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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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804 行方不明者は

「よしっ、じゃあこれを全員に配るぞ、受け取ったら必ず装備するんだ、そうしないと意味がないからな」


「あ、やっぱこれ先に見つけていたんですね、後ろでヒソヒソしていたから多分そうだろうなと」


「おいカポネ、お前大事な戦闘中にそんなことを考えていたのか? 集中力が足らん奴にはこうだっ!」


「ひゃいんっ! ちょっ、尻尾は引っ張らないで下さい……ひぃぃぃっ!」


「参ったかこの不真面目な奴めっ!」


「いひゃぁぁぁっ!」



 余計な場面を目撃していたカポネを襲い、サルのような尻尾を握り締めたり引っ張ってやったり。

 とにかくこれ以上そのことについては触れないように、釘を刺す感じでお仕置きしておく。


 しかし良く見ると可愛らしい、触りたくなる尻尾だな、カポネはこれから英雄パーティーとしてこの島国に残るのだが、ふと思い出した際に気軽に触ることが出来ないと思うと残念だ。


 まぁ、場合によってはこの島国の英雄拠点と、それから俺達勇者パーティーの拠点である王都を、大変に都合のよろしい転移装置で繋いでしまうというのもナシではないな……



「勇者様、遊んでいないで勇者様も装備して下さい、かなり涼しいですよこれ着ると」


「おっと、そうだったそうだった、どれどれ……ホントだ、むしろ寒いぐらいだな、来年の夏とかに使えそうだぞ」


「でもご主人様、『LL LL LL LL LL LL』ってのが背中に貼ったままですよ」


「おっと、タグを剥がすのを忘れていたな……あ、『火の魔族の里地下空間テーマパーク内でのみ有効です』って書いてあるわ、外じゃ使えないんだなコレ、大変残念なことに……」



 果たしてこの死と隣り合わせの場所を『テーマパーク』というのかどうかはさておき、マグマの熱さおよびそれによる空間的な暑さにも耐え得るというこの『水っぽい衣装』。


 水というよりも魔法を込められたゲル状の何かが封入されている、どことなく凍らせる前の保冷剤のようなのだが、それにしても効果が抜群である。


 なぜか衣装に触れていない部分も体感温度は下がっているし、それも非常に快適な温度、そして湿度も適切だ。

 突入部隊の8人の中で最も暑さに弱い、犬獣人のわんころもちも、大事にしていた魔導ハンディ扇風機を放り投げてご満悦の様子。


 これならここよりもずっと下、本当に灼熱の場所でもどうということはなさそうだな。

 あとはこのバナナボート的な乗り物が上手く機能してくれることを願うのみである……



「え~っと、誰が先頭になるんだろう? やっぱ順当に英雄パーティーからかな」


「……いや、背丈の降順ではなかろうか? その方が前に重さが出てよりスピードアップするはずだからね」


「なるほど、となると……何だリリィ、どうしたんだ?」


「一番……一番前が良いです……」


「よろしい、じゃあリリィは特例として先頭で、その後は……俺っすね」


「……そうだね、我は172㎝と、この島国の平均程度の背丈なのだよ」


「何か微妙な感じっすね、特徴としてアピール出来なさが実に残念っす」



 ということで先頭に立候補し、認められたリリィを抱える感じで俺が、その後ろに紋々太郎、マリエルと続く、ちなみにバナナボートへ乗り込むのは7人、精霊様は飛んだ方がよほど速いのだ。


 ちなみにハピエーヌも飛んだ方が早いのは確実なのだが、そこはノリノリで登場している本人の意思を尊重しよう、おそらく楽しくなってしまっているようだし、ここで余計なことを言うのは野暮である。



「で、乗り込んだは良いんだけどさ、これはどうやって出発するんだ?」


「え~っと、あそこにダストシュートみたいなのがあるわね、そこに入りなさい」


「じゃあ精霊様、そこまで引っ張ってくれよ」


「そこは自分達で頑張るのよ、足があるでしょ足が」


『・・・・・・・・・・』



 深紅のバナナボート的な何かは比較的高さがなく、先端の反り返った部分に鎮座してしまっているリリィ以外は確かに足が地面に着く。


 だが精霊様が指定したダストシュートのような場所、赤く光る枠で囲まれている辺り、そこがスタート地点で間違いないのであろうが、とにかくそこまではおよそ20mもメートルある。


 まぁ精霊様が一度そう言ったのだから絶対に譲らないのは確実、仕方ないな、ここは皆で協力する意味も込めて頑張ることとしよう。


 号令は遠征軍団全体の代表者でもある紋々太郎に任せて、俺は……足が着いていないくせにどうせリズムに合わせてバタバタするであろうリリィの、靴底から飛んで来る砂などを防ぐ防波堤の役割を果たすのだ……



