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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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800 中間地点でおなじみの

「おっしゃ、じゃあ涼しいアイテムが手に入ったところで、もうちょっと頑張って先へ進もうぜ、ほら立てわんころもち、お前が主役みたいなものなんだぞ」


「無理です~っ、あ~っ、でもコレ涼しい~っ」


「ほらっ、ちゃんと歩かないとまた放り投げるわよ」


「はぁ~い、歩きま~す」



 先程は良く頑張ったのだが、戦闘を終えたとたんに元の状態、ぬくぬくと育ったお嬢様かのような態度へと後戻りしてしまうわんころもち。


 修行ぐらいであれば大丈夫なものの、実際の戦闘、目と目が合う距離での直接的な殺し合いに慣れるまでには、通常の人間よりもより長い時間を要することであろう。


 まぁ、英雄パーティーに関してはだが、他のメンバーにつき戦闘も殺し合いも、一方的な蹂躙もOKなのだ。

 わんころもち、というか新イヌマーさえどうにかなれば、これからの活動においても安泰であるに違いない。


 で、ノロノロと立ち上がり、手に入れた魔導ハンディ扇風機を首元に当てつつ、さらにノロノロと歩き出したそのわんころもちがまともに進み出すのを待ち、地下通路の更に奥を目指す……



「え~っと、ここがこうなって……あれ?」


「勇者様、マップが上下逆さです、あとそれ裏面です、何を見ているんですか一体?」


「あ、これはマップじゃなくて誰かが溢した紅茶のシミか、失礼、え~っと……ゴチャゴチャしていてわからんぞ……」


「……貸してみたまえ勇者君、もしかしたら我が見た方が良いかも知れないからね」


「あ、おねしゃっす」


「……どれどれ……ふむ、ここからはずっとまっすぐだ、というか見たまえ、脇道も分かれ道もひとつもないではないか」


「あ、ホントだ……マップ広げた意味ねぇな……」



 などと無駄な時間を過ごしつつ、まっすぐな道をしばらく先へ進んで行く、ここは正規のルートではないようだが、進入可能な場所である以上何かトラップの類、モンスターなどの敵、それから宝箱の設置もあるに違いない。


 となるとそのうちに何か変化が……と、向かう先の壁がボコッと割れ、その中から燃えるトカゲのようなモンスターが、まとめて3体も出現したではないか。


 で、そのまま3匹全部が地面に設置されていたトラップに引っ掛かり、切断されたり蜂の巣にされたりして死亡してしまった。


 次いで出現したのは3つの粗末な宝箱……どうやら今勝手に出現して勝手に死んだ燃えるトカゲは、俺達が討伐したと判定されたようだ、それにより『討伐報酬』が出たのである。



