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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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795 高速移動

「それで、ここはどこなんでしょうか? いきなり詰め込まれて、1週間近く掛けてここまで送られたんですが……しかも違法かつ不当な手段で」


「そこから説明が必要なのかよ……」


「まぁ、でも呼び出された時点でろくでもないことに巻き込まれるのは覚悟していますから、基本的に何なりとお申し付け下さい……と言っておきます、一応」


「お前は俺達に対してどういう認識を持っているんだ、それが気になるぞ……」



 ヤラレタ―パックライトに無理矢理押し込まれ、王都からここまで送付されてきたカポネ。

 元魔将補佐クラスの実力者ではあるが、現在の俺達と比較するとかなり弱く、ここで抵抗しても無駄なことは心得ている様子。


 まぁ、だからといってムチャクチャな要求を、死に至るようなわけのわからない実験等への参加を強制されるとは思っていないようで、その無駄な抵抗などはする意思もないといった感じである。


 とはいえ周囲を見渡し、『知らない子』であるわんころもちやハピエーヌ、その2人が何らかの修行らしき行為をさせられているのは確認済みのようだ。


 自分もこれからその中に放り込まれ、何かをやらされるのだということは、この時点でもう十分に察知しているのではなかろうか……



「えっと、それで私を呼び出した、というかこんな所に送った理由ですが、詳しく説明して貰えますか?」


「うむ、カポネ、お前はサル系の魔族で、それっぽい尻尾を有していたよな?」


「尻尾ですか? 確かにほら、サルっぽい尻尾ですね、サル顔ではなくて申し訳ありませんが……」


「いやそれで良い、ごく僅かでも構わないからサルっぽさが欲しかったんだよ、ちなみにこのお方、島国の英雄な、紋々太郎さんだ」


「あの、どう見ても『カタギでない人間』なんですが?」


「それは言わないルールだ、で、お前にはこれから、そこで精霊様に修行させられているわんころもちと、後向こうの方で飛び回っている凄い色のハーピーが見えるか? そのハーピーであるハピエーヌと一緒に、この紋々太郎さんの部下として働いて貰う、異論は認めない」


「なるほど……って、そういう反社会的な行動はもうこりごりなんですが……」


「だから反社じゃねぇって」



 カポネの居た、というか№2として所属していた魔王軍の部隊は、人族やその他協力員を大量に使い、世界中から酒の素となるブドウや穀物等を買い占め、経済を崩壊させるという回りくどい手で侵略を図ったのである。


 当然その反社会的な行為によって、現在は王都の、俺達の屋敷の横にある魔王軍関係者収容所に放り込まれ、シルビアさんによって良いように扱き使われているカポネ。


 確かにそれと同じような臭いのする、反社会的勢力感が醸し出されている紋々太郎の下に入るということは、せっかく洗った足をもう一度泥に浸す行為に他ならない。


 これはそう感じてしまうのも頷ける見た目を有している紋々太郎も悪いのだが、どんな見た目で生活するのか、英雄として活動するのかについての規定などは特に存在しないのだ。


 つまり紋々太郎のこの格好は本人の自由であって、こちらから、特に俺のような島国とは関係のない、単なる異世界勇者が口を挟めるような問題ではないということを確認しておこう、問題ではあり、どうにかしないとならないのは確かだが。


 で、ここからはカポネを説得するフェーズに移行しよう、まずは紋々太郎がこのビジュアルであるにも拘らず、実は『正義の味方』であることを教え込まないとならない……



「良いかカポネよ、この紋々太郎さんはな、島国……今居る場所なんだが、これを救うため、勇者である俺と行動を共にしてくれているのだ、わかるか?」


「つまり……勇者という反社会勢力の協力者で……やっぱり反社じゃないですかっ!」


「俺は反社じゃねぇぇぇっ!」


「そうなんですか? てっきり愚連隊の頭だと思って……」


「クソッ、これまでずっとそういうイメージを持たれていたというのかっ」



 なんと、カポネの奴は俺に対してかなり一方的なイメージを抱いていたようだ、というか認識がおかしいのではなかろうか。


 自分が、自分達が悪いことをしていたせいで俺達にボコられたというのに、それを俺が悪かった、かなりの悪であったかのような考え方をしているのだ。


 もちろん自分達、つまりカポネが魔王軍に所属してやっていたことが反社会的行為であると認識しているということは、これまでの話の中でもわかることなのだが……どうして『俺達勇者パーティー』ではなく『俺』が単体で悪だと認識されているのかも謎だな……


