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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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796 最終目的地では

「う~ん……と、残念、タイムアップのようだな、船を降りる準備をしなくては」


「ご主人様、これってこのスピードで突っ込むんですの? ヤバいですわよ普通に」


「確かに、衝撃波とかで里を崩壊させてしまいそうだな……」



 現状でも恐ろしい速度が出ている俺達の空駆ける船、このまま目的地である火の魔族の里へ突っ込むことも可能には可能ではあるが、その際には確実に破壊を撒き散らすことであろう。


 最悪の場合には里の消滅、そしてこれから開放しなくてはならない、というか先へ進むためには開放することが必須である『赤ひげの玉』も、同様に消滅してしまう可能性さえある。


 というか始祖勇者の玉をひとつでも毀損したらどうなるのであろうか? それは俺達の邪魔を繰り返している副魔王の行動目標なのであるが、その結果がどういうものであるのか、俺達には、そしておそらく副魔王本人もわかっていないはず。


 まぁ、そのようなことが起こらないために、俺達は早め早めの行動を心掛けているのだが……うむ、早めではあるが先手ではなく、むしろ後手後手の対応となってしまっている感は否めないが。


 とにかく今は危惧する事態、副魔王に先回りされ、『赤ひげの玉』の破壊を成功させられてしまうという結果の回避だ。


 ここではスピードを落とすが、それでもロスは30分程度、副魔王が目標達成に要するはずのおよそ1か月、それと比較すればミジンコのようなタイムロスである……



「……うむ、では以降はスロー航行にて目的地を目指そうか、それと、こちらが侵略者でないことを伝える先触れの役を誰かに頼みたいね」


「あ、それなら私やりやっす、超アレなんで」


「……そうか、ここはNEW新キジマ―にお願いすることとしよう」


「やっぱその呼び方ウケるし」



 先触れとして甲板から飛び立ったハピエーヌ、ではなくNEW新キジマ―、まぁ呼び方に関しては別にどちらでも良いのだが。


 これでとにかくこちらの存在が何であるかは伝わるはずだ、もちろん既に向こうもこちらの姿を捉えているであろうし、勘違いによる無駄な戦闘だけは避けたいところである。


 さて、ここから到着まではおよそ30分、ハピエーヌの活躍によってこの先が安全であるということを仮定して、その他、今のうちにやっておくべきことを片付けよう。


 まずは……わんころもちがずっと気に掛けていた、兄であるト=サイヌの始末だ。

 このまま生存されては敵わないと、先程からしつこく処刑を求める嘆願をしている……そんなに嫌いなのか?


 と、まぁ嫌いというよりはアレか、とにかく自分が得られるはずの権利が、知らない間に、英雄パーティーのメンバーとして行動している間に、どこかへ行ってしまって行方不明などということを避けたいのであろう。


 精霊様によって瞑想などの修業をさせられ、この短期間で人間的にはかなり落ち着いたはずなのだが……元々意地汚い精霊様の教えでは、こういう部分に関しては矯正のしようがなかったということか。


 仕方ない、この残った時間を使って、元キング犬畜生であらせられる馬鹿野郎、ト=サイヌの処刑を執り行うこととしよう。


 他の仲間達にもその旨伝え、了解を得て準備を始めるのだが、とりあえず縛り首にでもしようということは決まれど、そのセットを準備している暇がないのは明らかである。


 はてさてどうしたものか……と、ちょうど良い所に穴が、ハピエーヌが到着の際にブチ抜いた甲板の穴が使えそうだ。


 ここに色々とセットしていけば、良い感じの処刑セットを作成することが可能なはず。

 早速スタッフらに連絡をし、希望の形状と、その他の詳細な仕掛け等について伝達しておく……



「さてと、これなら10分程度で『処刑セット』が完成するはずだ、30分あれば奴を始末することが出来る」


「勇者様、それってちょっと急ピッチすぎないかしら? 適当にやって失敗して、生き残ったりしたらどうするの?」


「ん? そんなの一撃喰らわせてブチ殺せば良いだろうに、特に悩むようなことでもないぞ」


「あの、でしたら最初からそうしたら……」


「わかっていないなわんころもちは、こういうのは手続きとか、そういった感じの大切なものがいくつもあるんだ、わかるか?」


「は、はぁ……とにかく兄が死亡して、遺産が全て私の所に転がり込むならそれで良いです……」


「うむ、任せておきなさい、と、そろそろ『処分対象』にお声掛けしてやらないとな、アイリス、ちょっとスタッフに頼んで『お迎え』に行かせてくれ」


「は~い、わかりました~」



 間の抜けた感じで歩いて行ったアイリス、まぁ近くの遠征スタッフにお願いするだけだし、特に時間が掛かってしまうようなことはないであろう。


 しかしそれにしてもだ、縛り首にするのであれば、刑の執行から絶命までにかなりの時間を要してしまうな。

 まぁ、その場合は到着後に少し待って貰うという手もあるな、わざわざ俺が、あんな汚らしい奴に一撃を加えてやる必要もない。


 で、これからブチ殺されるかわいそうな馬鹿が連れ出される前に、精霊様の指導の下で建造されていた『縛り首処刑セット』が完成する。


 至って普通の、どこの家庭にもひとつはありそうな感じの処刑セット、普通に受刑者を吊るす、もちろん普通に縄を掛け、普通に床が抜けて落下するタイプの、ごくごく一般的な装置。


