67 劣等生達の学院潜入
「今日は初日だから俺とマリエルも付いて行くけど、明日からは自分達だけで行くんだぞ」
学院に潜入、いや体験入学するのは、セラ、ミラ、カレン、ルビア、そしてなぜかリリィである。
初等部では身体強化のクスリが蔓延することは無いはずだが、王宮の方からどうしてもと言われてしまった。
どうやら初等部のインテリノが関与しているらしい。
自分の友達にドラゴンが居るのを同級生に自慢したかっただけのようだ。
リリィも楽しそうだから別に良いが……
非常勤の変態エロ女教師役であるジェシカの操る馬車に乗り、学院へと向かう。
かなり巨大な施設だ、グランドも広いな、プールまであるじゃないか。
「マリエル、学院の生徒は貴族や金持ちがメインなんだよな?」
「メインというよりも全員がそうです、貴族等ならどんな馬鹿でも入れますし、一般市民はどれだけ有能でも入ることが出来ません、研究所とは違いますからね」
なるほど、しかしその分腐りやすそうだな、どうしようもない派閥争いとかそういうのばっかりなんだろうな。
俺は体験入学しなくて良かったぜ、そもそも年齢的に生徒でも教師でも怪しすぎるがな。
というかよく考えたら異世界人は受け付けて貰えるのか?
「おはようございます、勇者殿、それから皆さん」
「おはようインテリノ王子、今日からこの子達をよろしく頼む」
「ええ、こちらこそ、中等部はあちら、高等部以上はあちらの施設になります、リリィ殿はこっちです、さぁ行きましょう!」
インテリノはリリィを連れてさっさと行ってしまった、しっかり手を繋いでやがる。
もしかしてお前、リリィのこと好きなんじゃないのか?
まぁそこは突っ込まないでおいてやろう、かわいそうだからな。
「ジェシカ、お前だけは学院内のどこに居ても不自然じゃない、色々回って調べてくれ」
「わかった主殿、毎日の出来事を絵日記にして報告しようではないか」
それは初等部の生徒がやることだ、貴様は教師役だと何度言ったら……わかりそうもないな。
「じゃあ俺とマリエルはハゲの学院長に挨拶して帰るから、皆しっかりやれよ!」
学院長はフサフサであった、ズラかな? いやどうでも良い、帰ろう。
「大丈夫でしょうか? カレンちゃん……」
「どうしたマリエル、何か心配なのか?」
「いえ、カレンちゃんは高等部にしては背が小さいし子どもっぽいですから、いじめられたりしないかと……」
「ぜってぇいじめないだろあんなモンスター、ちょっかい出すのはよほどの馬鹿か死にたいだけだ、いずれにしてもすぐに死ぬ」
「まぁそうですよね……」
カレンとまともにやりあって勝てそうなのは俺が知っている限りでリリィと精霊様だけだ。
何といっても上級魔族とか余裕で討伐しちゃってるからな、皆それぐらいは知っているであろう。
帰りは一旦王宮に寄った、一応俺本人も今回の事件に関してそちらにある情報を得ておきたいからな。
「で、その後クスリはまだ見つかっていないのか?」
「そうじゃ、最近捕らえた犯罪者のアジトは全部ガサ入れしたのじゃがな、なかなか見つからんでの」
「犯罪者本人達から何か情報は?」
「ここ最近の連中は今拷問しておる、他はもう処刑してしまったので聞けんのじゃよ」
この世界では犯罪者の処刑が早い、速攻である。
前に聖天大金貨を貰ったときに勇者ハウスに来ていた詐欺師達も、翌日には広場に吊るされたようだからな。
既に処刑してしまった犯罪者の中に関与している者が居たかも知れない……
「わかった、また来るよ、それと学院に潜入しているメンバーが問題を起こしたら言ってくれ、こっちで罰を与えるからな」
「良いじゃろう、そういうことが無いのが一番じゃがな、それとクスリを作ったり捨てたりした2人にもキツく言っておいてくれんか」
「そっちも了解だ」
「ちなみにそなたの仲間になる前のことじゃし特に罰金などは無いので安心せい」
当たり前である、まだ敵だった頃の仲間がやったことで罰金など取られたら敵わんぞ!