 と、まぁそのことについては深く考えるのをやめよう、時間の無駄であるし、そもそも解決する必要のない問題であると言って差し支えない。


 今はどのようにして、このカポネを『NEW新サルヤマー』に就任させるのか、その就任承諾を得るのかについて考えるのが先決だ……



「なぁカポネ、もうここまで来ちゃったんだし、断っても意味ないぞ、やるしかないんだよこれは」


「え~っ、どうしましょう……実はやっていたのが悪い事で、今度はまた違う人に捕まったりして……命を助けてくれる相手ばかりとも思えないし、その場で討伐されたり……」


「それは大丈夫です、今回やることが悪事ではないということは、この私が金貨……銅貨1枚を賭けてでも保障します」


「おいミラ、その金額は逆効果だ」


「しかし勇者様、何が正義で何が悪なのか、その定義はどこにあるのか、現時点で正義、悪とされている概念が、今後もそのままであるとは限らない、ひょっとしたら時代の流れと共に逆転していくのかも知れないので……」


「ぬぉぉぉっ! 難しいことを言うんじゃないっ! ほら、マーサが意外と真面目に聞いていて煙を噴いているぞっ」


「おっと、これは失礼しました」



 余計なことを言ってしまったのはミラ、しかも最初の主張に賭けた金額が矮小すぎて何も言えない。


 そしてそれを聞いた、もちろん最初の賭けだけではなく、後半の無駄の極みである演説も聴いていたカポネがどうかと言えば……もう疑いの目以外は有していない、その眼に映っている光景の全てを疑っている顔だ。


 交渉を不利にしてしまったミラには、特別に尻5,000叩きの刑でもプレゼントしておくとして、ここからもう一度、カポネの篭絡に取り掛からなくてはならない。


 しかし以降はどういう感じで攻めていくか、普通に説得したのではダメだ、何かもっと良い方法、『これはっ!』と思ってしまうような『英雄パーティー参加のメリット』を提示しなくてはならないな……



「う~む、そうだカポネ、今英雄パーティーに参加すれば、漏れなくあの2人が友達になってくれるぞ、ほら、あの犬獣人とハーピーだ」


「そうなんですか、で、2人はどういった性格をお持ちで?」


「わんころもち……犬獣人の方は腹黒だな、あんな感じでいて、何ら悪びれた様子もなく兄を利用、骨の髄までしゃぶり尽くそうとしている」


「ほうほう、で、ハーピー族のお方は?」


「ハピエーヌか、あいつはまぁ、アホというか馬鹿なギャルだ、もう何言ってんのかわからんレベルのな」


「……超ダメダメじゃないですかっ!」


「まぁそうなんだが……それゆえこれまでの行いを反省し、真っ当になったカポネに、2人の面倒を見て欲しいものだとも思っている」


「それは『友達になる』のではなく『世話を押し付けられる』の間違いでは? あと真っ当になったところでもう一度、あの反社会勢力らしき男性と行動を共にすることになるんですよね? ダメもダメじゃないですかもう」


