681 島国の英雄
「おかえりなさい、ダンゴ精製というのはどうでしたか? 何か面白かったとか、凄かったとかの感想を聞かせて下さい」
「ただいま、うむ、とんでもなくヤバかったぞ、生贄が骨になってもなお踊って、儀式のフィナーレと共にその骨さえもしゃぶり尽くされた、それで精製されたのがダンゴ3個だけ、しかも大成功らしい」
「まぁ、とってもコスパが悪いんですね」
精製塔で見せられたダンゴ精製の儀式とBorn踊り、そこから戻った俺達は、既に食堂にて待機していた仲間達と共に食事と、それから今後の予定について現地人と話し合うため席に着いた。
運ばれて来た料理は様々で、せっかくなのでということもあってジャケェ共和国から持ち込んだ牡蠣、そしてこの地域の特産であるという、多少時期がズレてしまった白桃などを堪能する。
もちろん食後に出てきたのは切った白桃だけではなく……これはもしかしてダンゴではないのか……
「あの~、明らかにヤバそうな、っていうかもうダンゴが食卓に上がっているんですけど?」
「ご安心召されい、そのダンゴと言ってもそのダンゴはやべぇクスリの方のダンゴではないのでな、観光名物として売り出している普通の、菓子としてのダンゴじゃよ」
「なるほど、じゃあここの地域的にアレか、キビ……」
「そう、『キビナゴ入りダンゴ』じゃ」
「はぁっ? って良く見たら何か頭はみ出してんじゃねぇかぁぁぁっ!」
「ご主人様、私の前にあるダンゴ、中のキビナゴ? が青いんですけど……」
「ルビアちゃん、こっちのは赤ですわよ、で、サリナの所にあるのは黄色ですの」
「しかも釣り餌のキビナゴじゃねぇかぁぁぁっ!」
「むむっ、異世界勇者一行の皆様方は別のダンゴがお好みのようじゃ、キビナゴ入りのは下げて、新しくこねくり回してやれ」
『ハッ! 畏まりましたババ様!』
「おいちょっと待てお前等、まさかそっちの段ボールの中に入って」
「うむ、サナギ粉配合の『ハイパワー磯グレ』、それに『ミラクルオールラウンド堤防チヌ』に水を加えて……」
「やっぱ釣り餌じゃねぇかぁぁぁっ! うわしかも臭っせぇっ! 箱を開けるんじゃねぇよっ!」
危うくとんでもないモノを食べさせられるところであった、俺やフォン警部補なら良いし、リリィ辺りは平気であろうが、他のメンバーがこんなモノを食してしまったら危険である。
ということでまともな郷土料理も提供してくれた良くわからんババ様には感謝をしつつもお引き取り願い、他の、もっと話をするべき連中を呼んでこの地と英雄について……と、釣り餌ダンゴのババ様も戻って来たではないか、まさか偉い人であったとは……
で、まずはどうしてこの場に英雄が居ないのかを訪ねたのだが、今は遠征中で、きっともうしばらくしたら戻るはずだとの返答しか得られなかった。
なるほど、通信手段があまり発達していないこの世界では、遠征だの戦いだの、そういったものに出掛けて行った者がいつ帰るのかなど予測することしか出来ない。
もちろん帰らないことも、誰かが欠けて戻って来ることもあるはずだ、そしてそれに関しては俺達もそう、王都で勇者パーティーの待っている人々は本当に心配……してはいなさそうだな。
特に思い浮かぶあのシワだらけの笑顔、クソババァ総務大臣は別格だ、きっと俺が戦死すれば今後の報酬の支払いを心配しなくて良くなるとして大喜びであろう……
と、今は遠征中の英雄の話であったな、余計なことは考えず、英雄パーティーの構成なども聞いておくべきだ。
「え~っと、その英雄パーティーが遠征に出たのはわかるんだが、一応俺達はその中のキジマ―という奴に会ったことがあって、むしろそいつに呼ばれてここへ来たんだが……」
「あ、ハイッ! あの方の背中の羽はどうやって付けたんですか? 私も欲しいんですが」
