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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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803 チケット

「うぃっ、あじゃじゃしたーっ」


「ええ、じゃあそうしますね」

「私も距離を取ってっと、パイナップルは3つで良いかしら?」


「うじゃじゃーっ、あじゃじゃっっしたーっ」


『了解!』


「どうして会話が成立しているんだお前達は……」



 ハピエーヌによる謎の暗号作戦、その中身は英雄パーティー配下の3人の中だけで共有されているものであり、おそらく紋々太郎でさえもわかっていないのではないかと思うほどだ。


 というかこの3人、それぞれが出会ったばかりであるというのにこの連携、まぁ、普段からノリだけで生活しているようなハピエーヌがリードしているというのもかなり大きいか。


 3体居た宝箱系の敵のうち2体は既に破裂、カポネが使い始めた『口の中にパイナップル詰め込む』戦術によって、内部から破壊されたのである。


 そしてその片方は回復役を務めていたと思しき、さらに感じ的には蘇生まで出来るのではないかという能力まで備えていた『ラスボスの左手』的な存在、いや、右手であったか?


 とにかくそんな回復役と、それから攻撃役の『両手』を落とされた宝箱のバケモノは、未だに飛び回るハピエーヌによって翻弄され、ついでに時折『ポン刀』での一撃を喰らっている。


 そこへ先程の指示で下がったわんころもちが、前回も使用した『投げドス』によって追撃を加えていく。

 さらにはカポネが敵の周囲に『パイナップル』を撒き散らす、本体から少し離れているとはいえ至近弾であることに変わりはない。



「……うむ、良い感じに敵の動きを抑制しているようだね」


「でも決め手に欠けますね、何かこう、敵に止めを刺すことが出来るような大技が欲しいところです」


「今の3人じゃそれは難しいわ、センスはあっても力の引き出しが足りていない、今回はこのまま地道に削っていくしかないわね」


「何? いまそういう分析する時間なの? リリィ、向こうで遊ぼうぜ」


「じゃあご主人様、今見つけたこの変なスケスケの服で変質者ごっこしましょう」


「ん? おいリリィ、それって何か水系のアイテムで……どこで見つけたんだ?」


「そっちの隅っこです、地面が光っていたんで、『調べる』ってしたら手に入れました、『水っぽい衣装×8』だそうです」


「いやもう完全にそれじゃねぇか」



 フェイクらしくて本当にフェイクであった豪華な宝箱、そして『実はこちらが……』というような感じを醸し出しつつ、やはり普通にフェイクであった粗末な通常宝箱がふたつ。


 その全てを討伐した際には、改めてホンモノの宝箱が出現する者だと思っていたのだが……それとはまったく関係ない所で本命アイテムが出て来てしまった。


 これは拙いな、必死で戦い、ようやく勝利した3人がこの状況を知ったらどう思であろうか。

 自分達の努力は無駄なものであり、頑張れば報われるなどというのは幻想だと思ってしまうに違いない。


 せっかくの連携プレーも、これからの3人による英雄パーティーメンバーとしての輝かしい戦績も、この『頑張ったけどストーリー進行には別に関係ありませんでした』、という事実によって崩れ去ってしまうのではなかろうか。


 しかし悪いことにこのアイテムは全てリリィが発見したもの、もちろん手柄もそこにある。

 他のメンバーならいざ知らず、子どもであるリリィから手柄を奪うような真似は……さすがに出来ない。


 ではどうするべきなのか、まずこのアイテム自体の発見に関しては騙しようがないのだ、ここは諦めよう。

 となるとそれ以外に、3人がここで戦った意味を残してやる必要があるのだが……果たして何が良いであろうか。


 とりあえず観戦とその戦いに関する分析の方は精霊様、それから紋々太郎に任せ、俺とマリエルでこちらを話し合うこととしよう。


 本来であれば賢さの高い精霊様の意見を拝聴するのが妥当かも知れないが、精霊様の場合、人の気持ち等を汲んだ言動をすることが出来ないのだ。


 きっと適当なことをやって3人にショックを与える、最悪の場合には、この時点でもう戦う意味がなくなったことを告げて戦闘を中断させるかも知れない。


 それを避けるためには、ここでコッソリとこの件についての検討を重ね、戦っている3人も、そして重要アイテム発見の功績者であるリリィも納得するような決着に持ち込みたいところだ……



「ちょいちょい……マリエルのみ集合だ」


「何でしょうか勇者様、今バトルが最も白熱しているところで……ほら、遠距離からの2人の『投げドス&パイナップル攻撃』、そして飛び回って斬り付ける『ポン刀ヒット&アウェイ』が折り重なって、敵も宝箱の殻を閉じるなどして必死にそれを耐えて……え? それより重要なことですか……」


