700 岬の拠点
『みなさ~んっ! この地に巣食う犯罪者の皆さ~んっ! すぐに武器を捨てて投降して下さ~いっ!』
『そうすれば私達3人は許して貰えますっ! もちろん皆さんは極めて残忍な方法で処刑されますがっ!』
『私達を助ける思って諦めて下さ~いっ! 血塗れの処刑台の上でゴミのように死んで下さ~いっ!』
岬の真ん中、この地を制圧していた犯罪組織の親分的な連中が居ると踏んで突入した建物には、3人の現地人美少女が、その能力に基づいて犯罪者連中から大事にされるかたちで滞在していた。
もちろんそんな連中に、積極的に協力していた感じであることは咎めなくてはならないのだが、今現在、こうやって無駄な抵抗をやめるよう、俺達の半島奪還がスムーズにいくよう協力しているのは評価すべき点である。
3人の呼び掛けを受けた岬周辺の犯罪者共は、どういうわけか『自分が惨殺される結果となる』ということを把握しているはずであるにも拘らず、ごく当たり前のように武器を捨ててこちらへやって来るではないか。
何らかの洗脳的なものが働いているのか? その可能性もあるが、単にこの3人がダンゴを精製出来るという理由から、わざわざ術式などで洗脳されたのではなく、勝手に心酔してこのような状況になったのかも知れないが。
「しかし凄い数が居るな、500……いやもっとか、まだまだ集まって来る感じだもんな」
「一体どこにこんな沢山隠れていたのかしら? 地下施設でもあるの?」
「いえ、そういうのはないと思います、何か造ったりするときはなぜか私達に言ってからやっていましたから」
「ほ~ん、じゃあアレだな、影が薄くて存在しているのかどうかさえわからないモブキャラってだけで、そこに居ないようで実はそこに居るような連中ってことか」
「勇者様、わけがわからないことを言わないの、でも本当にどうしてこんなにこの子達の言うことを聞くのかしら……」
続々と岬の先端に集合し、整列した犯罪者共、髪型はモヒカンだのスキンヘッドだの、それから大音量で楽器を弾くバンドでも組んでいそうな奇抜な髪型、とにかくチンピラ系の連中ばかりだ。
それが『これから処刑される』ということを知ってもなお、この3人の美少女に従う、一切文句を言わずに集合しているのはどうしてなのか。
恐怖で支配している様子もないし、そもそもこの3人を助けるために自分達が犠牲になる、しかもとんでもない方法で公開処刑されるということに関して、この連中は何ら疑問に思っていない、それが当たり前だと考えている様子。
やはり何かがおかしい、確かにこの3人娘は、貴重であり、しかも戦闘員のパワーアップに資する『ダンゴ』を精製する能力を持っている貴重な人材。
だからといってこの状況は……いや待てよ、もしかしてこの地域では、このたった3人だけで精製したダンゴでこれだけの人数、まぁもちろんダンゴ使用者ではない雑兵も多いのであろうが、とにかくかなりの数消費されるであろうダンゴを供給していたというのか?
確か西方新大陸で犯罪組織が使用していた粗悪品のダンゴ、つまり英雄である紋々太郎を擁するあのダンゴ生産拠点、白桃を特産品とするあの地域のものでないダンゴに関しては、およそ1日に3回程度は摂取しないと、全身がグズグズに溶けて死亡してしまうのだ。
で、もしそうであった場合、ここで使用されていたダンゴがそのような品質のものであったとしたら、やはりこの3人だけでその毎日の消費量を精製するのは困難、というかこの犯罪者共に配給するだけで1日が終わってしまいそうである。
となるとそこに何か秘密が、ダンゴの供給に関して、この3人娘に対して命を投げ出してでも従う原因が存在しているはず。
だがこの3人は西方新大陸の人間ではなく島国の現地人、崇め奉られるよりはむしろ、犯罪組織の上層部から差別され、酷い扱いを受けるというのが通常なのである、非常に残念なことにだ。
「……う~ん、色々考えたがやはり納得がいかないぞ、なぁお前等、この集合しているゴミ共にどうやってダンゴを供給していたんだ? 自分達で精製していたのか、それともこの地域、つまり湾奥の方に陣取っている犯罪組織の上層部から支給されたものを配ったのか、まぁその辺りについて詳しく説明しろ」
「え~っと、その、お恥ずかしい話なんですが……」
「私達3人のダンゴ精製方法はかなり特殊なんです」
「ええ、『黄泉式』といってですね、その、出す場所がえっと……」
