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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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757 石のように

「ここ、ちょっと獣道みたいになってますっ!」


「ほう、奴等が歩いて来た道だろうな、間違いなく海岸の方へ繋がっているぞ」


「……ではここを抜けて行くべきかね、最短ルートだろうし、この感じなら見られる心配もない」



 用済みとなり、皆殺しにしてやったチンピラモブ野郎共が切り開いたと思しき獣道。

 なかなか良い仕事をしやがるが、どうせならもう少し広く、通り易いものをして欲しかった。


 まぁ文句も言っていられないのでこの獣道を使う他ないのだが、念のためマップを用い、これがどのようにして海岸沿いへ接続されるのかということを、俺ではなくセラが必死で調べる。



「え~っと、こっち向きで、たぶんまっすぐ続いているのよね、そうすると……ここね、何か敵が結構大きい建物を建ててあった場所、その裏側に出るわ」


「ふむ、そこなら発見され辛そうで都合が……いや待てよ、その建物、どう考えても犯罪組織の連中じゃなくて、制圧された元々の住民が押し込まれている感じだろう?」


「そうね、たぶんそんな感じだわ、だから獣道を出た瞬間にドカーンッてのはちょっと無理ってこと」


「じゃあ地道に歩いて海沿いに出て、そこからは地道に敵を討伐していくしかない感じですね」


「そうだな、でもその、アレだ、メデューサ的な奴を見つけて倒せればそこでお終いなんだ」


「しかし主殿、そのボス敵から先にこちらを発見されたら拙いぞ、かなり良くあるパターンだが、やはり見られるだけで石のように固まってしまうのであろう?」


「う~む、でも本当の石になっているわけじゃないんだよな、そこが気掛かりで……」



 敵の攻撃の正体は、今のところサリナにも、そして精霊様にもわからないという。

 もちろんそれは実際ニッ使った瞬間を見ていないためであって、発動する様子を見ればまた話は変わってくるのだが。


 まぁ、その瞬間を見るべきだといっても、敵に攻撃を発動させるということは、即ち俺達のうち誰かがそれを喰らう瞬間であるということであって、可能であればそれは避けたいと思う。


