697 制圧作戦開始
「ウォラァァァッ! 死に晒せこのボケナス共がぁぁぁっ!」
「ひょげぇぇぇっ!」
「ぎょぇっ……かぺぺっ……」
「フンッ! 極めて弱っちい連中めがっ!」
俺達が休憩のために目指していたエリアに先入りし、その付近の地中に隠してあったトロッコを、これまた普通の出っ張りに偽装した隠しスイッチを使って取り出したチンピラ集団。
それに対して選抜メンバーの4人で襲い掛かり、適当に殺害して数を減らしていく。
どうやらダンゴ使用による強化人間などではなく、通常の、どこにでも居る雑魚キャラばかりのようだ。
もちろん数匹は残し、このトロッコがどういう目的で設置されたのかなど、もはやわかり切ったことではあるが、念のための確認事項について裏を取るための情報源をキープする予定。
と、ここで残りの雑魚キャラ数が7匹まで減ったな、どうせもう戦意は喪失している、というか最初からパニックに陥って反撃などしてこなかったのだが、とにかく降参を勧めることとしよう。
その作業をいかにも威厳がありそうな感じを醸し出しているマリエルに任せ、俺は少し周囲を見渡してみる。
ここからは海がバッチリ見えるのか、逆に海からもこの場所が見えており、敵が襲来、または通過した際には丸見えとなってしまう。
だからトロッコを地中に隠しておいたのか、海からはこちら、つまり犯罪組織側が付近に張っていることが見えないようにし、逆にこの連中は内海側、つまり犯罪組織の制圧している側から、丘の頂上を越えて外海を監視していたに違いない。
で、トロッコの中にある海産物を見る限り、俺達が通過した際には偶然全員で……それも頭の悪い話だが、とにかく監視員を残さずに食糧調達に当たっていたようだ。
それゆえ上陸時も、そしてここに至るまでも、一切敵の迎撃を受けることがなかったのである。
つまり俺達はラッキーで敵の監視を掻い潜り、これまでのスピーディな進軍を果たしていたのだ。
きっとこれも始祖勇者の導きに違いない、詳細については自分の死後、神界に居るであろう始祖勇者本人に聞くしかないが、きっとそうであると信じてこれからも『導き』に頼っていこう……
「……わかりました、はい、では……勇者様、この生きる価値のない7匹は降参するとのことです、どう処分しますか?」
「う~む、凶悪犯罪者だが、生憎ここには民衆が居ない、公開処刑の効果は全く得られないんだよな……となるといつも通り精霊様辺りのストレス発散用に……」
「ちょっ、ちょっと待ってくれっ! 戦っても勝てないから降参はするが、一体俺達が何をしたっていうんだっ?」
「いや普通に犯罪者だろ? ほら顔とか雰囲気とか、てかお前何かキモいな、それだけで万死に値する、顔面醜悪罪の法定刑は死刑のみだからな」
「そんなっ! どういう理由でっ! 俺達は何も悪いことはしていないじゃないかっ!」
「犯罪者はみなそう言うんだよ、もう諦めて大人しく死ね」
「あ、勇者様、この海産物の中にアワビとサザエがありますよ、この連中、チンピラの分際でこんな高級品を食そうとしていたみたいです」
「ふむ、チンピラの分際でか、こりゃ尚一層の重罪だな、あ、安心してくれ、この海産物はお前等の薄汚い手垢をしっかり洗い落とした後に、ここで休憩させて頂く俺達の口に入ることになる、ちなみにお前等は直ちに拷問、その後処刑だ、わかったな?」
『ひぃぃぃっ!』
7匹のチンピラは確かに、俺達の前では特に悪いことをしていないように見える、だが前情報も含め、パッと見でこの地域が西方新大陸から来た犯罪組織に制圧されているのは確実だし、こいつらもその仲間であると考えるのが妥当。
まぁ、それ以外であったとしても、アワビやサザエにはこの世界においてもそれなりの『権利』が設定されているはずだ。
それをこんな連中、それを漁獲する権利どころか人間の言葉を話す権利さえ持っているのかどうか微妙な連中が漁獲して良いはずがない。
つまりこの時点で犯罪者であることがほぼ確定、そういう疑わしい輩はブチ殺してしまって構わないのだ。
しかもこちらには島国の英雄と、それから西方新大陸のPOLICEが居る、正当性はモリモリなのである。
「さてと、まずはお前等に聞きたいんだが、このトロッコはこの先、つまり岬の先端へ続いているんだな?」
「そ……それに答えたら助けてくれるのか? 殺さないでいてくれるのか?」
「うむ、前向きに検討しよう、で、どうなんだ?」
