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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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706 町の内部事情

「おいっ! 止まれっ、止まれって言ってんだっ! 貴様等は何者だっ?」


「何者って、『良いもん』だよ、見てわからんのかこのド低能野郎」


「ふんっ、何だか知らんがここは通さんぞ、怪しすぎるんだよ、特にそっちの……チンパンジー?」


「あっそ、じゃあコイツだけ残していくわ、殺して喰っても構わんぞ、もう要らない奴だからな、ゴミだし臭いし、あとシャブばっかりキメてラリってやがるからよ」


「……酷いことを言う奴だな、とにかくここを通すわけにはいかないっ! この町はもう西方新大陸の革命組織のために明け渡されたのだっ!」



 敵の本拠地である町の入口、高い城壁に囲まれたそれに設置された巨大な門である。

 そこを守る兵士のような犯罪者、もちろん西方新大陸系の人種なのだが、まずはそいつを殺さず、手も出さずに話だけ聞く。


 だがやはりおいそれと町の中へは入れてくれないようだ、こうなったらもう周囲の敵を全部殺すしかないのだが、しかしどうしてこの連中には『俺達が自分らの敵である』という情報が伝わっていないのだ?


 もしかして『ホウレンソウ』、どころか各部署間の意思疎通が全く出来ていないのか? だとしたらここまでの巨大な組織を運営することは出来ないような気がする。


 まぁ、ここの連中は最初から捨て駒にされていて、もしこの場所で攻撃があったら奥から本隊がわらわらと……という具合の作戦なのかも知れないが、そこは良くわからないので特に予想などしない。


 いや、それにしてもおかしな点がひとつ、先程俺達が最初のもの、ツイストしたような感じの粗末なモノを、そして精霊様が残りの4本を、それぞれ破壊したダンゴ精製塔。


 それが勢いよく倒壊した瞬間の衝撃を、遠く離れているとはいえさすがに感じ取ったはずなのだが、どうも『そんなことにさえ』気付いていない様子の門番共。


 これはさすがに異常の極みだ、バグッているとしか思えない、まさかダンゴのキメすぎによる副作用で、認知能力か何かが大きく劣ってしまっているのか? だとしたら今までの会話にも全く意味がなかったということだが……


 とまぁ色々不審な点は多いのだが、とにかく町の中へ入れてくれないということだけは事実であるため、そろそろこの辺りで『雑談』を打ち切り、命を刈り取るフェーズに移行しなくてはならないのは確実。


 しかし敵の数が多いうえ、かなり広い範囲に散っているため殺し辛そうだな。

 何か敵を1ヵ所に集める方法が……騒ぎでも起こせばすぐに集合するのではなかろうか……



「なぁフォン警部補、ちょっとお願いがあるんだが」


「どうした? 死ねとか以外ならだいたい可能だぞ」


「うむ、ちょっとここで素の姿……じゃなくて変質者を演じて欲しいんだ、フル○ンで踊るとか、奇声を発しながらフル○ンになるとか、あとはフル○ンで歩きながら自らがフル○ンであることを大々的に宣言するとか、そんな感じだ、いつもやっていることだから簡単だろう?」


「やってねぇよっ! ちょっとまて俺はPOLICEだぞ、そういうことをするんじゃなくて、そういうことをする奴を逮捕するのが俺の職務なんだ、わかるか?」


「そうだったのか、てっきりフル○ンになって暴れるのがPOLICEの役割だと思っていたぜ、ということでよろしく」


「全く仕方ないな……うお~いっ! 俺はフル○ンだぞぉぉぉっ! 見やがれっ! 俺はフル○ンなんだっ! 参ったかこの野郎共めっ!」


『変質者が出たぞぉぉぉっ!』

『出合えっ! 出合えぇぇぇっ!』


「……なぁ、今のってホントにやる感じのノリだったか?」



 突如としてフル○ンとなり、大暴走を始めたフォン警部補、当然敵の門番やその他周囲を警戒していた兵士というか犯罪組織の構成員というか、まぁ犯罪兵とでもしておこう、それらが一斉に確保に向かった。


 まさかフル○ンで暴れているのがPOLICEで、それを取り押さえようと、可能であればそのまま殺害してしまおうと試みている側が犯罪者とは。


 この実に滑稽な状況を十分に堪能したいところだが、せっかく集まった敵をこのまま解散させるわけにはいかないし、そのチャンスを、自らの尊厳を打ち捨ててまで作出してくれたフォン警部補に申し訳が立たない。