 それでも喰らうときはどうせ喰らうのだが、もしそうなるとしたら……フォン警部補には犠牲になって頂くこととなる、あとは新キジマ―か。


 で、『喰らう係』として、次点では俺と紋々太郎がくるわけだが、あまりエッチな攻撃ではないため他のメンバーをそこに充てることは出来ない。


 そんな感じで、野郎の仲間4人の中で誰かが犠牲となり、その間にサリナや精霊様が術式の正体を見極め、反撃のための情報とするのだ……



「ふむふむ……うん、もう大丈夫よ、どこもおかしなところはないわ」


「本当だろうなセラ? もしやっぱり違くて……みたいなことになったら敵の大軍勢の前でお仕置きだぞ」


「大丈夫よ、そもそも公開お仕置きなんて望むところだし」


「非常に心配だ、まぁ、でも大丈夫だと信じるしかなさそうだな」


「……うむ、では進むこととしようか」



 英雄パーティーの2人を先頭に、その後ろを俺とフォン警部補、あとはキッチリいつもの隊列で並び、狭い獣道を進んで行く。


 敵の類は存在せず、またトラップも設置されていないため、このルートに関しては比較的安全のようだな。

 おそらくは俺達のような連中が、ここを通って、いやそもそも襲撃を受けるとは思っていないのであろう。


 敵が自分達の敵だと認識しているのは『最初のリンゴ』であり、それとの戦いに向けて準備を進めている最中。

 主に火属性のマグロをどうこうして、『鉄火巻き』なる謎の兵器を作成しているのだから……



「そろそろ見えてきそうだな、海の臭いが漂って来たぞ」


「マジだ、この磯の香り、海鮮バーベキューをしたくなるな……」


「勇者殿、海鮮バーベキューの前にまずは敵をバーベキューにしないとだぞ、もちろん生きたままな、その後にその場で海鮮にすれば良い」


「それめっちゃ食欲滅するやつだかんね」


「……視界が開けるようだ、用心したまえ」


『うぃ~っ』



 イマイチやる気のない感じで返事をしたのだが、その実気合十分である、そこからほんの少し進んだ先に見えてきたのは、広大な海……ではなく巨大な建物の裏側であった。


 非常に見通しが悪いうえに、その建物の全ての窓に鉄格子が嵌っている辺り、やはり住民を押し込んでおくための施設なのであろう。


 出入口は反対側のようであってこちらからは見えないのだが、きっと強制労働をさせられている住民らは毎日その出入口から出て、夜にはそこから戻されているに違いない。


 そしてそんな施設の裏側には、地面を掘り返し、埋め直したような状態の箇所が複数。

 この感じは『死体が埋まっています』の感じだな、おそらくは殺された住民……と、誰か来やがったではないか……



「何でしょう? 5人ぐらいこっちへ来ます」


「歩いているのは5人ね、あと音的に2人、何か担がれているみたいな感じ、暴れてはいないから死んでいるのかしら?」


「どうだろう、いや、もしかすると……」



 結論から言うとその『もしかすると』が正解であった、運んでいるのは明らかな犯罪組織の構成員、そして運ばれているのはどこからどう見ても善良な現地住民。


 そしてその現地住民は確かに生存しているのだが、全くの直立不動で、冷凍にされたマグロのようにピンッと伸びたまま動かない。


 その頭と足を持った敵キャラがそれぞれに2匹ずつ、そしてひと回り大きい、群れのリーダーと思しき雑魚キャラが、監督員のような雰囲気を出しながら後ろを付いて来ている。


 しかし運ばれている2人、つい先程のオークと違って表情を見ることが出来るのだが、かなりの恐怖を感じている顔だな。


 そのまま固まって動かすことが出来ないようだが、これは相当に恐ろしい何かを目の当たりにして、その瞬間に固まってしまったということに違いない。


 で、そうなると敵の親玉であるメデュー様というのは……かなりのキモ顔か、それか他の部分で恐ろしいスタイルの何かなのであろう。


 まぁ、実際にそうと決まったわけではないため、早とちりで危険な攻撃をしてしまった、などという結末を迎えるわけにはいかないことからも慎重に動かなくてはならないのだが。


 敵の親玉、おそらく女性であるそのメデュー様にはあまり期待しないでおく、その方が良さそうな感じだ。



「……それで、奴等はあの犠牲者をどうするつもりなのか、わかるかね?」


「う~ん、まぁ殺してしまうってのは間違いないでしょうが……おっと、地面に置きましたね、そのまま埋めるのかな?」


「何だか掘っているし、まぁそういうこと……と思ったら首だけ出して埋めたわね、フグの毒にでも中ったみたい」


「確かにな、でもまぁ処刑であって、フグ毒の治療ってわけじゃないと思うんだがな」


「勇者様、もう少し近付いてみなませんか? 出来ればマーサちゃんとかが声を拾えるぐらいに」


「おう、そうするのもアリだな、じゃあ前の4人でマーサをガードしながら行こう、あまり大人数で行っても仕方ないからな」



 施設の裏で何かを始めた犯罪者共、それが何をしているのか、連れて来られた善良なおっさん2人をどうするつもりなのかを探り当てるため、俺と紋々太郎、新キジマ―にフォン警部補の4人は、聴力最大のマーサを囲んで前に出る。


 もし存在がバレ、薄汚い攻撃をされたら俺達が守るつもりだ、ああいう敵は通常攻撃ではなく、自分のウ〇コを投げてくるなどのサル的な手法でこちらにダメージを与えようとするはずだからな。


 そしてそんなモノがマーサに向かって飛んで来るなどあってはならないこと、俺達野郎チームの4人は、たとえ自分が死に至るとしても、敵の不潔攻撃をマーサに届かせるわけにはいかないのである。



「……うんっ、ここなら聞こえるからちょっと静かにしていてね」


「おう、じゃあ頼んだ」


「えっと、何か話しているわ……え~、この2匹はどうするんだって、ボスに、たぶんメデュー様って奴のことね、それに頼んで術を解いて貰おうって」


「あの状態で術なんて解いてどうするつもりなんだろうな?」


「まって、それも話すみたい、ゲラゲラ笑いながら……術を解いて……大騒ぎするのを見ようって、それで夜になったら適当に血を出させて……魔物とかをおびき寄せるんだって」


「なるほどな、さっき雑魚キャラ共に喰われていたオークはそうやって捕獲したものなのかな、あの2人はそれをおびき寄せる餌ということだ」


「……勇者君、つまり奴等、あの2人を夜まで殺すつもりがないということだね」


「そういうことっすね、しかもメデュー様がここへ来て、2人のあの状態を解除するってことで……まぁ普通に最大のチャンスでしょ」


「勇者殿、一応おびき寄せられた魔物を捕えるために、そのメデュー様ってのが近くで張り込むことになるはずだ、だから簡単にはここを出てあの2人を救助するってことが出来ないぞ」


