715 敵共による恐怖の計画
「オラオラァァァッ! 死んどけやゴミ共がぁぁぁっ! 指名手配でもない雑魚は逮捕するまでもないんじゃぁぁぁっ!」
「フォン警部補殿、ここにきてかなり気合が入っているようだな」
「あぁ、頑張りすぎて周りが見えなくなって、うっかりで二階級特進しないと良いんだが……」
破壊目標へ向けて走り出してすぐ、最初に遭遇したのとは別のグループと思しき敵雑魚キャラの集団に囲まれてしまった。
さすが無限沸きだけあって、全く同じ見た目のモヒカンやスキンヘッドが、次から次へと出現しては襲い掛かってくる。
そして今度はフォン警部補が対応、格闘技を用いて素手でその雑魚キャラを討伐し、さらにその圧で敵の集団がそれ以上俺達に近付くのを阻止しているのだ。
「早くっ! 地下へ続く階段はもうすぐそこよっ!」
「うっせぇな黙っとけこのカマ野郎がっ、フォン警部補、ここは任せられるか?」
「おう、これ以上増えられたらわからんが、どうにかしてみようとは思っている、アチョォォォッ! ホワチャァァァッ!」
「なら良かった、俺達は先へ進んでいるから、あとその掛け声、キモいからやめた方が良いぞ」
「・・・・・・・・・・」
指摘を受け、無言で敵を討伐し始めたフォン警部補、余計な奇声を発することがなくなったため効率が上がり、これなら十分に時間を稼ぐことが出来そうだ。
ということで二度目の『この場を任せる』を発動し、俺とジェシカの2人はカマ野郎ナビに従って目的地へ。
案内通りに進むと非常階段のような場所へ辿り着き、そこからどんどん下へと降りていくことになる。
途中から階段が新しいうえに、同じ場所の真下ではなく別のエリアへ、斜めに降りながら向かう感じになった。
おそらくは『刑場』へのアクセス向上のため、最近になって増設した階段なのであろう。
こうなるとこの先にあるそれが、単にその辺の犯罪者、もちろん犯罪組織の連中ではなく、この地に蔓延る在来の犯罪者なのだが、その処刑のために使われているのではなく、また別の意図を持って頻繁に使われているということがわかる。
しかし長い階段だな……と思ったら明かりが見える、そして僅かではあるが、そちら方面から音も響いてくるではないか、そろそろ到着と言うことか……
「おいカマ野郎、どこに居やがる? そろそろその刑場とやらに到着するんだよな?」
『あら、そっちから話しかけてくるなんて、いよいよアタシの魅力に堕ちたのかしら? でもごめんなさい、今は天井が遠いから出現出来ないのよね、だからそのまままっすぐ……見たところによると今も処刑が、というか生贄の儀式が執り行われているようだわ、用心して進んでねっ』
「相変わらず気持ちの悪い奴だな、お前は後で殺すから、で、とにかくこのままあの明かりが漏れている方へ向かえば良いんだな?」
『そうよ~んっ、気を付けてねぇ~っ』
「チッ、ムカつくカマ野郎だぜ全く」
「主殿、あんなのに対して嫌悪感を抱いている暇ではないぞ、そろそろ静かにして、ゆっくり接近しないと」
「おう、そうだったそうだった、危うく『あのカマ野郎のせいで』作戦に綻びが生じるところだったぜ」
『自分のせいだと思うわよんっ』
「うっせぇ黙れボケッ! よし、じゃあこのまま慎重に、見つからないように行くぞ……敵らしき奴等の人数は10ぐらいだ、雑魚ばっかりだけどな、それと……」
「それと何だ主殿?」
「おそらく処刑されているのが2人か3人居る感じだ、それがどんな奴なのかとかはわからないけどな、とにかく敵らしき反応がそういう系の動きをしているぞ」
明かりの漏れている『刑場』、そこで蠢いている敵の数を把握しつつ、ついでに何が行われているのかも推測しながら、抜き足差し足で接近して行く。
急ピッチで造り上げたせいか、建て付けが悪く隙間のある扉から中の様子を覗く……明らかな西方新大陸の犯罪者が5匹、やけに調子に乗った感じで何かをしているではないか。
そしてその5匹に取り囲まれているのは、あんな連中反撃してしまえば一撃で葬り去ることが出来るのではないか? という次元の強そうなおっさん2人。
現地人であること、そして屈強さからして、あの獄長が支配していた中央キャンプから連れて来たおっさんであることはもう間違いないのだが、どうやら未だにボールカッターの術式の影響下にあり、抑圧されて反撃が出来ない様子だ。
「……なるほど、あの2人を磔にして、残虐な感じで処刑することによってエネルギーを抽出するのか」
「うむ、この間見せて貰った骨になっても続く踊りとは異なるようだな、それと主殿、あの磔台の後ろを見るんだ、何だか光の粒のようなものが……いまひとつ消えたな……」
「アレか、もしかしてストックされているエネルギーの塊とかなんじゃないか? ちょっと様子を見てみよう」
「しかし、それだとあの善良そうなゴリマッチョの2人が殺害されてしまうぞ、良いのか?」
「……まぁ、良いんじゃね別に、世界は広いんだゴリマッチョの代わりぐらい、それこそいくらでも居るわけだからな」
「とても勇者とは思えない発言だな……」
そこからは正義に燃えるジェシカを宥め、無抵抗のゴリマッチョが犯罪組織によって処刑、いや生贄に捧げられるのを観察することに。
まずは犠牲者の2人を磔にし、そこから……とろ火でじっくり炙っていくのか、これはなかなか死に至らないはずだ。
まぁ、その分だけ犠牲者から多くのエネルギーを集めることが出来るのであろうが、死の間際に必死になって、うっかり術式の抑圧が解ける、つまり抵抗を始めるとは思わないのであろうか?