「……では行こうか、全員準備は良いかね?」


『うぇ~いっ』


「……ぜんたぁーいっ! 進めっ! いっちに、いっちに、いっちに、いっちに、いっちに」


『いっちに、いっちに、えっちね、いっちに、いっちに』


「おい誰だ今『えっちね』って言ったの?」


「ごめんなさい勇者様、でもお約束なので……」


「クソッ、一度でも誰かが『えっちね』って言うと、それ以降が全部『えっちね』に聞こえるんだよこれはっ!」


「しかも所々でクスクス笑い出して先生に怒られますね」


「あぁ、そして『お前等このままだと1年中集団行動だぞ体育はっ!』と脅される、実に不快なことを思い出してしまったではないか」



 マリエルとくだらない話をしているうちに、深紅のバナナボート的な何かは普通にスタート地点前まで到着していた。


 というか集団行動のやり方は、俺が転移前に居た世界とこの世界で特に変わらないようだな。

 まぁ、元々は軍事教練なわけだし、俺のような転移者が持ち込んだら間違いなく学校や何かでやり出すであろう。


 と、そんなことはどうでも良いとして、壁にポッカリと空いた穴の先は……しばらく平坦だが、その先からかなりの角度で下っている、まるでラージヒルのようだな。


 で、その下った先からは凄まじい熱気が来ているのが感じ取れる、『水っぽい衣装』のお陰で熱さは感じないのだが、それでも『熱が来ている』ということだけはわかるから不思議だ。



「よし、え~っと、ここからどうするんだ? 精霊様、さすがに中身のチェックはしてくれよな」


「はいはい、え~っと……あ、ここに魔導センサーみたいなのと、それから魔導カタパルトの魔法陣があるわね、大丈夫、ここにそのバナナボート的なのをセットすれば勝手に魔導発進して、目的地まで魔導到着する感じの魔導よ」


「もう何でも魔導で説明が付くんだなこの世界は、てか魔導到着どんなだし」



 何がどう魔導なのか全くもってわからないのだが、とにかく最後だけはということで精霊様に引っ張らせ、そのダストシュート的なスタート穴にバナナボート的な乗り物を入れて貰う。


 入り口すぐから発射されるわけではなく、まず少し先へ行かないとならないようだ。

 だが入り口の先の地面は、ついでに壁も天井もであろうが、極めて摩擦抵抗の少ない材質のようである。


 少し地面を蹴るだけでスイーッと、まるで氷の上でも滑っているかのような感覚で先へ進む。

 これはなかなか楽しいな、リリィも喜んでいるし、この先高速で滑るのだとしたら、アトラクションとしては優秀なのではないか。


 もっとも、それは俺達のようにマグマに突入したぐらいでは死なない程度の耐性を持っているか、或いは先程の仕掛けを最後までクリアし、この『水っぽい衣装』を獲得した探索者にとってのみ。


 それ以外の者や団体にとっては、大変残念なことにこれが三途の川の渡しとなってしまう。

 しばらく行った先で熱さに耐え切れず、燃え尽きてこの地下空間の養分となるのだ……



「ほらほら、こっちこっち、ここに魔導センサーがあるからここまで滑りなさい」


「おう、じゃあリリィ、ちょっと勢いを付けるんだ、GO!」


「いきまーっす、GO!」



 体を揺らして勢いを付けたリリィの力によって、バナナボート的な乗り物はスススッと前へ滑って行った。

 そして精霊様の指示した魔導何とやらの真下を通過、そこで突如として周囲が光り出す、スタートする感じだな……



『ピーッ! ようこそ地獄の入口へ、君はこの灼熱のマグマに耐えられるかなっ? それでは深紅の〇ンポコボート、発進!』


「え? これチ〇ポコだったの? バナナじゃなくて」


「……確かに、言われてみればこの反り返り方は……かなり炎症を起こしているように思えるがね」


「全く、本当に教育に悪いモノを……いや、こんな所に来る子どもなどリリィぐらいのものか……」


「そんなこと言ってないで進み出すわよ、舌噛まないようにね、ちなみに私がワッショイワッショイしながら先導するわ」


「お、おう……」



 いつの間にか法被を着込み、捻じり鉢巻きをして褌を装備していた精霊様、ちなみに『水っぽい衣装』は上から羽織っている状態で、自らが熱で蒸発しないようにだけはしているらしい。


 で、両手には団扇を持っているのだが、その団扇を使って、まるで神輿でも先導するかの如く……いや、動き的には滑走路の誘導係なのだが、とにかく何かそういう感じのことをするようだ。


