753 聴取
「えっと、ちょっと待って下さいな、そういうのはナシだと思っておりまして……ナシよね?」
「アリに決まってんだろ、俺様は異世界勇者様なんだぞ、もう消滅とかしても秒で元通りだから、無敵だから」
「あとご主人様、この人ナシじゃなくてリンゴです……」
「そ……そんな馬鹿なことが……ガクッ」
わざわざ口で効果音を発しつつ、その場でガクッと崩れ落ちた超リンゴ里長、もはや戦意喪失といった雰囲気だ。
なお、俺以外のここに居る仲間達は未だ術中なのだが、それを利用してどうこうしようという意思はもうないらしい。
しかし恐ろしい技であったな、もし極めて優秀な男である俺が、その契約の終了方法に気付かなかったらどうなっていたことか、俺の機転には皆が真心を込めてありがとうと言うべきである。
で、この後この超リンゴ里長をどう処分していくかの前に、この白骨死体だらけの謎の広場について知っておく必要がありそうなのは明白。
これは犯罪の証拠たり得るどころの騒ぎではなく、信じられない大量虐殺が行われていた戦慄の現場であることをハッキリと示したものであるためだ。
もちろんこれをやった、いや殺ったのが超リンゴ里長『そのもの』ではないのは確実、この女はつい先程までは単なるリンゴであったのだから、このような惨劇を引き起こすための手足が存在しなかったためである。
だがこの女がこの件に深く関与しているということもまた確実、そうでなければ人化と同時におかしな嘘で俺達を騙し、まっすぐこんな場所へ連れて来ることなどないのだから……
「さてと、じゃあまずお前を縛り上げる、大人しくしているんだぞ」
「うぅ……あ、でもちょっと、貴様のような豚野郎に触れられるのはイヤだから、あとそっちのおっさんPOLICEとか英雄とかも、指1本でも触ったら訴訟を提起されると心得よ」
「これはまた随分と態度の大きい、ならルビア、ちょっとエッチな感じで縛ってやれ」
「わかりました~っ」
「あっ、ちょっとっ! それもダメ……ひぃぃぃっ!」
言葉では絶対に表現出来ない程度にはエッチな格好で縛られてしまった超リンゴ里長。
もちろんワンピース風の衣装はたくし上げられているため、リンゴ柄のパンツが丸見えとなっている。
というか、パンツを穿くほどにまで人間に寄せた理由は何なのだ? べつに衣装的な何かだけ身に着けておけば良かったものを……まさか最初からその中を見られることを前提として……さすがにそこまでの変質者ではないか。
とにかく、この状態の超リンゴ里長を拷問し、ここのことについての情報を集めるところから始めていくとしよう。
まず始めは……まぁ、ベタだがくすぐり拷問で良いか、人間ではないため効果があるのかはわからないが……
「ということでだ、精霊様まずはくすぐりの刑を喰らわせてやれ」
「ええ、じゃあ覚悟しなさい」
「あの、ちょっと……」
「さっきから『ちょっと』ばかりねあんたは、語彙力というモノがアレなのかしら? で、ちょっと待ってはあげないわよ、それっ、こちょこちょこちょこちょっ」
「はひぃぃぃっ! キャハハハッ! ひぃっ、ひっ……いきなり……あひぃぃぃっ! くすぐりなんて……まだ何も聞かれて……ひゃぁぁぁっ!」
「これが私達流の拷問なのよ、聞く前に責める、画期的でしょう?」
「そんなぁぁぁっ! ひぃぃぃっ!」
そういえばこの女には伝えていなかったな、勇者パーティーでは質問の前に責めを加えるということを。
これであれば対象が拷問道具にビビってしまい、楽しい拷問タイムの前に色々と白状してしまうことがなくなる。
それはつまり、確実に1回は拷問を加えることが可能ということであり、せっかく準備したものが全く無駄になってしまうこと、そして拷問の対象が苦しむ様を笑って見ることが出来ないという、そんな残念な結果となることがないのも良い点だ。
で、精霊様によって散々にくすぐられた後、グデングデンの状態のまま地面に転がされた超リンゴ里長。
この状況を里の人間に見られたら大変だな、まぁ生きてここまで辿り着く前に、呪いだの負のオーラだのにやられて死亡するであろうが。
さて、ここでそろそろ質問タイムといこう、まずは地面から引き起こし、まっすぐな状態にした後、ジッと相手の目を見て話す……
「良いか? 今はくすぐり拷問ぐらいだけどな、これ以上俺達に迷惑を掛けるようならタダじゃおかないぞ、カンチョーとかするからな」
