辺り、ボスサラマンダーが出現する場所が激アツだと思ったのに」


「それもそうだがな、案外こういう場所に隠しアイテムが……ほらっ、調べ……『調べろ』なんだが、いきなり命令口調とかどれだけ態度がデカいんだ全く」


「良いじゃないのそのぐらい後で殺せば、文句ばっかり言ってないで早く調べなさい」


「誰を殺せば良いのかが疑問だがな、まぁ良いや、調べる……『調べます』と『調べさせて頂きます、誠にありがとうございました』のふたつしか選択肢がないんだが?」


「主殿、そこは丁寧な方に決まっているだろう、こちらは『調べさせて貰っている側』なんだからな」


「クソッ、イマイチ納得がいかないな、だがとりあえず『調べさせて頂きます、誠にありがとうございました』っと……」



 どういうわけか空中に浮かんだ選択肢、やはり仕組みは不明なのだが、そんなことは気にせずふたつ目の、丁寧な方の選択肢を選択させて頂くことを選択する選択権者の俺様、さて、結果は……



『ミス、調べることは出来なかった、10年早いわボケ』


「ブチ殺すぞてめぇぇぇっ!」


「……どうしたんだい勇者君、何をキレているのかね?」


「いや、この何か目の前の選択肢? めっちゃ調子乗ってんですよ、10年早いとか何とかって」


「……なるほど、では我がやってみよう、勇者君よりも10年は多く生きているからね」


「確かに、じゃあお願いしまっす」



 ということでバトンタッチ、この場に参加しているメンバーで最も年長なのは当然に精霊様、以降長命の魔族であるカポネかハピエーヌが続くのだが、ここはこの場の頭、そして人族の中では年長者である紋々太郎の出番だ。


 先程俺が拒絶された『調べろ』の場所付近を、反復横跳びのように素早く移動しながら探り当てる紋々太郎、やがて首をキュキュッと動かし、最終的にピタッと静止した。


 目の前にはきっと『調べろ』のコマンドが出ていることであろう、そしてその『調べろ』が、意識することによってふたつの選択肢に変化するのである……



「……うむ、ではこの『調べさせて頂きます、誠にありがとうございました』を選択してと……何か変化があるようだね」


「魔法陣が出てますっ! 宝箱? お宝?」


「まぁ待てリリィ、落ち着くんだ、魔法陣から何が出るのかは……え? 茶色い……グルグルと巻かれて……ウ〇コじゃねぇかっ!」


「……しかも巻き〇ソのようだね、コマンドは……『残念ウ〇コでした、またのご利用をお待ちしております』だそうだ、実にFUCKだねこれは、DEATH! DEATH!」



 そう言いながら『ハジキ』を乱射する紋々太郎、おそらく目の前のコマンドに向かって撃っているのであろうが、それが見えていない俺達には、シャブでラリッたやべぇ奴が何もない空間に向かって発砲しているという、極めて危険な事案にしか見えない。


 で、そこそこ魔力を使ってしまった紋々太郎は、満足したのかしていないのか、『ハジキ』を降ろして『ボスモンスター討伐報酬』の捜索を再開する。


 床だけではなく壁、天井、その他中に『赤ひげの玉』が鎮座しているらしい祭壇の裏まで、室内を丹念に探していくが何も見つからない。


 何であろうか、これは火の魔族の里側に嵌められたか? 本当は別の報酬などなく、『赤ひげの玉』の開放のためには地道に往復を重ねるしかない、そういうことなのか?



