685 お宝島かも知れない
犯罪組織のゴミ共に制圧された小さな島とその島のビーチにある海の家。
そして英雄パーティーがそこを解放する任務に当たるのを見学した後、時間が余ったので自由時間を取っていた俺達。
だが日陰を求めて海の家の屋根下でまったりしていたグループの中で、ルビアだけが『海の家なのにメニューとしてかき氷がないこと』に気付き、そこからフォン警部補、そして全く興味のない俺までも巻き込んだ『大捜索ごっこ』が始まる。
もちろんそんなものはしょうもない遊びであり、ルビアやフォン警部補が主張する殺人事件など、実際には起こっているはずがなかろうと考えていた……のは俺だけであり、そして現実もまた、俺の考えとは大きく乖離していたのであった。
「しかしどうしてこんな連中の死体がこんな所に? どう見ても幹部クラスの敵だしさ、こいつらが居なくなったにも拘らず海の家の敵は平然としていんだが、もうどこかで勝手に死んだものとして見捨てられたとかか?」
「私達にもわかりません、海の家から逃げ出して島の中を彷徨って、そういえばこの避難施設へ行こうってことになって……この男とこの男が最初にここに居ました」
「なるほど、だからこいつらは歯磨きしている状態と、欠伸している状態のまま氷漬けになってんだな、油断していたんだ、で、こっちの襲い掛かるスタイルで固まってんのは……この連中は雑魚キャラだな……」
「ええ、こいつらは後からやって来て、『隠し施設だからお宝があるかも』みたいなことを言いながら突然入って来たんです、で、うっかり鉢合わせになってしまってその場で殺して……」
「なるほど、で、以降はまずこっちの『かき氷始めました』が目に入るようにして、それで一旦馬鹿の足を止める、突然入って来るのを抑止する作戦に出たのか」
「ええ、まず敵っぽいかどうか確認して、別にそうでもないようならそのままかき氷を出して協力を持ちかけ、敵だと判断したら後ろから氷漬けにしようという作戦でした」
先程からフォン警部補は何かの資料を取り出し、ここにある死体、犯罪組織の幹部クラス然とした見た目の歯磨き死体と欠伸死体について調べている様子なため、一旦俺が彼女達への対応を引き継いでいる。
この3人は『海の家が犯罪組織に制圧された』ということは知っていたものの、まさかこの離れ小島全てが敵の手に落ち、もはや英雄パーティー以外には手の付けられない状況であったとは思わなかったそう。
そこでかなりの量の食糧をストックしているこの避難場所を拠点に、報せを受けてどこかからやって来るであろう救助を待つ、また協力者であるこの島の生き残りを集めようと考えていたらしい。
で、結果として最初にここに居た2匹を含む数匹の犯罪者をブチ殺すことになってしまったのだが、まさかPOLICEにその状況を見咎められるとは考えもせず、良く考えれば悪いことなどしていないのにキョドッてしまったとのこと。
まぁ、人間の形をした何かを殺害しているのは事実なのだからその反応も仕方ないこと、相手が犯罪者という状況でなければ、間違いなくその場でお縄になってしまう行為なのである。
「しかし本当に何なんだこいつらは? まぁ雑魚キャラっぽい連中は別にどうでも良いとして、最初の2匹がここで何をしていたのかが気になって仕方ないぞ、なぁルビア、どう思う?」
「かき氷が美味しいと思います、すみませんがおかわりを下さい」
「あ……は、はぁ……」
「氷漬けになったおっさん共の死体を眺めながら、その氷と同じ魔法で精製されたかき氷を喰らうそのメンタルには敬服するわ……と、どうしたんだフォン警部補は? いきなり興奮すると体に悪いぞ……」
「こっ……これはっ! 勇者殿、これは大事件に発展しそうだぞっ!」
「うん知ってる、元々そこそこの事件だ、だからちょっと落ち着くべきだ」
かき氷のおかわりを要求する、もはや殺人事件など、当初事件に賭けていた情熱などどこかへ行ってしまった様子のルビア、きっと全ての熱を氷に持って行かれてしまったのであろう。
で、それとは逆に、さらなるヒートアップを見せているのがこのおじさん、フォン警部補である。
必死に資料を見ながら黙っていたと思いきや、突如立ち上がって興奮し出した、先祖がえりしてサルにでもなってしまったのか?