「ひぃぃぃっ! どうかそれだけはっ! なんでもお答えしますっ! えっと、500年前に始祖勇者だか何だかってのが遺した『白ひげの玉』でしたっけ? それならもうその辺にゴロゴロしていて……違います?」
「まぁそれも違わないが、その辺にゴロゴロしているわけはないだろうよ、ということで罰だ、カンチョーの刑に処す」
「へっ? そんなっ、やめっ……はうぅぅぅっ! こ……こんな馬鹿にカンチョーされるなんて……」
「むっ、反省が足りないようだな、カンチョー5連打だっ!」
「はうっはうっはうっはうっはうぅぅぅっ! まっ、参りましたごめんなさいっ!」
「よろしい、では質問事項を続ける、まずはこの場所についてなんだが……」
最初の事項であり、かなり重要でもあろうこの場所、白骨死体の集積所のようになった広場について、長リンゴ里長に対して質問していく。
明らかに目が泳いでいるし、口笛を吹いて誤魔化そうとしたため、追加のカンチョーを10発、さらには痛そうな鞭を取り出して尻に当て、キッチリと脅迫しておいた。
どうやら知られたら拙いことであったようだが、遂に諦めて喋り出すようだ……まぁ、リンゴの身で鞭打たれたらえらいことになりそうだからな、傷が付いたらそこから腐ってきたりしそうである。
で、肝心のこの場所についての答えはというと……と、意を決したようだな……
「えっと、この場所は古の、といってもせいぜい1,000年前だけど、今はあっちにあるリンゴ農家の集落があった場所で、今は呪いの場所なの」
「何があってそんなことになったんだ? 疫病か? それにしてもこの死体の山は? どう考えても1,000年前のものには見えないんだが?」
「馬鹿は喋らなくて良い……すみません嘘です、だからその鞭を……ひぎぃぃぃっ! いてててっ、えっと、この場所にあった里はリンゴの呪いで滅亡したの、当時の里長だった人族がやらかしたせいで」
「イマイチ話しが掴めないし、あと白骨死体にも言及していないじゃないか……まぁ良い、順に聞いていこう、その人族の里長は何をやらかしたんだ?」
「それはその……リンゴの木に向かって……その……」
「ハッキリしない奴だな、そんなに言うのが困難なことなのか?」
恥ずかしそうに下を向く超リンゴ里長、顎を持ってグイッと面を上げさせると、その顔はリンゴのように真っ赤で……いや、そもそもリンゴなのか。
で、どうやら相当に恥ずかしいことらしいというのはその表情からわかる、口に出すのも、そして思い出すのも恥ずかしいのであろう。
だがそんなことで質問を取り下げたりしないのが俺様の良い所である、無理矢理にでも聞き出すべく、精霊様から『さらに痛そうな鞭』を受け取って素振りする。
今度は腐ったリンゴのように真っ青な顔色に変化した超リンゴ里長、これで打たれるぐらいなら、その恥ずかしい話を口に出してしまった方がマシ、そう思ったに違いない。
「……え~っと、当時の里長が……リンゴの木に向かって……まぁ酔っていたようなのでそういうこともあるのかとは思ったけれど、まさかあんな」
「ふむ、立ちションしたんだな?」
「……あぁっ、そんな汚らわしい言葉を平気で吐くとは、やはり馬鹿な貴様は低能で……ひぎぃぃぃっ!」
「全く、油断するとすぐに調子に乗るからな、で、まさかそれだけの理由でリンゴの呪いを発動させたってのかこの森は?」
「いいえ、奴、つまりは当時の里長、その……不潔極まりない行為が終了した後にこうも言ったの『……やべぇ、やっぱウ○コもしてぇや』って、そしてそのまま木の根っこに……」
「汚ったねぇ奴だな、そりゃリンゴの森も切れるわ、集落の人間を皆殺しにしてもまだ不足する程度の冒涜だぞ、で、その事件とここの白骨死体の関連は?」
「それはその……外敵というのは本当に居て、まぁ貴様が馬鹿であって、ちょっと事件当時の里長に雰囲気からして似ていたから排除しようと考えたんだけど、それ以外にも存在していたわけよ」
「おまっ、ちょっ、俺とその超ウ○コ里長様を一緒にすんじゃねぇっ!」
「あの、超リンゴ里長様である私と似たような名前のそれはちょっと勘弁して欲しくて……」
とにかく、俺達、というかまぁ俺達は外敵ではなかったのだが、それ以外の連中、つまりホンモノの外敵が、ここに転がっている白骨死体の元々の姿であると主張する超ウ○コ、ではなかったな、超リンゴ里長。
