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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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807 まさかアイツが

「……というわけなのである、いざというときのために傷を癒す魔法薬を貰いたい」


「へへーっ、畏まりました英雄様、ではすぐにご準備致しますので、少々お待ちを」


「あ、それとさ、里の上層部に取り次ぐことが出来るか? ちょっと用があってな」


「というと……地下空間でのことに関して……その、何かご不満な点でも?」


「まぁ色々とムカついてはいるがな、でもブチ殺したりしないから安心して呼び出してやってくれ」


「本当でしょうね……」



 何だか知らないが疑われてしまった俺達、いや、もしかしてだが俺が疑われているのか?

 この自愛に満ち溢れた最強勇者様が、まさかダンジョン攻略が上手くいかない腹いせに里の人間を殺戮……死体とは思うな。


 だが現在はそのようなことをしている暇ではないし、ムカついた分のストレスは、とりあえずルビアでも引っ叩いて発散しておこう。


 で、係員によって呼び出されて来たジジィだかババァだかわからないシワクチャの火の魔族と話し、先程ジェシカが立てた予想を伝えてみる。


 その間に固まった副魔王の寄託および怪我人の治療と魔力等の回復だ、回復役等はセコく商売してくるとばかり思っていたのだが、何と無料で使い放題であった、後で俺も貰おう。


 で、肝心の『供物に関する情報』についてだが……長老系の年寄が、俺の話を聞いてシワクチャの顔をゆがませ、笑みを溢した……



「ふぉっふぉっふぉ、そういう結論に行き着きましたかの、それはそれで良いですのじゃ、『赤ひげの玉』への供物はあらゆるもの、最低でも500個、遥か北の地で採れた赤リンゴを、そして100kg程度、それよりも更に北の大地で得た赤き品々を添えておれば、あとはもう効率重視で良いとされていますのじゃ」


「……何だかはぐらかされているような気がするんだが……えっと、ボスサラマンダーを討伐した後には、ちゃんとした、供物に使えるような報酬が得られるということで間違いないですか?」


「ふぉっふぉっふぉ、その通りですじゃ、『最深部に待ち構える炎のトカゲを倒した者には、ガチで激アツの報酬が与えられん』、これが我ら火の魔族の里、その地下空間における報酬給付規定となっておりますからの」


「なるほどな……どういうことだ?」


「主殿、報酬は確かにあって、それは供物となるもの、となれば答えはひとつな気がするぞ」


「……おぉっ、そういうことか、それをどうにか獲得して賽銭箱へ投入すれば、全てが無事解決へと導かれるということで間違いなさそうだな、次は全力でそれを探すぞっ」


『うぇ~いっ!』



 俺達が気合を入れている間にも、まるで仏のようにニコニコと笑っている長老的ポジションの方。

 あまりしっかりしたヒントは与えることが出来ないが、俺達の統一見解を否定しない、その程度のことはして良いということなのであろう。


 で、その否定されなかった見解をぶら下げて、俺達はもう一度あの灼熱の地下空間の最深部を目指すのだが……ここはメンバーを変更するべきか?


 まず、勇者パーティーの中で参加が必須なのは俺、それから水を振り撒いて周囲を冷やす精霊S真の2人だ。

 そしてリリィは普通に参加したい、突入部隊に立候補することが確定している。


 となると残りの1人を決めなくてはならないのだが、前回無理矢理に連行されたマリエルに対し、もう一度行くぞと言っても渋い顔をするだけであろう。


 というか、マリエル本人はもう次は行かなくて良いと思っている様子、晴れやかな表情からそのことが窺える。

 ここで期待を裏切るわけにはいかないな、やはり次の参加者は別の誰かから選ばなくてはならない。


 で、メンバー的に必要になってくるのは……怪我をするといっても僅かであって、強力な回復魔法は必要ないな。

 途中で駄々を捏ねて歩かなくなる危険性を考慮すると、まずここでルビアが落選することとなろう。


 ……ルビアめ、俺が目を離した瞬間、露骨にホッとしやがったではないか、後でお尻ペンペンだ。

 それで他のメンバーはというと……やはり採択された例の案を発案したジェシカを連行……同行させるべきか?



