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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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704 遂に上陸

「アレは……そういうアート的な何かか?」


「じゃなくてほら、精製塔……が台風とかでああなったんじゃないかしら? 間違いなく『最初からあの状態』で造ったりはしないはずよ」


「だよな、どう考えてもおかしいもんな、だってあの奥のやつとかツイストしちゃってるもんな」


「あっちのなんて途中で接木したみたいになってるわよ」


「……う~む、もし、もし万が一あの粗末なモノが精製塔のつもりであったとしたならばだが、きっと我々は敵の力を見誤ったのであろう、高くな」


「まぁ、そんな気がしなくもないとは言っておきます……」



 敵の攻撃を切り抜け、ようやく見えてきた敵の本拠地、そこに聳え立つ5本の精製塔は、まさに災害後、倒壊寸前の様相を呈しているのだが……どうやらそれが通常の状態であるらしい。


 既に虐殺処分した敵船団のおっさん共が言っていた、『どういうわけか動作しない』というのは当たり前、あんなモノがまともに動くはずもないことぐらい、素人が遥か彼方から観察してもわかる程度だ。


 どれだけ生贄を捧げようとも、まず間違いなくそこから吸い取られた生命力だの何だのは、非常に非効率な感じで全く活用されない、ほぼほぼ霧散してしまうというような感じであろう。


 というか、サンプルで建造してみたという小さな精製塔、攻撃用として船に装備していたものだが、アレに関しては上手くいっていたのに、巨大サイズとなるとああなってしまうのか。


 やはり付け焼刃の技術、知っている者を脅したり、盗み出したりして得た技術には限界があるということだ。


 その基本的なやり方だけ知って出来る気になったとしても、いざそれを用いて大規模かつハイレベルなものを造ろうとすると、途端に『培ってきたもの』の不足が露見してしまうということ。


 犯罪組織連中の失敗はあの精製塔を自分達でどうにか建造しようとしたところだな、本当に馬鹿というか、無能極まりない。


 もしそれをビルディングする技術者まで、攫って来て、そして殺すと脅して造らせたとしたら、この結果は少し違うものとなっていたのかも知れないのだが、連中にはそこまで考える頭がなかったということだ。


 そういえば接近に際しての敵の抵抗もたいしたことがない、というかここまでたいしたことがある敵が一切出現していないような気がするな。


 強かったのはせいぜいあの大陸神様ぐらいのものか、触手系という属性的にこちらが不利であっただけだが、まぁ現状ではアレが敵軍のトップ性能保有者であったことはもう明らか。


 つまり、敵は相当に馬鹿で無能だ、紋々太郎の言うように、俺達は敵があまりにも強大だと錯覚し、その実力を高く見積もりすぎていたのかも知れない、いやそうに違いない。


 所詮はこの帝国が、広範囲を支配するメインの首長と、それから大都市圏に限定して支配する、こちらも有力である首長の諍いによって混乱した隙を狙い、サッとその主権を掠め取っただけの連中ということだ。


 だとすれば、ここからはもう一気に攻めて、攻めて攻めて攻めまくるしかない、一応はまだ何とか大権現という神様が残ってはいるのだが、流れ的にそいつもたいした奴ではないはず。


 どうせ(俺様が強すぎて)知らぬ間に討伐完了していたとか、(俺様が有能すぎて)勝手に翻弄され、自滅したとか、そういった感じで殺られてくれるに違いない。



「……よし、ではあの辺りに接岸しよう、もしかしたら陸地からの迎撃があるかも知れないからね、すまないが幻術使いのお嬢ちゃんはこのまま頼む」


「わかりました、まだ魔力には余裕があるので大丈夫です、間違いなく陸まではキープ可能ですから」


「ではよろしく頼む、我々は念のため英雄船に戻って、あのゴミ共を足蹴にして目を覚まさせるとするよ」


「ええ、じゃあ俺達も船室内の……と、さすがにこれだけ騒げば出て来ていたか、から揚げは食べ終わったのか?」


「もちろんです、あとはいこれ、お弁当用にダシで煮込んだ卵とじですね、本当は夕食にする予定でしたが、思いのほか早く到着しそうとのことで、箱詰めしていつでも食べられるようにしておきました」


「うむ、非常にナイスじゃないか、まぁ余裕があったら砂浜とかで食べようぜ」


「砂浜は狙撃され放題だと思うんですが……」



 もうこれから戦う敵に関して、思うところは何ひとつもない状態だ、むしろその先、この地にあるという『黒ひげ』が関与した始祖勇者の玉、それを解放することがメインミッションといっても良いであろう。