「まさか鼻や口から食材が出るとかか?」
「いえ、私達の場合は専らお尻から出ます、ダンゴが」
「……で、それが大人気と、そういうことだな?」
「そうなりますね……」
「とんだ変態野朗共だっ!」
知って納得、見て……みようとは思わないが、とにかくこの3人娘、黄泉の国のどこかの女神よろしく、尻から食材、ではなく精製したダンゴを出すというのだ。
本来であればそんなものを食わされていた誰かにブチ殺されてしまうところなのだが、どういうわけかここに集まっている犯罪者共は極端な変態揃い。
3人娘が尻から出したダンゴをあり難がり、そして次第に心酔していった……いや、だからといってここまでの状況となるのはおかしい、おそらくはこの3人娘の精製するダンゴ、これに何か特殊な成分が含まれているのであろう。
「それで、お前等が精製したダンゴを摂取すると、というか一度摂取してからその後が続かないと、どのぐらいの時間経過で死んでしまうんだ?」
「確か……裏切り者とされて1ヶ月ダンゴを貰えなかった戦闘員がおかしくなって、そこから半月後に亡くなったという話を聞いたことがあります」
「……君達、そのダンゴはかなり純度が高く、上等なものだね、もう捕まっているのでこちらに選択権があるのだが、この犯罪組織との戦いが終わったらキッチリ管理を受けないといけないよ、そのぐらいの能力だ」
『わかりました~』
焦っているのは紋々太郎、そしてこんなに上品質のダンゴが西方新大陸に送られる可能性があった、そこでかなり強化されたダンゴ野郎が暴れる危険性もあったフォン警部補の2人だけ。
そのダンゴを精製し、尻から出していた3人娘は特に危機感を覚えていない様子……きっと昔からこの地域で巫女的な扱いを受け、普通にそのダンゴを精製していたのであろう。
まぁ、その力に目を付けた犯罪組織に対して抵抗することなく、そのままダンゴの精製を続けていたのは問題だし、この3人を置いたまま逃げ出した地域の住民達にも問題があるのは事実。
とはいえ本当に悪いのは犯罪組織の連中であり、そんな奴等さえ来なければ何ら問題は生じなかったのだ。
目の前に並んだ大量のチンピラモブ野郎共の処刑もそうだが、早くこの地域全体のゴミ共を綺麗サッパリ掃除してやりたいものである……
「それでご主人様、このチンピラさん達はどうするんですか? こんな暑い中で見えているともっと暑苦しいです」
「そうだな、どこかにまとめておいて……いや待てよ、3人娘の言うことには絶対服従なんだ、せっかくだからこのマンパワーを拠点作りに活用しよう」
「良いわね、内海と、それからメインになる外海の拠点、その両方をまとめて工事することが出来るわ」
「あぁ、しかも工事しているのがこの西方新大陸から来た犯罪者の連中だからな、もし対岸とかから講じの様子を見られても、何かおかしいと気付くまでにはかなりの時間を要するはずだ」
ということで早速作戦開始となった、まず3人娘を1人ずつ分離、巨乳系の子には外海側の工事監督を、スポーティー系の子には内海を、そして最後の1人、やはり一番位が高いというロリ子には、逃げて隠れている住民の捜索を手伝わせることにした。
ついでに精霊様が海岸沿いを飛び、上陸地点に隠してある2隻の船、英雄船と勇者船が、もうこちらに来ても構わないということを伝えに行く。
もちろん帰りには上空から、避難民達の痕跡がないかを探索しつつ戻って来てくれと以来。
その空中からの探索にはリリィも行きたがっていたのだが、現時点でドラゴンが目撃されるのは少し拙いということで我慢させた。
その日の夕方、早くも完成しそうだというメインの、外海側の拠点施設を見に行っている最中、どうやら住民達の避難場所を突き止めたようだとの報告を、その担当となっていたフォン警部補から受ける。
3人娘は元々この半島の人間であるため、非常時に住民がどこへ逃げるか、地震や津波の際はここ、大嵐の場合にはここ、などと、おおよその場所がわかっているためかなりスムーズに事が進んだのだという。
あとはピックアップしたエリアを可能性が高い方から順に、精霊様が上空を飛ぶ、近場であれば誰かが徒歩で行って確かめるという方法で実際の捜索をする。
そしてさらに1時間後、夜ということで戻った精霊様によって、既に2ヶ所のポイントで住民を発見、声を掛けて隠れ家から出るよう、ゆっくりで良いので岬の先端を目指すよう指示を出したとの報せ。
