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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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742 早速現れた変な奴等

「……うむ、ではこれより出航する、旅立つ者、陸に残る者、共にジョッキを掲げよ……乾杯!」


『うぇ~いっ! ヘッヘ~イッ!』



 旅立ちのとき、岬の先端に係留された空かける船の甲板にて、下に居る現地住民その他の居残り組に向けてジョッキを掲げ、それから乾杯する。


 下の連中も同じことを、もちろん既に酔っ払いの極みと化しているのだが、それでも立ち上がり、ゲロゲロしながらジョッキの中身を飲み干していた。


 船はゆっくりと水面を離れ、陸に並ぶバーベキューコンロが、そして人間の姿がどんどん遠ざかっていく。

 この地を西方新大陸の犯罪組織から救った英雄、勇者連合軍のことは、きっとこの連中が忘れるまで語り継がれるであろう。


 願わくば飲みすぎて、ここ最近の記憶が完全に消去されましたなどということのないように、たった数日で俺達の伝説がお蔵入りとなることのないようにと、船内で天使と共に酒盛りをしている女神バカに祈りを捧げておく。


 かなり高度を上げた空かける船は一度ピタッと止まり、そこから向きを変えて一度東を、いや若干北向きかという方角へと進み出す。


 これから向かうは『とうほぐ地方』、始祖勇者の遺したこの島国を守る秘宝である『玉』、そのうち『白ひげの玉』と呼ばれるものを解放するための旅である。



「うぇ~いっ! ヒャッハーッ!」


「ちょっと勇者様、酔っ払って暴れるのは構わないけど、落ちてどこかへ行ったりしないでよね」

「そうですよ勇者様、ここから落ちたらまっすぐにはいきませんから、探すのが大変なんです」


「なぁに、ちょっとやそっとじゃ落ちたりしないさ、とんでもない突風とかが……ひょぉぉぉっ!?」


「わっ、凄い風ですっ、これじゃあご主人様は……船べりに引っ掛かったようですね、良かった」


「良くねぇぇぇっ! 早く助けてくれぇぇぇっ!」



 出発式からそのまま継続したパーリィの最中、突如として甲板を襲った猛烈な風。

 空駆ける船は傾き、俺の居た中央のお立ち台はその風をモロに受けて吹き飛んだ。


 空になった酒樽が風に舞い、俺の頭上を通過して行く……いや、少し残っているではないか、非常にもったいないことである。


 と、そんなことはどうでも良いが、この風自体はどうでも良くない、というかただ事ではないな。


 そして俺に引っ掛かった船べりの突起物、これが何なのかはわからないが、感覚的にそろそろ破壊、俺をこの場にとどめておく効果を失いそうであるということもついでにただ事ではない。


 もうダメだ、このまま数千m下の海面に叩き付けられ、打撲などの怪我を負ってしまうことはもう確実だ。

 そんなことを思った瞬間、隣にひょこっと現れたウサ耳から、慈愛に満ちた手が差し伸べられる。



「ほらっ、大丈夫? 手ちゃんと持ってね」


「マーサは無駄に優しいな、リスクを冒してまで俺を助けに来てくれるとは」


「無駄にってのは余計よっ!」


「すまんな、まぁ少なくともあの女神とかいう何かよりは優しく愛に溢れているぞ、それは俺様が保証してやる」


「あ、何だかわかんないけど褒められちゃった、で、ここは危ないからちょっと何かの影に行くわよ、床を這って付いて来て」


「了解した、じゃあ行こうか……」



 匍匐前進するマーサのウサケツを眺めながら、それに付き従う感じで俺も同じ動きをしていく。

 と、スリップストリームに入った、このまま追い付いて、目の前のウサケツに突撃するというセクハラを敢行しよう。


 ……などと思ったのだが、これから向かう船室の影から、セラの恐ろしい目線が俺を監視していることに気が付いてしまった。


 こんな所で、しかもこの非常事態だというのに、スリップストリームを利用した匍匐前進での追突事故(故意)を起こすというセクハラを成し遂げた場合、間違いなく極大の雷魔法を脳天に落とされる。


 そんな監視の中、ようやく船室の入口付近、未だ吹き荒れる爆風をまともに喰らうことのない場所まで到達、立ち上がって少しホッとしたような仕草をしておく。


 危うく落とされ、皆に迷惑を掛けてしまうところであった、本当に助かって良かった、そう思っている素振りを見せることにより、先程までマーサのウサケツを狙ってセクハラをしようとしていたなど、全くバレないようにするのだ……



