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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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682 作戦開始まで

「おぉっ! なかなか良い感じの大部屋じゃねぇかっ!」


「広いっ! しかも床が例のアレで柔らかいですっ!」



 英雄パーティーとの会談を終え、この地における初日の活動を終えた俺達、これはその日の夜、宿泊すべき施設に到着した際の皆の反応である。


 この世界に来てからかなりお世話になっている『畳風の何か』ではなく、やはりここでは『ホンモノの畳』が提供されている、さすがは始祖勇者の息が掛かった島国だ。


 そしてこの後は夕食、そして大浴場での入浴と、ここまでの長旅で受けたダメージ、蓄積された疲労を一気に解消するためのプログラムが用意されているらしい。


 食後のデザートにはもちろん白桃が出てくる、そして各種フルーツを用いた甘めのタレを、焼いた牛肉に付けて食べるスタイルの焼肉もまた楽しめそうだ。


 もちろん酒も、というかご当地の地酒もたんまり出るとのことだし、この宴会は今から楽しみである……



「失礼します、もうしばらくしたらお食事の用意が出来ますが、フルーツの方はお食事と一緒、それから食後、あとお風呂の後にも提供致しますので、ぜひ心ゆくまでご堪能下さい」


「おぉっ、やったなマーサ、フルーツ食べ放題だぞっ」


「これは期待が持てそうね、あ、私の分はお食事も基本フルーツでお願いしま~っす」


「それと、基本肉食の2人にも栄養を取らせたいんで、フルーツジュース、それから焼肉のタレもフルーツ多めでお願いします」


「畏まりましたです、ではまた後ほど……」



 こうして白桃メインのフルーツパラダイスに突入することが決まった俺達、ちなみにフォン警部補は別の1人用の部屋に泊まっているのでここには居ないため、アイリスとエリナも含めた14人での食事会、そして大宴会だ。


 夕飯の到着を待つ間は窓の外を眺めて時間を潰すのだが、ここからの眺めが非常に良いことはもう部屋に入った瞬間にわかっていた。


 全面が開けたような形になって風通しも良く、海も、そして山も見える大パノラマ。

 海と山が近く、まるで渓流のような沢がダイレクトに海へ注ぐのは見ていてかなり風情を感じる。



「見て下さいご主人様、何だか緑色の人が川に流されていますよ、しかもハゲだし」


「ルビア、アレはカッパだ、カッパの川流れと言ってだな……」


「あっちにはさっきの英雄パーティーの2人です、何だか袋に口を付けてスーハースーハーしてますけど……過呼吸でしょうか?」


「いや、たぶん違うと思うぞ、きっと違法な何かを吸引しているんだ、ああいう奴等は人に迷惑を掛ける前に死んだ方が良い」


「なるほど、じゃあ次の戦いで戦死してくれることを祈りましょうか」


「だな、ダンゴのせいでかなりの強さだが、それでも激戦になれば死んだり……というかもう事故の振りをして殺害するなんてのもアリな次元だぞあいつらは……」



 せっかくの美しい風景を台無しにするイヌマーとサルヤマーの2人、いや2匹、本当にアレが英雄パーティーなのかと、正義の味方を名乗る資格があるのかと疑問に思ってしまう。


 と、そこでようやく夕食の第一陣が運ばれて来たようだ、ガチャガチャと食器がぶつかる音、そして焼肉に使うのであろう火鉢がいくつか用意され始めた。


 夏野菜とフルーツは山盛り、牛肉は高級店でたまに見かけるタイプの、高級な皿に綺麗に盛り付けられたもの。

 しかもそれぞれの肉に上ロースだの上タンだの、部位の名前が書かれた札がセットされている形式だ。



「はいはい、え~っと、あ、そちら様が異世界勇者様ご本人様ですね、俺様は勇者様のための特別追加食を持って行けと長老様から仰せつかったお役人様にございます」


「ふむ、サマになっているではないか」


「主殿、突然面白くないことを言うのはやめた方が良いぞ」


「すみませんでした……で、その特別追加食というのは? というか俺専用なのか?」


「ええ、勇者様限定の『勇者フード』、これは異世界勇者様のお力を、特に内臓の防御力を上げる効果を持つというものでして、賞味期限の切れたアミエビをブロック状にして氷魔法で固めたものをですね……」


「だからどんだけ釣り餌を食わせたいんだよお前等はっ!?」


「うわっ、何かもうベチョベチョになって臭いわねぇ、これはさすがの勇者様でもお腹壊すと思うわよ」


「おいセラ、俺がいつも拾い食いとかしていそうな感じの発言は止めろ、胃腸は弱い方だぞたぶん」


「いえいえ、勇者様の胃腸はそこそこだと思いますよ、だっていつも調理している際、うっかり床に落としてしまった食材とか、あとチャーハンを煽っているときに飛び散った米や具材なんか、全部勇者様の皿に放り込むようにしていますから、ね、アイリスちゃん」


