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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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739 偽天使

「クソッ、女神の奴め、思い出したらまた腹が立ってきたぞ、もう少しキツくお仕置きしておくべきであったな」


「戻って来たらまた引っ叩けば良いじゃないの、てかさ、顕現してる最中に叩き潰したらどうなるのかしら? 死んだら面白いわよね」


「あのな精霊様、そのぐらいのことで死ぬような奴に見えるか? たぶん叩き潰されていることにさえ気付かないまま終わるぞ、ケロッとしてな」


「じゃあつまらないわね、まぁ、戻って来たら普通に叩きましょ」


「精霊様は別に女神に対して何かあるわけじゃない……と思うんだがな……」



 俺の利益になるはずであったものを横領した女神、その金……なのか何なのかはわからないが、とにかく不当利得をゴリゴリに利用して雇用した小間使……ではなくなんと『天使』、しかも12人もだ。


 だがその天使の数が、どういうわけか『13人』に増えているのだと言う女神、通常であれば『増えちゃってラッキー』ぐらいに思ってしまうところだが、無駄に心配性の女神は、そのうち1人がニセモノ、どこかの機関が送り込んだスパイなのではないかと疑っている。


 そして俺様の異世界勇者としての実力、主に無理矢理捜査を進めて犯人を特定しがちな点を評価した女神は、そのニセモノの看破と捕獲を、土下座してまで依頼してきたのであった。


 もちろん『偽天使』が紛れ込んでいるとは限らない、実は何かの手違いで、面接にて不合格になった奴に合格通知が送られたりして、本当に13人の天使がそこに居るのかも知れないからな。


 まぁ、もしそうであれば仕方のないことだ、給料賃金は過大になってしまうと思うが、諦めてそのまま13人を雇用し続ける……そういえば神界は原則終身雇用なのか? いや、そもそも終身とかあるのか?


 その疑問が解消される日は来ないのであろうが、気になるので直接聞いてみよう、あの年齢カンストの実はババァである女神に……と、そのババァが帰って来やがったようだ、想定していたよりもかなり早いお着きである、本当に鬱陶しい奴であるといえよう……



「お待たせ致しました、いえ、待ってはいませんね、というか女神たるこの私が来るのを待っているのは当然ですね」


「……何言ってんだお前? 急に態度がデカくて……頭でも打ったのか?」


「それはなさそうよ、馬鹿が頭打ったら天才になるはずだもの、より一層馬鹿になるなんて、きっと祟りに遭っているのね」


「いえ、あの、勇者よ、そして水の精霊よ……この後しばらくでですね、その、私の『部下』である天使がここへ来るんですよ、もちろん1人はあの火山の牢獄で助けた子ですが……他の子はあなたと遭遇したことがなくてですね、だからその……わかります?」


「いいや、全く要領を得ないのだが? 叩いて欲しいなら素直にそう言え、この変態雌豚女神めが」


「そうではなくてですね、あの、天使達の前での私の立場、わかります?」


「だから変態雌豚女神だろう? それ以下はあってもそれ以上はないぞ」


「・・・・・・・・・・」



 言いたいことは何となくわかる、この女神、普段神界では『威厳ある者』として偉そうに振舞っており、そうだと思い込んでいる部下の天使に、そんな事実はない、真っ赤な嘘であることを感付かれたくないのだ。


 もちろん俺や精霊様が、普段この女神にしているような態度を取れば、きっと賢い、少なくとも馬鹿ではない天使達は、この女神の『真実』に気付き、離れていくことであろう。


 それだけは絶対に避けなくてはならない、そう思っているのが見え見えなのだが、焦りまくるのが可愛らしく、そして面白くもあったため、俺と精霊様はしばらくその意図に気付かない振りをしてからかっていた……



「……まぁ、わかったよ、問題の天使達がここに居る間だけは『それなりの対応』をしてやろう、もちろんその対価はキッチリ受けるがな」


「ありがとうございます勇者よ、で、対価とは……余りエッチな目で見ないで頂きたいのですが……」


「うむ、わかっているのであればこれ以上言及することもあるまい、楽しみにしておいてやろうではないか」


「本当に卑猥な異世界人ですね……」



 女神からすれば俺も異世界人などと呼べる存在ではないのでは? 一瞬だけそう思ったのだが、至極どうでも良いことなのでスルーしておいた。


 というか、せっかく戻って来たのにどうしてその問題の天使達を連れていないのだこの馬鹿は?