「そうだ、リリィ、マリエルにだけ例のブツを見せてやれ」


「見せるだけですよ、ちょっとだけですからね、はいっ!」


「……⁉ ちょっとっ、それは、それはもしかして……いや、あまり大きな声で言うのはやめましょう、ここで戦っている意味とかもう完全にアレになってしまいますから」


「そういうことなんだ、この件に関してちょっとこっちで相談だ、バトルの方は見られなくなるが仕方ない、精霊様に頼んで録画しておいて貰え」


「こういうのはリアルタイムこそが至高なんですが……仕方ありませんね、この状況では」



 ということでマリエルがこちらへ、そしてリリィも含めて3人で相談を始める。

 なお、リリィもこのままでは拙いということに気が付いているようで、ゲットした手柄を譲るつもりはないものの、何か代替案を考える気はあるようだ。


 となるとまずここでやっておくべきことは……別の何かを探すこと、敵の宝箱モンスターを討伐する、それによって冒険が先へ進む、進んだという納得のいく証明を考え出してやることだな。


 表彰状でも作って渡してやるか? いや、それだとわざとらしすぎる、ではどうするべきか、3人で意見を出し合うも、本当に有力なものは出てこない。


 現時点で既に敵、宝箱モンスターの親玉は満身創痍だ、このままいけばあと僅か、5分もしないうちに戦いが決着してしまうな。


 それまでに何かを、とにかく何でも良いから真っ当な討伐報酬を……



「あの勇者様、今思ったんですが……良いですか?」


「どうしたマリエル? 何でも良いから意見をくれ、今はそういうフェーズだ」


「えっと、もしかしたらなんですが、あの宝箱のモンスターを討伐した際にも、結構な報酬が出るんじゃないでしょうか?」


「そうかな、アレ自体完全なフェイクであって、勝てたとしても無駄な時間を使わせて、そんなに強くないパーティーであればその後の報酬に思いを馳せつつ戦死、そんな感じの残念トラップな気がするぞ」


「そうでしょうか……まぁ、その可能性もありますが……」


「でもご主人様、どうしてこのアイテムはあんな場所に落ちていたんですか?」


「どうしてだろうな、通常こういうダンジョンでそういうのが出る、つまり地面とかが光っていて調べるとってのはだな、イベントがあったにも拘らずそれをスルーしてしまった際に……あ、もしかしてだけどさ……」



 イベントをスルーしてしまった結果として、後にその場所へ戻った際に重要ないし必須のアイテムが発見される。

 今回がそういう類のものだとしたら、そのスルーしてしまったイベントというのは……上からのゾンビ襲来ではなかろうか?


 いや、それ以外に考えられないな、重要アイテムが宝箱に入っていると思いきやハズレ、そして違う紐を引くと、今度はゾンビが上からボトボトと落下してくる。


 おそらくはあの微妙な感じのゾンビ、ロープが切れてしまい、出現することが叶わなかったうえに、そのまま精霊様に殺戮されてしまった連中は、本来後から、宝箱モンスター討伐後に別のロープを引いた際に出番が来るものであったのだ。


 あのロープはどれかを引くとどれかが、という具合ではなく、どれを引いたとしても予め決定されていた順番通りにトラップだの宝箱だのが出現する仕組み。


 それがリリィによって全てのロープをまとめて引かれてしまい、何もかもが同時に出現せざるを得なかったのだが……ラストの役割であったゾンビ軍団のみが、1本だけロープが切れたことによって足止めを喰らった、そういう感じなのであろう。


 いや、だとすると宝箱の方は報酬がなさそうだな、何も得られなかった、だからこそ別のロープを引いて、それで上から落ちて来たゾンビに襲われる。


 そしてそこまで、ゾンビの群れまで討伐し切る力がある者、またはパーティーに呑み、灼熱のマグマ地帯を進むためのアイテム、それをゲットする権利が与えられる仕組みなのだ。



「……というのが俺の予想だ、これ、結構拙くね?」


「拙いでしょうね、頑張ったけど報われず、さぁ次だと思えば次は『済』、アイテムの獲得も『済』と、先程まで想定していたものよりも、3人にとってもっともっと過酷な未来です」