「それで、この加害者に落ち度のない極めて稀な大量殺人事件が、どういう理由でフォン警部補が興奮しだすほどの大事件に発展するのか教えてくれ、つまらない内容だったら置いて帰るぞ」
「いやこれは本当に凄いことだ、今からここに居る全員には、『この事件が大事件であることのたった2つの証明』をお伝えしよう」
「何だよそのアレだ、ゴミみたいなアフィサイトの管理人が好みそうな謳い文句は……」
ちなみに情報提供者を装い、最終的に『いかがでしたか?』という常套句と共に詐欺臭い商品の広告に誘導するという手法はこの世界でも使い古され、やっているような奴はもう極僅かなのだという。
もちろん俺が転移前に居た世界と違い、そういう連中が迷惑なのであれば、そのような広告が目障りだと感じたら、作成者を見つけ出してブチ殺しても罪に問われないのがこの世界の良いところ。
そしてそのような行為でも罪に問われないのだから、当然今回のケース、つまり相手が犯罪組織の構成員であるという理由で、この殺人事件の加害者たる3人のお姉さんが罪に問われないのは確実。
で、それは良いとしてだ、ここからはフォン警部補の言う『2つ』についての説明を受けることとしよう……
「……良いか? まずひとつ、こっちの歯磨きしながら死んでいる馬鹿そうな男、これは西方新大陸の犯罪組織、その中でもかなり上位に位置する集団の大幹部で、もちろん『K&KK』にも所属している大物指名手配犯だ」
「おぉっ、つまりはこの事件が、フォン警部補がアホなのにこれ以上出世してしまうという、とんでもない大事件のキッカケになってしまうということだな?」
「そうだ……いやそうじゃないっ! それでだ、一応POLICEの中でも俺達の部署はこういう連中専門でな、コイツについてはかなりわかっている、というか信憑性の高い情報を得ているんだ」
「ほう、で、その情報とは?」
「この犯罪者、そしてこっちの欠伸したまま死んでいる方だな、こいつらはダンゴを使って世界を荒らしまわるほかの連中とは違う、『資金調達班』に属していて、特にこいつらは『重要な場所には自ら赴く』ということ、それから『他の犯罪組織の構成員としてコソコソ同行、適当に離脱してお目当てのものをゲットしに行く』という習性があることまで判明しているんだ」
「……ということはだな、こいつらがここに居る理由はアレか?」
「そう、この場所に、いやもしかしたらこの離れ小島の別の場所かも知れないが、犯罪組織全体が潤ってしまうような物凄いお宝が眠っている、その可能性が高いということだ」
「なんとっ!? しかし何のお宝なんだ? こいつらが来ているってことは盗んで持ち出せるようなものなんだろうが……こんな島のどこにそれがあるのかもわからないし、どうしようもないぞ」
「そこであの犯罪者風の英雄だ、紋々太郎の奴なら何か知っている、或いはその周りのジジババがこの島の伝承について詳しいかも知れない、それに、あの制圧された海の家のオーナーはまだ存命みたいだしな」
「なるほど、じゃあ早速戻って聞いてみようか、おいルビア行くぞ、かき氷ばっか食ってんじゃねぇ」
ルビアと、それから犯罪者を殺害した3人のお姉さん達を連れ、ここにきて逆にやる気を出してしまった俺は、元々やる気満々のフォン警部補と共に、意気揚々と沢を下って皆の下へと戻る。
ちなみに犯罪者の死体は1ヶ所に集め、まとめて大量の氷の中へと放り込んでおいた、これならしばらくは溶けて腐って大惨事、ということにはならないはず。
ちなみにその死体のうちのひとつには首がない、歯磨きをしながら氷漬けになったおっさんの死体だ。
これは指名手配犯であり、フォン警部補の実績のひとつになるということもあって、早めに首を取り外して塩漬けにしてしまうことにしたのである。
ということで帰りのメンバーは元の3人プラスお姉さん3人、それに加えて氷付けの生首、いや冷凍首(歯ブラシと手先もセット)となった。
そのメンバーで再び先程のビーチへ、海で遊んでいた仲間達はさすがにもう戻り、海の家の屋根下でダラダラと、島の内部へ『遊びに行った』俺達が戻るのを待っていたようだ。
そして、その俺達が見知らぬ氷魔法使いの女性3人と、それからこちらも見知らぬ犯罪者の首を持って帰ったことに心底驚き、さらには事情を知ってより一層驚いていた。
海の家のカウンターの奥で仮眠を取っていたらしい紋々太郎にもそのことを伝え、本土に戻ったらすぐにその話を、物知りのジジババ共にしようということに決まる。