 面倒事を片付けるのは早めにしたいのだが、面倒事ではなく面倒な奴自身だけがご参上とはどういうつもりなのであろうか。


 まぁ、何か事情がありそうではあるので、ひとまずはその件に関して優しく質問してやるとしよう……



「おいコラ女神、お前『13人居る天使』をどうして今この場で連れて来なかったんだ? 無能なのか? この雌豚がっ! 俺達に手数を掛けていることについて豚のように謝罪しろっ!」


「ぶひぃぃぃっ……と、女神たるこの私に何ということをさせるのですかあなたは、天使にはまだ仕事を頼んでいます、ですので今しばらくお待ち頂けませんかね、本当にもう少しで来るはずですので」


「だったらそれが終わったタイミングで一緒に来いよ、俺達にはお前のような豚を接待してやる時間的余裕などないのだからな、わかったらそっちの隅で正座でもしていろ」


「・・・・・・・・・・」



 黙って部屋の隅に向かい、正座を始める女神、こいつにとって誤算であったのは、指定の場所に俺と精霊様のみが待機していたということであろう。


 本来であれば勇者パーティー全員、場合によってはこの島国の英雄である紋々太郎にも出迎えられ、豪華な食事を振舞われるなどの手厚い接待を受ける、そのつもりでいたのだ。


 しかし現実はこれ、この世界を統べる者であるからなどというくだらない理由で、馬鹿の分際で調子に乗る女神に対して強い態度で臨む俺達2人のみでのお出迎えである。


 まぁ、もちろんこの後は使えそうなサリナ、そしてどうせオマケで付いて来るであろうユリナとエリナがここに加わるのだが、おそらくその中で女神に対して敬意を表するのは、比較的仲が良いエリナぐらいのもの。


 いや、神と悪魔がプライベートで仲良くしていることは非常に大きな問題だとは思うが、とにかくこの先のイベントにて、女神の味方となり得るのはエリナぐらいしか居ないということ。


 そしてそのエリナも俺様の前では子犬も同然、圧倒的な力の前に平伏し、どんな命令でも……と、そんなことを考えている間に天使が着て、こちらが『待たせる側』になってしまいそうだ。


 そうなるとこの馬鹿をより一層調子付かせることになるからな、早めに必要なキャラであるサリナを呼び出しに行くこととしよう……



「じゃあちょっと行って来るから、精霊様はそこの馬鹿が正座を崩したり、反抗的な態度を示さないか蚊監視しておいてくれ」


「わかったわ、いざというときには『グーで殴る』けど構わないわよね?」


「ちょっとまっ、それはダメだ、さすがにかわいそうだから止めてやれ」


「じゃあ、何かあったら適当に引っ叩いて、後で報告してあげるから好きにしなさい」


「おう、それでいこう、じゃあ女神、少しでも動いたら尻叩きだからな、覚悟しておけよ」


「ふぁ~い、承りました~」



 もはや全てのやる気をそがれた感じの女神と、監視役の精霊様を放置して一旦『イベント会場』を出る。

 おそらく他の仲間と一緒に居るであろうサリナを探して、宿泊所としている部屋へと戻った俺。


 サリナはすぐに見つかった、そして当然のようにユリナとエリナもそれに付いて行動しようとする……と、どうして『付き添い』が4人なのだ、残りの2人は何のつもり……5人に増えたではないか……



「おいマリエル、ジェシカ、どうして一緒に来るんだ? マーサは……マリエルに付いて来ただけだな、うん」


「それは女神様がご降臨あそばされているからです」

「主殿と精霊様のことだ、放っておくと女神様をいじめたりしそうだからな」

「私は暇だからよ、マリエルちゃんが動いたから反応して動いたの、それだけ」


「お前等な、マーサは良いとして、さすがに俺や精霊様が女神をいじめるなんてこと……」


『ひぎぃぃぃっ!』


「いじめるなんてことは……」


『ほらっ! ちゃんと正座していないともっと痛いわよっ!』

『どうかお許しをぉぉぉっ! はぎゃっ……』


「あれは精霊様が独断専行していることによって生じた音声だ、断じて俺の指示ではない」



 向かっている『イベント会場』から漏れ聞こえる女神の悲鳴と精霊様の楽しそうな声。

 クソめ、だから精霊様だけを置いて行くのは不安であったのだ、引っ叩くのは女神ではなく奴にしよう。


 音を聞いてしまったことにより、急いで『イベント会場』へと向かうマーサとマリエル、俺も他の3人を放って一緒に駆け出す。


 会場コテージのドアを開けると、そこには既に取り押さえられた精霊様と、ソファに座らされて接待を受ける女神、それからヤバい顔に変貌した狂信者共の姿があった……



 ※※※



「全く精霊様は、だから女神に対しては丁重にと……ほらっ! こいつを喰らえっ!」


「きゃいんっ! ちょっとっ、どうして私がお尻ペンペンされてるのっ?」


「悪い事をしたからだ、あと100回なっ! それっ、このっ、どうだっ!」


「ひぃぃぃっ! 痛いっ! 痛いっ! いやぁぁぁっ!」



 全ての罪を精霊様に押し付け、抱えて尻を叩いておく……もちろん女神が、出された紅茶を啜りながらチラチラとこちらを見ているのだが、おそらく後の復讐を恐れて余計なことは言わないはずだ。


