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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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763 戦闘終結

「うむ、敵のリヤカーは2台か、片方にはメデュー様と爆乳女怪人を乗せて……」


「あの、私は怪人ではなくてですね」


「黙れ、で、もう片方には……ルビア、サリナ、お前等何でもう乗ってんだ?」


「疲れたからです」

「もう歩けません」


「しょうがない奴等だな、てかルビアとかほぼほぼ何もしていない気がしなくもないんだが?」


「そんなことありませんよ、少なくともご主人様よりは活躍しているはずです」


「そう……なのか? まぁ良いや、で、こっちのモジャモジャはどうするんだ? 持って帰るのか?」



 モブキャラ共を皆殺しにし、生き残っている2人、メインターゲットであったメデュー様と爆乳女怪人をリヤカーに乗せ、仲間との合流に向けて出発する体勢が整った俺達。


 だがもうひとつ気掛かりなのが、精霊様が一応キープしている感じのモジャモジャ、先程まではメデュー様の頭の上に乗っていた、ミミズのようなサイズのヘビが絡み合った巨大なパンチパーマである。


 箱に入れられ、リヤカーに乗せられたそれは、明らかにヤバいオーラを放ちつつ蠢いている状態。

 まるで俺の腕に取り付いていたあの黒いモヤの呪い……はそういえばどこへ行ったのだ? 誰かに移してしまったのか?


 とまぁ、とにかくその得体の知れないモジャモジャを、放置するわけにもいかないということで持ち帰るようなのだが、見ていてあまり気持ちの良いモノでもないことは確かだ。


 かといって破壊するというのも……攻撃を加えた瞬間に何が起るのか、それは先程まで一心胴体であったメデュー様の本体にもわからないとのこと。


 もうこのまま持ち帰り、待機中の空駆ける船で分析してみる他ないようだな、魔導具なのか魔法生物なのかさえわからないが、エリナに見せれば少しは詳細が判明するはず。


 パッと見がかなりキモいだけであり、直ちに害をなすようなものでないことは確認済み、本体の方と合体させない限り、そこまで強い術は使えないようだ……



「しかしメデュー様、これ、どうやって装備していたんだ?」


「普通に被っていただけでして、あの、一度被ると凄くフィットして、まるで着けていないかのようなふんわり感が……」


「うむ、装着感についてはどうでも良いんだが、結局お前はコレの力であの術を使っていたんだよな? てかこんなものどこで手に入れたんだ?」


「えっと、西方新大陸では貧乏でして……その、悪い組織のものだとは思っていたんですが、経理として入って……それでこの島国に配属されて、気が付いたら改造だか何だかの『いろんな人族』と呼ばれる前の段階の実験として……メデューサみたいに……」


「そういうことか、その改造部分を脱着式にしたのは意味不明なんだがな、とにかくメデューサほどではないがメデューサに近い能力を獲得したと」


「ええ、そういうことになると思います」



 ちなみにメデュー様の『メデュー』は本名らしい、どうしてこのメデューサ的改造の実験体にこの子が、こんな弱気で戦闘向きでない子が選ばれたのか、その理由はもうそういうことなのであろう。


 俺とマーサで分担して引っ張る2台のリヤカーは坂を下り、森の出口付近から戦場に魔法攻撃を浴びせ続けているセラとユリナ、それから護衛として残ったジェシカの所まで戻って来た。


 他の仲間達はまだ下に降りたままのようだ、俺達が発ったときと比較して幾分か静かになっている印象だが、下では未だに戦闘がポツポツと、途切れ途切れではあるが発生しているようだ。


 まぁ、降りている仲間は勇者パーティーから3人、そして紋々太郎、新キジマー、フォン警部補で合計6人だけなのである。


 敵の数が少なくなってきたであろう現時点においては、そのある程度の集団と遭遇し、ここからでもわかるような規模の戦闘になることもかなり減少したはず。


 そしてここからの遠距離魔法攻撃も、ターゲットとなる敵の塊を選定するのに苦慮するぐらい密度が薄くなってきているとのこと、つまりそろそろ戦闘が完全に終結しそうだということだ。