「お~い、そっちはどうだ~っ?」


「ダメだぞ、リリィ殿は……もう飽きてしまったようだな」


「だな、精霊様は最初から探していないし」


「というか主殿、どうして主殿は私の後ろばかりを探しているのだ? それでは効率が悪かろうに」


「それはね……お前のそのパッツパツになった尻を眺めるためだよぉぉぉっ!」


「ひぃぃぃっ! ちょっ、こんな所で揉みしだくのはやめっ、この粗末な衣服が破けてしまうぞっ!」


「フハハハーッ! 良いではないかーっ、良いではないかーっ!」


「もう遊び出しちゃったわね、どうしようもないわ」



 正直なところ俺達も飽きてしまった、室内はそこかしこが掘り返され、リリィは石ころなどをゲットし、ついでに社に施されていた金の装飾も少し剥がさせて頂いた。


 それでもなお発見されない『ボスモンスター討伐報酬』、供物奉納の現状もセーブされない、そしてどこかにあるはずのそのためのアイテムも発見することが出来ない。


 一体俺達は何のためにここへ来たのか、二度目の探索で発見したことといえば、あのバナナボート的な乗り物が少しグレードアップしていたということぐらいのものだ。


 そのために2時間近くも犠牲にして、これで戻ればもう夕食の時間、ナイター探索をしないというのであれば、続きはもう明日からということとなってしまう。


 というかむしろ、供物のセーブにあの入り口の担当者が関与しているとしたら、これはもう非常に拙いことだ。

 ブチ殺したうえに投げ飛ばしてしまい、落下点で蘇生したとしても今日明日中には戻って来られない予想なのだから……



「しかし弱ったな、このままじゃ無駄足だぞ、これまでも、そしてこれからもだ」


「主殿、人の尻とおっぱいを揉みながらそのようなことを言うな、しかも真顔で」


「おっと、すまんすまん、でもよ、もうこの室内には何もないんだ、ヒントも、そして正解も見受けられない」


「う~む……いや、そういえばこの巨大な宝箱、溶岩がタップタプに入っているんだったか? この中はどうなんだ?」


「いや、リリィが手を突っ込んで確認したんだがな、普通に溶岩しか入っていなかったそうだ」


「手を突っ込んで確認したのか……いや、それでもな……」



 前回の探索に参加していないジェシカにとって、部屋の中央に鎮座する巨大な宝箱は興味の的である。

 もちろん俺達はそれがトラップの類であることを良く知っており、その中に報酬がないことも確認済みだ。


 だがどうしても、とにかく一度で良いから中を確認したい、アッツアツの溶岩を溢して、空っぽになった宝箱の底をキッチリ見ておきたいというジェシカの要望。


 まぁ、可能性がゼロというわけでもないし、もしかしたらドラゴン形態を取ったリリィの巨大な手では判別することが出来ない、物理的には小さな、そして効果のほどは最大の報酬が埋め込まれているのかも知れない。


 ということで一度宝箱の中の溶岩を……どうやって取り出すべきなのだ? 傾ければ多少は零れると思うが、それでも横倒しにしない限り全部は出て来ないはず。


 前向きに倒せば蓋がバタンッと逆向きに倒してもそもそも蓋が……仕方ない、少し大変だが蓋を開けた状態で横向きに倒してやる他ないであろう。


 リリィの力で持ち上げて、ついでに精霊様とハピエーヌが空中からロープで引っ張る。

 その他のメンバーは下からサポートだ、これでどうにか上手く、転がってしまうことなく宝箱を横倒しに出来ることであろう……



「よっしゃ、じゃあいくぞっ! せぇ~のぉっ!」


『せぇ~のぉっ! よいしょっ!』


「倒れるぞっ! 念のため離れておくんだっ!」


『うぇ~いっ!』



 ゴォォォンッという音と共に、向かって右側の短辺を下にするかたちで倒れた巨大宝箱。

 その中からは既にドロドロ、いやサラサラの溶岩がドバドバと零れ出し始めている。


 まるで火山の噴火を間近で見ているかのようだ、とめどなく溢れる溶岩が、本来なら山の斜面を駆け降りるところ、平坦なこの部屋では、まるで湯呑でもひっくり返したような感じで広がっていく。


 その光景を10秒、30秒……1分以上眺める、宝箱の中からはまだまだ溶岩が、倒したばかりの勢いそのままに溢れ出す。


 その熱気に包まれた部屋の温度が急上昇しているのだが、気にせずそのまま待機……そしてさらに1分程度、これはどういうことだ、溶岩の出る勢いが一向に弱まらないではないか……



