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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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756 睨み

「見えてきたぞ、凄い船の数だ」


「1……2……沢山! 船の数は沢山ね、私が保証するわ」


「偉いわマーサちゃん、ちゃんと数えられたのねっ!」


「ふふんっ、これぐらい楽勝よっ」



 どんなもんだい、という顔をしているマーサ、頭が悪いのはもはや言うまでもない。

 それを真剣に褒めているマリエルにも問題がありそうだが、ここでとやかく言うのはやめておこう。


 しかし敵の数は本当に凄いな、遠くに見えているのは船だけで50隻以上、さらには良くわからない地上タイプと思しき乗り物にそれらの建造中のものと。


 これは思っていたよりも敵の人数が多いということだな、リンゴの森で討たれた連中の残党だと聞いていたため、てっきり数百程度の小規模な集団だとばかり思っていた。


 だが本来は数千、いや万に届くのではないかという次元の大部隊であったのだ。

 これはもう、遠巻きから魔法攻撃で殲滅……いや、どうも人質の類が存在しているようだな。


 見えているのは敵らしき集団とその有する船や兵器だけでなく、当初からそこにあったと思しき家々、さらには通常の、善良な人々が所有している漁船に見えるものもある。


 これは迂闊に攻撃など出来ないな、俺達だけであれば知らない振りをしてまとめて、ということも可能だが、この船には島国の英雄様も乗っているため、そのような行為に走るわけにはいかない。


 というか、その人質的現地住民の中に可愛い女の子が居たとしたら大変なことだ、もし死なせてしまえば人類の損失、そこらをウロウロしている汚いおっさんを殺すのとはわけが違うのだ。



「……それで勇者君、これからどうするのかね? 無差別攻撃はかなり危うい感じだがね」


「そうっすね、奇襲を掛けるにしてもこの空駆ける船じゃ目立ちすぎるし、ちょっと上手い方法を考えないと」


「じゃあ勇者様、とりあえず降りて森を進むことにしない? どうあってもこのままこれ以上バレずに接近するってのは無理があるわよ」


「げぇ~っ、また歩くのかよ、しかも今度はリンゴさえない普通の森とは、面倒なだけで何のメリットもないな」


「ガタガタ言わないの、ほら、もう降りるから準備しなさい」


「め~んどくせ~っ」



 イマイチやる気がないのは俺とルビア、あとフォン警部補は逃走を図ろうとしたが、その辺のスタッフに発見されて連れ戻されていた。


 念のため船の安全を、船室内に隠れて滞在している女神と12天使、それから居残りをする気満々のエリナに依頼しておいたのだが、まぁ大丈夫であろう。


 俺達はとにかく船を降りて、大変不本意なことではあるのだが、徒歩にて敵陣を目指すことが確定した。

 空駆ける船は森の開けた場所を探して着陸させ、武装と、それから食糧を持参したうえで船を降りる。


 鬱蒼と茂る森だ、所々にリンゴ、もちろん管理されたものではなく、逸れた野生のリンゴの木があるのだが、『最初のリンゴ』によって管理されていない地域のはずなので味には期待出来ない。



「スンスン……向こうの方から何か良い匂いがします、魔物……の肉が焼かれているのかもです」


「ふ~ん、誰か住んでんのかな、いやこんな森の中に? ちょっと気になるから行ってみようぜ」


「……もしかしたら敵かも知れないね、勇者君、一応警戒しつつ進もうか」


「国際指名手配犯……だと最高なんだがな」


「フォン警部補、あんたが獲って塩漬けにした敵の首、何か呪いとか恐いからこれ以上増やさないで欲しいんだけどな」


「何を言うか勇者殿、この遠征は俺の出世のための遠征でもあるのだ、どうあっても二階級上に進めるだけの手柄をゲットするのだ」


「普通に殉職すれば二階級ぐらい余裕だろうに」


「そういうのはナシで……と、ここからは静かにした方が良さそうだな……」



 俺にも何かが焼ける匂いがわかるようになってきた、料理なのか否かは別として、火を使っているということは知的生命体がその場所に居るということ。


 そしてその知的生命体が敵なのか味方なのかということについては……まぁ姿が目視にて確認出来てから判断することとしよう。


 見た目で明らかに『敵』とか『悪者』とかであれば、問答無用で殺害して食糧と金銭的価値のあるモノを全て奪うとして、そうでなければとりあえず話し掛けて、態度が悪いようであれば敵であった場合に準じて行動するのだ。


 そういう取り決めをしたわけではないが、おそらくどうするべきかということについては全員わかっている、同じ考えであろう。


 ということで普通に黙って匂いのする方へと進む、次第に強くなるその何かが焼ける……スパイスのようなものも混じっているな、調理をしているのは完全に人族、場合によっては魔族か……