「じゃあこのとっ捕まえた2人はここに置いて行く、それである程度下をまとめてくるからよろしく」


「わかったわ、じゃあ攻撃は……そろそろ終わりにしても良いかしらね?」


「うむ、花火の時間もこれまでだ、あとは下の祭を終わらせるだけって感じだな」


「ん、まぁ……面白いつもりでそう言ったのならご愁傷様、で、それと勇者様、さっきから箱の中で蠢いているその黒いのは何なわけ?」


「あぁ、これはメデュー様だよ」


「じゃあこっちの女の子は?」


「それもメデュー様だ」


「どういうこと?」


「こっちのメデュー様がアレで、こっちのメデュー様がコレで、まぁかくかくしかじかでボンバーヘッドがワッサワサで……」


「なるほど、それはエリナちゃんに見せないとわからないわね、とにかく下を集結させてきてちょうだい」


「おうっ、行くぞマーサ、マリエル!」


『うぇ~いっ!』



 かなりの魔力を消費したはずのセラとユリナは休憩、ちなみにルビアとサリナはリヤカーに揺られ、今はもう完全に眠ってしまっている。


 精霊様も面倒くさそうであったことから、比較的元気な俺とマーサ、マリエルの3人で斜面を駆け降りた。

 そうやって到達した戦場は……地獄であった、敵の死体、それから瀕死の重傷者だらけ、阿鼻叫喚とはこのことである。


 その地獄の中で最初に目に付いたのはフォン警部補、降参したと思しき敵の集団を並ばせ、1人ずつ顔の確認をしているようだ。


 手柄となりそうな指名手配犯を探しているのであろうが、残念ながらパッと見で大物だと判別出来るような奴はそこには居ない。


 まぁこの戦場全体のどこかにそういう奴が居たとしても、メデュー様が逃走を開始した段階でそれに付き従ったに違いない、つまりここには残っていないであろう。


 とはいえせっかく生かして捕らえることに成功した敵のモブキャラ共だ、この後開催される戦勝の宴の際に、盛大に、残虐な方法をもって処刑するにはうってつけの連中。


 うむ、ここの現地住民はおそらく、珍しい火属性のマグロを狩ることによって生計を立てていた、それがコミュニティを形成した結果、ここに集落が出来たに違いない。


 となればその地をこのような状態にしてしまった犯罪組織の連中には、マグロと同様に『解体ショー』を催す感じで処分していきたいところ。


 それに関しては全ての片付けが終わった後に、現地住民の代表者と話し合って決めることとしよう、まずは戦闘の終結、そこからだ……



「お~い、フォン警部補~っ! そっちはどんな調子だ~っ?」


「おっ、勇者殿ではないか、戻ったということはアレか、親玉の始末か捕縛は完了したということか」


「あぁ、本体は捕縛して、分体というか何というか、モジャモジャの方は箱に入れて持って来た」


「箱に入れて? モジャモジャ? まぁ良いや、とにかくこっちはこんな感じだ、捕虜となったのはこいつらも含めて500以上だな」


「すげぇな、こりゃ殺りがいがあるってもんだ、ただ面倒だから現地住民に、特に報酬を払わせずに処分させないとな」


「それは殺りがい搾取じゃねぇのか……」



 と、フォン警部補とくだらない話をしている暇ではない、遠くに見えるのは紋々太郎と新キジマ―、2人共まだ敵を探してウロウロしているのだが、こちらは捕虜など取る気がないようだ。


 そしてその近くにはドロボウばりに風呂敷を担いだミラ……かなりのお宝をゲットしたようだな、独占する予定でいるのは顔を見ればわかるのだが、もちろん戦闘参加者で山分け……いやこの地の復興資金として少しは残しておくべきだな……


 で、カレンとリリィがどこかに行ってしまったようだ、戦場は雑魚キャラの断末魔を始めとした不快なBGMに支配され、マーサの耳でも2人の足取りを探ることは出来ない。


 ということで紋々太郎に聞いてみよう、ずっと戦場をうろついていたこの男であれば、あの中身がお子様の狼さんとリアルお子様のドラゴンさんがどこへ行ったのかわかるはずだ……



「お~いっ、どうも~っ、おつかれで~っす!」


「……うむ、勇者君かね、君達がここに居るということは、そちらのミッションは既にコンプリートしたということかね?」


「ええ、かくかくしかじかで……(以降フォン警部とほぼ同じやり取り)……」


「……なるほど、ではこちらも動きを変えよう、新キジマ―、残った者の降伏を認めてここへ集まらせるのだ」


「御意!」


「それで、ウチの小さいのと小さいのがどこかに行ってしまったんですが……知りませんかね?」


「……あぁ、彼女達であれば海の方へ向かったよ、2人共笑いながら敵を殺戮しつつ一直線にね、鬼神の如きとはまさにあのことだ」


「なるほど……じゃああのまだ建っている倉庫の所に居るってことだな……」



 この場の誰もが知らない、2人がまともに戦っていたつもりではなく、『敵にバレないように移動』し、火属性マグロの保管庫と勘違いして鉄火巻きの製造、保管場所へ『忍び込んだ』ことを。