 あと、純粋に汚いおっさんPOLICEが、フル○ンでその辺を駆け回っている光景を見たくはない。

 それは俺も同じだし、むしろ大喜びしているのは本人ぐらいのものである、ホンモノの変質者だな。


 今日もこの後普通に夕食の時間がやってくるのだ、この暑い夏に栄養を確保するために、そこでしっかりとした食欲を発揮することが出来なくなるような光景を目の当たりにし続ける、それは願い下げだ。


 ということで敵を殲滅し、ついでにフル○ンの変質者も抑止するための行動に移る。

 行動といってもまぁ、普通にセラとユリナが2方面から、クロスするように魔法を放つだけなのだが。


 で、片方からは暴風、片方からは巨大な火魔法が飛び、それの交錯地点は敵と、敵がターゲットに選定しているフル○ン警部補の真上となる。


 ドッとぶつかった後に巻き起こった炎の渦は、その場にある全てを焼き尽くしつつ、そのまま上昇して空へと消えて行った……



「……あちち、クソッ、まだ髪の毛が燃えていやがる」


「いやはやご苦労さん、てか死ななくて何よりだったな」


「うむ、まぁ俺も一応POLICEだからな、武術をやっている分タフなんだ、あの程度の攻撃では死んだりしないぞ」


「……他の一般的な連中は死んだ、というかあっという間に灰になったんだが?」



 普通の人族にしては異常に強いフォン警部補、最初はここまでではなかったような気もするのだが、俺達と行動しているうちに何か最強になってきたような気が……


 まぁ、それは別にアレだ、いつものわけのわからない、異世界特有のファンタジー的な現象であるとして放っておこう、考えるのは魔王軍壊滅後、魔界とか何とかと戦うフェーズになってからだ。


 で、とにかくこれで門の外に沸いていた敵は片付いた、となると次は中からまた出て来るはず、そして今度はメインの、少しばかり精鋭寄りの敵が現れるに違いない。


 まさか今の攻撃が見えなかった、炎の渦で焼き尽くされた犯罪者共の断末魔が、町の中からは一切聞こえなかったなどということはないはずなのだが……本気で出て来つもりがないのか……



「……なぁ、これで無反応って逆にヤバくね?」


「舐めている……なんてことはないでしょうけどね、私達が本気になれば、最悪この町ごと更地にすることが出来るんだもの」


「だよな、しかし奴等を捨て駒にしたってもだ、このままだと俺達の侵入を許すことになるんだぜ、何らかの抵抗があったりするのが普通で、ないということは即ち罠ということだ、違うか?」


「そうだな、そう考えるのが妥当だぞ、すまないが主殿、ちょっと1人で普通な感じを醸し出しつつ侵入してみてくれないか? 何か起こるかも知れない」


「おいジェシカ、何で俺なんだよ?」


「まぁ、先程警部補殿はハッスルしたんだ、そうなると他に適任なのは主殿しか居まい……と思ったが今回は違ったようだな……」


「……うむ、そういう役回りであればこちらの、英雄パーティーの闇の部分、不用品の2つが最適であろう」



 ということで、敵の居なくなった城門を潜ってみるという大役には、もうどうなってしまっても一向に構わない犬畜生とチンパン野朗が抜擢された。


 これは本当に名誉なことだ、そしておそらくあるはずの罠に引っ掛かって……と、普通に通過して行ったではないか、いや、ここから敵の襲撃が……


 ない、むしろ普通に『ヤクの売人』と思しき奴から話し掛けられ、笑顔で白い粉を受け取っている犬畜生とチンパン野朗、物凄く嬉しそうである。


 金は持っていないはずだが問題はないようだ、初回は無料、嵌まってきた頃を見計らってジワジワと搾り取っていくタイプの売人のようだ。


 と、そんなくだらない話はどうでも良い、明らかに俺達が敵で、英雄パーティーで、勇者パーティーで、この町に巣食う犯罪者共は、いや、最低限でもその上層部はそのことに気付いている、数日前にはもうわかっていたはずだ。


 それが門番も向こうから襲っては来ない、抵抗があったのはあの粗末なダンゴ精製塔の周りだけ。

 岬の先端やその他海上など、あれだけ必死で攻撃をしてきたのは何であったのか? おかしな話だ。



「ねぇ、とりあえず町へ入ってみるべきよね、きっと何かあるんだろうけど、進まなきゃそれが何かもわからないわ」


「まぁ、そうだな、どうします紋々太郎さん?」


「……行くしかない、どうせこの町の中に敵の親玉が居るんだ、であればこちらから引っ掻き回して、敵が動かざるを得ない状況へと持っていくべきだ」


「じゃあ、すぐにでも行くってことで良いですね……」



 こうして謎に包まれた都市内部へと入ることが決定した俺達、耳や目立ってしまうカレンとマーサにはフードを……2人共嫌がったのでもうそのままにしておく、もう面倒だ。


 ついでにユリナとサリナも悪魔の角と尻尾を、あまり気にはならないがリリィも明らかに人族ではないとわかる、こちらも角と尻尾が見えた状態で、精霊様に至っては多少浮きながらの突入となった……



