787 通過して
「おいおい何だよこれはっ? 犬畜生ゴミ野朗だらけじゃねぇかっ!」
「しかも主殿、皆一様にキマッているぞ、目がどうかしている奴が大半だ」
「ろくでもねぇなマジで、ホントに旧イヌマーみたいな奴等だぞ」
先程までの外に居た連中と同等かそれ以下、てっきり奴等は『もう敷居を跨がせない』タイプのクズなのだと思っていたのだが、それが分厚い城壁の内部にも居るとは。
まぁ、どうせ親玉からしてどうしようもない輩だ、よってその部下も部下である。
おそらく城内から追い出すべきシャブ中野郎が増えすぎ、こんな重要そうな場所にさえ溢れ返ってしまったのであろう。
当然この先、城の建物内に入った際には、もっとこうシュッとした、真っ当そうであってやべぇクスリの類をキメていない、合法犬畜生共が出迎えてくれるのであろうが、それはそれでまた厄介そうだ。
だがとにかくはここの連中、正門付近に集っている旧イヌマ―風畜生共の処理について考えよう。
旧イヌマ―のように強いわけではないが、中身の方はそこそこにバグッている犬畜生が……凄まじい数である。
それをこちら側が能動的に動くことによって傷付ける、つまり攻撃を加えることがないよう、先程の『明らかに人数分でない少な目贈賄作戦』のように、勝手に俺達から目を逸らしてくれるような策を考えなくてはならない。
「ミラ、また骨のやつを投げ込んでくれっ」
「無理だと思います、今ある量だと少なすぎて、先頭の方の一部だけしか惑わせることが出来ませんよ、それにこのアイテムはもしもの時のために温存したいですし」
「確かにな、場内に入った後、もしかすると『強シャブ中雑魚』みたいなが出現するかもだ、まだそのシャブ中っぷりが公にならず、旧イヌマ―のように追い出されていない奴が……となると他に作戦は?」
「わうっ、やっぱり蹴散らして進みましょうっ、さっきからワンワンうるさいですから、こっちの力を見せてやりましょう」
「それはダメだカレン、今突っ込んだら確実に100匹や200匹は殺してしまう、衝撃波でな、それにたぶんこいつらもその辺でウ〇コしているからな、踏んだりしたら大事だぞ」
「うぅ、殺してしまうのは別に良いけどソレを踏むのはイヤです……でもじゃあどうするんですか?」
「どうするってもな……紋々太郎さん、どうしますコレ?」
「……我は自らの力ではここまで辿り着けなかったのだからね、それを突破した君達が決めるべきだと思うよ……というか正直思い付かないね」
「う~む、困ったな……」
誰からも妙案は出てこない、というか提出された案はカレンのもの、相手方であり、実質敵である状態の犬畜生、というかシャブ中犬獣人共を蹴散らし、その仲間が死んでいることをもって恐怖させ、安全に通過するというものだ。
だが誰かがその憎まれ役を、そして突撃時、間違いなく地面に落ちているであろう『ウ〇コ踏む役』を任ぜられなければならない。
それは普通に女の子にやらせるものではないし、紋々太郎の戦闘力では少し無理が出てしまうのは確実。
となるとまたしても俺が、この不潔極まりないミッションにおける抜擢率がほぼ100%の俺の出番ということか……
「仕方ない、こうなったら殺るしかないか、どうせここの奴等は城から弾き出された棄民のようなものだし、ちょっとぐらい許してくれるだろうよ」
「勇者様、やるのは良いけどアレよ、アレをグニュッとアレしたら、ちゃんと靴を履き替えてよね」
「グニュッて、音で表現するんじゃねぇよ気持ち悪りぃな、そういうことを言うセラにはお仕置きだっ! 尻叩きを喰らえっ!」
「ひぃぃぃっ! ありがとうございますっ! もっとおねが……って、遊んでいる暇じゃないわよっ、向こうから来るみたい」
こちらが多種多様の無駄なやり取りをしているしている間に、迎え撃つ構えの犬畜生軍団が痺れを切らしてしまったようだ。
