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「じゃあ早速……と、その前にこの気持ちの悪い連中だ、全部自爆させろ」
「全部ですか? せっかく作った『いろんな人族』が居まして、ほら、ピンクの卵から無限に増殖する『ジャンボタニシ人族』とか結構オススメなんですが……」
「何てもんオススメしてんだよお前は、マジで死にてぇのか?」
「ひぃぃぃっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
「わかったらサッサとしろっ!」
渋々、といった感じで全ての『いろんな人族』に対しての戦闘停止命令、さらにその辺の崖などから勝手に飛び降りるなどして自決するよう命じる爆乳女。
だがもちろんのことそれに応じる奴は居ない、いや若干居るようでそこら中に断末魔が響き渡っているのだが、その割合は全体の数からすると非常に少ない。
このままだと森へ逃げたマーサなどは戻って来られないな、途中チラッと見たのだが、マリエルもマーサを追って森の方へ行ってしまったようだし、現状パーティーはバラバラだ。
唯一の救いは紋々太郎らが、ある程度固まって普通のモブキャラ、『いろんな人族』ではない敵の一般戦闘員を処断してくれていることだが……その数も多いためなかなか捗っていないようだな……
「まぁ良いや、サリナは引き続きメデュー様の術に警戒してくれ、で、警戒しつつで悪いんだが、誰か1人で良いから連れて来てくれ、この爆乳女を縛り上げる縄とかないからな」
「わかりました、じゃあ姉様……は遠距離攻撃が忙しそうですね、逃げ出している敵も居るみたいだし、ちょっと最も暇そうな誰かを呼んで来ます」
「うむ、ルビアなら縛り上げるのが上手いからな、それで頼むよ」
「ええ、じゃあ行って来ます」
最も暇そうな誰かというのが誰のことなのか、それはいちいち名前を出してまで確認するようなことではない。
そしてその最も暇そうなルビアは、おそらく初期位置で勝手にピクニックシートでも広げて休憩しているに違いないのだ。
サリナが走り去って行ったところで、とりあえず暇になった俺は何をしようかと考え……まずは周辺、存在感がなく、ほぼ空気の状態で待機している一般モブ戦闘員を始末しよう……と、始末し終わりました。
この間0.02秒、まぁ少し時間を掛け過ぎた感はあるな、次からはもう少し手早く始末するよう努めよう。
で、その場に残されたのは俺と、それから爆乳女、およびその後ろにある施設の中に居ると思しき『いろんな人族』の生き残りぐらいである。
施設内の連中はまぁ良いや、どうせ『いろんな人族』となり、そもそも人族としての『いろんな要素』を失ってしまったかわいそうな連中だ、後程まとめて惨殺してやることとしよう。
そしてそうなった場合、目の前でへたり込んでいる、今のモブキャラ消滅劇を目の当たりにし、もう足腰立たなくなってしまった様子の爆乳女、これをどうにかしていくフェーズということである……
「おいお前、お前だよそこの爆乳女!」
「……はっ、はいぃぃぃっ!」
「ちょっと立て、立ち上がるんだ」
「む……無理です……あとおもらししました」
「汚ったねぇ奴だな、だが良くあることだ、後で洗ってやるから安心しろ、さて、じゃあこっちへ来いっ!」
「ひぃぃぃっ!」
爆乳女を移動させたのは、別に俺がおっぱいを触りたいからというわけではない、この『バトルステージ』となっていたエリアには、先程俺が消滅させたウ〇コ人族の粒子が漂っている可能性があるのだ。
それを避けるため、おもらし爆乳女を引き摺っていると、ちょうど反対側からサリナが、そして連れて来られた面倒臭そうなルビアと、あと捕らえた敵をシバきたいだけの精霊様の姿。
ちょうど良い、この集まった4人で爆乳女を連れ、逃走している最中のメデュー様を捜索することとしよう。
ついでにマーサとマリエル、森へ入ってしまった2人も回収したい、マリエルがマーサを発見していると良いのだが……
「あら~、そのエッチそうなのが今回の副ボス的な存在なのね」
「そうだ、エッチそうだろう、ちなみに俺が1人で捕まえたんだからな、拷問は俺がする」
「ご主人様はエッチなことをしたいだけなんじゃ……あだだだだっ! 痛いですっ! そういうのはルビアちゃんにやって下さいっ!」
もう諦めた様子の爆乳女、それを取り囲み、俺のみであったら余裕でセクハラの、訴訟となった際には2秒で敗訴する次元の発言を4人で繰り返す。
ついでに精霊様が水をブッカケし、おもらししてしまった爆乳女を清めておく……なお、凄く清純な水なので洗浄効果は抜群なはずだ、衣服もパンツも乾けばそのまま使える。
だが、まだ秋とはいえ『とうほぐ地方』のさらに北端に位置するこの地の夜はそこそこ冷えるものだ。
