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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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785 これからの予定と

「お~い、準備は終わったな~っ」


『うぇ~いっ!』


「じゃあ乗り込んでくれ~っ」


『うぇ~いっ!』



 甲板の上、というかそこに設置されたビアガーデンの隅に座り、フォン警部補が下の遠征スタッフらと何かやり取りをしているのを眺める。


 結局スタッフの人員を補充することも叶わず、新キジマ―と、さらには採用したばかりの新サルヤマーを失うという失態、これを忘れ去るために酒でも飲もうというのが俺の魂胆だ。


 で、部下を失った張本人である紋々太郎は……船首付近で何かをしているではないか。

 何か、というよりも明らかな構造物を設置し、そこに木彫りの……位牌のようなモノを置いている。


 しかも設置しているのは2つだ、完全に新キジマーと新サルヤマーを供養するための祭壇だな。

 そんな縁起の悪いものを、よりにもよって船の先端に設置するのはやめて欲しいところだ。


 だが本人はいたって真面目であるため、その件に関しては誰もツッコミを入れることが出来ず、ただただその設置が進んで行く状況を見守る他出来ない。


 ……いや、近くでそれを見ているビアガーデンの客、というか半数近い仲間を失った遠征スタッフの残念会なのだが、その光景を見て微妙な空気になってしまっているではないか。


 これは少しフォローを入れた方が良さそうだな、出発の前に少し紋々太郎と話をしておくこととしよう……



「えっと、それ、何なんすか?」


「……これかね、これは志半ばにして倒れた者達のためのものだよ、左が『新キジマーと新サルヤマーセット』、右が『その他大勢おまとめパック』だね」


「そういう分類なのかよっ! いや、別に良いんですけどね、ちょっとお仏壇みたいで辛気臭くて……てか何をお供えしているんでしょうかね?」


「……これかね、これはダンゴと、それから向こうでもキメられるようにとの思いを込めたヤニと酒、あとはやべぇクスリの盛り合わせだね」


「お仏壇じゃなくておブツ壇じゃねぇかぁぁぁっ!」


「勇者様、隣でリリィちゃんも変な祭壇を設置しているわよ」


「ん? リリィはどうした? 真似して遊んでいるのか、それは何を供えて……」


「これですか? さっき寝惚けて拾った敵の破片です、何かちょっと臭そうだけど良い感じでしょ?」


「こっちは汚物壇じゃねぇかぁぁぁっ!」



 とんでもないモノを供えていた紋々太郎とリリィ、とりあえずリリィの汚物壇は粉々に破壊し、供えられていた汚物、というか勘違いブスの焼け焦げた肉片は外へ投棄しておく。


 リリィには入念に手洗いするよう告げ、精霊様にその監督と、さらには呪われるなどしていた場合の解呪も依頼し、事なきを得る。


 まぁ、紋々太郎の方の『おブツ壇』は実害があるわけでもないし、そのまま放置しておくこととしよう。


 なお、せっかくの汚物壇を破壊されて拗ねていたリリィは、倉庫に残っていた北の大地土産のスルメを齧らせると、途端に元気を取り戻してそのことについては一切忘れてしまった……



「……うん、はいはい、は~い、勇者様、もうどこもかしこも準備OKよ」


「おしっ、じゃあ出航しようか、紋々太郎さんは……何か祈り的なものを捧げているから放っておこう、とにかく上昇だ、南の、火の魔族の里を目指すぞっ!」


『うぇ~いっ!』



 係留されていたロープが地上から外され、俺達の空駆ける船は徐々に高度を上げていく。

 敵影なし、障害物もなし、そして荷物の類は全て良し、このまま出発しても大丈夫そうだ。


 ということで祈っていた紋々太郎を呼、ではなくフォン警部補に出発の音頭を取らせる。

 ここからは皆フリーダムな時間だ、船は魔導航行システムとやらだし、問題さえなければ勝手に目的地へ向かう。


 ということで今回の歴史的失態についての反省会としよう、もちろんこのビアガーデンでだ……



 ※※※



「ん~っ、サトウキビ美味しいっ」


「どんだけ持って来たんだよそのサトウキビ、しかも敵の、ゲス野郎の荷物にあったやつだろうそれ?」


「毒もないし臭くもないから大丈夫よ、齧れば齧るほど味が出るのよ……ねぇ、この船の甲板もサトウキビ畑にしない?」


「前が見えなくなるだろう、どれだけ背の高い作物だと思っているんだお前は……」



 とりあえず一番広いテーブルに陣取り、酒を注文しつつ料理の到着を待つのは、勇者パーティーのメンバーとアイリス、エリナ、それに紋々太郎とフォン警部補、新キジマーだけが抜けたおなじみのメンバーである。