「おいマリエルちょっと黙れ、そういうどうでも良い質問は後にしてくれ、以降、馬鹿は発言禁止とする」
「では主殿も黙るんだな、それで、英雄パーティーの人数と構成を知りたい、参考までにな、あと会談した際に誰が構成員なのか容易にわかるよう、それぞれの特徴も教えて頂きたい」
「あの、ちょっとジェシカさん、もしもーっし……」
「はいはい馬鹿は静かに、あっち側のプルプルしているおじいさんが答えるみたいだし、聞こえなくなるわよ」
「・・・・・・・・・・」
とりあえず黙らされてしまったのだが、結局プルプルジジィの声は小さく、しかも掠れていたためまるで聞こえなかった。
横に居た比較的若いばぁさんがその内容を説明してくれたところによると、どうやら英雄パーティーは4人、もちろんキジマ―と、名前だけは聞いたことがあったイヌマ―、そしてもう1人、サルヤマーという男が居るらしく、リーダーの英雄は『太郎』と呼ばれているそうだ。
この時点でもう間違いないのだが、その『太郎』はダンゴの魅力で部下を集め、鬼退治に協力させる系の伝説の英雄である。
きっと今回の遠征も鬼退治……かどうかはわからないが、どこかの島で悪人共から奪った金銀財宝を、山盛り担いで帰って来るのであろう。
そしてその英雄は俺達に、魔王軍との戦いに資する情報を、さらにこの島国で晩年を過ごしたという始祖勇者の伝説を聞かせてくれるはずだ。
伝説的な英雄から伝説の勇者の話を聞くなど、何だか実に微妙な感じではあるが、ここで聞いた話、そしてもしかしたらだが受け取る秘伝のアイテムによって、停滞している魔王軍討伐作戦が一歩前へ、そんな予感がしてならない今日この頃である……
「しかし今回の遠征はかなり時間が掛かっているようじゃの、何事もなく、無事に帰って来てくれれば良いのじゃが」
「うむ、手持ちのダンゴも乏しくなってくる頃じゃろうし、そろそろ……と、何じゃ?」
老人共が帰りの遅い英雄パーティーの心配を始めたところで、村人A的な比較的若いモブキャラが飛び込んで来た。
この辺りはどこの国でも、どの世界でも同じような感じだ、そしてきっと何か、おそらく今まさに話している英雄パーティーに関する報告なのであろう。
「ふ、舟が見えましてございますっ! 英雄パーティーの期間と思われまするっ!」
「うむ、ではわしらで出迎えよう、勇者パーティーの皆様方もご一緒に、キジマ―様にお会いしたことがあるというのであれば、まずはご本人とお話しされるのがよろしいでしょう」
「それがっ! どうも舟に乗っておられるのは3名、キジマ―様らしき姿が見えず……」
「何じゃとっ⁉ もしや……いやそうでないことを祈ろう、とにかく出迎えじゃっ!」
どうやら帰還した英雄パーティー、だがその中に、背中の羽で最も目立つ、遠くからでもそれだと視認出来るキャラであるキジマ―が居ないため、確認に当たった村人も混乱している様子。
というか、あの強かったキジマ―が敵に敗北し、殺されてしまうようなことがあるのか? あるとしたら相当な敵だ、それはもう、魔王軍であったとしても大魔将かそれ以上のクラスでなければ不可能であろう。
しかも英雄パーティーは4人、その全員がキジマ―と同程度の力を持っていたとしたら、おそらく大魔将クラスでも、もしかしたら俺でも4対1では決着しない、互角で延々と戦い続けるような次元の強さであるに違いない。
そう考えながらジジババに付いて歩き、丘を下って海へ出ると……確かにこちらを目指している小舟が見える。
そして乗っているのはやはり3人のようだ、遠くて顔やその姿は確認出来ないものの、やはり羽の目立つ人間は乗っていない様子。
徐々に近づくその小舟を迎え入れるため、俺達の乗って来た屋形船が退かされる。
しばらくするとようやく見えてきた3人の顔、犬獣人らしき男ととチンパンジー、それから……何だアイツは?
