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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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732 移動開始

「……そうですか、じゃああなたはこの町の住民を裏切り、私服を肥やすために犯罪組織に加担したと、そういうことで良いですね?」


「うぅ……あーっ、うぅーっ……」


「何を言っているのかわかりませんが、とにかく認めたということですね、答えになっていない以上肯定とみなします」


「・・・・・・・・・・」


「皆さんっ! まずはこの者が罪を認めましたっ! ガッツリ裁いて楽しく処刑しましょうっ!」


『ウォォォッ! 新指導者様万歳! 旧指導者死ねっ!』



 先程からオンステージで『断罪ごっこ』をしている新指導者様役のミラとその取り巻き役の仲間達。

 まずは国全体の首長を務めていた裏切り者を、適当にボコッて喋ることが出来ない状態に追い込んだ後、それなりの質問をしていく。


 基本的に沈黙は肯定、そしてあーだのうーだの、声になっていない呻きも肯定、気絶していたとしても裁きは中断せず、こちら側の言い分が全て通るというかたちで進行していく。


 もっとも、喋ることの出来る状態の被告人……もはや人ではない、人として扱われていない何かなのか、とりあえず『被告ゴミ』が何かを喚き散らしたり、真っ向から反論したとしても、そんなものは普通にガン無視である。


 少なくともコイツと、それから気付けを施され、絶望の面持ちで自分の番を待つボールカッターが、その民衆から与えられていた権限を私に利用し、犯罪組織に与する、いや今裁かれているコイツに関してはそれさえも利用して、とんでもないことを企んでいたという事実は曲げようがないのだから……



「え~っと、台本台本……えっと、その、『しんしどうしゃさまっ! このおとこはなんとっ! せかいせいふく? をたくらんでいた……ようですっ!』って書いてあります……」


「カレンちゃん、もうちょっと演技の勉強をしてからもう一度やってみましょうか、で、次の台詞は……精霊様ね、もうどっか行っちゃって姿が見えないわ」


「お前等超グダグダじゃん、良くそれで誰にも怪しまれないな」


「勇者様、愚民の方々はまずミラちゃんの格好に釘付けなんです、こうなってしまえばもう、多少の粗ぐらいは見えない、見ることが出来ないんです」


「いや、多少の粗どころじゃなくてだな、もうどうしようもない、救い難い状況なんだが……」


「その辺りもご愛嬌です、ほら、カレンちゃんなんかちょっとお芝居が下手な方が可愛らしいでしょう?」


「そこはまぁ……そうだとは思うが……」



 どうやら台本を作り、その進行をしているのはマリエルらしい、そしてそのマリエルと、手伝いをしていると思しきジェシカ、さらには司会等をやらされている秘書2人。


 そのいずれもがこの状況に疑義を呈していない辺り、もうこのぐらいのユルユルな感じで構わないのであろう。


 本来なら色々と指摘され、矛盾点を突かれ、あることないこと穿り返されて計画が破綻するところなのだが、この世界、というかこの島国のこの地域、この町においてはそうでもないらしい。


 まぁ、特殊というか、非常に低能な連中が集まっているこの場に限定されることなのかも知れないが、少なくとも世界最大、最強の国の王族であるマリエルが、ここは大丈夫だと自身を持って計画を進めているのだ。


 よほどのことがない限りは大丈夫なのであろうし、その『よほどのこと』というものは、種が生じる傍から誰かが発見し、花を咲かす前に刈り取ることが容易なのだ、そう、俺達の実力なら……



「それで、ここからはどういう感じで進んで行くんだ? ほら、あの古のおっさん、こっちをガン見しているだろう? 早く処刑を始めろってことなんだろうけどさ」


「あら、本当に気持ち悪い方ですね、そろそろ消滅してしまってもおかしくない頃合なのに、処刑を見届けたい一心で耐えている、必至で現世にしがみ付いている辺り、なお一層のこと気持ち悪いですね」


「あぁ気持ち悪い、あの必至で堪えている、我慢している顔が何かもうキバっているみたいで……来世は無機物、せめて無生物にはなって欲しいものだ」



 超気持ち悪い面構えの古のおっさん、それが群手に紛れ、必死顔でその忍耐力を発揮している。

 本当にキモくてキモくて仕方ないので、出来れば直ちに消え去って欲しいところだ。


 しかしアレは断固としてこの世に留まる構えだな、少なくとも今裁かれている馬鹿、裏切り者②の処刑をその目に焼き付けない限り、残留思念などの形でどこかに残ってしまうに違いない。


