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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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797 面倒な手続き

「むか~し、本当に昔の話ですじゃ、500年ぐらい前、始祖勇者という者が居りましてな、この男、なんと異世界の雑兵であったのが、女神の力によって突然に……」


「いや、その導入部分もう良いんで、俺もほぼ同じ感じなんで、本題の方をどうぞ」


「なんとっ、当代の勇者もそうであったとは、やはり召喚されて来る勇者は異世界の雑兵であったか」


「ええ、元は雑兵どころか雑兵予備軍の訓練生でして、もしこの世界に来なかったら数年後には無名の雑魚キャラとして……ってそんなことどうでも良いわっ!」


「おっと、話が脱線してしまいましたのですじゃ、では続き……というより本題でしたの、えっと、『郷土説明資料C-3』を用意するのじゃ」


「しかし、いくら勇者とはいえリピーターでもない初心者にそのような資料を……大丈夫なのですか?」


「もう何でも良いから早くしてくれ……」



 始祖勇者による強烈で凶悪な口止めによって、これまでにこの里を訪れたどんな旅人にも紹介することが出来なかったであろう、この地にある『赤ひげの玉』に関する郷土資料。


 それを先週やって来た副魔王に続き、今度は正統も正統、当代の異世界勇者であるこの俺と、それから島国の英雄である紋々太郎、そしてその仲間達に紹介することが出来る。


 本当は最初から、用意されていたもの全部について解説をし、『赤ひげの玉』だけでなく、火の魔族の里そのものについても興味を持って貰いたい、そう考えている者が多いのは間違いない。


 だが大変残念なことに、既に副魔王めに先を越されてしまっている以上、今の俺達にはその話をじっくり、フムフムと頷きながら聞いているような余裕はないのである。


 ということで急かしに急かし、里の学芸員なのかは知らないが、最初から、せめてもっと導入の部分から解説をとしきりに主張する者の反対を押し切り、重要な部分のみを掻い摘んで説明して貰うこととした。


 残りの話は後程、『赤ひげの玉』を開放することが出来た、つまり副魔王を追い抜いて目標を達成した後に、酒でも飲みながらじっくり聞いてやるという約束は添えてしまったが……



「……それで、続きというか必要な部分からですじゃが……えっと、どこからお話すればよろしかったですかの?」


「そうっすね……じゃあ『赤ひげの玉』の在り処と、その開放のやり方、必要となる供物や開放時に取るべき行動などについて詳しくお願いしたい……と、そんなとこっす」


「わかりましたのじゃ、ではそうじゃの……まず、『赤ひげの玉』はこの里の中心、掘られた深く熱い井戸から入って、底に到着したら4本ある通路を西へ、突き当たりを右、それから脇道を13本スルーしつつまっすぐ進んで、14本目の丁字路を左、しばらく進んだ場所にある落とし穴にわざとらしく落ちて、そのまま滑り台のように滑った先で、広いホールの落下位置から向かって右から27番目の扉を開けて、にも拘らず28番目の扉から入った先で少しトイレ休憩を取って、それから……」


「わかりにくいわっ! もっと簡潔に、てかどんだけ入り組んでんだよそこまでっ?」


「ではこの『らくらく里の地下マップ』を贈呈しますじゃ」


「……わかりやすっ! 最初からこれを貰えれば余裕だったんですよ、マジで」


「ほう、魔王軍副魔王様はそれを持たずに行かれましたがの、まぁ目が泳いで青い顔をしつつ、『大丈夫、私天才ですから』とか言いながら井戸に入って行かれましたがの」


「それぜってぇ大丈夫じゃねぇから、見栄とかそういうのだからね、確実に」



 そういうことであれば、というかその副魔王の行動が真実のものであり、フェイクでわざと『ダメな振り』をしていたのでなければの話だが、この状況は地味にアツい。


 おそらく副魔王の奴は今もこの里の地下で、井戸から入った先で迷子になっていることであろう。

 場合によっては俺達が目的を達成した後に、行方不明の副魔王を捜索するというミッションが始まるかも知れないな。


 まぁ、その場合はもう完全に俺達の勝ちだ、文句も異論も一切受け付けることのない完全勝利、逆に副魔王にとっては完全な敗北である。


 その際にはもう、その場でとっ捕まえてしまっても良いであろう、おそらくは死ぬことなく、永遠にその地下を彷徨い続けるよりは、俺達に降伏して捕まった方がマシなのは確実なのだから……


