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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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686 お宝出現

「あんらぁ~、おはようお兄さん~、今日も頭の回転が遅そうな顔してるわんねぇ~っ」


「……えっと、普通に殺して良いですか?」


「あ、やめて下さい、オーナーは飲みすぎた翌日はもうこんな感じなんで、海の家が解放されたことが嬉しくてつい、という感じなのだと思います、だから良いにしてやって欲しいです」


「まぁ氷魔法使いのお姉さんがそういうなら仕方ないな」



 紋々太郎に連れられて行った小島にて、犯罪組織を討伐した後の休憩で発見した避難施設と、そこで敵キャラを殺害しつつ隠れていた氷魔法使いのお姉さん3人組。


 彼女らが殺した犯罪者のうちの1匹は、西方新大陸で指名手配を受けているような大物であったことが発覚。

 そしてその犯罪者が『資金調達』のために自らお宝の在り処に赴く習性がある、つまりあの小島にお宝があるはずだというところまではわかっていた。


 で、先祖代々あの島にて海の家を経営してきたこの男……なのかどうかはわからないが、とにかく青ひげのオーナーから話を聞くことが本日最初のタスクだ。


 昨夜の宴では完全なおっさん口調になり、先祖から伝わる島の宝、しかも500年前に始祖勇者と共に隠したというその宝について言及した青ひげ。


 約束通り、翌朝となった今俺達の宿泊所に現れ、その件に関しての説明を……いや、あの口調はキモいしウザいな、少し対策をしておこう……



「ルビア、すまないがスタッフの人にでも頼んで酒樽を貰って来てくれ」


「え、こんな朝からですか?」


「おう、ちょっと迎え酒でもしつつこのおっさん……オカマ? の話を聞こうと思ってな」


「わかりました、とりあえず頼んで来ますね」



 昨夜のやりとりは辛うじて覚えている、この青ひげは普段は乙女なのだが、どういうわけか酒を飲ませると『男』になってしまうというお姉さんによる説明。


 であれば別に今この場で酒を飲ませ、『もう少し会話し易い感じの人』にしてやっても構わないはず。

 もちろん1人だけ飲ませるのは相手も気まずいであろうから、俺も仲間も、そして話を聞くためにやって来たフォン警部補も飲む。


 ということですぐに酒が持ち込まれ、それを煽りながらの会談が始まった。

 青ひげはすぐに顔の髭以外の部分が赤くなり、通常の、いや普段とは違う『男』の側面が口調にも現れる……



「うむ、では話をしよう、昨日私が告げた例の宝についてなのだが、今日は海の家に先祖代々伝わる伝承、それに関する資料を持って来たのだ」


「資料? ひょっとして始祖勇者と共に遺したとかそういう感じのですか?」


「そう……といえばそうかも知れないが、始祖勇者の直筆に関してはふたつだけ、このサイン色紙に書かれたサインと、それから今回の話の中心である宝、その奉納と後々までの管理を引き受けたことに対する感謝状ぐらいのものだ」


「となると……始祖勇者と実際に会って、頼まれごとまでして舞い上がった先祖が勝手に編纂したと……」


「うむ、その認識で合っていると思うぞ」



 見せられたサイン色紙にはしっかりと、『始祖勇者参上、海のOH YEAH!さんへ』と記述。

 完全にアレだ、店に訪れた有名人のサインと同じだ、本来なら海の家の店舗、その目立つ場所に掲げておくべきものであろう。


 で、そんなサイン色紙を眺めるのはほどほどにして、肝心の資料の方に手を付ける。

 それによると、始祖勇者はどうやらこの島国の4ヶ所に同じものを、ここと似たような感じで現地人の協力を得て祀ったとのこと。


 そして祀られた4つのお宝があってこそ、この島国が瘴気の影響を受けず、本来は魔族領域であるにも拘らず人族が繁栄出来る場所になっているそうだ。



「なるほどね、始祖勇者から委託されたシャーマンが、長い時間を掛けて瘴気避けの術をその『お宝』に封入したってことだわ、本当に永久レベルの効果を出すようにね」


「そのお宝とやらを4ヵ所に……おそらくこの島国全体をカバーするように配置したということか、主殿、残念ながら今回のもの、お宝はお宝でも換金価値を有するものではないぞ」