「ねぇ、何だかこれ、おかしくありませんか? というか暑いので離れさせて下さい」


「お、おう、にしても長いな、ションベンが長い奴ってのもたまには居るもんだが、これはさすがにちょっと……」


「ねぇ、もしかしてこの溶岩、無限なんじゃないかしら?」


「というと……どういうことだ?」


「つまり、この宝箱はどこかの空間に繋がっているなどしていて、どれだけ溶岩を出しても絶対になくならない、永遠に吐き続けるってことよ」


「なるほど、で、その場合この部屋はどうなるんだ?」


「そりゃもちろん沈むわよ、扉は気密性が高そうだし、きっとこのままだと天井まで溶岩で満たされるわね」


「ふ~ん、ちょっとやべぇじゃんか」


「……勇者君、おそらくちょっとどころではないと思うよ、相当にやべぇ状況だ」


「……脱出しますか」


『うぇ~い……』



 俺達が『溶岩巨大宝箱トラップ』だと思っていたものはなんと、『エターナル溶岩巨大宝箱トラップ』でったようだ、これはかなりの上位種である、モンスターではないが。


 その内部からとめどなく溢れる溶岩によって周囲を焼き尽くし、そして部屋を丸ごと溶岩の海に沈める凶悪なトラップ。


 こんなものを用意する鬼畜はどこのどいつだというのだ? いや、火の魔族の里の人間が、非常に軽いノリで準備したのはもう明らか。


 奴らめ、自分達の存在がそういうものであるからといって、熱や炎の危険性に無頓着なのだ。

 きっと『まぁ、このぐらいなら大丈夫じゃね?』程度の感覚で、こんな虐殺トラップを用意したに違いない。


 とりあえず脱出しよう、脱出したらひとまず苦情を入れに行こう、そしてこのような目に遭わされた分の埋め合わせとして、もう少し有用なヒントを頂くとしよう……



 ※※※



「ふぅっ、どうにか戻って来られたぜ、あのまま部屋が溶岩に沈んだら大変だったな、きっと脱出するための転移装置の場所を見失っていたぞ」


「それどころじゃないような気がするんですが……まぁ良いです、帰って来られたんで」


「というか主殿、あの倒した宝箱はどうなるというんだ?」


「あぁ、次に行ったときにはもう元通りさ、きっとボスサラマンダー戦からやり直しだぜ」


「なら良かった……全体的には良くなさそうだがな」


「あぁ、結局何のヒントも得られなかった、だがこれからだ、ちょっと里の上層部連中を問い詰めようぜ」



 今回は俺達だけでなく、この島国の英雄たる紋々太郎とその仲間達もここへ来ているのだ。

 ならば当然に夜は会食、もちろん酒が出て、夜中までパーリィするタイプのアレである。


 その証拠というか何というかだが、俺達が戻った井戸の脇には投げ飛ばした『担当者』がまだ居なかったものの、その代わりに付近で宴の準備が執り行われていた。


 またしても俺達の帰還を察知して駆けて来たアスタに連れられ、もう一度宿泊所へと戻りつつ、途中で今晩の予定に関しての話を聞く。


 それまでは待機していて欲しいとのことだ、時間的にもう一度最深部を目指す余裕はなさそうだし、ここは少しゆっくりしておこう。


 ということで皆の下へ戻った俺達は、その辺でゴロンッとなる前に、地下空間の暑さで滲み出た汗を流すべく風呂場へと向かった……



『お湯加減はどうですか~?』


「大丈夫だ~っ……やれやれ、何でも良いが早く奉納が上手くいくための、それを完遂するための情報を得たいものだな」


「というかもうお腹が空きましたよ、お肉はどのぐらい出るんでしょうか?」


「そりゃもう沢山だろう、このジェシカのおっぱいぐらいパンッパンのジューシーな肉がな」


「主殿、人を食肉と比較するんじゃない」


「黙れジェシカめっ、宝箱を倒してみようなんて言ったのは誰だ? そういう奴の効果ロリーな『ぼんじり』は齧ってやるっ!」


「ひぃぃぃっ! すっ、すまなかったぁぁぁっ!」



 とにかくこの後の夕飯時、酒もそこそこに……いや、酒の方をガッツリ飲んで、上層部の口が軽くなったところを狙って突撃するか。


 その際には酒など飲まないゆえ常に素面状態のミラを連れて行き、的確に情報を引き出すための質問をさせることとしよう。


 風呂から上がり、寝転がってダラダラしている仲間としばらく行動を共にしていると、晩秋の陽がストンッと沈んで行く。