 そんな余裕な状態で船は進み、特に迎撃を受けることなく湾の最奥へ、比較的上陸し易そうな砂浜へと接近する。

 周囲に敵の姿はないし、目の良いリリィにも動くものは見えないという、このまま上陸しても大丈夫そうだ。


 と、念のため英雄船から、というか犬畜生とチンパン野朗を最初に下船させ、安全を確かめさせる感じだな。

 まぁ砂浜が魔導地雷原とかの可能性もないとはいえないし、それが賢明な判断であろう。


 で、こちらに合図しつつ、2匹の畜生を船べりから蹴落とした紋々太郎、サッサと歩けと、しかも後続が進み易いよう、蛇行して踏みしめた場所を広く確保しつつ奥へ歩いて行けと怒鳴り散らしている。


 特に何か罠が設置してある様子はないな、それに恐る恐るといった感じで歩いていく2匹に反応する影もない。

 とりあえず砂浜の終わり、防風林となっているのであろう松林でも眺めながら、ルートの安全が確保出来るのを待とう……



「あっ、何か動いた……と思ったら変なでっかい魚みたいな奴でした、しかもゴールド……」


「リリィ、海じゃなくて陸の方を見ろ、陸に魚は居ないぞ、しかもゴールドって」


「違うんですよご主人様、あの林の中に魚が居たんです、顎が凄い、しかもゴールド……」


「ゴールドなのは重要なのか? まぁ良いや、もしかしたら敵が魚に変装しているのかも知れないからな、引き続き警戒だ」


「主殿、陸地で魚に変装するような敵は放っておいても構わないと思うぞ、おそらく無能だ」


「そういわれて見ればそうだな、馬鹿にしてもたいがい……と、今俺にも何か動いたのが見えたぞっ」


「ご主人様、今のは何か寝袋被ったエビみたいな人でしたよ」


「もうわけがわからんぞ……」



 とにかく松林の中に何かが居る、しかもサイズ的には人間であり、こちらを窺うようにして動いているのも確かだ。

 確認されたのは2種類で、しかもそれぞれが単体ではなく複数居ることも現時点で判明している。


 だが歩いてそちらへ近付く犬畜生とチンパン野朗に攻撃を仕掛ける様子もない、しかも船を接岸させた際には気付かなかったぐらいには動きがないのだ。


 もしかしたら敵などではなく、味方側の何か、或いは犯罪組織から逃げ出して来たこの地域の住民……にしてはゴールドの魚だの寝袋被ったエビだの、少し奇抜すぎるスタイルだな。


 まぁ、もしかしたらそういうのが『伝統的な民族衣装』なのかも知れないし、もしそれを当たり前のように着こなしていたとしてもあまり笑ったりしない方が良い、確執を生むだけだ。


 とりあえずその2種類の何者かには警戒しつつも、完全に敵だと決め付けることはない、曖昧な感じで見張りを続けていこう……



「犬とチンパンジーが砂浜を渡り切ったわね」


「うむ、あの隠れている何かがどういう反応をするか見ものだな」


「あっ、動いたっ、あのチンパンジーの奴の方に近付いている感じね、下手すると食べられちゃうわよ」


「どっちがどっちを食べるんだろうな……」



 船べりにダランと垂れかかっていたマーサが気付いたのは、どうやら寝袋被ったエビの方の奴が1体、チンパンジーことサルヤマー……まぁチンパンジーなのだが、とにかくそれに接近しているということ。


 下手をすると食べられるとのことだが、この場合にはそのエビの方が食べられる側なのか?

 いくらチンパンジーでもいきなり出会った自分と同サイズの何かを食べたりはしないはずだが……アイツ、バグッていやがるからな……


 おっと、そのエビとやらが遂に林の中から姿を現した、確かに見えるのはエビの尻尾、それでピョンピョンと跳ねるようにして移動するタイプの生物らしい、明らかに人間ではない。


 そしてスッポリと被っている寝袋は全体的にキツネ色で、表面はツルツルではなくザラザラというか、比較的細かい感じのパン粉がサックリと……エビフライじゃねぇか……



「なぁ、どうしてエビフライが出現したんだ? とてもじゃないが状況が理解出来ないぞ」


「いえ勇者様、確か図鑑で見たことがあるわ、アレはエビフライじゃなくて、エビフリャーという生物よ、最果ての島に生息するって書いてあったわね」


「……お、おう、で、どんな奴なんだ?」


「主に人やチンパンジーを襲って食べる凶暴な揚げ物よ」


「ほう、あ、チンパン野朗が喰われそうになっているぞ」



 セラからそのエビフライのバケモノについて講義を受けている間に、それと接触したチンパン野朗に危機が訪れていたようだ。


 エビフライの先端部分、つまり衣側の端がパカッと開き、必死で抵抗するチンパン野朗を丸呑みにしようと試みているのであった。


 ちなみに犬畜生の方は逃げ出した、形振り構わずというやつだ、その犬畜生に対しては紋々太郎が船の上からハジキで威嚇射撃を加え、死にたくなければ前に進めと恫喝している。