 まずは新キジマーの死に報いるため、二度とこのようなことが起らないようにどうのこうのという話をしつつ、適当に酒を飲むフェーズ。


 そしてそれについては適当に切り上げ、次は俺達にとって再び、紋々太郎にとっては初めての目的地となる火の魔族の里、それから『赤ひげの玉』について、特別ゲストのアスタも迎えて話し合う予定だ。


 最初の料理が当番制で回っているスタッフの手によって運ばれて来たため、ここで最初の議題に入りつつ、普通に乾杯して酒を飲み始める……



「いや~っ、しかし惜しい奴を亡くしましたね」


「……うむ、だが供養も終えたことだし、気を取り直して新しいキャラを入団させることとしよう、ちなみに『おブツ壇』も明日には撤去して海へ棄て……ではなく還すつもりだよ」


「余裕で不法投棄しようとしてましたね、まぁ良いや、で、火の魔族の里へ行く前に立ち寄る場所ってのは……確か『新イヌマー』を加入させるんでしたっけか?」


「……そうだ、奴が素直に召還に応じればの話だがね、やはり英雄の権力をもってしても、逆らうような不届き者も居るのでね」


「なるほど、つまりはそいつ、そういう類の『イヌ』ってことっすね」


「……あぁ、そういうことになる」



 英雄の権力の前にも平伏すことがない、つまり相当に生意気な奴であることが窺える『新イヌマー候補』。

 一体どんな奴なのであろうか? 強い? まぁそれは確定だな、しかし性格の方はどうなのかといったところだな。


 もしかしたらとんでもなく鬱陶しい奴かも知れないし、もしそうだとしたら今回の冒険限りで使い捨てになりそうなのだが、とにかくそうであって欲しくはない。


 あの旧イヌマーや旧サルヤマーといった、ゴミのようなシャブ中ウ○コ野郎とは、もう二度と一緒に冒険したくない、顔さえ会わせたくないのである。



「それで、新キジマー、どころか新サルヤマーもそうなんですけど、どうするつもりっすか? しばらく、というかこの冒険の最後までその新イヌマー候補だけで押し通すとか?」


「……いや、せっかくなのでフィナーレはもっとまともな状態、可能であればパーティーが4人全員揃い、その誰もが英雄武器に認められた状態で迎えたいところだ」


「そうすると英雄様、やはりその……失ってしまった新キジマー様と新サルヤマー様の分も補充を……これからの短期間でどうにかなるのでしょうか?」


「……かなり難しいね、最悪形だけとなってしまいそうだが……いや、君は某大国の姫だったね? どこかに良い人材は居ないものかね」


「そうですね、王国側ですぐに用意することが可能な人材というと……チョビヒゲ刑事、長安()品質モブ兵士、同じくモブメイド、それから駄馬と悪徳木っ端役人ぐらいでしょうか……使えませんね、そういうのは勇者様の方が……」


「えっ、俺なの?」



 突如として俺に振ってくるマリエル、王女としての務めを放棄したと捉えても良いはずの言動だ。

 で、俺にそんな人脈が、いやサル脈とかキジ脈でも良いのか、いや、しかしそういったものもないのだが。


 そう思って少し考える振りでもしてみたのだが、イヌは除いてサルとキジ……サルと、キジ?

 サルの尻尾があるタイプの人族や魔族、それからキジのような羽の生えた人族や魔族でも良いということか?


 もしそうなのであれば考えはある、まぁ『人族でそういうの』となると、あのリンゴの森の先の海峡付近で遭遇した『色んな人族』など、わけのわからない連中の類となってしまうのだが、魔族であれば話しは別だ。


 サルタイプ、というか尻尾だけがサルである者が1人、そして明らかにキジではないのだが、そのカラフルさで誤魔化すことが可能であろう翼のある、むしろ腕が翼となっている者が1人。


 その2人を紋々太郎に紹介してやれば、きっと大喜びで仲間に迎え入れることであろう。

 最初はカレンを勧誘しようとしていたぐらいだし、その『お供動物』については、厳密にその動物でなくても良いはずだしな。


 まぁ、念のため確認しておこう、もしかしたら魔族はダメだとか、『キジマー』となるには元々通常型の人間であり、背中に羽を設置する改造に適合した者でなくてはならないとか、そういった決まりがあるかも知れない……