「何だか知らんが、これから起りそうなことを全部まとめてデモンストレーションしやがったな……」


「ご主人様、宝箱開けて良いですか?」


「うむ、こういう感じで出現した宝箱なら問題はなかろう、全部開けてしまえ、中身には期待出来ないがな」


「はーいっ、じゃあ右から順に、いちにっさんっ!」



 ポンポンポンッと、リズム良く3つの宝箱をオープンしたリリィ……大丈夫、かつて鬱陶しい目に遭わされた『宝箱の精』的な奴が出現することはないようだ。


 で、そのアイテムが入っていると思しき宝箱の中身は何であろうか、小瓶が入っているのが2つ、そして紙切れが1枚、小瓶の方は色違いか……



「ふむ、まずこっちの小瓶2つは何なんだ? 魔法薬か?」


「え~っと、こっちの紫のが傷を癒すクスリ、こっちは魔力を再充填するクスリだと書いてありますが……」


「書いてありますが?」


「なんと賞味期限が300年前です」


「逆に熟成されてて良いんじゃね?」


「いえ、『本品は無色透明です、変色している場合には、使用期限内でも使用をお控え下さい』とも書いてありますね」


「どっちもダメじゃねぇか、まぁ、途中で遭遇したモンスターなんかにブッカケしてやろうぜ、どういう反応をするか楽しみだ」


「またとんでもないことになりそうな気がするんですが……」



 マリエルと2人、ひとまず気になった小瓶の方を確認し、使い物にならないゴミアイテムであるということを確認する。


 まぁ、ここが創られてから数百年、始祖勇者が来てからすぐにこの地下道を掘ったとしたら、500年弱は経過しているであろうという感じの場所だ。


 その中の正規ルートを外れた道で、偶然遭遇し、勝手に討伐したことになった謎の燃えるトカゲが、賞味期限ブッチ切りの魔法薬をドロップしたとしてもおかしくはない。


 おそらくこの先も、一定の期間内に使わなくてはならないアイテムをゲットした際には、またこういうことになるのであろう。


 それは宝箱でも、敵を倒してドロップした場合でも同様であり、最後の最後まで期待は出来ない。

 可能であれば先程の『魔導ハンディ扇風機』ように長らく使えるもの、そして欲を言えばもっと良いモノを提供して欲しいものだ……



「それで、こっちの紙切れは何だろうか?」


「……これはレシートだね、日付が空欄になっているよ、誰かが金貨3枚の買い物をした際に発行されたものらしい」


「意味がわかんないっすね、そんな高額なレシート、記念にでも取っておいたんで……日付ナシなら使えそうなんすけど……」


「……そうだね、ここに本日の日付を魔導入力すれば……今年使うことが出来る経費の誕生だっ! 勇者君、英雄パーティーは収支報告などしないからね、これは君が好きに使いたまえ」


「あざーっす!」



 まさかの高額経費、レシートのワイルドカードのようなものをゲットしてしまったではないか。

 公僕側に与する可能性のある王女様が、それは拙いのでは? という目でこちらを見ているのだが、それはもう気にしないでおこう。


 このまま宝箱を開け続け、その度に『ワイルドレシート』をゲットしていったらどうなるか、それは容易に想像が付く結末だ。


 本年度の勇者パーティーの活動においては、収入よりも支出の方が上回る、即ち赤字となる。


 そうすれば鬱陶しい納税などする必要もなくなるし、王都に帰ってババァに泣き付けば、もしかしたら欠損額の補填として現金をくれるかも知れない。


 もちろん空レシートゆえ計算が合わなくなり、勇者パーティー会計のクリーンサープラス関係は崩壊してしまうが、そこは凄まじい洗浄力を持つ精霊様によるロンダリングでどうにかするのだ。


 まぁ、もし脱税バレしたら戦えば良い、攻めて来た税務職員を返り討ちにし、死体を串刺しにして屋敷の門の前に掲げておけば、翌年度以降は絶対に税務調査など入らなくなるはずである。


 とにかく今は『ワイルドレシート集め』だ、もう『赤ひげの玉』など本当にどうでも良い、これはこの年末の時期において、女神がくれた絶好の帳尻合わせチャンスなのだから……



「よっしゃっ! リリィ、次からも敵を見つけたらすぐに言うか、可能であればブチ殺してしまえ、宝箱をガンガン開けるんだ」


「そのために遠回りしてやっても良いわね、こんなチャンス滅多にないし、関連する王都の店舗なんかも、全てごっそり赤字に持っていけるような数を確保しておきたいわね」


「あの……それだと時間が掛かりすぎてしまうのでは……」


「黙れマリエル、金持ちのお前にこの庶民階級事業主の気持ちがわかってたまるかっ!」


「気持ちはわからないですが、堂々と脱税を画策するのはどうかと……絶対にバレて怒られますよ、それを、このレシート、何かおかしくないですか?」


「どこがおかしいんだ? 今はもう昨日の日付で、え~っと、この火の魔族の里で金貨5枚分のトイレットペーパーを購入しただけの単なるレシートだ、どこも怪しくはない」


「そうは思えないんですが……そもそもトイレットペーパーだけで金貨5枚分って」



 いちいち不安げな表情をするマリエル、王女が脱税に加担するのは立場上拙いのか? だがもう一度考えて欲しい、みなの期待を背負うべき勇者が脱税している、その時点で十分にヤバい事案なのだ。


 もし本当にバレても公になることはないし、キレられたら適当に難癖を付けて逆ギレしてやれば良い。

 そこまで考慮したうえでの俺様の計画に、金持ち王女様如きが口を挟むものではないのだ。


 それにこの件には精霊様も同意、というかもう賛同しているのだからな、本当に心強い味方である。

 俺と精霊様の最強コンビにて、この地下空間にある全ての『ワイルドレシート』を掻き集めなくてはならない、それが今最もすべきことなのだ。


 と、どういうわけかここで、最初にレシートの件に触れた紋々太郎が、グラサンの下で急に怪訝な表情を作ったではないか……



「……勇者君、もしかするとこれは拙いかも知れないぞ」


「何がっすか?」


「……いや、確かにこのレシートは凄く有用なものだが……あまりにも都合が良いと思わないかね?」


「というと……」


「……うむ、あまりハッキリとは言えないのだがね、これまでと同様、何か罠に嵌められて足止めを喰らってしまうような、そんな気がしてならないのだよ」


「足止め、足止め……もしかして副魔王の奴の仕業とかっ?」


「……その可能性はかなり、いや否定は出来ないという程度だが……あると思うがね」



 これも副魔王の策略かも知れない、そう主張する紋々太郎と、そういえばそうだ、確かに怪しいと言い出すマリエル、俺と精霊様は反論したいところなのだが、そう言われてみれば確かにそうだ。


