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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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794 ヤラレタ―

「……うむ、我にも見えてきたよ、かなりカラフルな……本当にハーピーという種族なのだね」


「そうなんですよ、あの子、あれでも一応ハーピーなんです、本当に綺麗でしょう?」


「……そうだね、キジだと言い張っても差し支えなさそうだ、少しゴリ押しになるがね」


「かなり無理があると思いますが……頑張って下さい」



 明らかにこちらを認識しているハピエーヌを迎えるべく、甲板で紋々太郎とマリエルがおかしな話をしながら待機しているのを後ろから眺める。


 徐々にそのカラフルな影が大きくなってくると、そのひとつ前には伝書鳩、王国専属の最強ゴールデン伝書鳩の姿があることも確認出来た。


 かなりのスピードだが、それを見失わないようにここまで飛んで来た、そうすることが出来たハピエーヌはなかなかの実力者であるといえよう。


 間違いなく『これまでのキジマー』よりも遥かに速く飛び、しかも羽が後付けでない分、その小回りの効き方も段違いであるということは、自らは飛ぶことが出来ない紋々太郎の目にも明らかなはず。


 そして何よりも、今回の『NEW新キジマー』候補者であるハピエーヌは女の子であり、そこそこノリの軽い存在であること、英雄パーティーにとってこれは大きい。


 パーティーリーダーが『その筋のもん』であり、シャブ中が2匹、そして存在感の薄い、というか徐々に薄くなっていっていた野郎。


 そんな4人の英雄パーティーであったことを考えると、まず第一にわんころもちをイヌマーに、そしてこれからやって来るハピエーヌをキジマーに、さらには後に送られて来るカポネをサルヤマーにしてしまう、これはとんでもない進歩だ。


 大変残念なことに、パーティーリーダーである以上は『その筋のもん』を削除するわけにはいかない状況なのだが、それでも4人中3人が女の子ということになる。


 今までの英雄パーティーが『戦闘力1・魅力1』であったとしたら、今後の2人との交渉が全て上手くいった場合には、きっと『戦闘力3万・魅力15億』ぐらいには上昇するであろう。


 そうなればもう俺達勇者パーティー(戦闘力580兆・魅力∞)と、並ぶとまではいかないが最も近い存在。

 つまりこの世界での『№2団体』の地位を獲得するわけだ、筋肉団(戦闘力520兆・魅力マイナス35万)など目ではない。


 こいつらどんだけインフレしてんだ、だと? 気のせいである、俺達はちょうど2年の地道な努力によってここまでの実力を獲得してきたわけで、決して無用なインフレを遂げたわけではないと断っておこう。



「あっ、手を振ってますよ、グングン近付いて……もう到着しそうです」


「速いな、前に会ったときよりもかなり、ハピエーヌも研鑽を重ねたということだな」


「勇者様以外の登場人物はどんどん進歩しているわね」


「え? 俺って停滞してる?」


「むしろ後退しているんじゃないかしら、生え際とか」


「ちょっ! マジで言ってんのかそれっ! おうセラ、冗談じゃねぇぞっ、俺様の生え際は……そういえばこの世界に来たときより2㎜ぐらい後退したような……」


「勇者様、そんな話をしている暇ではありません、ほら、もう到着して……甲板にめり込みましたね、速度は出せるけど着地はそう上手くいかないみたいです」


「あ~あ、ハピエーヌの奴、これじゃあ航空母艦での運用は無理だな……まぁ、そんなのないか……」



 で、とりあえずやって来たハピエーヌ、着地の衝撃で多少破壊してしまった甲板の木の板を、適当に、悪びれた様子もなくホイホイッとその辺に投げて退かしている。


 この辺りは元々ギャルハーピーであったハピエーヌらしい行動だ、もちろんこちらを認識しても申し訳なさそうにするわけでもなく、普通に、笑顔で手を振りながら駆けて来た。



「うぃーっす、うぃっ、うぃーっす、お久しぶりーっす」


「……彼女はこういう鳴き声の生物なのかね?」


「いえ、コイツがまともに喋るアタマがないだけで、本来この種族は人語を解しているっす、おいハピエーヌ、久しぶりのところ悪いが、随分なことをやってくれるじゃねぇか」


「もーしゃしゃしたーっ、いやマジでわりぃっす、いやマジマジ」


『・・・・・・・・・・』



 前にも増して喋り方が雑になっているのではなかろうか、そう思わせてくれる久々のハピエーヌ。

 だがその飛行能力が折り紙付きなのは、今ここへ向かって来るまでの間に証明されている。


 あとはこの自分勝手なカラフル女と上手く交渉し、可能な限り異議を留めないかたちで英雄パーティーに加入して頂く、それが目標だ。


 ミラなどは早速抜け落ちたハピエーヌの羽を搔き集めているのだが、この場であまりにも相手が不快になる行動は避けて頂きたいところであるのだが……まぁ本人も気にしていないようだし大丈夫か。