 その後すぐに迎えがやって来て、それに連れられた俺達は、外なのに火の魔族の力で温かい、広々とした食事会場へとやって来た……



『え~っ、それでは今夜はですね、え~っ、勇者パーティーの再訪と、それから大変有名な島国の英雄パーティーが来られているということでして……』


『長げぇよっ! サッサと乾杯しろっ!』


『あっ、はっ、へっ……あ~っ、乾杯!』


『うぇ~いっ!』



 すぐに始まった宴、紋々太郎も英雄パーティーのメンバーも、未だ何も解決していない状況だというのに呑気に酒を……それは俺も同じか、火の魔族による素晴らしい火力調整によって蒸留された芋や麦の酒は実に美味である。


 と、このままだと俺が酔い潰れてしまう、何も聞くことが出来ないまま、気が付いたら寝ていた、朝であったなどということになてはならない。


 酒の方は後で十分に堪能させて頂くとして、ひとまず話を聞きに行くとしよう、里の上層部の連中は歳だし、もうそこそこ酔っ払っているはずだ……



「よしミラ、ちょっと行くから付いて来てくれ」


「わかりました、報酬は……金貨5枚でどうでしょうか?」


「金貨5枚だな、おう、絶対に無理だ、俺様がそんなに酔っ払っていると思うなよ」


「ダメでしたか、でしたらとりあえず銀貨50枚で手を打ちますがどうでしょうか?」


「ほう、そこまで値引きして……ねぇじゃねぇかっ! 行くぞオラッ!」


「あいたたたっ、頬っぺたが千切れてしまいますっ!」



 俺が酔っていると思って、わけのわからない要求ばかり突き付けてくるミラ。

 もちろんそんなものに応じることもなく、頬を抓りながら引っ張って無理矢理連行した。


 で、紋々太郎の隣で酒を飲んでいた里上層部の1人を捕まえ、まずは最強クラスの蒸留酒を空いたグラスに並々と注いでやり、それを手渡しつつ話を始める……



「ういっ、どうっすか現状? こっち? こっちは最悪っすよ、さっき聞いたのは全然ヒントになってないし、クソみてぇな宝箱から溶岩が溢れ出して止まらないし、ボスモンスター討伐報酬ってのはどこにあるんでしょうねホントに、どうなんです?」


「……ふむ、その話ですと、既に報酬には辿り着いておられるようですじゃの」


「というと、どういうことで?」


「ですので、既に報酬は与えられておりますのじゃ、それに気付いておらぬだけで、それはもう目の前にありますのじゃ、もっと良く意識して、何が本当の報酬であるのかを考えると、自ずと答えは見えてきますのじゃ」


「何だかわけがわからない説明ですね、ミラ、何か聞いておきたいことは?」


「その報酬に金銭的価値はありますか? ゲットすると儲かりますか?」


「何を聞いているんだお前は……まぁ良いや、で、それについてはどうなんですか?」


「いいえ、儲かりませぬ、いや、儲けようと思えば儲かるかも知れませぬな、ふぉっふぉっふぉ」


「答えになっていませんね……えっと、じゃあそれはモノですか? それとも別の、もっと曖昧な存在ですか? モノだとしたら固いですか? 柔らかいですか?」


「……ふ~む、その報酬とはモノですじゃ、そして固くもあり、柔らかくもあり、固体でもあって液体でもある、そういうモノなのですじゃ」


「なるほど……うん、アレでしょうか、片栗粉を水に溶かしたような、衝撃を加えると固くなる……ダイラタンシーというもので……」


「何だ、報酬は防具なのか? 供物と関係ないじゃないか」


「いえ勇者様、もしかしたら食紅を加えた、『深紅の水溶き片栗粉鎧』かも知れませんから」


「何だそれすげぇクソみてぇなもんだぞマジで」



 火の魔族の里の上層部による要領を得ない説明、そして何かがわかったような顔をして、本人もそうであると疑っていないミラ。


 もちろん片栗粉がどうのこうのなどというモノが、地下空間最深部のボスモンスター討伐報酬である可能性は極めて低い。


 しかし『既に報酬に辿り着いている』という内容に噓はないはずだ、それを踏まえ、明日はもう一度あの部屋を捜索していくこととしよう……

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