きっとあのゴリマッチョのうちどちらかが、もう全身火達磨になる、あと10秒も放っておけば死亡するような状態から暴れだしたとしても、間違いなくこの場の敵キャラ共は瞬殺、その場で砕け散って地獄に落ちるはずなのだ。
と、そろそろ処刑が始まるようだな、別の、さらに奥の部屋からやってきた、これまた同じようなビジュアルのチンピラ犯罪者野郎が、少量の油が掛けられた犠牲者に対して火種を投げ付ける……
『ギャァァァッ! アヅゥイィィィッ!』
『ヒョゲェェェッ! ヒギョギョギョギョッ! ギョエーッ!』
『おいおい大丈夫かよこれ? いつもの奴等よりもだいぶ力が強いぜ』
『大丈夫だ、何てたってあの変な奴、偉そうな市長? の安全宣言だか何だかが発動しているんだからな』
『なら良いんだが、しかしアレだなこいつぁかなりの力を放出しそうだな』
『あぁ、これなら先程から急速に、というかリポップした途端に潰されている獄長のストックもかなり溜まりそうだぞ』
『ストック100ぐらい増えると良いんだけどな~、さすがにそこまではムリか……』
敵の話を盗み聞きした限りでわかることは、やはりこの場が単なる刑場ではなく、生贄の儀式を執り行っている場所であるということ。
じっくりジリジリと焼かれる罪もないゴリマッチョは、やがて静かになり、虫の息のまま炭に、そして真っ白な灰へと変わっていく……思いの外高温で焼かれているようだな、まぁそれはどうでも良いことだが。
で、2人が完全に絶命したとみて差し支えない状態へと変化してからしばらく後、磔台の後ろ、先程ジェシカが指摘した光の粒が一気に増殖する。
大成功だ、これでしばらくは生贄を捧げなくとも、獄長が本当の意味で死んでしまうことはないと、手放しで大喜びする犯罪者共、これもジェシカの予想通りのようだ。
「……まぁ、そういうことだな、犠牲になったマッチョには申し訳ないが、その死は無駄にならなかった、俺達に有用な情報を提供したんだ、ぜひそのことを誇りに思いながら成仏して欲しいところだな」
「本当に酷い異世界人だな……それで主殿、ここからどうするつもりだ? 武器は粗末な短剣ぐらいしかないし……」
「うむ、アレを全部殺すとなると、おそらくは途中から素手でブチュッと……それだけは確実に避けたいところだな、もう今日は何度風呂に入らされるんだって感じだぜ、ジェシカ、いつもみたいにまた奇抜な作戦を頼む」
「突然そんなことを言われてもな……あいわかった、何とかしてみよう、ボールカッター戦の焼き直しにはなってしまうと思うがな……」
どうせまた尻だのおっぱいだのを露出して戦うのであろう、そう思った俺の隣で、既にジェシカはおっぱいをポロリしていた。
出会ったばかりの頃の誇り高い、剣の業で敵を討つジェシカはどこへ行ってしまったのであろうか。
最近は陵辱されたり露出したり、叩かれて喜んだりと、どこにでも居る普通の、ごくありふれた変質者に成り下がっているではないか……と、まぁそれはそこそこ元からか……
ちなみに扉の向こうに展開している敵は、これまでこの庁舎内で見てきた敵のような『無限沸き』ではない様子。
つまりここの奴等を討伐してしまえばそれでお終いだ、2人でも余裕でどうにかなる範疇だな……
「では行くぞ主殿、私の活躍を見ておけっ!」
「お、おぅ、いってらっしゃい……」
「ウォォォォッ! 天誅だぁぁぁっ!」
「・・・・・・・・・・」
扉をバンッと開き、いきなり中へ突入するジェシカ、もちろんおっぱい丸出しである。
当然一斉にこちらを見る敵の集団、ポカンとして……あ、俺はこの変態とは無関係の単なる侵入者ですのでお間違いなく……というまでもなく、敵の視線は後ろの俺へも注がれてしまった……
「貴様等! この地を蹂躙し、人々を苦しめるとは不届きにもほどがあるぞっ! このおっぱいに懸けて成敗してやるっ!」
「なっ、何だこのイイ女はっ⁉」
「見ろっ! おっぱい丸出しじゃないかっ!」
「本当だっ! しかも超巨乳だぞっ!」
「お……俺はもう我慢が出来なくて……ぬっ、ぬわぁぁぁっ!」
