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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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737 消えてなくなった後は

「下がってっ! 次は臭いブレス攻撃がくるわよっ!」

「待てっ、次の脇臭攻撃も控えているっ! どうも右だけ臭いようだ、こっちへ避けようっ!」

「ちょっと女神! まだ準備が終わんないわけっ? 早くしないとヤバいわよっ!」



 高空で攻撃の準備をしている女神、そして低空で敵の、茶色の水面から顔だけを出した超巨大なおっさんの気を惹く作戦に従事する俺達。


 女神ばかり安全な場所で、しかも状況的に俺達を扱き使っているような感じになっているのは非常に気に食わないことであり、可能であればポジションを変われと言いたい。


 だがあのような強大な力、しかもこの世界中から掻き集めた力を操ることは、俺どころか精霊様にも出来はしない、ここは不本意であっても女神に頼るしかないのだ。


 もっとも、さすがにそろそろ決めてくれないと、飛び回るリリィの体力が持たない。

 こんな所で落下すれば確実な終わり、ウ○コ塗れの悲劇的な末路を迎えることとなってしまう。


 そしてその前におっさんの攻撃だ、不潔極まりない屁から始まり、またしてもウ○コを漏らし、口臭の篭った激クサの息を中心に放ってくるおっさん。


 一発でもまともに喰らえばそれもまた終わり、いかに巨大なドラゴンであるリリィも、おっさんの前では羽虫に過ぎない。

 まるで蚊取り線香にやられた蚊の如く、ナヨナヨと力を失い、スパイラルフォールで海へドボンであろう。



「おいまだか女神! 早くしないとやべぇぞっ!」


「待って下さいっ! この『マジカルゴッデススペシャルアタック』にはかなりのタメが必要なんですっ!」


「何だその技名は? もしかしてお前、放つときにそれを叫びながら……」


「当たり前じゃないですか、勇者よ、必殺技を何だと思っているのですか?」


「お前さ、良い歳こいて恥ずかしいとか、そういうのないわけ? まぁ何でも良いから早くしろって、マジで頼んだからなっ!」


「わかっていますっ! だから皆さんは引き続き囮をっ! 私のためにっ!」


「いや、これがお前のためだと思うとだな、凄くやめたくなってくるんだが……」


「そういうこと言わないで、とにかく引き続きっ!」



 何だか気に食わないのだが、この場は仕方なく『女神のために』囮役を引き受けてやることとしよう。

 まぁ、引き受けるといっても俺は指示を出しているだけ、実際に飛び、敵の攻撃を回避するのはリリィと精霊様だ。


 それにしても精霊様の攻撃がバシバシ直撃しているというのに、しかもかなり強めに撃っているはずだというのに、おっさんはダメージを受けるどころか怯む仕草さえ見せない。


 しかも時折だが目、というか牛乳瓶の底のようなメガネに、巨大な水の塊が直撃しているというのにだ。

 いや、本来であればこの時点でメガネなどバッキバキ、割れた破片が眼球に食い込み、大変なこととなっているはず。


 なのにそれが起らないとは、やはりあのメガネもおっさんの恨み、全てを失い、ついでに毛根まで失いかけたおっさんオリジナルの、排水溝から流された抜け毛に宿りし負のオーラ、それが創り出した物質であるように見えて実はそうでないモノ。


 女神の力以外、誰がどのような攻撃をしても通用しない可能性が高い、もちろんこの場でセラが魔法をブチかましても、俺が決死隊として奴の上に降り立ち、聖棒で脳天を突いてもだ。


 そしてその女神の攻撃、俺達の、この世界の唯一の希望が今、いよいよ完成間近といった感じである。

 一際強く輝く高空の女神に、挑発を続ける俺達の存在など掻き消されてしまったかも知れないが……



「……凄まじいパワーね、これならあのバケモノを消滅させることが出来るわ」


「ちゃんと当たれば、っていう話しだろ? まだぬか喜びしない方が良い、とにかくサポートするんだっ!」


『ウォォォッ! マ……マブシイ……コウゴウシイ……テキ、ハンシャスルヒカリ、テキ……』


「ほら、頭のハゲになった部分が反射するのを嫌ってんだ、もしかしたら避けるかも知れないぞあの攻撃は」


「仕方ないわね、でも海面からは頭しか出ていないの、どうにかして固定するわよっ!」



 そう言ってゴリゴリに接近していく精霊様、凄い度胸であることは間違いないが、しかしその行為は蛮勇とも取れる。


 あの距離では間違いなく巻き添え、もちろん女神の攻撃をではなく、それによって飛び散った周囲の汚水を被ることになってしまうのだ。


 いくらこの世界、下界においては右に出る者が居ないクラスの戦闘力を誇り、そして最も神に近いとされる存在の精霊様であっても、あの汚らしさは到底跳ね返すことが出来ない。