「あの~っ、じゃあですね、魔族で、しかも女の子で、あと一方は元魔王軍の中堅で……ぐらいの奴等でも大丈夫なら……どうっすか?」


「……うむ、その辺りは構わないよ、しかし一応面接をしたいのだが、その2人は何時間後に来られるのかね?」


「いや、そんな速くはないっす、2人共通常程度の力しか有していない系上級魔族なんで、可愛い感じですけど」


「……そうかね、となると……どうにかして合流しないとならないね、どうすべきか」



 候補者の2人はそれぞれ王都と自分達の住む集落に居る、ちなみに王都に居るのは元魔王軍魔将補佐、尻尾だけサルであったカポネと、自らの集落に居るのはハーピーのハピエーヌ。


 カポネはかなり前々から王都の収容所で、魔王軍に関与していたものの、処刑すべきではない対象として拘禁し、おおよそをルビアの母親であるシルビアさんに任せ、適当に雑務をこなさせている。


 ハピエーヌの方はつい最近、といっても夏前の話だが、王国のある大陸の東端に、Ωシリーズの本拠地を討伐しに行った際に出会い、紆余曲折あったうえで俺達の協力者となった者だ。


 どちらも呼び出せばすぐに来る、来なくてはならない立場なのだが……ハピエーヌはともかく、カポネはどうやってここへ来させようか。


 もし徒歩で移動して来るというのであれば、それこそ俺達のこの島国における残りのミッションが全て滞りなく終了し、さらに王都に帰り着いてやれやれと言っている頃に、ようやく島国へ渡ることが可能かどうかぐらいの道程だ。


 だからといって急げというわけにもいかないし、急いだところで空を飛べない者の移動スピードはそこまで速くならない。


 どうにかしないとカポネだけ悲しいことになってしまうのは明白だな、入れ違いで、ようやく到着した際には俺達はもう帰還済み、全く知らない地で、わけのわからない、その筋のもんとしか思えないビジュアルのおっさんの支配下に入るという、もはや本人にとって何のメリットもない、意味不明な展開に巻き込んでしまうのだ……



「う~ん、王都からここまで、というかこの島国の任意の場所までか……ちょっとキツそうなんだが、マリエル、どの交通手段が一番到着が早いんだ?」


「わかりませんね、速度が『速い』となるとやはり馬ですが、到着はそれでも『遅い』ですからね、というか最低でも海を渡らなくてはなりませんし」


「そうなんだよ、そこなんだよ、近くまで来たら精霊様が出動して、回収しに行くとしたらどうだろうか?」


「無駄よ、それでだいたい1ヶ月ってとこね、そこまで待っていたら副魔王が目的を遂げて、こちらの負けが確定してしまうわよ」


「だよな、それじゃあ打つ手は……何だユリナ、何か良い方法があるのか?」


「……あの勘違いブスが言っていた言葉をふと思い出して、それで閃きましたの、非人道的な方法ですわ、それでも良いというのであれば使いますの」


「ほうほう、その方法とは?」


「箱に詰めて郵送して貰うと早いですのよ、速達で、ここまでなら1週間もあれば着荷……到着しますわ」


「ひでぇことすんな……でもその方法ならかなり早いな、ちなみに速達の魔法って何回まで重ね掛け出来るんだ?」


「優秀な配達員なら3回まではいけるわね、そこまですれば3日で到着するわよ、どうかしら?」


「どうかしらも何も、現状そのぐらいしか方法がないんだよな……非人道的だけど……」



 ハピエーヌに対しては、既にマリエルが連れていた『どこへでも、どこからも、超高速で』という、最強の伝書鳩を飛ばして召喚状を送った。


 おそらく1週間もしないうちに到着するであろう、もちろん伝書鳩を追跡しながら飛んで来ればの話だが、その点についてはわからないほど馬鹿ではないはず。


 で、問題のカポネについてだが、その後も協議を重ねた結果、やはり『箱に詰めて郵送』という非人道的な方法しかないという結論に至った。


 当然人間を郵送することはこの世界でも禁じられているのだが、俺達は勇者パーティーであり、超法規的な存在でもあるのだ。


 ゆえに、全ての法制度において、その条文に『ただし、勇者パーティーにおいて、どうしてもの場合は除く』というただし書きが追加されているのと同じ効果を発揮し続けている。


 なお、『どうしてもの場合』だけであるため、普段ジェシカが交通違反で捕まり、馬車免許を停止されているようなものに関しては、普通にその辺の一般人と同等の扱いを受けることを述べておくべきであろう、勇者パーティーとてそこまで特別ではないのだ。