しかしその連中は一体何者なのだ? 魔王軍? 西方新大陸の犯罪組織? 、まぁ前者はないか、魔王軍の、それも今残っているような精鋭部隊であれば、こんな所で無様に死んだりはしないはずだ。
そして後者、西方新大陸の犯罪組織の連中がここへ足を伸ばし、何かをしでかそうとしていたのではないかという仮説だが、これはこれでどうかしている。
犯罪者とはいえ、そんな『普通の人族』が、こんな場所まで来られるわけがないのだ、普通に近付くだけで気分が悪くなり、見えるほど近くに来れば余裕で死亡してしまう。
さらには自分の意思でここへ来たのではないにしても、その途中でブッ倒れてあの世行きになるはずのところ、やはりこの連中はどこかで殺され、ここへ運ばれたに違いない。
問題は誰が誰を殺して、この場の白骨死体の山の一員としたのかであるが……少し謎が多すぎるので順番に聞いていこう、まずはこの死体についてだ……
「おい超リンゴ里長様よ、ここからは連続質問タイムだ、良いな?」
「貴様のような馬鹿と話す……ひぎゃぁぁぁっ!」
「よっぽど鞭が欲しいみたいだな、で、回答の準備は出来たか?」
「はひぃぃぃっ! 何なりとっ!」
「うむ、じゃあまず質問①だっ! ちゃんと答えないと尻を丸出しにして鞭で打つぞ、おいルビア、ちょっと実演するから尻を貸せ」
「はい、お願いします……ひぎぃぃぃっ! もっ、もっとぶって下さいっ!」
紋々太郎だのフォン警部補だのは後ろを向かせ、『超超超痛そうな鞭』の『デモンストレーション』を執り行う、もちろん効果は絶大だ。
で、早速の質問①、これはこの白骨死体が元々どういう属性の者であったのかということについてなのだが……なるほど、やはり西方新大陸系の連中か。
それを聞いたフォン警部補が走り出し、しばらく何かをさがした後、白骨の中でも一際大きいものに近寄る、アレはどう考えても強モブの類だな。
そしてその死体から何かを取り出し、掲げているではないか、金の認識票? とにかく高級そうなものである。
「どうしたんだフォン警部補、急にそんなモノ持って来たりして」
「これだよ、これこれ、西方新大陸のある町で、凶悪指名手配犯の特徴として挙げられていたものだ、いつも大事に装備している金のネックレス、犯罪者とか悪い奴が装備した際に限って攻撃力が10倍になるアイテムらしいがな、これで間違いない、ここで死んでいるのは西方新大陸の奴等のようだ」
「あら、勇者様が装備したら攻撃力が高まりそうね」
「おいセラ、鞭のデモンストレーションをしてやるから尻を貸せ」
「あ、はいどうぞ……きっくぅぅぅっ! あぁ、でもくすぐりの刑の方が好みだわ」
「全くしょうがない奴だな……」
まず白骨死体の正体は確定、そして次にぶつける質問事項は、ひとまずどうしてこんな場所に死体が掻き集められているのか、それを誰がやったのかということだ。
もちろん里の人間ではないし、超リンゴ里長も含めた『普通に木に実っただけのリンゴ』がそのようなことを出来るはずもないのだが……
「えっと、これをやったのは『最初のリンゴに宿りし伝説の力』よね、過去全てのリンゴ里長、そしてそれ以前の全てのリンゴの記憶を持つ私、その私も『最初のリンゴ』から派生した『子リンゴ』にすぎないの」
「最初のリンゴ? 何だそりゃ……と、何を指差して……でっ、デカいっ!」
指差すといっても縛られているため足の指でだが、そにかくスラッと伸びた超リンゴ里長の美脚の先に示されていたのは、何ともまぁ巨大なリンゴの木、しかも魔力のようなものから神気のようなものまで、様々な力を感じるではないか。
そして何よりも……紋々太郎が携えたハジキ、その銃口付近から出た赤い光が、どう考えてもその巨大なリンゴの木を指し示しているのだ。
ここへ来る際には気付かなかったのだが、どうやら『白ひげの玉』はあのリンゴの木の下か上か、それとも内部などかも知れないが、とにかくセットになって存在しているらしい。
もちろんそれが単なる『リンゴの木』ではないことは、超リンゴ里長の話からも、そしてその巨大さからも認識可能なこと。
で、その超巨大なリンゴの木についての説明はさらに続くようだ……
「あの木はね、魔法攻撃と物理攻撃、それに精神攻撃や呪い……まぁあらゆる攻撃が出来るのよね」
「なるほど、事件当時の超ウ○コ里長を、それに里の者共を殺害して、ここを呪いの地にしたのもやっぱり?」