「あっ、見えてきました、煙が上がって……オークが居ますよ、立ってます」


「ん? オークが立っているって、本当かリリィ? 単なるデブとかじゃなくてガチオークなのか?」


「絶対にそうです、でも血が出て腕とかどっか行っちゃってますね、あっ! 何か近くの人族っぽいのに斬られましたっ!」


「意味がわからんな、とりあえずちょっとだけ近付いてみようか」



 要領を得ないリリィの解説、目が良いのは結構だが、余計な謎を持ち出すのは勘弁して欲しい。

 まぁ、もう少し接近すれば、俺達にでもその様子を確認することが出来るため、それに関して問題は生じないのだが。


 で、歩いて行った先で俺達が見たものとは……なるほど、確かにオークが立っている、しかも傷だらけの奴、怪我の具合的におそらく先程リリィが見たのとは別の個体だが、とにかくそいつは満身創痍。


 そしてその横には無傷のオークが2体、特に何もするわけでもなく、もちろん隣の傷付いた個体を助けることなどせず、何事も起こっていないかのようにボーッと突っ立っている。


 さらにその奥には焚火があり、その焚火を囲んでいるのは明らかに人族の連中……アレはどう考えても『敵キャラ』であるな、モヒカンだのスキンヘッドだの、今にもヒャッハーしそうな連中だ。


 しかしどういう状況なのだ? モヒカン共が楽しそうに焼いているのはオークの腕、しかも既にこんがりと焼き上がったオークの肉、隣に転がるのは肉を削がれたオークの死体。


 この状況でどうして周りのオークが何もしないのだ? 逃げるなりモヒカン共を殺害するなり、そういった行動を取るのが通常の生物であろう。


 それをしないということは何かの術にやられて……いや、あんなチンピラ紛いの連中にその強力な術式が使えるわけがないし、使えるのであればそもそも腐ったチンピラなどには成り下がっていないはず。


 いやはや、そんなどう考えてもオークにとっては『ワンパン余裕の雑魚キャラ』であるにも拘らず、何もしないでただ殺されるのを待っているだけとは。


 と、ここで傷だらけのオークに対し、チンピラモブ野郎の1匹が、ザクッと短剣を突き刺したではないか。


 腹に刺したものの、チンピラの力が弱すぎてあまり深手は負っていない様子だ、反対を向いているのでやられた側の表情は見えないが、おそらく普通に痛い顔をしている、その程度のダメージであろう。



「何だこの状況は? サリナ、或いは精霊様、一体どういうことなのか解説してくれないか?」


「幻術でも何でもありませんね、どうやら金縛りみたいに体が硬直しているようです」


「ええ、ヘビに睨まれたカエル、そんな感じの動けなさよ、今斬られているあのオークだって本心では超ビビッているの、でも逃げ出せないのよね」


「おいおい、ヘビに睨まれた何とやらだってんならさ、普通立場が逆なんじゃないのか? あんなチンピラなんぞ、雑魚とはいえ魔物であるオークの力の前ではカエル同然だろうに」


「そこがおかしなところなんですよね、まぁ、睨んだヘビはあのチンピラの人達じゃなくて、もっと別に居るんだとは思いますけど……」



 そうは言っても周りに他の人物の気配はなく、外に出ている数を数えるのも面倒な、とにかく沢山の雑魚モブと俺達のみが存在しているこの場。


 もしオークを睨み、動きを取れなくしたヘビ的な存在があるとしたら、それはここではなくどこか別の場所。

 元はここに居て移動してしまったのか、それとも最初からここには居なかったのか、それについてはわかりかねるが。


 と、そう考えている間に先程から斬られていたオークがバタンッと倒れる、最後の一撃を加えた頭の悪そうなスキンヘッド野郎が、まるで激戦の末にそれを討伐したかの如く大喜びしている。


 というか、どうも普通に倒したつもりでいるようだな、相手は全く身動きが取れない状態だというのに、本当に卑劣な手法を使う連中のようだ。


 もっとも、この場でこのゴミカス共を全て殺害した後には、別に用があるわけでもないオークの方もこの世からご退場願うわけであって、俺達がそれを助けてやるなどということは一切ない。