「はぅっ、それを言ったら怒られるような気が……」


「ミラ、アイリス、お前等は風呂上りにお仕置きだ、尻をこの桃みたいにうっすらピンクにしてやるから覚悟しておけ」


「望むところです」

「ありゃ~、やっぱり怒られました」



 調子に乗ってろくでもないことをしていた2人に刑の宣告をすると共に、どうしても俺に釣り餌を食わせたい役人にはお引取り願った。


 その間に料理も出揃い、注文してあったフルーツジュースもピッチャーで大量にやって来たようだ。

 酒とつまみは風呂上りとのことなので、いまはとりあえずこの豪勢な食事の方を堪能しよう。


 なお、肉を焼いてくれるのは周辺の宿泊施設等からやって来たベテランのばぁさん達、しかもかなり物知りな連中を掻き集めてきたようで、この島国の成り立ち、始祖勇者に関連する伝承など、明日以降に知っていくべきことの予備知識をキッチリ得ることが出来たのであった……



「え~っと、じゃあ始祖勇者はこの島国のどこかに『伝説の勇者武器』を隠したってことですね?」


「うむ、隠したというよりも封印した、そう表現するのが妥当なようですがの、とにかく後の世で、再び魔王を討伐すべき勇者が顕現した際、きっとそれは見つけ出され、役立つことになるであろうと、そう仰ったそうで」


「勇者様、それは勇者様が女神様から受け取り損ねた聖剣とやらではないのですか?」


「かも知れないが、もし聖剣だったとしたら受け取った本人以外には使えなさそうなんだよな、てかアレ時間経つと腐りそうだし、油で揚げただけの何かみたいだしな」


「となると……聖剣じゃない違う何かが伝説の勇者武器なのかしら? 勇者様が今使っている聖棒とかそんなかんじの?」


「う~ん、どうなんだろうな、そこのところってもっと詳しい話がわかりますかね?」


「ババにわかるのはそこまでですな、かつて始祖勇者研究をしていた者が居りまして、いやとっくに死によったんですがの、その者から直接話を聞いておけば……いや、そういえば確か、紋々太郎様はその話に興味を持って、色々と聞いていたような気がしますの」


「そうでしたか、じゃあ伝説の勇者武器についての話は明日以降になりそうだな、何にせよ俺にはこの聖棒があるんだ、物干し竿だけど、今更これを他の武器と取り替える気はないし、手に入るのが何かこう、サブウエポン的なものだと良いな、あのパイナップルとか……はそこまで欲しくないが……」



 とにかく今回の旅では何かが手に入る、それは伝説のものであり、始祖勇者の遺産であることは確定だ。

 苦労するか否かはともかく、間違いなく今の話に出た『伝説の勇者武器』を手にした状態で王都へと戻ることになる。


 問題はそれが何なのか、どのような属性のものなのかということである……この世界における異常なまでのいい加減さを考慮すると、ろくでもないモノである可能性が完全に否定できるものではないのだから……



「あ、パイナップルで思い出したんだけどさ」


「どうしたマーサ? 黙々と食べていると思ったら急に……」


「このフルーツ盛り、パイナップルだけ何か鉄っぽいのよね、凄く小さいし、これが食べられるものなのか単なる飾りなのか、ちょっと判断出来ないわ」


「どれどれ見せてみろ……ってこれ4大英雄武器の『パイナップル』じゃねぇかっ!」


「え? 何コレ今気付いた、おもしろ~い……あれ? ちょっと、ご主人様?」


「どうしたリリィ、てかそれで遊ぶな危なっかしい」


「えっと、上に付いていたピンみたいなのを引っこ抜いたら魔法陣が出ました、火魔法で、カウントダウンがあと5秒……4……3……」


「ヤバいっ! すぐに窓から投げるんだっ!」


「はっ、はいっ!」



 窓から飛び出していく『パイナップル』、閃光と、それから直後に聞こえてきた轟音……なかなかの威力を誇っているようだ、ここで炸裂したら料理が台無し、どころかスタッフのばぁさん達は全員死亡していたことであろう。


 と、外では爆発の巻き添えを喰らったと思しきイヌマーとサルヤマーの馬鹿が黒焦げになって倒れている。

 それ以外の被害がないようでホッとしたが、しかし今の威力にしては騒ぎが小さいな。


 せいぜい近くの住人が窓を開けて様子を見た程度であり、その連中もすぐに『何だパイナップルの誤爆か』などと言って去って行った。


 つまり、性質の悪いシャブ中であり、しかもヒトではなくチンパンジーのサルヤマーに危険物を渡しているゆえ、それによる事故や、悪戯などの故意によってパイナップルの爆発が起こることなど日常茶飯事なのであろう。