「ふんっ、早速『爆珍』したか、この甲斐性なしめが、次……貴様も反応しているようだな、私のこのおっぱいにっ!」
「クソォォォッ! 揺らすな、そんなにプルンプルンさらたら俺も……ぬわぁぁぁっ! お、俺の珍がぁぁぁっ!」
立て続けに『爆珍』してしまった敵のモブキャラ2匹、何だろうこの戦いは? 真っ当でないのはもう明らかなのだが、それにしても意味不明の度が過ぎている。
まぁ、ジェシカがそれで良いというのであれば、そして敵もそのジェシカの姿に反応し、爆珍するまでのほんの一瞬の間だけでも、いい夢を見ることが出来たというのであればそれで良い、これはアレだ、有情の拳とかそういう類の攻撃なのだ。
で、今のところ倒れたのが2匹で、反応しつつも倒れていないのが5匹、さらに奥からも敵がゾロゾロと出て来たことにより、驚きの方が先行しておっぱいなどどうでも良い様子の奴が10匹……
思いの外効果が出ていないようだな、ジェシカのダイナマイトおっぱいはあのボールカッターさえも一時は反応し、破裂寸前まで『立ちん坊』した代物だというのに。
やはり他の仲間達、例えばルビアやマーサ、マリエルなどの協力あってこそのおっぱい攻撃であったか。
仲間の力は偉大、そしておっぱいとおっぱいの相乗効果は山をも揺らすのだ、もちろんプルンプルンと。
まぁ、ボールカッターにしても『ロリコン瞑想』によって幼女以外への反応を拒絶したため、実質ジェシカのおっぱい攻撃で討伐したのはこの場での2匹が最初なのか。
今反応している5匹も『立ちん坊』はしているようだが、若干内股になっている程度であり、まだ『爆珍』してしまうような感じではない。
反応していない奴の中には、冷静さを取り戻してもそのままの奴が居る可能性は高いし、このままだと全ての敵をおっぱい攻撃のみで葬り去るのは難しいであろうな……
「それでジェシカ、これからどうするつもりなんだ? まさかここでネタ切れ……ということはないよな? 断じてないよな?」
「……すまない主殿、攻撃役を代わってくれ、私には2体の討伐と、それから5体にダメージを与えるのが精一杯であったようだ」
「ダメージって、あの5匹は喜んでいるだけだぞ、むしろパワーアップしている可能性さえある、どうすんだこれ?」
「わかった、では尻を出すので叩いて仕置きしてくれ、もちろん敵の方に向けてだ、ほれっ!」
「こっ、これはぁぁぁっ!」
「この女、尻まで出しやがったっ!」
「全く何やってんだお前はっ! 望み通り尻叩きの刑を喰らえっ!」
「きゃいんっ! も、もっと強く叩いてくれっ、あうぅぅっ! も……もっとだっ!」
「コイツ! Mだったのかっ! 最高過ぎるだろっ!」
「俺はもう限界だぁぁぁっ! ぬわぁぁぁっ!」
「状況が飲み込めないが……おっぱいに……尻だと? ぬわぁぁぁっ!」
「良くわからんがぬわぁぁぁっ!」
何とここにきて追加で3匹、しかもうち2匹は元々反応していなかった奴が爆珍してしまったではないか。
どうやら強気でおっぱいを出してアピールしていたジェシカが、尻を叩かれて喜ぶMであったというギャップに反応してしまったようだ。
ついでに元々反応していた5匹のうち残っている4匹も……ここで爆珍、鮮血を吹き出しながらその場で果て、倒れ伏してしまった。
さらに後ろの残り8匹、うち5匹が猛烈に反応、これはいくな……追い打ちのため、ここでジェシカを強く打ち据えて……
「悪いジェシカめっ、この強烈な一発を喰らえっ!」
「ひぎぃぃぃっ! あっ、主殿、今のをもう1発くれ、いや下さいませっ!」
「この変態がっ!」
「あぃぃぃっ!」
『こっ、この女! どうなってやがる……ぬわぁぁぁっ!』
……ここにきて一気に6匹が爆珍、その場に倒れて意識を失う、ちなみに死亡している奴も居るようだ、こんな死に方をしたなど、地獄に堕ちた後には誰にも教えることが出来ないであろう。
で、まだ残りの2匹、片方は最初のおっぱいプルンプルンで多少の動きを見せたものの、もう片方は全く反応していない、まるで賢者のような面持ちでこちらを見ている。
拙いな、このままではどちらも討伐することが出来ないぞ、まぁ普通に殴れば一撃なのだが、そうするとまた手が汚れたり、服に返り血が付着したりして非常に汚らしい。
