689 新、英雄パーティーメンバー
『ギョェェェッ!』
『ひぎぃぃぃっ!』
『は~い、雷撃のダメージ床で死んだ人は早々にお引取り願いま~っす、ほらそこ、くたばってないでサッサと退けやこのゴミカスがっ!』
「勇者様、あの人はもう返事がないわ、ただの屍よ」
「チッ、あの中から1,000人残したとはいえ雑魚紛れ込んでいるものだな、この期に及んで死ぬとは、おい、ちょっとそこのスタッフ、あの死体をゴミ箱に捨てて来い、ダッシュで」
「えっ、自分ですか? その、まだ雷撃が走っていて近付くことが出来ないのですが」
「ちょっと勇者様、あの床にはまだ雷撃が走っているの、私の魔法の、全力の200万分の1の力の雷撃がね……まぁ普通の人が入ったら弾け飛んで死ぬわよ、あとスタッフの人にイキらないで、恥ずかしいから」
「そうか、じゃあ死体はあそこで焼け焦げるまで放置、あの男は情けない雑魚の馬鹿として、末代まで蔑まれるウ○コ身分に落としておこう、試験官たるこの俺様に迷惑を掛けたのだからな」
「本当に偉そうな異世界人ね……」
故キジマーの代わりとなる、4大英雄武器のうち『ポン刀』を操る戦士を決めるための選抜試験。
もちろんこれは『本試験』、予備試験を勝ち抜いたたった1,000人の中から、次の『羽取り付け改造適合試験』に進むためのちょっとした試練である。
だがセラの本当の実力のうち、たったの200万分の1の力を床に、しかもそれを一点ではなく広範囲に散らしたダメージ床を越えてこちらへ来るという、本当にサービス問題としか思えない超簡単試験において、なんと序盤から複数の死者が出ている始末。
こんな連中が本試験に残った、ということはアレだ、落ちていった連中は本当のゴミカス、単なる暇人であって、ノリで今回の募集に反応したクソニート共でしかなかったということであろう。
これは逆に良いことである、前回の『合格枠1人に対して5万人の応募』というのにビビッてしまっていたのだが、どうやらその大半が記念受験であったようだ。
まぁ、その記念受験で命を落とし、帰らぬニートとなった大馬鹿者もかなり存在するようだが。
きっと家で待つその者らの両親は涙を流していることであろう、あぁ、生命保険を掛けておけば良かったと……
『は~いっ! ゴールした方はそのまま次の試験会場へ進んで下さ~いっ! 今度は実験施設でキジマーの羽を取り付ける改造を試しま~っす! 空を飛ぶために重要なんで、これに適合しないとキジマーにはなれませ~ん!』
『うぉぉぉっ!』
結局1,000人のうち、およそ800人が雷撃のダメージ床エリアを通過し、次の試験に進むための切符を得た。
ここまでくるとかなりタフな連中ばかりだな、振るい落とす作業の効率が悪くなってきたようだ。
だが次の人体改造、これは最初にこの地へ来たときにも見た通り、かなり失敗が多くしかもその『非適合者』は死体となって打ち捨てられ、その辺で風雨に晒される運命。
その成功率の低さのみならず、バラバラになった死体を見て諦めるような軟弱者もかなりの数……と、逃げ出して来たのは数名のようだ、絶叫しながら坂を駆け降り、海を目指している。
しかし英雄パーティーの秘密に関して色々と知ってしまった以上、この連中をこのまま逃がすわけにはいかないのであろう。
犬畜生とチンパン野朗がその数名の脱走者を全て捕らえ、どうやらダンゴ精製塔の方に連れて行った……そうか、軟弱者とはいえそこそこのの力を有する連中だし、ダンゴ精製のための生贄にするのだな……
「……うむ、思ったよりも逃げ出した者が少なかったようだな、前のキジマーを決定する際には、この改造をする段階になって残った、つまり覚悟を決めた者は半分程度であったのだがな」
「そりゃそうですよ、さっきの雷撃エリア、死ぬかもしれないあの場所を抜けて来た連中ですから、それなりの覚悟がある奴ばかりです、まぁ、例外というかエラーというか、少しは居たみたいですがね」
「なるほど、容易に死ぬような試練を先立って行っておけば、そこで可能性のある者をかなり選別しておくことが出来るのだな、次以降、改造適合テストの材料節約のために実施しておこう」
で、その適合テストが行われている間、俺達は昼食を取りつつ時間を潰しておく。
本日は刺身と夏野菜の天ぷら、それにいつもの如く白桃をこれでもかと使ったフルーツ盛りが提供された。
ここまで選抜された連中であるから、キジマーの羽の適合者はおよそ7人から8人に1人ぐらいになると予想される。