 で、そんな精霊様を見ていると、バナナボート……〇ンポコボート的な乗り物の下で魔法陣が輝く。

 これが魔導カタパルトか、何だか知らないが、直後には凄まじい衝撃とともに周囲の景色が流れ出す……



 ※※※



「ほぉぉぉっ! これは速いっ! ぶっちぎりだぜっ!」


「でもどこまで下るんでしょうか? そろそろ周りの壁とかが赤く燃えている感じで……」


「そこっ、そこから平らになっていますよっ、溶岩一杯だけどっ」


「本当だ、おーいっ、止まるから気を付けろーっ、投げ出されぽっ……」


「……勇者君が飛んで行ってしまったようだね」



 超高速のボートが滑って行った先、煮え立つ溶岩のプールのような場所にザブンッと着地したのだが、一番注意していたはずの俺が、皆にその注意を共有している隙に吹っ飛ばされてしまった。


 仲間達の乗ったボートはかなり先、俺は溶岩の海に浸かって……精霊様がUFOキャッチャーのようなもので助けてくれたではないか、まるでどこかのレースゲームのようである。


 そのままUFOキャッチャー状態でボートに戻された俺は無事復帰したのだが……なかなかに異様な光景だな、溶岩の流れるプールを、皆を乗せた深紅の〇ンポコボートがゆっくり進んでいるのだ。


 そして周囲の壁や天井は無地ではなく、赤熱状態の中に黒く、太陽の黒点を線にしたような感じの黒さで絵が描かれているではないか。


 壁画……溶岩画? なのだが、どうやら火の魔族の里の歴史を記したものらしく、昔といっても500年程度前のものであるためか、現代を生きる俺達にとっても比較的理解し易いものだ。



「へぇ~っ、この感じだとアレだな、火の魔族は比較的早く誕生した魔族ってことだな、最初の火山の噴火で瘴気が溢れて、そこで瘴気だけ浴びた者は純粋魔族、熱をも浴びた者は火の魔族にって感じなのか」


「そういえばどちらの種族も人族に近い見た目をしていますね、純粋魔族の方は耳が長いですが、やっぱり他よりも人族っぽいです」


「確かにな、仲間だけ見ても悪魔だったりウサギだったり、そこにサルとキジも居るんだもんな」


「あの、別に完全なサルというわけでは……」

「キジとか、ハーピーっしょ時代は」



 古の火山の爆発とほぼ同時に誕生した、非常に長い歴史を持つ火の魔族、この島国へ渡っても……というかその当時は陸続きであったのかも知れないが、とにかく火山の近くに里を構えたのは自然なことであろう。


 そしてそれから長い年月を経て、およそ500年前に魔王を討伐した、当時の魔王軍を壊滅させた始祖勇者の来訪である。


 特に人族と敵対していなかった火の魔族は、ここを観光の目玉にするついでに、その最奥の過酷な環境に『始祖勇者の玉』である『赤ひげの玉』を祀ることに了承したのだ。


 そして今、当代の勇者として世界を救う俺と、それからこの島国で当代の英雄として活躍している紋々太郎が、その仲間を連れてここを訪れている。


 実際のところ、この壁画というか何というかは俺達に見せるために描かれたものだ、火魔法を使ったのか、それとも溶岩を何らかの方法で操ったのかはわからないが、とにかく現時点で無事に伝わっていることだけは確かだ……