 目には見えないとはいえそんなものを吸い込んだり、触れてしまったりしたら大事だ。

 ただでさえあのおっさんから派生した『小さいおじさん』が、未だにどこかを舞っているかも知れないというのに……



「それでは次、かつてボールカッターなどと呼ばれ、他人の大切な『○○』を勝手に噛み千切ってしまう、この町の元首長をここへっ!」


『ウォォォッ! 俺達はどうしてあんな奴のことを信じていたんだっ!』

『裁きなんぞ良いから早く処刑を! 奴が死ぬところを見たいっ!』


「慌ててはなりませんっ! え~っとこの者は……うわっ、やっぱり近くで見ると凄まじいキモ顔ですね、よって死刑!」


『ウッシャァァァッ! 死刑! 死刑! 死刑!』



 もう面倒になってきたのであろうか、ミラも投げやりな感じで死刑を宣告し、人々もそれに応える。

 壇上のボールカッターは泡を吹き、ついでにもう1匹の裏切り者は無様に命乞いを始めた。


 直後、どこかへ行っていた精霊様が何か丸い、車輪のようなものを……車裂きの刑にでもするつもりか? いや、アレはダーツの的か、処刑の内容がいくつか書き込まれたもののようだな。


 おそらくは死刑の被執行者に自らダーツを投げさせ、それに従って処刑の内容を決めるのであろうが……それだと準備など、かなり安定しない感じになってしまうと思うのだが、大丈夫なのであろうか……


 いや、どうやらダーツの的は1枚だけではないらしい、まずは前菜から、その後いくつかの何かを挟んでメインディッシュ、命を刈り取るための処刑そのものへと向かうパターンだ。


 もちろんその中にはフォン警部補が求めていた『拷問』として執り行われるものもあり、その準備は抜かりないといった様子。


 というか、ダーツの的はほぼ全てのエリアが精霊様の準備が整っているもの、所々に『無罪放免』という枠もあるのだが、きっとそこにヒットした場合には適当に難癖を付け、ノーカンということでやり直しをさせるのであろう……



「……はいっ、じゃあそっちのあんたからね、そっちのPOLICEが拷問を所望していたから、まずはその内容を決めなさい……早くするのっ!」


「……あうっ、あーっ、うーっ!」


「うっさいわねっ! 早くしないと全身の細胞を悉く、ほんのちょっとずつ破裂させるわよっ!」


「・・・・・・・・・・」



 精霊様による恐怖の宣告を受け、裏切り者②はダーツをの矢を手に、情けなくプルプルと震えながらそれを投げる。

 もちろん的には届かない、本当にタマ無し野郎のよう……と、実際にそうであったな、これは失礼した。


 で、見かねたフォン警部補が代理して矢を投げる……ヒットしたのは当然の如く一番大きな枠、拷問の内容は『復讐されまくる』といったものなのだが、果たしてその内容は?



「はい出ましたっ! まずは最初の拷問、内容は『復讐されまくる』よっ! え~っと、事前調査によると、この馬鹿死刑囚は昔、さんざん他人をいじめて、しかもごく最近までそれを自慢げに語っていたと、皆、こういうのどう思うかしら?」


『許せねぇぇぇっ!』

『コイツ! 高い理想を掲げて首長になったのにっ!』

『やっぱりっ! 生まれつきの金持ちはこんな奴ばっかりなんだっ!』

『殺せっ! いじめ殺してやれっ!』

『やられた本人達を出すんだっ!』

『ションベン飲ませてブレーンバスターしてやれっ!』


「はいはいっ、もちろん参加者としてその被害に遭われた方々もお呼びしてるわよ、じゃあどうぞっ!」



 どこからともなく表れ、オンステージした謎の集団、顔は隠されているのだが、それでもなお裏切り野郎に対する強い怒りを抱いていることが良くわかる連中だ。


 で、その連中による散々のリンチ……本当にブレーンバスターしているではないか、一部、一般人ではなく高度な格闘術を仕込まれた者が紛れ込んでいるようだな。


 ボコボコにされる裏切り者②と、それを横から眺め、次は自分の番だと悟って青くなるボールカッター。

 というか、これお拷問に代えて情報を引き出すというのはわかるが、2匹共、もう人間の言葉を喋ることが可能な状況にはないのだが?