 そしてその製造、保管の全てを担っていた建物は大爆発を起こして倒壊、俺達が山の方から見た戦場での大きな出来事はこれであったということに。


 で、とにかく残された倉庫の前でマグロの運搬方法を検討していた2人を発見し、一度戻ろうと声を掛ける。


 もちろん動こうとしない、結局俺がカッチカチに冷凍されたマグロに対して未練タラタラのカレンの手を牽き、ビクともしなかったリリィをマーサが抱え、倉庫にはマリエルが再び施錠してその場を離れた。


 これでおおよそやるべきことは終了か? となればあとは広い場所に、とりあえずこの遠征軍の総代である紋々太郎を中心に集まり、さらに空駆ける船を移動させて大集合するのみか……



 ※※※



「うぇ~いっ、全員集まってんな~っ!」


『うぇ~いっ!』


「居ない奴返事しろ~っ!」


『うぇ~いっ!』


「何だよ誰も居ないのか~っ!」


『うぇ~いっ!』


「ちょっと勇者様、ライブイベントのくだらない前置きみたいなことしてないで、話を先に進めましょ」


「うぇ~いっ! で、何するんだっけ?」



 つい先程まで戦場となっていた広いエリア、元々は漁具倉庫やその他現地住民のための建物がいくつも建っていたものと思われるが、今は犯罪組織の手によって無残な更地に変えられている。


 で、そこに集まったのは森の斜面脇の施設から解放された現地住民がおよそ300、こちらのスタッフが1,000近く、そしてメインの遠征部隊である俺達は急拵えのステージ上に立っている状態。


 もちろん両者の間には、フォン警部補が捉えた500のモブキャラ、さらに最後の最後で紋々太郎によって降伏が認められた300程度の同じくモブキャラが存在している。


 なお、『いろんな人族』の皆様方については予め全てについて処分しておいた、戦いの中でフォン警部補や新キジマ―も数度襲われ、怪我をしていることから、一般の住民にとってはかなり危険な奴も多いのであろうという判断からそうしたのだ。


 なお、メインターゲットであったメデュー様とそのモジャモジャ……いや、どちらもメデュー様と呼称しているのだが、とにかくその1人と1つ、また爆乳女怪人はこちら側でキープしている。


 一応、というか特にモジャモジャを失ったメデュー様は普通の女の子なわけだし、怒った現地住民が投石などして怪我をしたら大変だ、間違いなくそいつをブチ殺す必要が生じてしまう。



「おしっ、え~っと……とりあえず一度休みましょうっ! もう結構夜中なんで、眠いんで解散とします、以上!」


『うぇ~いっ……じゃねぇぇぇっ!』


「……何か不満があるようだな、せっかく解放してやった奴も多いというのに」


「というか捕虜の連中までツッコミを入れていたわよ、早く処刑して欲しいってことかしら?」


「さぁな? とにかく一度寝よう……さすがにスタッフの連中は慣れているな、一瞬で野営の準備を始めたぞ」



 せっかく集まって頂いたところを悪いのだが、そこからしばらくは動くことが出来ない、疲労困憊であったためだ。

 仕方ないのでその場で寝転がり、星を眺めながら数時間目を瞑っておいた……意外と寒いな……


 で、朝焼けと共に本格的な冷えが俺達を襲う、こちら側もスタッフも、それから毛布等を持ち出していた現地住民らも大丈夫なようだが、そのまま放置された捕虜の雑魚共はガタガタと震えている、ざまぁみやがれ。


 で、徐々に起き上がり、騒ぎ出す連中……どうやら火属性のマグロ漁の再開に期待を寄せている者が多いようだ。

 糸を手繰り寄せるジェスチャーをする者、電気ショックなのか、自前の雷魔法を発動させる者など様々である。


 で、ステージ側でも皆起床し始め、各々が動き始める、最後列の遠征部隊スタッフ連中が最も活動的で、既に現地住民らに朝食を配布しているようだ、俺達も貰いに行こう、いや誰か派遣して貰いに行かせよう……



「それじゃご主人様、私が全員分の肉を貰って来ます」


「おう、つまみ食いすんなよ、あと肉だけじゃないからな……アイリス、すまないがカレンと一緒に行ってやってくれ」


「あ、は~い」


「そんでもって、俺達はここからイベントの取り仕切りだ、ミラ、マリエル、司会進行を頼むぞ、セラは紋々太郎さんにスピーチの依頼を」


『は~いっ』



 ということで始まる『総片付けイベント』、突如として敵に支配され、貴重な資源である火属性のマグロの漁業権を奪われたこの地に、再び光が差し込むことを記念したものである。


 司会に抜擢された2人が喋っている間に、先に呼び出してあったこの地域の漁師の代表者がステージ脇にやって来た。


 ついでにマグロの解体職人、さらには火属性のマグロを冷凍させることに特化した、『炎の氷魔法使い』なるわけのわからない存在も一緒だ。


 まずは漁師の代表者である、濃い髭とあり得ないぐらいに隆起した筋肉以外に特徴のないおっさんがスピーチをするようだな、というかチンピラ犯罪者共、どうやってこんな奴を抑え込んでいたのであろうか? やはりメデュー様の力か?



