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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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758 暗闇の人々

「そろそろ暗くなってきそうだな、もう一度接近して、あのかわいそうな2人が見える位置まで行こうか」


「ええそうね、じゃあさっきと同じ感じの配置で、後ろから魔物とかが来るかもだけど、それはこっちでどうにかするわ」


「まぁ、どうせあそこで餌が手に入ると判断出来ているような賢い魔物は来ませんの、こちらの力ぐらい察することが出来ているはずですわ」


「でもユリナ、後ろから変な魔物が迫っているぞ」


「へっ? いったぁぁぁっ……吸血系の変な奴ですの、このっ!」


『ヤラレタァァァッ!』


「……いててて、お尻を吸われましたわ」


「なるほど、吸ケツタイプの魔物だったのか」


「つまらないわよ勇者様」


「すみません……まぁ良いや、とりあえず動こうぜ」


『うぇ~いっ!』


「それとさぁ、さっきの魔物、最後にちょっと喋らなかった?」



 何かの疑問らしきものを口にしているセラ、おそらく、というかほぼ確実にたまたまであろう。

 魔物の形状はあの気持ちの悪いヒルのようなものであり、焼き殺されたからといって『ちょっと喋る』ようなことはないのである。


 で、そのことはすぐに忘れ、全員で少し前へ、あの埋められた2人が篝火によって照らされ、辛うじて見えるような位置まで前進した。


 さらにそこから、俺を含む先遣部隊が追加で前へ、ちなみに野郎4人組プラスマーサは同じだが、今回は実戦になる可能性が高いということもあり、ついでにサリナを前に出す。


 もちろんサリナは俺が抱えているので安心だ、もし何かあったら、そこでそのときの条件に合った術を発動して、敵の何かを相殺してくれればそれで良い。


 いや、むしろそれこそが勝利の鍵であり、俺はそのサリナを守ること、紋々太郎以下残りの野郎はそのための『人間の盾』となること、そしてマーサは敵をブッ飛ばすことがその役目なのである……



「ここよ、ここが昼間に居た場所……ちょっと暗いけど、まぁ見えているわね」


「何だよあの2人、気絶してんのか? それともまた固められて……というわけではないようだな、ピクッと動いたぞ」


「……きっと命乞いのし過ぎで疲れ果てたのであろう、だが彼らが大騒ぎをしないと、奴等は食料となる魔物をおびき寄せることが出来ない、そういうことになると思うのだが?」


「それはアレっしょ、ほら、ナイフを持って来て……ザクッと」


『ぎぃぇぇぇっ!』

『やっ、やめてくれぇぇぇっ、ギャァァァ!』



 埋められた2人の所へやって来たモブキャラが1匹、小さなナイフでその地面から突き出た頭に傷を付ける。

 傷は浅いがそれなりに飛び散る鮮血、これの臭いで何かをおびき寄せるつもりなのだな。


 もちろん建物のすぐ脇、かなり離れた場所ではあるが、あの顔の見えないスネークパンチパーマ女がちょこんと、その他一般よりもひと回りサイズの大きいモブに守られて待機している。


 しかし、あのように血を出したとしても、寄って来る魔物は先程ユリナを襲った『吸ケツタイプ』、それ以外にもとても食えたものではない、気持ち悪い連中が大半のような気がするのだが?


 オークのような比較的動物に近い魔物をおびき寄せるというのであれば、人間ではなくもっとこう、それなりのブツを用意して待っていた方が良いと思うのは俺だけか……



「あら? 何だか向こうの方から気配がするわよ……オークね」


「いやオーク出て来たのかよっ⁉ あの変なヒルみたいなのじゃなくて?」


「でもだって、ほらっ」


「マジだ……」



 俺達の隠れている茂みとは別の場所、比較的飽きやすい場所を選んだのであろうが、とにかくオークの集団が10……いや15は居そうな感じだ、暗くて詳細まではわからないが。


 そしてそれがまっすぐに、先程傷を付けられたかわいそうな生き餌の2人に向かって、持っている棍棒を振り上げつつ突進……と、ギリギリのところでピタッと止まったではないか、直立不動である。


 その様子はまるで『だるまさんがころんだ』と『スイカ割り』、あとついでにチキンレースをまとめて執り行っているような、そして『鬼』であるメデュー様が振り向いたことによって、オークの軍団は止まらざるを得なかったような、とにかくそんな感じだ。