案の定くしゃみなどし出した爆乳女、ルビアはこれを縛り上げる手を途中で止めた……
「ご主人様、さすがに何か着せましょう、風邪を引いたら面倒なことになりますよ」
「そうか? 自業自得ってやつじゃないかと思うんだが、悪いことしたのもおもらししたのも、それに精霊様の水ブッカケを喰らったのも自分のせいだしな、このまま尻丸出しで連行しても構わないんじゃないか?」
「……いえ、何となく私が負けている、というかこの人ジェシカちゃんより上な気がするので……ご主人様の浮気予防ですね」
「そういうことでしたか……」
ということでルビアの主張通り、あくまで『風邪を引かさないため』という名目で爆乳女に布等を貸与してやる、もちろん汚ったねぇ雑巾のような布をだ。
そしてそのまま向かうべきは、当然メデュー様を連れたモブキャラ共が向かったと思しき森。
念のため海に逃げていないことだけは確認済みだ、ちなみにここからだと海の方が逃げやすい気がしなくもない。
だがそれには何か理由があるに違いない、メデュー様が泳げないとか、メデュー様が水に濡れたくないとか、メデュー様の力は海上では発揮されないとか、きっとそういう理由だ。
なお、そう考えるとこのメデュー様、とんでもないワガママ女のように感じられるのだが、あの感じだと自ら意見を通して何かをするのではなく、何も主張しない、出来ないものの、周りの連中が気を遣って意向通りにしているという感じ。
そういう奴だし、きっと捕えることが出来ればベラベラと情報を吐くに違いない。
それをお諫めする部下共はもうこの世から消えた状態で、じっくりネチネチと色々な話を聞こう……
「で、メデュー様を連れて行ったのは何匹ぐらいの部下なんだ?」
「そうですね、普通のモブがおそらく30程度、それから『いろんな人族』の戦闘タイプが10以上、あとは試作品の『鉄火巻き』を携えた実験部隊が20……そんなところでしょうか?」
「結構な大部隊じゃねぇか、で、その鉄火巻きってのは一体何なんだ? 『最初のリンゴ』も言っていたが、相当にヤバいシロモノなんだろう?」
「鉄火巻きは鉄火巻きです、黒い筒、というか筒がなかったので海苔を巻いて代用しましたが、その中にこの地域特産のマグロ、なぜか火属性のマグロの骨なんかを粉にしたものを詰め込んで、緩衝材としてふっくら炊いた後に魔法の酢を加えて魔力的な状態を安定させた米を緩衝材としてですね……」
「もう普通に鉄火巻きじゃねぇかそれ……」
「だから鉄火巻きですって、私達の最終決戦兵器、逆転を担う、最初のリンゴを滅ぼすべき最強の武器だったのですが……結局こんな所で使うことになってしまったわけです」
「使うことになってんじゃねぇよ、出来れば使わないでくれマジで、そういう得体の知れないのは困るんだよ実際のとこ」
「良いじゃないですか、こちらとしても使わずに廃棄されてしまうのはアレなんで、出来ればちょっとだけ喰らって頂けると幸いです」
「ざっけんじゃねぇコラッ!」
「ふぎゃっ!」
反省の色が見えないどころか、話せば話すほどに調子に乗っていく爆乳女、最終的に拳骨を喰らわせたことによって大人しくなり、調子乗り度はリセットされたのだが、コイツはなかなかに油断のならない奴だ。
おそらく賢さは俺より上、そして今居る仲間のうち、俺より賢さが低いのはルビアのみ、サリナと精霊様に関しては間違いなく頭が良い。
となるともしこの爆乳女に俺がディスられ始めた場合、間違いなくこの賢いサイドに位置する2人も便乗、そして馬鹿であるはずのルビアも調子に乗って何かをやらかすに違いないのである。
そうなればもう俺の時代はお終いだ、この後しばらくは、というかメデュー様の件が片付くぐらいまでは、このメンバーの中で最底辺と位置付けられることになってしまう。
それは縛られ、先程おもららしをした後にボロ雑巾を身に纏っているこんな爆乳よりも下ということ。
メデュー様はともかく、早くマーサとマリエルを発見し、集団内における俺の相対的知能水準を向上させなくては……
「……あっ、見て下さいご主人様、ここから地面が柔らかくて、しかも車輪? の跡が続いているようです」
「良く見えないな、ルビア、ちょっと明かりを近付けてくれ……ふむ、ふむふむ、ペロッ、これは足跡に車輪の轍! まだ温かいっ、近くに居るぞっ!」
「舐めたり触ったりしてもその情報は得られないわよね……」
「というかご主人様、地面の土を舐めるのはやめて下さい、不潔ですから」
「……誰も乗ってこないとはどういうことだ」
「普通につまらないからよ……」
せっかくこの俺様が場を和ませるために体を張ってやったというのに、誰一人としてそのノリに付いて来ることが出来ないようだ、嘆かわしいことである。
とまぁ、それはそれで良いとして、足跡はともかくこの車輪によって付けられた轍は何であろうか?