王宮では特に情報が得られず屋敷へ戻る。
帰りは馬車を出して貰ったのだが、途中で窓の外を見ると、魔法のクスリに関する注意喚起がいたる所に掲示されているのが見えた。
これでも使ってみようと思う奴は相当に馬鹿なんだろうな……
※※※
「ただいまぁ~、勇者様のお帰りですよ~っ」
「あら、遅かったじゃない、学院で女の子でも眺めていたのかしら?」
「マーサ、俺がそんなはしたないことをするとでも思うのか?」
「思うわよ」
「残念ながら王宮に寄って来ただけだ、俺に対する見方を改めるが良い」
「ご主人様、王宮で私や私の作ったクスリについて何か言われましたか?」
「ああ、叱っておいてくれってさ」
「じゃあこれでギルドからも、王宮からも罰は受けなくて良いんですね、助かりました」
「俺からの罰はちゃんとあるけどな!」
「それは想定済みです、全然怖くなんかありません」
どうやらサリナは調子に乗っているようだ、目に物を見せてくれよう。
しかし今日から昼間は寂しいな、精霊様も寝てばっかりだし、俺とマリエル以外は魔族だけじゃないか。
せめてセラかルビアのどちらかを残しておくべきだったな……
「ところで勇者様、ミラちゃんが居ないのに昼食はどうするんですか?」
「しまった、考えてない……今から何か買ってくるよ、マーサ、レーコ達を出してやってくれ」
適当に野菜サンドやら串焼き肉やらを買って戻る。
いつもこういう買出しはセラが行くからな、どのぐらい買ったら良いか見当が付かない。
しかも余ったのをバキュームする食いしん坊2人も不在だ、実に不便だな。
人が少ないため、今日からは昼間もレーコとギロティーヌを2階に上げることとした。
やかましい連中が根こそぎ居なくなるのである、静寂の勇者ハウスだ。
「さて、お腹も一杯だし、午後は何して遊ぼうかしら」
「おいマーサ、一応今回の件はお前も悪いんだからな、大人しく反省しておけよ」
「そうよマーサ、私とサリナを御覧なさい、ここで日がな一日反省のポーズを取っているんですわよ」
それはそれでどうかと思うのですが……
「良いじゃない、全部片付いたら最後に罰を受ければ、それまでは保釈よ、保釈!」
「お前は保釈金を預けていないだろうが、もう逮捕だな、手を前に出すんだ!」
マーサと、それからついでにユリナ、サリナも縛っておく。
総務大臣から叱っておくように言われているからな、今やっておこう。
「お前ら3人は事件が解決するまでずっとその状態にしよう、生活はレーコとギロティーヌが面倒を見る、立場逆転だぞ」
レーコは早くも調子に乗った、バニー姿のマーサを突っつき回して遊んでいる。
「さて、マーサはレーコに任せるとして、ユリナとサリナはどうしようか?」
「勇者様、私も常々2人の尻尾で遊んでみたいと思っていたんですよ」
「よし、弄り回してやろう、ほら、ギロティーヌもやるんだよ!」
「ご主人様、私はもっと根元の方をお願いしますの、付け根ぐらいが良いですわ」
「じゃあお尻を半分出すぞ、構わないな?」
「良いですわよ、尻尾の先にクリップを挟まれるよりマシですわ」
俺はユリナにターゲットを絞って尻尾で遊ぶ、サリナの見た目はちょっとアウトだからな、実年齢が300歳を超えているとはいえ、半分尻を出させるのはビジュアル的にに拙い。
「どうだユリナ、少しは懲りたか?」
「あ、そういえばこれは罰なんですわね、てっきりご褒美かと思ってしまいましたわ」
全く効かないようだ、でもそうですよね、この間戦闘で活躍したときに同じことをしてやった気がするからな……
「じゃあやっぱり後でクリップの刑だな」
「もう手を縛られているんだからそれは勘弁してくださいまし!」
※※※
「ただいま戻ったぞ! 主殿、耳寄りな情報が!」
「何だ騒々しいな、どうした? 生徒に告白されたか?」
「残念ながらそうではない、非常に残念だがな、話はセラ殿から伺って欲しい。」
「どういうことだ、セラ、話してみろ」
「それがね、今日早速その密売人の一味に声を掛けられたの、強くなれる薬を買わないかって」
「きっとそいつらはセラならすぐに不良の道へ堕ちると判断したんだな、詳しくは風呂で話してくれ、まずは夕食にしよう、昼の余りが凄いんだ」