「え~っと、あ、何だか火の魔族の人達の長老みたいな絵が描かれていますね」


「妙にリアルだな、自分達の絵だけ気合を入れたのか?」


「そうでしょうか? ほら、あっちの火の魔族とは関係ないような方の絵……じゃなくて立体的ですね、彫刻とか本当にリアルですよ」


「確かに、女の人が壁から生えている感じだな、表面の溶岩は冷えて固まっているのか、その状態で彫ったのか、それとも溶岩を整形してから冷やし固めたのかって感じだな」


『……スケテ……ドイイトコロニ……ケテ……』


「しかも何か言っていますよ、ちょっと音声の方はアレですけど」


「まぁ500年前のものだからな、そういう機能については魔力切れでも……何か副魔王の奴に似てないかコレ?」


「……みたいですね、精霊様、これは?」


「う~ん、表面が魔力を奪う金属を結構な量含んでいて……その奥から微かに力を感じるわね、『お願いだから助けて』」って言っているわ」


「どう考えても副魔王その人じゃねぇかっ!」



 なんと、俺達が壁から生えた先鋭的なアートだと認識したものは、哀れな副魔王の成れの果てであった。


 適当にこの迷路のような地下空間にトライし、溶岩の中を泳いで移動していたのであろう。

 それがこのエリアにて、たまたま『魔力を奪う金属』を多く含んだ場所に進入してしまい……現在の状態となったのだ。


 どれだけ強大な力を持つとはいえ、わんころもちのように『強大すぎて魔力を奪う金属さえ寄せ付けない』程度の力でない限り、その場で行動不能になってしまうのは必定。


 ついでに周囲の溶けた岩が自らの体温の低さによって冷え固まり、そこから紆余曲折あって『壁から生えたオブジェ』のようになってしまったのだ。


 そして当然ではあるが、副魔王はその程度でどうにかなってしまうほどヤワな存在ではない。

 力は出せずとも普通に、ノーダメージで生存し、単に固い岩に囚われただけの状態で俺達を迎えたのである……



「よいしょっ、掴みましたっ!」


「よし、離すなよリリィ、そのまま引っ張るとどうなる?」


「むっ、んんーっ……ちょっとずつ抜けてきます、あ、でもスカートは取れちゃってるかも、パンツもです」


「いや、そもそも衣服が丈夫すぎるんだが? 魔力でコーティングされていないのにどうして……まぁ良いや、とにかく引っこ抜いてくれ」


「わかりました……でも『痛い痛いっ!』って言ってますよ、どうします?」


「構うものか、だがせめてもの慈悲だ、一気にいってやれ」


「はーいっ、それっ!」


『ひぎぃぃぃっ!』



 赤熱状態の壁からボソッと抜けたのは副魔王……の素っ裸になった下半身のみであった。

 リリィが掴んでいる上半身の部分は、未だに冷え固まった溶岩でコーティングされており、身動きが取れないらしい。


 それでもハッキリと聞こえる程度の悲鳴を上げ、自由になった足もバタバタさせてそれを表現している。

 さて、このままコーティングを剥がしてしまうとまた厄介なことになるな、どうしようか……そうだ……



「じゃあリリィ、そのはみ出した足が良い感じの角度になったら溶岩にディップするんだ、この場所の、魔力を奪う金属をふんだんに含んだ溶岩にな」


「良い感じの角度……ってどのぐらいですか?」


「ちょうどこのボートに跨らせることが出来るぐらいだ、わかるな?」


「わかりますっ、じゃあ狙って狙って……ここだっ!」


『ひぎぃぃぃっ! 固まっちゃうっ! また固まっちゃうからぁぁぁっ!』


「やかましい奴だな、固まっちゃうんじゃなくて固めてんだよ、いつもみたいに逃げ出さないようにな、ちなみに外には連れ出してやるから安心しろ」


『・・・・・・・・・・』



 諦めたのであろうか、それとも助かったと喚起しているのであろうか、とにかく大人しくなった副魔王を、ひとつ後ろにずれた紋々太郎と俺の間にドカッと置いて再出発する。


 しかし意外な所で行方不明者を発見することが出来たな、このまま外へ連れ出し、魔力を奪う金属で出来た檻の中へ放り込み、そしてその中で表面の塩釜……ではなく溶岩をハンマーで割るなどして助け出してやるのだ。


 そうすればもう逃げられず、そしてこのガッチガチの状態からも解放してやることが可能になる。

 残念なことに失ってしまったスカートとパンツに関しては諦めて頂く他ないのだが、永遠にあの場所でオブジェと化しているよりはマシなはず。


 副魔王は助けてやった俺達に感謝して、魔王軍の重大な秘密をいくつか、無条件で話す義務があると言えるな、何を聞くか、今のうちに考えておくこととしよう。


 で、そんな哀れな副魔王を加えた俺達突入部隊は、そのままどんぶらこどんぶらこ……ではないが、とにかく溶岩の中を深紅のチ〇ポコボートに乗って進んで行った。


 そのまま1時間、いや2時間以上旅をしていたであろうか、溶岩の海、灼熱の洞窟をズンズンと進んで行く俺達の乗ったボートは、遂に終着点と思しき場所まで到達したようだ。


 ザザザツと岸に着き、そのまま徐々に薄くなり、終いには消失してしまったボート……帰りはどうしろというのだ? まさか『流れる溶岩のプール』を、逆向きに泳いで帰れということなのか?


 とまぁ、さすがにその辺りは色々と用意してあるに違いない、そうでなくては里併設のアトラクションとして成立しないし、そもそも維持管理に来る里の人間が帰れなくなってしまうではないか。


 ということでまずは……しばらく陸地が続いた先に扉があるな、かなりの熱だが、『水っぽい衣装』のお陰でどうやら靴も保護されている、そこまで普通に歩いて行くことが出来そうだ。


 そして扉の向こうではきっと、祭壇の上に鎮座する『赤ひげの玉』が俺達を待ち受けるのであろうな……

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