 ※※※



「おい犬! サル! お前等何ミッションサボってシャブなんかやってんだっ!」


「だってよぉ~、変な奴が来てタダでくれるって言うからよぉ~」

「ウキーッ! ウッホン、ウッホッホッホ!」


「何だとこのサル野郎! 調子乗ってっと沈めんぞゴラァァァッ!」



 紋々太郎とチンパン野朗の間で何があったのか、チンパン野朗が何を言ったのかはわからないのだが、とにかくこの喧嘩によって、近くに居た犯罪組織の連中が集まって来る。


 まぁ、そもそも俺達が門を潜った際に、誰一人として反応しなかったのがおかしいのだが、とにかく今から来る連中も、そこまでの異常を感じ取っている様子はない。


 単に喧嘩の仲裁へ、そして俺達が『西方新大陸の人族でない者を含む集団』であることについてのみ、驚いたような表情を見せているだけだ……



「おいっ! 何やってんだお前等! 現地人が……あと何か色んな種族もチンパンジーもだが、どうしてこんな所に居るんだ? ちゃんと収容キャンプに居ないとダメじゃないか」


「そして特にお前等3人、生贄に使えそうな野郎……じゃなかった、元気のある働き盛りの男はあっちの中央キャンプだ、何でこんな所をウロついているのか、まず説明しろっ!」


「いや~、誠にすみません、どうしてもお前を殺したくて」


「は? あぎゃぁぁぁっ!」


「こ……殺しやがった……何で? 現地人が俺達に手を出して……そんなことが出来るはずはないのに……」



 良くわからないのだが、ここに来てようやく驚愕の表情を見せた犯罪者共、仲間が殺されたのがよほどショックであったようで、騒ぎに集まって来た残りの5匹は震え、足腰が立たなくなった者も居た。


 ちなみに遠くに見えている『我関せず』な連中、これらは口々に『また殺しか』とか、『喧嘩で人死んだってよ』とか、あとは『財布落ちてないかな、後で探そうかな』などと口々に言い、もうこの町ではこういう事件など日常茶飯事であることを暗に示している。


 もっとも、それはこの町を荒くれの犯罪者共が制圧しているから、そういう連中ばかりだからそうなのであって、俺達が現地人、ではないものの、西方新大陸のものとは違う人種であるということに気付けば、その連中も驚き呆れるのであろう。



「で、何で仲間が俺達に殺されたことぐらいでそんなにビビッてんだ? そんなの気合の入った現地民の反乱とかあれば普通のことだろうに、おいどうなんだ? 答えないなら次はお前を殺す」


「ひぃぃぃっ! だ、だってこの町は、この『帝都 鶴の舞い公園大観音市』は、元々町の首長だったあの原住民の男によって、『でら安全都市だがや宣言』が出されたんだっ! だからもう原住民共は俺達に攻撃することが出来ないし、もし攻撃の意思表示をしたら頭がパーンッして死ぬはずなんだっ!」


「早速わけがわからないわね、町の首長だったってのはアレか? 全体の選挙で選ばれたのかは知らんが皇帝じゃなくて、この町だけを支配している首長のことか?」


「そうだ、奴はこの町で選ばれた首長で、全体の首長、皇帝だか何だかとは対立している、だがな、ここで耳寄りな情報だ、なんとその2人の首長、お互いには相手が『敵に与している』と罵り合いながらだな……」


「本当にすまないな、残念ながらその話はもう知っているんだ、ということでお前の喋る情報はもう要らない、死ね」


「ぶちゅぅぅぅっ! ぶべぽっ……」



 つまらない犯罪者野郎の頭を地面に擦り付け、摩擦をもって摩り下ろす、なかなか良い感じになったな、もしザクロをおろし金で擦ったらこうなるのではないかという雰囲気だ。


 そして当然他の集まった馬鹿共はより一層ビビリ、大小垂れ流しの状態で腰を抜かしている、本当に汚らしく、低能な連中だ、すぐにでも息の根を止めてやれねば空気が無駄になる。


 ということで全員協力し、手近な所からその連中を惨殺していくのだが、やはりその光景に興味を持った、または何らかの理由で止めに入ったり、さらに煽ろうとしたりと、とにかく次から次へと犯罪者共が集まって来てしまう。