 で、そうであればほぼ確実に迷子の副魔王様はどうでも良いとして、受け取ったマップを指でなぞり、現在位置から『赤ひげの玉』が存在しているという終着点までのルートを確認する。


 井戸から入った先はアリの巣のように掘られ、かなり深くなっているようなのだが、途中から、というかある一定の深さからは、通路の全てが赤く塗り潰されているではないか。


 これは一体どういうことなのであろうか……と、考えるよりも聞いてみた方が早そうだな、このマップの作成者がすぐ傍に居るのだから……



「あの、ちょっとそっちの学芸員? らしき人、このマップの赤い部分はどういうことで?」


「あぁ、それですか、その赤くなっているエリアはですね、通常の人間であれば普通に死ぬ暑さの、というか激アツの場所です、ちょいちょいマグマとか噴き出して来るんで、余裕で死ねますよ」


「げぇぇぇっ、そりゃたまらんだろうな、わかりました、じゃあそれはそれで対策するとして……」


「ご主人様、暑いのヤダです、どうにかして下さい」


「私もイヤンッよ、せっかく涼しくなってきたのに、そんな所へ行きたくないわ」


「俺だってイヤだよ、イヤだけど仕方なく……まぁ良いや、どうせ狭苦しい通路だろうし、実際にそこへ行くメンバーは絞る感じで、だが副魔王とバッタリ、なんてことも想定してある程度は頭数を揃えるけどな」


「そうねぇ、私がそっちに行くとして、それでもマグマとなるとそんなに大人数を守ることは出来ないわよ、あとその防御の作動中には戦えないかも」


「そうか、精霊様が防御に掛かりっきりになるのは痛いな……まぁ、それに関しては実際に行く前に少し考えよう」



 思いの外危険が伴う様子の火の魔族の里の地下道、そういえばこの辺り、上陸後最初に立ち寄った人族の集落もそうであったが、火山灰のお陰で台地が肥沃でどうのこうのであったな。


 となるとその地下深くがどうなっているのかは察しが付くことであり、当然ではあるが、まともな人族がうっかり入り込んでしまえばすぐに死亡、死体さえも残らないほどの危険エリアが存在するのは言われなくてもわかるべきことだ。


 で、そのことを親切丁寧に教えてくれているのがこのマップの赤い部分なのだが、結局その地下道の終着点へ向かわなくてはならない俺達にとっては、単なる注意喚起に過ぎないものである。


 とはいえ何も知らずに入って行って、暑さに弱いカレン、それと比較的弱いのか単にワガママなだけなのかはわからないがマーサ、この2人が『お荷物』になることを避けることが出来たのは本当に良かった。


 いや、それを考えるとカレンと同系統の犬獣人であり、カレンにも増してモッフモフであるわんころもち、現新イヌマ―が、ダウンどころの騒ぎではなかったであろうことはもう言うまでもない。


 これは本当に助かったな、どう対策していくかについてはともかく、この学芸員風の火の魔族には感謝してやらねばなるまい、後で飴玉でもくれてやろう。


 で、探索ルートはその後すぐに確定し、俺達はそのルートを辿って、最短で『赤ひげの玉』のある場所まで進むことが決まった。


 何も知らない副魔王よりも先行、つまり追い抜いて行くことが出来る可能性は高そうだ。

 途中で鉢合わせになるかも知れないというのが、現状で最も大きな問題、暑さよりもかなり上を行く障害ではあるが……



「よし、じゃあルートはこんなもんとして、次は玉の開放のための儀式とか供物をお願いしまっす、はいどうぞっ」


「うむ、次は始祖勇者の遺した玉が、手続きを経て力を発揮し、そして本来あるべき効果を放つようになるのかについてですじゃ、まずこちらをご覧下され」


「ん? 何だろうコレ……届出書? こんなものどうするんすか?」


「これをですな、まずこことここと、それからここ、あとはここにですの、必要事項を記入して、里の地下管理事務所窓口に提出して欲しいのですじゃ、無届で侵入すると、後で色々と厄介なことになりますからの」


「お役所かよっ! いや、きっとちゃんと届出がないとトラップの解除とかが出来なかったり、あとそれ以外にも探索者にとって不利益な状況になるんですね?」


「いえ、監査のときにブツブツと責任を追及されたりする、それを避けるためですじゃ」


「お役所かよっ! まぁ良いや、え~っと、団体名は『英雄パーティーおよび勇者パーティー選抜軍』で良いか、本店又は主たる事務所の所在地は……紋々太郎さん、どうするっすか?」