ジジババの知識で何かわかれば良いが、もしわからなかったら面倒な文献漁りの時間になってしまいそうだ。
俺達勇者パーティーはそういう知的な業務には向かないし、出来れば強めのヒント、欲を言えば完全な答えが、本土での情報収集で得られれば良いなと思う……
「さて帰るぞ、紋々太郎さん、そっちは準備がよろしいですか?」
「うむ、我は構わないが、君達、海に入った後はしっかり真水で洗わないと、耳や尻尾がガビガビだぞ」
「あ、ホントです……」
「なぁ、私もだった、ちょっと洗って」
「お前等な……精霊様、カレンとマーサだけでも最低限洗ってやってくれ、それから他も、宿泊所へ戻ったらすぐに水浴びか、風呂に入るかすること、以上!」
『うぇ~いっ!』
結局俺も手伝い、モフモフ感が非常に重要となっているカレン、そしてそこまでモフ度は高くないものの、全体の可愛らしさにはそれが大きく貢献しているマーサを洗ってやる。
精霊様が召喚した水を桶に溜め、そまずはそれにバシャバシャと浸からせ、次いで揉み洗い、擦り洗いをした後に……
「ひゃんっ! ちょっと冷たいじゃないのっ!」
「暴れるなマーサ、綺麗にしてやってんだから大人しく……このっ、あれ? お前こんなに弱かったか?」
「ふにゅ~っ、何かね、この島に来てからあんまり力が出ないの、だからちょっとだけ優しく……いてててっ! 強く擦らないでっ、毛が抜けちゃったらどうするのっ!」
「良くわからんが日頃の復讐のチャンスだっ! あ、念のため後で精霊様に見て貰えよ、呪いの類とかだったら困るからな」
「やめてぇぇぇっ!」
なぜか俺の力でも簡単に制圧出来てしまったマーサ、普段であればこんなことはまず起こり得ない。
パーティーメンバーの中でも直接戦闘能力が高く、おそらくは精霊様に次いで№2のマーサなのだから。
で、もちろんキツめに、恨みを晴らすべくゴシゴシ洗いを喰らわせてやるのだが、隣のカレンがどうということはない以上、これはマーサだけに何かがあると考えて良さそうだ。
……いや、そういえばユリナとサリナもそうだ、この島に来て以来、特に遊びまわるようなこともせず、ただダラダラと海の家の屋根下で時間を潰していたではないか。
もちろん2人が他のメンバーと違って冷静で、まともな思考能力を有した大人キャラ(サリナの見た目は子どもだが)ということもあり、特に気にしてはいなかったのだが……
「はいウサギ洗い完了っと、おいマーサ、いつもより白さが際立っているようだぞ、洗ってやった俺様に感謝すると良い」
「いてて、もうっ、毛は白いけどお肌が赤くなっちゃったわ、まぁ私Mだから平気だけど」
「ならもっと喜べ、ほらっ、尻も引っ叩いてやるぞっ」
「きゃんっ、う~ん、やっぱり何だか調子が……」
「マジで大丈夫か? 風邪とかじゃない? おんぶして帰るか?」
「そこまでじゃないけど、ホントにちょっとヘンかなって」
深刻なダメージを受けているわけではなく、何もしていない限りは特に問題ない様子のマーサ。
そのまま乗って来た屋形船へと戻り、ユリナとサリナから話を聞くと、やはり何か違和感を感じていたという。
特に自分が幻術使いだけあって、サリナは呪術系の何かに対して非常に敏感であり、島に到着してすぐに何かがおかしいことに気が付いたとのこと。
だがそれが何なのかわからず、特に大きな影響もないものなのでスルー、そのサリナの予想としては、敵が強力な魔族の襲来に対抗するため、魔族に対してのみ一定の効果を発揮する魔導アイテム、もちろん粗悪品でたいした威力を持たないものを用意してあり、それがどこかに隠れていたのではないか、だそうだ。
ユリナもそれについて特に気にしている様子はないし、屋形船が島から離れたことにより、3人共その影響から脱して元の状態に戻った。
やはりサリナの予想通りなのか、それともあの小島特有の、また別の原因があったのかはわからないが、とにかくもうその件は終わりとする。
念のため精霊様の診察を受け、誰1人として呪いのようなものを受けていないことも確認されたので安心だ。
それよりも何よりも、島の中に眠っているのであろう『お宝』の情報を集めるのが今やるべきことなのである・・・・・・
※※※
「よし、ちょっと遅くなったが、どうにか夕飯までには戻って来られたぞ、で、紋々太郎さん、今日の夕食はあの海の家のオーナーとか、生き残りの従業員とかともご一緒したいんですが……」