何かを運んでいたのか、それともメデュー様そのものを乗せたマシンがここを通ったのか、どちらかであろうが。
いや、もしメデュー様を運んでいるだけだとしたら、足跡と比較してこの轍は深すぎる、メデュー様が相当なデブでない限り、いやデブではなかったか、ヘヴィーな女でない限りは、もっと別のものを運んだ何かによって付けられた跡だ。
そして考え得るのは食料やその他装備……それからこの爆乳女の供述で持ち出されたことが判明している謎の兵器、『鉄火巻き』であろう……
「なぁおい、そのさ、鉄火巻きってのはどのぐらいのサイズなんだ?」
「残念、教えませんよそういう情報はぎゃぎゃぎゃぎゃっ! ひぎぃぃぃっ!」
「教えてくれるよなぁ?」
「教えますっ、教えますから抓るのはやめて下さいっ! お尻が取れるっ!」
「よろしい、ではサッサと教えるんだ」
「は、はいっ、鉄火巻きという兵器は……」
と、説明を聞いてもイマイチ理解出来ないのだが、どうやら直径にして30㎝、長さは5メートル程度の凄まじいサイズのものであるらしい。
そしてそれを複数本、まとめてリヤカーに乗せて運搬しているとのこと、、それでは重くなるのも仕方ないな。
というか、どうしてそんなに巨大なものにしたのか、そもそもどう使うのかがまるで判明しないのだが……とりあえずそれだけは確認しておこう……
「……それで、その鉄火巻きはどうやって使うんだ? 中のマグロ部分を発射するのか?」
「いいえ、そのまま切って使います、醤油を付けて、投げると大爆発を起こして炎上するんです?」
「醤油を付ける意味はあるのか?」
「おそらくですが一切ありません」
「また無駄なことを……まぁ良いや、その方がモーションで攻撃の判断をすることが出来るからな」
「それにご主人様、そのお醤油の皿をひっくり返してしまえばこちらの勝ちです、私が幻術で敵を操って、うっかりミスで粗相してしまうように仕向けることも可能ですよ、メデューという方の術を止めている分があるので余力は限られますけど」
「……どうだろうか、醤油を溢されたらさ、逆に真実に気付かれそうじゃないか、その行動は完全に無駄だったってな」
「そう言われてみればそうですね……と、ちょっと向こうがガサガサ言ってます……」
「敵かっ? にしても方角が……いや、この音はマーサとマリエルだ、呑気に歩いていやがる」
サリナと2人で作戦会議をしているところに聞こえてきた音、というか普通にお喋りをしながら歩いているのだが、足音も喋る声もかなり聞き慣れたものである。
敵が繰り出してきた『いろんな人族』がキモすぎたため、メデュー様を捜索するという名目で森へ、しかし逃走経路とは違う方面へ向かって行ったマーサ、そしてそれを捜索しに行ったマリエルの合わせて2人。
それがフラフラと、まるで森の中を散策するかのような、そして気分はピクニックで、軽い気持ちでウロウロしているのであった、もちろん現在は作戦中である。
と、どうやら向こうもこちらの存在に気付いたようだ、というかマーサが居るのだから、むしろ逆に向こうから気付かなくてはならないのだが、何かに没頭していて聞き耳を立てていなかったのであろう。
で、ガサガサと無警戒に音を立てながら接近して来た2人は……どこにそんなものを持っていたのだという次元の籠を背負い、中にはギッシリとキノコを詰め込んでいるではないか……
「あら勇者様、感動の再会ですね、マーサちゃんも一緒ですよ」
「は~いっ、見てっ、皆のためにキノコを採っていたの、まだ一杯あるわよっ」
「……で、ターゲットのメデュー様は?」
「忘れていたわ、今から一緒に探そっ」
「あ~、そういえば居ましたねそんな方、キノコに夢中で忘れていましたが」
「お前等お仕置きっ!」
『はっ、はいぃぃぃっ!』
精霊様から痛そうな鞭を借り、四つん這いにさせた2人をビシバシと打ち据えていく。
せっかくなので捕虜の爆乳女にもお仕置きしておこう、3人並ばせ、まとめて鞭をビシッと喰らわせる。
しかしこんなことをしている暇ではないな、こうしている間にもメデュー様ご一行様はどんどん遠くへと逃げ去っていくのだ。