「んで、今回アレっしょ、英雄? 島国? っしょ?」


「ちなみにハピエーヌ、お前色々と理解したうえでここへ来ているのか?」


「ぜ~んぜんっす、え~っと~、何かハト? 来てたんでぇ、付いて来てぇ、ババァが何だか言ってたけどスルーしてぇ、それでぇ……」


「英雄パーティーに参加するってことについては?」


「うっす、よろしくおねしゃしゃーっす!」


「そこは微妙に理解しているのか……てことっす紋々太郎さん、どうにかなりそうっすよねコイツ?」


「……うむ、言動はかなりアレだがね、戦うセンスはありそうだ、早速ポン刀の使用感を試させてやるとしよう、君、これを使いたまえ」


「何すかコレ……ヤバッ、超ヤバッ! めっちゃコレアレっしょコレッ!」


「馬鹿かっ! 振り回すんじゃねぇそんなもんっ! マジで危ねぇから……」



 紋々太郎から英雄武器のひとつ、キジマ―用である『ポン刀』を受け取ったハピエーヌ。

 その真っ赤に燃えるような羽が刀身に映り込み、より神々しさを増す感じである。


 だがハピエーヌめ、あり難い英雄武器であるその刀を、あろうことか『宝刀』だと思い込んでしまったようだ。

 無造作に振り回されたポン刀は、俺の頭を掠めて貴重なヘアーを一部刈り取っていったのであった。


 この様子には紋々太郎も若干呆れ気味だ、これまでのキジマ―は2代続けて人格者であったのに、ここにきて究極の馬鹿がそのポジションに就いてしまったためである。


 というか、新イヌマ―となるわんころもちにしても、それからこのNEW新キジマ―となるハピエーヌにしても、今回は少し性格に難がありそうだな。


 まぁ、元々の強さゆえ、あの危険な『ダンゴ』を摂取させ、一生涯それに依存するようなことがなくて済むのは良いことだが、それにしてもアレな連中である。


 しかしこの2人はともかく、最後の1人であり、唯一の未到着者、そしてNEW新サルヤマーとなる予定のカポネに関しては、元魔王軍の1人であるとはいえ、比較的まともな性格を有していたはず。


 ここは彼女に期待しよう、ハピエーヌの到着が早すぎた分まだ時間は掛かるであろうが、それでもあと数日でここへやって来るのだ。


 どういう状態で送られて来るかはわからないし、場合によっては苦言を呈してくるかも知れないが、とりあえず適当に謝罪し、以降この2人の模範となって頂かなくてはならない。



「で、ハピエーヌの方は紋々太郎さんに任せようか、すみません、キチッと教育してやって欲しいっす」


「……そうだね、ポン刀の使い方よりも、まずはまともに会話が出来るようになって貰わないと」


「お願いしまっす……ところで、あの、これまでは『ダンゴ』を与えて『お供』にしていたんだと思うんすよ、イヌマ―もサルヤマーもキジマ―も、でも今回はどうするつもりで……」


「……そこを考えていなかったね、彼女らにこれから先もダンゴ漬けになって貰うのがナシだというのはわかっているが……いや、とりあえず『盃を交わす』こととしようか」


「あの、出来れば反社っぽくない演出でお願いしたいところで……」



 危うく暴排条例などに引っ掛かりそうなビジュアルで、しかもやることがやることだと完全にアウトだ。

 島国を守る英雄なのに、危険指定されてしまっては元も子もないし、俺達も『反射関連団体』として氏名等を公表されてしまうそうである。


 そうなる前に、せめて『その筋のもん』なのは見た目だけに留めておくということを覚えて頂かないと……いや、少し無理があるか。


 とにかく紋々太郎を始めとした英雄パーティーが、そういう系の行動を取っている際には、もうこちらでは何も触れない、見ていないこととしよう。


 知らなかったでは済まされないとは良く言うのだが、それでも知らなかったのだから仕方ないこともある。


 俺達はこの英雄パーティーという団体が、まさかそういう流れを汲んでいるものだとは思わず……それも無理があるな、この件については保留としよう。


 英雄パーティーの『見た目、その他』問題については後々解決していく、またはこのままなかったことにする方向で行くとして、まずはそのパーティーが全員揃うのを待つべきか……