「ジェシカ、次なんだが……行けるか?」


「……無理だとは言わせないのだろう主殿は」


「うむ、縛り上げて引き摺ってでも連れて行く所存だ、ちなみに防具は熱でダメになるから外した方が良いぞ、ジャージで行くんだジャージで」


「そんなもの持っていないのだが……」



 物わかりの良いジェシカであるが、灼熱の地下空間に突入するために必要となる、『汚れても燃えても、溶かされても良い服装』の持ち合わせがないようだ。


 仕方ない、ここは俺秘蔵のショボい衣服を貸してやろう、王都で近所のドブ掃除に駆り出された際に装備するものである。



「ほれジェシカ、これに着替えるんだ……向こうでなっ、ここで脱ぐんじゃねぇっ!」


「おっと、そうであったな、ここは公共の場所であったのだ、うっかり失念していたぞ」


「失念するようなことじゃねぇよ……」



 まぁ、出会ったばかりの頃のマリエルのように、自分で着替えることさえ出来ないようなお嬢様というわけではないだけマシか。


 とにかくジェシカを着替えさせ、その胸の部分がキッツキツになった粗末なTシャツと尻がパッツパツ状態にある七分丈のズボンを眺めていると……セラに攻撃された、拙い、このままでは殺害されてしまう。



「ちょっと勇者様! またジェシカちゃんにこんなの着せてっ!」


「しょうがないだろうジャージを持っていないんだからっ、それともアレか? 伝説の『異世界究極体操着』でも着せた方が良いのか? ほれ、こんなんだ」


「何それブルマじゃないの……何で勇者様がそんなの持ってんのよっ!」


「フハハハッ! 前に王都の量販店で見つけたんだ、パーティーグッズコーナーのだからすぐダメになるだろうがなっ」


「全く、これは没収よっ」


「そんなぁぁぁっ! おっ、俺の夢が、いつかそれを誰かに装備させて、激しい戦いの繰り広げられる戦場に突入させるという人生の野望がぁぁぁっ!」


「どんな夢を持っていたんですか勇者様は……」



 セラには女性キャラ専用装備アイテム(ブルマ)を没収され、ミラには呆れられ、ついでにルビアやマーサからはクスクスと笑われ、実に最低な気分である。


 この鬱憤はこれから再訪する地下空間で晴らすこととしよう、せっかくイジり易いジェシカが居るのだ、しかもパッツパツの大変にエッチな格好で。


 これを使わないという手は存在しないな、地下空間内が暗がりでないことは非常に残念だが、ジェシカが前衛であり、俺の前を歩いていることを上手く使い、そこそこの悪戯を仕掛けていくこととしよう。


 で、ウッキウキで突入部隊から外れ、井戸から地下空間へ入るための証票の類をジェシカに渡すマリエル。

 王女様からお貴族様へ、その過酷な環境に身を置かなくてはならない義務に係る書面等が手渡されたのだ。


 バトンタッチしたジェシカは……パッツパツの、今にもはち切れそうな格好で暗鬱とした表情をしているではないか。

 まぁ、状況的に仕方のないことだが、相変わらず楽し気なリリィとは全くの正反対である。



「おいコラ、おいっ、ジェシカ、あんまりやる気のない顔をしていると普段からそんな顔になってしまうぞ」


「そう言われてもな、先程出て来たばかりのマリエル殿の恰好、もう中でどのような過酷な環境に置かれていたのか一目瞭然だったぞ、ジャージは熱で焼かれたんだろう?」


「いやスライムに溶かされた、普段やっているのと同じようにしてな」


「しかしマグマに足を突っ込んだり、最悪マグマの中で泳いだりと……」


「それも大丈夫だった、マリエルのジャージを溶かしたスライムなんだがな、最後の最後で本性を現して襲ってくるタイプのものでな、途中までは道中を快適に過ごすための必須アイテムだったんだからな」


「そうなのか、では中はどうということはない、そういうことだな?」


「おうっ、もうブリブリだぜっ!」


「また勇者様は適当なことを……」



 旧被害者のマリエルが後ろで余計なことを言おうとしていたのだが、それをガン無視するかたちで井戸へと向かって歩き出した俺達。


 まぁ、その先の状況が実際はどうなのかについてだが、そんなことは再突入するメンバーのうち3人、わんころもち、カポネ、ハピエーヌの表情を見ればわかる……いや、ハピエーヌは大丈夫そうだな。


 とにかくぐでんぐでんになっているわんころもちとカポネ、その2人を引き摺るようにして向かった井戸の前では……しまった、ハピエーヌが用意した『何かババァみたいの』がどこかへ行ってしまったではないか。