「向こうに続いている線路は確かに岬へ行くんだ、それからもう1本、そこの出っ張りを押すと線路が出る、それは外海の海岸沿いまで続いているんだ」
「そうかそうか、ちなみに岬側へ行く線路、これはお前等の本拠地まで続いているんだな?」
「いや、もし敵に利用された場合を考えて、直前で止まるようになっている、そこからは歩いて物資を運ばないといけねぇ」
「チッ、マジで使えねぇ野郎共だな、おい精霊様、もう処刑を開始しようぜ、こんな連中の面、見ているだけで腹が立つぞ」
「そっ、そんなっ⁉ 助けてくれるんじゃ……」
「おう、前向きに検討はしたさ、だが助ける必要はないと判断された、残念だったな」
ということで死刑執行、もちろん紋々太郎のお墨付きも得て、極めて残酷な方法を模索する。
そうだ、海岸へ続くというもう1本の線路、それを出現させて少し問題提起をしよう。
地面の出っ張りに偽装されたスイッチはすぐに見つかり、それを踏むと、ドドドドッという感じで地面から線路が、まさに海岸沿いの砂浜まで続く形で現れた。
「よし、こっち側の線路には5匹、そっちには1匹、お前で良いや、とにかく寝そべるんだ、あとそこの『余り1』、お前はもう要らないから、そっちで生皮でも剥いで貰え」
「はいはいじゃあこっちね、水の大精霊様クリニックへようこそ」
「え? あっ、あぁぁぁっ! ひぎぃぃぃっ! ぎゃぁぁぁっ!」
「やかましい奴だな、ちょっと黙って死ねないのかこのカスは? で、他の奴等は準備が出来たな?」
1匹を見せしめとしたことにより、残りの6匹はもう完全に服従する構えを取り始めた。
まぁ、どうあっても処刑される運命なのだが、生皮剥がしの刑だけは絶対に避けたいところなのであろう。
それで、片方の線路に5匹、もう一方の線路に1匹のチンピラを並べ、当然このままでは5匹居る方にトロッコが直撃、その5匹は無様な死体になる状態とした。
「さってと、おいカレン、暑いと思うが考えてみろ、他の皆もだ、一応こいつらは全部善人だと仮定して、このままだとトロッコのせいで5人の犠牲者が出る、ただ、ここで線路を切り替えればその5人は助かる、わかるな?」
「う~ん、でもそうするとこっちで1人、グチャグチャになって死んでしまいますよ」
「そうなんだよ、そこなんだ、このままだと5人もの人命が失われてしまう、だが線路を切り替え、その5人を救ったとしたらどうか? 代わりにこちらの1人が犠牲になるんだ、カレンはどうする?」
「……トロッコを討伐します」
「そういうのはナシでお願いします……」
意気揚々と転移前の世界で大変有名であった、おそらく知らない者は居ないであろう問い掛けをしてみたものの、この世界の特殊性というか、回答者の戦闘力の高さを考慮していなかった。
カレンの答えに対して、ほとんどのメンバーがなるほどと感心する始末、これではどうしようもない……と、どうやらユリナとサリナ、それに精霊様は違う意見のようだ……
「ご主人様、ここは1人の方を犠牲にすべきですの」
「私も姉様と同意見ですね、5人の方を助けるべく、線路を切り替えてやるべきかと」
「ほう、それはどういう理由でだ?」
「簡単ですの、5人には犠牲になった1人の悲惨な姿を見せて、私が居なかったら、もし線路を切り替えてやらなければ自分達がこうなっていたんだぞと見せ付けてやるのですわ」
「で、その事実に基づいて5人もの人間に対してマウントを取ることが出来る、場合によっては命の恩人として生涯崇拝するように命じることも出来るわけです」
「お前等マジで悪魔だな……で、精霊様は?」
「そのままキープよ、5人の方を牽き潰して、生き残った1人に見せるの、あんたが助かった代償に、この5人がこんな悲惨な姿になったんだって、きっとその1人は凄まじい罪悪感に押し潰されるわ、これで平等、物理とメンタルの違いはあるけど、6人全員が押し潰されて終わったわけよ」
「おい精霊様、それで上手いこと言っているつもりなら反省した方が良いぞ」
真にデタラメな連中だ、まぁわかっていたことではあるが、特に精霊様の場合は『どちらかを助ける』のではなく、『事実上全滅させる』という点で非常に質が悪い。
と、こんなことをして遊んでいる暇ではなかったな、食事を摂らないとだし、せっかくこの犯罪者共が俺達のために法を犯してまで漁獲して来てくれた海産物が無駄になってしまう。
ミラが率先して動き、生で食べられそうな食材がどんどん刺身に変わっていく、ちなみに包丁としては綺麗な、まだ戦闘で使用していない短剣を使用したため清潔だ。