 まぁ、とにかくこの場に居る敵が何かおかしな術を使っているわけではないことが確定しているのだし、一応警戒しつつ皆殺し作戦を開始するとしよう……



「よっしゃ、とりあえず敵の数は……沢山だな、周囲の破壊がないよう、物理攻撃主体で地道に殺していこう」


「……まずはこのハジキで初撃を加えるよ、ここからでも狙えるし、1匹か2匹ぐらいは殺せるはずだからね」


「わかったっす、じゃあ俺達が十分に接近した辺りで攻撃を、そしたらこっちは一気に走ってそのままあれこれするんで」


「……うむ、では始めようか」



 ちなみに攻撃の要となるのは俺らしい、ここはフォン警部補が前に出ると思ったのだが、パッと見で凶悪な指名手配犯、つまり大物が居る可能性が極めて低いと察したのか、イマイチやる気を出していないようだ。


 他のメンバー達は焼かれているオークの肉に興味を示していたり、或いは汚いゴミ野朗を殺害する際に武器や手などが汚れてしまうのを嫌っているため、こちらも積極的に前へ出ようとしない。


 いつもであればミラとジェシカ、そしてマリエルが率先して敵を斬り払ってくれるのだが……まぁこの先が地形の知れていない森を行軍する予定であること、そのためしばらくは温かい湯で体や武器を流したり出来ないことが起因しているのであろう。


 もっとも、敵を倒すのが目的な者で先頭に立っているのは俺であっても、なぜかカレンとリリィがその前に陣取ってしまっているのだが……



「じゃあご主人様、私とリリィちゃんで真っ先にあの焼いているオークのお肉を始末します、焦げたりする前に」


「カレンちゃん、武器でプスッと刺してみて、透明な肉汁が出たら食べ頃で……」


「お前等食べたいだけだろ、リリィとかもうストレートに白状してんじゃねぇか、まぁ良いや、行くぞっ!」



 可能な限りバレぬように接近し、なるべく敵が散るのを防ぐ、というか散り散りになって逃げ出すのを防止する作戦である。


 もちろんどこのどいつがやったのかはわからないが、『ヘビに睨まれたカエル術式』には十分な警戒をしつつ、薄暗い森の茂みの中をカサカサと移動していく。


 ある程度まで接近し、そこで一旦振り返る、後ろで待機している紋々太郎が黙って頷き、それと同時に精霊様、新キジマーが地面を蹴って飛び立つ。


 直後、ヒューンッというような風切り音が複数、しゃがんだままの俺の頭上を通過していった……



『ギャッ!』

『おうどうした? 火の粉でも飛んで……しっ、死んでるっ!?』 

『何だって? うわっ! おーいっ! モブ①が頭から地を流して……ハゲポッ!』

『モブ②も死んだぁぁぁっ!』

『ヤバいぞっ! どこかから攻撃されて……へっ?』


「うぉぉぉっ! カチコミじゃぁぁぁっ!」

「お肉っ! お肉は頂きですっ!」

「ブスッと、うん、良く焼けてますっ!」


『ぎゃぁぁぁっ! 何か知らん奴等が俺達の食糧と……はがっ……命を奪いに来た……ガクッ』


「オラァァァッ! 皆殺し……じゃなかった情報ゲット用の1匹か2匹ぐらいだけ残してあとは殺しじゃぁぁぁっ!」


『ギョェェェッ!』



 突撃し、主に俺が中心となって雑魚キャラ共を処断していく、とんでもない雑魚だが数は多い。

 で、もちろん逃げ出す奴もかなり居るのだが、それらについては紋々太郎がキッチリ狙撃して仕留めている。


 他には効力な魔法攻撃を使わず、突っ立ったままのオークも殺すことなく殲滅作戦を進め……と、3分程度で終わってしまった、生き残った雑魚は俺の目の前に居る3匹のみ。


 ここからは情報収集の時間だ、ここで何をしていたのか、そもそもこの連中が何の集まりであったのか、そして何よりも、『ヘビに睨まれたカエル術式』の使い手は何者なのかということを教えて頂こう……



 ※※※



「フギョォォォッ! アヅイアヅイアヅイアヅイアヅイィィィッ!」


「ギャハハハッ! どうだ、顔面火炙りの刑はよく効くだろうっ、ん?」


「殺して……もう殺してくれ……」

「なぁあんた達、一体俺等が何をしたっていうんだ?」


「いや、もう見た感じ西方新大陸から来た犯罪者だろうに、何をしたかとか関係なく、この世界に存在していること自体が罪なんだよお前等のようなゴミは、オラッ!」


「ごべっ……そ……そんな……」



 とりあえず生き残らせた3匹には、あのまま殺されておけばどんなに楽であったかと後悔するような責め苦を提供しておいてやる。


 もちろん突っ立ったままのオークは放置、焼かれている途中であった肉は全てカレンとリリィが平らげたため……というかこの2人、どうして生きている『食材』が横に居る状態でその肉を喰らうことが出来るのだ?