「……大丈夫だ、その届出書は我が記載しておこう」


「その方が良いですよ、ご主人様だとあまりにも字が汚くて、受理して貰えないかも……あいててててっ」


「このルビアがっ! 要所要所で調子に乗るんじゃないっ!」


「勇者様、今のはルビアちゃんが正しいと思うわよ、そのロイヤルキングダムギガンティックゴールドスネークが這ったみたいな字じゃ誰も……いてててっ」


「セラも同調するんじゃねぇっ、それと何だその強そうなヘビは?」



 何だかグダグダになってしまったのだが、とにかく『赤ひげの玉』の安置場所へ到達するよりも前に、かなり面倒なステップを踏まなくてはならないようだ。


 それはこの後に説明が来るのであろう、用意されている資料の束の分厚さからも察することが出来る。

 きっと何枚も何枚も、わけのわからない書類や誓約書の類を求められるに違いない。


 で、その記念すべき1枚目である『届出書』に必要事項を記入している紋々太郎……の、手が止まっているようだが、何か不明な箇所でも見つかったのか?



「……勇者君、この届出書には『地下へ入る方:○○人』という記載事項があるのだが、どうするかね?」


「あぁ、後で決めるから空欄ってわけにはいかないんすかね?」


「……それがね、地下で常に見える場所に掲げておくべき『届出済証』の発行に、正確な人数の記載が必要だそうだ」


「面倒臭せぇ……じゃあ先にパーティーメンバーを決めないとっすね、人数は……」



 俺達勇者パーティーは戦闘員だけで12人、まぁアイリスはもちろんのこと、その護衛としてのエリナも残しておくとして、12人に英雄パーティーの4人を加えた16人が火の魔族の里地下突入部隊の候補者となる。


 16人、というとやはり半数の8人が突入、そして残りの8人が待機、その分け方が最も合理的で異論が少ないのではないかと思う、知らんけど。


 で、基本的に英雄パーティーは全員参加、初の真っ当な任務から『待機』というのはさすがにかわいそうだからな。

 そして任務の性格上で俺の突入と、それから暑さからの防御のために精霊様の同伴も必須である。


 これで6人、あとの2人は残ったメンバーの中から、確実な不参加が確定しているカレンとマーサの2人を除く勇者パーティーのメンバーの中から選抜ということになるのだが……どうしようか……



「う~ん、じゃあ行きたい人は挙手!」


「はいっ! 行きたいです」


「おう、リリィは適任だな、マグマぐらいじゃどうとも思わないもんな」


「マグマは飲み物ですっ!」


「決して口に入れないこと」



 ドラゴンである以上、そして常日頃から火を噴いている以上、火の魔族の里の地下がどうなっているのか、どの程度の暑さなのかに関係なく活動出来るリリィは参加確定だ。


 これで残り1人、他のメンバーは……もちろん行きたいなどと思っているはずがない、そもそも行き先の環境が劣悪すぎるゆえ、どんなドMであったとしても、通常の感覚であれば立候補しようなどとは思わない。


 こうなったらくじ引きか、それとも何らかの方法でこちらから選抜するか、どうしようか……



「……勇者君、残り1人はなかなか決まらないようだね」


「そうなんすよね、皆別に暑さ耐性があるってわけじゃないんで、基本的にイヤだと思います」


「……うむ、漢であれば文句なしのじゃんけんで決定するところだが……漢ではないからね彼女達は」


「ええ、だから……おいセラ、隠れるんじゃねぇ、マリエルもだ、ユリナの後ろに入ってもはみ出しているからバレバレだぞ」


『チッ、バレたか』


「ハモッてないで、お前ら2人でじゃんけんしろ、負けた方が同行だ、それが嫌だってんなら縦半分に斬って貼り付けたハイブリッドセラ/マリエルを連れて行くぞ」


『そっ、そんなぁ~っ』



 逃げようとした、自分だけ助かろうなどと考えたのが2人、制裁としてその2人にじゃんけんさせたところ、敗北したのはマリエルの方。


 本当に行きたくなかったようで、ガックリと肩を落としてガチ凹みするマリエルに対し、逃げないように腰紐を装備させておき、これによって引っ張ることが可能となった。


 そしてそのメンバー、つまり8人ということで届出書には記載、残りの事項については特に問題なく書き上げることが出来、完成したものはその辺に居た遠征スタッフの1人に頼んで窓口へ提出させる。