 で、早速シルビアさん宛の文書を認め、マリエルが使用を許されている中でもとびきりの伝書鳩にそれを括り付け、船からリリースしてやる。


 これで数日後には変化があるはずだ、先に到着するのはどちらか、それは配達員とハピエーヌのどちらが有能なのかに懸かっていることだな……



「てことで今2人呼んだんで、どうっすかね? どのぐらいの場所で合流出来るか……」


「……1週間弱か……となると『新イヌマー候補』との接触が先になりそうだね、奴の根城はもうすぐそこだからね」


「へぇ~っ、何だか狭い海峡を渡ってまた島、というか結構大きな島よね、この近くにその候補者が……ってか見てよ勇者様、地上がゾンビとかスケルトンだらけなんだけど……」


「どれどれ……良く見えないが、あのフラフラしているのはゾンビっぽいな、向こうの白いのはスケルトンか、一体これは、というかここは?」


「ここは『死国地方』だよ、比較的魔族が多い地域でね、『4人のアンデッド使い』が支配している地域なのだ、ちなみにゾンビもスケルトンも通常の住人だから害はない、人族も普通に居るからね」


「この中で普通に暮らしている人族は凄いな……てか死んだら漏れなくあのゾンビみたいなのにされるんだろうなきっと……」



 良くわからないが、『4人』の何者かがそれぞれ統べる『死の国』、ということで……まぁアレだ、とにかくそういう感じの地域である。


 しかしあのゾンビらのお陰で、西方新大陸の犯罪組織はおろか、悪い奴などまるで寄り付こうとしない分、比較的安全で夜も出歩ける、ゆえに巡り巡って酒が美味い地域でもあるらしい。


 まぁ、それは余裕があったらということで、今はその『新イヌマー候補の根城』とやらに向かおう。

 向かって交渉して、仲間に加えてついでに2人の到着を待たせて貰うのだ、そこで酒が出れば万々歳だな。


 しかし『根城』というだけあってその候補者も武装しているはず、いきなり攻撃されることも想定して、慎重に近付く必要はありそうだが……



「ところでその候補者、どういう奴なんです?」


「……奴は、彼は犬獣人だね、旧イヌマーと種族的には同じだ」


「犬獣人、まぁカレンの下位互換ってことか、おうカレン、いじめんなよ」


「わふっ、食べても美味しくないのはいじめたりしません、普通に殺します」


「殺しちゃダメだってばさ、一応仲間にするんだから」


「じゃあ許してあげます」


「よろしい、今回はそのスタンスで頼むぞ、ほれ、干し肉を食え」


「やったっ!」



 とりあえずカレンは大人しくしていて貰うこととして、というかまぁ、カレンのことだから種族のレア度と本来的な強さぐらいでマウントを取ったりしないはずだが、念のためだ。


 威嚇されて反応してしまい、瞬殺してしまったなどということになれば目も当てられないからな。

 その場合には紋々太郎もアテが外れて困るわけだし、俺達もここへ立ち寄っている分の時間を無駄にしていることとなる。


 で、空駆ける船は比較的南向きに、それでも多少は西を向いているような角度で進んで行く。

 山を越え、徐々に下っていく感じの地上を眺めながら、通常の人間のような生活を営むゾンビに感心する。


 で、しばらくすると、死の国であるというその大きな島が途切れ、その先の海が見える……結構な広さの砂浜と、両サイドには2本の岬、完全にあの地域じゃきぃ……おっと、語尾がバグッてしまったではないか。



「……そろそろだ、見えるかなあの禍々しい奴の居城が」


「居城って、根城のこと……ふむ、何だか『このエリアのボス』感が出た良い城っすね、てか奴がこの地域を統べるアンデット使いってことっすか?」


「……いや、奴は単に粋がっているだけだが、やはり相当な強さを誇っているからね、この地域のアンデット使いも迂闊に手を出せないし、我も英雄として何度かここを訪れたが、まぁやりたい放題好き放題といった感じだね」


「なるほど、思っていたよりもとんでもない輩のようですな……」



 紋々太郎の指差した先には、何というかまぁ、黒い雲の掛かった、そして無駄にその周辺だけ雷鳴がとどろいている様子の『ありがちな悪の居城』であった。


 そのど真ん中に聳え立った尖塔の、一番上の部屋に陣取っているのが、これから会いに行く予定の犬獣人、そして『新イヌマー候補』でもある男なのであろう。


 しかしこれは間違いなく鬱陶しい、調子に乗りすぎてどうにかなってしまったタイプの奴だな。

 うっかりブチ殺してしまわぬよう、最初からグッと堪えつつ相手をしてやらねばなるまい……

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