やはり隠れていた住民達も、一部はこの半島で何かが起こったのを感じ取っていたようだ。
確認のために自分で動き出し、既にその場から去っていた者も多かったのだとという。
しかもこの島国では『精霊』という種族も当たり前のように受け入れられ、その地位が女神に次いで高いことも知られているため、突如としてやって来た精霊様に対して不信感を抱くことはない。
こうして住民集め、拠点作成、そして英雄船、勇者船とそこに乗り込んでいるスタッフらとの合流まで果たしたのだが、それを全て終えたときにはもう、岬の制圧から3日が経過しようとしていた……
※※※
『あっ、え~っ、半島の住民の皆さん、今回は本当に大変なことでした、え~っ、我々英雄パーティー、そして今回はですね、西方新大陸のPOLICEから1名、さらにこの世界全体を救うべく異世界から召喚された勇者と、その仲間達も戦っておりますので、え~っ、この地域全体がですね、解放されるまでもう少しの辛抱ということでですね、え~っ……』
「……新キジマーは喋るのが下手ですね」
「……うむ、採用試験ではそこを見なかったからね、思わぬ欠点だよ、だが勇者君、残りの2人……2匹にやらせるよりはマシだと思わないかね」
「確かにそう思います……」
半島の拠点化に成功し、元居た住民を全て岬に集め終えた日の夕暮れ、暗くなってきた空に対抗するため、適当にピックアップした犯罪者に油を染み込ませ、火を点けて松明代わりにしつつ集会を執り行う。
現状で生存している犯罪組織の構成員はおよそ500匹程度、拠点化工事の事故で死亡したり、見ていて顔などがムカ付くという理由で適当に惨殺していた結果としてこの数、集団処刑はそこそこのイベント化が期待出来そうである。
で、処刑の方法としては、いつものように壇上で精霊様が執り行うのではなく、犯罪者共に恨みのある住民が、くじ引きやその他の方法で選ばれ、自ら手を下す形でということに決まった。
もちろん皮剥ぎや火炙り、八つ裂きなどに用いる処刑用具セットはこちらで用意するのだが、死刑を執行するのが自分達である以上、ここの住民達も必然的に『侵略している犯罪組織の敵』をしての格を有することになるのだ、というかそれが狙いでもある。
なお、犯罪組織に協力していた3人娘については、置いて行かれたという事情も考慮したうえで、こちらの判断で刑を科す。
で、それぞれ鞭打ち500回ということで、それが直ちに執行されることとなった。
壇上から話し下手なキジマーが捌けた後、精霊様に連れられて登場した3人が素っ裸で正座させられ、すぐにビシバシと鞭打たれ始める。
だがさすがに500回はやりすぎではないのか、そのことについて精霊様はどう考えているのであろうか……
「ひぎぃぃぃっ! 痛いっ、痛いっ!」
「お許しをぉぉぉっ!」
「もうっ……無理ですっ!」
「はい、今ちょうど100回が終わったわ、全体の5分の1ね、お仕置きはまだまだこれからよ」
『そんなぁぁぁっ! どうかお許し下さいっ! お願いしますっ!』
「まぁ、それは下に集まっている住民に言うべきなんじゃないかしら? ホントは抵抗したり逃げ出したりすべきところ、なぁなぁな感じで、しかも犯罪者から崇め奉られてのうのうと暮らしていたんだから」
『ごめんなさいっ! 超ごめんなさいでしたっ!』
3人が3人共、全く狂いのない、まるで用意されていたかのような同じセリフを同時に吐く。
きっと精霊様とは裏で打ち合わせしていたのであろう、ここで謝罪して、住民達の許しを引き出す作戦だ。
と、まぁそれが上手くいったようで、下でザワザワと話し合いが行われた結果として、3人娘はここで鞭打ちだけは許された。
またこれ以降、俺達がここで拠点を運営している間、その雑用だの何だのに従事させられるという条件で開放されることが決まる。
これは一応は住民の意思だ、精霊様に誘導されているとはいえ、この半島を本来支配すべき人々が、地域の巫女的な3人娘をこちらで扱き使うことについてお墨付きを与えてくれた、そう捉えて良さそうだな。
その日の集会はひとまず終わり、俺達は外海に面して用意された拠点のうち、専用に割り当てられたコテージへと移動する。
今夜からはこの半島の人々も協力して、俺達のような『実際に犯罪組織と戦うメンバー』に対して、ここでの最大限のもてなしが提供されるとのこと。