「まぁ、それもあるが、どちらかというと救助よりもメデュー様の始末を優先しよう、あの2人を助けることが出来るかどうかはそのときの余裕次第だ」


「……残念ながらそういうことになってしまいそうだね、とにかくこのまま待とう、メデュー様とやらはすぐにここへ来るようだ」



 念のため後ろの仲間達に合図を出し、まだ戻らないということだけを伝えておく。

 見張りを残した犯罪者共がその場を立ち去っておよそ10分、そろそろ敵のボスである、メデュー様がお出ましとなりそうだ……



 ※※※



「……ん、足音、さっきとは違う奴が混じっているし、今度は誰も運んでいないみたい」


「となると来たってことかな、よし、引き続き盗聴の方をよろしく頼むぞ、こっちは姿の確認だ」


「盗聴って、もっとちゃんとした言い方にしてよね……」



 ぶつくさとうるさいマーサはスルーし、そのまま茂みに隠れて敵の到着を待つ。

 そして施設の影から現れたのは先程の雑魚キャラ、そして……頭に巨大なパンチパーマが乗っかり、顔の見えない……女だな……


 体型からして女であることはほぼ確定、というかあんなおっぱいの男が居てなるものかといったところ。

 ただし本当に顔が見えない、パンチパーマどころか、黒い綿菓子が頭の上に乗っかっているかの如くだ。


 そしてそのパンチパーマ女の頭……いや、何やら蠢いているようなのだが? もしかしてあのパーマ、髪の毛ではなく絡み合った無数のヘビ、本当にミミズぐらいの太さのヘビが大集結したものなのか?



「何よあの人気持ち悪いわね、頭凄いことになってんじゃないの」


「アレは魔族……なのか?」


「そんなわけないじゃないの、あんな気持ち悪い魔族、この世界には存在しないわよ」


「いや、そこそこな奴に何度も遭遇しているような気がするんだが……まぁ良い、何か話し始めるようだから盗聴してくれ」


「だから盗聴って言わないでよっ……っと、えっとね、これが本日の生餌か? みたいな感じで、ボソボソ話していて聞き取り辛いわね」



 ウサ耳を必死で傾け、どうにかしてメデュー様の声を拾おうとするマーサ、俺にはわからないが、その声がかなり小さいことは、部下の雑魚キャラ共が時折見せる『はぁ?』という聞き返すようなジェスチャーからも確認出来る。


 しかしこのメデュー様、犯罪組織の他のボスキャラと違い、そこまで威張り散らしているようではないのかも知れない、というかそういうように見える。


 通常、指示を理解していない、しっかり聞いていない、さらには聞き返してくるような失礼な下っ端については、その場で処刑され、この世から退場するのが常なのだ。


 しかしメデュー様にはそのような兆候がなく、逆に聞き返されたときには身振り手振り、必死になって自分の考えを相手に伝えようと努力している動きが見える、本当は良い奴なのかも知れないな……



「……え~っ、では今から術を解くから、そこで罵倒されたりするとイヤなんで黙らせるようにして欲しいって、それで雑魚キャラの方が……了解っす、みたいなことを言っているわ」


「なるほどな、それで今猿轡を噛ませて……2人の顔を見たな……急に動き出したぞっ!」



 顔の見えないメデュー様が、地面から首だけ生える形で埋められた2人をチラッと見たところ、石のように固まっていた体が途端に動き出す、まるで瞬間解凍でもされたかのようだ。


 というかメデュー様、下はスカートのような比較的短い衣服を身に着けているように見えるな、もしかするとあの埋められた2人からは、その下に装備しているパンツが見えていたのかも知れない。


 それはまぁ放っておいて、ここから連中がどういう動きをするのか見極め……と、ここで予想と違うことが起こったではないか……



「……あのパンチパーマの女、そそくさと帰って行ってしまったようだが?」


「えっとね、あのね、埋まっている2人に睨まれたもうイヤみたいなことを言っていたわ、夜になったらまた来るって、あ、子分も皆帰って行っちゃうわね」


「まさかの見張りナシか、こりゃ好都合だな、ちょっと下へ降りてみよう、埋められている2人も、この状態なら普通に話が出来そうだからな」



 ということでここからは俺とマーサの2人、近くに敵の姿がないことを念入りに確認し、前に出ていた5人の集団からさらに抜け出して斜面を下る。


 音もなく茂みから出て、それから地面に突き出ている2つの頭の下へと……こちらに気が付いたようだ、騒ごうとしたのをジェスチャーで制止し、その意図が伝わったのを確認してさらに接近して行く……