そんな感じで食事の準備を終え、ひとまず丸くなって座り、適当に食しながらこの後の行動について話し合いをした……
※※※
「……うむ、ではこのトロッコに乗って終点までは行く、そこからは地道に、敵に発見され辛いようなルートを模索しつつ歩いて行く、それで良いな」
「ええ、トロッコ10連結まで出来るみたいですから、それぞれ2人か3人ずつ乗り込んでいきましょう」
「では最も危険で事故が起こった際真っ先にやられる先頭車両は……イヌマ―、サルヤマー、お前等が2人で乗り込め」
「ダンナ、どうして俺達がそんな危ねぇ役目なんすか?」
「ウキーッ! ホッホッホッホッ!」
「お前等には心底くたばって欲しいと思っているからだ、ほら、先頭車両にはお前等の大好きなシャブを入れておいてやる、それで手を打て」
「やったぜぇぇぇっ! これなら命を賭ける甲斐があるってもんよっ!」
「キキキキキキッ! ムキーッ!」
「いよいよやべぇなこいつら……」
大喜びで先頭車両に乗り込んだ犬畜生とチンパン野郎、まぁ好きに死んでくれて結構なのだが、最低限後続の俺達を守る盾ぐらいにはなって欲しいものだ。
で、その次の車両には紋々太郎と新キジマ―、それからフォン警部補が、その後ろには順次勇者パーティーのメンバーが乗り込む。
俺は5台目のトロッコに、同列であるマリエル、それから後衛ではあるが別に攻撃が出来るわけではないため、後ろを見張る必要がないルビアと3人で……かなり狭いではないか……
「おいルビア、もうちょっと隅に寄るんだ、俺がはみ出してしまうではないか」
『その前に勇者様、私が押し潰されています……』
「ん? マリエル、どこから話しているんだ? 姿が……と、すまない、俺が踏ん付けていたのか」
『とにかく足を退けて下さい……あ、急に動かないでっ、ふげっ』
下でマリエルがプチッといってしまったような気がするのだが、ルビアのデカいおっぱいが邪魔で下の様子を窺い知ることが出来ない。
というか、紋々太郎と新キジマ―、フォン警部補はこの狭いトロッコの中にどうやって……新キジマ―の奴が相当にはみ出しているのか、空を飛べる奴は別にそれでも良いのだな……
しかし俺達3人はそういうわけにもいかない、絶対に途中で振り落とされ、置いて行かれるようなことがないようにする必要があるのだ。
良く考えよう、俺が比較的場所を取っているのは仕方ないとして、問題はルビアの尻とおっぱいがデカいこと、そしてマリエルもそこそこのボリュームを持ち合わせていることである。
それらの要素が絡み合うことによって、本来であればギリギリで収まるはずの3人が、スペースの無駄遣い、というか隙間だらけになることによってしっかり収まらないのだ……
「まずはルビア、おっぱいがトロッコ本体よりも上にくるように乗るんだ、あと尻も上げろ」
「こ、こうですか? かなりキツい姿勢なんですが……」
「ちょっと我慢しろ、で、マリエルは中で四つん這いになって尻だけ上げるんだ、そう、ルビアの尻と重なる感じだ」
「はいっ、クッ、これは少し支えがないと……」
「大丈夫だ、これで後方に出来た隙間に俺が入る、ちょうど2人の尻が顔の前にくる姿勢でな、で、手を使って下から支えてやるから、ほれっ」
「ひぎぃぃぃっ! お、お尻をそんな風に、しかも勇者様の顔の前に……」
「おう、2人共パンツが丸見えの状態で、尻が俺の顔から10㎝も離れていないぞ、ざまぁみやがれ、いや見られやがれ」
『何たる屈辱っ!』
ハモッた2人の姿勢はまさにその通り、トロッコの中で尻を突き出し、普通に座った姿勢の俺がその尻をじっくり眺めることが出来るポジションにあるのだ。
その屈辱的な姿勢のまま、敵地である岬へと向かう……おそらく1時間以上はこのままであろう、俺は暑くて汗だくになった2人の尻を、じっくり眺めながら快適な旅をすることが出来る、これはセクハラではなく役得である。
ということで出発、進行方向にセットされた5匹のチンピラはそのまま轢き殺すとして、もう一方のルートにセットされた1匹はどうしようか。
などと思ったところ、シャブがキマって良い感じになったチンパン野郎がトロッコから飛び降り、その1匹を……もうグジャグジャにしてしまったではないか、しかも少し喰っていやがる、あまり見たくはない光景だな。
「……よし、では出発進行、イヌマ―、レバーを引いてブレーキを切れ」
「ウッヒョォォォッ! ハイになってきたぜぇぇぇっ! GOだっ!」