「え~っ、ご紹介に預かりました、といってもこの漁師町の者は全て顔見知りなのですが、英雄、勇者連合パーティー、およびそのお仲間の皆様にご挨拶を申し上げる次第で……」


「……おいセラ、あんな筋肉ダルマがまともに喋り出したぞ、天変地異の前触れか?」


「勇者様、ちょっと静かにしなさい、あと動かない、恥ずかしいわよ」


「すみませんでした……」



 なぜか怒られてしまったのだが、その理由が判明することはないであろう、セラはたまたま機嫌が悪かった、椅子の座り心地でも悪かったに違いない。


 で、長々と続いたそのおっさん、そして調理を生業とする巨大な包丁を携えたおっさん、さらに定温倉庫の守護神である氷魔法使いへと魔導スピーカーが手渡され、それぞれ挨拶等していく。


 最後には紋々太郎がサラッとした簡潔なスピーチをし、それにてこの地が救われたこと、これから漁師町として復興していくこと、そしてその前夜祭として今夜は酒でパーリィーすることが宣言された。


 盛り上がる現地住民達、というか大半がおっさんかそのおっさん共よりも強そうな酒屋、料理屋のおばさんなのだが、どうやらここは火属性マグロ漁のための前哨基地であり、彼らの本当の故郷は他に存在しているようだ。


 しかしなるほど、マグロ倉庫があったり漁具倉庫のがあったり、さらには宿泊施設らしきものも犯罪組織に利用されつつ残っていたものの、ここへの定住を示すような家がなかったのはそのためか。


 まぁ、この前哨基地は完膚なきまでに破壊され、ついでに戦場となって死体だらけの薄汚れた地となってしまったのだが、これだけの人数の屈強な連中が居れば復興は容易いであろう。


 ということで今夜は盛大に飲み食いしてぶっ倒れるまで騒ぐということになるのだが……その前に捕虜としたゴミ共の残虐処刑だな、これは現地住民の鬱憤晴らしに必ず必要だ……



「よぉ~しっ! じゃあ手分けして宴の準備を、その間ステージ上では捕虜とした敵キャラの『解体ショー』を開催していきま~っす!」


『うぇ~いっ! ヒャッハーッ!』



 こうしては始まった宴の準備、捕虜のモブ共は適当に前に居る奴から引っ張り出し、マグロ解体職人が使い捨ての鈍包丁を用いて切り刻んでいく……



『ギャァァァッ! やめてくれぇぇぇっ!』

『ひぎぃぃぃっ! しっ、死にたくない、助けてくれぇぇぇっ!』


「本当にうっせぇ奴等だ、なぁメデュー様?」


「あ……あの、私もああいう風にされるのでしょうか……」


「大丈夫だ、勇者パーティーの基本理念として『可愛い子は処刑しない』というものがあるからな」


「ホッ、それは良かったです」


「ただし公開鞭打ちの刑に処す、爆乳女怪人、お前もだっ!」


『そっ、そんなぁぁぁっ!』



 その日はずっと宴の準備、夕暮れを迎える頃にはそれも終わり、今度はマグロ解体職人が本業としての『解体』を始めている。


 酒も犯罪組織から押収した分、さらにここの連中が陥落の際、これだけはということで隠しておいた秘蔵の酒も振舞われるとのことだ。


 もちろんマグロ中心の料理に、やはりあのリンゴの森で収穫されたリンゴなど、地場産の美味い食材が目白押しである。


 それらは当然にして宴全体の主役を張っているのだが、それ以外にもステージ上で執り行われている、執り行われ続けている処刑の類が人気である。


 森の食材をバーベキューで炙りつつ、台に固定したモブ野郎もバーベキューにし、その苦しむ姿を見て爆笑しているおっさん達。


 あまり良い趣向とは言えないのだが、やられている側が自業自得すぎるため特にこれといって文句はない。

 あとはメデュー様と爆乳女怪人を鞭で打ち据えるイベントが待っているのだが、これも自業自得なので仕方がない。


 というか、メデュー様の分裂したモジャモジャについてはどう処理しようか、一応明日にはエリナに見せ、詳細な鑑定をお願いするつもりでいるのだが。


 まぁ、もしそこでわからねば、『最初のリンゴ』にでも引っ掛けておこう、ちょうど良いということで、怪鳥タイプの何かが巣の代わりにでもするのではなかろうか……

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