「だよな、こうなったらもうこっちで『ご褒美』を出すしかないな」


「ええ、では英雄の方にも、それから精霊様にも事情を説明して、それなりのものを用意するようにしましょう」



 その後、観戦に戻る感じでスッと2人の所へと戻り、戦っている3人にはバレないようにコッソリと事情の伝達を済ませる。


 そこで紋々太郎の発案により、宝箱モンスターのボスを倒した際に出てくるであろう何らかのもの、それの内容次第でここからやるべきことを変えようということが決まった。


 目的物ではないにせよ、良いものが出ればそれでOKなのだ、で、もしそうでなかった場合に備えてどうするかと相談したところ、さすがに賢い精霊様によっていい案が出た……と言えるのかは微妙だが、とにかく何とかなりそうだ……



 ※※※



「しゃっ、ラストオールうぇ~いっ」


『うぇ~いっ!』


「何かわんころもちとカポネの2人にも『意味不明語』が伝染しているような気がするんだが?」


「そうみたいだけど、まぁそのうち元に戻るでしょう」


「むしろ悪化していく未来しか見えないんだが? 放置して意思の疎通が図れなくなったら大変なんだが……と、どうやらラストアタックのようだな」



 3人が同時に宝箱モンスターへ接近、まずは『ドス』を握りしめたわんころもちが、これ以上のダメージを受けまいと殻に、というか宝箱に閉じ籠った敵をこじ開ける。


 まるで貝柱をナイフで切るかのように、背後からはこの蝶番部分を破壊、宝箱は逆さに開き、中に入っているバケモノが露わになった感じだ。


 前回の宝箱モンスターとは明らかに違う、きっと雑魚系であった2匹が、最初にリリィが捕まえたバケモノの上位種、そしてコイツが、この豪華そうな宝箱が最上位種といった感じであろうか。


 とにかくその箱の中身に、天井ギリギリの高さから急降下したハピエーヌが突きを加える。

 怯んだ、その拍子に前の部分も開き、宝箱の蓋が完全に外れてしまう、これでもう防御は出来なくなったな。



「じゃあこの中に『パイナップル』をポイっと」


「もうちょっと沢山入れた方が良いんじゃないかな?」


「そうかも、じゃあ追加で5個、お願いしまーっす……さて離れよっか」


「ええ、じゃあまた私は後ろに、耳が良すぎてこういうのアレなんで」


『ドビュゥゥゥッ! ギャァァァッ!』


「……ちゃんと爆発したみたい、倒したかな?」



 2度に分けて『パイナップル』を、それも5個ずつという破格の分量で宝箱の中に放り込んだカポネ。

 もちろんそれらは時間差で、蓋のなくなった空箱が噴火するかのようにして爆発した。


 直後には敵の反応が完全に消える、箱の中ではグッチョグチョの、肉片の塊へとなり果てたバケモノが居ることであろう。

 さて、問題はこれから何が起こるのかだ、一応何らかのモーションがある……また魔法陣か……



「っしゃーっ、何か出たっす、やべぇ、これ宝マジやべぇっしょ」


「お宝……なのかな? さっき言っていた例の何とかって衣装がこの中に?」


「そりゃそうっしょ、はいオープーンッ……あれ? 紙切れっすね、引換券?」


「何でしょうかこれ? この引換券でその、例のアイテムと交換出来るってこと……ではなさそうなんですが、どうなんでしょう?」


「……いや、君達は良く頑張った、そのアイテムについてはこちらで調べておくゆえ、少し休憩すると良い」


『はぁ~い』


「あ、じゃあこれっす、うぃっす……てか水なんちゃらみたいなのもう出現してるし、マジのやつっすかそれ」


「ん、まぁ一応そうみたいなんだが、その、アレだ、良く頑張ったから休んでいると良い、ハピエーヌは抜け落ちた自分の羽を集めておけよ、凄い価値のものなんだからな」


「うぃ~っ」



 この中だと鋭いのは……全員だ、ハピエーヌは馬鹿だがある程度勘というものを有する、そしてわんころもちとカポネに関しては、間違いなく俺やマリエルよりも賢さが高い。


 この連中に誤魔化しを掛けるのはなかなか骨が折れそうだな、で、アイテムの方は発見されてしまったものの、こちらの『引換券』とやらは……本当に何なのであろうか?