抜刀し、こちらを睨むその大軍団……およそ1,000か、これだけの数を城の外で使い捨てに出来るのだから、きっと新イヌマ―候補のキング犬畜生はそれなりの権力と、あとこういう系の雑魚からの人望があるに違いない。
もちろんそんな連中から慕われたところで、有益どころかむしろ迷惑でしかなく、ついでに社会的信用の方もダダ下りでとんでもないことになるのだが、こんな場所に巨大な城を建てて粋がっている奴にとっては非常に良いことなのであろう。
で、その自らを慕ってくれる、にも拘らずヤバすぎて城内には置いておけないシャブ中犬畜生共を、ごく一部であるがこれからブチ殺していくのだ……
「おい見ろよっ、あのノーマル人族っぽい野郎、何か構えを取っていやがるぞっ」
「ケッ、もしかして犬獣人の俺達に適うとでも思ってんのか?」
「いやいや、向こうにも犬獣人っぽいチビが居るじゃねぇか、そっちが本命で、奴は前座の使い捨てだろうよ」
「違いねぇ、あんな雑魚そうで頭も悪そうで性格もキモそうな野郎、アッパー系でキメた俺達にとっちゃ屁でもねぇ、ウ〇コだぜ」
「こいつら、調子に乗りやがって……というか屁よりもウ〇コの方が扱いが下なんだな、ウ〇コの方がアレな存在だと俺は思っているのだが、世界ではそうでないと認識している集団も……」
「勇者様、そういうブツの話が面白くて大好物なのはわかりますが、今は現実に向かい合っている相手をどうにかして下さい」
「おっと、そうだったそうだった、じゃあ犬畜生共、覚悟は良いか?」
「な~にが覚悟だっ、『ア○パ〇(違法な薬物の別称)』もキメてねぇお前なんぞに負けるかよぉぉぉっ!」
襲い掛かる犬畜生軍団、俺が異世界人ではなくノーマルの、比較的身体能力が低いタイプの人族だと決めつけての行動である。
というか、こいつらにはカレンが狼獣人ではなく犬獣人に見えているのか、同じ種類の仲間ではないことぐらいはパッとわかりそうなものなのだが……まぁ、それもわからないほどキマっているということか。
そもそもその犬獣人だと思い込んでいるカレンがこちらの隠し玉であり、最強無比の存在であると認識している時点で、もう非常に視野が狭い、というか目が悪いとしか思えない。
見た目からすぐに判断可能な存在として、後衛にはなるが悪魔が2人、そして少し判別が難しいのかも知れないが、ちょろちょろと遊び回っているリリィがドラゴンであることも、こちらを見ていればわかるはず。
それがわかっていないということはそういうことだ、こいつらはもうシャブの虜となって正常な思考、判断が不可能になり、兵士としてはまるで使えない存在と成り下がっている、ようは単なる動く障害物としてここへ設置されているのだ。
で、そんなこの城にさえ不必要なのではないかと疑われる犬畜生共が、反対から走り抜けようとする俺と接触……しようとした瞬間、それを止めるほどの大きな音が城の建物から鳴り響く……
『ピンポンパンポンッ……はい皆さん、戦闘を停止しなさい、武器を納めて戦闘を停止しなさい、あ、侵入者の方々もですよ……ほら早くっ!』
「やべぇっ、姫だ、姫の声だっ!」
「一同、起立……礼!」
『あざざーっしたーっ!』
「何だ? 何なんだこの状況は?」
「急に大人しくなったわね、城に向かって『礼』してるけど、今ならカンチョーし放題よ、やってみなさい」
「いやそれなら精霊様がやれよな、俺はイヤだぞ」
「私もイヤよ、絶対汚いものあの犬畜生共……」
響き渡るのはかなり若い女と思しき声、魔導拡声器なのであろうか、とにかく城の周囲一帯に聞こえているであろう大きな声だ。
と、大人しくなったのは俺達と対峙していた犬畜生共だけではなく、城門の外で、わずかな骨を奪い合っていた連中もそうであるようだ、かなり静かになったな。
で、かなりビビった感じで、城に向かって頭を下げている犬畜生共なのだが、その対象は……姫といったか、いやしかし何の姫なのだ? もしかしてキング犬畜生の血縁者か?