 と、ここでフォン警部補が持って来たのは謎の肖像画セット、どうやら良く憲兵の詰所の前に貼られているような、『おいっ! ○○!』系のポスターを引き伸ばしたものらしい。



「オラッ、この中で知っている奴が居たら指し示せ、どいつだ……コイツ、それからコイツか、そうかそうか、まぁ小物だが野放しにしてはおけないな、場所は……まぁ良い、地図を見せてやるからこちらも指し示せ……早くしろボケェェェッ!」


「ふぐっ……おぇぇぇっ……」


「吐いてねぇで早くしろってんだボケが、死にたいのか? 殺されたいのか? まぁだとしても情報提供が先だっ! 現状では死という最終的な安楽すら貴様から逃げていくということを忘れるんじゃねぇ、このボケッ! オラッ!」


「ぐぼっ……べげっ……うぅぅぅっ……」



 もはやリンチに加わっているかのようなフォン警部補、これが不当な取調べというやつか。

 まぁ凄くオープンに公開された取調べなわけで、これで問題がないのであれば後々どうこうということはないであろう。


 で、目的である犯罪組織の残党、そのうち高位の者の居場所をザックリとだが突き止めることに成功したフォン警部補は、満足して拷問を終え、最後の蹴りを喰らわせてその場を去った。


 その後も裁きは進められ、およそ3時間後には生焼けでボディーのパーツもそこかしこに飛び散った状態の2匹が、苦しそうに呻き声を上げるだけの、ほぼ全てが終わった感の醸し出される処刑ステージ。


 集まっていた群衆は徐々に解散をはじめ、また燦々と照りつけていた太陽も、そろそろお帰りの時間だと言わんばかりに傾き始める。


 そういえば古のおっさんの姿が……っと、かなりうっすらとだが、散り散りになった人間の中に透けて見えているではないか。


 良く見えないが、かなり『満足した』といった感じの表情であることは確認出来た、このまま黙って消えてくれれば特に文句は言わない。


 あと可能であればだが、戦闘の際に撒き散らした害悪……というか『小さいおじさん』が、もう全て消失してしまっていることだけ保証して欲しかったのだが……



「さてと、後の片付けは……まぁ誰かに任せて、私達は一旦部屋に戻りましょ、明日以降になるけど、出発に向けて話し合いをしないとよ」


「だな、新指導者様、というかミラがこの地から去ることについて合理的な説明を付さないとだし」


「あとは船の補強とか、色々やることがあるわ、まぁ船の方はあの岬の先端に戻ってからってことになるでしょうけど」


「岬の先端か……そういえば拠点化してあったんだったな、いや、そこへ行く、そしてそこからこの地域を見守る……みたいな感じで『新首長様』がこの地から離れるのもアリかもだよな……」


「確かにそれはなかなかの作戦ね、こんな場所だし、あの岬の先端までわざわざ行って、そこに『新指導者様』が居るかどうか確認する人なんて、滅多に出現しないはずだわ」


「出現って、魔物みたいに……とにかくアレだ、もし疑り深いような奴が来たときのために対策、そうだな、例えば人前に姿を見せると不思議な力が失われて……みたいなのを用意しておこうぜ」



 ということでその後、部屋に戻って皆と話をし、翌日の会議で紋々太郎達に伝えるべき内容を決定しておく。


 もちろん先程セラと話したザックリな内容を煮詰めたものだ、今回の作戦でどうにかなってしまうようなアホな連中であるから、この後またおかしな、適当なことをしてもおそらくは大丈夫であろう。


 そして翌朝、その内容を紋々太郎、新キジマ―に伝え……フォン警部補は山へ『残党狩り』に出かけていて不在であった、かなり広い平野で山は遠いというのに、本当にご苦労なPOLICEだな。


 で、そのフォン警部補が戻ったのはその日の夕方、俺達が庁舎のベランダで、周囲の迷惑など顧みることをせずモクモクと煙を上げるコンロを用い、黙々とバーベキューの肉を突いていたときのことであった。


 ……と、何か嬉しそうな感じだが、服が返り血塗れの時点で相当な成果があったのであろう、だがこの顔はまた別の何か、指名手配犯の確保などよりも、もっと重大で激アツの発見をした際のもの、そうに違いない。



「なぁフォン警部補、何かニヤニヤしているようだが、何か良いことでもあったか? もしその顔で町を歩いていてナンパされたとかであれば、それは詐欺だから気を付けた方が良いぞ、後で高いツボとか絵画を買わされる……まぁPOLICEにそんなこと言ってもわかっているだろうがな……」


「いやそうじゃないんだ勇者殿、実はな、ここからちょっと北西へ行った場所に川があってな、そこで犯罪者狩りをしていたんだが、そこで川を下って木材を運ぶ業者らしき連中と出くわしてな」


「それでどうした? 木彫りの熊でも貰ったのか?」


「そうじゃない、この地に犯罪者が蔓延って以来開店休業状態だったらしくてな、あ、この地に木材を運び込めなかったってことな、それで俺達が犯罪組織の連中を排除したって言ったら喜んでさ……」