 ※※※



 それから3日後、新イヌマ―となったわんころもちは、精霊様の修業によってかなりの力を放出することが出来るようになっていた。


 そしてNEW新キジマ―となったハピエーヌも、既にポン刀を携えた状態で自由に空を飛び、船の甲板には切断されて使い物にならなくなった練習用の的が散乱している。


 なお、わんころもちから溢れ出した、未だ効率良く使えずに無駄となってしまう魔力については、どうやったのかは知らないが精霊様が搔き集め、船内の照明や調理、無駄に寄って来る野盗などの処断に用いているらしい。


 そしてまた、今日も今日とてわけのわからない連中が、着陸した状態にある俺達の空駆ける船に集って、金だの女だのと喚き散らし始めたではないか……



「……またおかしな連中が来ているようだね……今回は生きている、武装しただけの普通の人族のようだ、NEW新キジマ―よ、少し戦ってみるかね?」


「その呼び方マジでウケるんですけど~っ、っと、戦う? アレって殺しちゃってアレしゃさーっ?」


「……うむ、全て殺害してしまって構わない、やってくれるかね?」


「あじゃじゃーっ、わっかりゃしたーっ」


「……では初陣、活躍を期待しているぞ」


「何で紋々太郎さんの方が合わせてやってんだろあの喋り方に……」



 未だに理解出来ない言語での発言が多いハピエーヌ、いやNEW新キジマ―、紋々太郎がそれを矯正することに期待したのだが、逆に『理解させられてしまった』ようで、今では普通に会話が成り立っている。