 おれはこのまま『女神の味方』として、マリエルやジェシカのターゲットとならぬよう、静かに作戦開始のときを待つ、それがベストな選択肢である。


 で、精霊様は縛って猿轡も噛ませて天井から吊るし、残った皆は座って和やかに、平和的なティータイムを楽しむ……本来はもう酒の時間なのだが……



「なぁ女神、その天使達はそろそろ……と、何か上の方から凄いオーラが……」


「ようやく来たようですね、もう少し時間が掛かるかと思いましたが、さすが私の部下です、アレだけの量のタスクをここまで早くこなすとは」


「ん? 一体何を命じていたんだ、壮大なプロジェクトか?」


「ええ、来週の会議のための資料をコピーして貰っていました、なんと30部をたったの2時間で」


「……それ、すげぇ遅くね? いやお前よりはマシか、とにかくもう到着するようだぞ」



 天井からスーッと光が突き抜けてくる、それもひとつに纏まってというわけではなく、13個の光が次々にである。

 何と幻想的な光景だ、そう思ったのも束の間、光はスッと消え、代わりに13人の女の子が出現、片膝を付いて女神に礼をしているではないか。


 そしてその先頭に居るのは懐かしい、確か火山の牢獄辺りで助けた天使の子、こちらに気付いて会釈すると、再び女神の方へと向き直り、何か報告をするようだ。



「女神様、与えられたタスク、全て終了致しましたっ!」


「そうですか、さすがは優秀な部下です、失敗はしませんでしたか?」


「申し訳ないことですが、冊子形式で折り畳んだ『A2版』にする際、どのページをどこへ配置して良いか混乱し、一時『1頁⇒4頁』みたいな感じになってしまいましたが、試行錯誤の末解消致しました、無駄になった用紙は50枚程度です」


「うむ、その程度の被害で済んだのは大変に素晴らしいことです」


「この感じ、どう考えてもめっちゃ無能なんだが……」


「なお、出発の際にはついでにゴミ出しもしておきましたゆえ、ご報告差し上げます」


「素晴らしいっ! あなた達は天才ですっ!」


「それが普通だと思うんだが……」



 見た目は全員非常に良く、キリッとした感じで優秀そうに見えるのだが、おそらくは悉く馬鹿なのであろう。

 まぁ、本当にこの中にニセモノ、スパイが含まれているのだとしたら、そいつは間違いなく『馬鹿の振りをしている』だけなのであろうが。


 というか、会議資料を作るのに、A4の原本をどこにどう配置してA2の冊子にするのかなど、パッと考えてわからないようでは人として終わり……というか人ではないく天使なのか。


 いや、むしろその考える作業を自動でやってくれる機能が、神界の魔導複合機には存在しないのか? だとしたら俺が前に居た世界の、いつも迷惑な営業電話ばかり掛けてくるそういう業者の方、チャンスだと思いますよ……



「それで、この中の誰かが『ニセモノの天使』だと主張したいんだな?」


「そうなんです、ゆっくりで良いのでしっかり看破して、見事敵を捕らえてみせなさい」


「偉そうに……いや何でもない、まぁアレだ、もし『ニセモノなんて居なかった』ってことになっても俺は責任を取らないからな」


「わかっています、では早速始めて頂いて、私はここで優雅に待っておりますから」


「うむ、じゃあサリナはこっちへ来い、一緒に見てくれ」


「あ、は~い、でも誰かが幻術を使っている様子はありませんし、私に見破ることが出来るとは思いませんけど……」


「マジか、じゃあ望み薄だなこりゃ、適当に痛め付けて吐かせるぐらいしか方法がなさそうなんだが……別に悪いことをしている感じがない子までそうするのは気が引けるな……」



 どうせ無能なのであろうが、それでも特に調子に乗っていないというのであれば引っ叩く必要などない。

 というか皆普通に可愛いし、初対面でそれをする気にはならないというのが実際のところである。


 しかもマリエルとジェシカがガン見しているからな、神界の存在に対してあまりにも無礼な振る舞いをした場合、俺もあそこでぶら下げられている精霊様と同じ末路を辿らないとも限らない。