「というか移動すると大変なことになりかねないわね」


「チッ、ろくでもねぇ『お宝』だな、ということで解散だ、今回の件はなかったこととする」


「あ、ご主人様、ちょっと待って欲しいですの、その『お宝』、念のため現物を確認だけしておきたいですわ」


「どうしてだユリナ? そんなモノもう宝じゃなくてゴミだぞ、紋々太郎さんが連れている犬畜生とチンパン野朗と同レベのな」


「それでもですわ、その4つの何かで土地を安定させる……どこかで聞いたことありませんの?」


「いや全く、見たことも聞いたこともないなそんなもの」


「……これだからご主人様は……まぁ忘れるのも無理はないですけど、これ、4方面の魔族領域を安定させていたあの玉にそっくり、いえ間逆の効果を持っているものとしか思えませんことよ」


「4方面の……玉? あっ、うっすらと思い出したぞ、そんなのもあったな昔」



 そういえばそうであった、東西南北の4つの方角とそれぞれの魔族領域、その魔王軍の中のトップとして城を構えていたのが四天王であり、そして各場所ではまた、魔族領域の維持にとって重要な謎の玉が発見されている。


 確かその玉にはあまり触れない方が良い、動かすだけでも、そしてもちろん破壊したりすれば大惨事になる可能性があるとのことで、手をつけずにそのままとなっているのであった。


 今回の『お宝』は、ユリナの指摘したようにそれと真逆の効果、即ち瘴気溢れる魔族領域ではなく、瘴気のない人族の地を安定させ、維持していくために設置されているものであることはもう間違いない。


 おそらく始祖勇者は地図を用いて色々と考え、それぞれの設置場所を選定したのであろう。

 そのお陰でこの島国全体が『お宝』の影響下にあり、もって人族が安心して暮らせる領域となっているのだ。


 さらに、『お宝』の効果は島国だけに留まらず、余剰分が西側にある大陸、つまり俺達が拠点としている王都がある大陸の外れまでもカバーして……いや、だとするとアレだな、少し困ったことになるな……



「あのさ、さっきのユリナの話を前提にするとなんだけどさ、もしかしたらこの『お宝』、どこのものかはわからんが効果が弱まったりしていないか?」


「どうしてそう思うんですの?」


「だってさ、火の魔族の集落で聞いただろう? 大陸側の人族、将軍様バッジの連中だな、それがこっちへ渡って来て悪さをしているのは……」


「あ、大陸側の人族が住める場所が急激に少なくなっていると」


「そう、つまり『お宝』のカバーによって瘴気が跳ね除けられているエリアが狭くなっているんだよ、違うか?」


「ちょっと可能性がありますわ、というか高めの確率でそう……どなたかこの周辺、いえ大陸側まで良い感じに載っているような縮尺の地図、それと島国全図を持って来て欲しいですの」



 すぐに周りからスタッフが駆け付け、ユリナの要請を聞いて走り去る、あっという間に用意された周辺マップには、この地域だけでなくジャケェ共和国、そして海を渡った先の『将軍様エリア』までもがバッチリ記載されている。


 そして辛うじて載っている離れ小島、海の家と、そして『お宝』が存在しているという例の小島を中心に円を広げていくと……ある程度の大きさのところで大陸側のエリアにそれが掛かった。


 次いでもうひとつの予測、だいたいの円の大きさを考え、それを今度は島国全体が記載されたマップのどの辺りに4つ配置すると、それで全てのエリアを掌握出来るのかという調査だ。



「……今わかっているここは確定として、こことここ、あとはこの2つ……これで全体をカバー出来るな」


「となるとやはり今居る場所、というか離れ小島の『お宝』が、大陸側の人族が住める場所をカバーしていることになるわね」


「まぁちょっとした予測に過ぎないんだが、それにしてもその可能性は十分にあるな」


「勇者様、やっぱりその『お宝』はちゃんと確認してみるべきですよ、もしかしたら損壊したり、何らかのキッカケで力が漏出したりしているかもです」


「あぁ、もしその『お宝』が完全にダメになると拙いからな、この件はもう一度紋々太郎さんに報告して、再度あの離れ小島の捜索をしよう」


『うぇ~いっ!』



 どのみち海の家を復活させるための作業が必要で、そのためにこの地域の人々、そして解放の英雄である紋々太郎はあの離れ小島へ行く必要があるのだ。


 となれば俺達はそれに同行、追加の懸念事項である『お宝』の調査に従事し、それが終わり次第島と海の家の復興作業に当たるという感じの作業振り分けが出来そうだな。


 何にせよそのお宝は始祖勇者の遺産、本来の目的であるダンゴ生産拠点壊滅の前ではあるが、少しばかり『勇者としてのプライベートな情報収集』をしても構わないであろう。


 ということでその日の昼前、おにぎりやその他弁当を大量に積んだ屋形船を擁する『英雄・勇者合同船団』が結成され、その船団は昨日解放したばかりの離れ小島へと向かった……