 当然それらもどんどん殺害していくのだが、このままでは埒が明かないということになり、結果として『殺しながら先へ進む』ということが決定された。


 目指すは町の中心部、おそらく官庁街になっている場所に、敵の親玉や何ちゃら大権現という最後の『神様』、そして裏切り者の首長、というか市長と、さらにはそれと対立する方の首長、つまり皇帝が居るはずだ……



「しっかし、所々にある収容施設? 収容キャンプ? らしきものだが、どうして『赤』と『青』に分かれているんだろうな?」


「勇者様、それは敵の雑魚キャラを脅して聞いてみるのが早いのでは? それをしている間はちょっと休憩出来そうですし、『荷物』も増えてしまったので整理したいところなんです」


「お、おう、ミラは倒した敵全部の財布を回収しているのか、凄いな」


「いえ、財布だけでなく金目のモノはほぼ全て奪っていますよ、金歯とかは臭そうなのでスルーしていますが」



 逞しいというかがめついというか、とにかくミラの提案で少し進むのをやめ、とりあえずその場で近くの敵キャラを掴み、殺さないよう慎重に地面へと押さえ付ける。


 ちなみにもう俺達に寄って来るような犯罪者は居ない、ここまで捕まえようとしたり殺そうとしたり、色々な連中が接近して来たのだが、その全てが命を落とし、俺達の通った後は死体の道が形成されているためだ。


 で、今掴んでいる奴もサッサと逃げ出そうとしていたわけだが、運悪く、というかまぁ視界に入った時点でもう死は確定しているのだが、とにかく殺して貰える前に拷問を受ける嵌めになった哀れな奴である。



「おいお前、苦しんで死にたくなかったら質問に答えろ、正確で有益な情報を俺にもたらしたと判断した際には、このままゆっくり頭を潰していく程度のライトな方法で処刑してやる、どうだ?」


「こっ、殺さないでくれっ! 俺はまだ死にたくないんだっ!」


「いやお前が死にたくないかどうかなんてどうでも良いんだよ、俺がお前を殺したいから殺すの、だからお前の選択肢はふたつ、質問に答えて比較的楽に死ぬか、回答を拒否してとんでもなく苦しい死に方をするかだ、どっちが良いかサッサと決めろっ!」


「わかったっ、答えるから酷い殺し方はしないでくれっ!」


「そうか、じゃあ……」



 死に確の犯罪者野郎曰く、『赤』の収容キャンプの方は、この町に安全何とかを出した、市長的なポジションの奴の支持者である住民が、そして『青』の方はその逆、皇帝的ポジションの奴の支持者が収容されているのだという。


 そうでもしないと勝手に争い出し、次々に死んでいってしまうのだという、本人同士だけでなく、支持者同士もよほどに仲が悪いのだな。


 で、それならそうで放っておいて、勝手に殺し合いを継続させれば良いのではないか、そのまま現地住民を絶滅させれば良いのではないかといったところだが、当然そうはいかないようである。


 やはり犯罪組織の連中は、この町に掻き集めたこの帝国内の人々を、ダンゴ精製のための生贄にする算段であったのだ。


 そしてもちろん先程殺した奴に言われた、『お前達は中央キャンプ』という言葉通り、俺や紋々太郎、新キジマーにフォン警部補……と、あとは犬畜生とチンパン野朗もそうか、そのメンバーは生贄専門の収容キャンプへ送られるべき存在である。


 まぁ、実際には他のメンバーも同様、もし生贄にしたら精製塔が大爆発を起こす程度の力を持ち合わせているのだが、とにかく見た感じで体力がありそう、生贄としてそこそこのエネルギーを供給しそうな感じの奴は、その中央キャンプに掻き集められているということなのであろう。


 最悪そこを襲撃、被収容者を解放してしまえば、この地域の敵は新たなダンゴ、もちろん粗悪品は別の方法でゲットするのであろうが、とにかく良質なものを、たとえまともなダンゴ精製塔を造ることが出来たとしても使うことが敵わなくなるはず。


 その中央キャンプとやらは狙いのひとつとしておこう、黙示だが、紋々太郎も、それからフォン警部補もそう考えているということは表情などから十分に読み取ることが出来るし、それは確定で良いであろう。


 で、とにかく最初は町中央の官庁街に、そこで敵の親玉や裏切り者と面会し、命を奪うなどの方法をもって権限を委譲させるのだ。


 最初に敵となりそうなのはやはり、この地域の首長であり、安全何ちゃらによって住民の抵抗権を制限した裏切り野郎である。

 奴ともう1匹を討伐した後は、いよいよ敵の親玉、そして最後の神様とやらとの戦いに移行することになるのであろう……

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