となると次の試験に進むことが出来るのは100名程度、それをどう処理していくべきか、ここで紋々太郎やジジババと話し合っておく。
協議の結果、最後にひとつ試験を、今度はキジマーの羽に適合していることを証明するかたちで、空を飛ばなくてはクリア出来ない試験を実施することが決まった。
もちろん墜落すれば大怪我、または死亡する可能性が高い飛行高度を必要とし、キジマーとして、そしてポン刀を用いて空中から斬り付けるアタッカーとして、十分に活躍することが出来るかどうかをテストする試験だ。
もちろん落第した者は帰さない、ここまできて、しかも背中に羽まで取り付けた状態で日常生活に戻すわけにはいかないのである。
もしかしたらその『英雄パーティーの極秘技術』に目を付けた犯罪組織や将軍様バッジ軍団に目を付けられ、誘拐されて解剖台に上げられるというようなことも考えられるためだ。
また、羽に適合したということはかなりの力の持ち主でもあるということ、それにダンゴを使用すれば、あの故キジマーの10分の1程度の力を発揮するに違いない。
もしそうなった場合、俺達のような最強クラスの戦闘員にとってはどうということはないのだが、戦うことの出来ない一般人にとってはかなりの脅威だ。
どこかに連れて行かれ、こちらの与り知らぬ場所で暴れられたら非常に迷惑である。
ゆえに、このテストより先に進んだ者は、どういう結果になろうと確実に始末しなくてはならない……
「……それで、最終面接は勇者君、君も同席して、メインで質問をしてくれたまえ」
「俺で良いんですか? めっちゃ圧迫面接でいきますけど、それでも構わないというのであれば」
「うむ、全ての試験、というか試練をクリアした者だ、最後に推し量るのは忍耐力、ディスられた際にキレて暴れ出し、作戦を台無しにしない強いメンタルがあるかどうかということなのだよ」
「プッ、それだと主殿は不合格だな、いつもキレてばかりだし、というかディスられるまでもな……いたたたたっ! 耳がもげるっ!」
「さて、テストはまだまだ終わらないと思うが、俺は先に行って待機しているよ、ジェシカを引っ叩きながらな、来いっ!」
「ひぎっ、引っ張らないでくれ主殿、というかこんな連行されるような姿をそこらの人々に見せるのは……」
「あら、じゃあ片付けをして、ちょっと休憩したら私達も行くわ」
「おう、むしろ早く終わりそうなら呼びに来るよ」
昼食後も実験施設では適合テストが続いており、時折悲鳴、というか適合しなかった者の断末魔が聞こえてくる。
ジェシカと2人、先んじて移動した俺は隣の待機室、というか病院の待合室的な部屋でベンチに腰掛け、中の様子を……見ない方が良いな、扉を開けた瞬間に聞こえる地獄の底から響くような声、そして吐きそうな臭い。
中でとんでもないことが行われているのは明らかだ、それはもう、想像を絶する苦痛の中で、非適合となった者の肉体が炸裂、周囲に飛び散っていることであろう。
そんなグロテスクな人体改造の現場を見るよりも、ベンチに座ってご休憩しているジェシカの改造を実践していく方が間違いなく良い、というか楽しいはずだ……
「おいジェシカ、お前は所々で調子に乗りやがってっ! 『人体揉み改造』を喰らえっ!」
「あっひぃぃぃっ! ちょっ、何だかいつもと違う場所を揉まれ……やめてくれ、そこは無駄な肉が……ひっ、いやぁぁぁっ!」
「あ、勇者パーティーの方々、いらしていたんですね、そろそろ適合テストが終わり……何をしておられるんですか?」
「フハハハッ! 良いではないかーっ、良いではないかーっ」
「あのっ、もしもーっし」
「ひぎぃぃぃっ!」
「すみませーんっ! そろそろ適合テストが終わりますよーっ!」
「ん? ここか? ここが良い……あれ、ど……どうも……」
「どうした主殿? もっとこっちの……あ、申し訳ない、気付かなくて……」
「いえ、こちらこそお取り込み中に申し訳……ありません」
流れる気まずい空気、俺がジェシカを『改造』している間に、いつの間にか白衣の女性……いや白衣というには赤すぎる、全て返り血のようだが、これだけでも中でどのようなことをしていたのか、簡単に推し量ることが出来るレベルのビジュアルだ。
しかし背も低いし本当に子ども、とまではいかないが少女といった雰囲気の女性である。
声も、そして体型も……いや、そこに突っ込むのはやめておこう、ウチの風邪魔法使いもこんなものだ。