「良かったですねご主人様、マーサちゃんが助けに行ってくれて」


「おう、もし来てくれなかったらヤバかったな、どこにも手が届かなかったし、今頃俺は海のもずく……藻屑? まぁ良いや、とにかく助かったんだ」


「しかも並んで匍匐前進することが出来たんですもんね、でも惜しかった、もうちょっとでお尻にゴチーンッと、ラッキースケベ的なイベントが発生していたというのに」


「うむ、実はそれも狙っていたんだがな、諸事情により……おいコラ! 何言わせてんだルビア!」


「……勇者様、ちょっと向こうで、2人で遊ばないかしら」


「遊ぶ? 処刑じゃなくてか?」


「その通りっ! 天誅!」


「ぎょぇぇぇっ! がびびびびっ……」



 どうもセラは最初からわかっていたようだ、まぁそのイベントの最中に睨んでいたわけだしな。

 そのセラによって『雷撃処分』を喰らった俺は重体となったのだが、完全に無視されて色々と話しが進んでいる様子。


 まずはこの吹き荒れる風が何なのか、何者かによる攻撃なのか、それとも自然現象なのかということを話しているようだが……瀕死の俺様の予想ではおそらく前者だ、どうでも良いが早く蘇生して欲しい。



「はいご主人様、回復魔法ですよ~」


「……うむ、どうにか復活することが出来たぞ、それでこの風だが……きっと敵が存在しているぞ、どこかにな」


「勇者様、それってあの……向こうから来ている同じような、空駆ける船じゃあないでしょうか?」


「どこだマリエル、どっちに……っと、アレか、間違いなさそうだな、あの船自体が風を出しているわけではないようだが、この状態で何の影響も受けずにまっすぐこちうらへ来る辺りもう確定だろうよ」



 爆風に身を晒すギリギリのラインで確認することが出来たこちらへ向かう何か、というか空駆ける船。

 間違いなく敵であるというその船なのだが、この風を出しているのはそれではないようである。


 いや、むしろ微かに力を感じるのは地上、現在は海岸沿いを進んでいるのだが、その海側ではなく陸地側にその力の源があるように思えるのだ。


 とんると接近中の空駆ける船はそこの、地上から俺達の航行を妨害しようと企んでいる何者かが所有するものであり、その何かの組織の攻撃部隊を乗せているということか……


 まぁ、とりあえず向こうからこちらへ来てくれることだし、事情を聞いてみて大丈夫そうな連中、即ちこの辺りの正当な管理者のようであれば、このまま通過させて貰えるよう交渉しよう。


 そして連中が悪い奴等のようであったら、もちろん『悪い組織だ』などと名乗ることはないであろうから、悪そうだなと思った時点で始末してやれば良い。


 もっとも、『良いもん』であったとしても、すこぶるウザい場合や態度がアレな場合は別だ。

 そういう連中など生かしておく必要はないし、接近している連中も、それから地上に居る連中も皆殺しにしてしまおう。


 と、そろそろ接敵、いや敵かどうかはわからないが、相手の船がこちらへ到達するようだ、吹き荒れていた風がピタリと止み、それと同時にドスンッという衝撃、どうやら横付けされたらしい……



「おっと、わらわらと乗り込んできたようだな、何だあの格好は? おいフォン警部補、アレもPOLICEなんじゃないのか?」


「いや、この島国のPOLICEがどんなのかは知らないんだが……まぁ雰囲気的にはそんな感じだよな、ちょっと軍隊っぽくもあるが」


「というかあんな格好で暑くないんでしょうか? この時期にコートみたいなの着ちゃって、長さも膝まであるし」


「我慢しているんだろうよ、まぁ、とにかくお相手して差し上げないとだな」



 乗り込んできたのは『正装』といった感じの野郎共、それが20人程度であった。

 どいつもこいつもカーキ色の軍隊かPOLICEのような制服で……と、1人だけ白いのが居るな、奴がリーダーか。


 もちろん敵意剥き出しで、そしてどうやら何かを探しているような感じである……と、近くに居たスタッフのおっさんをぶん殴ったではないか、これは看過出来ないな……



「おいお前等! 何なんだよ急に? あの爆風もお前等のせいだろう? ブチ殺してやるからちょっとこっち来いやっ!」


「……ふんっ! 貴様のような奴には用がない、それとも我々と、そして地上に居る我々の仲間と戦って勝てるとでも? ということで悪人は悪人らしく黙っていろ、我々の邪魔をするでないっ!」


「何が悪人だよ、お前等の方がよっぽどだぞ、てか何者で、何が目的で乗り込んで来たのかぐらい話したらどうだ」

「そうだぞ、しかもそこのお前、今こちらの乗組員に暴行したのを見たからな、POLICEである俺にはお前を暴行罪で逮捕、処刑する必要がある」


「おっと、そちらは本当に西方新大陸のPOLICEであるようだな、そしてそっちのは……やはり島国の英雄、紋々太郎か、これは驚いたよ、ちなみにそっちの馬鹿そうなお前は知らん、死ね」