 そして他には誰も居ない、いや誰も居なくなる瞬間が、この場所を空白とする時間があったのだ。

 よって当たり前のように突っ立ていつ『担当者』、またコイツとの押し問答をしなくてはならないのか。


 それはさすがにパスしたいが……そういえばセーブというのも気になっていたのであった……



 ※※※



「やぁっ……」


「うるせぇ黙れセーブするならしろ、5秒以内だ、5……4……3……あれ?」


「もう死んでいるわよ、てかどうせ形式的にしかセーブしないわ、また長々と話をされると鬱陶しいから、今回はこのまま行きましょ」


「だな、はいご愁傷様……っと、良いことを考えたぞ、それっ!」


「あっ、主殿! 他者をいきなり殺害したに留まらずご遺体を投げ飛ばすとはっ! しかも何か最初から顔面とかがブチュブチュだったような気がするんだが……」


「だって鬱陶しいんだぜコイツ、というかもう居ないが、何度でも蘇生するから、でも会話したくないから遠くへ投げておいた、どこかの森の中ででも蘇生すると良いさ、帰って来られるかは知らんがな」


「酷いことをするものだな、ちなみに顔が崩れていたり満身創痍だったのはどうしてだ?」


「知らん、生まれつきなんじゃね?」



 出会い頭に喋り出そうとした担当者の頭を掴んでやると、いつの間にか、というか掴んだ瞬間に死亡していたらしい。

 本当に雑魚な野郎だ、これで蘇ることさえなければ本当に良い奴なのだが、そうでもないので鬱陶しい。


 まぁ、投げ飛ばした先には小さな森があり、そこで蘇生してもまた魔物に喰われるなどしてすぐに死亡、ここへ戻るのには相当な時間を要することであろう。


 ということで次回の突入ぐらいまでの安心と安全は確保出来たのだが、可能であれば今回だけで作戦を終え、『赤ひげの玉』を開放してしまいたいものだ。


 そう考えながら井戸へ入り、正規のルートで奥を目指していくと、しばらく進んだところで例の紐がぶら下がったエリアへと出る。


 前回はまとめて引っ張った結果、1本だけ切れてしまって最後のトラップ、ゾンビ大量襲来が発動しなかったのだが、今回はどうしようか……



「なぁ、これって全部ブッチ切りしたらどうなるんだろうな?」


「そもそも主殿、何だこのロープは?」


「あぁ、この中からアタリを引き当てる感じのアレなんだけどな、結局順番通りに敵だのトラップだのが出現するだけであって、その場で抽選しているわけじゃないみたいなんだ」


「そういうことか……で、それゆえ上でゾンビが待機しているということだな」


「あ、最初から居たんだあいつら」



 ジェシカの指さす方、最後の紐を引くとゾンビが出現し、飛び降りて来る感じの演出で使うのであろう段差。

 そこから『またあいつら来やがった』というような顔……かどうかは腐っていてわからないのだが、とにかくゾンビがこちらを見ている。


 ということはだ、見えてはいないが雑魚宝箱2つ、それに槍のトラップ、あと豪華宝箱のトラップも、上か下かのどこかに存在しているはず。


 それらを普通に討伐するのも、紐を引かず、わざわざ捜し出してどうばつするのも面倒だ、ここは一撃、全ての紐をブッチ切りしてしまおう……



「ジェシカ、全部斬り払って良いぞ、ほらやれ、あ、せっかく良い武器があるんだからハピエーヌも手伝ってやってくれ」


「わかった、ではこっちは私が」

「あじゃじゃーっ、あたしゃこっちゃじゃじゃーっ」



 真面目なジェシカと意味不明な音を発しているハピエーヌ、2人で分担して垂れ下がったロープをブチブチと、装備している剣とポン刀で斬り捨てていく。


 その光景を見て上のゾンビは……またかという顔をしているようだな、相変わらず腐っていて良くわからないが。

 そしてその腐った頭も、これから精霊様の攻撃によってブチッと消滅していくことになるのだ。



「……宝箱は出現しないようだね、あの3体は倒す必要がないというのか」


「どうっすかね、精霊様、上のゾンビは処分して、リリィは床が光っていないか探すんだ、見つけたら『調べる』だぞ」


「はーいっ、っていうかもうさっきと同じ場所みたいです、2つ光ってます」


「よろしい、じゃあ片方はこの『水っぽい衣装』だな、もう片方は引換券で……『灼熱の〇ンポコボート グレート』だとっ⁉ まさかさっきのよりも良いやつなのかっ?」


「ちょっと見せて……なるほど、1回クリアして2周目だと、ちょっとハイクラスのアイテムがドロップする仕様みたいね、ということは……ムヒヒヒッ」


「ということはアレか、あの不正な領収書も探せば……ムヒヒヒッ」


「2人共どうしてそんなに悪い顔をしているんだ?」


『いや、別に何でもないっ!』



 真面目なジェシカに俺達の『ミラクル脱税スキーム』がバレるのは避けたい、絶対に何か妨害してきたり、しかるべき機関に通報するなどの卑劣な嫌がらせをしてくるに違いないのだ。