「……何か話しているな、しかもこっち指差してね? マーサ、ちょっと聞き取れるか?」


「えっとね、何かね、『いつもはこっちから来るのにな』って、あんまり気にしている感じじゃないわ」


「そうか、俺達がここに居たし、後ろにも強い気配があるからな、きっとオークのリーダー的なのが気付いてそれを避けたんだろうよ」


「それでも向こうにはメデュー様っていうヤバいのが居るってこと、全然気付かずに行っちゃったのね」


「うむ、俺の感覚からしても、ここまで接近してなお『メデュー様が強キャラ』ってのは伝わってこないからな、技を見ていない限りは普通に気弱な人族……アレ確かに人族なんだよな……」



 頭にヘビのパンチパーマが乗っかったメデュー様、しかしそれでも人族であることは確認済みである。

 一体どうなっているのだ? あの力といい、ただ者ではないのは確実なのだが。


 で、そんなことを考えている間に、直立不動で固まってしまったオークが運ばれていく……どうやらそのままの状態で保存し、喰らう直前にブチ殺して、というか生きたまま肉を削り取っていくようだな。


 ここの犯罪者連中も同じような目に遭わせてやろう、もちろん食ったりはしないのだが、立たされ、徐々に肉を削がれていく恐怖と苦痛を味わうが良い。


 と、腕の中に抱えたサリナが何か言いたそうだ、無視すると角で刺されそうなので聞いてやることとしよう……



「ご主人様、あのぐらいの術式、もっとも正体はまだわかりませんが、威力的には私の力で相殺出来ますよ」


「本当か? いやしかしさっきのは本気じゃなくて、オークさえああなれば良かったというだけじゃ……」


「そうかも知れませんけど、範囲こそ変われど強度にそこまで変化を付けられるとは思いません、というか、本来であれば『完全に石になる』タイプのものを、ちょっと使いこなせていなくてああなっているような気がしますね」


「なるほど、じゃあササッと行ってチャチャッと……」


「でも待って、何かおかしいと思わない?」


「何だマーサは? 他に懸案事項でもあるのか?」


「だって、この先、というかメデュー様ってのの向こうの暗がりね、ちょっと人間じゃないような音がしているの」


「人間じゃない音?」



 俺の感覚でキャッチ出来るのは人族のみであり、メデュー様も、そしてその後ろに控える……何か美人オーラを出している、明らかな爆乳も、さらには後ろ、全く見えていない暗がりの中に待っているのであろう連中も人族。


 だがマーサの耳には別の者、いやモノの動きが捉えられているとのこと、つまり連中はあの暗がりの中に何かを『飼って』いやがるということだ。


 もちろんそれが何なのかはわからないが、俺が感じ取ることが出来ている結構な数の人族、強さ的にはダンゴ使用者であろうが、その中にそれらが紛れ込んでいるということか?