「どうも~っ、異世界勇者と申します~っ、お宅らアレでしょ? オークとかをおびき寄せるための生き餌でしょ? 大変ですね~っ」


「いっ、良いから助けてくれっ」

「そうだ、誰だか知らんが、このままだと夜には……」


「魔物の餌ってことね、ご愁傷様」

「うむ、残念なことだが、ここでお前等を救助することは出来ない、敵にこちらの存在をバラすことに繋がるからな」


「そんなっ⁉ じゃあ何のためにここへ?」


「敵がどんな感じの連中で、あのメデュー様ってのが何者なのかを探るためだ、あとお前等が必死で助かろうともがいているのがちょっと面白い」


「何て奴だ……」


「何て奴って、勇者様です、めっちゃ偉いんでよろしく」

「ウサギ魔族のマーサちゃんです、よろしく、ちなみに情報をくれたらさ、あの蛇頭の人をやっつけるついでに助けてあげるわよ、むしろ本当はそのつもりで来たの」


「ほっ、本当なのかっ?」



 もう少し小馬鹿にして遊ぶつもりであったのだが、マーサが本当のことを言ってしまったのでここで諦める。

 まぁ時間もないし、確実に助けてやるとまでは言っていないため、この2人の命について責任を負うことはない。


 で、助かると思ったら途端にベラベラと喋り出す善良な犠牲者の2人……この辺りはもうその辺のチンピラと変わらないな、名前すら与えられていないモブのムーブなど、敵であれ見方であれ大差ないということか。


 そしてそんな雑魚キャラの2人が話すには、やはりメデュー様と呼ばれているあの女、アレに見つめられると、体が全く動かなくなってしまう、しかも倒れるとかではなく、直立不動の状態になることが確定なのだという。


 しかし、やはり『石になってしまう』というわけではなく、単に『石のように動かなくなる』というだけのものらしい。


 こうなってくると『メデュー様メデューサ疑惑』というものが真である可能性が少し低くなってくるな、本人が否定し、そう指摘されると怒り出すというのも相俟ってのことだが。



「それで、あのメデュー様についてだ、どうもそんなにキツい性格じゃないように思えるんだが?」


「確かにそうだ、部下のモヒカンだの何だのはとても恐ろしいが、メデュー様と呼ばれている女はかなり大人しい性格だ」

「でも力が凄いんだよ、あの術式を喰らったら何者であっても動くことが出来ない、つまり奴を倒すこと何d手出来やしないんだ」


「なるほどな、それで、というかまぁチンピラの三下共が凶暴ってのもあるが、メデュー様とやらの能力を見て、誰も反撃する気にはなれないって感じなんだな?」


「あぁ、奴は恐ろしい、こちらが奴を見ていなくとも、奴がこちらを固まらせる意図で見ていたらその場でお終いなんだ」

「最初、この集落にも戦える、それこそ屈強な海の男がわんさか居たんだ……それなのに……奴にちょっと見られただけで動くことが出来ず、そのまま殺されちまったんだよ……」


「へぇ~っ、それは大変だったわね」



 その後も2人から話を聞き、おおよそのことは把握することが出来た、メデュー様という女は凄い力を持つものの性格としては大人しく、その分は凶暴な部下によって補足されている。


 そして俺達の後方、茂みの中のさらに後ろに隠れたままの仲間達の所からも、先程出現したメデュー様が術を使った、というよりも解除した瞬間というのはみえていたはず。


 となればそれがどんな属性のものであるのか、詳しくとまではいかないが、おおよその見当が付いているかも知れない。


 どうせ奴がもう一度姿を現すのは夜、このかわいそうな2人が餌として魔物をおびき寄せるタイミングだ。

 それまでにある程度の作戦会議を済ませ、可能な限りスムーズに勝利を得る方法を編み出そう……



「それじゃ、俺達は一度茂みの中に戻るから、言っておくが敵に情報を漏らすんじゃねぇぞ、そしたら俺達がお前等を殺すことになるからなっ!」


「そうだっ、なるからなっ!」


「待ってくれ、置いて行かないでくれっ!」


「静かにしていろ、本当に何も喋るな、この後は夜まで、ただ魔物に喰われるのを待つだけの残念なおっさんに徹するんだ、わかったな?」


「・・・・・・・・・・」



 まぁ、この2人は敵にとっても必要なもの、貴重な食料を得るための重要な餌だ。

 それを滅多なことで殺したり、拷問したりはしないであろう、そう予測しておく。


 とにかく夜を待ち、再び出現したあの蛇のパンチパーマを取り払い、その下にある奴の顔を拝んでやるのだ……

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