 前に進めばエビフライのバケモノ、後ろへ下がれば仲間からの攻撃、もはやどちらへも進めなくなった犬畜生は、シャブでラリッた僅かな脳みそをフル回転させ、その場で蹲るという最も愚かな作戦を採用したようだ……



「あの野朗、何やってやがんだ全く、早く行って喰われれば良いんだよマジで」


「あ、ちょっと待って、今度は別のが出て来たわ……アレは……伝説生物のシャチホコね……」


「ご主人様、さっき言ってたゴールドの魚ですっ!」


「シャチホコだったのかよ、そういえばこの帝国の名前、確かシャチホコとエビフリャーだったような気もするな、ああいうのが生息しているということでそういう名前に決めたんだろう」


「あの寝袋エビよりもシャチホコ? の方がカッコイイです、ゴールドだし、でもシャチホコの方は何を食べるんでしょうか?」


「え~っと、確か集団で人やチンパンジーを襲う、獲物は引き千切って食べる……だったかしら?」


「正解だと思うぞ、ほら、1体出て来たら何かすげぇ沢山……こっちは犬畜生狙いみたいだな」



 エビフリャーの次はシャチホコ、こちらはゴールドの、転移前の世界では良く見たタイプのシャチホコに、人間のような手と足が生えた魚系のバケモノ、ちなみに尻尾は反り返っている。


 そしてそのシャチホコ、まるで特撮の怪獣のようにノッシノッシと歩き、ゆっくりと蹲ったままの犬畜生に近付いて行く。


 というか先程までの俊敏性はどこへ行ってしまったのだ? 数もどこに隠れていたのだというぐらい多いし、本当に良くわからない生物だな。


 で、犬畜生を取り囲んだシャチホコ達が、一斉にその体に喰い付き、ワニの如くデスロールをかましていく。

 さすがのシャブ中犬畜生も動いた、4大英雄武器のひとつ、『ドス』を抜いて抵抗するようだ。


 だがもう勝ち目はなさそうだな、右腕は出血しつつも辛うじて使えるため、武器を振り回すのに支障はないが、左腕はもう、肘から下があり得ない、搾り切ったボロ雑巾のようになっているではないか。


 一方、単体のエビフリャーに飲み込まれそうになっているチンパン野朗、こちらは頭を咥え込まれた状態で奮戦、というかヘビに飲まれそうなカエルの抵抗を見せているのだが、手に持った『パイナップル』を炸裂させる余裕はないらしい。


 機転を利かせ、どこかにピンを引っ掛けて抜くということをすれば良いのに、犬畜生と同様、シャブで腐った脳みそがそこまで機転の効いた答えに辿り着くことはないか。



「で、英雄パーティーのメンバーが2匹、相当なピンチに陥っているわけだが……どうするつもりなんだろうなここから?」


「それに関して向こうからサインが来ているわよ、えっと……10分後に降りて戦おう、それまでは馬鹿共が苦しむ様を眺めていてくれ……だって」


「10分後か、何だかどっちも殺られてしまいそうな感じだな、まぁ奴等が死ぬのは別に良いけど、シャチホコの方は一ヶ所に固まっているから、本来であれば今のうちに潰しておきたいんだがな」


「大丈夫よ、どうせ私達が降りて行けばまた集まって来るわ」



 確かに、シャチホコにしろエビフリャーにしろ、単体で、しかも不意打ちではない状態で戦えばあの2匹よりも弱いはず。


 それなのに当然の如く襲い掛かったのだ、きっと敵の強さを推し量る事が出来ないタイプの生物、或いはこの地域では最強で、外的など居ないため調子に乗っているタイプの生物なのであろう。


 となれば俺達が降りた際にも襲い掛かってくるはず、そこを叩けば一網打尽だ。

 もちろん俺達は負けないし、あんな雑魚共に集られたところで、それこそ弁当を頬張りながらでも殲滅する事が可能なのである。


 そして約束の10分後、英雄船に乗ったフォン警部補が、こちらに向かって出撃の合図を出す。

 全員にその旨が伝わったところで、3人だけの英雄船のメンバーから少し遅れて船を降りる。


 既にズタボロの犬畜生と、エビフリャーの口から膝下だけがはみ出した状態のチンパン野朗。

 どちらももう助からないかも知れないし、助かったとしてもしばらくは戦うことが出来ないであろう。


 だがこの腐った2匹、特にから揚げの油にパイナップルを投げ込み、せっかくの鶏肉を無駄にしたという業を背負っているチンパン野朗に関しては、この程度の苦しみで死ぬことが出来るかも知れないなど喜ぶべき事態なのだ。