 いや、だとしたらその『何か』が感じ取れないのはおかしい、こういうチート能力を授けた女神の奴を詐欺で刑事告発したい程度には。


 ではこれはどういうことなのか、考え得る最も可能性の高い仮説、それは『俺が人族だと思っている連中が、およそ人の形を成していない』ということなのだが……



「……どうするかね勇者君、正直イヤなオーラは感じるのだが……このままだとターゲットが帰ってしまうよ」


「勇者殿、ここは前に出るべきだ、そんな『人ならざる人』なんて、きっと凶悪な指名手配犯が整形手術に失敗してそうなったに決まっている、逮捕しなくては」


「う~む、まぁ俺もとりあえず突っ込んでみるべきだと思うが、肝心のマーサは? 最大戦力の意見をどうぞ」


「ちょっと怖いけど行ってみるわよ、何かキモいのだったら対応お願い」


「そういうことだ、じゃあこのまま突っ込むとしよう……」



 念のため先頭に立つのは紋々太郎、新キジマ―、フォン警部補である、もちろんその後ろにはサリナを抱えたままの俺が、攻撃を受け辛いように隠れて入ることに。


 マーサはさらにその後ろだ、強いくせに思ったよりもビビッているのは、未知の存在が『気持ち悪い奴』である可能性に恐怖しているためであろう。


 そして念のため援護射撃を、ということで、俺達が突撃をかましたあとすぐに魔法の攻撃を、その謎の連中が居る場所へ撃ち込んでくれるよう合図を送っておく。


 埋められている2人を含む、善良なこの地域の現地住民は、おそらくメデュー様の真後ろの建物の中。

 それに被害を及ぼさぬよう、可能であれば生き餌の2人も助けることが出来るように努めよう。


 後方がサポートの魔法、そしていざというときには第二陣としての突撃を加えるというサインをくれたのを確認し、俺達はさらに前へと進んだ……



 ※※※



「……それでは行くからね、3……2……1……オラァァァッ! 戦争じゃぁぁぁっ!」


「すげぇ、結構暗いのに的確にドタマをブチ抜いていやがる」



 遂に始まった攻撃、先頭に立った紋々太郎が、とりあえずその辺に居るモブキャラの犯罪者を殲滅していく。

 俺が目で追うのはメデュー様、横に付いていた女が素早く反応し、やはり退避させるようだ。


 ちなみに本人は紋々太郎による最初の絶叫でビビり倒し、まるで自分が石になったかのような状態で運ばれていく……この期に及んで顔は見えないのか……



「サリナ、ここからは専ら敵の術に警戒してくれっ、周囲の防御は俺に任せて、そっちに集中するんだ」


「わかりました、でも石になるような術は……きましたっ!」



 抱えているサリナの尻尾がピンッと、何かに反応したような動きを見せ、同時にそこから凄まじい魔力を放ち始める。


 きっと周囲500m程度はサリナの間合い、ここに居る限り、余程の力を持つものでなくては、幻術だの精神攻撃だのといった術を使うことが出来ない……とかそういう感じの設定なのであろう。



『何だこれはっ⁉ メデュー様、すぐに退避をっ!』


「お、どこからともなく女の声だな、さっき居た爆乳のお付きか?」


「あっちから聞こえたわっ! でもそのヘンな生き物の音もそっちからするっ!」


「だろうな、っと、ここで照明弾らしいぞ……」



 突入および戦闘の開始からおよそ30秒、ここで茂みに隠れたユリナが、何やら火魔法で創り出した照明弾のようなものを放った。


 どうやらセラの風魔法でユリナの火魔法を圧縮し、それを高空からゆっくりと落下させているようだ。

 当然敵陣はパニック、それに加えて広い範囲が昼間のように照らされ、丸見えとなっている。


 周囲を見渡す……何だこれは? いやマジで何なのだこれは? 気持ち悪いどころの騒ぎではない、間違いなく人族のはずなのに、その姿は紛うことなき異形。


 そんな連中がワラワラと、無数に待機しているではないか……というか一部には見たことのある奴が……先程の『吸ケツタイプ』だと思ったヒルのような奴ではないか、魔物ではなく、アレも良く見ると人族だ。



「うへぇ~っ、何なのよアレも、アレもアレもっ! 変なのばっかりじゃないのっ!」


「しかもメデュー様が居ないぞっ! どこへ逃げやがったんだっ?」


「あっちの爆乳は居ます、でもターゲットは見当たりませんね……」



 とりあえず、『人の形をした人』については紋々太郎らに任せてしまって差し支えないであろう。

 だが照明弾に照らされて見えるこの連中はダメだ、あの3人では間違いなく喰われてしまうはず。


 いや、強くはないのだが、数の力で圧倒され、齧られる、呑み込まれるなどしそうな感じであるのだ。

 もちろん通常の人間のような見た目のものもかなり居るのだが、実際にはそうではなく、変化するなどして異形となるに違いない。


 とにかく巨乳の方を追って行こう、ちょうどリリィが上空に飛来し、炎のブレスで敵を焼き払う、そこに出来たルートを使えばまっすぐに奴を捕えに行けそうだ。



「待てコラッ! お前だよそこのおっぱい女! 大人しくお縄になれっ!」


「誰がそのようなっ! 行けっ、『いろんな人族』共! 私を守るんだっ!」


「ひぃぃぃっ! ねぇっ、何か来たわよっ!」


「キモッ! 何が『いろんな人族』だよっ! こっち来るんじゃねぇっ、死ねっ、死ねやコラッ!」


『ギョェェェェッ!』

『イタイ、イタイヨォォォッ!』


「喋るのが余計キモいわよね……」



 先程のヒルのような奴、それもかなり含まれているのだが、他にも腕だけカマキリになった人間、頭が金槌のようになった人間、さらには変な汁を吐いて攻撃してくる人間などが無数に襲い掛かる。


 どれもおよそ『人族』とは思えないのだが、それでもれっきとした人族なのである。

 マーサはビビり散らしているし、サリナも守らなくてはならない、これを1人でどうにかするのは困難だな。


 そうこうしている間にも、第二のターゲットに選定した爆乳女が逃げ、暗闇の中に消えてしまいそうだ。

 この連中はある程度倒しつつ、まずは奴に追い付くことを優先することとしよう。


 チラッと山の方、他のメンバーが隠れていた茂みの方を確認すると、既に全員が突撃を始めている様子。

 まぁ、照明弾によって照らし出された光景がこれでは仕方がない、もう普通に戦闘、それも単に雑魚を殲滅するだけの簡単なお仕事ではないということは明らかなのだ。


 で、相変わらず攻撃を仕掛けてくるおかしな人族を薙ぎ払い、蹴飛ばし、踏み潰して殺害しつつ、逃げて行く爆乳女を全力で追う。


 かなり見目麗しいようだ、そして走る速さは人間のそれではない、もしかするとこの女も、この気持ち悪い連中の仲間、何かを操作された『いろんな人族』の1人なのかも知れない。