マーサにしてもマリエルにしても、そして爆乳女にしても、この後たっぷりと罰を与えてやればそれで良いのだから、今はサッサとこの足跡と轍を辿っていくこととしよう……
「ひぎぃぃぃっ! きっくぅぅぅっ!」
「痛いですっ、もっとっ!」
「いやぁぁぁぁっ!」
「うむ、今はこのぐらいにしておいてやる、続きは後程だ、とりあえず立て」
「何よっ、せっかくキノコを採って来てあげたのに、報酬はこれだけなの?」
「これはお仕置きだこの馬鹿ウサギがっ!」
「いったぁぁぁっ! 鞭打ちありがとうございますっ!」
「とにかく立て、肝心要のメデュー様を追跡するぞ、他の皆も休んでないで動けっ!」
『うぇ~いっ』
やる気のない感じでその場を動き出す仲間達、マーサとマリエルも加えてこれで6人、プラス捕虜の爆乳女なのだが……実際のところここまで来るともう案内も要らない、ただの足手纏いだな。
だからといってここに、適当な木に縛り付けておくというわけにもいかないのだが、歩くのは遅いし比較的エッチな格好をしているし、とにかく邪魔ではある。
どうにかこの爆乳女を……仕方ない、俺が抱えて行ってやることとしよう、鞭打ちのダメージはルビアが回復させてくれたが、それでも色々と疲れ果てているようだし……
「おい爆乳女、抱えてやるからこっちへ来い」
「やめて下さいセクハラです、後に訴訟を提起しますよ」
「またそれかよ……まぁ良いや、問答無用だっ!」
「ひぃぃぃっ! セクハラ勇者が触ってきますっ! 誰か、誰か助けてぇぇぇっ!」
「誰も助けてくれたりなどしな……何か飛んで来たぞ……伏せろっ、これは鉄火巻きだっ!」
爆乳女の助けを呼ぶ声、これに呼応するかのように、暗闇からピュッと飛び出した真っ黒に見える塊。
それがパッと光を放ったときに、俺にはその正体が何であるのかということが認識出来た。
閃光の次に生じたのは大爆発、俺と仲間達にとってはたいしたものではないが、爆乳女にはかなり危険な規模の爆発である。
抱えようとしていたその爆乳女をポンッと爆発の勢力圏外に投げ飛ばすと、既に上空に退避していた精霊様が上手くキャッチし、さらに後ろへと下がらせた。
その最中にはさらに複数の『鉄火巻き』が暗闇より……全て同じ方向、少し傾斜となった場所の上側から投擲しているようだな、敵の居場所は間違いなくそこだ。
「精霊様! ちょっとそこ、一撃喰らわせてみてくれっ! ただしメデュー様本人が居るかもだから気を付けてなっ!」
「はいはいっ、武器を持っているのは……普通のモヒカンね、とりあえず死になさいっ!」
『グェェェッ!』
『ぶちゅっ……』
『ひょげろばっ!』
ピンポイントで狙いを定め、『鉄火巻き』を投擲していると思しき敵の雑魚キャラ共を各個撃破していく精霊様。
その後も何度か攻撃を受けたのだが、それも次第に飛んで来るブツの数が減り、最終的には全く飛来しなくなった。
制圧は完了したということか、さて、これが分離した雑魚キャラだけの決死隊であったのか、それともメデュー様本人を含む逃走部隊全てなのか、そこが問題である。
前者であったとしたら完全な時間の無駄なのだが、後者であればこれはもうヴィクトリーだ。
すぐにその傾斜の上へと向かうルートを探索し、明かりを持っていたサリナがそれを発見する。
それと同時にサリナが主張するには、自らが封じている『見られた者を石のようにしてしまう術式』の使用者が近くに居る可能性が高いとのこと。
足跡も、それから車輪の轍も傾斜の上へと続いているようだ、これはビンゴだと考えて良さそうだな。
とにかく上へ、そして見えてきたのは……『鉄火巻き』と思しき武器を携えた数十の敵部隊だ。
どれも人間のようで人間ではない、そういう形状の魔族が居るのかも知れないが、おそらくこれはそうではない、『いろんな人族』の生き残りである。
まずはこの連中を、その先に居るはずのメデュー様による追加の攻撃に警戒しつつ、可能な限り残虐な方法をもって皆殺しにしていこう……