 ※※※



「……ではそれぞれ作業に取り掛かってくれ」


「ヒャッハーッ! 俺はシャブをキメるのが仕事だぜぇぇぇっ!」

「ウキーッ! ウホッウホホッ!」


「イヌマー、サルヤマー、お前達には本当に不慮の事故で死亡して欲しいと思っている」



 復興作業班の代表を務める紋々太郎の訓示の後、俺達は山へ宝探しへ、太郎達はビーチでの復興作業に向かった。

 ちなみに氷魔法使いのお姉さん3人と、それから酒を入れて男にしてある青ひげも俺達のチームだ。


 まずはここへ向かう船の中で、青ひげの家に伝わる資料をガン見し、それによって目星を付けたお宝の場所、即ち昨日お姉さん達を発見した避難施設へと向かう。


 どうもその地下に祭壇があり、そこに『お宝』が祀られている可能性が高いのだ。

 海の家の従業員達も、他に島内で祠のようなものを見たことはないというし、やはり人工物があるあの場所が最も可能性が高いはず。


 他にも海の家の店舗の真下など、可能性のある場所は存在していたものの、まさか『店を取り壊さないと取り出せない』ような場所に、始祖勇者の頼みとはいえ『お宝』を設置するとは思えない。


 ということで沢を遡り、昨日出会いがあった場所へと向かう、今日は大所帯だし、ついでに氷付けの死体もどうにか運搬……と、ここでトラブルだ……



「おいマーサ、大丈夫か? 何だか足取りが重たいぞ、ユリナとサリナは……そこまででもないか……」


「う~ん、ちょっとね、何かね、膝にきている感じよね……ととっ……」


「私も姉さまもちょっとイヤな感じがしています、ビーチとかまでならまだ違和感だけだったんですが、ここまで来るとちょっとキツいですね」


「そうか、まぁ『お宝』に近付いている証拠なんだろうが、どうする? 3人共海の方へ戻りたいか?」


「大丈夫、頑張るから」

「私達はマーサほどではありませんの、ねぇサリナ」

「ええ、なのでこのまま付いて行きます」


「ユリナサリナはともかく、マーサはちょっと心配だな……」



 無理をして頑張ってしまいそうなマーサ、一応俺が様子を見てついでにいつも仲良しのマリエルにサポートさせることに決めたのだが、それでも不安には不安。


 このまま沢を上り続ければ、もちろん『お宝』の場所が予測どおりであった場合に限るのだが、より一層体調が悪化してしまうことも懸念される。


 ここはやはり何か対策を、もちろん俺には何も出来ないのだが、俺達には精霊様という、この不思議なファンタジー世界の都合の良さを司っている、そう思わざるを得ないほどに乱暴な、ダイナミックなご都合展開を作出する存在があるのだ……



「精霊様、何か凄い、そして都合の良いアイテムでマーサとユリナ、サリナをどうにかしてくれ」


「何とかって……そうね、ダークマターでも食べさせればどうにかなるかしら?」


「ひぃぃぃっ、またあの不味いのをご飯に……」


「そうよ、あ、でも今は『ダークマターシロップ』しか持ち合わせがないわ」


「そんなものの持ち合わせがある時点で相当にアレなんだが? でもシロップか、そのままグイッと行くわけにもいかないし、どうしようか?」


「え~っと、せっかく甘い味付けが……簡単よ、かき氷にすれば良いんだわ」



 良いアイディア爆誕である、せっかく同行している氷魔法使いのお姉さんが3人、その力を使うのがここでの妥当なやり方だ。


 早速かき氷を3人分作って貰い、その上に精霊様所有の『ダークマターシロップ』をトロトロッと……うむ、かき氷のところまでは涼しげで良かったのだが、そこから先はとんでもない絵面である……



「ねぇ~っ、コレはホントに食べても大丈夫なわけ?」


「私もさすがにコレは……体が拒否していますの」


「確実に美味しくはありませんね、甘いにおいはしますが」


「大丈夫だ3人共、ちょっと濃い目のブルーハワイだと思って」


「濃い目どころか漆黒ですわよ、ブルー要素ゼロですの」


「うるさいっ、とにかく食べるんだよっ、ほらユリナ、あ~んっ!」


「ひゃっ……おぇぇぇっ……」


「おいコラッ! かき氷を作ってくれたお姉さんに失礼だぞっ!」


「お姉さんには確かに悪いと思っていますの、ただこのダークマターシロップの製造元には訴えを提起したい気持ちでいっぱいですわ」



 マーサにはマリエルが、サリナには精霊様がダークマターかき氷を食べさせ、不味いだの何だのと批判しているものの、どうやらその場で『お宝』の影響によると思しき弱体化や不快さは収まったようだ。