 いや、それを考えればまず思い浮かぶのは奴、頭にスネークパンチパーマが乗っかったメデュー様だ。

 生まれつきああだとは思わないし、それでいて『人族』であるなど考えられないのである。


 これはかなり闇が深そうな感じだぞ、ここの連中は皆、いや一般のモブを除いてだが、人としての形態を保つことが出来ないほどの措置をされている、その可能性が出てきたな……



「よしっ、そろそろ追い付くぞっ!」


「イヤイヤッ、ちょっと置いて行かないでっ! 私も抱えて行ってっ!」


「ちょっと無理だから必死で走れ、ほら、足にヒルみたいな人族が群がってんぞ」


「ひぃぃぃっ! あっち行ってぇぇぇっ!」


「情けない奴だなマーサは……と、おい爆乳女! 完全に追い詰めたぞっ!」


「クッ、脱出経路を確認していなかったとは、これは私の落ち度ですね、で、何の用でしょうか? 強盗とか山賊の類でしたらお引き取り願いますが、そうではなさそうですね」


「おう、俺達は正義の味方、勇者、英雄、POLICEの連合パーティーだ、森の奥にある『最初のリンゴ』に頼まれてな、『鉄火巻き』とやらでそれを滅ぼさんと画策しているお前等を討伐しに来たんだ」


「そういうことでしたか……では戦わざるを得ませんね、この陣に存在している全兵力をもって」



 L字型になった何らかの施設、それから海岸、俺によってその囲まれた場所に追い詰められた爆乳女は、少し焦った表情ではあるが、パニックに陥ったりすることはないようだ。


 まぁ、他の雑魚キャラと比べると明らかに強い、というか人間の範疇など大幅にブレイクしてしまっているこの女だが、ここで余裕を持てる程度の強さではないことぐらい、本人にもわかっているはずだ。


 俺の力であれば、サリナを抱えた状態で、足の小指1本だけを用いてこの世から消滅させることが可能な実力差。

 もちろん相手が相手なのでそのようなことはしないが、とにかく痛い目に遭わせることとしよう。



「……戦うつもりということで良いんだな? じゃあまずどこから攻撃して欲しい? その自慢げなおっぱいか?」


「貴様! セクハラですよっ! というか戦うのは私ではありません」


「じゃあ何か? メデュー様とやらを呼び戻して戦わせるのか?」


「メデュー様にそのようなことをさせるはずがないでしょうっ! 戦うのは私でもメデュー様でもなく、この陣内に居る『いろんな人族』の連中ですっ!」


「それって……後ろで焼き払われているのがそうか? もう当初の10分の1ぐらいの数だぞ」


「あぁぁぁっ⁉ せっかくの『カマ人族』、『ヒル人族』、『ハンマーヘッド人族』がぁぁぁっ!」


「何か最後の奴だけ強そうだな……」


「ご主人様、それきっと頭が金槌の奴です、バランス崩して転んで死んでいましたよ」


「何だよ、めっちゃ雑魚じゃねぇか」



 カマ人族というのはあのカマキリみたいな腕の奴なのであろう、そういえばオカマらしい化粧をしていたな、喋ってはいないがきっとオカマなのであろう。


 あとヒル人族というのはきっと、あのユリナのケツを吸ったエッチなバケモノのことだ。

 アレは『吸血』していたのではなく、単に『ケツに吸い付きたかっただけ』の変質者であったのだな。


 で、先程よりもかなり焦った様子を見せている爆乳女、見れば見るほどに美人だな、捕まえて連れ回すとしよう。

 で、その爆乳女、駒を失ったうえで、さらにメデュー様を守るためには、自ら戦闘をするしか……そうでもないのか。



「くぅぅぅっ、こうなったら仕方ありません、背に腹は変えられないとか言いますから、鉄火巻きを持たせて『最初のリンゴ』を殲滅させるはずだった部隊を出しますっ! 誰かっ、誰か手伝いなさいっ!」


「何をするつもりなんだろうな?」


「さぁ? また何か変なのを出すんじゃないでしょうか?」


「イヤねぇ、またキモいのが出て来るわけね……」



 爆乳女が叫ぶと、暗闇の中からスッと出現するモブキャラ、それもかなりの数である。

 そのモブキャラが俺達の周りを取り囲むと、爆乳女はすぐに威勢のよさを取り戻した。


 どうやら今から『何か』がここへ呼ばれて来るらしい、念のためサリナを降ろし、どんな強敵が出現しても大丈夫な態勢を整えておくこととしよう……

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