「ご主人様、あのシャチホコの方は魔法が効き辛そうですの、あっちと、それからまだ林の中に隠れているエビフリャーはこっちで潰しますわ、だからそっちをお願いしますの」


「わかった、じゃあ……犬畜生を襲っているのは英雄船のメンバーに任せて、俺達も林に接近して囮になろうか」



 ということでそのまま砂浜を、念のため最初に2匹が踏みしめた場所を選んで進み、防風林の松林へと接近する……ワラワラと出て来やがった、シャチホコだけで100体以上、エビフリャーも30は居そうだな……


 そして狙われるのは相変わらずジェシカのようだ、やはり栄養価が高いのはどんな生物から見ても一目瞭然、しかも柔らかく肉付きの良い、非常に美味しそうな見た目も相俟っての結果であろう。


 本人もそうなることは予見出来ていたようで、敵を十分に接近させ、両手剣を横薙ぎにして一気に両断する。

 ひと振りで5体から10体は倒せているようだな、ジェシカだけでも、この攻撃をしばらく繰り返せば勝利出来そうだ。


 だが俺も、それから他のメンバーも活躍はしないとならない、まぁそんなに大人数で戦っても仕方ないため、適当に交代しながらジェシカのフォローをしていく。


 そしてしゃちほこの死体をツンツンしていたリリィ以外の直接攻撃組が、全員それなりの活躍を済ませた頃、ようやく最後のシャチホコが倒れる。


 紋々太郎達も犬畜生に集っていたそれを殲滅し終え、魔法使い組も林の中のエビフリャーをあらかた片付け終わり、もちろんチンパン野郎を飲み込んでいたものも始末したようだ。


 しかし何だかわからないが凶暴な生物であったな、俺達だから良かったようなものの、もし何も知らない一般人がこんな所に上陸したら、それこそあっという間に奴等の餌食となってしまう。


 それでは、そんな状態ではそもそも、この地に人が到達し、都市国家を形成することなど出来ないはずなのだが……おや、ここで何かを求めるようにして林の中へ入って行った精霊様が、その何かを発見したようだ……



「あったわ、きっとこの装置でシャチホコとエビフリャーをここへ集めていたのね」


「この装置……って、ミニチュアの城じゃねぇか」


「ねぇ、これがお城なの? まぁぽいけど、何か違くない?」


「マーサ、世の中にはこういうタイプの城もあるんだ、というか俺が転移前に居た世界、その中で住んでいた国ではこの形式が一般的だったんだぞ」


「へぇ~、じゃああんたの屋敷もこんな感じだったのね」


「……いや、俺の家は先祖代々アパートだ、激安のな」



 そんな悲しい話はさておき、明らかにヤバいオーラを放っている城のミニチュア、もし俺がまものであったとしたら、間違いなくこの城におびき寄せられ、近くに寄って来ることであろう。


 で、どうやら敵さんはこれを使ってあのバケモノ共をここへ集め、本拠地近くで最も上陸し易いこの場所を守らせていたようだ。


 もちろんそれでは自分達も近付くことが出来ないのだが、別に敵の犯罪組織からしたらこの場所は、むしろこの島国自体がただ利用するだけの存在。


 人が住めなくなろうが、海岸線沿いにバケモノが大集合しようが全く関係ない、自分達が脱出、そして精製したダンゴを持ち出すための出入り口さえ、どこかに隠すようにして設置しておけばそれで十分なのだ。


 本当にどうしようもない連中であり、早く皆殺しに行きたいのだが、こんな砂浜で安全を確保してしまったこと、そしてそろそろ腹が減る時間であることなどを鑑み、この場で食事にするのが妥当だと判断された。


 チンパン野郎のせいでから揚げを失った紋々太郎と新キジマ―、それからフォン警部補には卵とじのから揚げ親子丼を提供し、俺達もそれを食べる。


 なお、犬畜生とチンパン野郎はそれぞれズタボロ、溶けてドロドロの状態で横たわっているが、息はしているようなのでこのまましばらく放っておくことに決定した。


 ここからは徒歩で内陸へ、そして敵の本拠地である都市を目指していく、その前にあの5本の聳え立った粗末なダンゴ精製塔を目指そう。


 当然その下には見張りやその他の作業をしている敵が居るはずだし、上手くすればかなり上位の構成員を始末出来るかも知れないからな……

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