『ぎょぇぇぇっ! いでぇよぉぉぉっ!』
動き始め、ゆっくりと進むトロッコによって轢殺されていく5匹のチンピラ共。
線路に並べられた状態で、徐々に胴体が……こちらも見ていて気持ちの良いものではないな、状況の説明は割愛することとしよう。
トロッコは最初の下り坂で徐々にスピードを上げ、次の上り坂を難なくクリアする。
途中で魔法の掛かったスポットがいくつかあり、そこで推進力を追加しているが、おおむね慣性だけで進んで行くようだ。
おそらくあの場所、つまり最初にトロッコが埋まっていた場所はこの半島で最も高い場所であったのだ。
そこからスタートすれば、先端である岬まで最小限の力で到達することが可能となる。
もちろんそれは最近入って来た犯罪者組織が思い付いたものではなく、ここの住人が古くからそうしてきたものを利用したに違いない。
そして本来であれば半島の先端、岬まで十分に到達出来るものを、ヘタレ犯罪者共が保身のために手前で停めているということ。
本当にとんでもない連中だ、そんな奴等の親玉を、敵の手から取り戻し、住民達が戻ったこの地において死刑に処す瞬間が待ち遠しい。
目の前にあるルビアとマリエルのパンツ丸出しとなった尻を眺めつつ移動する。
実に良い眺めだが、それもほんの1時間の出来事であった。
トロッコはすぐに半島の先端へ、目的地としている岬のすぐ近くまで接近、せいぜいあと3㎞程度といったところで線路が途絶え、停止する……
「ひゃんっ! す、すごい衝撃です……」
『マリエル、良いから尻を退けてくれ』
「ひぇっ、勇者様、モゴモゴしないで下さい、あとルビアちゃん、もうちょっと上に、そうじゃないと私は動くことが出来ません」
「ちょ、ちょっと、腰にきて……あてて」
『おいルビア、早く退いてやれよ、俺が窒息するっ!』
「だからモゴモゴしないで下さいぃぃぃっ!」
「……君達はなにをしているんだね?」
紋々太郎には呆れられ、俺はマリエルの尻で窒息寸前まで追い込まれたのだが、とにかくトロッコレーンの終点までは到達することが出来た。
ここからは徒歩になるわけだが、間違いなく今までのようにスムーズな移動は叶わない。
そこら中に敵が居るはずだし、見つからないように進むのはかなり困難なことと考えて良いはず。
だが進まないわけにもいかないし、こんな所でグダグダしていれば逆に発見されるだけ。
暑さでバテていたメンバーも、トロッコで風を受けて移動したことによって多少は回復したようだし、ここはすぐにでも動き出すべきなのであろう、あろうが……
「……拙いな、勇者殿、トロッコの到着は常にどこかへ知らされているようだぞ」
「マジか、じゃあすぐにここへ敵が……と、手遅れだったようだな、もう数十人単位で来ていやがるぞ」
「ホントね……って、何かでっかいの混じってないかしら? ほら、あの白い奴、一番後ろだけど一番前に居るみたいに見えているわよ」
「重ねてマジか、人間っぽいのに凄まじいデカさだな、普通に10m以上はあるぞ、やべぇだろ、突然変異か?」
「わからないけど、どうやら向こうはわかったみたいよ、私達が自分の仲間じゃなくて、それをやっつけてここに辿り着いた正義の味方軍団だってことに……」
明らかにざわめき出す敵の集団、その最も後ろに位置している大男、というか人間なのであろうか? とにかく全身に細い包帯のようなものを巻き付け、目と鼻、口だけを出している状態のバケモノである。
しかもミイラのように乾燥した包帯というわけではない、遠目で見てもハッキリわかるほどに水分を含んだその謎の白い帯は、『ツルツルシコシコ』という表現が非常にマッチする感じの質感であるようだ。
「……あれはもしや、この地域に伝わる伝説の麺ではないか」
「伝説の麺? なんですかそれは……」
「うむ、うどんより太くほうとうよりは細い、この地域特有の麺が存在しているという伝説が、この島国にはあってだね」
「すると、あの変な奴はそれを全身に移植されたバケモノ、そういうことでしょうか?」
「可能性は高い、単に巻き付けているようには見えないからね」
「何でそんなわけのわからないことを……」
まぁ驚いていても仕方がない、ここは戦って、まずブチ殺してから必要とあらばその正体を探ることとしよう。
とにかく全身に麺を巻き付けた、身長10m前後の巨人、それがこれから始まる戦闘において、敵の親玉的な存在であることは疑いの余地がないのだ……