もう一押し、いや、そもそもこの2匹はドMには反応しないようだな、つまりジェシカの力、魅力ではもうどうにもならない。
今更『実はドSの最強女でした』、などという主張や行動を取らせたとしても、ここまでの醜態を晒してしまった以上、もはやそれで反応してくれる可能性は低いといえよう。
「どうするジェシカ、こりゃさすがにダメそうだぞ、特にあの無表情にして無反応、悟りでも拓いたかのような顔をした奴はな」
「ダメか、せっかく痛い思いまでしてアピールしたのに……いや、でもなかなか良かったぞ、ちなみに私はもうダメだ、ダウンさせて貰う……きゅぅぅぅ……」
「あっ、気絶しやがってこのっ、おいっ……しょうがない奴だな……」
頼みの綱のジェシカはもう完全にせんとうふのうに陥ってしまった、ということはつまり、ここから先、残りの2匹の雑魚キャラの討伐は俺に一任されたということ。
実に面倒な役回りを授けてくれたものだが、天才勇者様であるこの俺様が、持てる限りの力を駆使して、確実に、絶対に手を汚すことなくこのゴミ共を討伐してみせよう。
だが具体的にどうやって……何かを投げ付けるか?いや、それでもこの狭苦しい刑場だ、敵のブレイクしたボディーから出た変な汁が、飛沫となってこちらへ飛んで来ることは確実。
となれば物理ではなく、魔法……いや、究極のアイテムがあるではないか……
「おいお前等! このおパンツを見るが良いっ!」
「そ……それは?」
「この大変あり難いおパンツはな、この世界屈指のドS、究極の拷問者にして趣味は人殺しという、とても神に次ぐ身分を有しているとは思えない性格の、水の大精霊様のおパンツなのだっ!」
『なっ、なにぃぃぃっ!?』
「しかも今日、昼頃までこれを穿いていたということを付け加えておこう、そしてお前等にくれてやるっ!」
「あっ、丸まったドS精霊様のおパンツが顔にっ……ぬわぁぁぁっ!」
「衝撃でこっちに飛んで……しまった、ついキャッチして……ぬわぁぁぁっ!」
「フッ、爆珍しやがったか、哀れな奴等め」
ドMではなくドSに反応しがち、2匹のその特性を看破した俺は華麗に、極めて短時間で戦いに勝利した、だがこの空しさは何なのだ……まぁ、とにかく刑場を破壊しつつ、意識がある敵から事情を聞こう。
「オラァァァッ! 何じゃこの光の粒子はぁぁぁっ! 消え去れっ! 勇者の力でこの世から去れっ!」
「あ……あぁ……獄長の魂のストックが、全部……消え……て……」
「おう、これで獄長はもうリポップしないんだな? だが何でこんな回りくどいことをした? 刑場なんか改装しやがって、生贄なら普通に、収容キャンプの中で虐殺とかしてしまえば良かったろうに、おいどうなんだそこの雑魚野朗、お前に聞いてんだよっ!」
「そ……それには壮大な、この地で最強の戦士を生み出す、まさに世界規模のプロジェクトが……」
「はぁ? 何が世界規模なんだ、もっと詳しく教えろ、さもないと生皮を剥いで殺すぞ」
「そのプロジェクトは……ダンゴを、究極のダンゴ精製システムを……も……」
『そこまでだっ! 余計なことを言うでない、西方新大陸のモブキャラよっ!』
「この声はっ……」
「いや誰だよ? どっから喋ってんだ、出て来やがれっ!」
『誰だと? 我に向かって、この地を統べる首長にして、侵略者とも対等に渡り合う我を知らぬとは、貴様馬鹿だな?』
「良いから出て来やがれこの臆病者がっ!」
どこからともなく響き渡る声、通常であれば、このタイミングで暗がりから何者かの影が……という流れになるはずなのだが、その気配は一向にない。
で、その代わりといってはアレなのだが、刑場の天井板がパカッと開き、そこから何か赤く染まった丸いものがドサッと……殺害されたカマ野郎お珍の首ではないか。
野郎、どうやら皇帝的ポジションの裏切り者、その本人であることは間違いないようなのだが、気配もなければ姿形もない。
そして、倒れたモブキャラが喋りかけた、『究極のダンゴ精製システム』、そして『世界規模のプロジェクト』とは一体何なのか……