しかしそれがこんな物騒な施設で何をしているというのか? 博士の助手? それともこの子自身が合法ロリ系博士で、実はこの見た目でウン百歳、とかそういう感じなのか。
まぁ、今の段階でその身分や年齢について詳しく探るのはやめておこう、もし何か特殊な事情があれば、紋々太郎やこの地域を統べるジジババからお話を伺うこともあるはずだ。
「それでですね、えっと、人体改造なんですが、どうにか命を繋ぎ留めたって方も含めてですね、全部で108人の成功した方、適合者が出る見込みです」
「ほう、やはりけっこう多かったようですね」
「ええ、ここまで適合率が高いのは予想外でした、もっと死にまくる、悲惨な最期を遂げる方が、もっとこう、その、沢山出てくれると嬉しかったんですが……」
「・・・・・・・・・・」
きっとこの子は変態だ、どちらかというと精霊様タイプ、人が悶絶しながら死に至るのを見て喜んでいるサイコ人間なのであろう。
で、その適合者達の容態が安定し、奥の実験室から出て来るとほぼ同時に、下で食器の片付け等をし、その後休憩していた仲間達がやって来た。
100を超える適合者の数には紋々太郎も、それからここで合流したジジババ達もご満悦のようだ。
そして次なる試験を開始するため、合流した仲間達と共にそのまま山を登って行く。
細い林道の先に見えるのは切り立った崖、そこへ適合者の108人を誘導し、最終面接会場である、かなり下の方に辛うじて見えている施設を指し示す……
「……では諸君ら、危険なテストはこれで最後だ、もちろんこの中からキジマーとして選ばれるのはたったの1人である、全員周りは全て蹴落とすべき敵だということを理解しているな?」
『イエスッ! サーッ!』
「……よろしい、で、最終テストはここからの飛行、面接会場まで辿り着くことだ、一斉に崖から飛び、他の者をブチ殺しつつ目的地を目指すこと、先着の10人に対してのみ面接を行うものとする、以上」
『イエスッ! サーッ!』
「ではテスト開始の合図を待て」
『イエスッ! サーッ!』
ということで俺達はそのまま下山、帰りは農業用のモノレール的な何かを用いて一気に降りたため、面接会場である施設に辿り着くまではそう時間を要さなかった。
到着し、先程まで居た崖地を見上げた瞬間に、キジマー候補、その中でも特に優秀であり、人体改造にも適合することが出来た108人が一斉に飛び立ったのが見える。
面接に進むのはこの中からさらに選び抜かれた10人のみ、最初の応募者が7万から8万程度居たことを考えると、この連中の中での脱落者を殺してしまうのはもったいないような気もするな。
まぁ、結局力のある生贄として、より多くの高品質ダンゴを精製するためのタネとなるのだ。
本人達はそのこと、というか落選した際には消されることさえも知らないのだが、最後はキッチリ役に立てるのだから安心して死んで頂きたい。
「お、そろそろトップの奴が降りて来そうだ、セラ、俺は面接官として他の連中と一緒に中で待機しているから、メンバーで協力して最終面接に進む奴、それから落選した奴を誘導してやってくれ」
「わかったわ、じゃあ半分はここで誘導、残りは脱落者が着陸しそうなポイントに散って回収をするわよ」
『うぇ~いっ!』
こうして最後の飛行テストまでが終わった、いよいよベスト10入りしたキジマー候補達を、俺や紋々太郎、それにジジババが直接面接するフェーズに移行する。
これで次のキジマー、即ち今後この島国での活動を共にする仲間となる人間が決定するのだ。
どんな奴が来るか、せめてキモメンと脂の凄いハゲ野朗だけは勘弁して頂きたいところなのだが……
※※※
「はい、では最初の方からどうぞっ」
「し……失礼しますだっ! おおおお、オラはその……」
「何だテメェはキョドりやがって、やる気あんのかコラ?」
「ええええっ、えっと、オラはだな……」
「うむ、飛行試験も10位ギリギリ、本来であればここへ来るはずのないウ○コが、単なるラッキーの積み重ねでここに残っていたということだな、よし、もう帰って良いぞ」
「そ、そそそっ、そんな……」
「うるせぇっ! とっとと帰れって言ってんだよこのゴミ野朗! 二度と顔を見せるんじゃねぇっ! だいたいお前みたいな奴が……(どうのこうの)……ってんだよボケェェェッ!」
外で待機している次以降の面接試験受験者にも聞こえるよう、可能な限り口汚く罵っておく。
どうせコイツは不合格確定だから何をしても良いのだ、そもそも顔がキモい時点で英雄パーティーには向かない。