「失礼しちゃうわね……あの、何人分あるわけ? どうしてこんなに買ってきたのよ」
「よくわからんが適当に買出ししたらこうなった、俺は悪くない」
「腐りやすいものばかり……勇者様はもう単独での買出しは禁止ですね、明日からはお姉ちゃんが何を買うか決めたメモを置いていくことにしましょう」
何か怒られたのだが? そんなのどうだって良いだろう、夕方になればカレンとかリリィとか帰ってくるわけだし、廃棄になることなんてありませんからね。
ほら、あっという間に全部無くなった……改めてリリィの食欲は尋常じゃないことがわかったな。
「じゃあ今日あったことを話すわよ……」
風呂で不良生徒セラの報告が始まった。
曰く、今日の昼休み、カレンと食事をしていると、なぜかセラだけが男子学生のグループに声を掛けられたらしい。
何事かと付いて行ったところ、使っていない教室でクスリの売人達から様々な違法薬物を紹介され、そのうちの1つが今回問題になっている身体強化のクスリだったそうな。
「とにかくあれは組織の末端よ、他に親玉が居るはずだし、とりあえず考えておくとだけ言って戻ってきたわ」
「わかった、明日からジェシカはセラの周囲に張り付くべきだな、セラが勇者パーティーなのは皆知っているはずだ、もしかしたら嵌めて襲撃しようと企んでいるのかも知れんからな」
「そうして貰えると助かるわ、いくらなんでも囲まれて接近戦になったら怪我とかしそうですもの」
10人や20人そこらに囲まれたところで、相手が普通の人間ならセラも負けはしないであろう。
だが、魔法のクスリで強化された人間だったらどうなるか? カレンなら大丈夫だがセラだと少し厳しいかも知れない。
接近戦の苦手なセラとルビアは今後なるべくジェシカから離れない方が良いだろうな……
「で、その声を掛けてきた連中はどんな奴らだったんだ?」
「一見してそんなモノに手を出しそうには見えない、運動部の陽気な奴等だったわ」
学園に刑事が潜入する映画とかでありそうなシチュエーションである。
その場合、黒幕として真面目で賢い生徒か、人気者の教師なんかが居るはずだな。
きっと最後はパーティー会場で格闘して、その後のカーチェイスで締める流れであろう。
「じゃあ明日からも引き続き頼む、ミラとルビアの方も油断するなよ」
監視は継続、なるべく近接戦に弱いセラとルビアを守るという方針で固まった。
リリィは初等部で遊んでいるようだが、いざとなったらインテリノと一緒に戦って貰おう。
「ところでご主人様、私は今日の小テストで早速0点でした、ヤバいかも知れません……」
「大丈夫よルビアちゃん、カレンちゃんは問題を解かずに裏面に落書きしたテストを提出していたわ」
「だって問題の字が読めなかったんですもん! あんなの不親切です、明日からは実技だけ頑張ります」
「高等部もテストがあったってことだな、セラは何点だった?」
「12点よ」
「何点満点中?」
「100点……」
風呂上り、セラ達が受けたテストとルビアの小テストを見せて貰う。
俺だけがやってもしょうがないので他のメンバーに解かせてみる……
ルビアの小テスト:10点満点
・セラ:1点
・ミラ:7点
・カレン、リリィ、ルビア、マーサ:0点
・マリエル:2点
・ユリナ、レーコ:6点
・サリナ、ギロティーヌ:5点
・ジェシカ、精霊様、俺:10点
セラとカレンの受けたテストは、俺とジェシカと精霊様に加え、ユリナ、サリナ、レーコが満点。
ミラとギロティーヌはミスで90点台である、引っ掛け問題に気をつけなさいよ。
ちなみに制限時間50分であったが、精霊様は30秒で終わらせていた。
そしてカレンとマーサが0点、リリィですらわかった問題が解けないのである。
「ジェシカ、教師役としてこの現状をどう考える?」
「カレン殿とマーサ殿は酷すぎる、これは生まれたときにはもう知っているべき知識を問うものだぞ!」
「この件が終わったら本格的に勉強させないと拙いな、特にこの2人とルビア、マリエルがヤバい」
というかマリエルはどうやってこの学院を卒業したんだろう?