 事実、スタッフのばぁさん達も落ち着いた様子で、『サルヤマー様がホンモノのパイナップルを奪い、代わりに危険物の方のパイナップルを盛り付けたのであろう』という内容の説明をしている。


 しかひあのチンパン野朗、やはりどうにかして息の根を止めておく必要がありそうだな。

 英雄パーティーの一員なのかも知れないが、そしてイヌマーも同じだが、あの存在は非常に危険であると言わざるを得ない。


 今のところは大人しくしていても、もはや中毒の極みとなっているシャブが切れたらどうなることやら。

 きっとダンゴによって強化された力で人々を襲い、これまで救ってきた数以上の死者を出すに違いない。


 そんなどうしようもない2匹を上手く制御している英雄、紋々太郎はやはり偉大……いや、そもそもあの男がイヌマーとサルヤマーを使役するため、シャブ漬けにしてしまったのか、もうなんともいえない状況だな……



「まぁ良いや、とにかく『伝説の勇者武器』とやらの存在もわかったし、あとついでにパイナップルの威力も知ることが出来た、今日のところは情報収集を終えよう、これ以上掻き集めると頭がパンクしそうだ」


「おやおや、随分容量の小さい頭ですの、やはり当代の勇者は虫けら並みというのは事実でしたか」


「おいババァ、調子に乗ってっとブチ殺すぞ」


「なんと、粗暴だという噂も事実でしたかの、本当にかわいそうな異世界人で……」


「・・・・・・・・・・」



 これ以上喋るとまたいつものように、どこへ行ってもそうであるように、最強で優秀なはずの異世界勇者様たるこの俺様がディスられ始めてしまう。


 よこでクスクスと笑っているセラの耳を引っ張って罰し、それ以降はもう必死に料理を喰らうことで気を紛らわせた。


 そして食後は風呂、大浴場にてゆっくりと湯に浸かった後、部屋へ戻ると布団が敷かれ、先程のテーブルは部屋の隅に……横に巨大な酒樽が置いてあるではないか、つまみもあるようだし、ここからは宴会の時間だな。


 つまみとして用意されていた海産物、それに引き続きのフルーツなども堪能しながら、それはもう溢れんばかりに酒を飲む。


 最後には罰として引っ叩いたミラとアイリスの薄ピンクに染まった尻を、用意されていた桃と勘違いしてしゃぶり付くほどには酔っ払い、最後はセラが放った強烈な一撃を顔面に貰った瞬間で記憶が途切れている……



 ※※※



『おはようございま~す!』


「……うむ、君達は何だか眠そうだが……今日は大丈夫なのかね?」


「いえ紋々太郎さんの方こそさっきから実に内股気味な気がするんですが……」


「バレていたか、実は今朝はイヌマーとサルヤマーが瀕死の重傷を負っているのが発見されたせいで時間がなくてね、便所で禍々しいブラウンモンスターを召喚するという、もはや日課となっている儀式を執り行うことが出来なかったのだよ」


「回りくどいっ! 普通にウ○コ出来なかったってだけでしょうに……」


「あっ、ちょっと限界、マジで召喚してく……その必要はなくなったようだ、たった今な」


「漏らしてんじゃねぇぇぇっ!」



 朝っぱらから大の大人が、認められた場所以外で『大』を召喚してしまうという末期的な現場に立ち会った俺達。

 もう帰っても良いかと、通常であればそう伝えて立ち去るところなのだが、今日ばかりはそうもいかない。


 この島国で取るべき戦い方と、それから昨日聞いた伝説の勇者武器についても情報を得ておかなくてはならないのだ。


 ということで、紋々太郎にはとりあえず便所へ行くこと、そして着替えて来るべきである旨を告げ、さらにダッシュで行くべきであるということを伝える。


 走り去ったクソ英雄、その場に取り残されたのは俺達勇者パーティーとフォン警部補、それから……全身包帯でグルグル巻きになりながらも、袋に入った怪しい何かを必死でスーハーしている馬鹿2匹。


 負傷は間違いなく昨夜の『パイナップル誤爆事件』によるものだが、元々はこの片方、チンパンジーのサルヤマーが引き起こしたことなのでこちらにも、もちろんうっかり起爆させてしまったリリィにも責任はない。


 というかこの馬鹿共、もうこの場で始末してしまおうか? 紋々太郎が戻った際には負傷が元で息絶えたようだと伝えれば良いし、もし奴が状況を察したとしても、この場において何が正しい行いであったのかは理解してくれるはず。