 それは単に汚水というだけでなく、息が臭い、脇が臭い、というか隅から隅まであらゆる部分が臭そうなおっさんの、もっとも臭いブツを水で溶いたモノなのだから……



「あと10秒程度で『マジカルゴッデススペシャルアタック』の準備が完了しますっ! しかしもう気付かれているのでどうにか、どうにか敵をあの場に引き止めて下さいっ!」


「仕方ないなっ、おい女神! その『マジカルゴッデススペシャルアタック』とやらはちゃんと当たるんだろうなっ?」


「ええ、命中率は57%ですっ!」


「そこそこ低いじゃねぇかぁぁぁっ! で、もし外したとして次弾装填までの時間は?」


「そうですね、1発目が10分程度だったので……30分といったところでしょうか、3発目なら1時間、それ以降撃つごとに装填時間が長くなって、命中率がダダ下がりになりますっ!」


「わかった、もし1発撃って外したら一時撤退だっ! 心して撃てよっ!」


「は、はい……保障は出来ませんが……」



 ここまで引っ張っておいて、まさかの必中攻撃ではないというかミングアウト、それを先に言って欲しかったのだが、やはり何というか、『ハズレ』ということもあるのだとは予想していた。


 だが命中率は50%を超えているのだ、半分以上の確率でヒットするのだ、そしてもし外したとしてもそれは、その責任は一切俺の所へは来ないのだ。


 だから女神には安心して攻撃を放って欲しい、自己の責任において、全てを背負って……と、準備が完全に終わったようだ、腕を前に突き出し、そのさらに前には濃縮された光の玉が、凄まじいエネルギーを持っていることを誇示するかのように輝いている。



「勝負どころよっ! リリィちゃんもセラちゃんも攻撃! 奴の動きを少しでも制限するのっ!」


『うぇ~いっ!』


「じゃあいきますっ! ハァァァッ! マジカルゴッデススペシャルアタァァァックッ!」


「な……なんと恥ずかしい技名なんだ……」



 女神の手から解き放たれる『マジカルゴッデススペシャルアタック』、それは俺でさえもこれまでに体験したことのない、超高密度に圧縮された力の塊。


 それは魔力でもなく、精霊様の用いる霊力だの、俺に備わっていた仙人や賢者と同じ謎の力でもない、女神特有の『神力』によって形成されたもの。


 掌サイズのわりには凄まじい存在感を放つその光の玉は、まっすぐにおっさんの、海面からはみ出した小島のような、髪の薄い頭を目掛けて直進する。



「当たりなさいっ! 女神の祈りがそれを実現しますっ……と、これで命中率が0.5%上昇しました、私の加護によるバフです」


「お前女神の癖にもっと良いバフ効果出せないのかよ……」


「失礼な異世界人ですね……あ、ほらっ、ちゃんと見ていないと当否を見届けることが出来ませんよ、頭皮への当否をっ」


「誰がつまらんことを言えとっ、まぁとにかく当たれぇぇぇっ!」


『当たれぇぇぇっ!』



 皆の祈りを込めた女神の攻撃、それが差し迫っていることに気付いてしまったおっさん。

 とっさに避けようと首を捻る、だがもう遅い、完全にその頭を捉えた光の玉は、そのままおっさんの中へ吸収されるようにして進んで行く。


 特に形状が変化してしまうとか、ぶつかった衝撃で頭の一部が消滅してしまうとか、そういった現象が起こることはないようだ。


 とにかくスッと入る感じのその光の玉は、まるで神々しい、位の高い何者かの魂が、邪悪で薄汚い器であるおっさんのボディーに埋め込まれた、そんな雰囲気であった。


 だが実際にはそうではない、女神の放った神聖な光の玉と、負のオーラが凝縮したようなものであるおっさんのその巨大なボディーは相反するもの。


 当然ぶつかれば、そして混ざり合ってしまえば打ち消し合うこととなる、つまり頭部から吸収されていった光の玉は、おっさんの内部で暴れ、その構成要素を次々に消滅させていっているのだ。


 まるで排水溝に流したそういう系の洗剤や漂白剤である、溜まりに溜まり、こびり付いたこの世界のマイナスの部分、それは元々おっさんの悲しい抜け毛であったのだが、それを浄化の力で溶かしていく……



『グォォォッ! ワ……ワレガトケテイク……チョウイタイデハナイカ……』


「めっちゃ効いてるみたいだっ!」

「てか消滅し始めているわよっ! 凄まじい力が……消えていって……」

「水と、それから何だか気体が出ているわね、浄化されている感MAXだわ」



 光の玉に入り込まれ、苦しみながら内部から崩壊していくおっさん……どうやらそのボディーと光の玉とで打ち消され、無毒化されて……アレか、水と二酸化炭素にでも分解されているのか。