 おそらくはこの地下空間で迷子になっているであろう副魔王も、後から確実にやって来る俺達を足止めしようという策略については忘れていないはず。


 となればやはりだ、必死で戻るか進むかが可能な道を探しつつ、要所要所で休憩がてらにわけのわからない仕掛けをセットしているに違いない。


 そしてそのうちのひとつがこの『ワイルドレシート』であるのではないかというのが今回の紋々太郎の主張なのである……



「う~む、どうするよ精霊様? このまま利益を狙い続けるか、罠だと判断して先へ進むことを優先するかなんだが」


「悩みどころね、どちらも一長一短よ」


「あの、悩むようなことではないかと……」


『金持ちは黙っておけっ!』


「ひぃぃぃっ! なぜか怒られたっ!」



 調子に乗って余計なことを言うマリエルには、後でお仕置きがある旨を宣告しておき、その後の協議の結果、ひとまず先へ進むべきだということを決議する。


 まぁ、利益の追求については、効率は下がるのだが一応進みつつも出来るということでの妥協なのだが、とにかく今年の勇者パーティー活動が無税になる程度には集めておきたいところだ。


 で、そのまま先へ進んだ俺達を次に迎えたのは……トラップの山、と、これはリリィが全て破壊した。

 その次にはまたおかしな魔物、というか生物なのかさえわからない炎の塊であったが、こちらも簡単に討伐。


 しかし例のレシートは出ない、宝箱から出てきたのはゴミのようなアイテムばかりであった。

 まさかのレアアイテムなのか? そう簡単にはドロップしない、大変貴重な品なのか?


 次も、その次の敵もろくなものは落とさず、結局2枚目のレシートが手に入ったのはそこからかなり先、もはや入り口よりも目的地の方が近いのではなかろうかという場所であった。


 しかも出てきたのは敵のドロップからではなく、わかりにくい場所に設置されていた少し豪華そうな、如何にも期待出来る感じを醸し出していた宝箱の中から、しかも1枚だけだ。