 俺達に対してデカい態度を取っておきながら、この程度の方法で死亡することが出来るとはな、死に晒すことに関しては『かわいそうな馬鹿』だが、その馬鹿の中では非常にラッキーな奴であるといえよう……



『おいっ、引っ張るんじゃない、腕が折れたりしたらどうするんだっ? もっと丁重に扱わないと殺すぞっ! というか何なんだここは? 食事はまだか? 高級ステーキを用意せよ、あとは風呂とか酒とか……眩しいなオイッ』


「……と、やって来たようだね、未だに何やら勘違いしているようだが」


「全くっすよ、少し頭を使えば、自分が雑魚出馬鹿で甲斐性なしで、ついでにこれから処分されるゴミであることぐらい容易に想像が付くはずなのに」


「てかさ、アレを殺すのは構わないけどさ、残った『本体』を畑に捨てたりしないでよねっ、変な雑草とか凄く育つダメ肥料になりそうだし」


「大丈夫だマーサ、ちゃんと外に捨てるし、そもそもアイツ、肥料になるほど肉がないと思うぞ」


「……確かに、でもホントにばっちいからどっか別の場所に捨ててね」


「おうよっ、任せておけっ!」



 自信満々で、というかまぁ奴の軽そうな死体をどこかに遺棄するぐらいは容易なのだが、とにかく胸を張ってそう告げ、畑の清浄を心配するマーサを安心させておく。


 で、やいのやいのと騒ぎながら連れて来られた馬鹿、正真正銘のクズ野郎は、俺達の前でスタッフによってドサッと捨てられ、地面にキスしながらその場に倒れ伏した。


 どうやら肋骨を始め、全身の何ヵ所かを骨折してしまったようだ、本当に弱っちい奴である。

 すぐにルビアの回復魔法を受けさせ、とにかくまともな、一応会話が可能な状態まで復帰させてやった。



「おぉっ、いでぇっ、おいそこの女! まだこことこことここが痛いぞっ! 骨が折れているかも知れない、早く治療せよっ!」


「えっと、その、ご主人様、どうしたら良いですか?」


「うるさいボケと言ってやれ、デカい声でな」


「うっ、うるさいボケェェェッ! こんな感じですか?」


「よろしい」


「たはっ……はっ? 鼓膜がはへっ?」


「今ので鼓膜が破けたのかよコイツは? まるでヨエー村の住民並みだな……」



 飽きれてしまうほどに弱い元キング犬畜生、処刑する前に、首に縄を掛けて時点で死亡したりしないであろうか?