実技があるようだからそっちが良かったのかも知れんな。
その後、寝る時間まで俺と出来る組が分担して勉強を教えることとなった。
マーサとマリエルは別に良いが、潜入しているカレンとルビアはこのままだと色々と疑われかねない。
ついでにセラも劣等生だな、早速居眠りしていやがるし、よく見たらカレンも寝ている……
「セラ、カレン、起きろ! ジェシカ、カレンを頼むぞ、俺はセラをやる」
「わかった、カレン殿、起きてこちらへ来るが良い、いつも私にしているように頬っぺたを抓ってやる!」
セラも抓ってみるが、脳が勉強に対して拒否反応を示している。
何度起動しても毎回強制シャットダウンを繰り返す、異世界でもダメなやつはダメなようだ。
「もう無理だ、勉強させるのは諦めよう……」
それを聞いた劣等生達が途端にシャキッとなる、勉強の終わりを感じて元気を取り戻したのである。
「カレン、明日以降にまた0点を取ったらご飯抜きだからな!」
「それはイヤです、ちゃんと頑張ります!」
「言っておくが勉強しないでテストだけ頑張っても無駄だからな」
「ぐぅぅっ、勉強もします、そのうち……」
ちょっとこれは厳しそうだ、何をしに学院へ来たのだと疑われるのだけはやめて欲しい。
※※※
「それでは行ってきますね、勇者様、今日もお昼はちゃんと紙に書いてある量の食べ物を買うんですよ」
「ハイハイ、行ってらっしゃい……お、精霊様、今日は朝から起きているのか」
「今起きたのよ、何かが社の屋根に当たったと思ったらこれよ!」
完全に、マリエルが窓から捨てたゴミである。
マーサとマリエルは自室で何かしているようだ、窓の奥にウサ耳が見えるからそこに居るのは確定だ。
「全く、叱りに行こうぜ」
「マリエルちゃん、入るわよ、また窓からゴミを捨てたでしょう、というか何よこの汚い部屋は、しかもどうしてこの狭い所に全員居るわけ?」
「何をやっているんだお前らは?」
「ええ、実は今さっき先月の雑誌広告で魔法のクスリを宣伝しているものが見つかりまして、他にも無いか調べているんですよ」
「でかした! 本を全部持って俺の部屋に来るんだ、ここは汚なすぎる」
マーサたちの部屋にあった本を運び出す、最近の雑誌だけで良いであろう。
しかし悉くエッチな本である、ほとんどがマリエルが買って来たものらしい。
「ところでこのゴミはマリエルちゃんが捨てたのかしら?」
「あら、それはマリエルちゃんじゃなくて私よ」
「庭にもう1つ落ちていたんだがこれもマーサか?」
「あ、そっちは私です」
「この2人、ずっとゴミを窓からポイポイ捨てていましたわよ」
「とりあえず2人は正座だ、他のメンバーは楽な格好でクスリの広告を探そうか」
結局魔法のクスリに関する広告じゃ全部で3つであった、先月号の3冊の雑誌にそれぞれ掲載されたようだ。
連絡先は全て同じである、そこは学院にかなり近く、家ではなく商業用のテナントであるということもわかった。
「これは学院の生徒がその住所でクスリを売っていると考えて良さそうだな、まだ確定ではないが可能性は高そうだ」
「ご主人様、こちらの広告には『数量限定 150本』との情報がありますわ、魔法のクスリは残り155本、そのうち150本がここにあると見て良いですわね
「そのようだな、この件は潜入している皆が帰って来たら伝えよう、何かわかることがあるかも知れん」
夕方になり、学院に行っていたメンバーが帰宅する、今日もセラが何か情報を持って来たようだ。
「聞いて勇者様、遂に奴等のアジトに招待されたわ、場所は……」
「この地図に載っているここか?」
「あら、どうしてわかっていたの? まさか勇者様が黒幕で……」
セラに雑誌広告の件を伝える、放っておくと本当に俺が黒幕にされかねないからな。
妙に納得した様子のセラは話を続ける。
「でね、明日から学院は3連休、その中日、つまり明後日に高級なホールを貸し切ったパーティーが開かれるそうよ」
「じゃあそこで敵の親玉を狙うんだな」
「そうよ、違法薬物に私は興味があるそぶりを見せて、パーティー会場で密売人のトップと面会するためのアポを取ったわ、そこで一網打尽にしてやりましょう!」
「じゃあ明後日の学院パーティーで、セラがそれなりの情報を引き出してから襲撃だな、相手がどんな奴かわからないが必ず出てくるはずだ、皆で張り込んで捕まえることとしよう」
「では全員が学院の生徒に紛れて潜入できるように、私が王宮でドレスを借りてきます、勇者様もエッチなドレスを着ますか?」
「マリエル、これ以上俺に何かしたら全ての尊厳を剥奪するぞ」
「本当に怖いので止めましょう、それでは他のメンバー分のドレスだけでも用意しておきますね」
マリエルには、ついでに雑誌広告の住所を王宮に伝えるよう頼んでおいた。
俺達だけでは人数が足りないからな、国の方で何人かはアジトを見張るようにして欲しい。
「じゃあ明日は1日犯人強襲の準備だ、潜入組は疲れたであろうから少し休んで、待機組で色々やることとしよう」
魔法のクスリ密売犯との戦闘はおそらく明後日、パーティー会場での戦闘なら確実にこちらが勝つであろう。
しかし問題は逃げられたときである。
馬車でのカーチェイスだと少し遅れをとる可能性があるのだ。
セラが犯行グループのトップを上手く誘い出し、それを俺達が捕らえることが出来るかがカギとなりそうだ。
とにかく、こんなことを考えるのは敵の顔を拝んでからにしよう……