「うむ、今日は勝利の報告もあるし、オーナー他の被害者もこの地域に滞在している、必要な情報を持っていそうなジジババとも話が出来ると思うし、今夜はかなり盛大な、島の解放を祝う宴としよう」
「助かります、じゃあ一旦荷物を置きに行ってきますね、あと髪がベタベタなんで風呂だけ入って来ます」
「そうか、では食事会場の方で待っているよ、今日は人数が多いから外へはみ出してしまうと思うがね」
ということで一度片付けと、海の潮風によってべたべたになった髪を洗い、それに着替えもして会食の準備を整える。
全ての準備を終え、アイリスとエリナも連れて皆で食事会場へ行ったときには、既に多くの人々がその場に集まり、中には島から一緒に来た氷魔法使いの3人……と、その横に居るのが海の家のオーナーか……
とりあえず食事会が始まるのを待って、乾杯を済ませたら適当にそちらへ行こう、開始早々に動き出すのは野暮ったいことだが、今回は何よりも情報の取得、酔っ払う前にそれを済ませることが大切なのだ。
その後、全員揃ったのを確認した紋々太郎によって、すぐに乾杯の音頭が取られる。
辛口の酒を一気に飲み干した俺は、テーブルの上にあった一升瓶を抱えてオーナーの所へ、近付いてみると凄い青ひげがキモいのだが、とにかく話してみよう……
「すみません、私異世界勇者というものなのですが、海の家のオーナーさん? ですよね?」
「あら~、そうよ~っ、アタシ、今日紋々太郎ちゃんに救って貰った海の家のオーナー、『カマータケゾウ』よ、よろしくねっ!」
「……めっちゃキモいですね、で、あの海の家はいつ頃から経営なさっているのですか?」
「え~っ、いつ頃からって言われても、ウチの『海のOH YEAH!』はかなりの老舗なの、だからもう1,000年以上前のご先祖様が始めた事業で、正確にいつからかなんてわからないわねぇ」
「そんなに長続きしているとは思えないぐらいにはローセンスな屋号なんですが、まぁ良いです、ではあの小島自体について、何か言い伝えとか、先祖代々の何とやらとかはありませんかね?」
「う~ん、まぁ屋号についてはアレよね、開祖様は立地が良かったにも拘らずブランディングに失敗して、結局首吊ってブラーンしたらしいしぃ~」
「その不幸な先祖の情報は不必要です、真面目に話をしないならあなたの代で、というかこの場でその老舗の系譜を断絶させますけど?」
「あら恐いっ、それで、先祖代々のねぇ……」
そう言って黙り込み、長考に入る様子の青ひげオカマ野郎、ちなみに従業員、とりわけ今日救出して来た氷魔法使いからの信頼は十分に得ているようで、それゆえどれだけムカついたとしてもいきなりブチ殺すことは出来かねる。
まぁ、これではこの場で待っていても仕方ないな、ということで俺達がどこに宿泊しているか、今夜はどのぐらいまでこの食事、というか宴が催されている会場に留まるのかを伝え、また情報を求めて移動することに。
そこから1時間程度、参加者のジジババを中心にあの小島の伝説、伝承などなど聞いて回ったのだが、有力な情報を得ることは遂に出来なかった。
それは同じ行動を取っていたフォン警部補も同様であったようで、2人して意気消沈、あとはもうただ酒を飲むだけの普通のおじさん(と、お兄さん)と化してしまう。
しかし最後の最後、宴も終盤に差し掛かったところで事態は一変する、氷魔法使いの3人に支えられながら、先程からずっと長考していたらしい、そのついでに深酒もした様子の青ひげがこちらにやって来たのである。
「やぁっ、先程の件についてなのだが、我に少し思い当たることがあってだな」
「……えっと、あの青ひげと同一人物……じゃないですよね?」
「同一人物です、オーナーは酔っ払うとなぜか男っぽくなるんですよ、普段は凄く乙女なのに」
「より一層気持ち悪いな……で、思い当たることとは何でしょうか?」
「うむ、実はあの小島、500年ほど前に先祖と、それから当時この島国に滞在していた始祖勇者様が何かを埋めたと、そういう言い伝えがあるんだよ、我が家にはね」
「もうド直球ですね、わかりました、詳しい話はまた明日にでも」
この島国ではまだ色々とやるべきことがある、もちろん最優先課題は犯罪組織のダンゴ生産拠点殲滅、そして始祖勇者の話を聞く、その情報を得て魔王軍討伐に役立てるというのは次点である。
だがすぐ近くに、こんなにも目と鼻の先にあるその始祖勇者の情報、そしてお宝の匂い、それをスルーしてまで先へ進むことは不可、これは徹底的な調査が必要だ……