 まぁ死に方はどうでも良いのだが、とにかくこれから処刑する旨を本人に伝達してやらねばなるまい。


 なお、もちろんのこと余計な時間は与えない、最後の食事も末期の水も与えず、この船自体が禁煙なので一服も与えられない、今回は即告知、即処刑を徹底するのだ。



「おい犬畜生、ちょっとこっち見て話を聞け……あ、ルビア、もう一度回復魔法だ」


「は~い、よいしょっ……これで大丈夫です」


「おい犬畜生、聞こえているか犬畜生?」


「あ……聞こえる……というかお前は侵入者じゃねぇかっ! ついでにそっちの何か模様が凄いのっ、いつも来ていた雑魚英雄! だよな? 良く見えねぇけど」


「……貴様はどれだけ目が悪いというのだね?」


「きっと魔導コンタクトレンズを紛失したんでしょう、兄は生まれつき近眼で老眼でしかも乱視ですから」


「魔導コンタクトとかあるんだ……」



 比較的目が悪い俺にとってはなかなか有益な情報であるが、今はそれどころではない。

 とにかくこの元キング犬畜生に処刑の告知をするのだ、そうしないと話が先へ進まないではないか。


 で、改めて対象を俺達の前に座らせ、仰々しい感じで告知の準備をする。

 ちなみに紙を持ってそれを読み上げるかたちだが、紙は何も書いていない、単なる雰囲気づくりのフェイクだ。


 で、それを俺が持ち、何が何やらわかっていない、とりあえず豪華な接待はまだかという表情の馬鹿野郎に、ようやく告知を開始する……


「え~っと、元キング犬畜生ことト=サイヌ、お前は妹をいじめ、雑魚キャラの癖に名前だけ強そうな犬を騙り、ついでに色々と悪事を働いた、間違いないな?」


「はぁっ? 何を言っているんだお前は? 馬鹿なのかこの侵入者め、早く俺様を接待しろこのモブキャラめがっ!」


「……たった今、勇者侮辱罪が追加された、現行犯に付き言い逃れは出来ない、よって死刑!」


「何言ってんだオイッ! おまっ、えっ? マジで言ってんの?」


「当たり前です、自らの罪を地獄で悔いることですね」


「その声はわんころもちだなっ! 何だお前雑魚の癖にっ! ブチ殺されたくなかったら早く俺様を助けろっ! そうしたら1週間……は長すぎるな、1日だけいじめないでおいてやるっ」


「はぁっ、雑魚はどっちですか? 遺産、ごちそうさまです、それでは処刑台の方へどうぞ」


「はっ? はぁぁぁっ⁉ お前裏切ったのかっ? どうしてこのようなことに……待って、待ってくれぇぇぇっ!」



 往生際の悪い元キング犬畜生、もちろんその雑魚キャラ然としたパワーでは、両腕を抱えるようにして掴んだ一般の遠征スタッフ2人には到底敵わない。


 あっという間に引き摺られ、急拵えの、どこか傾いたような処刑セットの下に連れて来られた馬鹿は、良く見えてはいないもののそれが何であるのかを十分に感じ取った様子。


 普通に漏らしやがった、床が抜けて落下する仕掛けの真上で、当たり前のように漏らしやがったではないか。

 本当に不潔極まりない奴だな、やはり汚物として丸ごと焼却処分にした方が良かったかも知れない。


 で、漏らすと同時に泣き喚き出した元キング犬畜生、その首に、汚い部分に触れないよう細心の注意を払って接近したわんころもちがスッと、輪っかになった縄を掛ける。


 途端に大騒ぎのボルテージを上げる馬鹿を、集まっていた大勢の遠征スタッフらが、指差しながらゲラゲラと笑っているのが確認出来た。


 昼間から酒を飲んでいる、というかこの騒ぎに便乗して飲み始めたやつが多いな、これから着陸だというのに、荷物の積み下ろし等の作業は大丈夫なのか?


 まぁ、酒気帯びで作業をして、飴玉のひとつでも地面に落とせば、今ここで漏らし泣きしている犬畜生と同じ運命を辿ることとなる、そのぐらいは全員把握しているはずなのだが……



「ギャァァァッ! 助けてくれっ! お願いだから助けてくれぇぇぇっ! おいわんころもちっ、早く目を覚ませっ、俺様を殺してもお前に良いことはないぞっ」


「馬鹿なことを言わないっ! そもそも殺すことにしかメリットがない存在なんですから、騒いでないで潔く死亡して下さい」


「そ、そんなぁぁぁっ!」


「……よし、では死刑を執行するが、良いかね?」


「そうっすね、モタモタしていると着陸してしまう、じゃあ執行人は……わんころもち、そこのレバーを引いてくれ、グイッとな」


「わかりました、遺産っ、遺産っ、それグイッと!」


「わぁぁぁっ……ぐぶっ……ぶっ……」



 ノリノリでレバーを引いたわんころもち、床板はキチンと抜け、元キング犬畜生はその垂れ流した汚物と一緒にその空いた穴へと……意外と縄が短く、すぐに停止してしまったが。


 しかしこのまま放っておけば、そのうちに絶命するのは明白、こんな騒ぎも、命乞いもしなくなったつまらない姿を見ていても仕方ないため、そろそろ着陸準備に移るとしよう。


 良く見れば目的地はもうすぐ目の前だ、先触れに出たハピエーヌもいつの間にか帰還している。

 さて、ようやくこの島国での、最後のターゲットに手を付けるべきときがやって来た……



 ※※※



「はいっ、ご到着~っ、アイリス、すまないがアスタを連れ出してくれ、奴の口添えが必要な場面が多そうだから案」


「わかりました~」


「それからハピエーヌ、相手方の様子はどうで、俺達はこれから船を降りて、どこへ向かったら良いかとか言っていたか?」


「いや、何か言ってたけど超忘れたし、余裕っしょマジ」


「本当に適当な奴だな、まぁ良いやとにかく降りて、里の偉い連中にでも会って、ひとまず軽い挨拶をしておこうぜ」


『うぇ~いっ』



 簡単な荷物を持って船から降り、まずは火の魔族の里へと歩を進める、ついこの間来たばかりでは在るが、島国を1周して来た俺達にとっては、どことなく懐かしい感じがする火の魔族の里。