 ということでまずはイヌマーの方を……と、そこへやって来たのはモブキャラの村人A的な野郎。

 どうやら昼食用のおにぎりを持って来てくれたらしい、ウメとオカカと肉味噌、なかなか美味そうだ、もちろん肉食者用のベーコン肉バーガーも用意されている。


 しかしこの野郎、おにぎりを手渡した以降も全く帰る素振りを見せないではないか、きっと俺達の見送りという任務にも就いているのであろう。


 と、そんなことをしている間に紋々太郎が戻り、俺のイヌマー、サルヤマー両馬鹿暗殺計画は失敗に終わった。


 というか太郎の奴、下だけ着替えたせいで服装の色合いがおかしなことになっているではないか。

 上下同じ柄、同じ色とか、アレならもう昨日登場した際の褌一丁の方がマシであると思うのだが……



「待たせてしまってすまない、僅かではあったが『追加の召喚』が必要になったのでな、少し便所の方へ立ち寄らせて貰ったのだ」


「そうでしたか、じゃあその薄汚い話はもう良いんで、まずはその、何でしたっけ? 見学? の方をこなしてしまいましょう」


「うむ、では付いて来て欲しい……」



 ということでようやく出発、俺達は紋々太郎と、それから奇声を発し続けているおかしな馬鹿2匹の後ろに付いて移動を始めた。


 どうやら目的地までは徒歩で行くようだな、ちょうど良い、この道中に伝説の勇者武器について質問を投げ掛けてみることとしよう。


 イヌマーとサルヤマーを強めに突き飛ばして退かし、紋々太郎の所へと向かう、ここで2匹共に転倒して死んでくれれば良かったのに、そうすれば後ろに居るフォン警部補が自殺として処理してくれるはずであったのだ。


 で、先頭を行く紋々太郎にはさりげなく、昨夜耳にした伝説の勇者武器についての質問を切り出す……



「あの~、ちょっと昨夜の歓迎会的なアレで耳にした、というかおババ様的なババァが言っていたんですけど、伝説の勇者武器ってどんな感じのやつなんですかね? 英雄である紋々太郎さんはそれについて知っている可能性が高いということだったんですが……」


「勇者武器……あぁ、もしかして前に研究者のオジキから聞いたアレのことかな? 名称は『ク○薙ぎの剣』だね、この島国の、確かちょうど真ん中ぐらいの国に隠された、というか地下深くに祀られたとのことだ」


「もう名前からしてアレなんですが……どうして伝説のアイテムにまで『○ソ』なんて薄汚いのを付けたんでしょうか? 要らないですよね普通に」


「うむ、それは始祖勇者研究をしていたオジキが言っていたことなんだが、有力な説は『後々勇者とか全く関係ない馬鹿に盗掘されないよう、あえてそんな名前を付けている』とのことであった、確かに『ク○』とか言われたらわざわざ盗掘しには行かないだろう?」


「一理あるんですが……そうだとしたら考えてるこ相当にヤバいですよ、その始祖勇者って人……」


「我も時折そう思ったりするのだが……さすがに不敬の極みゆえ口に出したのは今回が初めてだ」


「……そうだったんですか」



 ここにきて浮上した『始祖勇者ウ○コ野郎説』、実際にはどうなのかわかったものではないが、伝説の武器にわけのわからない名前を付けている時点でなかなかのものであろう。


 もしかしたらその伝説の勇者武器自体がとんでもないモノなのかも知れないし、これはもしかしたら余り期待しない方が無難とかそういうパターンではないか?


 と、そんなことを考えていると紋々太郎が立ち止まる、良く見ると周りの風景がかなり変わっていた。

 漫然と考え事をしながら歩き、気が付いたら比較的町の方へ、比較的狭い間隔で建物が立ち並ぶエリアへと来ていたようだ。



「うむ、本日のターゲットは……あそこの雑居ビルの3階だ、犯罪組織に関連したクズ共の事務所がある」


「なるほど、で、俺たちはどうしたら良いんですか?」


「君達は我等3人の後ろから付いて来てくれ、初回は敵を討伐するところまで全部こちらでやるゆえ、良く見てやり方を学んで欲しい、ちなみに今回は敵を殲滅、つまり皆殺しにする、捕らえる方法は次以降に見せていくからそのつもりでいてくれ」


『うぇ~いっ!』



 こうしてイマイチ信用ならない英雄パーティーの作戦遂行を見学するイベントが始まった。

 もはやこいつらが悪者なのでは? とヒソヒソ話をしたい気持ちをグッと堪え、メモ帳を開いたままその後に続く……

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