「……おいちょっと待て、何なんだあの角刈りのグラサンは? 褌一丁だし、全身入れ墨だらけじゃねぇか……もしかしてアレか? 英雄負けちゃった? 英雄死んで退治されるはずだった鬼が来ちゃったとかか?」
「何を仰いますか勇者殿、彼こそがこの島国の、そして我等の英雄、『紋々太郎様』ですじゃっ!」
「単なるヤクザじゃねぇかぁぁぁっ!」
本日何度目のツッコミか、そしてまたわけのわからない奴が登場してしまったではないか。
英雄がヤクザで、というかまぁ犬獣人は良いとして、そもそもサルの代わりにチンパンジーを連れている時点で尋常でない。
いや、あの犬獣人とチンパンジーが比較的まともな存在であることを祈ろう。
もしかしたら紋々の英雄も実は良い人なのかも知れないが、どちらかというと話をしたくないタイプの人材だ。
その紋々太郎と部下2人を乗せた小舟が桟橋へ接岸、降りる準備を……と、チンパンジーが持っている日本刀のようなものには見覚えがある、アレはキジマ―の武器ではないか、となると……
「おかえりなさいませ太郎様、して、キジマ―様はっ?」
「……キジマ―は特攻した」
「なんとっ⁉ なんということじゃっ!」
「だが英雄武器は回収することに成功した、これをしばらくキジマ―の墓に、それから奴が好きだったカップ酒とハードセブンのメンソールライトを……」
「へへーっ! 畏まりましたですじゃっ!」
「やっぱり、キジマ―さんは亡くなっていたんですね、きっと壮絶な戦いだったのでしょう」
「かも知れないが、そうじゃない可能性もままある、もうツッコミに疲れたから内容を聞くのはよそうか」
「……ん? 君達は見ない顔だが……あぁ、キジマ―が最後に言っていた勇者パーティーの」
「そうっす、キジマ―の奴は残念でした、また会えると思ってここへ来たんですけどね」
「うむ、壮絶な最後であった、まさかあそこで裏ドラが3つも乗ってハコテンに……」
「やっぱまともに戦ってないだろお前等、で、キジマ―が俺達に言ったのは、島国に来れば色々と教えて貰えるって話だったんですけど、それは聞いていますか?」
「あぁ、キジマ―の奴も最後に言っていたよ、当代の異世界勇者は何かダメそうだからどうにかしておいてくれとな」
「死ぬ間際にして失礼な奴だな、生きていたら殺しているところだぞマジで」
そのキジマ―はともかく、もう一度先程の会談が出来る施設へ戻り、今度は島国の英雄である紋々太郎と直接話をすることが決まった。
もちろん内容は魔王軍だの勇者のあれこれというものではなく、まず最初に片付けておくべき連中、つまり犯罪組織をどのようにしてボコるか、それにどのぐらいの労力が必要なのかということについてだ。
まぁ、その前に戦死した……ではなくおそらくは満貫か跳満の直撃を受けてハコテン死したキジマ―の追悼式典が執り行われるらしく、一応知り合いであって、そのキジマ―に呼ばれてここへ来たという側面も持つ俺達も出席するのは当然である。
ということで、まずはダンゴ精製塔が立ち並ぶ山の中腹にある供養のための施設に移動したのだが……改造に失敗した人間の死体がその辺に転がっているのは気のせいであろうか?
それと、先程から紋々太郎の後を付いて行っている犬獣人のイヌマ―とチンパンジーのサルヤマーの様子がおかしいような気もしなくはないというか、明らかに禁断症状的な何かが発現している……
「はぁっ、はぁっ、なぁ紋々太郎のダンナ、そろそろアレをおくれよ、もうやべぇ、何かもうキレちまってんだよ……」
「ウキーッ! ウホッ、ウホッ!」
「……ほれ、白い粉だ、ただしこれは前借り、次の支給日には量を減らすからそのつもりでいろ」
「ヒャハハッ、やったぜっ!」
「ウキィィィッ!」
「こいつら完全にシャブ漬けじゃねぇかっ! どうなってんだよ英雄パーティーってのは、まさかキジマ―の奴もこんな感じで特攻を?」
「いや、奴だけはまともだったんだがな、伝説武器『ポン刀』の使い手であったキジマ―、なかなかに強力な仲間であった」
「ポン刀って……」
供養施設の鍵を開けつつ、キジマ―が持っていた日本刀的な武器を眺める紋々太郎、そういえば残り3人はどんな武器を使うのであろうか?
見たところ紋々太郎本人も、それにイヌマ―もサルヤマーも武器を所持していない、というか紋々太郎は褌一丁で……いや、やけにもっこりしているのだが、やはりそこに隠しているのであろう。
と、ここで供養施設の扉が開き、中にあった巨大な位牌のようなものが目に入る。
そこへポン刀と、それに酒とタバコらしきものを供えた3人、それとその他の参列者達は焼香をし、キジマ―の供養をした……
「これで供養は終わりだ、ポン刀の使い手、即ち新たなキジマ―は……また羽を取り付ける改造の適合者がある程度出現し次第、それらのデスマッチによって決めることとする」
『ウォォォッ! 紋々太郎様万歳! 4大英雄武器使い様万歳!』
勝手に盛り上がる民衆、どうやら英雄パーティーは4人であり、それぞれが4大英雄武器というものを所持する戦士のようだ。
で、死んだキジマ―がポン刀として、やはり残りの3人がどんな武器を用い、どんな戦い方をするのかが気になるところだな。