 前回もそうではあったが、今回は先にハピエーヌが話しを通しているということもあり、かなりスムーズな対応でその里の中へ入ることが出来た。


 そのまま徒歩にて向かうは長老的な、2,351歳だというジジィだかババァだかわからないお偉いさんの屋敷。

 到着すると前回同様、早々に本人が出て来て、客である俺達の話を聞いてくれる感じであった。


 ひとまず『赤ひげの玉』のことをお話しておこう、このクラスの、というか初代であって玉の設置者である始祖勇者のことを見て知っている長老クラスの人間にとっては、俺達が目的とする玉の在り処など当たり前のようにわかっているはずなのだから……



「ご無沙汰しております、で、今回俺達がここへ来たのは……」


「それは『赤ひげの玉』についてですかの? 始祖勇者がこの地に残した、絶対秘密の秘宝、どんな相手であったとしても、聞かれない限りはそのことについて喋ってはならぬという伝説の玉のことですじゃが……」


「なるほど、ちなみに勝手にその情報を外へ漏らすとどうなると?」


「頭がボンッして死にますじゃ、300年ほど前、酔っ払って旅人に放してしまったならず者が居りましての、その旅人を含む観光客全員と共に、宴席でいきなり頭ボンッして、我等は恐怖に怯えつつその死体を片付けたのですじゃ」


「超おっかねぇな始祖勇者、やりすぎだろそんなもん」



 とんでもない仕掛けをこの火の魔族の里に残していた始祖勇者、俺様が始祖勇者であればそのような非道には手を染めない、慈悲深いからだ。


 まぁ、話を聞く限り頭ボンッしたのは里一番のクズ野郎であり、一緒にボンッしたのも、飲んだくれのろくに金を落とさないゴミ旅人集団で、かつ野郎のみであったということなので、これはもう気にしないこととしよう。


 それで、長老的な年寄りの話はそこで終わりではなく、『赤ひげの玉』とその関連する事項に関して、まだまだ続きがあるようだ……



「……それでですじゃ、この場で『赤ひげの玉』について話をするのは、実は今回が初めてではないのですじゃよ」


「初めてではない、というとアレですか、俺達以前にも勇者が、かつてこの島国まで到達するほどに冒険を進めることが出来た勇者が居て、ここでその話をしたと? 俺と始祖勇者以外で、そのように有能であって強大な力を持つ異世界勇者については聞いたことがないのですが?」


「いや、今の話の中で合っているのは『有能であって強大な力を持つ』という部分のみですじゃ、その者は、ここで話を聞いた者は異世界勇者ではないし、時期的にも『かつて』というほどではないのですじゃ、というかもう先週で……」


「先週? 先週にここへ来て『赤ひげの玉』の話を聞いて、それから……あっ、まさか女、副魔王の奴じゃないっすかそれっ?」


「……お客人の情報をこれ以上ベラベラと喋るわけにもいきませんのじゃ、お察し下さいとしか言えませぬの」


「クソッ! 副魔王の奴め、既にここで自らのミッションに着手していたか」


「急ぎましょっ、このままだと本当に先を越されるわよっ!」


「おうっ、で、その『赤ひげの玉』の安置場所とその他の情報は?」



 既にここを訪れ、色々と情報を得ていたらしい副魔王、もちろんこの里の人間も魔族である以上、魔王軍の大幹部がどうのこうのと言ってきたのを突っ跳ねるわけにもいかなかったのであろう。


 なのでそのことについてはこの場でとやかく言わないこととし、ひとまず『赤ひげの玉』についての話の続きを聞く感じで話を進める。


 ちなみに、現在こちらにある情報としては、『赤ひげの玉』はあのこの島国の中で最も大きい島の最果ての地、リンゴの森でゲットした赤リンゴを中心に、その先の海峡でゲットした火属性のマグロ『赤いもの』をふんだんに使うことによって開放することがかのうであるということだ。


 リンゴといえば、他にもゲットしている青りんごと白リンゴ、そして連れ回している旧超リンゴ村長、現在の黒リンゴがある、というか1人は居るのだが、これについても他の玉との関連があるかと思われるところであり、可能であればそれについても知っておきたい。


 と、それらとどれほどの関連があり、どの程度に未知の情報が含まれているのかはわからないが、火の魔族の里側のスタッフによって、何やら説明資料のようなものが運ばれてきた。


 かなり古い巻物の類、その他石板や金属製の何かなど、博物館にでもありそうな資料の数々。

 それを用いて、これから俺達に色々と解説してくれるのであろうが……急いでいるので出来れば簡潔にお願いしたいところである……

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