「……ふむ、かなり文字が掠れているのだが……確かに何かと引き換えることが出来る券のようだね」


「頼みます、何か凄く良いものであって、あの3人の戦いが報われるものであることをどうか……」


「……勇者君、これは我々通常の人間にはわからないものだ、魔族ならともかくね、ここはとりあえず水の大精霊様にお見せしよう」


「そうっすね、おい精霊様、仕事だぞ、これを解読してやってくれ」


「しょうがないわね、私の鑑定評価は料金が高いわよ」


「余裕で踏み倒すから大丈夫だ、すぐにやってくれ、悪い結果が出たら尻を叩くからな」


「それは不可抗力だと思うの……」



 どうしてもいい結果が欲しい、ビッグボーナスが欲しい、そう、『マネージャーにボーナス揃えて貰ったらオバケだった』と怒るパチンコ屋のおばちゃんかの如く、俺達は良い結果のみに期待しているのだ。


 手渡された1枚きりの紙切れ、それも古くなって薄汚れたものをジッと見つめる精霊様。

 時折裏返してみたり、横から見てみたりとなかなか忙しいが、それでも解析は進んでいる様子。


 しばらくするとウンウンと頷き出し、何かがわかった感を全開にしてきた精霊様は、紙切れを元々所持していた紋々太郎に手渡しつつ、余裕の表情を浮かべる。


 座り込んで尻を守らない、ということは恨みを買って叩かれる心配がないということを意味している……はずだ。

 それで、この紙切れが一体何と『引換』出来る券なのかについて、率直に質問をぶつけてみた……



「これはね、ここから先の移動手段になるものの引換券なの、かなり古いしくれるんじゃなくて貸してくれるだけみたいだけど、その引き換えられるもの自体は封印されているわけだし、まだ現役バリバリで使えるはずよ」


「移動手段だと? 何それカッコイイ感じのやつか?」


「う~ん、ここの文字が消えているところなんだけど、『楽しい! 溶岩スライダー!』って書いてあるわ、数万年前には市販されていたレジャーアイテムみたい」


「なるほど、数万年前にはレジャー用品だったのが、ここが出来た500年ぐらい前にはもうレトロ、というか古のアイテムであって、こんな場所で強敵を倒して手にするだけの価値があるものになっていたと、そういうことだな?」


「ええ、しかもこの溶岩地帯にはうってつけの最強移動手段としてよ」



 なるほど……いや何がなるほどだ、宝箱モンスターを討伐し、この引換券を使って『溶岩スライダー』をゲットする、ここまでは良い。


 だがそれが『アタリ』だと思い込み、次の紐を引かない、つまり専用の熱防御衣装を獲得せずに先へ進めば……おそらく、というか普通であれば丸焦げだ。


 その際にはもちろん、使用された溶岩スライダーのみが無事であり、それは黒焦げの探索者を乗せたまま彷徨い、良い感じの所で再封印されて元の場所へ……とんでもない死のアトラクションではないか……


 まぁ、それはそれで良いとしておこう、別に俺達であれば元々溶岩などどうということはないのだ。

 それに必要なモノは予めゲットしてあるのだ、特に問題はなかろう。


 ということでだ、このチケットを用いて……どこで用いるのだ? と思ったら壁にコインパーキングのアレのようなものが設置されているではないか、間違いなくコレだ。



「……ここにチケットを挿入するのだな?」


「そうみたいっすね、これで……何か魔法陣出たっ!」


「うわっ、また変な敵ですか? もう疲れたんですけど……」


「大丈夫だわんころもち、お前は休憩していてくれて構わない、というか3人共良くやったぞ、凄いアイテムが手に入りそうだ」


「あ~、そうなんですね、ちゃんと頑張った分のご褒美が出るんですね」


「そうだ、努力は絶対に裏切らないんだ、ということでこれからも努力を続けるんだ、わかるな?」


「勇者様、一番努力していなさそうな人の台詞ではありませんよそれは」


「黙れマリエル! このっ、カンチョーしてやるっ!」


「はうっ!」


「どうだ、この俺様の絶え間なき努力によって磨かれたカンチョーの鋭さはっ」


「努力する方向が……間違って……ガクッ……」



 マリエルを討伐した、ちなみに楽勝であったためたいしたご褒美は貰えないようだ。

 で、頑張った3人の宝箱モンスター討伐に係るご褒美は……魔法陣の中からせり出してきた。


 異常に長い、そして真っ赤に燃えるような色をした……これはバナナボートか。

 牽引するための船などはセットになっていないのだが、おそらくはずっと下りなので問題なかろう。


 ついでに言うと8人どころか12人乗りである、かなり余裕をもって搭乗することが出来そうだ。


 これに乗り、先程リリィが発見した衣装を装備し、そして地下空間の最深部を目指す。

 その先に待つものは『赤ひげの玉』であり、往復に関してもまぁどうにかなりそうだ。


 問題はここでも出会わなかった副魔王の奴なのだが……本当にどこへ行ってしまった、どこを彷徨っているというのだあいつは……

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