 となると何か策を練って、女神の言うように時間を掛けて探っていく、つまりこれから『船』が完成を見るまでのおよそ1週間、この13天使の振る舞いを観察し、そこから怪しい点を探し出していくしかなさそうだ。


 しかしそれにはひとつ大きな問題がある、それは非常に面倒臭いということ、これだけはどうしても避けようがない。


 こんな所にしんかいの存在がやって来て、しかも1週間程度の期間に渡って滞在する、しかも『犯人探し』のためにだ。

 そんなところをこの地域の、言い方は悪いが『地を這う被支配者』に見せるわけにはいかないし、気付かれるのもNG。


 そんな状況下ではやっていけないし、さすがに面倒臭さの方が勝って投げやりになってしまいそうだ。

 としたらどうするか、申し訳ないがこの場で、適当に犯人をでっち上げて良いにする、それもアリか。


 もちろん名指しされた『ニセモノ天使』が、実は『ホンモノ天使』であったことぐらい後で発覚するのだが、その際にはもう知らぬ存ぜぬ、当方は一切責任を負いませんで押し通せば良いのである。


 まぁ、この場はそうして……と、後ろで様子を見ていたマーサが何か言いたそうな顔をしているではないか。

 もしかしたらウサギ魔族のマーサには、動物の勘的なシックスセンスで何かわかってしまったのでは……



「なぁ、どうしたんだマーサ? 何か気が付いたんなら遠慮なく発言してくれて構わないんだぞ」


「え? あ、えっとね、この天使の人達、何ていう名前……ってか名前とかあるのかななんて思ってさ、別に関係ないわよねそんなの」


「ふむ、名前か……関係はなさそうだが気になるな、よし、全員名札を貼って貰おうか、『ホンモノの天使』に関しては、一応この後も俺達に関与する可能性があるからな、で、名前あるのこの子達?」


「もちろん、どこそこ、何々の神とか女神とか、あと○○の精霊とかではありませんから、それぞれが自らの名を持って行動しているのですよ、ではあなた達、この下賎の者……すみません、異世界より呼ばれた高貴な勇者に名を教えて差し上げなさい」


『はっ! 承りましてございますっ!』



 まずは久しぶりの天使の子から、順番に名乗っていくスタイルで自己紹介をするようだ、まぁ、こちらも相槌ぐらいは打ってやるべきであろうということで、お久しぶりですの言葉にもウンウンと頷いておく。


 さらにその次、その次へと……この子達は『天使』だけあって、名前の方も『~~エル』とか『~~リール』など、『ル』で終わる感じのようだな……



「……あ、次は私か、えっと、シャリールです」


「ふむふむ、で、次の……何か腕にジョイントがある子は?」


「私はウデトレルです、ちなみに足も取れます」


「……はい、じゃあ次の……なんかゾンビみたいな子は?」


「シンデイルです、元々はこの世界の人族で、若くして事故で死んだんですが、気が付いたら神界で天使になっていました、ツギハギだらけですみません」


「うむ、後でウチの仲間から回復魔法を受けると良い、次は……え? あ、そこの、服装が……何でチャイナドレスなんだよ?」


「ワタシ? ワタシマジテンシアルヨ」


「はっ? 何だって?」


「マジテンシアル……ヨ」


「お前だぁぁぁっ! ちょっ、誰かこの変なの取り押さえろっ! マジテンシアルって何だそのいい加減な名前はぁぁぁっ!」


「アァーッ、チョットヤメテアルヨッ! ヤメテ……やめて下さいお願いします……」


「本性を現しやがったなこの偽天使めが」


「いえ、私はマジテンシアル……やっぱ無理ですってばこんなの……魔王様……」


「魔王だとっ!? おいっ、やっぱ取り押さえろっ!」



 もう良く見れば非常にわかり易かった偽天使、そしてその口から突如して『魔王様』という言葉が飛び出したのであった。


 ということは本当に、リアルにこのダメダメ、バレバレのニセモノが、スパイとして神界に、しかもお久しぶりの登場である魔王軍の手によって送り込まれていた、そういうことになるな。


 何の目的なのかは知らないが、とにかくこのひっ捕らえた『マジテンシアル』さんを拷問するなどして情報を吐かせよう。


 どうしてこのタイミングなのか、どうして魔王の奴はこんなので騙せるとでも思ったのかについても、同時に聞き出しておかねばなるまい……

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