「はぁっ? お前俺が大勇者様であることさえ知らないのか、本当に知識のないクズ野郎めがっ!」

「……まぁ落ち着くんだ勇者君、それで、そちらの身分と目的を早く話して貰おうか?」


「これは失礼、そこのサルがあまりにもやかましいものでね、我々はこの地にて活動する正義の組織『破魔はまな子』のメンバーであるっ! この空駆ける船には討伐すべき悪い魔族が乗っている可能性が高い、しかも4体もの反応があるのだっ!」


「浜名湖……」



 何だか良くわからない連中だが、とにかくその『破魔な子』という悪の……いや自称正義の組織が、先程の爆風を放ち、さらにこの馬鹿共を送り込んできたというところまではわかった。


 そしてもうひとつ、この馬鹿が言う『4体の魔族』というのが、俺の仲間であるマーサ、ユリナ、サリナ、エリナの4人であるということだ。


 カーキ色、つまりリーダー以外のモブキャラ共が探しているのもその4人であることは間違いない。

 そしてターゲットとなっている4人は俺の後ろに居るのだが……やはり見つかってしまったようだ。



「居ましたリーダー! ウサギ魔族が1、悪魔が3ですっ!」

「悪魔に気を付けろっ! ウサギ魔族は弱いからそのまま捕らえるんだっ!」


「だってよマーサ、ちょっとだけなら暴れても良いが、船を破壊するなよ」


「わかってるわよ、だいたい私の大事な野菜畑が目の前なんだし、ちょっと控え目に……何か飛んで来たっ!」


「キャッ!? 何ですのこのネバネバの……網でっすわっ」



 俺とマーサが話をしている隙に接近していたモブキャラ、それが何やらバズーカのようなものを持っていたようで、そこから発射された粘着質の、クモの巣のようなネバネバが4人へと襲い掛かる。


 狙われていたと思しきマーサが回避したことにより、最初に喰らってしまったのはユリナであった。

 どうやら抜け出せないらしい、あまり強力なようには見えないのだが、何か仕掛けがあるのか?


 と、さらに他のモブ共がバズーカ様の武器を持ち出し、追撃を仕掛けてきた……マーサはもう一度、そしてエリナも回避したのだが、避け切れなかったサリナは足を絡め取られる。


 そしてそれを助けようと手を差し伸べたエリナが、どうやら追加で捕らわれた、というか手が貼り付いて離れなくなってしまったようだな……



「フハハハッ! それは魔族には絶対に剥がせないぞっ! 何といっても我々『破魔な子』が開発した夢の特殊素材だからなっ!」


「野郎、調子に乗ってっと、この場で殺すぞっ!」


「良いのかねそんな発言をして、言っておくが先ほどお送りした『そよ風』、もちろん『弱』なのだが、これを『強』または『ウルトラ強』にしたらどうなると思う? このいかにも新しい船は木っ端微塵だぞっ!」


「クソ野朗め、お前絶対に長生き出来ないぞ、てか今日死ぬ」


「さぁ、わかったら下がっていろこのゴミが、早くそのちょこまか逃げ回るウサギを捕まえべぶぽっ……」


「ほら言わんこっちゃない、成仏しろよ……って、もう見えなくなったな」



 ターゲットに選定されていたマーサが動き、とりあえずリーダーと呼ばれる白服を殴り飛ばした。

 ごく軽く殴ったようだが、それでもマーサのパンチを受けて無事なはずはなく、死は免れ得ない。


 全身のパーツがバラバラに砕け散りながら遠くの空へ退場して行った白服は、今頃地上の仲間とご対面していることであろう。


 もちろんグッチャグチャのベッチョベチョの、見るに耐えない状態へとなり果ててのことではあろうが……と、弱いはずのウサギ魔族がここまでやることに驚いたのか、カーキ色のモブキャラ共は全く動けないようだな……少しこちらから話を進めてみようか。