 これではどうしようもないのだが……と、今はそうではなく、初めてポン刀での実戦に向かうハピエーヌの方を観察しなくては。


 船べりを蹴って飛び出し、角度を付けて一直線に敵の塊を目指すハピエーヌ、ここ数日で、その飛行スキルにはさらに磨きが掛かったようだ。



『オラァァァッ! 中に居るのはわかってんだぁぁぁっ!』

『金と女と食い物寄越せやゴラァァァ!』

『俺達は伝説の生ける盗賊団だっ! 一度も負けていないから生きた状態なんだぜぇぇぇっ!』


「やかましい連中だな」


「だが自分達の声でハピエーヌ殿が後ろに迫っていることにさえ気付かないとはな、哀れな連中だ」


『おぃぃぃっ! そこに女が居るじゃねぇかっ!』

『ヒャッハーッ! そんな所から覗いてないでこっち来いよぉ……およ?』

『お、お前体が……斬れっ……俺もぉぉぉっ!』

『どうしたんだお前等、俺様の部下が何を……えっと、俺の足は?』

『ギャァァァッ! 何か居るっ、スカイフィッシュじゃねがったっ……』



 スカイフィッシュと間違われるほどに高速で飛びつつ、野盗連中を斬り刻んでいくハピエーヌ、まさに瞬殺である。

 俺達はその光景を船上で見て盛り上がりつつ、『今回のキジマ―』は過去最強であるということも同時に確認した。


 全ての野盗を殺害し、そのままこちらへ戻って来るハピエーヌ、初陣での活躍を称えてやることと……と、どういうわけか途中で急停止したではないか。


 そして遠くの空を見つめているのだが……それは目の良いリリィも同じであった、おそらくその方角に何か居る、飛んでいるのだ。



「何かしら? 空からの襲撃?」


「かもな、空賊みたいな奴が居てもおかしくはないからな、きっと……いや待て、宅配とかの人じゃね? ほら王都から……」


「可能性はあるわね、でもあの子、殺りに行っちゃったわよ」


「おいちょっ! おい待てハピエーヌ! ストップ! ハウスッ! 殺しちゃダメだそいつはぁぁぁっ!」


「ん? 何か超うるせぇっしゃしゃしたーっ」


「おっ気付いた、何言っているのかはわからんが、とにかく戻れっ! その飛んでいるのは敵じゃないっ!」


「えマジッ? 何か赤いし、対抗してんのかなーって」


「赤いのか、なら間違いなく大丈夫だ、ちょっと頼んでいた荷物が来ただけだからな」



 な~んだ、という顔でこちらへ戻って来るハピエーヌ、ポン刀はキチンと鞘に納めた状態で、シュタッと甲板に降り立ってこちらに合流した。


 で、問題の赤い飛行物体についてだが……と、少しだけ姿が見えるようになってきたな、赤い鞄に赤い帽子、その他基本的に赤で統一された、有翼の中級魔族のようである。


 そして携えている赤い鞄は、何やら重たいものが入っていると思しき垂れ下がり方をしているし、もはや間違いないであろう。


 奴が招聘中の最後の1人、王都からはるばるやって来るカポネを抱えた宅配の人だ。

 フラフラと飛びながらこちらを目指し、ようやく到着した有翼魔族、疲れ切った表情で、半ば落下するようにして甲板へ着地する……



「はぁっ、はぁっ……クソッ、何で魔族領域の入り口からこんな所まで……人族の奴等め、瘴気でハゲになるなら最初からハゲでも使って自分達で……クソォォォッ!」


「おいお前、何キレてんだよそこの魔族、お届け物だろう?」


「あ、いやどうも~っ、こちらがえ~っと、勇者パーティー様ですね、確かにお届け物です、何かサイズの割に重いですけどどうぞ」


「どうぞって、ちっさっ! どうやら求めていたお届け物じゃないようだな……てか重いぞ」


「これは『ヤラレタ―パックライト』ね、3㎝までの厚さしか送れないの、でも勇者様、これ、王都の屋敷で集荷されているようなんだけど……」


「じゃっ、確かにお届けしましたーっ、それではーっ」


「おいちょっと待てそこの魔族、待たないと殺すぞお前、他に荷物はなかったか? 同じ人族の地の、王都からだ」


「さぁ、それ以外は預かってないですね、それではーっ」


「……まぁ遅いから良いや、もし何かあったら撃墜してやる、で、この荷物は何なんだろうな?」



 ヤラレタ―パックライト、間違いなく王都のシルビアさんからの荷物であるのだが、厚さ3㎝のA4判が折らずに入る程度のサイズにして、重さはなんと50㎏弱もある。


 もしかしてカポネではなく、先にカポネの食費として金塊でも送って寄越したのか? それとも俺達に対するプレゼントとしての現金の送付とか。


 ……いやシルビアさんがそのようなことをするはずがない、この郵送料でさえも後で請求される、或いは既に国に対して請求しているような人物なのだ。


 まぁ、ここまで送って来られた、つまり途中で『ヤバいモノ』として留め置かれなかった時点で、爆発物やその他の危険なシロモノではないはず。


 シルビアさんが、いやいくらシルビアさんでもいきなりそのようなモノを送って来るとは思えないし、とりあえず開封してみることとしよう……



「じゃあ開けるぞ……せいっ!」


「ぷはっ! ひぃぃぃっ、狭い狭いっ、あっ、お久しぶりです、早く出して下さいっ!」


「カポネが入ってたじゃねぇかぁぁぁっ! ほれ早く出ろ、てかどうやって収納されていたんだよこんなスペースにっ!?」


「ふぅっ、わかりません、とにかく詰め込まれて、3㎝がどうのこうのと言われてプレスされて……」


「なんと哀れな奴なんだ……」



 ヤラレタ―パックで現金送れは全て詐欺だし、ヤラレタ―パックで人間送れは全て男気が必要だ。

 しかも『プラス』ではなく、サイズ制限がある『ライト』で送ってくる辺りが非常にシルビアさんらしい。


 普通であれば詰め込まれた時点で死亡している、というか正常な状態で詰め込まれること自体がおかしいのだが、カポネは体の柔らかさ、しなやかさでそれをどうにかしたようだ。


 ともかく無事に到着して良かった、途中でこんな方法にて『人間を送っている』というのがバレたら、それこそヤラレタ―パックごと王都に返送されていたことであろうし、中の荷物……ではなくカポネが無事であったことも奇跡に等しい。


 しかしよくもまぁこんな狭い空間に……と、他にも何か入っているようだが、何であろうか……



「何だろうこれ? シルビアさんからの……ヤラレタ―パックプラスじゃねぇか、何だろう?」


「何か書いてありますわよ、えっと……『郵送料についてはこの返信用ヤラレタ―パックに入れて、直ちに送り返して下さい、手数料込みで銀貨1枚です、シルビアより……追伸、ルビアのおやつは控え目にさせてやって下さい』だそうですわよ」


「いやカポネの方を『プラス』で送ってやれやぁぁぁっ!」



 どうやらシルビアさんにとって、生体であるカポネが無事に、狭い思いをせずにここへ到着するよりも、自らが受け取る今回の費用、というかもちろんかなり割り増しされているのだが、それをキッチリ、手渡しで受け取ることの方が大切であったらしい。


 まぁ、それでもこの『カポネ郵送作戦』については、ほぼほぼ成功したと言って良い状況だ。

 ここまで特に疑われるようなこともなく、無事に到着したのはあり難いことである。


 あとはカポネを説得して、というか半ば強制して、英雄パーティーに『NEW新サルヤマー』として加入させることが残ったミッションとなった。


 ヤラレタ―パックに現金を入れて集荷の手続きをして……何かやってはいけないことをしているような気がするのだが……とにかく次のステップに移ることとしようか……

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