「・・・・・・・・・・」



 ヤバい、これは非常にヤバい、俺が喋れば喋るほど、カポネを英雄パーティーに参加させることが困難になってしまうではないか。


 このままだと俺のせいで、せっかく揃いかけた『イヌ、サル、キジ?』の3人衆が台無しになってしまう。

 失敗しても大丈夫なように、何とか『負け投手』の座を誰かに押し付けておかなくては……



「おうジェシカ、ちょっとバトンタッチだ、俺はウ○コしてくるから」


「ここでか主殿!? 散々やらかしておいてここで交代なのかっ!」


「その通りだ、交代してくれないのであれば……おっと、便器が俺を呼んでいるぜ、サラバだっ!」


「あっ、ちょっ……逃げたぁぁぁっ!」



 どうにかジェシカに『損な役回り』を押し付けることに成功した俺、とりあえず本当に便所へ攻め込み、ウ○コをすることとしよう。


 というかここまでの交渉が上手くいかなかったのは、きっと俺がウ○コを我慢していたからに違いない。

 ウ○コを我慢していては、どのような試験でも面接でも、本領を発揮することが出来ないのである、絶対にだ。


 それゆえに、俺は一時その問題要素を排除、いや排出することとして、その間をジェシカに任せたに過ぎないのである。


 これで俺が戻るまでに交渉が失敗確定となっていれば、、それは全てジェシカのせいであり、俺には一切責任がない、そういうことであろう。


 さて、便所から戻った俺の前には、一体どのような結果が提示されるのであろうか、人事とはいえ気になって仕方がない……



 ※※※



「うぃ~っ、戻った……ぞ、おいジェシカ、それにカポネ、他の皆も、何を楽しそうに話しているんだ? 英雄パーティー加入の件はどうなったんだ?」


「ん? 何だ主殿、その話ならつい先程終わったぞ、誤解も解けたし、カポネ殿も無事英雄パーティーに加入してくれるとのことだ」


「……そうなのか?」


「ええ、ちょっと話が噛み合わないなと思っていたんですが、『まともに会話が出来る知能を持った方』と話をしたことによって、色々と瞬時に理解することが出来ました」


「へ~っ、そうなんだ~っ……おいっ、俺の立場っ!」


「ププププッ、主殿は本当に情けないな、かわいそうになってきたぞ」



 ジェシカにはディスられ、他のメンバー達はティータイムを楽しみながらオホホホと笑う。

 実に不快だ、その笑いの意味がわかっていないと思しきリリィまで、皆に合わせて同じ仕草をしているのがまた不快だ。


 それでもまぁ、たまにはこういうこともある、そういうこととしておこう。

 むしろ今回の件の半分は俺様の実績だ、いや、ほぼほぼ俺が頑張ったお陰で今の状態があると言って良い。


 そもそもジェシカの活躍など、俺が便所でキバッている間だけの僅かなものだし、どう考えてもここで調子に乗るほど偉くはないのである。


 後で最初にやらかし、俺の交渉を不利にしてしまったミラと一緒にお仕置きしてしまおう。

 尻を叩いても喜ぶだけだとは思うが、それでも俺様の鬱憤を晴らすうえでは、ジェシカの最大ケツがちょうど良いのだ……



「それで、というかこれでだな、新イヌマ―のわんころもち、NEW新サルヤマーのカポネ、NEW新キジマ―のハピエーヌ、という感じで3人の『お供』が揃ったわけだ、そうっすよね紋々太郎さん?」


「……うむ、これであとは新イヌマ―に『ドス』の、NEW新サルヤマーに『パイナップル』の使い方を教えれば、英雄パーティーは再びフルメンバーで始動することが出来るのだよ」


「あの、パイナップルとは?」


「……これだよ、火魔法が込められていてね、ピンを抜いて投げると、その魔法が炸裂して広範囲に破片が散乱、敵をズタボロにして殺傷する夢の兵器だ」


「まぁ凄いっ! じゃあ早速その辺に居る悪い奴で実験を……」


「カポネ殿、お求めの悪い奴ならここに居るぞ、好きに使ってくれて構わない」


「オラッ、このジェシカ! ちょっと来いっ!」


「ひぃぃぃっ! このままでは仕置きされてしまうぅぅぅっ……あ、救助しなくて結構ゆえ」


「わかっています、雰囲気からも、その顔からも……」



 ということで、カポネのパイナップル投擲練習の方は誰かに任せる、というかいつも小石を投げて敵の頭を吹き飛ばしている、超コントロールのリリィが最適であろう。


 俺はジェシカを引き摺って船室内へ、そしてちょうど良いところにかなり狭い、1人用と思しき空き部屋。

 ここで成敗してくれよう、戸を開けて中に放り込み、俺も入ってバタンと閉じる……と、それ以外の振動が感じられるな。


 いや、振動というよりも船自体が揺れているようだ、というか浮上しているような気がしなくもない。

 またわんころもちの力が溢れ出し、それが船の魔導何ちゃらに流れ込んでしまったのか?


 などと考えていたのだが、どうやらその場で浮上するのではなく、いずれかの方角に向かって進み出した様子、そういう感じのGである。


 静かに魔力を感じ取ると、確かにこの船を動かしているのはわんころもちの、溢れ出した膨大な魔力なのだが……精霊様が何かを判断し、船を進ませる選択をしたのであろう……



「どうやらこのまま目的地へ向かう判断をしたようだな」


「あぁ、良く考えたらここに留まる理由はもうなくなったんだ、次は火の魔族の里、そしてこの島国での冒険のフィナーレになるな、たぶんだけど」


「主殿、その前に早く成敗してくれ、ほら、鞭で打つんだこの尻を」


「お前はいつもそういうことばかりっ! このっ! 最近はルビアより酷くないかっ!」


「ひぎぃぃぃっ! だってっ、いひゃぁぁぁっ!」



 船の揺れに合わせてビシバシと、四つん這い状態の情けないジェシカをシバいていく。

 二度と逆らう気にならぬよう、このまま夕食の時間まで、泣いて謝っても許さない感じで仕置きしていこうか?