 とにかく水蒸気と気体を口から吐き出しつつ、徐々に表面まで溶け始めているおっさん。

 グズグズと崩れて気持ち悪いのだが、元々の姿もそこそこキモいので特に問題は生じない。


 だが一応はサリナを連れて来るべきであったな、この巨大なおっさんの本体も、そして周囲の茶色く染まった海も、本来であればモザイク処理が必要なとんでもないビジュアルなのだ。


 で、遂におっさんの首がボロッと外れて海面に落ちる……浮かぶのか、どうやら中身が溶けて空っぽになってしまったようだな、いや、それは元からかなのも知れないが。


 そしてその外れ落ち、海面に浮かんだ首も、まるでアイスクリームの溶ける光景を早回しで見たような、そんな感じでジワジワと溶解し、消えてなくなっていく。


 もはやおっさんの声は聞こえない、最後は何やら叫んでいたようだが、とにかく邪悪な力も、負のオーラも一切感じなくなった。


 あとは残りの部分、しつこく残った汚れというか、その巨体の残滓が全て溶け切るのを待つのみだ。

 それは誰の目から見てもわかることだし、もはやおっさんが再びここへ出現することがないという事実も明白。


 やり切った感を出しつつ、女神も俺達と同じ高度まで下がってきたし、微妙な命中率であることが判明していた光の玉作戦は成功裏に幕を閉じたという認識で良いはずだ。



「……ふぅっ、どうにかこうにか敵を消滅させることに成功しました、神である私の加護に感謝しなさい」


「誰がするかボケ、お前はこの世界を統べる女神として当然のことをしたまでだ、人命救助とかで表彰されて、自分でそう言う善良な人々のことをもっと見習いやがれ」


「もぉ~っ、すぐそういうこと言うんですからっ」



 高度を下げながら頬を膨らます女神、その膨らんだ部分をツンッと突いてやり、とにかく最初の作業である、『おっさんの消滅』が終了したことを確かめ合う。


 だがまだ海の水は薄汚い茶色のまま、いくら女神が搔き集めた『聖なるエネルギーの塊』とはいえ、あの巨大なおっさんを内部から破壊し、消滅させたことによって燃え尽きたのだ。


 つまり、ここからさらに浄化作業をしなくては、この汚れはどんどんと広がり、海産物等に甚大な被害をもたらしつつ、やがて赤潮だの何だのとしてこの地を、いや海域を壊滅させるのである。


 そしてもちろんその浄化は俺にもセラにもリリィにも、さらには精霊様にも出来はしない。


 まぁ精霊様の力をフルに使えばそれなりに、といったところなのであろうが、この大量のウ……汚染物質を綺麗サッパリ消し去ることまでは、さすがに不可能であるといった感じ。


 ということでもう一度女神の力を……と、いじめ過ぎて少し拗ねているようだな、本当に子どものようなオネショ女神だ。


 まぁ、適当に褒め称えてご機嫌を取り、この後も馬車馬の如く、ボロ雑巾のように擦り切れるまで働かせてやることとしよう……



「……良いわね、完全に消滅したわ、もう気配がないことは確認したし、復活もあり得ない、水の大精霊である私のお墨付きよ」


「うむ、良くやった女神、ここで遂に、素直に褒めてやるとしよう、本当は俺達、お前のことを結構尊敬しているんだぜ」


「ほっ、ホントですかっ?」


「あぁ本当さ、その証拠にほれ、この結構高級な飴玉を3つくれてやろう、嬉しいか?」


「え、あっ……まぁ、すごく嬉しいです……要らないけど……」


「そうかそうか、じゃあ飴玉で糖分を補給したら、引き続き浄化作業に当たってくれ、もちろんそのぐらいのことは出来るよな? だって俺達の敬愛すべき大女神様だもんな、なぁ大女神様?」


「ええそうね、期待しているわ大女神様、これは私のようなちっぽけな精霊がこなせるようなミッションじゃないもの、ねぇ大女神様、そうでしょ? 大女神様の力がないと、この後休憩もなしにもう一度ハッスルしてくれない限り、私達はもうどうにも出来ない、明日の糧すら得られない、きっとそうに違いないわっ」


「……えっと、えぇっ、ま……まぁそういう感じです……敬うが良いっ」


『大女神様ぁぁぁっ! 本当にチョロくてお美しいっ!』



 本当に頭が悪いのだということが良くわかるのだが、とにかく女神は作戦を続けてくれるようだ。

 少し不機嫌そうであった表情も柔らかくなり、俺達の適当な演技によって完全に騙されていることが窺える。


 まぁ、そもそもこれだけディスられて『少し不機嫌』程度で済んでいる『世界の統治者』が存在していること自体が問題なのだが。


 その辺りに突っ込むと話がややこしくなるため何もしない、触れないでおくが、とにかくコイツを世界のトップに据えておくのがヤバいということだけは確かだ。


 というか神界、しかも自分の居所で結構なトラブルが発生していることが、今現在でも頭の片隅に残っているのであろうか?