 ということでその話はせずに、再度レンタルしたバナナボート的な乗り物……ではなくチ〇ポコボート的な乗り物に跨り、そこから下って行く準備をする。


 今度もリリィが先頭、その後はほぼウエイト通りになるであろう背の順の予定であったのだが、せっかくなので俺の前に初参加のジェシカを入れてやることとしよう。


 上は『水っぽい衣装』を着込まれてしまったのだが、座面にムギュッと触れている尻についてはまだはち切れんばかりのパッツパツ、これに手を触れないことは出来ない。


 というか、そもそもこういう乗り物においては、安全のために前の人の体をしっかり持つのが常識だ。

 そんなことを知らない後ろの紋々太郎にその常識を教えてやるつもりは毛頭ないが、俺は知っている以上無視するわけにもいかない。



「よしっ、じゃあ出発だっ!」


「というか主殿、どうしてそんなに私の尻を触って……いや揉んでいるのだ?」


「安全のためだ、ここからはかなりスピードが出るからな」


「う、うむ……」



 納得がいかない様子のジェシカだが、俺がパッツパツの尻を触りまくっていることにつき、疑問には思うが特に抵抗したりはしない、それが良いところだ。


 この場にセラが居たとしたら、おそらく俺はもう殴り飛ばされるか魔法で飛ばされるかして、壁や天井に突き刺さっていたことであろう。


 その監視の目が行き届かないこの場所で、目一杯のセクハラをすることによって日頃の鬱憤を晴らすのだ。


 で、それはともかく走り出した『灼熱の〇ンポコボート グレート』とやら、先程よりも速く、そしてかなりの安定感を有しているということは、発信してすぐの段階でもうわかった。


 そして溶岩の流れるプールへ、そこも抜け、またしても岸へザザザッと着岸、その先にある最奥の部屋の扉を前にする。



「やれやれ、またここへ戻って来てしまったな、とりあえず入ろうか」


「入った後はどうしたら良いのだ?」


「まずはこの衣装を脱いで、真ん中辺りで出現するボスサラマンダーをリリィが殺す、宝箱は無視して、その後に現れる、ないしどこかから何かのキッカケで出現する『本当の報酬』とやらを捜し出すんだ」


「あ、ちょっと待ちなさい、ボスサラマンダーは生かしておくのよ、そのまま生贄にするって決めたじゃないの」


「あ、やべぇそうだったわ、ということでボスは生け捕りな」


「わかった、では行こうか……」



 前回と同じ流れで部屋へ入り、実は最後のトラップとなる『水っぽい衣装』を脱ぎ捨てる。

 今回はその衣装を掛けておくためのオブジェ、固まった副魔王がないのが前回との違いだ。


 そして魔法陣が出現する場所に、適当にその辺の岩を投げ込み、最初の攻撃を伴って出現するサラマンダーを……リリィが魚の摑み取りの如く、間髪入れずにひっ捕らえてそのまま賽銭箱へ放り込む。



「おっ、思ったよりメーターが伸びたじゃないか、これなら活きサラマンダーだけでも周回すればかなりのポイントになるぞ」


「……待って、ちょっと待って、今のっておかしくないかしら?」


「何がおかしいんだ? 不正でも発覚したのか?」


「いえね、私達がここへ来るのは2度目でしょう? 前回もほんのちょっとだけど供物を捧げたはずなの、それは確かなことよね?」


「そうだな、あれだけの『赤リンゴ』だのその他の海産物を捧げるだのして、あり得ないぐらいほんのちょっとだけだったがな」


「で、それなのになんで今『供物メーター』がゼロから再スタートになってんのよ?」


「……⁉ そ、そういえばっ!」



 まさか前回の供物は取り消された? というか騙し取られたというのか? いや、もしかするとこの賽銭箱的な『供物BOX』、元々周回してメーターを蓄積していくことを想定していないのではないか?


 或いは何らかの方法で現在の状況をセーブしないと、次に来たときに引き継いで奉納することが……待てよ、セーブだと? セーブ……もしかしてアレのことでは……



「おい精霊様、この供物の奉納状況をセーブしておくとしたらさ、どこでセーブするんだと思う?」


「普通ならここで、帰る前に『ここまでの冒険をセーブしますか?』ってなって……違うかしら?」


「俺もそう思う、思うんだがな、このダンジョンに関して言えば……あの入り口の担当者? 奴じゃないのかとも思う」


「・・・・・・・・・・」



 俺達がここへトライするのは確かに2周目、それはボートが『グレート』になっていることからも、そう判定されていることが確定している。


 では供物の方のセーブ状況はどうなのか、やはりあの『担当者』の存在がキーになっているのか……

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