 いや、それをやっていると心配した仲間が見に来てしまいそうだ、しばらくしたら2人で甲板へ戻り、現在がどのような状況なのかを聞くこととしよう……



 ※※※



「いたたたたっ、叩き過ぎだぞ主殿、尻がふたつに割れてしまったではないか」


「そんなもん最初からだろ、ほら、サッサと甲板へ行くぞ」


「は~いっ、いててっ……」



 あれからおよそ1時間後、そろそろということで部屋を出て、先程まで皆で話していた甲板へと向かうべき、船室を出て……と、何だか凄まじい光景ではないか。


 これは転移前の世界、そう、間違いなくあの最も早い、だがしかし決まった線路の上しか走ることが出来ない乗り物の車窓から見た、とんでもない勢いで過ぎ去っていく外の景色。


 それを倍速にしたような光景だ、雲が流れているだけかかも知れないと思っても、先々に見える山やら何やらの接近とその通過が早すぎて、その可能性はあっという間に棄却されてしまった。


 これは一体どういうことだ? 甲板に居た皆は……どこかに行ってしまったようだ、今現在姿が見えるのは、魔力を放出するわんころもちと、あとはそれを監督する精霊様のみである……



「おいおい、どうなってんだよコレ?」


「だが風は感じないぞ、見るんだ主殿、やはりセラ殿の魔法で防御されているではないか」


「……本当だ、セラの魔力が感じ取れないほどの何かが発せられてんだな、あのわんころもちからは」


「とりあえず他の皆は……あ、セラ殿だけこの上に居るぞ、あとは……右舷だ、船べりから外を眺めている」


「呑気なもんだなこの状況で、まぁ何が起こっているのかは一目瞭然だがな、おいセラ、セラは……ホントだ、上に居た、おいセラ、パンツ見えてんぞっ」


「あら勇者様おかえり、というか早速パンツを見るなんて、凄くエッチなのね」


「その高さからパンツを見るなと言われてもな……」



 船室に入るための入り口、その突き出した場所の真上に立ち、かなりの威力で魔法を展開、強い風から船と仲間達を守っているセラ。


 そしてその船を守るべき強い風は、大気の影響ではなく船の航行速度によるものであることはもう一目瞭然。


 あの後すぐ、精霊様の判断によって、わんころもちの溢れ出す魔力を、船を目的地に向かわせるための動力に用いることが決まっていたのである。


 で、外を眺めていた他のメンバーの所へ行くと、どうやらこの船は時速にして500㎞前後は出ているに違いないというエリナの分析を聞くことが出来た。


 このままのペースで移動することが出来れば、目的地である火の魔族の里へ到着するのは……なんとおよそ1時間後、まさにもうすぐであるとのこと。


 これはなかなかにいきなり、いきなりすぎる展開ではあるのだが……まぁ、火の魔族の里は俺達勇者パーティーにとっての既知の場所であるし、何よりもそこの出身者であるアスタが居るのだ。


 そこへ向かうことについて特に問題は生じないか、生じたとしてもこの第二空駆ける船があまりにも巨大であり、下から見れば世界を滅ぼしかねない恐怖の大王にしか思えないということぐらいか。


 まぁ、その程度の問題など実に些細なこと、普通に向かって、普通に俺達が再来したことを告げてやれば差し支えなかろう。


 いくら地上でヤバいと思ったとしても、この正体不明の巨大空駆ける船に対し、あの狂った犬畜生共のように、いきなり攻撃を仕掛けてくるとは思えないしな……



「さてと、じゃあもうすぐ到着ということで、この後しばらくの間はどうする?」


「……勇者君、それなんだがね、先程、といっても出発前なのだが、新イヌマ―から『早めに兄を処分しておきたい』という提案があってね、どう思う?」


「あ、そうだったそうだった、奴の存在を忘れていたっすね」


「ちなみにご主人様、あの犬畜生の方、先程めを覚ましましたよ、今は混乱しているのか怒っているのか……とにかくその辺の物置に放り込んであります、倉庫というか廃棄品置き場ですが」


「そうか、ご苦労ルビア、じゃあ奴は……思ったより被害者でもあるんだよな、どうしようか? 火炙りとかだとやりすぎかな?」



 元キング犬畜生であるト=サイヌ、悪い奴で鬱陶しい奴で、とても土佐犬的な最強の血脈とは思えない雑魚さ加減の馬鹿である。


 だがその犯罪の大半が、本当に悪い妹のわんころもちによってコントロールされてのことであったのだ。

 これは処刑して構わないものか……まぁそれは構わないな、しかしいつもよりもソフトな方法を選択しよう。


 とりあえずそれを考えていると、良い方法を思い付くよりも先に、遥か彼方の目的地が見えてしまった……

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