 もし完全に忘れているとしたらアレだ、テンションが上がった子どものように、コッソリ隠してはいるものの、不安の種であった悪戯の痕跡についてうっかり忘れてしまう、その次元の知能しか持ち合わせていないということだ……



「よぉ~しっ! じゃあこれから海を浄化していきますっ! オペ開始! メスッ!」


「メスッ! じゃねぇよこの雌豚が、ふざけてないで真面目にやれよ馬鹿!」


「え? あれ? あの……女神たるこの私を敬う感じはどこへ……」


「おっと忘れてたぜ、すまんすまん、ついいつもの癖が出てしまっただけだ、頑張れ~っ! 皆尊敬しているぞ~っ!」


「わ、わかりました、単なる間違いであったということですね、では気を取り直して……真面目に……聖なる力を込めて……」



 危うく『実は尊敬などしていないぞこの馬鹿めっ!』という内心を看破されてしまうところであったが、女神の奴が類稀なる低能であったお陰でで助かった。


 いやはや頭が悪いのもたまには役に立つ、というかプラスに作用するものだなどと考えつつ、茶色の海面に聖なる力とやらを送り込んでいる女神を眺めておく。


 と、一瞬だけであったが、飛行機が乱気流にでも巻き込まれたかのように、乗っているリリィの高度がガクッと落ちたではないか……



「どうしたのリリィちゃん、大丈夫?」


『う~っ、さすがにお腹が空きました、あと飛び回ったんで凄く疲れました~っ』


「あら、困ったわね……どうする勇者様?」


「う~む、さすがに2人乗せてこれだけ長時間の飛行というのはアレか、そこそこキツかったか……仕方ない、この場の監視は精霊様に任せて、俺達は先に帰還させて頂くこととしようか」


「良いわよ~っ、この馬鹿……じゃなかった敬愛すべき大女神様がサボったりしないように、ちゃんと見張っておくから安心してちょうだい」


「おう、すまないないつも、とりあえずあの馬鹿……じゃなかった敬愛すべき大女神様を痛め付けるための鞭を置いて行こう、受け取ってくれ」


「わかったわ、じゃああの馬鹿の監視は任せてちょうだい、あの馬鹿のね」



 最後はもう普通に『あの馬鹿』と言い切ってしまった精霊様であったが、もちろん集中力を高めている女神の奴が、それをまるで聞いていないということは確認済みである。


 もっとも、本人、いや本柱は俺達が、その海に撒き散らされた取り返しの付かないレベルの汚染を、凄まじい力で浄化していくところを見ていると思っているのだ。


 それはもう尊敬に満ちた眼差しで、カッコイイ感じのオーラを放ちつつ、それでいて慈愛に満ち溢れた美しい自分の姿をウットリと眺めていると……


 まぁ俺は見ているには見ている、そのおっぱいを、動くたびに揺れるその無駄に肉の詰まった物体を、これでもかというぐらいにガン見しているのだ。


 だがもうリリィの体力が限界、女神のおっぱいなどいつでも、呼び出しさえすれば簡単に拝見することが可能だ、そして浄化作業など別に見届ける価値もない。


 そんなモノよりも何よりも、大切な仲間であり、一応はまだ『児童』であるリリィに過酷な労働をさせないことの方が大切であり、どちらを優先して動くべきなのかは明白。


 ということで、集中する女神には挨拶もなしに俺達はその空域を去る……振り返る度に海の茶色い部分の面積が減少しているな、相変わらず凄まじい力だ。


 まぁ、だからといってその力で誰かを攻撃したり、俺に逆らったりは出来ないはずだが……と、もう陸地が見えてきた、さすがに『筏』と違って早いな。



「はい到着っ! みなさ~んっ! なんと憎むべき敵は消滅しました~っ! さらに今、海の浄化作業も進んでいま~っす……異世界勇者様たるこの俺様のお陰でなっ!」


『ウォォォッ! 何か知らんが万歳!』



 こうして女神に働かせ、その手柄だけを横取りすることに成功した俺、1時間程度の後に、その女神はフラフラと、精鋭様に支えられながら帰還した。


 しかし何やら最初はなかった、良くわからないものを抱えているような……お土産の類なのかな……

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