で、次に入って来たのは自信満々のゴリマッチョ、やけに筋肉をアピールしているのだが、俺がこの世界に来てから見た筋肉野郎の中ではかなり小さい方。
おそらくこの程度では、王都筋肉団の入団試験を受けたとしても落選であろう、研究生としてサブ的なポジションを獲得することも出来ず、普通に書類選考で砕け散る。
ちなみに面接は飛行試験の成績が悪い順に執り行われるため、正直言って前半の5人程度ではもう最初から不合格が決まったようなものなのだ。
筋肉の奴には精神的ダメージを十分に与えて退室させ、その次も、そのまた次もゴミのような馬鹿と、仕方なく面接、というか会話をしてやる。
で、ようやくまともそうなのが現れたのは残り3人となってからであった、清潔感のある、比較的若い野郎が俺達の前に立ち、勝手に自己アピールを始めたではないか。
どうやらこの男、島国のどこかで役人をしていた、つまり生まれついてのニート野郎ではないということだ……
「で、何で役人辞めちゃったの?」
「はいっ! 私はっ! 女子トイレに隠れて色々と覗くのが趣味なのですがっ! ある日趣向を変えてっ! 女湯を覗いたところっ! あえなく御用となりっ! それが原因で懲戒免職処分となりましたっ!」
「……うむ、君は帰ってよろしい」
「ですね、おうこのゴミ野朗、英雄パーティーは違うが、今回限りご一緒させて頂く勇者パーティーは女の子メインなんだ、お前のような奴を同行させるわけにはいかない、死ねっ!」
「私は悪くないっ! ただ覗いて、眺めていただけなのですっ! それに……」
「うるせぇサッサと消えろ、はい次の方……といってもあと2人か」
「勇者君、ここは2人同時に入室して貰おう、まず人柄だけ見て、大丈夫そうならこの場で『デスマッチ面接』といこうではないか」
「なるほど、それはなかなか効率が良さそうですね、じゃ、は~いっ、残り2人、まとめてどうぞ~っ」
『失礼しまーすっ!』
入って来たのはそれぞれマッチョ系と素早さ系の真面目そうな2人、見た感じは特に問題なさそうだ。
というかこの2人をどちらも採用し、あの犬畜生かチンパン野朗を処分した方が良いような気もする。
だがそうも言ってはいられない、この2人のどちらかを新たなキジマーとして採用、そしてどちらかをダンゴ精製のための生贄として死なせるのだ……
「え~、では2人共、これからキジマーとしてやっていくうえでの心構えを……と、まぁそんなのどうでも良いか、紋々太郎さん、早速戦わせてみましょうか」
「そうしよう、2人共窓から外へ出て、ここから見える範囲で戦ってくれ、もちろん空中でな」
「地に足を付けたらペナルティ、その場で紋々太郎さんのハジキが炸裂するからそのつもりで」
『イエスッ! サーッ!』
「武器を取れっ!」
俺が投げて渡したのは2つの剣、長いものと短いものだ、当然2人共長い方へ走るのだが、運悪く少し遠かった素早さ系の男は諦め、マッチョよりも先に短剣を手にする。
素早さ系はそのまますぐに窓をブチ破って外へ……と、窓枠の手前で急停止した、そこを遅れて飛び出したマッチョ系が追い抜き、空中で取り付けられたばかりの羽を使って上手くターン、こちら側で待ち構える素早さ系の男に斬り掛かる姿勢だ。
それに対してさらに一歩、というか1m程度下がり、ほぼ窓枠に被るようなかたちで受ける姿勢に入った素早さ系。
マッチョ系は窓枠など気にせず、手にした剣を思い切り振り下ろす……バキッと破壊される窓枠、凄まじいパワーである。
持っているのは単なる鉄の、鋳造された粗悪品の剣だというのに、まるでそこに石造りの窓枠などなかったかのような、そんな勢いでの攻撃だ。
「ふむ、これは決まったな」
「そうですね、この勝負は素早そうな方の勝ちでしょう」
おそらくは窓枠を盾に、そこでマッチョ系の攻撃が減速することを狙ってその場所に移動したのであろう、少なくとも攻撃を加えたマッチョはそう考えていたはずだ。
だがそれは素早さ系の方のフェイク、間違いなくそうだと思わせておき、石造りの壁が粉々になってそこら中に飛散する、そのカオスな状況に紛れてまた移動し、マッチョ系の背後に回っていた。
ザクッという音と共に、マッチョ系の腹から突き出してくる短剣、それが引っ込むとまた別の場所から、そしてまた……その勢いで全身をメッタ刺しにされ、息絶えて落下していくマッチョ系の後ろから、素早さ系、ではなく新キジマーの姿が現れる……