それにしても雰囲気がそういう感じではないような気もする、どちらかというとマリエルのような身分の高い女性タイプの声のようなのだが……まぁ、このまま聞いてみることとしよう……
『……皆さんっ、皆さんは変なクスリをキメるし、適当に暴れ狂うし、何とは言いませんが、その……不潔なモノをそこら中にばら撒き、挙句の果てに侵入者と殺し合いですか? あ、その侵入者に何かを与えられ、それを奪い合っている城外の皆さんも、あなた方は一体普段何を考えて……と、ちょっと兄さんっ! やめて下さい、やめっ……』
『うるせぇっ! ここは俺様の城だ、妹だからって好き勝手してんじゃねぇっ!』
『でも兄さん、この城はほぼほぼ私が先物投資などで稼いだお金を勝手に……兄さんは外の方々から徴収したお金と、それから私が隠しておいたお金も持ち出して、9割以上を玉だの馬だの丁半だの、そういったものに……』
『だからうるせぇって言ってんだろっ!』
『きゃいんっ! くーんくーん……』
なるほど、姫というのはこの城の主、キング犬畜生の妹であったか……というかそちらの方が遥かにマシな性格をしているではないか、明らかに姫の方をキング、いやクイーンに据えるべきだ。
そして現キングについては即廃すべき存在であることが明らか、というか何だ、この趣味の悪い巨大な城は、自分ではなく妹の金を無断に浪費して建造したのか。
となれば優秀なのは妹の方で、調子に乗っている犬畜生キングは単に力が強いだけのゴミのような存在ということとなる。
確かに部下から金を巻き上げる、それでいて信心を失わないという、宗教の指導者的カリスマ性は有しているようだが、それは英雄パーティーのいちメンバーとして使うことが出来る能力ではない。
これはもしかして妹の方を勧誘すべきなのでは? そう思い、紋々太郎にその旨ぶつけてみる……
「……う~む、一見そうであるように思えるかも知れないがね、やはり戦闘力という面で見れば現行の候補者を勧誘し続けるべきであろう、その妹の方が賢いのは確かだが、声だけでは強いかどうかなど測りかねるからね」
「確かにそうよね、ちょっと叩かれて引き下がっていたみたいだし、やっぱり強いのは候補者の方だと思うわよ」
「そうか……皆がそう言うならそうなのかもだが……何かちょっと引っ掛かるんだよなこの状況……」
俺には臭いがわかる、クズの臭いだ、まぁこの感じであれば、誰しも候補者がクズであるということは認識しているはずだが、それとはまた別の臭いを俺は感じ取っているのだ。
上手く説明することが出来ないのだが、この状況下において『俺が推薦する新イヌマ―候補』というのは、間違いなく現行の犬畜生ではなく、優秀そうであって、しかし弱そうな妹の方である……
まぁ、具体的にどうしてそうなるのかを説明することが出来ない以上、俺の主張をこの先も通していくということも出来ないわけなのだが、この『引っ掛かり』だけは頭の片隅に留めておくこととしよう。
それで、犬畜生の妹キャラである『姫』から、魔導拡声器の使用者が『キング』に代わった途端、これまで普通に立って礼をしていた犬畜生共が、そのウ〇コだらけの地面に頭を擦り付けつつ土下座を始めた。
相当な恐れを抱いているのであろう、やはりキング犬畜生の力は、紋々太郎が目を着けるだけあってそこそこに強大であるようだ。
で、問題はその強大な力を、権力を持つキングが、これからこの魔導放送で何を発信するのかということである……
『とにかくお前は引っ込んでろっ……でだテメェらっ! 何だその体たらくはっ? どうして俺様の城の城門が変な方にこじ開けられてんだよっ? あぁんっ?』
『へへーっ! 申し訳ございません、ト=サイヌ様!』
『はぁっ? 誰が謝れって言ったよ? 勝てよ……いやお前等じゃ無理か、もう何も期待しねぇよ、今日からお前等の給料はアレだ、日当マイナス金貨1枚なっ』
『へへーっ! あり難き幸せ……払えたことないけど……』
『あ、それから城の中の奴等も今日からマイナス銀貨1枚だ、耳を揃えてキチッと払えよな、じゃねぇと殺す』
『そんなぁぁぁっ⁉』
『お待ち下さいト=サイヌ様! 現状のマイナス銅貨1枚でも払い切れない者が多くて』
『イヤダァァァッ! 俺なんか定期預金を解約してまで払ってんのにっ!』
遂に名前まで明らかとなったキング犬畜生、どうやらベースは『土佐犬』のようだな、名前からして、あとこの場所の地理的な面からもそれは疑いの余地がない。
そしてもちろん、どうしてこの世界がこうなっているのかは知らないのだが、まぁそういうこともある、いやあるんじゃないの? ぐらいの気持ちで捉えておきたいところだ。
しかし兵士として城の内外で働かせたうえに、金銭まで徴収しているとはなかなかな奴。
これまでのに見てきたこの世界の『やりがい搾取』は酷いものがあったが、ここもそれなりということだな。
それで、この外に居る連中に関してはもうダメで、諦めたというキングと、その意向に従ってか、土下座姿勢のまま動こうとさえしないシャブ中犬畜生共。