 いやまぁ、俺の感覚で言う『活け作り』みたいなものなのであろうか、食性が変われば変わったで、魚ではなく肉であってもそういう食べ方で……うむ、さすがに理解出来ないな。


 で、それはともかくとして、ゴミ野朗3匹をうっかり殺してしまう前に、必要となる情報を獲得しておくこととしよう。


 まずは適当に火で炙り、回復し難い大火傷を負った瀕死の1匹にインタビューしてみようか、まだ喋ることが可能なようだが、そのうちにひっそりと息を引き取ってしまいそうな感じのこの馬鹿そうなスキンヘッド野郎……いやモヒカンが燃え尽きただけか、とにかくコイツに決めた。



「おいこのボケッ! お前だよっ! 聞いてんのかこのハゲ野朗! 死ぬ前に答えて欲しいことがあるんだがな、このオークは何だ? 誰のどんな術式でこういう状態になっているんだ?」


「あぐっ、わ……我等のボスの力で……食糧はだいたいこういう感じになっていて……」


「ボスの力? おいっ! ボスって何だ? ちょっと……チッ、意識がないな、だがコイツは口が軽そうだ、ルビアに回復させようか」


「じゃあ勇者殿、俺が運んでやるから貸してくれ」


「おう頼んだ、じゃあ次は……お前だっ! はいっ、最初に顔面火炙りとなりま~っす」


「ひぎぃぃぃっ!」



 まるで最初に必ず出てくるお通しの如く、実に気軽に行われる致命的な行為、それが顔面火炙りだ。

 この拷問の良い所は、ここで負ったダメージによって確実に死に至るのだが、その死の瞬間がかなり先であるという点。


 それまでは地獄の苦しみと共に、質問に答えればこの場で楽にして貰えるかも知れないという淡い期待を持たせることが出来るし、何よりもしばらくは会話が可能なのも優れたポイントだ。


 で、そんな素晴らしい顔面火炙りを終了し、顔が大変なことになっている『かわいそうなモブ』を引き起こし、先程のモブにしたのと同じ質問をぶつけてみる……



「わ……我等がボスは……」


「ボスは何だ? 早く言わないともうひと炙りいくぞ」


「ボスはメデュー様……メデュー様に睨まれた者は、まるで石にでもなったかのように身動きが取れなくなる……」


「メデュー? そいつはメデューサなのか?」


「……メデューサではない……メデュー様だ、メデューサって呼ぶとめっちゃ怒る」


「知るかボケそんなもん、で、そいつが居るのは……まぁあっちの海の方だよな?」


「そう……だ、そして……」



 顔面が丸焦げになったまま良く喋るモブ野郎、もしかしたらこのまま治療を受けることが出来、命を助けて貰えるとでも思っているのかも知れない。


 まぁ、もちろん回復はしてやっても良いが、それは『より一層苦しむ時間を延ばすため』の処置であり、命を助けるためでは断じてないのだが。


 とはいえ勘違いしていると思しきこの状況の方がこちらにとって有利だ、このままはなしを続けさせることとしよう……



「……わ、我等はこの森の中で、この近海で取れるマグロと同様……火の属性を……持った植物……を」


「採集しに着たんだな? で、そういうのは見つかったのか?」


「まだだ、だが……この近くに自生地があることが……判明……している」


「勇者様、この連中の持ち物の中にこんなマップがありました、『炎の植物探索者必携』だそうです」


「ふ~ん、まぁ、それは気が向いたら後で探そうぜ、最初の目的はこいつらのボスのメデューサだ」


「め……メデュー様だ……そこで間違われると……後で俺達が怒られる……」


「うるせぇボケ、良いじゃないかお前なんか今から死ぬんだから、苦しみ悶えながら、至極無様にな、情けない命乞いにも期待しているぞ、せいぜい俺達を笑わせてくれ」


「そ、そんなぁ~っ」



 ということで謎は解けた、そのメデューサだかメデュー様だか知らないがとにかくこの連中のボスがオークをこのような状態に……と、オークが消えたと思ったら既に解体されていた。


 で、とにかくそいつはこの先の海、空駆ける船から見えていた敵の大集団のど真ん中に居ることが確定。

 どういう感じで技を使ってくるのかはわからないが、どうせ頭がヘビになっていて、それで云々ということなのであろう。


 しかしメデューサか……もしかすると可愛い女の子であるという可能性が……実際のところはどうなのであろうか?


 まぁ、何にせよそいつをどうこうすることが『最初のリンゴ』との契約であるのだ、普通に押しかけて、見た目判断のうえで殺すか活かすかを考えれば良いな……

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