「そうね、それも直接的にやったのは『最初のリンゴ』、その力なしではあそこまで出来なかったわね」
「で、その『最初のリンゴ』と、『全てのリンゴの継承者』であるお前は別のモノなのか? 繋がっていたりとかしない?」
「意思の疎通はバッチリ、でもないかな、明らかに向こうの方が上、殺そうと思った貴様のような馬鹿を騙してここへ連れて来たのも、最悪私が敵わなかった場合は『最初のリンゴ』の力を借りて殺ろうと思ったからであって、まぁとにかくそんな感じ、こっちから何かお願いしても色々と無駄なはず」
「ふ~ん、で、その『最初のリンゴ』の力で侵入した犯罪者共を殺して、この呪いが凄い場所へ投棄したと……このまま次の質問だ、こいつらは何をしていたんだこの森で?」
「それは良くわからない、でも一部は殺せずに逃げて行ったみたいだし、それを捕らえれば目的を聞き出せるはず、というかぜひ捕らえておきたいところね、この里の平穏のためにも」
「急に里長らしいことを言い出したな、俺達を騙して殺そうとした悪い奴の癖に……」
犯罪組織の目的はわからないままであったが、とにかくまだ逃げている奴が居るという状況は芳しくない。
まぁ、そんなことを言ったらこの島国全体がそうなのだが、超リンゴ里長の希望通り、この地の平穏のためにその連中は狩っておきたいところだな。
と、質問はこのぐらいにして移動を始めよう、どうせ目的のブツはこの先、超巨大なリンゴの木の生えている場所にあるのだ。
そしてこれはついでなのだが、どうにも小腹が空いた感じがするため、どこかでリンゴでも捥いで食べようという心持である。
だがこのエリアは呪いに包まれ、しかもリンゴの木そのものが生えていないのだからどうしようもない。
少し移動しつつ、どこかで良い感じのものを収穫して美味しく頂くとしよう、許可者はもちろん超リンゴ里長だ。
「よしっ、そういうことで出発だ、これ以上鞭が唸るのを見たくなかったらサッサと立て」
「どこへ連れて行こうというの? 言っておくけど、このまま縛られた私を里へ連れて帰ったらどうなると思う? 責め立てられるのは無条件で貴様、この大馬鹿な貴様なのよ」
「態度が悪いっ!」
「ひぎぃぃぃっ!」
「そしてそっちじゃなくて行くのはこっちだっ!」
「あぎゃぁぁぁっ! お……お尻が捥げる……リンゴの収穫みたいに捥げる……で、もしかして『最初のリンゴ』の方へ行きたいわけ?」
「そうだが、何か問題があるぞというような顔だなそれは」
「ええ、だって貴様のような……お兄さんが近付いたら『最初のリンゴ』は怒るもの、ただでさえあの古の里長と雰囲気が似て……というのは冗談で……」
「何なんだよ、そんな言い直さなくってもな、後でキッチリ鞭の精算を受ければ良いんだから、言いたいことをズバッと言え」
「じゃあ言うけど、貴様のような大馬鹿豚野郎の場合、『最初のリンゴ』に喰われてしまう可能性が、まぁ不味そうだから喰われず普通に殺されるだけかもだけど、とにかく貴様はNGね、そしてその貴様を排除すれば、他の連中は私の契約の力によって」
「あっそう、じゃあ鞭打ち100回な、あと契約とやらの方もどうにかしろ、全部について無効とかな、それっ!」
「ひぇぇぇぇっ! いっ、痛いのでやめて……あぁぁぁっ!」
生意気な超リンゴ里長を鞭でシバきつつ、時折カンチョーなども加えてお仕置きしていく。
そろそろ大人しくなってほしいものだが、やはり根本的な再教育には時間が掛かるのであろう。
しかしその『最初のリンゴ』とやらが危険な存在なのか、『喰われる』ということはそれなりの感じであって、もちろん木に口が付いていたり手足というか蔦というかがあって、それを自在に操って攻撃してくるような、ごくありふれた普通の『モンスター木』なのは明らかだが。
まぁ、とにかく行ってみることとしよう、その『最初のリンゴ』がどのぐらい凶暴で、逆にどのぐらい話の通じる相手なのか、そしてどのぐらいの強さなのか。
それについてはここで超リンゴ里長の話を聞いていてもイマイチ判明しないはずであるし、やはり現地にて、直接的に判断するのがベストな選択肢なのだ。
ということで移動開始、渋る超リンゴ里長を引っ張り、そのまま呪いのエリアを出て巨大な木、『最初のリンゴ』の方へと向かう。
すぐに到着しそうに見えたのだが、思ったより遠く、そして当初の予想を遥かに上回るサイズを誇るリンゴの木であることがわかった……