これから一緒に戦うことになりそうだし、やはり聞いて……と、夏バテ気味で元気がなかったカレンが、武器の話になって目を輝かせているではないか……
「あのっ、4大英雄武器ってその紛った長刀以外に何があるんですかっ?」
「良い質問だお嬢ちゃん、いや、君は狼獣人……異世界勇者君、ちょっとウチの組のイヌマ―と……」
「いや交換しませんよ絶対、よりによってそんな麻薬中毒者と」
「そうかね、で、4大英雄武器についてなんだが、まずはキジマ―の使っていた『ポン刀』、これは前衛だが、比較的リーチが長くてな、さらに空を飛ぶことが出来るキジマ―の機動力によってそれなりの威力を発揮していた」
「うんうんっ、他は? 他はどんなのがあるんですかっ?」
危うくわけのわからないシャブ犬野郎とトレードされそうになったというのに、そんなことは特に気にしない様子のカレン。
まぁ、さすがに俺がカレンを手放すことなどないとわかっているのか、それとも先程の状況がどんなに危険なものであったのかを理解していないのか、とにかく目を輝かせたまま武器の説明に聞き入っている……
「次は……こちらも前衛、イヌマ―の持つ武器は『ドス』だ、かなり短いがパワーよりも素早さで戦うイヌマ―にとっては最も有用な武器であろう」
「おぉっ! 私も同じ感じですっ! 爪武器で戦いますっ!」
「……益々このお嬢ちゃんが欲しくなったんだが……うむ、それから後衛、次は隊列で3人目にくる俺の武器『ハジキ』だ、西方新大陸に居たのであれば見たことがあると思うが、火魔法で弾丸を発射する武器なんだ」
「おいちょっと待ておかしいだろ、それ絶対に英雄の武器じゃ……」
「そんなことはないぞ、で、最後がサルヤマーの武器だ、サルヤマーは見ての通りチンパンジーでな、時折ウ〇コを投げる習性があって、その力を活かすための武器、『パイナップル』を持たせているんだ。ほら、これをいくつも作って持って行って、投擲して使う、こう、ドカーンッという感じでな」
「完全に4大ヤクザ武器じゃねぇかぁぁぁっ! 何なのお前等マジで? 絶対に英雄とかじゃないよねコレ? 敵キャラだよね?」
色々ととんでもない内容の『英雄』であるが、その実力は見せて貰うまでもなくホンモノ。
見てくれや種族、武器がどうのこうのではなく、戦えば間違いなく強い連中だ。
もちろんイヌマーとサルヤマーについてはダンゴの力も加わってのものであるが、紋々太郎本人はそうではなく、純粋に人族とは思えない実力を持った戦士である。
そんな3人の英雄パーティーと共に、先程の施設へ戻って会談するべく斜面を下り、人里へと入った。
キジマーの死はこれからこの地域全体に広められ、あの羽を付ける人体改造の適合者候補を募集するのだという。
若干気になっている、というかどうしても羽が欲しいようで立候補する気満々のマリエルには、その改造を受ければ女神の加護を失うことになるなどと適当なことを吹き込み、とりあえず諦めさせた。
とにかく会談場所にて向かい合って座り、今後の予定についての話を始める……
「……では、勇者パーティーである君達にはまず、この里の周辺の犯罪組織構成員討伐を見学して貰う、君達にもやり方はあるだろうが、ぜひここでこちらの、英雄のやり方を学んでそれに準じた戦いをして欲しいのだよ、少なくともこの島国では、我々英雄パーティーの『安全で確実な殺し』を、如何かな?」
「なるほど、英雄さん達は周囲に被害が出ないような戦い方を知っているんですのね」
「私達の苦手な分野ですし、勇者様、この見学はさせて頂いて損はないはずですよ」
「確かに、俺達はいつもブッ壊す、ブッ放つ、ブッ殺すの『3ブッ勇者パーティー』だもんな、ちょっとはまともに、コラテラルダメージフリーな戦い方を見学しておいた方が良さそうだ、特にユリナと精霊様な」
ということでやるべきことは決まりである、明日より3日間、この3人になってしまった英雄パーティーに付いて周り、どういった犯罪組織、その他の悪との戦いを展開しているのか確認。
以降はそれを真似るようなかたちで島国での戦いをやってのけ、最終的にはターゲットである敵のダンゴ生産拠点を撃破、この島国だけでなく西方新大陸の人々も救うのだ。
ちなみに、紋々太郎達の調査によって、敵の犯罪組織が島国のどの辺りでダンゴ、というかホンモノではなく劣化版の偽ダンゴを精製しているのか、どこのどいつがそれに協力しているのかは目星が付いているのだという。
あとはそれを順次始末していくだけなのだが、やはりその中枢へ近付けば近付くほどに敵のキャラは強くなり、そして今回の遠征で遂にキジマーという、名前と台詞を与えられたモブではないキャラに死者が出てしまったのだ。
ここから先はかなり危険なミッション、もちろん俺達にとっても、もしかしたら血が出たり、最悪打撲や捻挫などの大打撃を喰らうことまで覚悟しなければならない戦いになる。
それを考慮しつつ、とりあえず移動で疲れたということで宿を提供され、その日の活動を終了して翌日に備えたのであった……