「で、感謝されて悦に入っていたと、本当にだっせぇPOLICEだな、人命救助して表彰された犬かってんだ」


「いや、それもそうじゃなくてだな、その業者らが川下りで海まで木材を運ぶだろう? その木材を船の修理や改造のために提供してくれるってよ、かなり余っているってことだし、是非にということでたのんでおいたぞ」


「おぉっ! それはそれは、やるじゃねぇかっ!」



 ここにきて普通のおじさんであったフォン警部補が輝いて見えるようになった、これから岬の先端の拠点へ移動して、そこで船をどうこうするために木材を集めて……


 それを『新指導者様』の件と並行してやっていかなくてはならないという現実に嫌気し、こうしてバーベキュー大会に逃げていたところなのだが、その懸案事項のひとつ、木材調達がこうして解決されたのである。


 となればもうすぐに移動開始だ、寝て起きて、朝には出発出来るよう、他のメンバーとも調整しておかなくてはならない……



 ※※※



「……うむ、では急遽だが出発することにするよ、あのバケモノだらけだった海岸から船へ、そして岬の先端を目指す、では出発」


『うぇ~いっ!』



 翌朝、庁舎の前で執り行った簡単な出発式の後、2つのチームに分離してそこを発つ。

 まずは俺や紋々太郎、フォン警部補などの『野郎チーム』、そしてもうひとつはミラを神輿に乗せた『新指導者様チーム』である。


 もちろん俺達のような、見目麗しくない野郎共はコソコソと、日陰に隠れる感じで移動していく。


 一方の『新指導者様チーム』は凄いことになっている、金貨や銀貨が飛び交う中、それを搔き集めつつ、まるで紙でも降臨したかのような騒ぎの中での大行進だ。


 まぁ、もちろん転がって来た小銭や貴金属ははキッチリ拾って回収しているのだが、向こうはもう、自分達に向かって高価値なモノが投げ付けられているのだから凄まじい。


 そしてもちろんその移動も、町と外界を隔てる高い城壁を越えると徐々に収束していく。

 道中、民衆共には『新指導者様が半島の、そして岬の統治のためにお発ちになられる』という旨の説明をし、納得を得ていたとのこと。


 と、ここで俺達野郎チームにはまた別のミッションが与えられる、昨日フォン警部補が取り付けていた協力の約束、それを確認し、実行に移して貰うため、一時その北西の川岸へ立ち寄る必要があるのだ。


 つまりここで『新指導者様チーム』とは分離し、俺達は野郎4人で寂しく、きっとこちらも野郎、というか豪快な筋肉のおっさんばかりであろう林業者と共に、木材で造った狭い筏に乗って川を下り、海へ出ることになるのであろう……



「じゃあご主人様、お土産を買って来て下さいね、また後で~っ」


「おいリリィ、お土産……っていうか店とかないからね絶対、期待しないでくれよなっ!」


「え、でも途中で買って来るのは無理でも、狩って来るのは……」


「買ってじゃなくって狩って来るのか……無理だな、諦めてくれ」


「じゃあもうティッシュ配りしませんっ!」

「あっ、私もですよっ!」


「……おう、好きにしてくれて構わんぞ」



 謎の期待を懸けられ、さらにそれを真っ向から裏切った後、俺を含む『野郎チーム』いや『残念チーム』は、きらびやかな装飾にまみれた『新指導者様チーム』と分離、一路北西の川岸を目指す。


 しかも普通に徒歩で、半日以上要するらしいという旅路、それを女の子と一緒ではなく、なんとこのおっさん(紋々太郎)とおっさん(フォン警部補)、それから微妙におっさん気味の人(新キジマ―)と、最後にお兄さん(俺)という、激サム4人パーティーで行軍するのだ。


 途中、何度かもう消えてしまいたい、路傍の石ころに転生したいという思いが芽生えたのだが、グッと堪えて足を前に出す。


 そんなことを繰り返しているうちに、平野の先、そこだけ木々が生い茂り、明らかにこれまでとは違う何か、少なくとも水のあるエリアが存在していることが確認出来た。


 小走りになるフォン警部補を追うようにしてその先に見えるエリアへと向かう、そして見えてきたのは……大量の丸太だ。


 広い川が連なったその一番こちら側の岸に、溢れんばかりに並べられた太い丸太、それはまるで砦でも建造するつもりで集めたかの如くであった。


 これを使えばおそらく、船の修理どころか新しい、もっと巨大で堅牢な船を新造することが出来そうだな。

 交渉し、ありったけの木材を俺達の拠点である岬の先端は、どうにかして運んで貰えるよう努めよう……

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