早速長老会だか何だからしきジジババが、ひとつ隣にある英雄パーティー用のコテージへと入っていったのを目撃したが、アレがそのうちこちらにも来るのであろう、そしたらすぐに夕食だ。
「ひゃっほいっ! 風が涼しくて気持ち良いですっ!」
「いやはや、本格的な秋が来るまでずっとここに滞在したいぐらいだな、まぁそう言っても居られないが……で、ちょっとカレン、やかましいから暴れるんじゃない」
「は~い」
「そろそろ夕飯だから大人しく座って待っておけよ、それでだ、これからどうこの地域を攻略していくべきか、英雄パーティーらと話し合う前にこっちの意見をまとめておこうぜ」
そこから夕食の時間まで、風通しの良い、海の見えるコテージにて作戦会議を行う。
ちなみに俺達の所には3人娘のうちのロリ子が派遣され、今はせっせと茶を淹れたりしている。
で、結局すぐにジジババがやって来て、その後しばらくで夕食が運ばれて来たためあまり時間を取る事が出来なかったのだが、これから何がしたいのか、ぐらいはおおよそ決まった。
俺達の主張する作戦は、このまま敵の本拠地へと乗り込むのではなく、まずはこの岬の反対側、おそらくは『大空神様』とやらが待ち構えているであろう地域を制圧しようというものである。
もちろんこのまま攻めたとしても敵には手が届く、蔓延っている犯罪組織の構成員と、それからその馬鹿共に協力する現地産の馬鹿共は始末する事が可能ではあるはず。
だがその場合、本拠地の攻撃を知った『大空神様』の軍が黙ってはいないであろう。
必ずこちらの背後を突くかたちで攻撃を仕掛けてくるし、俺達は良くとも、戦闘員でないスタッフ等が危険に晒されるのだ。
そういう事態を避けるべく、やはり下から順に討伐、地域も制圧、満を辞して本拠地へ乗り込むというのが得策であろうという考えに至ったのである。
まぁ、最終的な作戦の決定権は紋々太郎がほぼ全てを握っており、俺達勇者パーティーやフォン警部補の主張は『意見』としてしか考慮されないのだが、それでもこうだと言っておく価値がないわけではない。
食後、ちょうど風呂から上がったところで、一升瓶をいくつも抱えてやって来た紋々太郎とキジマー、それから全く同じ行動を取ったフォン警部補を俺達のコテージへ迎え入れ、先程の会議で決まった作戦について話してみた……
「……うむ、良いとは思うがね、海を渡る際にまた攻撃を受ける可能性がないとは言えない、その辺りはどうかね?」
「なるほど……気合で突破するしかないかもですね、船は沈むかもですが」
「……そうなると対岸へ辿り着くことが出来るのは勇者パーティーと、それからこのキジマーだけになりそうだな、ここは少し待って、敵がこちらの状況を察して襲撃を仕掛けてくるのを迎え撃つ、それでいくべきだと思うのだが」
紋々太郎の言う通り、俺達であればムチャクチャをしつつ、どうにか対岸まで辿り着いて、そこで大暴れしてみせることが出来るはず、たとえどんな攻撃を受けたとしてもだ。
だが今回活躍すべきは俺達だけではない、英雄パーティーも、そして英雄本人である紋々太郎自身も、かなり目立つ戦果を挙げておかなくてはならない、世間様に示しがつかないのである。
そうなると前回のように、大量の敵船団に囲まれながらの移動というのはかなり難しい。
実際にスタッフ船が撃沈されたように、遠距離攻撃の力がイマイチな英雄船も今度はどうなるかわからない。
セラやユリナなどを派遣してしまい、それを攻撃の要にして貰うということも考えられるのだが、もし敵が対策を、例えば炎上対策、爆発対策などしてきたら、もうその時点で攻撃が効くのはセラのみ。
となるとセラが居ない方の船は全く無防備な状態、そのセラがリリィに乗って上空から戦うにしても、滞空時間を考えれば、途中でリリィの限界がきてしまうのは明らか。
これでは安全確実に対岸へ辿り着き、そこからさらに『大空神様』率いる犯罪組織連中を殲滅するのは極めて困難なこと。
やはり紋々太郎の言う通りひたすら敵の襲来を待つのが得策か、どちらともいえない、という態度を取って、隅で普通に酒を飲んでいたフォン警部補も、ここにきて『待ち』側の意見に流れるようだ。
仕方ない、ここは向こうの意見を尊重し、こちらのものは取り下げることとしよう。
勇者パーティー内でもそういう感じにまとまったところで、岬内部でざわめきが起こる。
何かあったというのか? 教拠点を完成させてその日のうちに? さすがに早すぎるとは思うのだが……