「クソがっ、やっぱりレアアイテムだったようだなコレは」


「そのようね、上手くすれば脱税御殿が立てられると思ったのに」


「脱税御殿って、普通に違法なんじゃ……」


『金持ちは黙っておけっ! というかお仕置きだっ!』


「ひぃぃぃっ! ダブルお尻ペンペンは痛いですっ!」



 またしても余計な発言があったマリエルを抱え込み、精霊様と2人、右と左でダブルお尻ペンペンを喰らわせてやる。

 そこそこ効いているようだが、変態王女様は同時に喜んでも居るようだ、このままだとまた調子に乗りそうだな。


 と、それはさておき、激アツの『ワイルドレシート』がそうそう手に入らないものであるとわかった以上、これは先へ進む方を優先した方が良いかも知れないな。


 などと考えていると、どうやらここで広い部屋に出るようだ……と、ホールのような場所へ入った瞬間、後ろの扉がバタンッと閉まってしまったではないか。


 これは間違いない、地下空間内でのこの場所の位置取り的にもほぼ確実なものだが、この後中ボス的な何かが出現し、それとの戦闘になるパターンだ。


 既に全員が……いや、わんころもちだけはキョドッているのだが、とにかくこれから起こることを察することが出来たメンバーは、全員武器を抜いてそのときを待った……



 ※※※



「きますよっ! 地面の中でゴゴゴゴッていってますっ!」


「下か、てことはきっと……やはりマグマ系の敵のようだな」


「見ているだけで暑苦しいわね、とっとと殺して涼しくしてあげましょ」


「ふぇぇぇっ、また変なのが、しかも大きいし暑い、というかもう熱いし……」



 広いホールのようになった部屋の中央の床がバッキバキに割れ、溢れ出したのはご存じ溶岩であった。


 真っ赤に燃えるような色をした、というか燃えているのか、良く知らないが、とにかくドロドロの、比較的流動性が低いタイプの溶岩。


 それがかなりの分量出てきたところで発生を止め、直後より自然にそうなることはないであろうという謎の動きを見せる。


 精霊様が張った水壁の内側に居ても、この外側が『人間の生存出来る環境』でないことは一目瞭然。

 気温は200℃前後であろうか、今ここにごく普通の、一般的な強さの人間を召喚したら、おそらくはジュッとなって死亡することであろう。


 で、そのような激アツの空間に1人で居るのはリリィ、何とも思っていないようだ、ドラゴンは本当に熱に強いな。


 なお、リリィの年齢を考慮してか、それともその内に秘めた力によるものなのか、下から巻き起こる熱気でスカートが捲れ、パンツが見えるなどと言う事案は発生していない。


 そして当たり前のように、興味津々の顔でその蠢く溶岩に接近して行くリリィであるが、今のところはまだそこから何かの力は感じ取れない状態。


 だが徐々に、何となくだが人間の形状を目指してトランスフォームしているような気が……気のせいではなさそうだな、確かにそんな感じだ……



「う~ん、変身が遅いですね、ご主人様、ちょっと手伝ってあげても良いですか? 粘土みたいに練って人の形にしてあげます」


「敵を手伝うってのか……まぁ良いか、でも今はルビアが居ないんだから火傷すんなよ」


「わかりましたーっ、せいっ、とぉっ!」


「素手で触っても大丈夫なんだな、溶岩って……」



 おそらくは『絶対に真似しないで下さい』というテロップが下に出ているであろう状況、リリィは本当に巨大な粘土工作でもするかの如き振る舞いだ、熱くはないらしい。


 で、ドロドロの溶岩をペタペタと触り、何となくフレームが出来上がっていた感じの人間の胴体部分に肉付けしていくのだが……あまりにも下手すぎる。


 しかも途中で弱い部分を補強するためなのか、自らのポケットに入っていた小石を溶岩の中に埋め込んでしまったではないか、余計なモノを入れてしまって大丈夫なのか?



「ここはこうして……こんな感じで……こうだっ、あとはお顔ですね、どんな感じにしようかな~」


「おいおいリリィ、顔ぐらいは自分で決めさせてやった方が良いんじゃ……」


「ダメです、この人には私のセンスが必要なんです、ということでせいっ……う~ん、ここをこうっ」


「大丈夫なのかホントに?」



 好き勝手して迷惑を掛けているようにしか見えないリリィ、確かに溶岩の塊が自分で動くよりは遥かに素早く、人間のような形状にはなっているのだが……問題はその美的センスだ。


 ボッコボコのガッタガタ、所々から勝手に入れられた石ころがはみ出し、腕も左右で長さが違い、足の太さも当然違う。


 そしてトドメの一撃、必死になって作った福笑い(大失敗)のような顔が、誤って上下逆さに取り付けられてしまったではないか、これはかわいそうだ。


 で、それに気付いているのかいないのか、リリィはその後も人型の制作を続け、5分ほど経過したところで納得したような表情になり、手を止める……



「うんっ、こんな感じになりましたっ」


「お、おう……で、これは成功なのか?」


「大失敗です、もうゴミですよこんなの……てかお顔が逆でした、一旦取って……こうだっ!」


「今度は上下どころか前後も逆になったんだが?」


「しかも斜めっているわよリリィちゃん、まぁ、別にコンテストじゃないから良いんだけど」


「逆にこういうのが評価されたりしそうですね、アートとして、すっごく後の世だと思いますが……」



 最低最悪な『人らしき抽象的な何か』というトンデモ形状で完成してしまった中ボスらしきモノ。

 ここから何かひと言あって、それから戦闘に、中ボス戦に突入するのが通常なのだが……コイツはこの状態で喋ったり出来るのか?



「リリィ、完成したなら一旦離れているんだ、何かこう、いきなり攻撃してきたりとかするかもだからな」


「そうですか? まぁ爆発とかしたらイヤだし、離れてまーっす」


「そうか、適当に作りすぎて爆発、などという可能性もあるのか、思ったよりもやべぇな」



 そんな予想をしつつ、その中ボス的な人型溶岩が動き出すのを待つ……と、足の辺りが少し、力が入ったような動きを見せたな、次いで腕が、そして色々と間違って接続された頭の部分も動き出した。


 立ち上がらんとする中ボス的溶岩、だが足の太さが違うのと、その他諸々、どこもかしこも左右非対称につき、それさえも苦労している様子。


 コレと戦うなら英雄パーティーのメンバーだけでも楽勝であろうな、先程からそこそこの力は感じるのだが、それを発揮することが出来るような形状ではない。


 で、ようやく足に力が入った様子の中ボスを眺めつつ、俺達は比較的涼しい水壁の中で待機する。

 と、何か喋り出すようだな、果たしてこの哀れな人形の、中ボスとしての第一声はどのようなものとなるのか……

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