「……まぁそういうことだ、お前等、サッサとこの3人の悪魔娘を解放しろ、じゃないとどうなるかわかってんだよな? あんっ?」


「きっ、貴様ぁぁぁっ! よくもリーダーをっ!」

「まさかウサギ魔族を強化して……いやっ! 英雄がダンゴを与えたのかっ?」

「いやそれはないっ、ダンゴを与えられるのはイヌサルキジの3種類のみ、ウサギは入っていない」

「となると……やはり改造手術か、最近この島国を荒らしているという西方新大陸の犯罪者が関与しているな……」


「おいコラ、そっちの中だけで勝手に話を進めるんじゃねぇよ、とりあえず最初のタイムアップだ、そこのお前、ちょっと死ねっ」


「はっ? ギャァァァッ!」


「……うむ、マーサほどではないが良く飛んだな、そして形が崩れずに綺麗なままだったから俺の勝ちだ」


「何の勝負なのよ一体……とにかく3人を助けないとかわいそうよ」


「だな、また奴等が硬直しているうちに何とかしよう、だがマーサは触るなよ、貼り付くと困るからな」



 俺が適当な奴を選び、それを躊躇なく、大変お気軽に殺害したことを受け、またしても固まってしまう『破魔な子』のモブメンバー共。


 奴等が静かなうちにユリナ、サリナ、そして手だけ貼り付いてしまったエリナの救出を……と思ったのだがこれがなかなか手強いではないか。


 どう考えても弱い、少しベタベタするだけのネットなのだが、どういうわけか引っ張ってもある一定以上は伸びず、全力を出しても切れることがない。


 これは本当に夢の新素材だ、もっとマシなことに活用すれば、こんなくだらない活動に精を出さずとも遊んで暮らすことが出来るに違いないのに。


 そもそもどうして人族と魔族が共存しているこの島国、それも元は魔族領域であり、人族は後からやって来たこの地にて、魔族を悪と決め付けて撲滅しようなどという団体が存在しているのだ。


 と、それはともかくまずはこのネットの破壊だ、引っ張ってもダメならということで刃物を……ミラやジェシカの剣でも切れないし、カレンの武器、セラの魔法にマリエルの槍の穂先でもダメか。


 そうだ、少し危険ではあるが、ユリナに魔法を使わせて焼き切らせれば……いや、魔法を使うことが出来ないようだ、やはり何かの力が働いて、触れる者を弱体化させたりしているようだな。


 まるで俺達も良く使っている、『魔力を奪うご都合金属』のようなものだ、これでは何も出来ないし、3人を救出することも不可能である。



「ダメだな、こうなったらもう実力行使だ、残っているモブキャラ共をとっ捕まえて、解除方法を吐かせるんだ、攻撃開始!」


『うぇ~いっ!』


「ひぃぃぃっ! 襲ってきたっ、ギィェェェッ!」

「ギャァァァッ! ぶぺっ……」

「も、もうお終いだっ、殺されるっ!」


「おっと、死ぬ前にあのネットの外し方を教えて貰わなきゃ困るんだよ、サッサと吐けコラッ!」


「ギュゥゥゥッ……ぐへっ……」


「あ、死にやがった、コイツはもうゴミだから捨てよう、誰か次の奴をこっちへ投げてくれ」



 なるべく殺さぬよう注意はしているのだが、さすがはモブキャラだけあり、もはや『触れただけで死んでしまう』という次元の弱さである。


 もちろん他の仲間達にも攻撃され、甲板のビアガーデンをメチャクチャにしながら逃げ惑うモブキャラ共……処刑の前に片付けもさせた方が良さそうだな……



「ひぃぃぃっ! 来るな、来るんじゃないっ!」


「来るなって、そもそもお前等が乗り込んで来たんだろうよ、だが大丈夫だ、後で下にあるだろう基地化何かへ帰してやるからな、もちろんフリーフォールでだ」


「そっ、そんな……はっ、基地、そうか基地だっ! 4体の捕獲には失敗したが、あの中サイズの悪魔だけは転送が可能だっ! ということで転送!」


「転送? 何やったんだお前……え? おいマーサ、ユリナはっ!?」


「消えちゃった……掴まってたネットごとシュッて消えちゃったの……」


「消えちゃったって、どういうことだこの野郎!」


「フハハハッ! あの悪魔は完全にネットの中に収納されていたからなっ、転送したのだ、この下にある我々の本拠地になっ! 奴はそこで拷問され、処刑されるのだぁぁぁっ!」


「この……死ねやボケェェェッ!」


「ぶちゅぅぅぅっ!」



 なんと、突然ユリナが拉致されてしまったではないか、しかもこんな怪しげな、本当に何をしでかすかわからないゴミ連中にだ。


 このまま放っておけばユリナの身に危険が及ぶ、もちろん不死であるから処刑されるようなことはないのだが、それでも痛い思いをすることだけは確実。


 それにネットにやられたサリナとエリナも、そこから助け出す方法を見つけ出さない限りこのままである。

 その方法だけはここの生き残りに……いや、それよりも早く敵地へ乗り込むこととしよう。


 まだ出航したばかりだというのに早速見舞われたトラブル、しかも仲間を拉致されるとは……まぁ、下に居るこの馬鹿共の一味、『破魔な子』を皆殺しにして、ユリナを救出するだけの簡単なミッションなのだが……

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