これは通っても良いということなのか? だとしたら先を急ぎたいので、このまま城内へ入らせて頂き、候補者であるキングと直接話をしてみよう。
そう思って歩き出すと、それを見て反応したと思しきデカい声が城から響く……
『おう侵入者共……っと、見たことある奴が混じっているじゃねぇか、もうとっくに諦めたと思ったんだが、てかこの城からヘッドハンティングした雑魚野郎はどうした? 死んだのか? 死んだんだな、ギャハハハッ! それでよ、お前はまた俺に何か頼みに来たんだろう? ちょっと強い仲間も連れて、良いぜ、入って来やがれっ! その先にある地雷原と、それから城内の、毎日の徴収金額をほんの少しだけで済ませてやっている精鋭連中を掻い潜ることが出来たらな……あ、あと精鋭連中は殺しても良いぜ、全員生命保険の受取が俺様になっているからな、ギャハハハァーッ!』
「とんでもないクズだな……で、ここは通過して良いとして、この先が城の建物まで……地雷原、なのか?」
「そうには見えないわね、特にトラップがある感じもしないし」
「幻術の類で何か隠しているわけでもなさそうですね、というかそういう術が使える人など居なさそうなお城ですけど」
「いえ、ありますよほら、ほらっ、地雷がっ」
「どうしたのルビアちゃん? 地雷が……あっ、そういうことなのね……」
「どういうことだよセラ、ルビア、何が地雷……こ、これは……」
ウ〇コ! 地雷原っ! などと、一子相伝の必殺技を紹介する際のノリで伝えたい光景。
一面に広がるウ〇コの大平原とでも言おうか、とにかくウ〇コまみれの地面が、そこから城の建物まで続いている。
しかも良く見るとかなり危険な状態だ、表面に出ている、目視で容易に認識することが可能なウ〇コは氷山の一角であり、ごく一部でしかない。
大半のウ〇コが半ば地面に埋まっていたり、巻き〇ソの先端部分だけがひょっこりと、地面からコンニチワしている状況。
完全に埋没し、その場所が踏まれた瞬間にニュルッと飛び出して来るであろう『隠れウ〇コ』も含めたらどのぐらいの量になるであろうか。
間違いなく言えるのは足の踏み場もない、歩けば確実にウ〇コと接触してしまうということ、そして空を飛ぶことが出来ない限り、ここから城までの間を飛び越えることは叶わないということだ。
「リリィ、精霊様、すまないが全員を運んでくれ、絶対に落とさないようにだ」
「無理よ、汚物の成分は上へ上へと昇っているから、きっとこの上空一帯はかなり有毒な状態のはず……というかこの城に掛かっている黒い雲なのか霧なのかわからない何か、これってきっと……」
「そうなのか、てっきりもっと禍々しい、邪悪な存在によって発せられた何かだと思っていたのだが?」
「いや主殿、この先に転がっているひとつひとつが十分すぎるほどに邪悪だぞ、これらに比べたら魔王軍など綺麗なものだ」
「確かにその通りだ、で、どうすれば良いんだよこの状況……マリエル、最強の伝書鳩で業者とか呼べるのか?」
「呼ぶことは可能ですが……きっとこの状況だと、老舗の清掃業者さんでも相当な時間を要しますよ、1日や2日で安全なルートが確保出来るとは思えません」
「マジかよ、ウ〇コ最低だなっ、となると残るは……この犬畜生共を使うしかないか、おいそこのお前! ちょっとこっち来いっ」
「はぁ? もしかして俺に言ってんの? 殴るぞボケ」
「殴られんのはお前だオラァァァッ!」
「ぶべちゅっ!」
とりあえずその辺で土下座していた、比較的清潔そうな地面に額を摺り付けていた犬畜生を、直接触れぬよう手にボロ切れを巻いた状態で殴り飛ばす。
どうやら、というか頭が消滅しているので確実に死んでしまったのだが、それを見た周囲のシャブ中土下座犬畜生共はバッと起き上がり、目を丸くしてこちらを見ている。
俺様の実力を見誤っていたこと、そしてこれ以降、逆らったものから順に、今しがた急逝した雑魚と同じ目に遭うことなどは、そのシャブでラリッた脳みそでも理解出来たことであろう……
「ということだお前等、死にたくなかったらそこに5列、いや7列縦隊で並んで、そのまま前なら居した後に倒れろ、俺達がこのウ〇コ地雷原を通過するための橋としてやる……返事はっ?」
『へへーっ!』
「よろしい、では早く作業に取り掛かれ、さもなくば殺すぞ」
『へへーっ!』
こうしてたった1匹の犠牲によって『橋』を獲得し、地雷原の通過についての問題が解消された。
うつ伏せに並んだ犬畜生共の背中を踏みにじりつつ、安全にウ〇コだらけの道を通過していく。
しばらくすると舗装された場所が見え、そこからはかなり掃除の行き届いた……きっとシャブ中共の立ち入りが禁じられているエリアなのであろうが、とにかく建物のすぐ近くへ出る。
ここからは精鋭との戦いであったか、とにかく早めに済ませ、とっととこの地を発ち、本来の目的である赤ひげの玉の開放を目指すとしよう……