 しばらくして戻ったスタッフの手には、常に装備しておかないとならないと思しきペンダントのようなものが、キッチリ8つ、つまり人数分ぶら下げられているではないか。


 とりあえずそれを受け取り、これにて俺達突入部隊は、正式に『井戸から里の地下へ入って行く権限』をゲットしたのである。


 次はようやく玉の開放のための儀式について……いや、まだまだ面倒な手続きがあるのでした……



「え~、この次はですじゃ、中へ入って行く者につき『同意書』をじゃの、ほれ、配っておくれ」


「ハッ! こちら、井戸の前に居る管理人兼セーブ担当兼回復係に渡して下さい」


「いや何それ? そんな凄い奴居るの? てかセーブって……」



 同意書については別に構わない、危険な場所へ赴くにあたり、何が起こっても火の魔族の里の方では責任を取りませんよということに同意する意思の確認書類だ、普通に自署すればOKである。


 だがその井戸の前に居るという『担当者』についてだ、これは非常に気になってしまうではないか。

 もしかしてRPGのようにセーブして、取り返しの付かない状況に陥った場合にはリセットしてそこから……


 などということはなかろうが、とにかくそれについて質問を投げ掛けておこう、もしかしたら非常に重要な、『赤ひげの玉』を開放するためのキーパーソンとなり得る人物かも知れないからな。



「えっと、その『担当者』の方について詳しくお願いしたいんだが?」


「担当者ですか、担当者は井戸の脇にずっと居る回復魔法使いでして、火の魔族の者ではありません、外部からお呼びしています」


「そいつがセーブするってんだけど、何を?」


「わかりません、当人が言っていることなので、何だか『ここでセーブしていくかね』と聞かれて、『はい/いいえ』で答えないと話が先へ進まなくて」


「マジで何なんだそいつは」


「あと回復魔法を使うときには必ず『この者達に祝福あれ』とか言うし、相手が1人でも、それから先程発行された『届出済証』と『同意書』を見せるとですね、今度は『うむ、ここを通って良いぞ、気を付けてな』と言います、毎回同じ台詞で」


「まぁ、たまに暑さでバグッてしもうて、『ゆうべはおたのしみでしたね』を1人で連呼しているときがありますのじゃ」


「もう単なるNPCっすよね、そいつ……」



 わけがわからないのはいつものことだが、とにかくセーブするか否かの質問に対する『はい/いいえ』だ。

 何の効果があるのかもわからない、怪しさ満点のセーブなのだが、おそらくここは『はい』を選択しておくべきであろう。


 それについてこれまで特に何かあったとか、そういう話はないようだし、危険極まりない罠の類ではないはず。

 何よりもそれが怪しいモノであたっとしたら、すぐに精霊様が気付いてストップを掛けてくれる。


 ついでに言うと、先に突入している副魔王の奴もそこを通過したわけであって、もし何か問題のある『担当者』であったとしたら、それについて何か、たとえばブチ殺したり封印したりしているに違いない。


 ということでその件はひとまずそれで良いとして、次の手続きは何であろうか……



「次はですの、この『取得アイテム袋』の使用に関しての注意事項をお伝えしますのじゃ、まずはお手元に説明資料を……」


「勇者様、これは資料じゃなくて法規集のような気がしません?」


「そんな気がする……2,000頁ぐらいあるぞ……」


「ホホホ、全部読めというわけではございませぬ、まずは1,372頁から開いて下され」



 取得アイテム袋とやら、地下で宝箱を開けたり、魔物を討伐したりしてゲットしたお宝の類は、全て一旦この袋に入れて持ち帰って欲しいとのこと。


 戻った後に里の方で中身をチェックし、里にとってあまりにも貴重なもの、例えば一般の探索者がうっかり『赤ひげの玉』を発見して持ち帰ってしまった場合には、ゲットをお断りさせて頂く、場合によっては金銭で代償するというシステムらしい。


 なるほど、火への耐性があるなどして、全く関係ない冒険者が地下の最奥へ、俺達のために用意されている『赤ひげの玉』まで辿り着いてしまうようなこともなくはないからな、一応そういう事例に対する事前の防止策なのであろう。


 で、その他諸々の説明、資料の受領やその他必要書類への記入など、様々な手続きをしているうちに、何と到着から1時間以上が経過してしまったではないか。


 いくら副魔王が迷子になっているであろうとはいえ、これではさすがに遅すぎる。

 壁をブチ抜くなどのメチャクチャな方法で先へ進まれていたら敵わないからな。


 ということで、とにかく『玉の開放』についての情報を早く引き出し、実際に里の地下へ突入しなくてはならない……

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