 まぁ、2時間か3時間で効果がなくなるとのことなので、その後はもう一度、次は海の家の方でダラダラしているエリナにも無理矢理、トロッと濃厚なのを食わせてやろうか。


 ということで元気を取り戻したマーサと、元気にはなったものの不満そうな顔をしているユリナ、サリナの復活を宣言し、再び歩を進めて目的の施設を目指した……



 ※※※



「それで、ここが一番怪しいってのはわかったんだが、具体的にこの中のどこが怪しいんだろうな?」


「そうねぇ、あ、勇者様、青ひげの人の家の伝承の中に、変な呪文みたいなのがあったわよ」


「変な呪文? 人を青ひげにする呪いの何かじゃないよな? やめてくれよ、俺はまだ人間を止めたくはないぞ」


「じゃなくて、青ひげさん、せっかくなんでこの呪文、この施設の中で唱えて頂けないかしら?」


「良いのかい? この場の全員が永遠に青ひげ化しても知らないよ?」


「やっ、やめてくれぇぇぇっ!」



 沢の源流にある施設に到着した俺達であったが、ここでセラの提案により、青ひげの家に代々伝わるという謎の呪文を試してみるという、明らかに不穏な、何かが起こり得そうな状況となった。


 もちろん俺は拒否するし他の仲間達も、というか言いだしっぺのセラさえもその呪文の使用の際に同席しないという。


 まぁ恐ろしい『青魔法』とかであったら最悪だ、生涯青ひげとして過ごすなど、この場で耐え得るのは生まれてこのかたおっさん属性以外付与されたことがなさそうな顔をしているフォン警部補ぐらいのものだ。


 ということで同行者、呪文詠唱の場に派遣されるのはフォン警部補、自身以外の全会一致で可決したため従わざるを得ず、渋々といった感じで建物の中へ入って行く……



『お~いっ! 始めるそうだぞ~っ!』


「わかった~っ! おい皆、耳を塞いで聞こえないようにするんだ、聞こえただけで青ひげになる呪いの術式かも知れないからな」


「わかったわ……来るっ!」


『……ハァァァッ! オイコラヒラカントシメルゾーッ! ヒラカントシメルゾーッ!』


『こっ、これは……ぎゃぁぁぁっ!』



 耳を塞いでも聞こえてきたバカデカい呪文と、それに続くフォン警部補の断末魔らしきもの。

 もちろん施設は光り輝き、明らかに『神聖な』何かが起ころうとしていることが窺える。


 やがて光は収まり、残っているのは中でのた打ち回っていると思しきフォン警部補の呻き声のみ。

 これは救助しにいって良いものなのか? 幸いにも俺達は青ひげ化などしていないようだが、もし『爆心地』に接近してしまった場合はどうなるのか、わかったものではない。


 まぁ、とりあえず声掛けをするところから始めていこう、フォン警部補はともかく、術者である青ひげの方は二階級特進していないはずだ……



「お~いっ、大丈夫か~っ!」


「だ……大丈夫だ……うぅっ」


「フォン警部補の声だな……青ひげさんの方はどうしたんだ~っ?」


「わ、わからんっ、とにかく光って……地面から何か出てきたみたいだ」


「そうか、で、状況はっ?」


「一応生きてはいるし、青ひげにもなっていないようだ……目は見えないが顎を触ってもジョリジョリしないからな……」


「わかったっ! 救出について前向きに検討を開始するから、結論が出るまで待ってくれっ!」


「は……早くしてく……れ……」


「……アレはもうダメかも知れないな、見捨てて帰ることも選択肢に入れておこうか」



 何が起こったのかさえわからない施設内、本当に中で一緒に歴史的瞬間を、などという馬鹿な考えに至らなかったことを幸いに思う。


 まぁフォン警部補はともかく、青ひげの存在が確認出来ない辺りからして相当に厄介なこと、危険な事象が起こっているのは間違いないな。


 当然そのような場所へは行きたくないのだが……さすがにこの場に居る他のメンバーを派遣するわけにはいかない。

 どうしてこういうときにあの犬畜生やチンパン野朗が居ないのか、この場合俺が直々に行く他ないではないか。


 ということで意を決し、先程の呪文によって『お宝』が出現したと思しき施設内に入る……まず目に入ったのは白く輝く玉と目を押さえて倒れたフォン警部補であった、特に外傷はないようだ。


 そしてその玉の上、青ひげであったのが青ひげではなくなった、もう普通のオカマであるのだが、それが光り輝きながら宙に浮かんでいるではないか……

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